食知新ブログ
-
BLOG外国人料理人奮闘記
2019.04.24
フランス人料理人 ステファン・パンテルの「職人気質」
第1回目に登場いただくのは、「フィリップ・オブロン 祇園」、「クーラン・デルブ」、「KEZAKO」のシェフを歴任し、2012年に自店「リョウリヤ ステファン・パンテル」を開いたステファン・パンテルさん。築100年の町家で開くフレンチ店のこと、京都への想いを聞いた。職人の街、京都にとことん惚れた「京都の人はうるさいのではないですか? 京都で暮らすのは難しいでしょう?」とよく聞かれます。でも、私はそう感じたことはないんですよね。そういう意味では、人にも環境にも恵まれてきたのでしょうね。「フランスに帰りたい」なんて思ったことは一度もないですからね。もちろん、たまにフランスに帰えるとハッピーになるけど、京都にいるほうが落ち着くというか...。今は自分の家は京都だと思っています。京都の好きなところですか? いろいろあるけど、一番は職人を大切にすることですね。料理人もそうだけど、道具を作る人、野菜を育てる人、庭を調える人と、いろんな職人さんがいて、みんな自分には厳しい。納得いくまで質を追求します。そういう職人さんから受ける刺激は、料理にもつながります。知れば知るほど、京都はいいものづくりができるし、上を目指せる街だと感じてきました。日本女性とパリで結婚、彼女の育った国が見たかった京都にきたのは、奥さんが関西の人だったからです。私の勤めていたパリの一つ星レストランに彼女が料理の勉強に来て知り合ったんです。彼女がパリにいる間に結婚して子供も生まれました。パリもいいけど彼女が生まれ育った国も見たかった。仕事を探すなかで、運よく「フィリップ・オブロン祇園」のオープニングスタッフとして採用されました。最初から京都の神髄ともいえる祇園で働けたことは運がよかった。京都の歴史や伝統、京都人気質みたいなものに日々触れることができましたから。街並みも綺麗で歩いているだけで楽しくなる。そんなところは、パリに似ているのかもしれません。京食材との出合いが、新しいフレンチへの扉を開いた「ケザコ」を任され、シェフとして自由に料理をさせてもらえるようになると、お客様に叱られることもあったし、教えていただくこともありました。京都の人は味や食材にうるさいですからね。でも、そこがいい。ダメだしされるたびに、洗練された感性や食材の合わせ方について考える機会をいただきました。「ケザコ」では、京都の野菜や食材はたくさん使っていました。「フランス人なのに、日本の食材をよく知ってるねえ」とお客様は驚かれました。でも、その土地の食材を知ることは、料理人にとっては当たり前のこと。積極的に、見たことのないもの、食べたことのない日本の食材を口にしました。難しいのはその味を見極めてフランス料理にすることだと思っています。フォアグラと奈良漬を合わせた料理は、京都のみなさんも意外だったようです。京都に来た頃に「田中長」さんの奈良漬を食べて「フォアグラに合うかも」と思ったんです。クリスマスディナーに出してみようと思い、フォアグラに奈良漬を巻いて10日間寝かせて熟成させました。酸味のあるフルーツソースを添えたら、味に奥行きがでました。フォアグラの脂と奈良漬の甘味、両方が混ざり合って、まろやかでふくよかな味わいになったんです。フォアグラには酒の香りがつくし、奈良漬にはフォアグラのコクが溶け込む。それぞれを別々で食べる以上に新しくて深い旨味が生まれました。この料理の評判は、想像以上でした。口コミや雑誌の記事で知って、この料理を食べたいという人がどんどん店に来てくださった。クリスマスだけのつもりだったのに、気がつけば私のスペシャリテになっていました。いよいよ独立、素晴らしい町家との出合いがあった2001年に京都に来て11年目、「ケザコ」を閉めるというときに、自分の店を出そうと考えました。でも、なかなか場所が見つからなかった。日本家屋の落ち着いた感じが好きだったから、できれば町家がいいと思っていたけど、これという物件に出合わない。あるとき、ダメモトで街の小さな不動産屋さんに入って尋ねたら、希望通りの場所はまずまず無理だろうと言われた。たぶん日本人じゃないから、貸したくなかったのでしょう。でも、その後電話があって、「ケザコのシェフなら貸してもいいというオーナーがいらっしゃる」と。がんばってきてよかったと思いましたよ。それがこの町家だったんです。門構えや庭のある日本的な雰囲気と海外のプロダクツが融合した店にしました。おかげさまで開店から6年。「ケザコ」以来、毎月来てくださるお客さまもいらっしゃいます。大原や上賀茂の野菜、美味しいものがすぐ手に入る環境がある大原や上賀茂の農家さんに自分で出向いて、野菜を収穫させてもらうこともあります。そんなときわかるのは、生産者のみなさんのご苦労です。1年365日、冬も夏も彼らが手を抜かず美味しい野菜をつくってくださる。それを知っているから、その野菜をより美味しくしたいとこちらも一所懸命になるんです。野菜だけじゃなくて、味噌や豆腐、だしの使い方や調理の組み立て方、京都の食文化から学ぶことはほんとうに多くて。地元の人に負けないというか、認めてもらいたいと思ったからこそ、京都で続けられたのでしょう。この料理は、春のメイン料理です。フランスなら仔羊は骨付きのままローストするだけですが、ここでは二つの部位に分けて火を入れています。ロース肉は優しくローストし、骨付バラ肉は塩漬けして一晩置いた後、36時間じっくりコンフィしています。とろとろになったコンフィは、骨から肉をすっとはずせより美味しく食べられる。静原の椎茸は、肉のソースと一保堂さんの京番茶を加え煮込みました。口に入れると番茶がふっと薫ります。京都の食材と出合って、そこから発想した料理も随分増えました。変わらない京都で日々挑戦し続けたい京都はよそものに厳しいと言われます。でも外国人の私だから言えるのは、よそものだから厳しくされるのではないということ。職人さんたちの意気に共感し、一緒に歩めば、よそものであっても大切にしてくださる。お客様も一緒です。どこの国の人間かは関係ない。他の人にはできない味をつくるための努力を惜しまなければ、それを認めるくれる人はたくさんいます。これからも私が思う「最高の料理」をつくりたいし、それを「美味しい」と言ってもらえるよう挑戦するだけです。好きな言葉「職人気質」■リョウリヤ ステファン・パンテル住京都市中京区柳馬場丸太町下ル四丁目182075-204-4311営12:00~12:30(入店)、18:00~19:30(入店)休火曜、水曜(年末・年始休み、夏期休業あり)http://stephanpantel.com/
