食知新ブログ
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BLOG割烹知新〜奇想の一皿〜
2019.10.29
おたぎ「アンチョビ香るいわし担々」
奇想の一皿「アンチョビ香るいわし担々」馬場一彰さんは「和久傳」料理長を経て、2012年に独立。確かな技術と創意工夫に富んだおまかせが評判を呼び、瞬く間に予約の取れない人気店に。昨年、北大路から鷹峯に移転し、さらなる進化に注目が集まります。発想秘話独立前から「いつか自家製麺を打ちたい」という思いがあり、京都じゅうの製粉所を訪ねた時期がありました。その頃、川端にある「河村製粉」のご主人と出会い、製麺にまつわるさまざまな手ほどきを受けたんです。それ以降、そば、うどん、そうめん、中華そば......と、自家製麺のレパートリーは年を追うごとに増え、今では当店に欠かせないひと品になっています。そんなわけで、このお話をいただいた時「自家製麺で」という方向性はすぐに決まりました。今は時季的に青背の魚がおいしいので、いわしのそぼろを使った担々麺はどうかなと思い、そこから個性の強いいわしに負けないスープ、さらにはスープによく絡む麺......と組み立てていきました。麺は打ちたてがおいしいので、直前に用意します。今日使うのは、中華麺よりややうどん寄りの麺。力強いスープと合うよう、粉の配合から工夫しました。出汁にパンチを効かせるので、コシも強めに。今から切っていきますが、柳包丁を使うのが今回のポイントのひとつ。柳包丁で切ると麺に自然なしなりが出て、スープに絡みやすくなるんです。次にスープの肝となるいわしペーストを作ります。使うのはアンチョビと自家製のオイルサーディン。2種類のいわしをフードプロセッサーにかけ、できあがったものに胡麻ペーストを加えて混ぜ合わせます。これがスープの素になります。ここにお出汁を加えていきます。かつお節とあじ節の合わせ出汁。うまみの強い、濃厚な和の出汁を使います。先ほどのペーストに少しずつ出汁を加えてのばしていくと......だんだん担々麺のスープっぽくなってきたでしょう? これでスープのベースが完成。次に火を入れていきますが、ここが腕の見せどころ。魚や胡麻の油分がスープと分離するのを防ぐため、沸騰前に吉野葛を加えてつないでやるんです。この量の見極めが重要で、スープの舌触りを損なわないよう、適量を少しずつ加えていく。ざらざらしたり、だまだまになったら絶対あかんとこなので慎重に。理想的な若干のとろみ、艶が出たところで最後に味を調えます。この時点ではほぼアンチョビの塩気だけなので、砂糖と醤油を加えて......ふふ、めっちゃおいしいです(笑)。包丁で食感が残るぐらいに叩いたいわしを生姜と一緒にオリーブオイルで炒め、そぼろにしていきます。味付けはお隣の「松野醤油」さんの赤だしみそと少量の砂糖。いわしの香りが立ち上がったら出来上がり。熱湯で1分30秒茹がいたら、氷水でしっかり締めて麺が完成。盛り付けをしていきます。"食感"の叩きネギ、"香り"のあさつき、"アクセント"の生姜をトッピングして、黒七味と山椒で辛みをプラス。うん、上手にできたんちゃうかな。つるつると喉ごしのよい自家製麺に、いわしのうまみを凝縮したスープ、そして噛みしめるたびに濃厚なうまみが口いっぱいに広がるそぼろ。残ったスープは「追いメシ」で、きれいにさらえちゃってください。和と中華、さらにはイタリアンのエッセンスが加わって、おもしろい麺になったと思います。「和食の垣根を越えて」というお題でしたが、自分らしい料理ができたんじゃないかと満足しています。料理を作る際、和食の枠組みというのは常に意識しますが、オーソドックス過ぎてもうちらしくないし、かといって創作に寄り過ぎてもいけない。そのあたりのさじ加減を考えながら、自分らしい料理を提案していきたいですね。撮影 鈴木誠一 文 鈴木敦子■おたぎ京都市北区鷹峯土天井町18075-492-177117:30~20:00(L.O.)休 水曜(不定休あり)
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BLOG京都グルメタクシー
2019.10.25
おいしい京都案内 | グルメタクシーの1日ツアー
