食知新ブログ
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BLOG京の会長&社長めし
2019.12.26
株式会社千總の社長が通う店「北白川中国料理 叡」
■仲田保司(なかたやすし)さん 460余年の歴史を持つ京友禅の老舗、株式会社千總の代表取締役社長。 企業理念である「美・ひとすじ」のもとに、友禅染の着物をはじめとして染織品を手がける一方で、友禅の技術やデザインを和装以外の分野に応用するなど、日本文化の継承と共に、時代に合わせた改革を続けている。 京都の飲食店は、しつらえや雰囲気などに季節が感じられるところが気に入っている。最後の晩餐は夏の京料理。大原野菜たっぷりのオリジナルメニューも好評。素材の味を生かしたあっさり中華路地裏には、隠れた名店が多い。そんなことを実感させるのが、北白川にある仲田社長おすすめの中国料理店「叡」だ。白川通から京都造形大学南側の細い坂道を上がっていくと、白壁の小さな店が見えてくる。 「知人に紹介されて行ったのが最初で、もう5、6年は通っていると思います。シェフは日本育ちの中国の方で、同い年ということですぐに親しくなりました。昼のランチが1000円ぐらいで、夜も6000円出せば十分おいしい料理が食べられます。最近は忙しくてあまり行けませんが、前は月1、2回行っていました」(仲田さん)店を一人で切り盛りする店主の陳武(たけし)さん。「仲田社長は、夜、仕事終わりに会長さんや会社の皆さんと来られることが多いですね。歳が同じで、僕の高校時代の友人が以前千總さんで働いていたこともあり、親しくさせてもらっています」と、にこやかに話す。陳さんの実家はかつて京風中華で人気を博した下鴨の「ぢんや」で、陳さんは神戸にある北京料理の老舗「神仙閣」で修業した後、実家の店の手伝いを経て2003年に自分の店をオープンした。十数席のこぢんまりとした店だが、著名人も数多く訪れる穴場な一軒になっている。「創作中華ともいえるオリジナリティ性が高い料理を出されていて、京野菜をふんだんに使っているところが特に気に入っています」(仲田さん)「修業先の北京料理と父の京風中華のいいとこ取りをしている」という陳さんの料理は、だしの利いたあっさりした味わいが特徴だ。食材は、目利きの魚屋から仕入れる鮮魚、岡山の千屋牛、丹波地鶏など、吟味したものを使用。特に、大原でとれた新鮮な野菜を多くのメニューに使っており、女性やベジタリアンの外国人などに好評だという。「野菜はなるべく使うようにしています。大原の野菜は味が濃くて、それを台無しにしてしまったら農家さんに申し訳ない。だから、素材の味を生かすために、だしをしっかりとって薄味にすることを心がけています」と、陳さん。メニューはコースとアラカルトがあり、海老チリソースや北京ダック、麻婆豆腐といった定番料理に、人気の「大原野菜のおこげ」など、大原野菜たっぷりの趣向を凝らした品が加わる。明石の蛸や若狭のイカなどの季節の魚介に野菜サラダを添えた前菜は、揚げる、炒めるなど好みの調理法を選んで楽しめるのが面白い。どの品も化学調味料を用いず、手間暇かけて作られている。京野菜が食べられることがお店選びのポイントの一つだという仲田さん。必ず食べるおすすめの一品が、裏メニューの「揚げワンタンと大原野菜のミルフィーユ仕立て」(一人前2個)。3枚の揚げワンタンで豚ミンチ、オニオンスライス、焼き豚などをはさみ、6~8種の野菜を彩りよくトッピングした陳さんのアイデアが光る一品だ。「野菜は季節によって違うものが出てくるんですが、これがものすごくおいしいんですよ。だから、野菜が食べたくなるとお店に行きます」(仲田さん) そのまま両手で持ってかぶりつくと、パリッとした食感のワンタンに、シャキシャキとした野菜、中に入った調合味噌や肉の甘味や旨味などが混然となり、重層的なおいしさに。残念ながら、時間がかかる料理のためメニューに出していないが、事前に予約すれば用意してもらえるという。また、「じっくり煮込んであって、とてもやわらかい。ご飯と一緒に食べると最高です」と、仲田さんが絶賛するのが、「ぢんや」で好評だった「豚の角煮」。肉の脂が抜けるまで3日間かけて煮込んだ角煮は、とろけるようにやわらかく、豊かな肉の旨味が楽しめる。なかなかのボリュームだがしつこさがなく、一気に食べられる。「こないだも92歳の女性が来られて、ペロッと全部召し上がられました。うちに来て胃がもたれたという人は、一人もいないですね」と、陳さん。仲田さんは、この店の魅力について、こうも語る。「料理の出し方一つにしてもすごく丁寧。小さな店で厨房カウンターとテーブルの距離が近いのですが、それでも横着せずに料理をお盆にのせて持ってきてくれるし、忙しくてもお皿もすぐに替えてくれる。そういうことを丁寧にしているご主人の行動にはお人柄も出ていると思うし、それが料理のおいしさにもつながっていると思います」その言葉に、陳さんは、「当たり前のことを当たり前にしているだけなんですが、お客様にお金をいただいているのやから、やっぱりそこはちゃんとせなあかんと思っています。料理も、手を抜いてしまったら自分の料理じゃなくなると思うので、どんなに忙しくても手は抜かない。その分お客様に待っていただくことになるんですが、それよりまずい料理を出すほうが失礼なので、少し待っていただいてもおいしい料理を目指したいと思っています」と答える。陳さんのそうした姿勢から感じられる心地よさも、常連たちに愛される所以なのだろう。「ここはお客さんにご案内しても、全然恥ずかしくないお店です」という仲田さんの言葉に、この店への確かな信頼が窺える。撮影 エディ・オオムラ 文 山本真由美■北白川中国料理 叡京都市左京区北白川上終町22-10営業時間 11時30分~14時、17時30分~21時定休日 木曜
