食知新ブログ
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BLOG京の会長&社長めし
2019.07.09
日本合繊工業の会長が通う店 「ちもと」
■鈴木康次(すずき やすじ)さん 日本合繊工業株式会社 取締役会長産業用・工業用繊維の精練加工など、各種仕上加工を行う日本合繊工業に1971年入社。父の跡を継ぎ、30代で専務取締役を経て代表取締役社長に就く。バブル前後の荒波を乗り越え、2018年より現職。ロータリークラブの美食グループの会長も務める。会合での店選びには定評があり、多くの仲間が全幅の信頼を寄せている。京都人としての遊び方を学び、人生を豊かにしてくれた料亭子供のころから父に連れられ、洋食店やお茶屋を訪れていたという鈴木さん。気に入った店は1年の内に訪れる日を早々に予約してしまうという。「1年に8~10回訪れる店が15軒。2~3回の店が40軒。それに新規開拓もします。日祝はお休みです(笑)」(鈴木さん)ほぼ毎日、会食の予定が入っている鈴木さんが40年以上通い続けているのが、料亭「ちもと」だ。四条大橋西詰に風情をたたえてたたずむ姿を、目にした人も多いだろう。ちもとは1718(享保3)年、西陣で仕出し屋として創業。明治初期にこの場所に移転して以来、料亭として画家、文化人、歌舞伎役者衆など、名だたる著名人に愛されてきた。「会合の場所として最初に訪れた30代の時は、料亭にもそれこそ祇園にも不慣れな若造でした。今は引退された大女将に、質のいい遊び方をずいぶん教えていただいたものです。おかげで人脈もとても広がり、感謝してもしきれません。そんな昭和4年生まれの大女将とは、今でも季節ごとに食事デートをしています。私は大女将の恋人のひとりなんですよ(笑)」(鈴木さん)鈴木さんがいつも利用しているのが、2階の中広間。鴨川が眼下に広がり向こう岸には南座を臨む。「東京、大阪、滋賀など、京都以外の方との接待でうかがうことが多いですね。5~10名くらいでも、部屋が広いので大いにくつろげます。窓辺からの京都らしい景色を背景に、広間で芸舞妓の舞を鑑賞すると、どなたにも京都らしさを満喫できたと喜んでいただけるんです。とても気に入ったからと、ちもとさんへの予約を代わりに頼まれることもあるほどです」(鈴木さん)ちもとには掘りごたつの部屋もあるが、畳の上に座布団であぐらをかく、昔ながらの"本当の"お座敷のスタイルが鈴木さんの好みのようだ。大女将の姪にあたる現女将の松井薫さんは、13年前にちもとで働き始めたときからのつきあいになる。「英語が堪能なので、外国人の方にも喜んでもらえるし、頼りになるありがたい存在です」と鈴木さんは言う。「鈴木会長は京都の文化を深く愛され、ふるまいがとてもスマートでいらっしゃいます。ご一緒されている方だけではなく、私どもにも分け隔てなく気さくに話しかけてくださって。それこそ時にはジョークをはさみながら、こちらの緊張をほぐしてくださるんです。本来、おもてなしは私どもの専売特許ですのに、あべこべですよね。でもその粋な心配りがあまりにも自然で、みんな会長のファンになってしまいます。これぞ京都の旦那さんではないでしょうか。現代ではこのような方は少なくなってしまい、もしかしたら鈴木会長が最後のおひとりなのでは、とすら思えます。実は私、会長のそんなご様子やお顔立ちから、密かに"和製ジョージ・クルーニー"と呼んでいるんですよ」(松井さん)料理はいつもおまかせコース。季節を映しだす美しい姿とその味に、鈴木さんは全幅の信頼を寄せている。7月の七夕の風情をあしらった「鱧の落とし」は、笹の葉がまさにサラサラと清涼感を運んでくる一品だ。「こちらの鱧料理は、おとしでもお吸い物でも焼霜でも、身がふっくらと柔らかです。優しい口あたりで、いつも満足させていただいています」(鈴木さん)その秘密を、40年以上ちもとの板場に立つ料理長の丹谷節雄(たんや みさお)さんが、そっと教えてくれた。「鱧は1.2~1.3キロの脂ののったものを。ただ長いだけではダメで、太ったものに限定しています。そして茹でるときは真水ではなく、塩を足すことで旨みが出るんです」(丹谷さん)へしこやくさやなど、和の発酵食品が好物だという鈴木さんのお気に入りが、御椀「吉野仕立て」。なんと鮒寿司のお吸い物だという。「米に漬かった鮒寿司を酒粕に移し替えることで、鮒寿司の塩気がまろやかになり、そのまま食べることもできるほどです。その鮒寿司を冬瓜にのせ、針茗荷と生姜を散らし、ほんのりと吉野葛のとろみがついた出汁を回しかけます」(丹谷さん)先々代の松井新七氏が考案したという「麦飯蒸し」は、ちもとを代表する料理のひとつだ。「麦飯の周りをぐじと錦糸卵でくるみ、青ねぎ・紅葉おろし・海苔を添えます。そして焼いたぐじの骨からとった出汁と一緒に召し上がっていただくと、するすると軽くのどを通るのではないでしょうか。元々は、食欲のなくなる夏のお料理として始まりました」(丹谷さん)季節ごとに変わる料理も常に変化と進化を遂げると同時に、客の好みにできるだけ応じる。なので、いつこれらの料理をいただけるかはその時によるが、それは器も同じで一期一会だ。ちもとにはなんと2200種以上の器を保管されているという。それらの整理には3年半を費やしたとか。そのほとんどがそれぞれ30~80客もあるので、総数はもはや数え切れない。「過去3年は同じ器ではお出ししない」という決まりのもと、器は選ばれていくそうだ。「お客様の心に耳を澄ませながら」という信念が、300年にわたり代々受け継がれているちもとでは、昭和初期までは地下に大浴場があった。ひと風呂浴びて汗を流し、用意された浴衣に着替えて、芸舞妓とともに食事を楽しむ――なんとも優雅な時間が流れる、そんな時代があったのだ。「今では大浴場はありませんが、2~3時間のお食事の時間で日頃のお疲れを癒していただけるよう、心を尽くしております。ちもとにいらっしゃる間は、男性はお殿様、女性はお姫様になっていただければと。皆様のお好みや、その時々の心は目に見えるものではありません。そんな、言葉にならない思いに耳を澄ませながら、よりよいおもてなしに心を砕いてまいりました」(松井さん)そうした、「お客様にゆったりとすごしてほしい」という願いは、京都の夏恒例の床にも現れている。鴨川に張り出す多くの床が、隣席との間が密集して客同士がくっつかんばかりのなか、ちもとではわずか7席。しかも雨が降っても必ず個室に移動でき、酒宴を途切れることなく続けるられるのだ。「お席との間が空いていると、風も通りやすく、涼しく床を楽しんでいただけます。床では活きのいい天然の鮎を、目の前でお焼きします」(松井さん)その魅力は、京都以外の方や外国人にはおすすめだと、鈴木さんも認めるところ。だがご本人は「たまにデザートだけ食べに床を使うこともあるけれど、基本的に京都人は床を利用しません(笑)」とのことだ。祇園にも出やすい立地で、歴史ある数寄屋造りの建物のなか、格調高い器で技が効いた季節の料理をいただく――。大女将から学んだ粋な姿で、今日も鈴木さんはちもとで、ゆったりとした時間を過ごしているのだ。撮影 瀧本加奈子 文 竹中式子■ちもと京都市下京区西石垣通四条下る075-3351-184612:00~14:30(最終入店)、17:00~20:00(最終入店)定休日 不定休 月2回※HPで確認をhttp://chimoto.jp/index.html
