BLOG料理人がオフに通う店2019.11.29

「すし甚」―「点邑」小林紀之さんが通う店

「旨い店は料理人に聞け!」京都を代表する料理人がオフの日に通う店、心から薦めたいと思う店を紹介する【料理人がオフに通う店】。今回は「点邑」の料理長、小林紀之さんが通う「すし甚(じん)」です。

「点邑」小林紀之さん

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《プロフィール》
東京都出身。服部学園で料理を学んだのち、京都で和食の世界へ入り、老舗旅館「俵屋」へ。「俵屋」プロデュースの天ぷら専門店「点邑」のオープンより同店料理長を務め、腕を振るっている。熟練の技による繊細な季節の一品や天ぷらは、全国に多くのファンを獲得している。

季節の一品や握りをつまみ、会話に興じる至福のひと時。長く愛され続ける洛北の人気店

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銀閣寺道バス停から、徒歩すぐ。今出川通沿いに見えてくるモダンな建物が、地元で人気の寿司屋「すし甚」だ。小林さんはここに30年近く通い続けているという。

「僕がまだ俵屋にいる頃からのおつきあい。若い頃、どこかの料理屋さんの大将に連れて行ってもらったのが最初だったと思う。今も変わらずおいしくて、うちの家族や両親も大好きなお店です。時には店の子を連れて行ったりすることもあります」(小林さん)

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16歳からこの道に入って50年以上という店主の西川政明さん。38年前に北白川で店を始め、2年後に現在の場所へ移転。これまで、価格以上においしい寿司作りに努めてきたという。ジャズが流れる明るい店内は、1階にコノ字型のカウンターがあり、ネタの入ったガラスケースがずらりと並ぶ。老舗の寿司屋といっても、西川さんの親しみやすい雰囲気で、緊張感なく楽しめるし、品書きのすべてに価格が記載されているので、会計を気にする心配も無用だ。

「僕も、小林さんのお店にはたまに寄せてもらいますが、勉強になるところがたくさんあります」と、西川さん。

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鮮魚は毎日市場に赴き、淡路産をはじめ近海のものを中心に仕入れる。季節ごとに変わる品書きには、旬の魚介の造りや焼き物に、鯛のあら煮、生麩田楽、松茸土瓶蒸し、焼き茄子のかにあんかけ、ぐじ酒蒸しなど、一品料理が豊富に揃うのがうれしい。

「季節に合わせて旬のものをストレートに出してくれるお店。とにかく一品料理がたくさんあって、お寿司にたどり着くまでの一品一品がとてもおいしいんですよ。お酒を飲みながらそうした一品を味わって、最後はちょっと握っていただくというスタイルです」と、小林さん。写真は刺身盛り合わせで2人前3600円~。脂の乗った鰹をはじめ、トロ、鯛、トリガイ、海老など、どれも美味い。

「今だと鰹がおいしい。あまり鰹を食べる機会がなかったんだけど、ここの戻り鰹はあれば必ず頼みます」(小林さん)

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こちらの寿司は赤酢を使わない関西風の味付けで、新鮮なネタとシャリのバランス、酢の加減もちょうどいい。「関東の方もおいしいと言ってくださいます」と、西川さん。自慢のシャリには、米屋に特注したブレンド米を使用し、水も米の甘味を生かすために元豆腐屋の地下水を使っているという。醤油も薄口と濃口をブレンドし、昆布やシイタケ、酒などを加えて店用に仕立てたもの。ここではそのまま食べられるように、寿司はさっと醤油を塗ってから出しているそうだ。

ふっくらとろけるようなおすすめの穴子や煮だこなど、細かな工夫が施されたにぎりは1貫200円~1000円(各1貫・税別)。

小林さんはうずら玉子の軍艦や芽ねぎ、このわたなどをよく頼むそうで、「一品は注文してすぐには出てこないから、待っている間にこのわたのお寿司で一杯飲んだりしています」。

予算は7千~8千円と、決して安価ではないが、寿司も一品もそれ以上の満足感が得られるはずだ。

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西川さんと、奥様の晴美さん、そして元イタリアンの料理人で今は西川さんの補助を務める娘の美早子(みさこ)さん。小林さんは、この店の魅力は、何よりも店を切り盛りする西川さんたち家族やスタッフの人柄の良さだと話す。

「僕は仕事終わりに行くんですが、奥様はいつも電話で快くどうぞと言ってくださるし、接客も気持ちいい。大将、奥さん、娘さん、スタッフ皆が素敵で、仕事の疲れも消してくれるようなお店です」(小林さん)

「小林さんに限らず、来店されて帰られるまでは、片付けでばたばたすることなく、ちゃんと応対させてもらうようにしています」と、西川さん。サービスに関して、ポリシーとしているのは気配りだと話す。

「例えばすぐに食べたあとのお皿をさげる、お茶をかえるといった当たり前のことですが、なかなかできなかったりする。お客さんの様子を見ながら、細かなことまで気を配って行えるよう心掛けていますね」(西川さん)

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落ち着いた雰囲気の2階はテーブル席になっており、宴会などでの利用もできる。

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「うちは一品も多いので、気軽にわいわいと楽しんでいただければ」と西川さん。

店には、30年以上のご贔屓から最近の若いファンまで、幅広い層が訪れる。この日は平日だというのに、開店時間から予約が入り、6時半頃にはカウンターが常連客たちでほぼ満席に。中には、市内南部や西部など遠くからタクシーを飛ばしてきているお客も。皆、西川さんたちとのやりとりを楽しみながら、一品や寿司に舌鼓を打っている。その様子がなんとも楽しげで、このひと時を味わいたいがために、わざわざ足を運んでいるのだということがよくわかる。

「食べ物がおいしいところはいろいろあるけれど、すべてに満足して帰ってこられるお店ってなかなかない。ああ、本当にこの人に会えてよかったとか、すべてを含めてほっとするお店です」(小林さん)

撮影 エディオオムラ  文 山本真由美

■すし甚

京都市左京区浄土寺西田町100-38
17:30~24:00(LO23:00)※要予約
休 木、第3水
075-751-7574