食知新ブログ
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BLOG割烹知新〜奇想の一皿〜
2019.07.31
ごだん宮ざわ「鰻のフライ自家製ソース」
奇想の一皿「鰻フライ自家製ソース」鰻のフライに和のウスターソースを添えて「茶懐石」に基づく簡素だが心をくだいた料理で知られる「ごだん宮ざわ」。京都の名料亭などで腕を磨き、2007年「じき宮ざわ」、2014年「ごだん宮ざわ」と、店づくりや料理の幅を広げてきた宮澤さんの料理には定評があります。発想秘話この料理はまさに「ご縁とタイミング」でできあがりました。1年ほど前だったと思いますが、大分の由布院に行く機会があり、そこで知人から紹介されたのが鰻の生産者横山佳一さんでした。横山さんは、15年に亘って鰻をオーガニックで育てておられ、その鰻は天然とも一般の養殖ものとも一線を画す、独特の鰻でした。もっちりとした皮、ふっくらとした身。こんな鰻は初めてでした。 その日の夕食に、たまたま由布院の旅館でいただいたのが「活け鮑のフライ」で、添えられたウスターソースとの相性が抜群だった。そこで、ピンときたのが、「横山さんの鰻をフライにしてはどうだろう」ということでした。鰻は白焼きや蒲焼で食べるか、和食なら煮鰻にするのが一般的ですが、皮がしっかりとして旨味も濃い横山さんの鰻ならフライが合うのではないかと思ったんです。いったん、炭火で白焼きにした鰻に刷毛で小麦粉をつけ、卵、細かく砕いたパン粉の順でつけて、揚げてみることにしました。揚げたての鰻は、思ったようにふっくら感もあり、皮がもちもち。鰻の香りや味は損なわれていません。一口大に切って器に盛ると、姿も美しい。後は、どんなソースで召し上がっていただくかでした。濃厚な鰻フライをさらっと食べられる味。醤油やウスターソースでは味が濃すぎて鰻の味を損ねてしまうかもしれない。もう少し優しく複雑味のあるもの。それも和食の感性が生きたソースをつくれないかと思いました。ウスターソースを自分でつくれないか。そう思って、リンゴ、トマト、玉ねぎ、にんじんなど野菜に、生姜、山椒、丁子といった香味を加えて煮込む。けれど、よくあるウスターソースのような濃い色にならない。そう簡単にはできないかと、あきらめかけました。ところが、味をみてみると、香りはウスターソースに近く味はよりマイルド。濃すぎない和のウスターソースともいえるものになっていたんです。さっそく、鰻フライをつけて食べてみると、爽やかな酸味とほのかな甘みが広がります。独特の香味もあって、それがアクセントになる。ひょっとしたら、これまでにないソースができたのではと、自分で思ったほどです(笑)。「自分がよしと思う料理屋にしか鰻は卸さない」とおっしゃっていた横山さんともお話してオーガニック鰻を仕入れさせていただくことになり、「鰻フライ」を、お客様にお出しできるようになりました。何度も試作を重ねたソースは、お客様から「もって帰りたい」と言っていただくように。大分でのさまざまな出合いから約1年、このウスターソースを「薄垂惣酢」として販売させていただくことになりました。勉強も大切だが「経験こそ宝だ」と私はよく店のスタッフたちに話しています。この鰻料理やソースは、自分が行動し、いろんな方にお会いできたから生まれたものだと思っています。あのとき大分に行っていなかったら。横山さんの鰻や美味しいフライに出会っていなかったら。「美味しいものを食べてほしい」という生産者さんや料理人さんの想いに後押しされ、この料理を発想することができた。「縁は大切」を、改めて身をもって知りました。撮影 竹中稔彦■ ごだん宮ざわ(ごだん みやざわ)京都市下京区東洞院通万寿寺上ル大江町557075-708-636412時~、18時~不定休鰻フライの入るコースは18,000円~「薄垂惣酢」2500円(税別、箱代500円)
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BLOG外国人料理人奮闘記
2019.07.31
タイ人料理人 ソンタヤ―・マークジャルーンさんの「忍耐と勤勉」
ただただ仕事をしていたタイ時代タイの漁港で生まれ育ちました。父は漁師で、物心ついたときには、もう父の手伝いをしていました。9歳ぐらいだったでしょうか。その後、15歳くらいからは兄とともに鉄工所で働いたこともあります。料理人の道に進んだのは結婚がきっかけでした。妻の兄がホテルで働いていて、そこのレストランで働かないかと誘ってくれたんです。イタリアンもタイ料理もいろいろと経験させてもらいました。ただ、タイでは料理人として精一杯働いても給料は上がりません。けれど、海外でならいいお給料をもらえる。どうせ料理人として働くならと、10年間タイ料理店で働いて海外での在留資格を取得し、オーストラリアのタイ料理店に勤めました。そんなとき、知人から声をかけてもらい、日本に来ることになったんです。どうしても日本に来たかったというよりは、ある意味よりいい環境を求めた「出稼ぎ」でした。家族を養い、いつか自分の店を持つためにお金を貯めるには、今も海外で働くのが一番なんです。三宮から京都「パクチー」へ最初は三宮のタイ料理店で働いていましたが、先輩から京都で料理人を探していると聞いて受けることにしました。ちょうど三宮の店の閉店が決まっていたこともあったし、日本で働くなら京都には行ってみたいと思っていました。紹介されて来た「パクチー」は、まるでバンコクの下町のような雰囲気でした。店のなかに屋台が置かれているし、食材なども極力タイのものを使っている。オーナーの菊岡さん夫妻は、タイが大好きで理解があります。奥さんの美紀さんはタイ語が上手なのでコミュニケーションもとれ、社長が次々と新しいことに挑戦するのも面白い。どんなことも僕に相談してくれるから、どんどん距離が縮まる。2014年に勤め始めて5年。あっという間でした。ここでちょっと「パクチー」について「パクチー」は、2009年8月にオープンしたタイ料理店。旅行好きの菊岡信義さん、美紀さん夫妻が経営しています。美紀さんがバンコク留学して、そこでであった料理にひかれ、帰国後大阪のタイ料理店などに勤めた後、京都で「パクチー」を開店。できる限り、タイの食堂のような店にしたい、学生さんでも通えるような安価な店にしたいと思ったそうです。菊岡夫妻が飲食店を始めようと思ったのには理由があります。