おはようございます!京都は秋まっしぐら。紅葉の美しい風景に街全体が変わっていきます。そしてやっぱり食欲の秋ですね。さて、本日のドライバー日記は実際の京都グルメタクシーがどのようなものか、リアルな感じでご紹介したいと思います。そして、コラム「グルメタクシーの流儀」を途中でご紹介しておりますので、ぜひ参考にしてください。それでは今日も「京都グルメタクシーツアー」出発です!グルメタクシーの流儀①「グルメコンシェルジュとしてお客様を診断」 はじめてご乗車頂いたお客様には事前にメール等でお好みをお聞きします。当日コースを決めたい方には、お好みやツアーの趣旨、目的を走行中にお聞きします。できるだけお客様の情報をいただくことで、ニーズにお応えできるよう心掛けます。まずは一か所目の目的地を設定して、そこへ着くまでの車内でお話をお聞きする時間をつくります。右が東寺餅 左が亥ノ子餅 どちらを買おうか悩んだときは、両方買いましょう(笑)8:00 静まり帰った京都駅からスタートしたグルメタクシーですが、この時間から南区にある「東寺餅」は開店していて、早朝立ち寄れる数少ないグルメスポットの一つです。定休日がなぜか「6」がつく日らしく、店名の「東寺餅」がおすすめです。重力のない生地といいましょうか。フワフワの「赤ちゃんのほっぺ」のような食感。車内で食べてもらいながらお客様の好みをお聞きし、時間を大切に使います。■御菓子司 東寺餅京都府京都市南区東寺東門前町88 075-671-7639 7:00~19:00定休毎月6・16・26日 (日曜日・祝日は営業)グルメタクシーの流儀②「時間ロスはグルメタクシーの天敵」 数カ所訪ねる場合は、効率よく回るように心がけます。お客様の要望の場所と自らの情報を加えてめぐっていきます。時にはわらび餅の予約を流れの中で設定し、何気なくその店に立ち寄っていたという感じでご紹介します。朝食も「おいしい」は当たりというのが前提で、さらに次の目的地に最短距離で行けるよう経路の中で設定します。もちろん定休日、営業時間はあらかじめお調べして、時間ロスがなくなるよう配慮します。ミックスサンド(トーストバージョン)のほかに生パンバージョンもあります。どちらもおすすめです。自家製プリン 古き良きタマゴ感の強い懐かしいグルメ。お母さんの味かもしれませんね。 9:00 東京から早朝の新幹線でお越しのお客様。野菜ジュースを飲まれた程度で京都へこられたこともあり、お昼まで時間もあるので、急遽「軽い朝食が食べられるお店」をご案内することとなりました。「やまもと喫茶」は祇園新門前の骨董屋さんや旅館がひしめく場所にあり客層も様々で、祇園の憩いの場として地元の人が集う喫茶店。おすすめは「ミックスサンド」「タマゴサンド」で、生食パンが基本ですが、焼きトーストにして香ばしくつくってもらうこともできます。〆の「自家製プリン」はお腹に余裕があれば是非♪■やまもと喫茶京都府京都市東山区白川北通東大路西入ル石橋町307-2075-531-01097:00~17:00 (L.O.16:30)定休日火曜日グルメタクシーの流儀③「体を動かして空腹感をとりもどす」 一日の食べる量は決まっていますね。グルメツアーは日常より若干多めに食べる可能性が高いので「空腹を演出する」といいましょうか、歩くことで体を動かし、より次の食事がおいしくなる流れを作ります。さりげなく、極めてさりげなく、気が付けば「おなかがすいた」というのがベストですね。清水寺の4.6倍(1046㎡)のフロア面積があるといわれている大舞台から見る京都の見事な青空。グルメタクシーの流儀④「お土産選びも、グルメタクシーにおまかせ」 京都で美食を堪能した後は、余韻がほしいところです。その日の夜や後日楽しむグルメがあると、京都の思い出が倍増します。道すがらの流れで厳選されたお土産店もご紹介し、おすすめ商品もあらかじめお客様にお伝えしてから入店いただきます。時にはお客様と一緒にお店へ入ることもございます。紅葉も桜も美しい青龍殿。京都が一望できます。大隈重信はじめ、著名人も眺めた風景。 10:00 京都の人気観光スポットである青蓮院門跡の「飛地境内」といわれているのが、こちらの「将軍塚青龍殿」です。東山の頂上にあるので絶景が楽しめます。奈良から長岡へ遷都した桓武天皇は、この山頂から京都盆地を見下ろして、平安京の場所を定めたといわれています。