BLOG京の会長&社長めし2019.07.16

日本合繊工業の会長が通う店 「富小路 やま岸」

京都にある会社の会長&社長は、どんな店でどんな料理を食べているのでしょうか? 彼らが通う一見さんお断りの超高級店から大衆店までご紹介する【京の会長&社長めし】。今回は日本合繊工業 取締役会長の鈴木康次さんが通う店、割烹「富小路 やま岸」です。

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■鈴木康次(すずき やすじ)さん 

日本合繊工業株式会社 取締役会長
産業用・工業用繊維の精練加工など、各種仕上加工を行う日本合繊工業に1971年入社。父の跡を継ぎ、30代で専務取締役を経て代表取締役社長に就く。バブル前後の荒波を乗り越え、2018年より現職。ロータリークラブの美食グループの会長も務める。会合での店選びには定評があり、多くの仲間が全幅の信頼を寄せている。

手が掛けられたお造りやごはんの添えものにまで、舌鼓を打つ

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「1回目でもお話ししましたが、私には1年に8~10回訪れる店が15軒あります。それらは人気店なので、早めに来年分の予約をまとめて取ってしまいます。そのなかの1軒が、やま岸さんなんです」

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扉を開けると、ほの暗い石畳がすっと前に伸びる。その傍らには待合が。茶事に招かれた、その時の空気に満ちている。

今では18時と20時にスタートする夜の回は、2年先まで予約が埋まっている人気の割烹「富小路 やま岸」。店主の山岸隆博さんは、「たん熊 北店」で1年半、西京漬けが有名な老舗「京都 一の傳」で10年勤めたのち、201510月に独立した。

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「一の傳の社長から紹介され、オープン間もないお正月料理の時期にうかがいました。そのころはまだ予約も取りやすかったんですよ。それが今や...ですので、早めの予約が必須。8席を貸し切りにして、その時々に友人・知人に声をかけるのですが、みなさん"あの、やま岸に行けるなんて!"と、とても喜んでくださいます。そのうちの2~3回は、妻孝行です(笑)」(鈴木さん)

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鈴木さんが初めて訪れたとき、山岸さんは「いろんな物を召し上がってきた方だ」と直感したという。

「懐石道具である杉八寸に添えられた竹箸を持つ手の動き、御椀のお汁から飲まれて具を召し上がる流れなど、食べ方がとても慣れていらっしゃいました。身が引き締まり、プレッシャーを感じましたね」(山岸さん)

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鈴木さんは貝が好物で、いろいろな店で、さまざまな貝料理を食べるのが楽しみのひとつだとか。

「やま岸さんでは、とり貝は炙りで、赤貝は造りでと、シンプルに貝そのものの味を引き立てる出し方をされます。コース内容には特にリクエストはしないのですが、貝料理はいつも含めてくださる、その気遣いがうれしいですね」(鈴木さん)

写真は能登産の天然のとり貝。大きくぷっくりと活きがよい姿に心が躍る。

「鈴木さんには、貝類は意識してお出しするようにしています。こうした新鮮な魚介にはそれほど手を加えませんが、たとえば八寸には手を加える。そのバランスが良くなるように意識しています。

今回は炙ったとり貝に、ずいきとばちこを添えました。ずいきは、米を炒り、おこげの香りを昆布出汁にのせたもので味付けしています。いつも食べているものを、食べたことのないような風味でお出しする。そういう点を、鈴木さんは"面白い"とおっしゃってくださるのかもしれません」(山岸さん)yamagishi-0016.jpg

茶道裏千家講師の資格を持つ山岸さんは、料理に茶懐石の基本を取り入れている。茶道具である杉八寸には、青竹の「中節箸」が添えられ、海(川)の物(生臭もの)である鮎のお寿司と、山の物(精進もの)であるトウモロコシのかき揚げが。

「鮎の腹にはすし飯と蓼(たで)の葉を詰めました」(山岸さん)

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「ご飯」もやま岸の大きな特徴だろう。茶懐石にのっとり、食事の最初には炊き立てのもち米の飯蒸しが供される。そして最後には、蒸らす前の状態であるご飯が一文字に盛られる。この盛り方は、この「煮えばな」の時でしかできない。そのあとは、少し蒸らしたご飯、しっかりと蒸らしたご飯と、3段階楽しめるという趣向だ。

「寒暖差のある長野県・木島平で、限られた生産者によってつくられたお米は、艶やかで甘みがあります。うちは蛇口をひねれば井戸水が出るのですが、それを使っています。そして火とかまどの絶妙な距離を、試行錯誤の末見つけ出しました」(山岸さん)

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そのご飯の添えものを、鈴木さんは絶賛する。

「じっくりと炊いたえのき、白ワインを混ぜ込んだ明太子、丁寧に下処理されたじゃこに柚胡椒を和えたもの、この3つは定番。それにその時々の佃煮(写真は山吹とじゃこ)が添えられます。もうお腹はいっぱいなのに、2~3膳いただいてしまいます(笑)。造りの添えもの然り、シンプルに見えますが、とても工夫と手間がかけられていることがわかります」(鈴木さん)

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茶道のほかに、華道嵯峨御流華範、書道師範の資格も持つ山岸さんは、自ら店内の花も活けている。
「いつ来ても、主張しすぎず、品の良い季節の花が飾られています」(鈴木さん)

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「山岸さんはとても楽しく、前向きで気持ちいい方です。でもお昼も夜も営業されて、とてもお忙しそうです。もうちょっとゆとりを持てるようになれたらいいですよね」と言う鈴木さんに、山岸さんは全幅の信頼を寄せているという。

「主催者である鈴木さんは、カウンターの一番奥の席にお座りになられます。そしてご自身はお酒を控えていらっしゃいますが、どんな方にも――それこそ若いお客様にも分け隔てなくご自身でお酒を注がれ、場を楽しく盛り上げていらっしゃいます。その心遣いは、本当に素晴らしいと感じています。

カウンター越しに、私は鈴木さんにお出しした料理の味についてよくうかがっています。そんなときにはお客様目線で親身になって、的確で、忌憚ないご意見をいただくことができ、取り入れて直すことも多くあるんです」(山岸さん)

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20197月には、二条駅近くに新店をオープンする予定だとか。
「先付け2種、月替わりの鍋、そして今お出ししている炊き立てごはんの店になります」(山岸さん)

さらに8月には香港に、「富小路 やま岸」と同じスタイルの2号店が出店する。
鈴木さんの舌が認めるやま岸は、ますますその味を広めていくのだ。

撮影 津久井珠美  文 竹中式子

■富小路 やま岸

京都市中京区富小路通六角下る骨屋之町560
075-708-7865
12:00~、18:00〜、20:00~
定休日 火曜日、第2・4水曜日
http://www.tominokoji-yamagishi.com/