「日本人は自由に世界中を旅できる豊かな国です。でも世界には食べるにも困る貧しい村がたくさんあります。おこがましいかもしれませんが、そんな村の子供たちを支援したいと思ったんです」と美紀さん。二人は、教育を受けられないアジアの村に学校を建てたいと思い、お金を稼ごうと思ったそうです。2009年からおよそ10年。これまでにラオスの村に2校、小学校を建てています。この間、「パクチー」は、三条店、四条店と店舗を増やしました。 二人の目標は店を大きくすることよりも海外支援。「私たちには子供がいないから、その分貧しい国の子供達を育てることに力を注ぎたい」と言います。そんな「パクチー」でソンタヤ―さんは京都の人たちは本当に優しいんです。さっきも学生さんが、わざわざケータイで検索して「美味しかった。また来ます!」とタイ語で言ってくれました。お金はもちろん大切ですが、僕がここで長く働くのはそれだけじゃない。どんどん京都が好きになっています。川や山が近くて、お寺もある。休みの日は、自転車でお寺をめぐっています。一番嬉しかったのは、2週間の休暇をもらったときに家族を京都へ呼べたこと。着物を着てお寺巡りをしたり、日本料理を食べたり。家族も大はしゃぎでした。離れて暮らしていますが、今はケータイで顔を見ながら話もできる。だからさみしいと思ったことはないんです。店の料理はもちろん本格派の味わい店の料理ですか? 僕がつくるんですから、もちろんタイそのものの味です。食材や調味料が違うから、多少風味は違うかもしれないけれど、調理法などは一切変えていません。写真の「ガパオライス」を食べてみてください。タイのバジル「ガパオ」で豚と鶏のミンチを炒め、タイ米の上にかけたもの。ピリ辛ですが、目玉焼きをくずして食べるとまろやかになります。タイ人のソールフード的な料理ですね。新たな味にも挑戦しています!嬉しいことはほかにもあります。この店に来て、ベトナム料理を学べたことです。店でタイ料理だけでなくベトナム料理も出すことになり、ベトナム料理に詳しい社長から米粉の汁麺・フォーや汁なし混ぜご飯・ブンなど定番のベトナム料理を教えてもらったんです。材料やだしのとりかたなんかも違うので、勉強になりました。これは、タイに帰ってからも使えるなって思ってます(笑)夢はタイでお店を開くこといつかは、タイに帰って家族と一緒に食堂を開きたいと思っています。ただ今は、ここがほんとうに居心地よくて楽しくて。まだまだ勉強することもたくさんあるので、もう少しは日本に居たいと思っています。好きな言葉は「忍耐と勤勉」。忍耐というと我慢して何かをやっている感じがするかもしれませんが、僕にとっては違うんです。日本に来て学んだことです。どんなこともコツコツと毎日まじめに続けていけば、必ず身につく。日本人はほんとうにみんな真面目で一所懸命。菊岡夫妻は、自分のためだけじゃなく誰か他の人のために頑張る。その姿を見ていたら、そうでなければ何かをやり遂げられないと思うようになりました。忍耐の本来の意味がわかるようになったときが、国に帰って店を開くときかもしれません。■ タイキッチン パクチー丸太町京都市上京区河原町通丸太町上る桝屋町374番地ローレックス田村1F075-241-089211:30~14:30(14:00L.O)、18:00~22:00(21:30L.O)※ディナータイムは予約可能(土曜・日曜・祝日 ディナー17:00~)不定休
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BLOG精進料理知新
2019.07.30
京都の料亭「木乃婦」、高橋拓児の「海を越える精進料理」
料亭「木乃婦」の三代目主人、高橋拓児さんは、2015年より京都料理芽生会創立60周年事業で同会が取り組んだ「精進料理の世界へ」をメンバーともに推進してきました。現在も自身の店で、お客さんの要望に応えるかたちで精進料理に取り組んでいます。高橋さん自身が考える精進料理とは?その進化や精進料理への思いはいかに?というテーマで5回にわたって、語っていただきます。 ※「京都料理芽生会」/日本料理の発展と、伝統と格式のある京都の食文化を次世代へ継承するために1955年に設立。京の料亭の若主人たちが研鑽・研究を行い、様々な挑戦を行っている。SHOUJINから回心へ 私の店でも、精進料理のコースの予約は年々、増えています。厳密な意味での精進料理というよりは、ヴィーガンの方や、ハラル食を希望される方などに精進料理の考え方で対応すると、問題なく、食事を楽しんでいただけるんです。 1日1組は最低、そういったご要望があるものですから、厨房では、前回お話しした独自で引いた濃厚な昆布だしや、卵を抜いた玉味噌のストックは欠かせません。 ただ、今、お話していることは、食材、つまり"かたち"のことだけなんですね。そこに精進料理の精神性までは伝えられていないと思うんです。 野菜だけを使う、肉や魚を使わない。そういう捉え方で、「なんとなくSHOUJIN」という感じは、海外のお客様に伝わっているとは思うのですが...。でもそれは、SUSHIやTEMPURAとして伝わっている日本料理の段階とそう変わりはないのとちがうかなと感じています。 私自身、ここ何年か、精進料理に取り組んできて、やはり、その背景にある禅、仏教のことについて自分自身がよくわかっていないことを痛感していて、少しずつですが、禅や仏教のことを知ろうとしているんです。 仏教に「回心」という言葉がありますが、これは「知」と「情」を掛け合わせたものといわれています。 「知」は主観的なもの。形式を知ってはいるけれど、知っているだけというあくまで主観的なものを指します。 「情」は客観性があるもので、人間の叡智によって論理的にストーリーを描けること指します。 この「回心」の「知」と「情」を料理に生かすことが、精進料理に関わる際に非常に大切なことではないかと、私は考えています。「美味しい」と感じることの、その背景に潜むもの。どういう素材で誰がどう考えて料理したのか。それをどうやって伝えていくのか。ここに「回心」が深く関わっていくはずです。「置き換える」ことの大切さに気づく 「なんとなくSHOUJIN」は、まず、そこかスタートすればいいと思うんです。でも、そのレベルを少しずつ上げていって、最後どこを目指すのか?というと、これはもう典座の境地に至るということなんですね。 