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BLOG酒のふと道
2019.07.05
ドヤ顔で案内したい。呑み仲間がきっと気に入る京都のお気軽酒場
注目の千本エリアでキラリ光るニューカマー酒場『明石玉子焼の店 ハーモニー』西陣の織物産業栄えし頃は、毎夜多くの人で賑わったという千本通界隈(ざっくりいうと丸太町通から今出川通くらいの間)。ここ2、3年で徐々に新しい飲食店が増えつつあり、街なかからもわざわざ目指してはしご酒を楽しむ御仁も少なくないようです。そんな勢いのある千本エリアでぜひ行っておきたいのが『明石玉子焼の店 ハーモニー』。今年1月にオープンしたばかりながら、すでにしっかりと根を下ろした感のある人気店です。トタン張りの壁(?)がいい感じにチープというかレトロというか、な店内で京都では珍しい明石玉子焼と呑兵衛心をくすぐるアテがいただけます。名物の明石玉子焼は8個〜注文可。ふるっふるの熱々がたまりません〜。もちろん、出汁もちゃんとついてきます。最後にぐずぐずにとろけた玉子焼がまた美味しいのよね。具はベーシックなタコに加え、エビ、ウナギ(写真)、銀杏や季節限定のネタもあり。ハーフ&ハーフもできます。明宝ハムのステーキ。黄身醤油が添えられてるのが嬉しいじゃありませんか!わかってはるわぁ。全人類がこのハムステーキの食べ方を知ることができますように!すじ煮込はとろっとろぷるっぷる。しっかりめの味付けがお酒を呼びます。これはちょいと珍しい、プチトマトのぬた(日替わり)。家でも真似したくなりますねー。友人が頼んだ凍り梅のサワーがすごかった! 終盤はみんなで分けた梅をカリカリしつつそれぞれの酒を吞むという謎の連帯感が生まれました。ご店主は木屋町のレジェンド酒場『日の出食堂』の店長だった方なのだそう。そのおかげか、お店はいい意味で敷居の低い&飛び込み歓迎な大らかな雰囲気に満ちていました。平日でもお客さんがひっきりなし!若い子たちも、我々中年もそれぞれにリラックスして過ごせる空間って貴重ですよね。■明石玉子焼の店 ハーモニー京都市上京区福島町380 075-432-8505 14:00〜23:00月曜休(祝日の場合は翌日に振替)商店街の路地に佇むオトナの隠れ家的な『食堂酒場たなか』堀川通から千本通の間にアーケードが続く「三条会商店街」(三条通)からひょいと路地へ入ったところにある『食堂酒場たなか』。その名の通り、うどんや中華そばから、おでんに揚げ物、パスタ、カプレーゼ、珍味などなど和・洋のおつまみが幅広く揃い、どれから頼んだらいいのか嬉しい戸惑いを誘うほど。ご主人は元々バーテンダー&某有名バーの店長を長く務めたお方。ゆえにお酒のラインナップもバーさながらに充実しています。ビールに焼酎、日本酒、ハイボール、そしてカクテル、ワイン、ウイスキー......。どんな好みの人を案内しても、呑みたいもの、食べたいものがきっと見つかる。そんな心強い一軒なのです。みんな大好きポテトサラダ! 黒胡椒が効いているうえ、別添えでマスタードがたっぷりついているのも嬉しい。酒呑み仕様ですね(歓喜)。たなかのからあげ(写真はダブル)。唐揚げ好きが集まった日だったので、わがまま言ってダブルでお願いしました。竜田揚げと唐揚げのいいとこどりのようなクリスピー&ジューシーさで、あっという間にこの山がなくなりましたよ。ご主人に「実はうちのカレーうどんな......旨いねん」とドヤ顏で言われたからには、食べずにいられません。最初はおだしの甘み、のちにほんのりスパイシーさが広がるスープはさらりとしたテクスチュアで呑んだ後にもするりと胃におさまります。おろしショウガ入りってのがまた気が利いてますよね。あったまる〜。ていうか暑い〜。でぶが汗をぬぐい始めましたよ。これは外せません! の名物・たまごサンド。京都でおなじみのオムレツタイプです。トーストとオムレツというシンプルなスタイルながら、「あらー!」とか声が出るくらい美味しい。数人いると「どのひと切れを食べるかじゃんけん」が勃発します。でぶの一念で一抜けした私はオムレツが大きくはみ出たミミ側を選びました。「野菜も摂っとかなきゃ」ということで、もやし炒め目玉のせも。従来は目玉焼きは1個なのですが、ここでもわがままを言ってしまいました。ごめんなさい。皆様方におかれましては、どうか1目玉、せいぜい2目玉で我慢くださいますようお願い申し上げます。ちょっと並べただけでもこのお店の懐深さが伝わるかと思います。ぜひ、メニューを前に迷いまくってみてください。ひとりふたりでまったりとグラスを傾けるならカウンター、何人かであれこれ食べて呑んでならテーブル席と使い分けできますよ〜。時々不定休もあるようですので、遠くからお越しの際は事前に電話確認をされることをおすすめします。■食堂酒場たなか京都市中京区猪熊通三条下ル三条猪熊町642-1 ハイツ白山1F075-200-819317:00〜翌1:00水曜休、ほか不定休あり昼からだらだらと呑めるのが最高!『酒場たいげん』京都市役所から少し西へ歩いた御幸町御池の北西角にあり、この一帯では珍しく正午から通し営業でオープンしているのが『酒場たいげん』です。お店は地下にあり、レスラーさながらに膝に爆弾を抱えたでぶは階段を降りるのが正直つらいのですが、その痛みと引き換えにしてでも幾度となく通ってしまう。そんな魅力的な酒場なのです。やっとの思いで階段を降りると、入り口でまず靴を脱ぎます。店内はすべて座敷席(一部は掘りごたつ式)。テーブルと座布団が等間隔に並び、壁には大きなテレビ。なんでもオーナーさんが「温泉施設の休憩所みたいな空間」を目指しているそうで。その意図は、すきあらば昼からでも呑みたい派の我々にビシィっと刺さりましたね。最長で6時間以上滞在した記憶があります。