-
BLOG割烹知新〜奇想の一皿〜
2019.04.24
祇園 さ々木「たまご3点」
奇想の一皿「たまご3点」白身部分はふぐの白子、黄身はウニ、そして自家製「和のキャビア」を添えて 京都を代表する和食の料理人に、和食の範疇を飛び出した奇想天外な一皿を作っていただく当企画。見た目も味わいも、その発想力に驚くこと間違いなし。京都の和食文化が脈々と続き、愛されてきた理由は、「料理人の柔軟性にあり」と実感できるでしょう。 第1回目は、カウンターでのサプライズ溢れる魅せる妙技で"さ々木劇場"と呼ばれ、客一人ひとりへの親身な対応に多くのファンを持つ、「祇園 さ々木」佐々木浩さんの登場です。 発想秘話新幹線での移動中にずっと考え続けてきましたが、「見たこともない驚きの料理を」というリクエストに、とても頭を悩ませる企画でした(笑)。 私は2年半かけてオリジナルの「和のキャビア」を開発してきました。2018年の夏に完成したばかりなのですが、せっかくなのでそれをメインに据えて、と発想したのが「たまご3点」です。 「和のキャビア」は普通のキャビアと比べてトロッと糸を引いていますが、これは昆布が入っているからです。宮崎で国産キャビアを製造・販売されている「ジャパンキャビア」の坂元基雄さんに試行錯誤を重ねていただいた労作です。90日間熟成させたこのキャビアは、昆布のおかげでキャビア本来のひねっぽさにミネラルの味わいが加わり、とてもまろやか。そして口の中でいつまでも余韻が残るんです。まるみのある味なので、野菜やお造りなどにもよく合います。 キャビアといえばチョウザメのたまごですが、鶏でも魚でもたまご料理にとても合うんです。そこで今回は、素材も見た目もすべてたまごで統一しました。白身の部分はふぐの白子を裏ごししてゼラチンで固めたものです。成形には鶏卵の殻を使っています。ほどよい弾力に持っていくのが難しかったですね。 そして黄身の部分は、北海道釧路町・昆布森産のウニです。味付けは醤油と塩のみなので、ウニ本来の旨みがしっかりと味わえます。 そしてたっぷりの「和のキャビア」をのせます。さ々木では、ほかの料理でキャビアを使う場合もおひとりに15gはお出しするようにしています。小指の先ほどのほんの少量ではキャビアの味が分かりませんから。15gあれば「キャビアを食べた」という満足感を得ていただけるでしょう。 ウニと一緒にキャビアをすくって食べてみてください。濃厚なウニと、ダシの効いたまろやかな「和のキャビア」との相性のよさを感じていただけると思います。「たまご3点」にはクラッシュアイスにスダチを絞ったウォッカがぴったりです。 もともと自分自身がキャビア好きで、一気に4缶食べたこともあるほどです(笑)。世界三大珍味のトリュフ、フォアグラ、キャビアのなかでも断然キャビア! そこで和食に合うキャビアを作ろうと思ったんです。いずれは「和のキャビア」の販売も考えています。 「たまご3点」の素材は冬のものですので、お店でお出しするとしたら次の冬になるでしょう。ふぐの白子を温めるべきか? 冷たくするべきか? などまだ改良すべき点があります。この冬の到来を、ぜひ楽しみにお待ちください。 撮影 津久井珠美 文 竹中式子■祇園 さ々木京都市東山区八坂通大和大路東入小松町566-27075-551-500012:00〜12:30(L.O.)、18:30~定休日 日曜日・第2・4月曜日・不定休あり(変更の場合あり)http://gionsasaki.com/index.html
-
BLOG精進料理知新
2019.04.23
京都の料亭「木乃婦」、高橋拓児の精進料理への思いvol1
料亭「木乃婦」の三代目主人、高橋拓児さんは、2015年より京都料理芽生会創立60周年事業で同会が取り組んだ「精進料理の世界へ」をメンバーともに推進してきました。現在も自身の店で、お客さんの要望に応えるかたちで精進料理に取り組んでいます。高橋さん自身が考える精進料理とは?その進化や精進料理への思いはいかに?というテーマで5回にわたって、語っていただきます。※「京都料理芽生会」/日本料理の発展と、伝統と格式のある京都の食文化を次世代へ継承するために1955年に設立。京の料亭の若主人たちが研鑽・研究を行い、様々な挑戦を行っている。 そもそも精進料理とは? まず、精進料理とはどんな料理なのか、基本的な決まりごとからお話しましょう。「精進」とは悟りを得るための仏道の修行のことを指します。その修行の中に食事も含まれるます。食事と作ることも、また、食べることも修行となるわけです。 作る際の決まりごとは非常に厳格で、不殺生戒の教えによって肉類、魚介類は一切使いません。また「葷」と呼ばれるニラ、にんにく、ねぎなど匂いの強い食材も避けるよういします。基本的に、野菜、豆、穀物を使って料理を作ります。この教えは鎌倉時代に曹洞宗の開祖である道元禅師が、南宋に留学した時に「食も大切な修行である」ことを悟り、料理をする者の規範となる「典座教訓」(てんぞきょうくん)と食べる側の心得を説いた「赴粥飯法」(ふしゃくはんぽう)を著したことがもとになっています。 典座というのは寺の中で料理を担当する僧のことで。典座は食材の命の尊さを常に念頭におき、無駄を出さず、根や皮なども使い切るようにします。「五法」と「六味」を基本に、ひたすら料理に打ち込みます。 「五法」と「六味」については、次回、お話したいと思いますが、振り返れば、私が4〜5年前に精進料理に取り組み始め時、今、お話したような精進料理の概要というか、アウトラインだけを意識して、料理をしていたんやなあとつくづく思います。要するに、自分自身の心構えとか考え方が浅はかやったなあと...(笑)。"魚を使わなければいいんだな"とか、"匂いの強いものは避ければいいんだな"とか、要するに心は置き去りで、どちらかというとルールに則ってその料理をおいしくすることにのみに集中して、そこに何の疑念も抱かずに料理を作り始めていたんですね。自分の精神の部分が全くついていっていなかったと思います。習気(じっけ)によって体得する、典座の心構え 「京都料理芽生会」の精進料理がきっかけになったと思いますが、4年ほど前からうちの店にもお寺さんとか精進料理に興味を持つ方、そしてベジタリアンの方などから、精進料理のご要望が増えてきました。それで自分なりに一生懸命考えて、自分なりの精進料理をお出しするようになりました。 