作る方だけでなく、食べる人自身が、精進料理を「典座」の気持ちで理解できるようになって、「知」と「情」が掛け合わされるんです。 たとえば、海外の人が、自分の国で真剣に、本格的に湯葉をつくりはじめるような(笑)感じでしょうか。まあ、そういうことが一つでも起こって、はじめて、「SHOUJIN」が「精進料理」として海外に伝わったといえるのではないでしょうか。 では、店で料理をお出しする立場としてはどうか。 一度、召し上がっていただけでは、もちろん、そこまで到達できませんから、リピートしてくれたお客様には、2回目には少し、典座のことをお話ししてみる、3回目になったら禅寺を紹介して座禅を体験してもらい、その上で、精進料理を召し上がっていただく。そんなことをおそらく何十年もかけないと、「伝える」ことは無理でしょうね。もしかしすると我々の次世代でようやく実現するかもしれません。でもね、今、確かに精進料理は、海を超えていきつつありますよ。それは日々、実感しています。どんな人も共に食事を。ピースフルな食、精進料理 こちらが「伝えようとすること」をやめなければ、相手も、何かきっと、ほんの少しの「気づき」や「腑に落ちる」といった体験ができると思うんです。霊的な体験というと驚かれるかもしれませんが、私自身、精進料理に取り組むうちに、ふと「あ、そうだったんや!」という、天啓のような気づきが何度かありました。 困った時にいつもするのが「典座の仕事を自分の仕事に置き換えてみる」ということ。これは日々のくせみたいなものになってしまいました(笑)。 でも、この、いったん「置き換える」という段階を入れることで、八方ふさがりと思っていたのにすっと抜け出せたり、思わぬヒントに出会えたり...。ほんの少しだけ、典座の境地に近づいているのかな。でもそんなことを考えているうちは、あかんのですけどね(笑) 大使館のレセプションで料理をさせていただく時など、いろいろな国の人、いろいろな宗教の人が同じ食卓につくということがあるんですね。以前でしたら、あれもダメ、これもだめ、あちらを立てれば、こちらが立たずで、頭を抱えていたと思うんです(笑)。 でも、精進料理の考え方で取り組むと、これがとてもうまくいくんですね。ムスリムの方もヒンドゥーの方も、ヴィーガンの方も、どんな人がいても共に食事ができる。これって、じつにピースフルですよね。これはほんまに素晴らしいことやと思います。 混沌としたこの時代、グローバリゼーションも行き着くところまでいった感がありますが、精進料理はもしかするとその突破口になるかもしれません。 次回は最終回となりますが、精進料理の可能性についてお話ししたいと思います。取材・文 郡 麻江■ 木乃婦京都市下京区新町通り仏光寺下ル岩戸山町416075-352-000112:00~14:30(L.O.13:00)、18:00~21:30(L.O.19:00)定休日 水曜
高橋拓児
「木乃婦」3代目主人
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BLOG京都グルメタクシー
2019.07.29
おいしい京都案内 | ここでしか食べられない名物メニューがあるお店
7月といえば祇園祭りですね。祇園祭りの山鉾巡行は17日と24日にありまして、7月に入るとあちこちで盛んに囃子手の音が聞こえてきます。「グルメタクシーさん、祇園祭りはタクシーの貸し切りでお忙しいのですよね!」とおっしゃる方は多いのですが、実は私自身が祭りに参加して「曳き手」を担っており、お仕事はお休みしています。私が参加する後祭り(7月24日)の巡行は朝7時から昼3時ごろまで。写真の南観音山の綱をもって練り歩き、新町通り→御池通り→河原町通り→四条通り→新町通りという順で、出発点に戻ります。すでに17年連続で参加させていただいており、このご縁で妻と出会うなど、いろいろな思い出があります。「疫病の被害を止めたい」「怨霊を鎮めたい」という願いのもと、始まった神聖な祭りごとです。これからも世界が平和で、皆さんが健康であられますことを願って参加したいと思っております。「京都知新」サイトをご覧の皆様だけに、「山鉾巡行のベストスポット」をご紹介いたします。観光客が多い河原町御池と四条河原町の交差点では「辻回し」という山鉾が90度転回する場所があります。ここは有数のカメラスポットですが、早朝からアマチュアカメラマンさんなどが場所取りされ、彼らに占領されてしまいます。早朝の御池新町、室町、烏丸通り交差点付近は比較的見学者も少ないベストスポット。歩道も広いのでゆったり辻回しを見ることができます。また最初の転回地点で威勢のいい曳き手の様子をご覧いただけます。前後の隊列を組みなおすために鉾と山が順番交代するので、その作業もこの界隈でゆっくりみることができます。あとは室町通り、新町通りの間を抜ける帰りの道程ですね。狭い問屋街を四条通から入ってくる山鉾を町内で歓迎する時は、ナポレオンの凱旋帰国パレードのような拍手に迎えられます。最後に三本締めで終了。この光景はぜひ動画でも撮っていただきたいですね。 こんにちは!京都グルメタクシーの岩間です。車に乗るだけで、あなたにとっての「おいしい京都」をご案内いたします。今日は夏の暑さも吹き飛びそうな「この店にしかないグルメ」を2軒ご紹介いたします! 一軒目は「祇園祭り」つながりのお店です。「油天神山」「太子山」から歩いて10分程度、堀川通りをこえた猪熊通りに面している「京彩和食こばやし」をご紹介いたします。山鉾見学の前後にちょうど立ち寄れる立地がうれしいですね。 辻調理師専門学校は私の母校ですが、現役の教授から「京都に料理学校の元先生がやっておられるおいしいお店がある」とお聞きしました。同じ学校でも知らない先生がやっておられるのかなって思っていたら、とんでもなく身近な先生でした。 昼ご飯は 1050円からで、3000円のコースは要予約。今回いただいたのは1670円のコース。値段はかなりリーズナブルです。夜はちなみに3900円から10000円まであります。本日は1670円のコースをご紹介します。小鉢 あつあげとうるい ごまだれ小鉢 きんぴら ごぼう 九条葱 穴子押寿司大皿 卵焼き(海老) スモーク新じゃがいも+山葵クリームチーズはじかみ 生麩 蛍烏賊 アスパラの生ハム巻き 桜餅造り 鯛の昆布締め 野菜 かいわれ 茗荷煮物 筍 鰆 蕗 京都の旬の盛り合わせ。いいとこ取りでしょうか。