チルな空気感もさることながら、研究熱心な店長の作るアテがどれも美味しくてついつい長尻になってしまいます。大きなだし巻き。じゅわっというより、ぷるんっとした独特の食感です。関東からのお客さんは特に喜ぶやつ。エイヒレ。ここのは肉厚でむっちりとしていてなぜかミョーにうまいんです。ずっとそばにいてほしいタイプのアテ。ちくわ天。縦に細〜く切ってあるので食べやすい。この天ぷらしかり、唐揚げ(写真はないのですがこれもまた旨し!)しかり、揚げ物がカリッとしていて冷めてもダレないのがありがたい。おそらく、自らも呑み助だという店長が工夫を凝らしているのでしょう。だし奴。これはおそらく季節限定メニューかと。東北地方の涼感ある薬味「だし」をアレンジしたものがたっぷりとあしらわれています。長芋のシャキシャキ感とキュウリやズッキーニの歯ごたえ、そしてなめこのぬめりと、さまざまな食感を楽しめるのが素敵。歳いくとこういうアテがしみじみ美味しく感じられますな。マグロ中落ち、キレイでしょう。醤油皿にワサビを溶いちゃって、軽い「づけ」状態にして食べるのも好きです。割烹や寿司屋ではできない、ざっかけないお店ならではのお楽しみ。最後になりましたが、これは外せない。ポテトサラダ。一見よくあるオーソドックスなタイプと思いきや、ひと口食べると「!」な顔になることうけあい。実は具の一部が燻製をかけたものなのです(どれが燻製かはご自身でお確かめを)。ふわ〜っと広がるスモーキーな香りが「ハイボールも頼んじゃえよ。生ビールはチェイサーにしてさ」と囁きかけるようなキケンなおつまみ。これをちびちび舐めるようにアテにしつつ、ジョッキを乾してはバカ話に興じるのが最高に幸せ。地下の店だけに、数時間呑んで地上に上がってもまだ明るい......なんてこともままあります。そんな時は「ラッキー! まだ呑めるやーん」と元気に次の店を目指しましょうね、ご同輩。■酒場たいげん京都市中京区御池通御幸町亀屋町370-2 京都府旅館会館B1075-213-077412:00〜22:00月曜、第2・4火曜休***気が向いた時に、特に予約をせずとも「今夜あそこ行こっか」という風に目指せる店があるっていいですよね。そこで美味しいアテやお酒を気心の知れた友人たちとわいわい楽しめたなら、これすなわち幸いというやつなのでは。誰が言ったか「孤食はでぶの元」という説もあるそうなので、これ以上膝に負担をかけないためにも、これからは大勢で食べて吞む機会を増やしたいものです。頼んだよ! (数少ない)友人たち!
泡☆盛子
沖縄出身・京都在住のフリーランスライター
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BLOG京のほっこり菜時記
2019.07.02
「鱧(ハモ)」
コンコンチキチン・コンチキチン♪♪祭囃子が、そこここで聞かれる季節になった。四条通りを歩いても、デパートに入っても、このお囃子が鳴り響いていると、いやがおうにも祇園祭を思わせられる。 そう! 7月の京都は祇園祭一色だ。7月1日の吉符入をかわきりに、10日のお迎え提灯と神輿洗、山鉾建て、山鉾巡行などさまざまな神事が執り行われ、7月末まで1カ月間続く。 ところで、祇園祭のもうひとつの呼び名が「鱧祭」だというのをご存知だろうか? 実際に「鱧祭の季節ですねえ」などと、口に出して言うことはそれほどない。けれど、梅雨どきの雨水を吸って肥えた鱧は、ほんとうに美味しくて。割烹など日本料理店だけでなく、どこに行ってもメニューに鱧料理が並ぶ。つまり、京都中に鱧があふれ、鱧祭といえる状況になるわけだ。 有名な話だが、今のように流通が発達していなかった時代、海から遠い京都に活きて届くのは鱧だけだった。新鮮かつ栄養価の高い鱧は京都の人にとって貴重な魚だったのだ。だから、小骨が多くて「煮ても焼いても食べられない」と他の地域では食べなかった鱧を、京都の料理人は「骨切り」の技を苦心して生み出し、美味しい料理にした。今では京都以外でも普通に鱧は食されるようになったが、京都の鱧料理は多彩である。細かく骨を切った鱧を湯引きする「鱧落とし」のほか、皮目をさっと炙った「焼き霜造り」、だしにくぐらせて食べる「鱧しゃぶ」、くずを叩いて椀だねにする「ぼたん鱧」など、挙げるときりがないほど。 以前、中央市場の方に聞いたのだが、日本で水揚げされる鱧の70%は京都で消費されるらしい。なんと大量の鱧を食べるのだろう! なかでも瀬戸内や淡路島産の鱧は上質だとされ好まれる。一時期、韓国産が脂がのって美味しいと言われたが、京都の料理人は「瀬戸内など国産のもののほうが淡泊で上品な旨味がある」といって、韓国産をそれほど使わなかった。 ちなみに、私も鱧は大好きだ! 淡泊なのに脂もあって、料理ごとに食感や味わいが違う。焼き霜は香ばしく、ぼたん鱧はふんわりして出汁の旨味を含む。つけ焼きにした鱧寿司のご馳走感も捨てられないし、サクッとした鱧フライはビールに合う。「じゃあ、鱧を食べるならどこがいい?」と聞かれて、私がまず挙げるのは「割烹やました」だろうか。数少ない正統派割烹の一軒で、今でこそ品書きも置くようになったが、かつては、それもなかったという。客が「今日は何がある?」と聞くと「脂ののった鱧が入ってますよ」と勧めてくれるといった具合。そんなやりとりは品書きのある今も変わらないのだが。この店を訪ねてハッと背筋が伸びるのは、店に凛とした活気が満ちていること。大将の山下茂さんを中心に、板前さんたちが無駄なくキビキビと動いている。包丁を持つ手を動かしつつも、客の質問に答えたり、酒の注文を聞いたり。かと思うと、カウンター上のカンテキ(小さな七輪)で鱧をほどよく焼いて客の皿にひょいと置く。香ばしいその香りに、お腹がせわしく動きだすのだ。この店の鱧料理はどれもこれも絶品だが、2,3人で行ったときにお願いするのが写真の「柳川」。鱧の骨でとっただしで身を炊いて、玉子でとじて三つ葉を散らす。山椒をふってそのまま食べてもいいし、ご飯にのっけてもいい。思い出すだけで喉が鳴る。 まずは造りなど魚料理を食べてほしいが、鴨ロースや旬の野菜天ぷら、小鍋など季節の料理もめっぽう美味しい。長年おつきあいしているにもかかわらず、今もこの店に行くときはちょっと緊張。どんなふうに大将とやりとりしようか、何を注文しようかと悩むのだ。けれど、もちろんそれも大きな楽しみのひとつで......(笑)人気店だが、何カ月も先まで予約が取れないということもなく、思い立ったときに訪ねられるのもいい。■ 割烹やました京都府京都市中京区木屋町通二条下ル上樵木町491-3 075-256-4506営11:30~13:30(L.O.) 17:00~22:00(L.O.) 月曜休