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BLOG料理人がオフに通う店
2019.12.25
「青いけ」―「卯今」小林健一さんが通う店
「卯今」小林健一さん《プロフィール》京都市出身。専門学校時代に知り合った松尾の人気居酒屋「龍馬」で、居酒屋の仕事に興味を持ち、2号店立ち上げを機に同グループに入社。2号店の閉店により本店に移り、店長に。桂駅東口店、西院店の店長を務めたあと、2010年に「卯今」をオープン。地元客から観光客、プロの料理人まで幅広い支持を集める。食べることが好きで、勉強も兼ねて食べ歩きに出かけることもしばしば。旬の京野菜を中心に、素材の魅力を引き出した五感に響くフレンチを、極上の空間で地下鉄丸太町駅から竹屋町通を東へ進むと、左手に見えてくる町家の建物。割烹とも見紛うこの店が、小林さんが通うフランス料理店「青いけ」だ。オーナーシェフ・青池啓行さんが野菜をふんだんに使ったコースを提供し、女性を中心に高い支持を集める。2014年にオープンし、すでにミシュランの星も獲得している実力店だ。「4、5年前から通っていて、記念日などに夫婦で来ています。とにかくお店の造りがすごい。入口が和食屋さんのようで、中は立派な8席ぐらいのカウンターがあります。2階もあるのですが、僕はカウンターで楽しんでいます」(小林さん)町家をリノベーションした店舗は、数寄屋建築で名高い中村外二工務店・中村義明氏がプロデュースしたもの。店内は精巧な欅のパッチワークカウンター、デンマークの家具、名画などが配され、モダンで洗練された空間になっている。青池さんは、「インテリアからカトラリーまですべて"ほんまもん"を使いたいと思いました」と話す。シャガール、小野竹喬などの作品が飾られた贅沢な空間。モザイク模様が美しいエルコーレ・モレッティの皿やシャガールの絵皿など、見事な器もお楽しみ。青池さんは京都ホテル出身。ホテル時代、現「レストラン スポンタネ」の谷岡シェフの下でフランス料理を学んだ。「シェフは野菜を中心に料理を考えられる方で、僕も大分影響を受けました。それに、僕は野菜農家の友人も多く、京都の野菜を中心に地産地消をしたかったので、野菜をベースにして、それに肉や魚などのタンパク質をつけていくというコース作りをしました」と青池さん。バターやクリームも極力控え、素材の味がわかる料理を目指したという。大原や鷹峯などでとれた野菜をはじめ、吟味した食材で手間暇かけて作られる月替わりのコースは、ランチ3800円~、ディナー6500円~。12月は聖護院蕪などの根菜に、蟹や雲子、ジビエなどが登場予定だ。「大体お昼に行って、夜のメニューをお願いします。あっさりとしたフレンチで、全部の料理がおいしいです」(小林さん)小林さんとこの店との出合いは、もともと青池さんが「卯今」のお客だったことがきっかけだ。「最初は一人で来られてぱっと食べて帰る、という感じだったんですが、共通の常連さんがいることがわかり、話をするようになって。それから僕もお店に行かせてもらうようになりました」と、小林さん。青池さんも、「小林くんは季節ごとに来てくれています。卯今さんは夜中にあんなおいしいものを出しているのがすごくいいなと思います。週1のペースで行って、彼やお客で来ている料理人さんと料理談義をしながら楽しんでいます」と話す。年齢も一歳違いで、互いのことを「信楽焼の狸」と茶化し合うほど気心の知れた仲だという。8品が付くディナーコースでは、約60種類もの野菜を使用。その中で小林さんがおすすめに挙げるのが、2日間かけて作るスペシャリテの「季節野菜のプレッセ」で、25種類の野菜が入っているという。「見た目がすごくきれいで感動します。一個一個の野菜に仕込みがされていて、甘味、辛味、苦味などいろいろな味が楽しめる一皿です」(小林さん)旬の野菜を押し固めたプレッセは美しい寄木細工のようで、食べるのが惜しくなるほど。各野菜の旨味が十分に引き出され、これ一つでかなり満足感が得られる。「ナスを真空調理にしたり、大根を甘酢に漬けたり、シイタケを揚げ焼きしたりと、煮る、焼く、蒸す、揚げるという調理の工程がここに凝縮されています」と、青池さん。この大きなサイズはおいしい野菜の数が揃わないと作られないそうで、どうしても食べたい場合は1週間以上前に予約するのがおすすめだ。毎回テーマを決めて趣向が凝らされる季節のスープも、小林さんが楽しみにしている一つ。「個人的に好きなのは、新じゃがの頃に出るジャガイモのスープ。ビジソワーズの下にメロンのジュレが入っていて、ビシソワーズだけでもおいしいんですが、ジュレと一緒に食べるとまた違う味が楽しめます」(小林さん)写真は石焼き芋をイメージしたサツマイモのスープで、「石焼き芋を食べたときの香ばしい匂いなどを表現するのに、サツマイモを皮ごと使おうと考えました」と、青池さん。里浦産サツマイモのポタージュに黒ゴマのピューレ、一保堂のほうじ茶で香りづけした寒天をトッピング。口の中で焼き芋のようなホクホク感や風味を楽しめる、存在感ある一品だ。「青池さんは、しめさばの作り方や鱧の処理の仕方など、料理についてよく聞いてこられますし、本当に勉強熱心やと思います」という小林さんの言葉に、「おいしいものを作って出すのは料理人共通のことですが、プロセスや技法はジャンルによって違う。