非常にバランス良く構成されています。料理学校だけでなく京都の有名料亭にもおられたので、その経験がしっかり生かされたお料理、目でも楽しめます。 「うるい」というこの時季(5月)の食材も使われるなど、低価格にも関わらず季節感も盛り込まれています。 桜餅を添えるなど、美しく飾り付ける技が冴えています。 さて、「このお店にしかないグルメ」はここまでの写真の中にありますが、わかりますか? 「特製穴子の押寿司」 これなのです。穴子と鮨飯の間に挟まれているのが、「クリームチーズ+奈良漬け」という奇抜すぎる具材。これを隠し味にするお店はほかにあったかどうか。穴子寿司は一般的なものですが、クリームチーズを加えることで、ぐんと味わいが変わります。店主は、「試行錯誤の末、この味に到達した」とおっしゃいますが、なかなか普通ではたどり着かない組み合わせでしょう。 味わいは、通常の穴子寿司より濃厚。チーズがはいっていることは最初は感じられませんでした。けれど、噛みしめるうち、追うようにチーズの風味がやってきて奈良漬けの酸味もほのかに感じ取れます。奈良漬けは、後味をすっきりさせるためのアイテムかもしれませんね。クリーズチーズは穴子のさっぱりした味に旨味を持たせる効果があったのではないか?と後で感じました。店主は「チーズ抜いてくださいと言われてもお断りします」と頑なで、気合いがはいっているなあと思いました。 ととろ昆布 うめぼし すだちの小うどん 抹茶アイス 今年で8年、9年目に入ったそうです。29年ぶりに店主の児林料理長とはお会いしましたが、当時の印象そのままで、ご夫婦でがんばっておられます。料理人の経歴は料理にあらわれると私は思います。料理学校で培われた研究心があの穴子押寿司を誕生させたのだと思いました。次は夜に伺います! 落ち着いた空間で、ほんと、ほっこりできました♪ さてもう一軒のお店は伏見にあります。祇園祭の中心地、京阪祇園四条駅から藤森駅へ。今年5月にOPENした新店をご紹介いたします!「チャイナ・テーブル エソラ」は親しくしていただいているイタリアンの料理長から紹介されたお店です。店主の山内さんは、祇園の有名中華料理店で腕を磨き、各所で修行を重ねた料理人です。人気フランス料理店の「epice(エピス)」を修業の場として選んだことで、料理を「オリジナルグルメ」に昇華させました。●山内料理長経歴19才、赤坂維新號の京都店點心茶室で修行開始27才、際コーポレーション祇園新橋月居(現白碗竹快樓)29才、高島屋内、香港私菜リパルスベイ料理長35才、レストランエピス最終 點心茶室に復帰5月esora開業。 京阪藤森駅の近くの閑静な住宅街の一角で、すこし入り組んでいるわかりにくいところです。周辺に有料駐車場はたくさんあります。玄関の赤い掲示板が目印ですね。 ランチはこの4種類ですが、C以外は定番です。中でも特徴ある料理が「Aの金華豚の焼き酢豚」です。「え? 「焼き」が入るのですか?」 と聞いてみたくなりますね。それとパンとポタージュ? 「これはフランス料理じゃないですか」とちょっとワクワクしてきますよね。 とりあえず、気になる「焼き酢豚」のランチメニューをお願いしてみましょう!小さな前菜三種ミニトマトの白ワイン漬け スモークサーモン椒麻(ジャオマー)ソース自家製チャーシュー 白ワイン漬けのトマトは、アルコールは抜かれているものの、ワインの風味はしっかり残っています。和え物、チャーシューも塩気があり、ちょっとしたおつまみになります。 広東焼売 海老焼売 海老焼売は「ぷりっぷり」という表現がぴったり。広東焼売のほうは、具材の旨味がしっかりでています。どちらも丁寧につくられています。 新ジャガイモのポタージュ クリーム感よりも、理想的な澄みきった味です。中華の領域ですが、フランス料理のビシソワーズに通じる上品さを感じます。舌触りはなめらかそのもの。提供する温度を考え抜いた塩気の調節も見事です。 パンがでてきます。ここがフランス料理っぽいところで、コースの随所にその特徴を垣間見ることができます。 金貨豚の焼き酢豚 その「焼き」とは? 酢豚?これがすぶた?という感じですね。店主曰く「焼き野菜と焼き肉です!」「新酢豚とおもってください」と少々苦笑い。中華を学んだあと焼くことへの興味が増し、フレンチにすすまれたそうです。洋食の技術も会得したかったのでしょう。その成果が、しっかりこのメイン料理にでています。ソースは黒酢ベースになっていて、すくってつけてはじめて「酢豚」だと感じました。この豚だけでも、十分ほどよい塩気があり、美味しくいただけます。こういうハイブリッドなテクニックが、伝統ある風味との相乗効果を生み、新たな味をつくりあげます。古き良き味と新しきテクニック、そして中華とフレンチの融合は見た目も味も変化させるのです♪ 肉汁がしっかり中にとじこめられ、食べるとジューシーさが広がります。すこしロゼを帯びた色めを生むこの火入れから、フレンチの技がわかります。料理人の経歴が、そのまま表現されたすばらしい料理ですね。 料理の盛り付けも放射状でフランス料理的、付け合わせは季節野菜です。 お茶も上質で自然の甘味があります。 この後は、ランチコースメニューのなかから料理を抜粋してご紹介いたします。 「麻婆豆腐(平日限定)」 950円もっとも安いコースです、平日限定。この麻婆豆腐がマイルドな辛みなのです。 彩りサラダ 新鮮野菜の持ち味がいかせるように軽い味付けで仕上げています。 どちらかというとラー油などのソースは少なめ、その分具材に味わいがしみこんでいて豆腐を包み込むような濃度です。辛めですが味わいはマイルド。人によってはご飯をお代わしてしまうからさ。けれど、辛党の私にとっては、これでも中辛程度。山椒の辛さも爽快です。まさに「ごはんがすすむ」味。どこかの佃煮のようですが、この言葉がばっちり合う塩梅に仕上がっています。 「手作り点心の飲茶」1500円こちらも興味深いランチメニューです。写真は点心だけご紹介いたします。 海鮮春巻きと揚げ大根餅 さくさく感ともっちり感の代表格。その特徴をしっかり保っている想像通りのおいしさです。とくに大根餅は触感が優れています。もっちりした歯ごたえはあるものの、口の中で溶け出し、するっとのどを通ります。淡い塩味の妙技です。 焼き餃子生駒エソラ風肉汁をしっかり含んでいて、生地には潤いがあります。焦げた表面の香ばしさが特徴。 この日は文山包種茶(ぶんさんほうしゅちゃ)というお茶をいただきまいた。