中井シノブ
ライター
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BLOG外国人料理人奮闘記
2019.06.28
ポルトガル料理人 パウロ・ドゥアルテの「しばいたろか!」
3回目に登場いただくのは、北野天満宮近くでポルトガルの菓子店を開く、パウロ・ドゥアウテさん。夫婦二人三脚でやってきた彼らのこれまでとこれからをご紹介します。日本のカステラの美味しさに魅入られた日本のカステラを知ることができたのは、妻の智子が僕の勤務していたお菓子店にやってきたから。30年くらい前だったでしょうか。彼女は当時大学を卒業したばかりで、ぼくよりもずっとポルトガルのお菓子への想いがあった。長崎で出合ったカステラのルーツを知りたいと、単身・ポルトガルへやってきたんです。そう想うと大胆ですよね。妻と出会っていなければ、僕は日本へ導かれることはなったかもしれません。やがて僕たちは結婚して、在日ポルトガル大使館やポルトガル貿易振興庁により長崎でのイベントに招かれました。そこで出合ったのが長崎カステラの老舗「松翁軒」でした。カステラの美味しさを知り、しばらくの間「松翁軒」で日本のカステラづくりを学びました。そして、その味を「ポルトガルにも」という思いを持って帰国したんです。ポルトガルで日本のカステラを販売1996年、智子と僕は、ポルトガルのリスボン郊外で自分たちの店を開きました。ポルトガルのお菓子と日本の「カステラ」を販売する店でした。ポルトガルでいうところのカステラ「パォンデロー」は、地方によって作り方や風味が違います。ただ、どこの土地でも、このお菓子は洗礼式や結婚式などには欠かすことのできない伝統菓子として食されていました。日本に伝わったのが、そのなかのどんな菓子だったのかはわかりませんが、日本で今食べられているカステラとはかなり違います。だからこそ、ポルトガルから日本に伝わり進化を遂げた「カステラ」を、ポルトガルの人にも知ってほしかった。2003年にはリスボンに拠点を移し、僕たち夫婦は日本とポルトガル、両方のカステラを販売し、多くの方に喜んでいただけるようになっていました。ただいま日本、そして京都そんななか、「日本でポルトガルのカステラを広めないか」というお話をいただきました。日本は智子の故郷だし、僕にできることがあればとお引き受けしました。店を出すなら、智子の出身地でもあり、義母のいる京都だろうと思っていましたが、なかなか店舗が決まらず、僕はパン店などに勤務。智子が物件を探すという日々が続いていました。そんなとき、ご縁があって元は酒蔵だったこの建物を見つけました。 蔵だったこともあり、電気も水道もガスの通っておらず、まさに一からの出発。けれど、リスボンの店も教会の近くだったこともあって、北野天満宮そばのこの場所に、なにか運命的なものを感じました。2014年、今から5年ほど前のことです。ポルトガルの味を日本にも先にも話しましたが、ポルトガルのカステラ「パォンデロー」は、日本のカステラとは随分違うお菓子なんです。共通点を探すのが難しいくらい(笑)。日本のカステラは木枠で焼くけれど、それも日本独特。ルーツは確かにポルトガルですが、今となっては和菓子といえるでしょうね。まずは、そのことを日本の皆さんに知っていただくのが大切だと思いました。とはいえ、日本の材料はほんとうに優れているから、小麦粉も卵も上質なものが手に入り、この店でもポルトガルの味をほぼそのまま復元しています。家具や調度などは極力ポルトガルから取り寄せました。ポルトガルの雰囲気のなかでお菓子を味わってもらいたかったんです。お客様にはカステラのルーツ「パォンデロー」とはこんなお菓子で、こんなに種類があるとか、どんな風に食べるとお伝えしています。それが、僕たちの使命だとも思っています。お帰りの際は、「オヴリガード(ありがとう)」とお声かけするのが習慣です。店でつくる「パォンデロー」は3種類「パォンデロー」はポルトガルの地方によって変わることはお伝えしました。北のものはしっかり焼きあがっていますが、南へいくほどとろりとして半生(半熟)で、プリンかムースのような口あたりです。しっかり焼いたものはチーズなどとともに味わい、半生のものはスプーンですくって食べます。日本でも餡の炊き具合が違ったり、うどんの堅さが違ったりするような? たぶんその地方の気候風土や慣習などによっても変わるのでしょう。うちでは、そんなタイプの違う「パォンデロー」を3種ご用意し、味わいや食感の違いを感じていただきます。大きな素焼きの型で焼いたしっとりと弾力のあるミーニョ地方のもの、小ぶりの素焼きの型で焼いたとろりと濃厚なベイラリトラル地方のもの、そして鍋や金型で焼いたシュワッとした食感を楽しめるエストレマドゥーラ地方のものです。 写真のイートインメニュー「食文化比較体験プレート」税込700円 (※価格は取材当時のもの)は、ポルトガルの味3種と日本風のカステラを盛り合わせたもので、これを味わっていただくとそれぞれの違いを感じていただけるようになっています。僕たちの望みはただひとつ、これら「ポルトガル菓子」の礎を日本で確立すること。まあいえば、うちの店はその元祖的なものでしょうか。50年後や100年後にポルトガルのお菓子が日本で親しまれていれば嬉しいですね。いつかはまたポルトガルで日本のカステラをもうひとつの願いは、またポルトガルに戻って、日本のお菓子やカステラを教える学校を開くことです。日本とポルトガルの橋渡しというか相互交流ができればいいと思います。京都は暮らしにくいかというと、決してそうではありません。そういう意味で言ったらポルトガルのほうが、よそ者を受け付けない気質があるかも。でも、何かに本気な人や一所懸命な人には、誰でも手を差し伸べる。それは京都でも他の国でも一緒でしょう。だから僕は、京都で苦労したことなんてない。「成功した」と思ったら終わりだから、いくつになってもしんどいことはしていくべきだと思っています。関西弁に「しばいたろか!」って言葉あるでしょう。これ、いろんな意味で使えますよね。愛のある「しばいたろか~」もあるけれど、ちょっと怒り気味の「しばいたろか!」もある。けど、どんなふうに使っても笑いが起こる。厳しさを含みながらも、笑いに変えられる。絶妙な関西のコミュニケーションを、僕は京都に来て知りました。 そんな言葉のニュアンスを感じることができれば、世界中どこででもやっていけます!■ Castella do Paulo カステラ ド パウロ京都市上京区御前通今小路上ル馬喰町897075-748-05059:30~18:00(カフェ~17:00)休 水曜、第3木曜