広大な庭園を散歩することが出来、四季折々の草花、樹木が楽しませてくれます。山頂ですが、起伏はそれほどなく一部(鉄筋の展望台)をのぞけばほぼフラットな道です。上から見下ろすこの京都の町に、様々な「おいしい京都」が存在すると思うと楽しくなりますね。錦市場の名店「大國屋」 みているだけで食欲がそそられます。旬の魚おいしいですよね。「ぶぶうなぎのセット」 小山園の茶葉も使用するので期待度大。帰宅しても錦市場の気分。「ぶぶうなぎ」 鰻のうまみと独自の料理技法は限りなく美食の世界へ導いてくれる。 11:00 錦市場にある「大國屋」に到着。お持ち帰りの相談をお客様としたところ、「ご飯が大好き」とお聞きしたので、「佃煮」「漬物」などをご紹介したのですが、その中でもっともお客様の反応が大きかったのがこの「ぶぶうなぎ」。川魚のスペシャリストと呼んでいるこのお店は、鰻だけでなく「稚鮎」「本もろこ」「子もち鯉」など関西の水の拠点、琵琶湖由来のものもあり一般客だけでなく飲食業のプロも買いにくるほど人気です。「大國屋鰻兵衞(おおくにやまんべい)」という二店舗目では、店主が「地焼きうなぎと御竈飯(おくどはん)」を提供、次回のお昼はこちらをおすすめしてもいいでしょうね。錦市場は外国人観光客も増えてきましたが、商店街はいろいろ工夫をかさねて「元祖美食ストリート」として頑張っておられます。ぜひ、立ち寄ってください。■大國屋京都府京都市中京区東魚屋町177-2075-221-06489:00~18:00定休日水曜日グルメタクシーの流儀⑤「食べたものしか紹介しない、紹介できない」 あたりまえの鉄則です。けれど、新人のときは過ちを犯してしまいました。飲食店のリストも不十分で観光タクシーとして走り始めたとき、お客様の要望にかなうお店がリストになく、仕方なく「人気店だと思われている」お店にとりあえず急場お連れしました。30分もせずに車に戻られて、「座って5分で弁当がでてきた。出来あいのものを食べたいと言った覚えはない」とおしかりを受けたのです。食べてもいないのに紹介することこそ「最悪のサービス」だったと痛感。それ以来私は日々情報を収集して現在では3500軒以上のお店を食べ歩き、800軒あまりを厳選してご紹介しております。ですが、まだまだ情報は足りないと思い、今でも継続してリストを増やしています。 なんともいえないフォルム。ある意味、「いいとこどり」なところがこの料理でしょうね。実は「たん義」には季節限定ですが「鱧丼」なるものもあります。真夏にぴったりです。 12:30 錦市場を堪能したのですが、実は商店街の全長は新幹線の長さに匹敵するので、往復すると結構歩いたことになります。そういえばお客様はご飯がお好きだとお土産の時の会話で聞いていました。そうだ、先日行った「たん義」の「かき揚げ丼」をと思いつき、おすすめしました。お客様も即答で、ぜひ!とおっしゃり、祇園に車を走らせます。この「たん義」は親子で切り盛りされていて初代のあと一旦別の方が料理長をなさっていたのですが、いまはお孫さんが継承された貴重なお店です。懐石、弁当物も一通りできますし、通し営業なので昼過ぎでどこも開いてない時間でも食べることができます。この「かき揚げ」をご覧になって「あれ?」ってなりませんか?(笑) 野菜のかき揚げはしっかりあるのですが、そのあとさらに卵とじになっているのです。香ばしい衣と、まったりとした半熟の卵が混在して、ブログでは「不思議なかき揚げ丼」とタイトルにしているほどレアな食感と味に仕上がっています。と・・・・書いてはみるものの表現しにくいおいしさなので皆さんも是非足を運んでください。お母さんと息子さん、とっても素敵な方なので、話をするだけでも、京都の来たことを実感できます。■たん義 (たんよし)京都府京都市東山区西之町210-2 075-561-044612:00~21:30定休日不定休http://tanyoshi.com/index.htmlグルメタクシーの流儀⑥「お客様と職人・料理人との距離を短くする努力」 タクシーの車内ではおもてなしのトークを精一杯させてもらいます。ご乗車頂いている間も車窓に映る店舗を見ていると自然と会話がでてきます。もちろんお客様からの質問にも受け答えしながら、京都のすばらしさをお伝えしております。そこで私が提案するのが「お客様とお店の人とのつながり」。