僕は、『あまからアベニュー』から『魔法のレストラン』『真実の料理人』まで、料理情報番組を30年近く制作してきましたので、必然的に、料理、料理店、料理人の皆さんと接する機会が多々あり、食べる側、グルメな人々とのネットワークも構築できてきました。食に関して、日々、あれこれと考えているわけですが、ひとつのシンプルな結論は、「食事の時間をより楽しく、面白くする工夫をする方が、人生はより楽しくなる」ということです。その方法を「クリエイティブ食事術」と名づけていて、この連載で具体的に紹介していきたいと思います。
本Pクリエイティブ食事術その3
【縁を感じた「新店」へはとにかく行ってみる】
前回、"『三嶋亭』の当代(五代目)の三嶌太郎さんは、醤油ベースの割り下を改良し(どう改良されたのか聞いてみたいです)、さらには新店を2018年7月にオープン。それもステーキの店。これは行ってみるしかありません。八角形のすき焼き鍋に「?」を感じて、調べているうちに知った「新店」の存在。これは「縁」です。僕は、なんらかの縁があって自分のアクションで知ることができた「新店」には、できるだけ行くことにしています。逆に、新店オープンご招待パーティーや、マスコミレセプションにはできるだけ行かないことにしています。"
と書きましたが、2018年の年末、『三嶋亭』の新店、『翁樹庵』に行ってまいりました。同行者はテレビ番組『京都知新』のナレーションをお願いしています俳優の升毅さんと、このWEBサイトで連載をお願いしています、京都グルメタクシーの岩間孝志さんです。
『翁樹庵』は、炭焼きステーキがメインの京風フレンチスタイルのお店でした。
食後、オーナーシェフである『三嶋亭』五代、三嶌太郎さんにいろいろお話を伺ったところ
「ここは、実は170年近く前に建てられた自宅だったところなんです」
太郎さんは、日本料理の修業をつんで、茶の湯や生け花の稽古も続けられているそうで、
「住まなくなった自宅で、和の美学を宿しながら、なおかつ新しいことをしたいとずっと思ってまして」
試行錯誤の末、『翁樹庵』を開店。『三嶋亭』の黒毛和牛肉の仕入れの強さを生かし、ステーキに向く塊肉を選びに選んで、熟成させ、紀州備長炭で焼くステーキをメインにコースを組まれました。大原や鷹峯など京都の野菜の産地に自ら出向いて、仕入れルートを新たに開発し、フレンチの技法も学んで取り入れられたのです。
完全予約制で、コースは、22,572円(税サ込み)の1種類です。
メインの長野県産黒毛和牛フィレステーキ。28日間熟成。表面はかりっと中はしっとり。塊のままです。
オニオングラタンスープも出てきます。写真では撮れませんでしたが、中には銀杏も入っていました。
甘鯛は、ウロコをかりかりに揚げる和食のスタイルで、京都大原産の野菜とともに。ソースのひき方や、盛りつけはフレンチ風
京都峰山町産の古代米「天女米」を使った、蟹イクラ土鍋御飯。
昼間、12月30日に放送した「京都知新スペシャル」のロケで、結構、試食シーンが多かった升毅さんも完食。升さん曰く
「洋の香りが入りながら、和の落ち着きがあって、まさに京都知新な料理...」
京都を知り尽くす「京都グルメタクシー」の岩間孝志さんも初めて店の存在を知られたそうで、
「僕は、こちらの料理でしたら、いくらでも食べられます...笑。おいしいです」
お二人とじっくり会話も楽しめる素敵な個室空間で、サービスも『三嶋亭』のエースの仲居さんがされるので快適でした。
『翁樹庵』オーナーシェフ 三嶌太郎さん
「ところで、ご主人、五代目をつがれて、『三嶋亭』の割り下を変えられたそうですが...どう変えられたのですか?」
「はい、変えました...。もともと濃い口醤油と、みりんベースでしたが、あるものを加えました...」
「それは?」
「ここだけの話ですが〇〇です。天然の旨味をそれで加えました。〇〇については、すみません、企業秘密にさせてください」
〇〇が何かを教えていただきましたが、なるほどと思う食材でした。企業秘密なので書くことができませんが。
『三嶋亭』に長年通っておられる方は、割り下の味が変わったことに気づかれないそうです。最近読んだ本に、
「繁盛店がなぜ強いかわかりますか。自信作の一品を磨き込んで、絶えずその質を上げているからです。磨き込みとは「商品の再設計」です。食材から調理工程のすべてを洗い直すことです。そして、味は変えずに、質を上げる。その時にお客さまは「いつも変わらなくていいね」と言ってくれるのです。」~『外食業・究極の成功セオリー』(神山泉著 エフビー刊)という文章がありました。
まさに、その通りだったのです。
「変わらないために変える」
料理だけはなく、1200年以上続く京都文化の真髄に通じる、ある意味、戦略だと思います。
次回は、僕が100回以上通っている店をご紹介しながら、
「この変わらないために変える」ということについて、もう少し深く考えてみたいと思います。わかりやすく言うなら、「トータルのブランド力やクオリティーを維持し、評価、評判、印象を変えないために、何かを変えていく」ということです。その「何か」にとても興味があるのです。
本Pクリエイティブ食事術その4
【惚れた店には徹底的に通って、定点観測をしてみる】
月1回、10数年にわたって通い、定点観測しているからこそわかるその「何か」とは...?
■ 「翁樹庵」
〒604-8103 京都市中京区柳之馬場通三条上る油屋町87
https://www.mishima-tei.co.jp/