料理は一生勉強なので、疑問に思ったことや知らないことは全部聞き、取り入れられるところは取り入れています」と青池さん。気さくで、話好きの青池さん。小林さんのようにその人柄に惹かれて通う人も多い。「レストランは、休息して走る"レスト(rest)・ラン(run)"。料理だけでなく、僕らとの会話やお客様同士の会話、皿や絵画、空間など、トータルで楽しく過ごしていただくところだと思うので、お金をいただく以上の価値があるかどうか常に考えながらやっています」その心づくしの食事のひと時を満喫したい。撮影 竹中稔彦 文 山本真由美■青いけ京都市中京区竹屋町通高倉西入塀之内町63112時~13時30分(LO)、18時~22時(LO20時30分)※要予約休 月http://aoike-kyoto.com/
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BLOG京の会長&社長めし
2019.12.22
株式会社千總の社長が通う店「リストランテ ガレリア」
■仲田保司(なかたやすし)さん 460余年の歴史を持つ京友禅の老舗、株式会社千總の代表取締役社長。 企業理念である「美・ひとすじ」のもとに、友禅染の着物をはじめとして染織品を手がける一方で、友禅の技術やデザインを和装以外の分野に応用するなど、日本文化の継承と共に、時代に合わせた改革を続けている。 京都の飲食店は、しつらえや雰囲気などに季節が感じられるところが気に入っている。最後の晩餐は夏の京料理。美術品に彩られたホテルで、選り抜きの食材で織りなす上質のイタリア料理を満喫祇園の北側、縄手通から東へと伸びる古門前通界隈は、古くから京都随一の古美術街として知られている。その一角に立つ「ART MON ZEN KYOTO」は、老舗の美術茶道具商「中西松豊軒」がプロデュースしたスモールラグジュアリーホテル。数寄屋建築を取り入れた趣の異なる15の客室を備え、館内各所に国内外の美術工芸品が配されるなど、京都らしい美意識が感じられる。このホテル内のシックなラウンジエリアに今年5月にオープンした「リストランテ ガレリア」が、今回仲田さんおすすめの一軒だ。 「ホテルのオーナーである中西さんとは、私がお茶を始めたときからの知り合いで、年齢が近いこともあり普段から親しくさせていただいています。オープニングレセプションにお招きいただいた後、きちんと食事をしに行ったのは最近ですが、とにかくおいしかった。シェフも出すぎず誠実な印象で、以来何度か通っています」(仲田さん)館内には茶室風のウェイティングスペースがあり、ここで香煎のもてなしを受けてからテーブルへ。周囲には確かな目で選ばれた美術品が飾られており、まるでギャラリーにいるかのようだ。「フロアに本物の古美術が置いてあって、レストランにいながら古美術に触れられる空間になっているのが贅沢だし、すごくいいなと思います。天井が高く、テーブルの間隔もしっかりとられているので、居心地もいいです」(仲田さん) 「仲田様は、社長の中西が表千家の古美術を扱っている関係で、茶道を介して親しくなられて、ここのオープンのときもすごく気にかけていてくださったようです。仲田様のお茶の先生が中西と仲が良く、仲田様も先生たちと一緒にお食事にいらっしゃいました」そう話すのは、ホテルのエグゼクティブシェフ兼「ガレリア」シェフの小澤達也さん。ザ・リッツ・カールトン京都「ラ・ロカンダ」の料理長を務めるなど、国内外のホテル・レストランでの経験豊富な実力派の料理人だ。本物の美術品しか扱わないオーナーの本物志向に共感するという小澤さん。目指すところは、本物のアートで飾られたホテルにふさわしい本物のイタリアンだ。「見かけはおいしそうで実はおいしくないものや、何の料理かわからないようなものが結構あると思うんですけど、ここでは本場の人が食べに来ても、評価してもらえるような料理を提供したいと思っています」対馬などから入る鮮魚や京都の地野菜、大分の蘭王卵など、吟味した上質の食材を使ったメニューは、コース主体で5500円から楽しめる。「一番高いコースで1万3千円なんですが、この値段でこのグレードの料理が食べられるので、すごく満足しました」と仲田さん。とりわけ気に入ったのが、カルボナーラ。スパゲッティーカルボナーラをそのままペースト状にして自家製のラビオリに詰め、黒コショウベースのソースと卵黄のソースをかけた一品だ。「ラビオリの中にカルボナーラが入っていて、食べるとそれが口の中でパッと広がってカルボナーラの味になる。これは感激しましたね。いろいろイタリアンを食べましたが、こんなことができるのかと。すごく面白いし、会食の話題作りにもなります」(仲田さん)その言葉に、「パスタをおいしいと言っていただけるのはやはりうれしいですね」と、小澤さん。このカルボナーラのように、クラシックな料理にクリエイティブなアプローチをしつつ、イタリアンの枠を外さないのが、小澤さんが目指す本物だという。好評のパスタは、12月はイカのラビオリが登場する予定だ。メインの上州牛のフィレは、「すごくやわらかく、上品な味でおいしかった」と仲田さんもおすすめの一品。「僕は群馬の前橋出身で、地元産の肉だから選んだということもありますが、赤身のおいしい肉をいろいろ探した結果、この上州牛に落ち着いた感じです」と、小澤さん。