お寺さんの大切な行事の時にもお料理をさせていただくんですが、「こんなん精進料理とちがうよ」とお叱りを受けたり、反対に「この食材の組み合わせは面白いなあ」とお褒めを受けたり、自分もなんで叱られたんか、なんで褒められたんか、わからないんですよ(笑)。その度に考えて、悩んで、また料理を作るというのを繰り返してきました。 そうする中で、だんだんと、本当に少しずつですが、精進料理の根本というのは、食材や調理法のルールを守ればいいというものでは全くなく、作り手がまさに典座と同じ心持ち、心構えで取り組まなあかんのやということが、おぼろげにわかってきました。「習気」=じっけという言葉が禅の言葉があるんですけど、わかりやすくいうと、"気づき"だと思うんです。習いながら、日々、実践しながら学んで、そうして気持ちがだんだんと入っていく。その繰り返しの中で、わかってくるもの、気づくものがあるんだろうなと...。 でも、やっぱり料理屋ですからね、美味しくしたいとか、美しく見せたいとかいう気持ちが働くんです。それは料理のプロとして当たり前なんですが、それって精進の世界からしたら「俗」なことであり、浄らかでなくなってしまうんです。 料理のプロとしての自我をぐっと抑える修養の場 料理にも色味ってありますでしょう?精進料理の場合は、まず基本が土の色なんです。黒、茶色、白がまずあって、そこにほんの少しの常若の緑と、浄土の蓮を表す赤とを、上手に組み合わせて、派手すぎず、色を抑えてバランスよく仕立てていくんです。要はお浄土の世界を料理で表現するわけですね。 色を抑えるのには理由があって、お寺の本堂で一番中心となるのは、みほとけです。金色に輝く仏さまが中心で、周りのものはそれを引き立てるための色彩であるべきなんです。精進料理もそれは同じです。 お弁当一つとっても花見弁当とか、紅葉弁当とかあるけど、精進の場合はぐっと抑えた感じにせなあかんわけです。 ここにこの色味を加えたら、雅びで綺麗になるなあと思った瞬間、その思いをね、ぐっとこう地を這うように抑えるわけです。心を制御しなあかんのです。私らにしたら、もうその心を抑えること自体が修行みたいなものになるわけです。 綺麗に見せたいという気持ち自体が自我であり、自我を抑えて料理をするというのは、最初は苦しいものがあったんですが、だんだんと、先ほどの習気(じっけ)というか、腑に落ちることが増えてきました。それが何なのか?というのを、具体的にこれ!と指し示すのは難しいですが、一つ言えるとすれば、素材をじっと見つめて、その背景に思いを寄せて、それ素材の本質を明らかにしていく姿勢が自分の中にできてきたように感じます。外に向かって明らかにするのではなく、むしろ自分の心の中で明らかにして、得心してから料理に臨む、そんな感覚が深まっていくように思います。気持ちから入っていく。それが第一歩 精進料理は、作り手の成長と料理の完成度というのが、比例して良くなっていくものなんだと思います。 いつ、どこで、どなたのためにどんな料理をお出しするのか、どういう目的で、どういう環境でいただく料理なのか。そういうことを、素材を目の前にした瞬間から、ずーっと考えて、考えて、深めていくんです。しかもそこに正解というものはない。ほんまに気の遠くなるような世界です。 精進料理を極めるには、一夕一朝では絶対に無理だし、まさに習気の領域で一つずつの積み重ねの中から培っていくしかない。知識も技術も工夫も必要ですが、技を磨いたり、決まりごとを守るとかの前に、まず気持ちをきちんと入れていくこと、そこが肝要だと思います。「典座教訓」が示すように、料理すること自体が修行ということを日々、体感するほかに道はないんでしょう。 私も、その道の端っこがほんの少しだけ見えてきたところに立っているだけで、何かがわかった訳では全くないんですけど(笑)。 でも、追い込まれた状況で必死に考えるうちに、常に深く考える癖だけはついてきたようには思います。昨日考えたことよりも、今日考えたことの方がより深まっていく。それでこそ、今日一日を生きた意味があるんじゃないでしょうか。 今回のお話は、精進料理を料理する側の気持ちのありように終始しましたが、まずそこがスタートやと思っています。第二回では、そのあたりをもう少し具体的な内容で、実際の調理法などを交えて、お話したいと思います。■ 木乃婦京都市下京区新町通り仏光寺下ル岩戸山町416075-352-000112:00~14:30(L.O.13:00)、18:00~21:30(L.O.19:00)定休日 水曜
高橋拓児
「木乃婦」3代目主人
-
BLOG京都グルメタクシー
2019.04.22
おいしい京都案内|鳴海餅本店の赤飯と粟餅所 澤屋
京都!春まっさかりです! こんにちは! 京都グルメタクシーの岩間です。車に乗るだけで得られるあなたにとっての「おいしい京都」をご案内いたします。今回は「家族で営む時間を大切にする老舗」「できたてのおいしさ」のふたつのテーマで和菓子店をご紹介したいと思います。京都には和菓子店はほんとうに多く、数えられないほど。市内の隅々までおいしい和菓子店が点在しています。日々情報の開拓はしているもののまだ見つけられてないお店もあります。家族で伝統の味を守るお店も多いのですが、今回ご紹介したいお店はいずれも北野天満宮近く。車を北へ向けて走らせます! 途中、世界遺産・二条城を通過しますが、この二条城、外堀の周囲だけでも2キロあると言われ、敷地内にはいろいろな花や建造物かあります。庭園を一周すると1時間以上経ってしまうこともあるほどの広さ。江戸時代の権力や徳川家の立ち位置が最もわかる史跡ではないでしょうか。 歩けばお腹がすきます♪ より多くのお店を楽しみたい方におすすめしたい、とっておきの軽食を紹介しましょう。その軽食は和菓子店の中で食べられるのです。 創業明治7年の「鳴海餅本店」。地元では「ナルミの赤飯」と呼ばれ親しまれていて、ここにくるお客さんの多くはこの赤飯を買い求めます。添えられたごま塩をかけて食べると、ほんとうに美味しい。 もし炊き立ての温かい赤飯を食べたいなら...、それを実現してくれるのが販売ブース横にあるサロンです。赤飯をはじめ和菓子もいただけるスペースになっています。 おすすめしたいのは「赤飯セット」。540円(税込み)という低価格が魅力的ですね。 ほかほかの名物赤飯と赤だし、そして奈良漬けも添えられています。和菓子を付けることもできるようです。栗の季節には栗赤飯もいただけますよ。 佐賀県産「ヒヨクモチ」なるもち米と、大粒丹波産大納言小豆を使い、大型の特製セイロで丁寧に蒸し上げたもの。