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BLOG京都グルメタクシー
2019.06.28
おいしい京都案内 |時代とリンクする、コスパ◎フレンチ2店
この季節になると修学旅行生が観光地を歩いているのをよく見かけます。ゴールデンウィークから7月ぐらいまでが中学校の修学旅行のピークなんです。新人ドライバーがある程度経験を積んで観光案内ができるようになると、修学旅行のご案内を会社から申し付けられます。でも本音を申し上げると、生徒さんのご案内は高度な判断力と体力を求められることが多く、ベテランドライバーでも骨がおれるご案内です。そんなこともあって、「グルメな運転手さん」という要望があるグループには、私が推薦されてきました。 こんにちは! 修学旅行生からも重宝がられる?!京都グルメタクシーの岩間です! 車に乗っていただくだけで、あなたにとっての「おいしい京都」をご案内いたします。以前、修学旅行の生徒さんから「食いしん坊な運転手希望」というリクエストがあって、私が担当したのですが、「お昼ご飯は美味しいけれどワインコイン(500円)で済ませたい」と言われたことがありました。一瞬考えましたが、「森嘉」(豆腐、揚げものを購入して公園で食べる)→「米都」(できたてのおにぎりをにぎってくれる。しじみごはん、塩、炊込ご飯などを購入)→「銀閣寺キャンディー」(アイスキャンディー60円~ストロベリー、ソーダなどを購入。現在閉店)で京都名物からデザートまでを500円でおさめたのを思い出します。ワンコインでも絶品のグルメには出合えるんです。 このときに「美味しいものは値段ではない」と生徒さんにお伝えしたこと、いまでもおぼえております。それがいまの京都グルメタクシーのコンセプトになったのかもしれません。さて本日は私自身もかつて経験した「フレンチの料理人」というくくりで、「時代とリンクするフランス料理人のグルメ」を2つご紹介いたします! お待たせいたしました! 京都駅からまずは銀閣寺方面に向かってスタート! 出発で~す♪ 岡崎の平安神宮を北東の方向に進み、銀閣寺の手前にあるのがこの「ちょっとフランス」です。女性シェフがおひとりでなさっている私の好きなお店ですが、シェフは人気フランス料理店で修業をされ、肉総菜がおいしいと評判のお店でさらに腕を磨かれました。その店で培われた経験をベースに、ご自身のセンスを盛り込んだことで、地元の人気店になったのでしょう。本場フランスの味をしっかり感じることができるのに、屋号は「ちょっとフランス」。「ちょっとどころでない、見事なフランス味」だと私は思っています♪ 今日は「フォアグラムース」「リエット」「テリーヌ」「パテ・アンクルート」というラインナップで購入しました。これで合計2430円(税込)。かなりお手頃な価格です。パテやテリーヌは妻が大好きで、京都市内のいろいろな店のものを試しましたが、こちらも気に入っています。肉自体も上質ですが、生地の交ぜ具合や加熱のテクニックなど仕込みが理想的です。特にここの料理の「潤い」が気に入っています。水分をしっかり調整しているしっとりとした肉総菜が好きなんです。「フォアグラムース」は気泡と水分、そしてフォアグラそのものの持ち味がしっかり生かされています。 この「パテ・アンクルート」は、あえてはしっこの部分を購入しました。パイ生地がしっかり肉を覆っているから、肉のうまみが生地にしみこんでいます。肉とパイとのバランスがよく、塩気も程よくあります。 フランスで修業していたとき、研修先から電車で行けるリヨンやバランスに行って、肉総菜を買ったものでした。専門店でも買いましたが、スーパーでも安く手に入ります。「ちょっとフランス」の肉総菜は当時のフランスの味そのものです。食べている間にいろいろなこと思い出します。楽しかったこと、つらかったこと。。。。「記憶をよみがえらせる料理」っていいものですね。たまにフランス人に怒られた夢をみて目が覚めることがありますが(笑) 銀閣寺界隈から今度は京都府庁方面に車を走らせます。お客様から一人で運転しているときは「どんなことを考えていますか?」と質問をうけることがあります。安全運転を考えるのは当たり前なのですが、新店舗がどこかにないだろうか? 隠れていないだろうか? と思いながら走ることも多々あります。新聞の報道記者のように、しっかり集中力をもって目で見る! そんなふうに車内から町を見ています。フランス車のプジョーやシトロエン、ルノーを見ると、フランス時代を懐かしく感じたりします。フランス滞在時期に現地の人や料理人にお世話になったおかげで、今も「フランス帰り」という肩書きを名乗れる「京都グルメタクシー」なのです。それでは、京都のEsprit(エスプリ:知性、才気、)ある味をこれからご紹介いたします! フランス語で「L'eclat」(レクラ)は「はなばなしさ,輝かしさ,光輝」という意味だそうです。ミシュラン掲載店の「MOTOI」から派生したお店です。スタッフも「MOTOI」出身の方が多く、懐かしいサービス担当さんもいます。ただし、「MOTOI」と共通しているのは「おいしい」ということだけかもしれません。そのぐらいメニューは方向性が異なります。開店されて4か月でしょうか、巷では「クラシカルフレンチ+洋食」「古き良き時代のフレンチ」とも言われ、噂になっているお店です。5月にフレンチのベテランサービスの方と2人でうかがったときの料理をリアルにご紹介いたしますね。 ちょっと気になる町屋といいましょうか。京都の街に溶け込む姿に期待が膨らみます。 フロアはこういった感じですが、机をつなげるとまとまった人数でも入ることができます。 2階にはバースペースもあります。ゆっくりくつろげるソファーもいいですね。定休日の前日以外はディナータイムの後もバータイムがあって便利です。 7名ほど座れるカウンターからは、こんな感じでシェフやスタッフの動きがしっかり見渡せます。カウンターと調理場の間に通路があるので、熱がこもることもなく、常に空気は清浄に保たれています。カウンターとテーブル席にも距離があり、ほかのお客さまの会話が気にならないのもいいですね。スペースの取り方もしっかり計算されています。 手書きのおすすめメニューも魅力的。「ハヤシライス」もあるじゃないですか~! フランス料理を基本としていますが、洋食ジャンルのアラカルトも充実しているのがこのお店の特徴でもあります。定番メニューも豊富で「ポテトサラダ」などもあって、愛嬌あります♪ 左 フォアグラのフランのキッシュ 右 グジェール アミューズ インパクトある2つの料理でお出迎えです。