京都にある会社の会長&社長は、どんな店でどんな料理を食べているのでしょうか? 彼らが通う一見さんお断りの超高級店から大衆店までご紹介する【京の会長&社長めし】。今回はANAクラウンプラザホテル京都 代表取締役社長の中山永次郎さんが通う鮨割烹「なか一」です。
■中山永次郎(なかやま えいじろう)さん
ANAクラウンプラザホテル京都代表取締役社長
日本国内にある多数のホテルや、オフィスビル、リゾートゴルフ場などの幅広い施設を開業・再建に携わり「ホテル・旅館の再生請負人」として知られている。ANAクラウンプラザホテル京都はフランス料理「ローズルーム」、日本料理「雲海」、中華料理「花梨」、鉄板焼き「二条」ほか数多くの店があり、その味は観光客や京都人からも愛されている。今回の「京の会長&社長めし」では中山さん自ら筆をとり、愛するお店との思い出について書き上げてくださった。
鮨割烹「なか一」のこと
「なか一」との出会いをあらためて思い返してみると、まだ、私どものホテルが開業する前でしたから、もう三十年を超えることに気づき、しみじみと思い出がよみがえります。その歳月は、そのまま自分の人生の振り返りでもあります。
店のお向かいの「てる子」(※1)のてる子姉さんから、先代のご主人・須原陽一さんをご紹介いただきました。
てる子さんとご飯食べでご一緒することもあれば、「てる子」で夜食に出前をしてもらうことも度々でした。出前の場合は、必ずご主人が持参され、そのまま一緒にお酒を飲むという格好でした。
▲出前ではトロ、鯛、イカ、ウニ、しまあじ、赤身、穴子の7種類の握りが縁高に収められ届けられる
ご主人は、グラスを傾けながらお喋りしながら、ひととおり、客一人ひとりが、相好を崩して鮨を頬張る様子を見定めしてから、頃合いに「ご馳走さんでした」と店に戻ります。そんな具合でしたから、おまかせの「出前」で、弛みのない凛とした表情のある鮨がいただけるのは、なんとも至福の夜食でした。
▲「アブラメの木の芽焼き」。つけ合わせはふきのとうの白和えで、春を感じさせるひと品
「なか一」での一番の楽しみは、カウンターで、季節の食材の割烹料理を小皿で二品三品いただくことです。そして、お好みの鮨のあとの〆の鯖寿司につきます。
▲銘柄にこだわらず、その日に一番いい鯖を使う「鯖寿司」。お土産は4200円(税込)
▲春の椀物である、「エンドウ豆のすり流し」。桜鯛と海老、ワラビに桜の花の塩漬けが添えられている
はじめて「なか一」の鯖寿司を口にしたときの感動は、今でも鮮明に憶えています。たっぷりと脂の乗った鯖と新米の酢飯との塩梅がじつに素晴らしい。お昼なら、秀逸の吸い物一椀に鯖寿司があれば、とても幸せな気分になれます。以来、我が家へのお土産に鯖寿司は欠かせないものになっています。
▲長年、父である先代とともにカウンターに立ってきた須原健太さん。2016年に2代目となる
当代のご主人・須原健太さんは、とても謙虚な職人肌の方で、そのお人柄は、「なか一」の繁盛ぶりからも充分に窺えます。
※1
お茶屋兼スナックの「てる子」。祇園で店を構えて50年近く。てる子さんは安藤忠雄氏や小澤征爾氏、歌舞伎役者など著名人からも愛されている名物女将だ。45周年の集いはANAクラウンプラザホテルで開催された。
■店舗紹介
2020年に創業50年を迎える鮨割烹の老舗である「なか一」。今でこそ握りの前に一品料理が供される寿司屋はあたりまえのようにあるが、なか一開店当初は全国的にも「鮨割烹」はなかったという。先代の須原陽一さんが、祇園の旦那衆を飽きさせないために作りだしたスタイルだ。
季節の食材を用いた小さな突き出しが3~4品、造り、吸い物、焼き物、酢の物か炊き合わせと続き、最後に寿司5~6貫というのがコースの流れ。昼8000円~2万5000円(税別)、夜1万~2万5000円。予算を伝えてのおまかせになる。中山さんは白ワインで楽しむことも多いそうだ。
先代は器を愛しており、棚には名品が揃う。前述写真の鯖寿司を盛った皿は魯山人作。カウンターに並ぶ猪口は、すべて奈良の陶芸家・辻村史朗氏のもの。先代の友人でもあった。
※価格は取材当時のもの
撮影 エディオオムラ 取材 竹中式子
■なか一
京都市東山区祇園町南側570-196
075-531-2778
12:00~14:00、16:30~22:00
無休