ふっくらとした小豆の風味がやさしく伝わってきます。ホカホカの赤飯、こちらが、ひとつめの「できたてのおいしさ」です。車も停められるので、助かります♪さて、ほどよくお腹を満たした後は最終目的地、北野天満宮に車を走らせます。堀川通りを北へ向かいます。柳の新芽を横目に進むと、そこは西陣エリア。陰陽師安倍晴明が祀られる晴明神社や蹴鞠の時代から現代までスポーツの神様として親しまれる白峰神社などもこのエリアにある名所です。神社信仰の盛んな地域でもあるのですね。西陣らしく、機織りの音も聞こえてきそうな魅力ある街です。 この北野天満宮界隈に有名和菓子店が多いのは、豊臣秀吉の北野大茶会が行われたことや、その後花街となった上七軒からの需要が多かったからでしょう。「粟餅所・澤屋」 (あわもちどころ・さわや)は、地元から支持されるうえ、観光客、参拝客も立ち寄る人気和菓子店です。付近には「とようけ茶屋」という行列のできる人気の豆腐屋さんもある場所で、賑わいを見せています。 実はこのお店、京都の事が詳しくわかる「福本晋吾の京都ビビビッ」(MBSラジオ 6月24日放送予定https://www.mbs1179.com/kyoto/)で私がゲスト出演させていただいたときご紹介したお店です! 放送後もう少し詳しく教えてと複数メールを頂きましたので、今回こちらでもご案内させていただきました。創業は江戸時代天和2年ですから1682年、日本では井原西鶴の『好色一代男』が発刊された年でもありますね。しかもその創業の日より50年前にはすでにお菓子が存在していたとも言われていたとか。「江戸時代の甘味」が現代にも通用するというのは、ロマンがありますよね。「あわ」という音を聞くと、最近はエスプーマもブームなっているので「泡」と勘違いされる方も多いのです。「粟」はたしかに現代社会ではなじみが薄く希少性のある穀物です。粟餅を主にした和菓子、この古来の甘味を現代の人はどう感じるのでしょうか。中に入ってみましょう! 磨かれた机、応接間にあるついたてを彷彿とさせる美しさなのですが、「かえで材」の木のテーブルとカウンターは上品で清潔感がありますね。つやつやに磨かれ年季が入っていて、ここのお店の歴史とリンクしています。 席数は多いのですが、満席になることもあり、特に天神祭と梅の季節は行列になりますね。ちなみに梅の開花は、1月~3月と長く、例年2月下旬~3月がもっともベストな季節です。その頃はお店も忙しいようで、テレビでも北野天満宮に献上される粟餅の特集を放映していました。毎月25日の縁日には特大の粟の鏡餅を天満宮にそなえるそうで、神事とのつながりも深いお店ですね。ちなみに忙しくて粟餅がなくなると、次のお餅ができるまで少し待つこともあります。それも「できたて」を守るゆえなのでしょう。白梅 5個入り 600円 餡3つ きなこ2つ紅梅 3個入り 450円 餡2つ きなこ1つ お茶はついてきますが、300円追加で抹茶に変更することもできます。こちらもぜひ試してみてくださいね。 さてさて、まずはお菓子を頼むことが肝心。 注文すると、作業台にさっと職人さんが集まり作業開始! 餡子、粟、きな粉を操るように粟餅がつくられ、この場所に緊張感が漂います。三つの鉢を囲んで♪ こし餡、きなこ、粟餅を巧みに丸めて、手際よくお皿に盛ります。現在の当主は12代目森藤輿八郎(よはちろう)さん。お仕事される時間は短めですが、96歳で、いまだがんばっておられます。12代目とともにお店を仕切られているのが13代目の哲良(てつろう)さんと14代目のお孫さんです。皆さん達人クラスの早さで粟餅をつくられます。家族そろってつくる一連の手作業は、お菓子ファンにはたまらない風景でしょう。この写真にはおられないのですが、12代目の輿八郎さんは午前中に作業されているそうです。ご家族が多いからこそ、一斉に粟餅づくりに取りかかることができる。できたてにこだわる店の姿勢がこの写真にも現れています。 注文後、しばし温かいお茶を飲みながら、ご家族で作られる粟餅を待つ。 きめ細かな国産大豆のきなこと砂糖との絶妙な配分。黄金比のおいしさですね。13代目はこうお話されます。「持ち帰っていただいてもおいしいのですが、店で作りたてを食べられるのがさらにおいしい。是非お店で召し上がってください」。米の餅菓子より軽く、多めにみえますが白梅5個セットはおやつとして女性でも食べきれます。 ん? 餡子ときな粉の餅の形が違う?! 餡子ときなこでは形が違うのですが、聞くところによると、きなこは表面積を増やしてよりたくさんきな粉がつくように長細くしたのだそう。なるほど。きな粉だけを頂いても完成された味で、ついつい餡子に絡ませて食べ切ってしまいます(笑) 粟餅は丸めたてがもっとも柔らかく徐々にゆっくり弾力がでてきます。それでも食べ終わりまで堅くならない。そしてきな粉の方は、水分を徐々に含んでしっとりしますが、それがいいと言う人もいますね。そういえば半分食べてから、少し間を置いて残り半分を食べる人もみかけたことがあります。 ご家族の笑顔に見送られ、お店をあとにします。家族で営む時間を大切にする老舗和菓子店でできたてのおいしさを堪能する。代々継がれる技術はこれからも後世に伝えられます。永遠に続いてほしいおいしさですね。さて本日の京都グルメタクシーいかがだったでしょうか。旅のテーマを考えられた後に相談されるお客様も多いので、私がコンシェルジュになってご案内させていただきます! お客様をお送りしたあと、夕焼け空を見ているとまたお腹が空いてきました。新たなグルメを追いかけて、情報収集! 京都グルメタクシーで行ってきます~♪※価格は取材当時のものです。■鳴海餅 本店京都府京都市上京区下立売通堀川西入西橋詰町283 075-841-3080 18:30~17:30定休日 正月・盆休みありhttp://www.narumi-mochi.jp/■粟餅所・澤屋 (あわもちどころ・さわや)京都府京都市上京区北野天満宮前西入紙屋川町838-7 075-461-4517 9:00~17:00定休日木曜・毎月26日
岩間孝志
京都グルメタクシー
-
BLOG京の会長&社長めし
2019.04.18
京都青果の社長が通う店 「河久(かわひさ)」