それぞれに対照的な風味で楽しませてくれます。 ワインの選択は中村支配人にお願いしましょう。長年「MOTOI」で支配人をなさっていましたが、こちらの店の準備でしばらくお忙しかったそうです。いつもの笑顔で対応していただきました。この日は2人で伺ったのですが、同席者もベテランサービスの方だったので、ワインリストが気になったのか、いろいろ注文されました。 ディナーの後のバータイムも、種類豊富なワインをグラスで楽しめます。ワインの話に花が咲き、このあとワインセラーを案内していただきました。 この場所、かつては豆腐屋さんでした。その時から地下はあったそうで、かつては井戸水もでていたとか。値段も書いてあるのでここから選ぶこともできます。 これが1階から地下に降りるワインセラーの入り口です。フランスの石造りの床のような~。さてカウンターにもどって、いよいよディナーをいただきます。 ホロホロ鳥 フォアグラ トリュフのパテ・アンクルート 1900円 硬派と言えるしっかりとした歯ごたえ。決して硬いということではなく、ずっしりした感じが正統派です。塩気もやさしく、うまみが凝縮しています。二人でなら、ひとつがちょうどいい量でしょうか。重たさがないのがホロホロ鳥ベースのいいところでしょう。先ほどの「ちょっとフランス」と同じ料理を注文して、あえて食べ比べるのも美食的な選択ですね。 長崎県産 神経〆 イサキ フライ タルタルソース 2100円パン粉の衣がカラッと上っていて、油切れがいい。中まで火が通って蒸されたあたたかい白身がやわらかくおいしい。 特製 平井牛ハンバーグ デミグラスソース 2800円 平井牛7:3米沢豚 の比率で配合されているらしく、非常に食べやすい。そしてこのデミグラスは「デミグラスはこうあるべき」という正統派の味です。このソースをいろいろな料理に使われていますが、煮込みすぎて炭化していることもないし、逆に煮込みが浅くもない。ちょうどいい塩梅です。付け合わせにムースリーヌ(ジャガイモのピューレ)が添えられ、懐かしくなりました。 黒毛和牛カツレツ 4600円 火入れのタイミングもよく、衣が肉のうまみをしっかり閉じ込めてくれています。ハンバーグがどの料理もあまりに美味しく、もう一品追加したのがこの料理です。 美山 美卵のオムライス 1900円 料理人とリンクしていているこの撮り方が気に入っています♪ 平飼いの卵、美山の「みらん」です。若い鶏にしか生ませない卵ときいていましたが、私も初対面です。ふんわり、そして卵の味をしっかり感じることができます。ライスはおそらくケチャップ系、そして玉ねぎはもちろん大量のシャンピニオン(マッシュルーム)が使われています。一人ならこれとサラダとスープでも楽しめそうです。単品料理でワインを少し飲むという利用も大丈夫だそうです。 この日は満席で、私たちのあとからも数組こられました。男二人でしたが最後は〆のデザートを注文することに。3つの候補がありましたが決まらず、結局3つとも頼むことになりました。 ガトーショコラとバニラアイスクリーム 850円 すっきりした甘さ控えめのグラスアラバニーユ。チョコレートの風味が力強い。 ミルフィーユ 苺とフランボワーズのシャーベット 1000円 ごく薄のパイ生地を焦がして提供。これがやさしいカスタードクリームと合わさっていい味だしています。フランボワーズのさわやかな風味はミルフィーユを盛り上げてくれます。 美山 美卵のクレームブリュレ ガッチガチです。本来このぐらいは表面の焦げがほしい。「濃い色の焦げ(ブリュレ)がないとクレールブリュレと言えません」とお菓子が語りかけてくるようです。 いつもはエスプレッソを頼む私ですが、さすがに今日は珈琲にしました。「甘味は別腹」と言いますが、ほんと、そのとおりです。 ここにきて種明かし。。。シェフはフランスの料理学校時代の同級生です。 小栗秀樹シェフと出会ったのは、フランス校(辻調理のフランス校)でした。もう28年も前の話で、1991年の春コースの戦友なのです。長年ラ・ロッシェルで修業。大阪のレストランや、このお店の系列店にも一時勤めていたそうです。フランス校当時のシェフの印象は、とにかく冷静。黙々と仕事をこなすタイプでした。お互いに年をとりましたが元気そうで良かったとお励ましあいました。そして思ったのは、彼が当時より料理を楽しんでおられるということ。再会といっても彼はほとんど料理をつくっていたので、お話ししたのはすこしだけでした。今月、同窓会があるので、そのときにはいろいろ話せればと思っています。個人的なことをご紹介しましたが、それは別としても、おすすめしたいお店なのです♪ 友人としての評価ではありますが、今後このタイプの店はますます需要が増えるはすです。手軽にワインが飲める、インテリアにも力をいれている、とはいえコスパが良く、アラカルトで昔ながらの味も楽しめる。また、モトイの姉妹店という安定感と経験がいたるところに生かされています。肩肘張らない雰囲気もここを訪ねやすい理由です。フランス料理と日本洋食のちょうど中間的なポジションといってもいいでしょう。創作などは加えず、ストレートな剛速球勝負という感じです♪ サービスの要的存在でもある中村支配人の力も大きい。ワインセンスはもちろん、お店の為に尽力されていることが、節々ににじみ出ています。この店からまた新たな伝説がはじまりそうです。若きスタッフの優秀さやオーナーの考えが、このお店を益々良くしていくことでしょう。皆さんもぜひ行ってみてくださいね。 これは1991年の私の写真です。だれですか? と言われそうですが、このときに小栗シェフと出会いました。28年後に再会を果たせました。人生において料理は様々な出会いをもたらしてくれます。グルメタクシーにとってフランスは要となるもので、これからもフランスで学んだ経験を生かし「京都知新」の一員として、京都のすばらしさを、食を通じてお伝えしようと思います! 「運転手さん!そろそろ京都駅へ戻ってくださいよ!」 「あ? そうでした! ちょっとフランスのこと考えてしまって。。。(笑)」 今日の京都グルメタクシーツアーはいかがでしたでしょうか。本日はちょっと長くなりましたが、またお会いできる日を楽しみにしております! さあ、またおいしいお店、探してきま~す!!※記事で記載している価格は取材当時のものです。■ちょっとフランス京都府京都市左京区浄土寺上馬場町112 075-741-6244 11:00~20:00定休水・木曜日http://c-furansu.com/■L'éclat (レクラ)京都府京都市中京区竹屋町通衣棚東入ル相生町281 075-222-1256 Dinner Time 17:00~21:00(L.O.)/Bar Time 21:00~25:00(L.O.)定休日月曜日(祝日の場合は翌日休み)※定休日前日は21:0024席 カウンター テーブルあり駐車場なし ただし近隣に1300円 24時間一律がある2019年2月27日開店