飲茶スタイルのこのコースは、さらに「蒸し点心」「雑穀粥」「彩りサラダ」もついています。 そして最後に「もう一つのお楽しみ」、デザートです。追加300円で珈琲などの飲み物とデザートがつきますので、ぜひそちらも追加で頼んでみてください。 杏仁豆腐 (+300円追加で飲み物も含まれます) マンゴープリン (こちらも杏仁豆腐と同様の料金) 昨今、麻婆豆腐は寒天交じりの味のうすいタイプも増えましたが、ここのものは濃厚。マンゴープリンも試行錯誤して改良され、先日伺った時は店主自慢の作品になっていました。「マンゴーの酸味」をコントロールできる食材選びや技法が確立したという、完成度の高い味をぜひ試してみてくださいね。 店主の山内さんは子育てもがんばっておられるイクメン。私が乳児含め子供3人を連れて家族5人で訪問したときは、ベビーカーもいれてくれました。一流の味を家族で気持ちよくいただけるお店です。 本日の「この店にしかないグルメ」特集はいかがだったでしょうか!毎日いろいろなお店で食べ歩いていると不思議な料理に出会い、ここだけしかない!お菓子を発見するなど、様々なサプライズがあります。奇抜だけではない、それぞれの由来をひきだすなど、良質なグルメをこれからもご紹介したいと思っております。どうぞ次回も楽しみにまっていてくださいね!それでは、皆様!!よろしかな~!よ~いとせぇ!え~んやらや~!お~!※南観音山の曳き手への掛け声と相づち「よろしいですか!それでは、いきますよ~!はい!」の意味※価格は取材当時のもの■京彩和食こばやし京都府京都市下京区猪熊通り四条下る松本町283 075-201-7722 11:30~14:00、17:00~21:30定休日水曜日(月に1回不定休あり)2011年6月5日開店■チャイナ・テーブル エソラ京都市伏見区深草西浦町5丁目38 マリンハイツ1F 075-606-177111:30~15:00(LO14:00)、17:30~22:00(LO21:00) 定休日不定休(いまのところ設定されてません)駐車場なし 近くに多数有料Pあり2019年5月開店持ち帰り 唐揚げ5個 500円(税込み)、油淋鶏丼 600円(税込み)
岩間孝志
京都グルメタクシー
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BLOG美人&イケメンスイーツ
2019.07.24
『大極殿本舗 六角店 栖園』の「琥珀流し」
推薦人:北山ますみさん2019年にオープンするスモールラグジュアリーホテル「東山 四季花木」のオーナー。インテリアデザイナーとしての経験を生かし、女性が心地よく滞在できるホテルづくりを実現する。きらり透き通るような夏の甘味が涼を呼ぶ大極殿本舗 六角店 栖園六角通に建つ風情ある京菓子の店、「大極殿本舗 六角店」。真っ白な暖簾が清々しく出迎えてくれるこの店は1885年創業。カステラ「春庭羅」をはじめ、四季折々の創意溢れるお菓子を作り続けています。 この建物は築約140年の町家。奥には甘味処「栖園」を設けてあり、季節の和スイーツを楽しむことができます。どっしりと風格ある「大極殿本舗 六角店」の外観。軒下に掛けられた小さな白い暖簾は夏だけのもの。これが掛かると夏の訪れはすぐそこまで来ていることがわかります。 中でもこちらの人気の名物スイーツが「琥珀流し」。糸寒天を使って、柔らかくつるんとした喉越しに仕立てた琥珀寒天に、自家製の蜜をかけていただくもので、自家製の蜜が月ごとに変わります。 4月の桜をはじめ、6月の梅酒、7月のペパーミント、8月のひやしあめ、9月のぶどうなど、毎月、これを楽しみに訪れるリピーターも多いのだそう。「六角店ができた時に、何かオリジナルの味をということで"琥珀流し"を考案しました。寒天のお菓子はあんみつなど、少し硬めの仕上がりが多いのですが、柔こうて、でもつるんと喉越しの良い寒天菓子を作りたくて...。なんども試作してこの味が出来上がったんです。お店に出したのが4月でしたので、桜の塩漬けの花びらを散らしたら、見た目も綺麗で、桜の香りとほんの少し感じる塩味が蜜とよくあって大好評で...。桜が終わってからどうしようといろいろ考えるうちに、月替わりの蜜でお出しすることになったんです」と、四代目主人の奥様の芝田泰代さん。 ガラスの器に盛られた琥珀流しは、ぷるぷる揺れるように柔らかで、時折木らっと輝いてとても綺麗。取材時は梅の蜜がかかっていましたが、梅の芳香と甘ずっぱさが爽やかな余韻を感じさせて、梅雨のじめっとした空気が、さらりと変わって、軽やかに感じることができます。透き通るような美しい寒天と季節の自家製の蜜だけというシンプルなスイーツ。寒天の柔らかさは気温によって左右されるので、細心の心くばりでぷるん、つるんとした食感に仕上げるようにしているのだとか。シンプルだけに素材の良さと技が引き立つ一品です。690円(税込)※価格は取材当時のもの「このお店には一人で来ることが多いですね。午後から混んでくるのでお昼頃に伺って、お庭が見える席でゆっくりお菓子をお茶をいただくんです。"琥珀流し"はまず寒天の食感が素晴らしくて...。ぷるんと柔らかくて、すっと喉を通っていって、涼やかな気分になれるんです。毎月、蜜が変わるんですが、6月の梅と9月のぶどうはとくにお気に入りです」と北山さん。風情ある甘味処の室内。坪庭を眺めつつ、時を経た町家の空間で、静かな時を過ごせます。 大極殿本舗は日本製としては第一号の電気釜をお菓子作りに取り入れるなど、進取の精神に富んで、独創的でありながら京都らしい雅味あるお菓子を作り続けています。店内に残る大理石の大きな看板や螺鈿をあしらった菓子箱など、伝統ある京菓子の店として、日々、どんなことを大切にしているのでしょうか。「奇をてらうことなく、無理をせず、流行りすたりではなく、いつものうちのあの味をご提供したいと主人ともども考えています。そこに季節感を添えて、いつも"一番美味しい味"を作り続けていきたいですね。お菓子はなくても生きていけるものかもしれないですが、心に潤いを与えてくれるもの。そういう味をお届けしていきたいです」店内のあちこちにディスプレイされた夏の干菓子や、あゆのお菓子など、季節を映す美しいおもてなしに夏の到来を感じます。 ホテルのオープンを控えて多忙の日々を過ごしている北山さんにとって、ここでのひと時はとても大切なものだといいます。