じっくり火入れしてやわらかく仕立てた深い味わいの上州牛に、ブイヨンで煮た堀川ごぼうの下にきのこのデュクセルをしいた付け合せで、秋の風情を表現。きのこの旨味が凝縮したソースは、泡が弾ける瞬間の香りを楽しみたい。ワインはイタリア産を中心に100種類ほど。あまりお酒を飲まない仲田さんも、料理と合わせてワインを楽しんだという。写真の3本は、ラベルにホテルの名が入った数量限定の白など、いずれもここだけで扱っているもの。ホテルならではの洗練されたサービスも魅力。「お客様に心地よく楽しんでいただくには、お客様が何かをしてほしいと思う前に用意ができていることが重要だと思っています。ここはクローズキッチンなので、時間のあるときはなるべく料理を運びに来て、お客様の表情などを見ながらサービスするように心がけています」(小澤さん)オープンからまだ半年ほど。小澤さんは、お客の反応も見ながら構成や味などの微調整を行い、料理のバージョンアップを重ねていきたいという。料理もサービスも、これからの進化が楽しみなレストランだ。 撮影 エディ・オオムラ 文 山本真由美■ART MON ZEN KYOTO リストランテ ガレリア京都市東山区古門前通大和大路東入元町391075-551-0009営業時間 18時~22時(L.Oコース20時30分、アラカルト・ドリンク21時)定休日 火曜http://www.amz-kyoto.jp/
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BLOG料理人がオフに通う店
2019.12.13
「隆兵そば」―「卯今」小林健一さんが通う店
「卯今」小林健一さん《プロフィール》京都市出身。専門学校時代に知り合った松尾の人気居酒屋「龍馬」で、居酒屋の仕事に興味を持ち、2号店立ち上げを機に同グループに入社。2号店の閉店により本店に移り、店長に。桂駅東口店、西院店の店長を務めたあと、2010年に「卯今」をオープン。地元客から観光客、プロの料理人まで幅広い支持を集める。食べることが好きで、勉強も兼ねて食べ歩きに出かけることもしばしば。遠方から蕎麦好きが通う住宅街の人気店。井戸水で丁寧に作られる蕎麦や川魚料理を桂小橋の畔、桂離宮に近い閑静な住宅地の一角。ここに、小林さんおすすめの「隆兵そば」はある。店主の中村隆兵さんは、明治創業の和菓子店「中村軒」の次男で、「中村軒」の裏手に2004年7月に店をオープン。蕎麦や川魚料理を中心に季節の料理をコースで提供し、グルメな人々からも高い評価を得ている。「こんな住宅街の裏の細々としたところに、こんなすごいお店があるのかと、驚きました」(小林さん)小林さんとこの店との出会いは、オープン間もなくの頃だという。「まだ僕が桂で店長をしていた頃、近くにおいしい蕎麦屋があると聞いて寄せてもらったのが最初です。すごく感じのいい店主で、料理もとても満足しました。居酒屋の店長をしているという話をしたら、うちの店にも来てくれて。それからのおつきあいです」と、当時を振り返る。中村さんが小林さんの一つ年下ということもあり、今も互いの店に行き合ったり、一緒に飲みに行ったりする仲だという。「小林さんは大体昼に家族で来られます。お店の方や他の店の料理人さんを連れて来てくれることもありますね」と、中村さん。有機栽培や無農薬、減農薬の野菜など、地元や近郊の食材を主体にしたメニューは、昼はセット3100円から、予約制の夜はおまかせが8000円から楽しめる。小林さんは、訪れるときは大抵「お蕎麦充実コース」(5900円)を頼むそうだ。「焙煎の粗挽き蕎麦、盛り蕎麦、季節で変わる温かい蕎麦の3種の蕎麦がついていて、その間にいろいろな料理が出るんですが、トータルバランスを考えてコースを作られているなと。僕の中ではここは蕎麦屋というより、蕎麦が出る料理屋さんというイメージ。和食屋の中でも好きなお店の一つです」と、小林さん。中村さんは、東京の和食店などで4年間修業後、京都へ戻り、丹波篠山の名店「ろあん松田」で蕎麦作りを学んだ。「京都で店をやろうとなったときに、何か他の店と違う特徴を出したくて。それでコース料理にお蕎麦を入れようと思ったんです。知人の陶芸家の先生にお店を紹介してもらい、そこの大将に蕎麦打ちやつゆの作り方を教えてもらいました」(中村さん)桂という中心から離れた場所にあるため、開店当初はお客が来ず苦労したそうだが、店をやるなら生まれ育ったこの地でと決めていたという。その大きな理由が桂離宮周辺を流れる良質な井戸水。ここでは井戸の水脈を3本も掘って使用しているそうだ。「ここの井戸水は愛宕山系の伏流水。僕はこの水で育っているので、よその水だと感覚が狂うやろし、お蕎麦やだしはまともに水の影響を受けるので、水のことを考えたら絶対ここやなと。究極の地産地消のかたちはそこの水を使うことやと思うんです」(中村さん)蕎麦と共にこの豊富な井戸水が欠かせないのが、川魚料理だ。「せっかくいい水が湧いているんだから」と、5年ほど前から海の魚を川魚に切り替えたという。潤沢な井戸水を利用し、これまでにないやり方で仕立てる中村さんの川魚料理は、泥臭いという川魚のイメージを大きく変えるものだ。「定番のうなぎの飯蒸しに、鯉、びわます、もろこ、鮎など季節によっていろいろ楽しめます。特に鯉は、井戸水から生簀をしつらえて、そこでしばらく置くんです。締め方も血抜きや神経締めは川魚であまり聞かないんですが、それをしているのでまったく臭みがない。ほかにも今流行りの熟成など、すごく面白いことをしていますね」と、小林さん。写真は小林さんおすすめの鯉の刺身。