BLOG外国人料理人奮闘記2019.04.24

フランス人料理人 ステファン・パンテルの「職人気質」

和食を学ぶために板前修業をする人や自国の料理で勝負する人など世界の料理人が食の発想を求めて訪れる美食の街・京都。なぜ京都なのか? 彼らが京都で得るものは何なのか? 外国人料理人の苦労や成功体験を通して見える京都の食とは。

第1回目に登場いただくのは、「フィリップ・オブロン 祇園」、「クーラン・デルブ」、「KEZAKO」のシェフを歴任し、2012年に自店「リョウリヤ ステファン・パンテル」を開いたステファン・パンテルさん。築100年の町家で開くフレンチ店のこと、京都への想いを聞いた。

職人の街、京都にとことん惚れた

「京都の人はうるさいのではないですか? 京都で暮らすのは難しいでしょう?」とよく聞かれます。でも、私はそう感じたことはないんですよね。そういう意味では、人にも環境にも恵まれてきたのでしょうね。「フランスに帰りたい」なんて思ったことは一度もないですからね。もちろん、たまにフランスに帰えるとハッピーになるけど、京都にいるほうが落ち着くというか...。今は自分の家は京都だと思っています。

京都の好きなところですか? いろいろあるけど、一番は職人を大切にすることですね。料理人もそうだけど、道具を作る人、野菜を育てる人、庭を調える人と、いろんな職人さんがいて、みんな自分には厳しい。納得いくまで質を追求します。そういう職人さんから受ける刺激は、料理にもつながります。知れば知るほど、京都はいいものづくりができるし、上を目指せる街だと感じてきました。

日本女性とパリで結婚、彼女の育った国が見たかった

京都にきたのは、奥さんが関西の人だったからです。私の勤めていたパリの一つ星レストランに彼女が料理の勉強に来て知り合ったんです。彼女がパリにいる間に結婚して子供も生まれました。パリもいいけど彼女が生まれ育った国も見たかった。仕事を探すなかで、運よく「フィリップ・オブロン祇園」のオープニングスタッフとして採用されました。最初から京都の神髄ともいえる祇園で働けたことは運がよかった。京都の歴史や伝統、京都人気質みたいなものに日々触れることができましたから。街並みも綺麗で歩いているだけで楽しくなる。そんなところは、パリに似ているのかもしれません。

京食材との出合いが、新しいフレンチへの扉を開いた

「ケザコ」を任され、シェフとして自由に料理をさせてもらえるようになると、お客様に叱られることもあったし、教えていただくこともありました。京都の人は味や食材にうるさいですからね。でも、そこがいい。ダメだしされるたびに、洗練された感性や食材の合わせ方について考える機会をいただきました。

「ケザコ」では、京都の野菜や食材はたくさん使っていました。「フランス人なのに、日本の食材をよく知ってるねえ」とお客様は驚かれました。でも、その土地の食材を知ることは、料理人にとっては当たり前のこと。積極的に、見たことのないもの、食べたことのない日本の食材を口にしました。難しいのはその味を見極めてフランス料理にすることだと思っています。

フォアグラと奈良漬を合わせた料理は、京都のみなさんも意外だったようです。京都に来た頃に「田中長」さんの奈良漬を食べて「フォアグラに合うかも」と思ったんです。クリスマスディナーに出してみようと思い、フォアグラに奈良漬を巻いて10日間寝かせて熟成させました。酸味のあるフルーツソースを添えたら、味に奥行きがでました。

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フォアグラの脂と奈良漬の甘味、両方が混ざり合って、まろやかでふくよかな味わいになったんです。フォアグラには酒の香りがつくし、奈良漬にはフォアグラのコクが溶け込む。それぞれを別々で食べる以上に新しくて深い旨味が生まれました。
この料理の評判は、想像以上でした。口コミや雑誌の記事で知って、この料理を食べたいという人がどんどん店に来てくださった。クリスマスだけのつもりだったのに、気がつけば私のスペシャリテになっていました。

いよいよ独立、素晴らしい町家との出合いがあった

2001年に京都に来て11年目、「ケザコ」を閉めるというときに、自分の店を出そうと考えました。でも、なかなか場所が見つからなかった。日本家屋の落ち着いた感じが好きだったから、できれば町家がいいと思っていたけど、これという物件に出合わない。
あるとき、ダメモトで街の小さな不動産屋さんに入って尋ねたら、希望通りの場所はまずまず無理だろうと言われた。たぶん日本人じゃないから、貸したくなかったのでしょう。
でも、その後電話があって、「ケザコのシェフなら貸してもいいというオーナーがいらっしゃる」と。がんばってきてよかったと思いましたよ。それがこの町家だったんです。

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門構えや庭のある日本的な雰囲気と海外のプロダクツが融合した店にしました。おかげさまで開店から6年。「ケザコ」以来、毎月来てくださるお客さまもいらっしゃいます。

大原や上賀茂の野菜、美味しいものがすぐ手に入る環境がある

大原や上賀茂の農家さんに自分で出向いて、野菜を収穫させてもらうこともあります。
そんなときわかるのは、生産者のみなさんのご苦労です。1年365日、冬も夏も彼らが手を抜かず美味しい野菜をつくってくださる。それを知っているから、その野菜をより美味しくしたいとこちらも一所懸命になるんです。
野菜だけじゃなくて、味噌や豆腐、だしの使い方や調理の組み立て方、京都の食文化から学ぶことはほんとうに多くて。地元の人に負けないというか、認めてもらいたいと思ったからこそ、京都で続けられたのでしょう。

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この料理は、春のメイン料理です。フランスなら仔羊は骨付きのままローストするだけですが、ここでは二つの部位に分けて火を入れています。ロース肉は優しくローストし、骨付バラ肉は塩漬けして一晩置いた後、36時間じっくりコンフィしています。
とろとろになったコンフィは、骨から肉をすっとはずせより美味しく食べられる。静原の椎茸は、肉のソースと一保堂さんの京番茶を加え煮込みました。口に入れると番茶がふっと薫ります。京都の食材と出合って、そこから発想した料理も随分増えました。

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変わらない京都で日々挑戦し続けたい

京都はよそものに厳しいと言われます。でも外国人の私だから言えるのは、よそものだから厳しくされるのではないということ。職人さんたちの意気に共感し、一緒に歩めば、よそものであっても大切にしてくださる。お客様も一緒です。どこの国の人間かは関係ない。他の人にはできない味をつくるための努力を惜しまなければ、それを認めるくれる人はたくさんいます。これからも私が思う「最高の料理」をつくりたいし、それを「美味しい」と言ってもらえるよう挑戦するだけです。

好きな言葉

「職人気質」

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■リョウリヤ ステファン・パンテル

住京都市中京区柳馬場丸太町下ル四丁目182
075-204-4311
営12:00~12:30(入店)、18:00~19:30(入店)
休火曜、水曜(年末・年始休み、夏期休業あり)
http://stephanpantel.com/