とくに心和むのは、変わらぬお菓子の美味しさといつも店にいる奥様の存在だそう。「ずっと変わらず店に出ておられて、微笑みを絶やすことなくおられる様子を見ているだけで、心がほっと和むんです。お勘定の時に季節のご挨拶を交わす程度なのですが、それだけで、また仕事を頑張ろう!って、思えるから不思議ですね。老舗のお菓子屋さんなのに、高ぶることなく、さりげなくおもてなしをしてくださること、奥様がいつも変わらぬ丁寧な接客をされていることなどがとても素敵だと思います。情趣ある空間もとても心地いいですね」 北山さんの言葉通り、店内にいるお客さんも、それぞれ好みの甘味をいただきながら、ゆっくりと町屋の風情を楽しんでいる様子。 心をこめて作られたものは、こちらの心にもしっかりその思いが伝わってきます。午後のひと時、丁寧に仕立てられたスイーツをいただくのはとても幸せな時間。暑い夏の京都で、ひんやり涼感溢れるスイーツをぜひ楽しんでみてください。取材・文/ 郡 麻江写真/竹中稔彦■大極殿本舗 六角店 栖園京都市中京区六角通高倉東入ル南側075-221-331110:00〜17:00、 物販は9:30〜18:30休 水曜
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BLOG料理人がオフに通う店
2019.07.17
「ryuen」―「食堂おがわ」小川真太郎さんが通う店
「食堂おがわ」小川真太郎さん《プロフィール》福岡県出身。福岡の居酒屋に勤めた後、20代前半に京都へ。仕出し店で約5年間修業を積み、その後先斗町「余志屋」、「祇園さゝ木」で腕を磨いて2009年に独立。2010年に現在の地へ移転。上質でいて手ごろ価格な料理が評判となり、最も予約の取りづらい店の1軒といわれるように。2019年7月には2号店「食堂みやざき」を開店する予定。鉄の魂を持つシェフに、憧れがつのりすぎる「ひと皿ひと皿に魂がこもっている。食べると元気になる――それがryuenさんの料理です」その口調にも熱がこもる、小川さんのあふれんばかりの熱愛店が、烏丸御池のイタリアン「ryuen」だ。オーナーシェフの竜円威人さんがこの地に店を構えたのは、2005年のこと。10年を経て、店内も外観も全面改装。テーブルもカウンターも木のぬくもりにあふれる、ナチュラルな空間となった。「33歳でオープンしてから年々、自分が変化していることを感じていました。料理への向き合い方は変わりませんが、若い頃は薄かったものが、年を経て厚くなったといいますか。進化するとともに「深化」しようと、掘り下げて考えることができるようになりました。そんななか、10年という節目に、新たにアクションを起こしたいと思ったんです。移転も考えたのですが、ここ以上の場所がなくて。そこで全面改装に踏みきりました。私は自分に正直に生きたいと思っています。だからまた10年経ったら、まったく違う形でアクションを起こすかもしれません(笑)」(竜円さん)自身の店の片づけが早めに終わった日、ゆっくり料理とワインを食べたくなった時に、小川さんはryuenを訪ねるという。「竜円さんの料理はぶれません。そしてここでしか食べることのできない唯一無二の料理。そのようにい続けられるのは、流行に流されない鉄の魂を持っていらっしゃるからです。私もそうなりたいと思って料理をしています」(小川さん)ryuenはアラカルトのみ。小川さんの定番は「熊本産 馬肉のカルパッチョ しょうがのバーニャカウダ 霜降り」(税別3000円)だ。竜円さんは馬肉の本場・熊本県まで上質な肉を探しにゆき、おばあさん2人が営んでいる小さな肉屋と巡りあった。「とろける馬肉、上質なオリーブオイル、スライスオニオン。私の好きなものしか載っていません。すりおろしたしょうがが入ったバーニャカウダソースと一緒にいただくと、ワインが進むんです」(小川さん)和の馬刺しをイメージして口にすると、イタリアンの味わいになっていることに驚く。スライスオニオンに甘い醤油、しょうがでいただくのが熊本スタイル。それをアレンジし、馬肉は見事にイタリアンへと昇華した。さらに外せないのが牛肉料理。「いつもryuenさんのメニューの中の、その時一番の牛肉を食べます。つけあわせの野菜も楽しみのひとつなんですよね。野菜は基本的に、京都吉祥院の農家・石割照久さんか、福岡県糸島のシルビオ・カラナンテさんの作る野菜、つまり農家直送のものだけを使ってらっしゃいます。野菜本来の旨みがとても濃いです」(小川さん)写真は「宮崎県産 尾崎牛 肩ロースのポワレ 生わさびのソース」(税別5900円)。絶妙な火入れ加減で、表面は香ばしく、中はふわっとやわらか。肉を食べている充実感は満点なのに、驚くほどさっぱりとしている。すりおろした山芋でトロミのついたソースが、その軽やかさの一端を担っているようだ。「私はバターやオリーブオイルはあまり使わず、和の食材をもちいて味付けすることが多いんです。ここは日本で、私も日本人。だから和の食材を使うのはとても自然なことだと思います。食材の味、水、気候は、イタリアと日本では全く違います。イタリアと同じことをしようとしても無理が出てきてしまう。日本人であると意識することが"美味しい"につながるのではないでしょうか。イタリアやフランスのワインの生産者の方もお見えになるのですが、みなさんこの日本式イタリアンを、とても喜んでくださいます」(竜円さん)オープンは深夜1時まで。小川さんのように閉店後に、お腹を満たすために訪れる料理人がたくさんいるという。竜円さんは修業時代、閉店後に訪れて「ちゃんと手をかけた食事」のできるレストランがあまりにも少ないことから、自分の店はそうありたいと1時まで店を開けることにした。「なので、私がお店を閉めた後に行けるお店は、1~2軒になってしまいました(笑)」(竜円さん)小川さんはそんなryuenならではのエピソードを話してくれた。「ある日、お店にいらっしゃるお客様すべてが、顔見知りの料理人だったことがあります。どなたかがお帰りになるたび、みんな席を立って挨拶しあって。まるで料理人サロンのようで面白かったです」(小川さん)子供のころに観た料理バトル番組「料理の鉄人」で、きびきびと美しい料理をつくり上げる料理人の姿に夢中になったという竜円さん。なかでも憧れの存在だったフレンチの三國清三シェフも、ryuenを訪れるそうだ。「さすがにその時は、私だけでなく、お店中に緊張感が走ります(笑)」(竜円さん)修業時代の常連客に教えてもらい、ryuenに通いだして10年以上。