4日間かけ流しの生簀で泳がせた鯉は、臭みが全然なく、凝縮した旨味が感じられる。鯉は生のほか昆布締めにすることも。十割の盛りそばも小林さんおすすめの一つ。そば粉は滋賀など近郊のものが主に使われる。「蕎麦とつゆのバランスがいい。コクがありながら蕎麦の香りを損なわないように作られていると思います。昔はそれほど蕎麦が好きではなかったんですけど、こちらのお蕎麦を食べてから興味を持つようになりました」と、小林さんは言う。中村さんが「一番の肝」と重視するつゆは、本枯れ節を大量に使い、香りだけを飛ばして旨味だけを凝縮させたもの。昆布は蕎麦湯でほんのり香る程度にごく少量使われる。きりっとシャープな味わいのこのつゆと合わせて蕎麦が完成する。中村さんが蕎麦を打つ際に大切にしているのは、一つひとつ丁寧に打つということ。これはサービスを含めすべてのことに通じることでもある。「スタッフには、とにかく一つひとつ丁寧にということは言っています。冷蔵庫を乱暴に閉めないとか。ざるならざるを作っている人がいるわけで、雑に扱えばその人に申し訳ない。そうしたところまで考えずにいい加減にすると、それが料理の味に出てしまうし、お客さんにも伝わってしまうので」(中村さん)14席ある店内は、木の風合いが温かい落ち着いた空間。小林さんは、料理を「松の司」などの日本酒とともにじっくり堪能し、時には中村さんとの会話を楽しむという。「彼の店に行くと、いつもいろいろな刺激を受けます。また頑張ろうという気持ちにさせてくれる店ですね」(小林さん)撮影 竹中稔彦 文 山本真由美■隆兵そば京都市西京区桂浅原町157075-393-713011時~14時(LO)、17時30分~19時(入店)※夜は要予約休 水、毎月18日、火不定休(祝日は営業)https://ryuhei-soba.jp/
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BLOG京のほっこり菜時記
2019.12.09
「ふぐ」
下関や北九州では「ふく」、大阪では「てっぽう」と呼ばれる「ふぐ」。西日本では冬のご馳走のひとつで、和食店だけでなく鮨店や居酒屋、イタリアンなど洋食店でも登場する。 今回、調べていて知ったのだが、ふぐの7割は京阪神で消費されているそうだ。どうやら、豊臣秀吉が朝鮮出兵した際に、ふぐの中毒で亡くなる兵が続出したため、ふぐ禁止令がだされた。その後、徳川の時代になっても、武家では中毒死してはならないと、ふぐを食べなかったそうだ。そんな経緯もあって、東京や関東ではそれほどふぐを食べなかったのだろう。 消費量日本一は大阪だというが、京都でも「ふぐ」は、必ずといっていいほど料理屋の品書きに並ぶ食材だ。刺身はもちろんのこと、焼きや唐揚げなどどんな料理にしても美味しいから、ふぐの料理を品書きに見つけると、私は迷いなく注文する。 天然ふぐの旬は11月~2月頃といわれるが、春以降に産卵するその直前が一番脂がのっておいしいとも言われている。 ちなみに、私たちが普段口にするふぐは、とらふぐやまふぐ。みなさんもご存知のように、内臓や血、筋肉の一部には猛毒があるから、丁寧に下処理をして調理される。 かつては、食通と呼ばれる人が「舌がしびれる感覚がいい」と、肝を味わった。たとえば、美食家として知られていた歌舞伎俳優の八代目坂東三津五郎は、割烹料理店でフグの肝臓を4人前食べた後に急逝した。そんな恐ろしいことは、とうていできない。以前、東京の友人と割烹に行って「ふぐぶつ」を注文したら、彼女は「東京ではふぐぶつにお目にかかったことがない」と言った。いや、最初は「ふぐぶつって何?」と聞かれたのだ。 関東でも「ふぐ」は食べるが、たいていが専門店。ふぐ尽くしのコースを食べても、薄造り、焼きふぐ、唐揚げ、鍋、ぞうすいという流れがほとんど。てっぴ(皮)やとうとうみ(身と皮が一緒になっている部分)、もちろん「ふぐぶつ」もでないという。食文化の違いをあらためて感じさせられる。だから、東京の友人が冬の間に京都に来られたら、私はこの「ふぐぶつ」をおすすめする。 「ふぐぶつ」は、その名の通り、ふぐを薄造りではなくぶつ切りにした刺身。硬めといわれるふぐのギュッとした食感をよりダイレクトに感じられる造りだ。冬の声を聞くと、この「ふぐぶつ」が食べたくなるから、ふぐ料理を気軽な雰囲気でいただける「東寿し」を訪ねることにしている。寿司店ではあるが、蟹もあるしふぐもある。まるで居酒屋のように、いろんな料理を味わえ、締めに寿司を食べられるとあって、けっこうな人気店だ。ここの「ふぐぶつ」は、ぶつ切りしたふぐの身にてっぴやとうとうみを加え、たっぷりのネギが添えられる。ポン酢と七味をかけ、よく混ぜていただく。淡泊だけれど、しっかりと歯ごたえのある身とプルンとしたてっぴの食感もあって、実にうまい。もちろん、ふぐぶつだけでなく、ふぐ刺し(てっさ)や焼きふぐ、唐揚げ、ふぐ鍋などもあるから、ふぐ三昧も思いのまま。冬の間なら松葉ガニやこっぺ(雌)もあって、分量も加減してくれる。店主の山本勲さんは、この道50年というベテラン料理人。他店で修業を積んだ後、父が営む東寿しにもどり、寿司をメインにさまざまな割烹料理をだして店をもりたてた。そして、3年前には、勲さんの息子・潤さんも他店で腕をみがいて戻り、今は父息子ふたりでカウンターに立つ。潤さんが戻ったことで、和牛の炙りやカニグラタンなど洋メニューも2,3加わり、より家庭的かつバラエティーに富んだ店になった。父の姿を見ながら、控えめに粛々と自分の仕事をする潤さんを見ていると、お腹だけでなく心までほっこりあたたまる。言葉を発せずともわかりあえる、ふたりの料理人の振る舞いは見事というしかない。そして、寿司屋だから、締めはにぎり。丁寧な仕事を施したネタはいずれも新鮮。たっぷり料理を食べた後でも、あれこれ食べたくなる。■東寿し京都市東山区正面通本町西入075-561-547112時~22時木曜休