■内田隆(うちだ たかし)さん 京果グループ京都青果合同株式会社代表取締役社長 兼 グループCEO『食の総合流通サービス企業』を目指し、「世界に誇れる豊かな『日本の食文化』を支え守る」ことを使命とした京果グループ。「京の台所」と呼ばれる京都中央卸売市場内に本社を構え、国内外の青果を豊富に取り扱っている。内田氏は京都大学農学部卒、カリフォルニア大デイビス校農業経済学部大学院修士課程修了。1985年、京都青果合同入社。取締役、副社長を経て2002年から現職接待続きで疲れた身体にも優しい、和洋折衷の割烹 「純然たる京料理とともに、メニューにはコロッケやとんかつ、ローストビーフにハンバーグなどの洋食も並んでいます。これが心をくすぐるんですよね。花街でも河久さんの仕出しをよく利用されていて、私もお茶屋さんで洋食を盛り合わせたオードブルをお願いすることがあります。一口サイズなので、メインのお料理をいただく前にちょうどいいんです。とはいえ、お店にうかがう機会のほうが、圧倒的に多いですね」 接待相手からリクエストされることもよくあるという「河久」は、「いつ頃から通いだしたのか覚えていない」ほど、内田さんとは長い付き合いだという。 大将の浅見亘男さんは、京都の割烹のさきがけといわれる「河繁」の次男として誕生した。「河繁」は長男が継ぎ、浅見さんは京都ホテルで洋食の修業を積むことに。そして50年ほど前に実家の「河」の字をもらい「河久」を開いた。この三条木屋町へ移転してからは約20年。今は2代目の昌男さんとともにカウンターに立ち、和洋折衷、さまざまな料理をつくっている。 「2人でうかがうときはカウンター、3人以上は奥の小上がりを利用します」 「テーブル席に座敷、そして夏には川床もあり使い勝手がとてもいいんです」 「河久手羽先」4本880円(税込み)は、「見るからにパリッと揚がった皮はもちろん歯ごたえがよく、身はジューシー。見事な唐揚げです」と内田さんも絶賛する。これは創業当初から続く名物のひとつで、時間をかけじっくりと素揚げする。 1964年の東京オリンピックの時、浅見さんは勤めていたホテルから選手村へ派遣され、厨房で働く機会があった。そのときにインド人シェフとの交流があり、本場の唐揚げを知る。さすがインド、その唐揚げはスパイスが効いているので、そのままでは日本人の口には合わない。そこでアレンジを重ね、今の味にたどり着いたという。天ぷらだと時間がたつと衣が水分を吸ってしまうが、この唐揚げだと冷めても食感を保っている。「忙しくて食事の時間が定まらない花街や役者の方々が、いつ食べてもよいように」という浅見さんの想いがこもっているのだ。 一見するとそうとは思えない姿の「春巻き」720円。衣の中には牛ミンチがつまっている。 「からしと酢醤油でいただきますが、餡にしっかり味がついているので何もつけずこのままでも。これも冷めても美味しい一品です」 「京都以外からお越しのお客様に、"京都らしい"と喜んでいただけます。京都の水を使っている料理なので、地元の水との味の違いを感じていただいているのかもしれません」と、内田さんが接待の切り札にしているのが、「汲み上げ湯葉」880円。自家製ポン酢とワサビでいただく。 アラカルトのほかおまかせコースもあり、昼は5400円~、夜は7500円と10800円。 「大将は饒舌(じょうぜつ)で、とても陽気な方です。息子さんである2代目は、顔に表れている通り真面目な性格で、とてもよくしていただいています」 取材時には大将はあいにく席を外されていたが、2代目の昌男さん(写真)が語ってくれた。 「味の好みは人によるので、私たちだけではどうしようもない部分もあります。ですが、ご家族連れでも、お友達同士でも、食べやすい料理をと心がけています。内田さんのようにお仕事でも利用される方は、ほぼ毎日の接待続きで食べ疲れていらっしゃると思います。河久には京料理だけでなく洋食や揚げ物もある、ということにホッとしていただければと。緊張させない料理と雰囲気をつくり、お仕事がうまくいく場所でもありたいです」(昌男さん) 内田さんは京都での夜は連日連夜、接待だという。 「京都中央卸売市場が公休日の水曜は会社も休みなのですが、日中は外部との会合が入り、夜はやはり接待です。ですので日曜だけが休みなんです。でも休日はいただきものを家で食べて過ごすことも多くて......。 私は割烹、肉料理、イタリアンなどジャンルに分けた接待店リストをつくっています。これは自分のためではなく、お相手の好みに合わせてお店を選ぶためのものです。だから自分の意志でお店を決めることは、私にとってとても貴重なんです(笑)。そういうときには、やはり普段使いできる肩ひじ張らないお店がいいですね。 気に入ったお店には連続して3回は通って顔を覚えてもらいます。河久さんには芋焼酎をボトルキープしています(笑)。接待でも個人的にも使える、この万能感をとても重宝しているんです」※価格は取材当時のもの 撮影 エディオオムラ 文 竹中式子■河久京都市中京区木屋町御池下ル上大阪町518075-211-088811:30~L.O.11:30、16:00~L.O.21:00定休日 不定休https://kawahisa.com/
-
BLOG料理人がオフに通う店
2019.04.16
「韓式料理 ピョリヤ」―「一之船入」料理人 魏 禧之さんが通う店
「一之船入」魏 禧之さん《プロフィール》神奈川県横浜市に生まれ、11歳の頃から実家である横浜中華街の湖南料理店「明掦」で働きはじめる。18歳より全国の有名中華料理店で修業を積み、その後中国へわたり特級調理師の資格を取得。帰国後は横浜「萬珍楼」での修業を経て、1996年に京都に「創作中華 一之船入」を開く。風情ある元お茶屋の空間で、身体に優しい中華が味わえると、全国から多くの人々が訪れる。さらに、「魏飯夷堂 三条店」「魏飯夷堂 北新地」をオープン。2017年にはアジア中国料理トップ10シェフ殿堂入りを果たす。 魏 禧之さんのおすすめコメント完全紹介制の韓国料理店ですが、京都知新のサイトをご覧の方には特別にご入店いただけるという、私のとっておきをご紹介します。 前回に続いて女性料理人がきりもりされています。メニューは、月替わりのお鍋のコース1種類のみ。仕事終わりに週1~2回は妻と立ち寄り、わがままを聞いてもらっています。オーナーシェフとはとても長いお付き合いなのですが、その関係はぜひ紹介文をお読みください(笑)。 韓式料理 ピョリヤ 2018年9月にオープンしたばかりのピョリヤは、魏さんのお店「一之船入」からも歩いて5分ほどの河原町御池近くのビル3階にある。 カウンターの中で、きびきびと料理を用意されているのが、オーナーシェフの星野明香さんだ。 「星野さんは京都で長らく、料理教室『サロンドサラン』で韓国料理を教えていらっしゃいます。お母さまから韓国の家庭料理を、そしてソウルの宮中飲食研究院で宮廷料理と伝統料理を学ばれました」 星野さんの生家は京都のキムチ販売の老舗・ほし山で、今は取締役を務めている。