小川さんの竜円さんへの想いは年々強くなっている。「ryuenさんには友人、お客様、スタッフ、そして大事な人とうかがいます。どなたを、どんな時にお連れしても、みなさんに喜んでいただけるんです。誰と行くかはあまり決めていませんが、ひとりで行ったことはありません。憧れの店なので、恥ずかしくて(笑)。ひとりで行く勇気がないんですよ。竜円さんを愛してるんです」(小川さん)その言葉を聞いた竜円さんは「何をおっしゃっているのか(笑)」と笑顔に。「小川さんとプライベートでのお付き合いはありませんが、お店にいらっしゃるとテーブルにうかがってお話をさせていただきます。連日連夜、『食堂おがわ』が満席なのは、料理とともに小川さんの人柄、想い、在り方が、お客様に伝わっているからなのだと思います。シャイな方なので、前面にはそういう姿を出さず、ユーモアで隠してしまわれますが、私はそんなところも含め、"ちゃんとしている"小川さんが大好きです」と竜円さんも小川さんへの愛を語ってくださった。小川さんはイタリアンレストランで少し働いていた時期があり、イタリアンの世界にも憧れがあるという。「70歳、80歳になっても、左手にフォカッチャを持ちながら足を組み、斜め45度に構えて、パスタを食べながらパンをちぎりワインで流し込む。その姿が似合う白髪のおじいさんになりたいと思っております」(小川さん)そんな小川さんの姿を見かけることができるのは、やはりryuenに違いない。撮影 鈴木誠一 文 竹中式子■ryuen京都市中京区三条通室町西入ル衣棚町39075-211-868818:00~翌1:00定休日 木曜
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BLOG京の会長&社長めし
2019.07.16
日本合繊工業の会長が通う店 「富小路 やま岸」
■鈴木康次(すずき やすじ)さん 日本合繊工業株式会社 取締役会長産業用・工業用繊維の精練加工など、各種仕上加工を行う日本合繊工業に1971年入社。父の跡を継ぎ、30代で専務取締役を経て代表取締役社長に就く。バブル前後の荒波を乗り越え、2018年より現職。ロータリークラブの美食グループの会長も務める。会合での店選びには定評があり、多くの仲間が全幅の信頼を寄せている。手が掛けられたお造りやごはんの添えものにまで、舌鼓を打つ「1回目でもお話ししましたが、私には1年に8~10回訪れる店が15軒あります。それらは人気店なので、早めに来年分の予約をまとめて取ってしまいます。そのなかの1軒が、やま岸さんなんです」扉を開けると、ほの暗い石畳がすっと前に伸びる。その傍らには待合が。茶事に招かれた、その時の空気に満ちている。今では18時と20時にスタートする夜の回は、2年先まで予約が埋まっている人気の割烹「富小路 やま岸」。店主の山岸隆博さんは、「たん熊 北店」で1年半、西京漬けが有名な老舗「京都 一の傳」で10年勤めたのち、2015年10月に独立した。「一の傳の社長から紹介され、オープン間もないお正月料理の時期にうかがいました。そのころはまだ予約も取りやすかったんですよ。それが今や...ですので、早めの予約が必須。8席を貸し切りにして、その時々に友人・知人に声をかけるのですが、みなさん"あの、やま岸に行けるなんて!"と、とても喜んでくださいます。そのうちの2~3回は、妻孝行です(笑)」(鈴木さん)鈴木さんが初めて訪れたとき、山岸さんは「いろんな物を召し上がってきた方だ」と直感したという。「懐石道具である杉八寸に添えられた竹箸を持つ手の動き、御椀のお汁から飲まれて具を召し上がる流れなど、食べ方がとても慣れていらっしゃいました。身が引き締まり、プレッシャーを感じましたね」(山岸さん)鈴木さんは貝が好物で、いろいろな店で、さまざまな貝料理を食べるのが楽しみのひとつだとか。「やま岸さんでは、とり貝は炙りで、赤貝は造りでと、シンプルに貝そのものの味を引き立てる出し方をされます。コース内容には特にリクエストはしないのですが、貝料理はいつも含めてくださる、その気遣いがうれしいですね」(鈴木さん)写真は能登産の天然のとり貝。大きくぷっくりと活きがよい姿に心が躍る。「鈴木さんには、貝類は意識してお出しするようにしています。こうした新鮮な魚介にはそれほど手を加えませんが、たとえば八寸には手を加える。そのバランスが良くなるように意識しています。今回は炙ったとり貝に、ずいきとばちこを添えました。ずいきは、米を炒り、おこげの香りを昆布出汁にのせたもので味付けしています。いつも食べているものを、食べたことのないような風味でお出しする。そういう点を、鈴木さんは"面白い"とおっしゃってくださるのかもしれません」(山岸さん)茶道裏千家講師の資格を持つ山岸さんは、料理に茶懐石の基本を取り入れている。茶道具である杉八寸には、青竹の「中節箸」が添えられ、海(川)の物(生臭もの)である鮎のお寿司と、山の物(精進もの)であるトウモロコシのかき揚げが。「鮎の腹にはすし飯と蓼(たで)の葉を詰めました」(山岸さん)「ご飯」もやま岸の大きな特徴だろう。茶懐石にのっとり、食事の最初には炊き立てのもち米の飯蒸しが供される。そして最後には、蒸らす前の状態であるご飯が一文字に盛られる。この盛り方は、この「煮えばな」の時でしかできない。そのあとは、少し蒸らしたご飯、しっかりと蒸らしたご飯と、3段階楽しめるという趣向だ。「寒暖差のある長野県・木島平で、限られた生産者によってつくられたお米は、艶やかで甘みがあります。うちは蛇口をひねれば井戸水が出るのですが、それを使っています。そして火とかまどの絶妙な距離を、試行錯誤の末見つけ出しました」(山岸さん)そのご飯の添えものを、鈴木さんは絶賛する。「じっくりと炊いたえのき、白ワインを混ぜ込んだ明太子、丁寧に下処理されたじゃこに柚胡椒を和えたもの、この3つは定番。それにその時々の佃煮(写真は山吹とじゃこ)が添えられます。もうお腹はいっぱいなのに、2~3膳いただいてしまいます(笑)。造りの添えもの然り、シンプルに見えますが、とても工夫と手間がかけられていることがわかります」(鈴木さん)茶道のほかに、華道嵯峨御流華範、書道師範の資格も持つ山岸さんは、自ら店内の花も活けている。「いつ来ても、主張しすぎず、品の良い季節の花が飾られています」(鈴木さん)「山岸さんはとても楽しく、前向きで気持ちいい方です。