中井シノブ
ライター
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BLOGうつわ知新
2019.11.30
"冷えたもの"が持つひそやかな"力"
梶高明梶古美術7代目当主。京都・新門前にて古美術商を営む。1998年から朝日カルチャーセンターでの骨董講座の講師を担当し、人気を博す。現在、社団法人茶道裏千家淡交会講師、特定非営利活動法人日本料理アカデミー正会員,京都料理芽生会賛助会員。平成24年から25年の二年間、あまから手帖巻頭で「ニッポンのうつわ手引き」執筆など。全国の有名料理店と特別なうつわを使った茶会や食事会を数多く開催。師走12月。。。。。私たちは明治になるまで数字を用いて12カ月を表さず、その時期の風情に相応しい和名をもってそれを表現してきました。師走は、師と仰がれる身分の高い僧侶でさえも慌ただしく駆け回られる姿を表現したことが「師馳す(しはす)」が語源だと言われているようです。小学校の授業で私の担任が「私たち先生でさえ忙しくする時期だから、師走と言うんだ。」と教わったため、私の頭の中では、お坊さんではなく、未だに小学校先生たちが通知簿の作成や家庭訪問で忙しく走り回っています。幼い頃に植え付けられた印象というのは、フライパンの焦げ付きみたいなもので、いつまでも頭に中に残ってしまうものです。古美術商である私は、茶道・華道・香道など伝統を重んじる世界に関わりが深い職種であるため、師走の13日朝には「事始め」という、いかにも年の瀬らしい行事がございます。私の場合、裏千家のお家元様に出向き、無事に過ごしてきたこの一年の感謝と共に来るべき新しい年を迎える準備を始めさせていただくためのご挨拶をいたします。昔の人たちは、このご挨拶を終えた後、お正月の炊事を行うための薪を取りに行き、門松の準備なども始めたようです。私の住む祇園では、芸舞妓の皆さんがお世話になった方々へご挨拶回りをされるので、なんとも華やかな朝になります。そんな華やかさとは裏腹に、この師走には今で言う「インスタ映えする」ような行事が昔から少なかったためか、この師走の風情を描いた掛軸がなかなか見つかりません。「走り・旬・名残リ」という言葉があります。多くの場合床の間にかける掛軸は、やや季節に先駆けたタイミングで飾り、その風情を心待ちに楽しむ「走り」的な、傾向があります。つまりフライングして楽しむということです。ところが、この師走時期に先駆けて掛軸を選ぶと、年も明けてないのに旭日や朝焼けの赤富士、高砂、萬歳・蓬莱山の絵をお床に飾ることになってしまいます。師走の時期の掛軸とは違って、選ぶ題材に事欠かないのですが、フライングすると、あまりにも大きな違和感があるわけです。ですから師走だけは季節を先駆けての掛軸を飾ることができず、その結果、選ぶことのできる掛軸の選択肢が圧倒的に少ないのです。ですから、私は日ごろから、師走の掛軸を見かけたら極力手に入れるように心がけています。なかなか見つからない師走の掛け軸ですが、やっと見つけたものがあるので、ご紹介させていただきます。絵を江戸初期の狩野派の絵師、狩野長信が描き、その絵に茶人として名を馳せた松平不昧公が、後に歌を添えた掛け軸です。描かれている題材は茶筅売りの姿です。添えられている歌を賛(さん)と言いますがそこには 扣瓢箪念仏(たたくひょうたんねんぶつ)市賣茶筅(いちうるちゃせん)空也々々(くうやくうや)一瓢一筅(いっぴょういっせん)と、松平不昧公の手によって添え書されています。この歌の中に出てくる「空也(くうや)」というのは、今から約1100年前の平安時代中期に生きた空也上人(くうやしょうにん)のことです。空也上人は在俗の修行やとして諸国を巡り、また京のみやこの辻に立って鉦(かね)、あるいは瓢箪を叩いて念仏を唱えて人々の救済を願ったそうです。今も京都の東山にある六波羅蜜寺には、口から小さな阿弥陀仏を吐きながら念仏を唱える空也上人立像が残され、重要文化財に指定されています。空也上人に従って多くの人々が帰依したので、上人が入寂された後も人々は上人を慕って11月13日に空也忌を催しました。そして人々は高らかに念仏を唱え、鉦(しょう)をたたき、竹杖で瓢箪(ひょうたん)をたたきながら年の暮れまで、みやこの内外を回ったそうです。やがてそれが、神社の祭礼に屋台が並ぶが如く、商人たちが物売りをするようにもなり、瓢箪を叩いて空也々々と念仏を唱えながら歩く姿が、この掛軸に描かれている茶筅売りなのです。「うつわ知新」のタイトルをいただきながら、さっぱりうつわのお話しをしないで進めてきました。しかしここで皆さんにお考えいただきたいことは、お料理のうつわは陶器・漆器・ガラス・銀・錫・木で作られたものだけなのでしょうか。お部屋に飾られた掛軸・絵画、あるいはお花・花器といったものたちも、食事をするお部屋の空間を盛り上げるための役目を担うわけですから、広い意味で言えばうつわとも言えるかもしれません。お料理屋さんへ行った時、掃き清めて打ち水をしたお玄関や、迎え入れてくれる暖簾に始まり、今日お話しした掛軸等々に至るまで、すべて皆様のお会計に含まれているものですから、これらを味わうことなく帰ることは実にもったいないことです。