キムチの仕事、サロンドサロンでの料理講師、ピョリヤのシェフと3足の草鞋を履いてそれぞれの仕事に邁進。その3つの仕事を貫いているのは「食べるというのは、文字通り人を良くするということ。食事は"健やかな身体"を作るもの」という考えだ。 なので、調味料は工場で大量生産されたものではなく、職人が蔵で丁寧に作ったものを。精製された白砂糖は使用しない。素材がもともと持っている味を引き出すことを心がけている。 月替わりの「鍋コース」7000円(税別)には、鍋を含めてなんと約9品も! 写真の「前菜盛り」はこれで1人前、テーブルに表れたとき思わず「おおっ!」と歓声を上げてしまう。こちらも内容は月替わりだが、だいたい11種類くらい盛られるそう。 「お酒に合う前菜をご用意しています。韓国の伝統的な料理もあれば、アレンジを加えたものも。『芥子和え』(写真中央右)は宮廷料理の一つですが、そこに豚足を加えました。クリームチーズとチャンジャを合わせて、玄米のおこげをクラッカー代わりに召し上がっていただくスタイルは当店オリジナルです(手前右と中央)。分量が多く見えますが、ほとんど野菜なのでおなかが重くはなりません。この前菜盛りだけで2時間ほどお酒を楽しまれるお客様もいらっしゃいます(笑)」(星野さん) 食事の合間には、食欲を促す水キムチがグラスで供される。実はこの水キムチが、魏さんと星野さんの間での議論の元になったとか。 「本来、水キムチは米のとぎ汁と塩だけで発酵させるものです。それだけで十分滋味深いのです。でも日本人にとっては味が薄いからと、日本では昆布を入れて旨みを足すことが主流になっています」(星野さん) 「その昆布を、星野さんも入れるべきか否か? ということで2時間くらい討論しました(笑)」(魏さん) さて決着は......? 「昆布を入れない」でついたそうだ。かぶやリンゴ、ラディッシュ、金時人参など旬の京野菜も漬け込んだ水キムチには、素材の旨みが溶けだしている。※水キムチの提供は月による 今回ご用意いただいた鍋は「ソゴギチョンゴル」。宮廷料理のひとつで、日本人にもなじみのあるすき焼き風だ。玉ねぎ、大根、しいたけ、ネギ、セリ、ワケギ、人参、赤パプリカとたくさんの野菜から水分が出てくるので、出汁の量は控えめ。出汁も昆布と薄口しょうゆのみで、野菜の旨み、甘みを引きたてている。 鍋を火にかけ、野菜がしんなりするまでよくまぜると、熟成肉で有名な中勢以の牛肉に野菜の味が見事にからみあう。お好みで生卵につけて。 ※ご予約の際に「京都知新を見た」とお伝えいただければ、何月でもソゴギチョンゴルを用意していただけます。3日前までに要予約 「私は最近はハイボールばかり飲んでいるのですが、ピョリヤには韓国のお酒も豊富で、妻はマッコリがお気に入りです」(魏さん) 左から、韓国の焼酎の「チョウムチョロム」と「ファヨ」。マッコリの「ポクスンドガ」と「華本生マッコリ」。「ポクスンドガ」はマッコリのシャンパーニュとも言われている生マッコリで、とても珍しい銘柄だ。 穀物をベースとした韓国の伝統酒「プンチョン」。ワインのような味わい。 お酒を選んでいるのは夫の聖司さん。前述の発泡マッコリ「ポクスンドガ」は聖司さんが初めて京都で取り扱った。ワインにも造詣が深く、リーズナブルなものからオーパスワンまで幅広くそろえる。料理に合わせて楽しんでほしいからと、グラスワインの種類も多い。 「おふたりとは、実は30代からの飲み友達なんです。当時は仕事について話すこともなく、何者でもないただの友人として、ディスコで一緒に踊っていました(笑)。 その頃、新町にイタリアンレストラン『アメディオ』をオープンされます。当時はまだ星野さんはお店のお料理にはノータッチでしたが、3年ほど前にイタリアンのシェフが退職され、星野さんが韓国料理を提供するようになりました。その場所が立ち退きになり、移転先のこの場所でピョリヤが誕生したんです」(魏さん) 月替わりの鍋は今までに「タッカンマリ」「ユッケジャンスープのしゃぶしゃぶ」「プデチゲ」などが登場した。 「お店は夜9~10時以降はバータイムになって、鍋のコースは終了です。でも私の店の閉店後にうかがうと、どうしてもバータイムになってしまうんですよね。そこで星野さんにお願いして、特別に鍋だけを出していただいてます。自分の店から海鮮を持っていって、調理してもらうこともあります(笑)」(魏さん) 星野さんは上級食育アドバイザーの資格を持っている。 「コースを通して、栄養をバランスよく摂っていただけるよう構成しています。韓国の宮廷料理は野菜中心の優しい味わいです。みなさんがイメージしている"辛い""味が濃い"というものとは真逆なんです。そんな宮廷料理や伝料理をベースに、一辺倒ではなく飽きないようにいろいろな味付けを工夫しています。そして私は京都で生まれ育ったので、京都の素材も使いたいんです」(星野さん) 「僕の星野さんのイメージは、とても勉強熱心な素晴らしい"料理の先生"です。日本で韓国料理を作ることについて、お互いの意見を語り合うのもとても刺激的です」(魏さん) 長年の友と今、"料理"という舞台で、若い時とはまた違う楽しい時間を共有している――そんな素敵な関係の、魏さんと星野さん夫婦なのだ。 撮影 エディオオムラ 文 竹中式子■韓式料理 ピョリヤ京都市中京区御池通河原町下る 下丸屋町401 福三ビル3F075-221-060518:00~24:00 席が空き次第バータイム(だいたい21:00以降)※バータイムはコース料理は提供されません定休日 月曜。不定休で連休あり※要予約、紹介制(「京都知新を見た」と予約の際にお伝えすれば入店可)
-
BLOG美人&イケメンスイーツ
2019.04.12
京都『ナンポルトクワ』の「リンゴのタルト」