岩間孝志
京都グルメタクシー
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BLOG割烹知新〜奇想の一皿〜
2019.06.28
祇園 大渡「冷製鱧タージュ」
奇想の一皿「冷製鱧タージュ」冷製鱧のコンソメゼリーとすりながし、じゅんさいを添えて大渡真人さんは、大阪の名店「季節料理 津むら」などでの修業を経て、2009年に独立。試行錯誤の末たどり着いた、まぐろ節でとった出汁に定評があり、ひと口目から客の心をつかんで離しません。発想秘話今回の料理にたどり着くまでに、実はふたつの前段階がありました。「鱧のすりながし」はもともと古典的な温かなお椀で、大阪の修業先での名物料理でした。独立したばかりのころは私も海苔とわさび、白玉を添えてお出ししていたのですが、なんとなくメニューから外してずいぶん経ちました。ところが昨年、大きく事態を動かすことが。それは割烹「緒方」の緒方俊郎さんが発された「以前出していた鱧のすりながしを、冷たくしてみては?」というひと言でした。 「鱧のすりながしは温かいもの」という固定概念にとらわれず、一度分解して、再び組み上げる。思ってもみなかったその発想に刺激され、ビシソワーズをヒントに2018年の夏に、冷製として復活したものが前身です。私自身、口にして自分が変わるような衝撃を受けました。その料理が「進化」したものでしたら、今回はそこから「深化」させようとしたんです。「鱧のすりながし」は、火を通した鱧の身を粉砕し、かつお出汁と合わせ、裏ごししたじゃがいもでトロミをつけます。日本料理ですとトロミには葛を用いますが、それでは面白くないので、じゃがいもを選びました。「鱧のコンソメゼリー」では、鶏と牛でコンソメを作り、そこへ鱧の骨と皮を入れます。コラーゲンがたっぷりな煮こごりが出来上がります。復活バージョンでは、すりながしにもゼリーにもカツオ出汁を使っていましたが、今作では鱧をベースにそれぞれ違う素材を用いているので、ひとつの皿の中に2種類の味わいがあり、面白みが出たのではないでしょうか。すりながしとゼリーはキンキンに「ちべた(冷た)!」くします。そして、じゅんさいで、氷のような涼し気と可愛らしさを演出しました。コンソメのシャープでしっかりした味わい。すりながしのスッキリとした味わい。それぞれを楽しんだのち、ふたつを一緒に口にすると、たがいの味が重なり合って深みを増します。うちには、他ジャンルの料理人が研修に来ることがあります。以前の日本料理界ではそんなことはご法度でしたが、最近はお互いにリスペクトして、テクニックを教えあっています。コンソメのつくりかたも、フレンチのシェフに教えてもらったんですよ。とはいえ、フレンチそのままでは面白くありません。私がつくるからには、着地は日本料理でなければね。近ごろ、昔の料理本を読むのが楽しくて仕方ないんです。まさに「温故知新」。長く残っている料理は、私が手を加えたところで揺らぐことはありません。基本がしっかりしているからです。変わったことはいくらでもできますが、小手先ではなく「大渡らしい料理」のなかで昔の料理から学び「深化」していきたい。「冷製鱧タージュ」には、私のそういう想いが詰まっています。 撮影 津久井珠美 文 竹中式子■祇園 大渡京都市東山区祇園町南側570-265075-551-525218:00~ (L.O.21:30) 21:30まで入店可不定休
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BLOG精進料理知新
2019.06.27
京都の料亭「木乃婦」、高橋拓児の「精進料理と技」
料亭「木乃婦」の三代目主人、高橋拓児さんは、2015年より京都料理芽生会創立60周年事業で同会が取り組んだ「精進料理の世界へ」をメンバーともに推進してきました。現在も自身の店で、お客さんの要望に応えるかたちで精進料理に取り組んでいます。高橋さん自身が考える精進料理とは?その進化や精進料理への思いはいかに?というテーマで5回にわたって、語っていただきます。※「京都料理芽生会」/日本料理の発展と、伝統と格式のある京都の食文化を次世代へ継承するために1955年に設立。京の料亭の若主人たちが研鑽・研究を行い、様々な挑戦を行っている。私たちプロの料理人が精進料理に取り組むとき、やはり当然、玄人としての仕事、お寺の典座さんとはちがう仕事をすると思うのです。典座さんはあくまで禅の修行が主眼ですから、私たちとは立ち位置がちがいますよね。 で、私が最初に考えたのは、やはり味のことです。玄人が作るだけの味、おいしさを忘れてはあかんのとちがうかなと思ったわけです。 そのキーワードはやはり「旨味」なんです。和食の基本のキは、鰹と昆布のおだしですよね。その両輪があって初めて、和食独自のあの「旨味」が生まれるんです。でも精進料理ではその片方の輪の鰹が使えないんですよ(笑)。最初の頃は、大豆を燻製させたとか、旨味を引き出すには?と随分、悩みましたね。いろいろなことを試行錯誤したのですが、昆布だしの引き方を工夫することで、しっかりとした旨味を引き出す方法に落ちつくことができました。 普通、昆布だしは65度の温度帯で引くのが一般的なんです。でもそれを58度まで下げると、甘みが出てくるんです。甘みは旨味っていいますよね。 58度のお湯でおよそ1時間半ぐらいかな。ぬめりが出て、多粘糖類が出やすくなって甘みがより引き出せるんです。 粘りが出るということは味わい、旨味の余韻が長くなるんです。口の中で旨味と甘みの余韻が程よく続いて、それによって鰹でしか出せない旨味をうまく違う美味しさに変換できるようになったんです。 あとは小芋を炊くときには大豆の香味を少し加えるとか、青ものを炊くときやったら、青ものの食べられないところを乾燥させたものを、炊き上がりのときにちょっと入れるとかね。大根の葉っぱを乾燥させたものを風味付けに使ったりするんです。なんのためにそういう手間をかけるのか?というと、私が一番意識したのは「風味の強化」なんです。香りと味わいの強化。本来のおいしさを引き出しつつ、風味の強化をすることで、昆布だしのみで調理する単調さをカバーしようと考えたんです。 