ぜひ、目の前に運ばれてくる料理やうつわだけでなく、接客サービスも含めて提供されたすべてをお召し上がりになってください。最後の最後にひとつだけうつわのご紹介もさせていただきます。師走になり、冷え切った空気に背中が丸くなってくると、温かいものが何よりのご馳走になることは今も昔も同じ。千利休の孫にあたる三代目千宗旦(せんのそうたん)が、楽家四代目の一入(いちにゅう)に、柚味噌を味わうために作らせたと伝わるうつわです。その後、代がかわっても「柚味噌皿」と呼ばれ作り続けられている楽家の冬の定番です。アツアツに炊いた大根に柚味噌をのせて、うつわを手で包み込んで、湯気の中でフゥフゥ言いながら、その温かさも柚の香もご馳走にしてしまった400年前の茶人たちの姿が目に浮かぶようです。■ 梶古美術京都市東山区新門前通東大路西入梅本町260075-561-4114営10時~18時年中無休(年末年始を除く)
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BLOG割烹知新〜奇想の一皿〜
2019.11.29
上賀茂 秋山「子持ち鮎のリゾット風」
奇想の一皿「子持ち鮎のリゾット風」北山の麓、囲炉裏のある古民家で「この土地ならではの料理」に挑戦し続ける秋山直浩さん。毎朝、鷹峯「樋口農園」まで足を運び、畑と対話しながら料理の構想を練る秋山さんのお料理は、年月とともに幅を広げ、多くの人を魅了し続けています。発想秘話うちでは「だしもん」にもち米をしのばせることがままあります。もともとは「だしがもったいないからパンが欲しい」というお客様の声がきっかけでした。今回の「リゾット風」というアイデアも、そこに由来したものです。鮎については、時期的にそろそろ塩焼きにも飽きてきたので、干物にしたらどうかなと。その場合、子や内臓は塩漬けにして「うるか」にするのが一般的ですが、今回は一度外した「子」を再び鮎に戻し、一緒に食べてもらいます。外した子を再び鮎に戻すためには、なにか別の食材と合わせて練りこむ必要がある。そこで登場するのが、秋の味覚でもあるさつまいもです。秋になって子を持つようになると、鮎の味はどうしても落ちてくる。子に栄養を取られますから。鮎の味を補う意味でも、さつまいもの甘みは効果的ですね。魚の子って、加熱すると食感が「もそもそ」するじゃないですか。僕は「もそもそ」した食感があまり好きじゃないので、裏ごししたさつまいもと合わせることで、食感を滑らかにするという効果も狙いました。では調理していきましょう。鮎を開いて中骨を外し、昆布だしに塩と酒を加えた「たてじお」に漬け込んで味をなじませます。それを一夜干しにしたものがこちらですね。ここに、鮎の子を混ぜたさつまいもを挟みこんでいきます。鮎の子はぷちぷちとした食感が残るぐらいにさっと湯がき、裏ごしたさつまいもと合わせます。味付けには鮎の魚醬を使いました。何か食感を足したかったので、さっと湯がいたレンコンも一緒に挟みます。それでは炭火で焼いていきましょう。強火の遠火でじっくり30~40分くらい。頭にしっかり火を通したいので、焼き時間は長めです。だしは、かつおと昆布でとっただしに、鮎だしを加えたダブルスープです。鮎から外した中骨を利用して、鮎だしを用意しました。炙って香ばしくした中骨から煮出したものです。リゾットには鮎のほかに、合わせだしで炊いたサトイモ、千切りにした生のじゃがいも、ずいき(サトイモの上の部分)が入ります。実はこれ「芋尽くし」なんですよ。僕はこういう「〇〇尽くし」が結構好きなので、今回は芋でまとめてみました。ずいきは葛をまぶしてから葛湯で湯がき、氷水で冷やしたもの。こうするとちょうど「じゅんさい」のような、ヌルシャリっとした食感になる。生のじゃがいもはスープの熱でレアっぽさを残して......ひとつのお皿の中で、いろんな食感を楽しんでいただきます。さあ、鮎が焼きあがりました。もち米と芋尽くしの具、鮎が入った器にスープを張り、刻んだ蓼と茗荷を乗せて完成です。まず鮎を頭からかじってもらいます。スープでやらかくなる前に。身はそのままかじってもいいんですが、ほぐしながら食べすすむと子がスープに溶け出して......リゾットみたいになるでしょう? ちなみにその蓼は僕が鴨川の上流で摘んできたものです(笑)。いろんな食感を楽しみながら、スープに溶け出した鮎のうまみを味わい尽くしてください。もともと「この立地でしかできない料理が作りたい」という思いがあり、上賀茂で店を始めました。今でも毎日、市場の帰りに樋口農園さんに顔を出します。畑の様子を見ながら料理の構想を練るんです。聖護院かぶらはまだちっさいから、くたくたに炊いて鍋にしようか、とか。菊菜がこれくらいに育ってきたから、来月は菊菜のしゃぶしゃぶにしようか、とか。この場所で店を開いて13年。人手も増えて、徐々にできることが増えてきました。今回の干物もそう。ずっとやりたいという思いはあったけど、手が足りなくてできなかったことのひとつです。この素晴らしい環境で、これからもどんどん「やりたいこと」を実現していきたいですね。撮影 鈴木誠一 取材・文 鈴木敦子■上賀茂 秋山京都市北区上賀茂岡本町58075-711-513612:00~14:30(入店12:30)、18:30~22:00(入店19:30)休 水曜、月末の木曜
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BLOG料理人がオフに通う店