推薦人:小川裕嗣さん(陶芸家) 「オーナーシェフの西原裕勝さんは、御父上の味を継承しながら新しいお店をスタートされました。その姿勢に共感するところがあり、味覚を満たす以上のものをいただいているように感じています」 そう語る小川裕嗣さんは、京都・清水焼の郷に窯を構える明治時代から続く陶芸家の家に生まれ、三代・小川長樂氏を父に持つ。「ナンポルトクワ」の西原裕勝さんの父は、2018年5月に惜しまれつつも閉店したパティスリー「オ・グルニエ・ドール」のオーナーシェフ・西原金蔵氏だ。おふたりはともに父の仕事を受け継ぎながらも、自身の世界を表現するという共通点を持っている。 裕勝さんは2018年10月に、「オ・グルニエ・ドール」の跡地に「ナンポルトクワ」をオープンした。フランスで修業を積み、父のもとで働いてきた裕勝さんの生みだしたスイーツとともに、金蔵氏の代表作である「リンゴのタルト」390円(税込)がショーケースに並んでいる。 「母が通っていた料理教室の安田俱子先生にご推薦いただき、西原金蔵さんのリンゴのタルトと出合いました。ですので、オ・グルニエ・ドール時代の味もよく知っています。素材に対する真摯な姿勢も含め、裕勝さんは御父上の味を忠実に受け継がれています。 私は生クリームを多用したものより、オーセンティックな焼き菓子が好きなんです。砂糖とバター、生クリームだけで焼きあげたタルト生地はさっくりと歯ごたえがよく、季節ごとに選び抜かれたリンゴの甘味とほのかな酸味が絶妙に重なっています」 小川さんは、一緒にいただくドリンクにも一家言持っている。 「紅茶はもちろんですが、シャンパーニュ、リンゴから作る辛口のシードルやカルバドスとも合わせます。私はコース料理のデザートも、お酒でいただきたいタイプなので(笑)。裕勝さんもお酒をよくご存じなので、おすすめいただくこともあります。今後は、相性のいい日本酒も探してみようと思っています」 「オ・グルニエ・ドール」の閉店は、「65歳で引退する」という金蔵氏の人生設計に沿ったものだった。金蔵氏は裕勝さんに「そのまま店を継ぐのではなく、銀行とやりとりし、計画書を用意し、内装も考えるなど、自分でイチから店を作りなさい。そのほうが店に対して思い入れが深くなるから」と伝えたという。 「ナンポルトクワ」とはフランス語で「なんでもあり」という意味。裕勝さんはオープンにあたって、「オ・グルニエ・ドール」にはなかったものを数多く作り出した。たとえば抹茶や白あんなどの和の素材や、スパイスなど香りのあるものを取り入れるなど、フランスの伝統的技法をベースに個性が立ったものだ。瓶入りのチーズケーキなどもユニークな一品だ。 小川さんがリンゴのタルトのほかに好きだという「ほうじ茶ブラマンジェ」480円も、「ナンポルトクワ」のオリジナル。宇治の利招園茶舗の特上ほうじ茶を使用している。 「ほうじ茶の香ばしさと、ブラマンジェの濃厚さ、そして口の中で溶けてゆく滑らかさがたまりません」 しかしリンゴのタルトだけは、手を加えることなく父の味をそのまま提供している。 「高校卒業後、フランスへ語学留学する前に、名古屋の催事に出店する父の手伝いで、リンゴのタルトの実演販売をしました。この時初めてお菓子作りに仕事として携わったんです。わずか4~5日でしたが、終わった時に得も言われぬ達成感がありました。妻の杏菜はリンゴのタルトの味に魅了されて、パティシエとして『オ・グルニエ・ドール』にやってきました。私たち夫婦にとってとても思い出深いお菓子が、リンゴのタルトなんです。すでに完成している味で、これ以上美味しくする方法がありません。だから手を加えることなく、父のレシピを忠実に守っています。厳選した品種が実らない5月末~9月頭は販売できません」(裕勝さん) 「リンゴのタルトを食べたくなるのは、仕事で疲れ、たまらなく甘いものを欲する時ですね。妻とよくいただいています。人数分より少し多めに購入して、一度に2つ食べることもあります。本当は何個でもいただけるんですが......(笑)。母の誕生日には2分の1ホールを2つ、実質1ホール用意していただきました」(小川さん)※現在一時的に販売限定数有り 小川さんはテイクアウトが多いそうだが、入り口付近には10席ほどのカウンターがあり、セルフで淹れるコーヒーとともに、ここでいただくこともできる。 モノトーンを基調にした店内。その壁にはタイ人アーティストによる、著名人を描いたポップアートが並んでいる。ショーケース内や棚には、裕勝さんが趣味で集めたフィギュアも。ロックが好きな裕勝さんは、高校時代にはエレキギターをかき鳴らしていたとかで、ザ・ローリング・ストーンズやボブ・ディランなどのポスターも目を引く。こうしたインテリアコーディネートは、すべて裕勝さんと杏菜さんの手による。 壁の一角には、父・金蔵氏の師であるアラン・シャペル氏のポートレートも掲げられている。 「和菓子を選ぶときは、花びら餅、引千切、水無月、お火焚き饅頭など、歳時記を意識しています。また家業柄、日常的にお抹茶といただいています。その点、洋菓子は季節感を大事にしながらも、より大らかに選んでいますね。何より重要視しているのは、自然な甘みで素材の味をしっかり感じることができ、丁寧な仕事をされているかということです。裕勝さんの作られるものは、まさにそれです。リンゴのタルトをお土産にすると、オ・グルニエ・ドール時代をご存じの方は懐かしまれ、初めての方からは新鮮な反応をいただきます」(小川さん) 最後に小川さんは「同世代のつくり手として、今後どう進んでいかれるか楽しみです」と、裕勝さんにエールを送った。※価格は取材当時のもの 撮影 鈴木誠一 文 竹中式子■ナンポルトクワ京都市中京区堺町通錦小路上ル527-1075-708-374211:00~18:00※売り切れ次第終了(開店2時間ほどで終了する場合もあり)定休日/月曜、火曜、水曜https://www.facebook.com/Nimportequoi2018/
-
BLOG料理人がオフに通う店
2019.04.10
「カンティーナ アルコ」―「一之船入」料理人 魏 禧之さんが通う店
「一之船入」魏 禧之さん《プロフィール》神奈川県横浜市に生まれ、11歳の頃から実家である横浜中華街の湖南料理店「明掦」で働きはじめる。18歳より全国の有名中華料理店で修業を積み、その後中国へわたり特級調理師の資格を取得。帰国後は横浜「萬珍楼」での修業を経て、1996年に京都に「創作中華 一之船入」を開く。風情ある元お茶屋の空間で、身体に優しい中華が味わえると、全国から多くの人々が訪れる。さらに、「魏飯夷堂 三条店」「魏飯夷堂 北新地」をオープン。2017年にはアジア中国料理トップ10シェフ殿堂入りを果たす。 料理人おすすめコメント私の店が終わるのが22時。その後はたいてい妻と一緒に食事に行きます。ですので、遅くまで開いていることは、とても重要です。 「オフに通う店」についていろいろ考えたのですが、今回と次回は「女性料理人」が頑張っていらっしゃるお店をテーマに選んでみました。料理を作るにあたっては、優劣ではなく性差は少なからずあります。優しさや繊細さについて、男性料理人とはまた違った表現が店作りでも、皿の上でもなされています。 まず1軒目は、2014年にオープンした、マンマの味をふるまう清水美絵シェフの「カンティーナ アルコ」です。 