でもお昼も夜も営業されて、とてもお忙しそうです。もうちょっとゆとりを持てるようになれたらいいですよね」と言う鈴木さんに、山岸さんは全幅の信頼を寄せているという。「主催者である鈴木さんは、カウンターの一番奥の席にお座りになられます。そしてご自身はお酒を控えていらっしゃいますが、どんな方にも――それこそ若いお客様にも分け隔てなくご自身でお酒を注がれ、場を楽しく盛り上げていらっしゃいます。その心遣いは、本当に素晴らしいと感じています。カウンター越しに、私は鈴木さんにお出しした料理の味についてよくうかがっています。そんなときにはお客様目線で親身になって、的確で、忌憚ないご意見をいただくことができ、取り入れて直すことも多くあるんです」(山岸さん)2019年7月には、二条駅近くに新店をオープンする予定だとか。「先付け2種、月替わりの鍋、そして今お出ししている炊き立てごはんの店になります」(山岸さん)さらに8月には香港に、「富小路 やま岸」と同じスタイルの2号店が出店する。鈴木さんの舌が認めるやま岸は、ますますその味を広めていくのだ。 撮影 津久井珠美 文 竹中式子■富小路 やま岸京都市中京区富小路通六角下る骨屋之町560075-708-786512:00~、18:00〜、20:00~定休日 火曜日、第2・4水曜日http://www.tominokoji-yamagishi.com/
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BLOG料理人がオフに通う店
2019.07.10
「蛸八」―「食堂おがわ」小川慎太郎さんが通う店
「食堂おがわ」小川真太郎さん《プロフィール》福岡県出身。福岡の居酒屋に勤めた後、20代前半に京都へ。仕出し店で約5年間修業を積み、その後先斗町「余志屋」、「祇園さゝ木」で腕を磨いて2009年に独立。2010年に現在の地へ移転。上質でいて手ごろ価格な料理が評判となり、最も予約の取りづらい店の1軒といわれるように。2019年7月には2号店「食堂みやざき」を開店する予定。何気ない料理が何気なく旨い!全国の居酒屋通が「一度は訪ねたい」と熱望する「蛸八」は、呑み助の聖地ともいえる店。京都の街中、蛸薬師新京極にある小体な店には渋い暖簾がかかる。 「食堂おがわ」の小川真太郎さんは「仕事帰りや休みの日の2軒目など、ふらりと覗いて、席が空いていたら必ず一杯飲んでいく」店だという。遅めの時間帯には、小川さんだけでなく、京都の料理人がカウンターに並んでいることも多い。開店は昭和54年。職人気質で名人と言われた先代の掛谷陞さんが、京都の割烹「河しげ」で修業を積んだ後に開いた店だ。割烹とはいうものの、どの料理も安価で、いつしか「日本一の居酒屋」と呼ばれるようになった。「一度は行きたいと思ってましたが、修業中はなかなか行ける店ではなくて...。初めてうかがったのは、余志屋時代。お客さまに連れていっていただきました。何気ない料理ばかりなのに、何を食べても本当に美味しくて。圧倒されました」と小川さん。小川さんが通うようになったのは独立してから。その頃には、他店での修業を終えて実家にもどった浩貴さんもカウンターに立ち、父息子ふたりで店を切り盛りしていた。 「うちの親爺は、あれをこうして、これはこうしてと言葉にして教えてくれる人ではなかったんで、すべて見ておぼえる方式ですよね。いやあ、最初はわけがわからなかった。父のつくったものを陰でそっと味見することもあったし、ぐじ焼きなんかも、ひたすらそばで見てましたね」と2代目の浩貴さんは話す。 実家にもどってから20年。「親爺の時代からの常連さんも多いから、いまだに鱧の骨切りの音がお父さんと違うと言われます」と笑う。淡々とした料理のしみじみとした味わい、あたたかいのにピシッとした店の雰囲気も、ここに憧れる理由だと小川さんは言う。 「品書きは食材の名前だけ。割烹として、ここは崩してはいけないという凛とした姿勢を保っている。浩貴さんの代になってもそれを変えないのがカッコいいですね」と小川さん。「いろんな意味でかなり影響をうけている」そうだ。 「以前、覗いたときに満席で、あきらめようと思ったら、お客さんが席をつめてあげると言ってくださって。そんな空気感がまたいいんですよね」(小川さん) カウンターに座ってまず注文するのは造り。鯛など白身も好きだが、蛸は必ず注文する一品。「質のいい蛸を、最高の状態にゆで上げていらっしゃる。簡単なようでなかなか真似のできない職人技です」(小川さん) 蛸の造り900円~のほか、たいやかつお、夏には鱧と定番の味が品書きに並ぶ。「品書きも親爺の代からまったく変えてません。自分の代になったら違う料理をつくってみたいと思った時期もありましたが、結局、親爺のやっていたことが一番だと気づきました」と浩貴さん。春なら、若竹煮、冬はすっぽん鍋、最後の締めは、鱧丼にすることが多いと小川さん。「鱧の焼き加減も抜群。つぎ足して使っているタレも独特で、ここでしか食べられない味です。若竹煮も、普通はそこまでトロトロにしないだろうと思うほど若芽を煮る。なかには苦手というお客様もいるかもしれないけれど、これが蛸八スタイルと貫く芯の強さというか、そういうところもリスペクトしている部分ですね」(小川さん)「自分の代になって、小川さんのように若い世代の料理人も来てくれるようになった」と嬉しそうに話す掛谷浩貴さん。今も目標は先代の陞さんで、一生かかっても親爺の料理にはたどり着けないかもしれないと謙遜する。 「真ちゃん(小川さん)はすごい料理人だと思いますよ。僕なんかは親爺がつくった店を継いだだけですからね。彼は福岡からでてきて、いろんな店で技を身につけ自分の店を開いた。ただ開いただけじゃなくて、あそこまでの評判の店にした。尊敬しますよ」(浩貴さん) 「イタリアンは男同士で行くと照れてしまうけど、蛸八なら様になる。カッコつけてないカッコよさんがある店なんですよね」と小川さん。料理人として、人としてリスペクトしあえるからこそ、浩貴さんは心をつくしてもてなし、小川さんは居心地がよくなる。そんな関係があればこそ、お互いにより高みを目指せるのだろう。 撮影 竹中稔彦■蛸八京都市中京区蛸薬師通新京極西入ル東側町498075-231-299518時~23時休日曜
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