2019.11.29
「すし甚」―「点邑」小林紀之さんが通う店
「点邑」小林紀之さん《プロフィール》 東京都出身。服部学園で料理を学んだのち、京都で和食の世界へ入り、老舗旅館「俵屋」へ。「俵屋」プロデュースの天ぷら専門店「点邑」のオープンより同店料理長を務め、腕を振るっている。熟練の技による繊細な季節の一品や天ぷらは、全国に多くのファンを獲得している。季節の一品や握りをつまみ、会話に興じる至福のひと時。長く愛され続ける洛北の人気店銀閣寺道バス停から、徒歩すぐ。今出川通沿いに見えてくるモダンな建物が、地元で人気の寿司屋「すし甚」だ。小林さんはここに30年近く通い続けているという。「僕がまだ俵屋にいる頃からのおつきあい。若い頃、どこかの料理屋さんの大将に連れて行ってもらったのが最初だったと思う。今も変わらずおいしくて、うちの家族や両親も大好きなお店です。時には店の子を連れて行ったりすることもあります」(小林さん)16歳からこの道に入って50年以上という店主の西川政明さん。38年前に北白川で店を始め、2年後に現在の場所へ移転。これまで、価格以上においしい寿司作りに努めてきたという。ジャズが流れる明るい店内は、1階にコノ字型のカウンターがあり、ネタの入ったガラスケースがずらりと並ぶ。老舗の寿司屋といっても、西川さんの親しみやすい雰囲気で、緊張感なく楽しめるし、品書きのすべてに価格が記載されているので、会計を気にする心配も無用だ。「僕も、小林さんのお店にはたまに寄せてもらいますが、勉強になるところがたくさんあります」と、西川さん。鮮魚は毎日市場に赴き、淡路産をはじめ近海のものを中心に仕入れる。季節ごとに変わる品書きには、旬の魚介の造りや焼き物に、鯛のあら煮、生麩田楽、松茸土瓶蒸し、焼き茄子のかにあんかけ、ぐじ酒蒸しなど、一品料理が豊富に揃うのがうれしい。「季節に合わせて旬のものをストレートに出してくれるお店。とにかく一品料理がたくさんあって、お寿司にたどり着くまでの一品一品がとてもおいしいんですよ。お酒を飲みながらそうした一品を味わって、最後はちょっと握っていただくというスタイルです」と、小林さん。写真は刺身盛り合わせで2人前3600円~。脂の乗った鰹をはじめ、トロ、鯛、トリガイ、海老など、どれも美味い。「今だと鰹がおいしい。あまり鰹を食べる機会がなかったんだけど、ここの戻り鰹はあれば必ず頼みます」(小林さん)こちらの寿司は赤酢を使わない関西風の味付けで、新鮮なネタとシャリのバランス、酢の加減もちょうどいい。「関東の方もおいしいと言ってくださいます」と、西川さん。自慢のシャリには、米屋に特注したブレンド米を使用し、水も米の甘味を生かすために元豆腐屋の地下水を使っているという。醤油も薄口と濃口をブレンドし、昆布やシイタケ、酒などを加えて店用に仕立てたもの。ここではそのまま食べられるように、寿司はさっと醤油を塗ってから出しているそうだ。ふっくらとろけるようなおすすめの穴子や煮だこなど、細かな工夫が施されたにぎりは1貫200円~1000円(各1貫・税別)。小林さんはうずら玉子の軍艦や芽ねぎ、このわたなどをよく頼むそうで、「一品は注文してすぐには出てこないから、待っている間にこのわたのお寿司で一杯飲んだりしています」。予算は7千~8千円と、決して安価ではないが、寿司も一品もそれ以上の満足感が得られるはずだ。西川さんと、奥様の晴美さん、そして元イタリアンの料理人で今は西川さんの補助を務める娘の美早子(みさこ)さん。小林さんは、この店の魅力は、何よりも店を切り盛りする西川さんたち家族やスタッフの人柄の良さだと話す。「僕は仕事終わりに行くんですが、奥様はいつも電話で快くどうぞと言ってくださるし、接客も気持ちいい。大将、奥さん、娘さん、スタッフ皆が素敵で、仕事の疲れも消してくれるようなお店です」(小林さん)「小林さんに限らず、来店されて帰られるまでは、片付けでばたばたすることなく、ちゃんと応対させてもらうようにしています」と、西川さん。サービスに関して、ポリシーとしているのは気配りだと話す。「例えばすぐに食べたあとのお皿をさげる、お茶をかえるといった当たり前のことですが、なかなかできなかったりする。お客さんの様子を見ながら、細かなことまで気を配って行えるよう心掛けていますね」(西川さん)落ち着いた雰囲気の2階はテーブル席になっており、宴会などでの利用もできる。「うちは一品も多いので、気軽にわいわいと楽しんでいただければ」と西川さん。店には、30年以上のご贔屓から最近の若いファンまで、幅広い層が訪れる。この日は平日だというのに、開店時間から予約が入り、6時半頃にはカウンターが常連客たちでほぼ満席に。中には、市内南部や西部など遠くからタクシーを飛ばしてきているお客も。皆、西川さんたちとのやりとりを楽しみながら、一品や寿司に舌鼓を打っている。その様子がなんとも楽しげで、このひと時を味わいたいがために、わざわざ足を運んでいるのだということがよくわかる。「食べ物がおいしいところはいろいろあるけれど、すべてに満足して帰ってこられるお店ってなかなかない。ああ、本当にこの人に会えてよかったとか、すべてを含めてほっとするお店です」(小林さん)撮影 エディオオムラ 文 山本真由美■すし甚京都市左京区浄土寺西田町100-3817:30~24:00(LO23:00)※要予約休 木、第3水075-751-7574
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