カンティーナ アルコ魏さんのみならず、料理人たちが夜な夜な集うイタリアンレストランがある。それが「カンティーナ アルコ」だ。 「夜11時頃になると、自分の店の営業を終えた料理人たちが集まってきます。イタリアン、日本料理、フレンチなど彼らのジャンルはさまざまですが、私は先輩なのでワインをみんなにごちそうしなきゃなりません(笑)。お店にあるワインはすべてイタリア産。夜2時くらいまで呑んで、語って、朝の市場で"呑み過ぎちゃったね"と再会することもあります」 カンティーナ アルコの営業時間はユニークで、昼は14時から17時、夜は18時から24時30分ラストオーダーというスタイルだ。特にランチタイムが14時という遅いスタート時間なのは、オーナーシェフの清水美絵さんが修業したイタリアに由来する。 「調理師学校を卒業した後、6年間、京都・一乗寺のアンティコで働いて、イタリアのナポリの近くに位置するソレントへ行きました。ソレントは海辺のリゾート地で、レストランはだいたい午後1時半くらいからお客様が増えはじめます。そして2~3時間かけてゆっくりランチをとられるんです。私の店でもソレントのように日常を忘れてのんびりとすごしていただきたくて、14時オープンにしました。ランチセットでも、ディナーと同じ素材で同じメニューをご用意しています」(清水さん) 夜も24時30分ラストオーダーなのだから、仕事を終えたシェフたちにとって使い勝手がとてもよいのだ。そしてその味にも魅力が詰まっているという。 「清水さんの料理はマンマの味、つまりイタリアのお袋の味なんです。イタリアで育ったわけじゃありませんが、なんだかとても懐かしい気持ちになります」(魏さん) 魏さんが注文する定番メニューのひとつが「仔牛のカツレツ シチリア風」2300円(税別)だ。牛肉を薄くたたき伸ばした牛カツに、イタリアンパセリ・ミント・オレガノなどの香草をまぜたパン粉をまぶして、オリーブ油で揚げ焼きにするのがシチリア風だ。軽やかな口当たりで、レモンを絞るとさらに爽やかさを増す。見た目は大きいけれど、すいすいと食べられてしまう。 「"小さな肉をよくまぁこんなに大きくできるな"、なんて清水さんをいつもからかっています(笑)」(魏さん) 「そんな魏さんに対して"150グラムはある肉なんですよ!"と返すのがお約束です(笑)」(清水さん) 「お店のシグネチャーといえば、『レモンのスパゲッティ アルコ風』1300円(税別)でしょう。国産のレモンのみを使用し、レモンピールのソースにはバターも入りコクのある酸味。そして混ぜ込んだレモンの皮のほのかな苦みがアクセントになっています。1.9ミリの太めでモチッとした乾麺によくからんでいます」(魏さん) 清水さんの修業地・ソレントはイタリアにおけるレモンの一大産地で、料理にもレモンをよく使う。レモンのスパゲッティもソレント名物のひとつなのだ。 「ムール貝の白ワイン蒸し"インペパータ"」1300円(税別)。これも海辺の街であるソレント名物だ。インペパータとはこしょう風味という意味で、白ワインベースのソースにピリッとこしょうが効いている。大ぶりのムール貝は肉厚で、ふんわり柔らか。料理の種類が増えたこともあり、しばらくメニューから外していたが、魏さんからよくリクエストされるため復活を果たしたそう。 「清水さんの料理はひとつひとつがとても丁寧に作られています。その丁寧さは、同世代のシェフのなかでも抜きん出ていると思います。時には、私も料理人として味つけに関して注意することもありますが、その話にきちんと耳を傾けてくれるのがうれしいですね。アシスタントも女性で、彼女もまた清水さん譲りで丁寧に料理と向き合っています」(魏さん) アシスタントの梅原真美さん(写真右)は、食べ歩きのなかで出合った清水さんの「毎日食べたくなる、優しい味」に惚れ込み、1年前にカンティーナ アルコの門をたたいた。 「私はマンマの味であることを大切にしています。マンマの料理って、一見適当に作っているようでも、野菜などの素材の旨みを見事に活かしているんです。そしてホッとする味わいです。きれいになりすぎず、洗練されすぎない料理を目指しています。イタリアへ行ったことのある方に"イタリアを思い出す"と言っていただきたいですね」(清水さん) 今では2週間に1度、多いときは1週間に1度と足繁く通う魏さんだが、実はまだ半年ほどの付き合いだとか。京都のイタリアンの重鎮、リストランテ タントタントの河上昌実さんとともに訪れたのが最初だった。 「実は10年ほど前に、京都イタリア料理研究会のチャリティーイベントに参加されていた魏さんを、お手伝いさせていただきました。当時から魏さんは料理人として雲の上の存在でしたし、お仕事モードだったのでとても威厳と貫禄がありました。なので、半年ほど前に河上さんといらっしゃった魏さんを見て、とっても緊張したんです。ふだんの私は、そんなに動じない性格なんですけど......」(清水さん) 「あんなに緊張しているシェフを初めて見ました(笑)」と梅原さんも証言する。でも仕事終わりのリラックスモードの魏さんはとてもチャーミングで、若手の料理人とも気軽に交流し、カンティーナ アルコでの時間を楽しんでいるそうだ。カウンター越しに清水さんとの会話も弾む。魏さんにとってカンティーナ アルコは、若きマンマのいる実家のような店なのだ。 撮影 鈴木誠一 文 竹中式子■カンティーナ アルコ京都市中京区蛸薬師通麩屋町西入ル油屋町145 洋燈館 1F075-708-636014:00~17:00(16:30L.O.)、18:00~24:30(L.O.)定休日 水曜https://www.cantinaarco.com/
- ALL
- - 料亭割烹探偵団
- - 食知新
- - 京都美酒知新
- - 京のとろみ
- - うつわ知新
- - 「木乃婦」髙橋拓児の「精進料理知新」
- - 「割烹知新」~次代を切り拓く奇想の一皿~
- - 村田吉弘の和食知新
- - 料亭コンシェルジュ
- - 堀江貴文が惚れた店
- - 小山薫堂が惚れた店
- - 外国人料理人奮闘記
- - フォーリンデブはっしーの京都グルメ知新!
- - 京都知新弁当&コースが食べられる店
- - 京の会長&社長めし
- - 美人スイーツ イケメンでざーと
- - 料理人がオフに通う店
- - 京のほっこり菜時記
- - 京都グルメタクシー ドライバー日記
- - きょうもへべれけ でぶっちょライターの酒のふと道
- - 本Pのクリエイティブ食事術