精進料理のご注文をあえて私らたち料理人に頼んでくれはる、じゃあ、そこで玄人のスキルをどう生かせるか?ということなんです。私たちはお寺さんと比べると料理の技術力は格段に高いです。何故ならそれしか日頃やってませんから。笑 実際、それ以外はからっきしダメで偏った人間す。ですから、私たちにしかできない技術を全面に出すことに重きをおいてます。 その一つが包丁のキレです。たとえば、かぶらを炊くときに、かぶらの断面が全面がぴかぴかになるように私たちは切れるんですね。面取りの技術ですよね。 そういうふうに切ったものを大根の含め煮なんかにしますと、味がよく染みて、柔らかくて、そして食感がものすごくいいんですよ。最後の最後にね、食感ってやっぱり大切な要素なんです。 それから見た目。面取りしてスカッと切られたかぶらがね、いい感じで炊かれて、塗りの器にピシッと盛り付けられている。もう、ほんまに綺麗やと思います。おいしさと見た目のすっきりとした美しさ、風味、食べやすさ、食感、そして余韻。私たち料理人にとって、精進料理と一般のお料理の技術についてはそんなに違いはないと思います。しかし、何のために生きるのか、何故食べなくてはいけないのかということを頭に入れながら料理を作るときは、確実に料理人は素人になり、お寺さんが玄人になります。この素人と玄人を同時に兼ね備えることが大変重要だと思います。 次回は精進料理の発信、とくに海外へどう発信していくのか?その辺りをもう少し詳しく、お話したいと思います。 ■ 木乃婦京都市下京区新町通り仏光寺下ル岩戸山町416075-352-000112:00~14:30(L.O.13:00)、18:00~21:30(L.O.19:00)定休日 水曜
高橋拓児
「木乃婦」3代目主人
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BLOG美人&イケメンスイーツ
2019.06.21
『ZEN CAFE』の「上生菓子 コーヒーとセット」
推薦人:八木隆裕さん(開花堂 代表取締役社長)「甘いもん食べたいな~、と純粋に思ったら、迷わずZEN CAFEさんの上生菓子とコーヒーのセットを注文します」 茶筒「開花堂」6代目の八木隆裕さん。その茶筒はイギリスのヴィクトリア&アルバート博物館にも所蔵されている。そんな八木さんは、奥様との買い物の合間や、ひとりでもふらりとZEN CAFEに立ち寄るという。 祇園南の静かな路地の一角の、モダンなビルの1階。その奥にZEN CAFEはひっそりと、大人の時間を提供している。「ZEN CAFEは、友人である老舗和菓子店『鍵善良房』の14代当主、今西善也さんが2012年にオープンされました。"大人がゆっくり、有意義に過ごせるカフェを"というテーマが込められたこちらでは、上生菓子やくずもちなど手づくりの和菓子と、和菓子の味を引き立てるお茶をいただけます」和カフェかと思いきや、店内には北欧テイストの洗練されたインテリアが品よく配置され、穏やかな空気が流れている。「ケヤキの1枚板が見事なカウンター席も素敵ですが、ひとりでうかがうと、半個室になっているひとり掛けの席で書類を読んですごすこともあります」「ミーティングでは奥の個室を使用させていただくことも。いろいろなスタイルに合わせて利用できるのがありがたいですね」多様な使い方をするなかで、八木さんが注文するのが、上生菓子とコーヒーのセット(税別1200円)だ。 「こちらの上生菓子は、きちんとしていながら、口にするとゆったりした心地にもさせてくれるんです。その場で食べられる上生菓子の美味しさは格別です」 ZEN CAFEの上生菓子は1カ月に1種類で、毎月変わってゆく。本店とは材料をともにしながらも、見せ方が違うと店長の藤澤知也さんは言う。 「本店では400年の歴史ある重厚感を、カフェでは軽やかさを意識しています。たとえばきんとんは、本店では大胆に、こちらではきめ細かく可愛らしさを演出するなどの違いがあるんです」(藤澤さん)6月中旬~7月の上生菓子は、くずままんじゅう「朱夏」。涼しげな吉野の本くずの中に、ピンクの練り切り、そして中心には白こしあんが。くずから透けて見えるピンク色が、なんとも奥ゆかしく可愛らしい。くずはフルフルと絶妙な弾力で、上品な甘さのこしあんとともにとろけて、口いっぱいに広がってゆく。 「カフェでは備中の白あんを積極的に使っています。白あんはとても風味がよいので、その魅力をみなさんに知っていただきたくて。冬には白小豆のおぜんざいもお出ししています。白いおぜんざいはインパクトがありますよ(笑)」(藤澤さん)「上生菓子の飲み物のセットでは、煎茶やほうじ茶、紅茶なども選べるんですけど、私はいつもコーヒーです。ZEN CAFEさんは中川ワニ珈琲さんの豆を使ってらっしゃいます。これが上生菓子にとてもよくあうスッキリ感なんです」(八木さん) コーヒーは、和菓子に合うようにオリジナルブレンドを焙煎。「美味しいお菓子のなかに、よい飲み物を」という気持ちがこもっている。「お菓子も空間も素敵ですが、さらに素敵なのは、お店の方がいつも"ありがとうございます"と、とても丁寧に声をかけてくださるところです。何気ない日々の言葉の大切さに気付かされます。自分の、その時々のどんな気持でも受け入れてもらえる雰囲気があります」(八木さん) 「入り口から少し通路を歩いてから店内にたどり着くので、少々入りづらい雰囲気があると思います。でも入ってさえいただければ、アットホームな空気を感じていただけるかと。丁寧過ぎず、ほどよい距離感でお客様に接することを心がけています」(藤澤さん)「お客様に楽しんでいただきたい」と飾られた、生け花や絵画、彫刻など若手作家から年代物の作品を、お菓子をいただきながら見るのも至福のひと時だ。写真はNHK大河ドラマ「いだてん」のオープニングの絵を描いた山口晃氏の作品。 彫刻家・樂 雅臣氏の「輪廻転生」が、メインフロアのなかで凛とした存在感を放つ。 「私は甘いものが好きなので、どんな時でもスイーツはウェルカムです(笑)。でも気持ちを切り替えたいときに、口にすることが多いかもしれません。そういう時には上品な味のするものがいいんですよね。ZEN CAFEさんは、そうした私の甘い物への気持ちを見事に満たしてくれる、懐の深い場所です」(八木さん) 撮影 津久井珠美 文 竹中式子■ZEN CAFE京都市東山区祇園町南側570-210075-533-868611:00~18:00休 月曜https://www.kagizen.co.jp/
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