やはり京都の味や工芸品をご紹介する上で、実際に作ったり、携わったりする方からお話を聞くことは京都をより理解していただくことへの近道だと思っております。その機会を作ることもグルメタクシーの使命だと思っています。「京都知新」はそんな職人さんがたくさん紹介されていますね。是非情報を参考に訪ねてみて直接商品を依頼されたり、お話されたりするとより京都を楽しめます。 13:30 車内では「おいしかった~」「あのお店のメニューの絵柄、提灯、雰囲気、素敵でした」など、ご感想をいただきながらさらに京都の街を走ります。本日のお客様からは、あらかじめメールでご要望をいただいておりました。予約されたその日からお客様との相談がはじまります。法人タクシー時代はほとんど当日の朝の伝票の詳細だけでスタートしていましたので、事前にお好みのお店を予約することができず、精度を欠いたご案内になったことが多々ありました。今実施している「あらかじめのご相談」はグルメタクシーの武器にもなっています。「おいしいアイスクリームのお店を探してください」とリクエストがあったので、昼ごはんのデザートもかねて、東山七条の「ともみジェラート」に行くことにしました。 ジェラートにぞっこんの店主のともみさんは、イタリアで本場のジェラートを学ばれ日本の食材を使って作ったジェラートを広く味を広めたいと思われたそうです。季節ごとの様々な種類のジェラートがあり、食材は、現地までいかれて農家の方々と「どうすればおいしいものができるのか」を共に考えて仕入れるそうです。商品開発、食材調達、販売まですべてお一人でされているので、お客様がいろいろ質問にもすべて答えてくれます。「ジェラート好きなお客様」のときは、話が盛り上がり二つも食べられることもあり、私もうれしくなりました。写真は6月の「イチジク」で材料は、イチジク、水、粗糖(精製していない砂糖)がメインで当然添加物や増粘類も入っていません。イチジク、かじった!という印象が強く非常においしいのです。「丹波黒豆きなこ」「ほうじ茶」「塩甘酒」「苺」「高倉のびわ」(季節限定もあり)など常時10種類ぐらいがあります。ともみさんとしばしジェラート談義に花が咲き、皆さん満足されてお店をあとにしたのでした。■ともみジェラート京都府京都市東山区妙法院前側町451-1075-354-531511:00~19:00定休日月曜日・火曜日(催事等・臨時休業あり)http://tomomigelato.jp/グルメタクシーの流儀⑦「季節感を最大限に生かす」 どうして秋に来られたのか。時として「時間」「季節」を重要視してご指名くださる方もおられます。秋と言えばキノコ類や根菜、ジビエなどの具材や煮込みなど調理法へのリクエストもあります。たとえば「温かい餡かけうどんが食べたい」と望まれる方や、「甘味で秋と言えば栗」という要望も多いので、売り切れ必至の商品はあらかじめ電話でおさえます。商品の予約もグルメタクシーのサービスに含まれています。見ての通り「金の実」、うすい糖衣により栗本来のおいしさをダイレクトに感じられる。(通年販売)餡子は使用していない栗のあまさだけで勝負している「栗おはぎ」、美味しいお茶とご一緒に。 14:30 大正6年と昭和3年に「天皇陛下お買い上げの栄」を賜ったこともある「京都くりや」。現在は3代目ご主人の山名清司さんがお菓子作りをされていて、「金の実 栗納豆」は自然の風味を生かした看板商品。グルメタクシーをよくご利用いただく常連さんのなかには、秋にはこちらをコースに毎年加えられる方もおられます。和風マロングラッセと言ったらわかりやすいかもしれませんが、この和栗の独特の風味はここだけのものかもしれません。今年は9月中旬から12月上旬の限定販売で、「栗おはぎ」が登場します。口の中で栗のおいしさがにじみ出てとろけます。まさに秋の味です。■京都 くりや京都府京都市中京区堀川丸太通油小路西入ル大文字町42-4 075-231-4564平日8:00~19:00日祝9:00~18:00定休日元旦グルメタクシーの流儀⑧「通常の京都観光もできます」 グルメに特化しておりますが、実はもともと法人タクシー会社の観光課に所属する観光ドライバーでした。「京都検定」は2級。さらに現在「京都府文化観光大使」を委嘱いただき、京都府の亀岡市、伊根町、向日市、美山町、大原野、八幡市など府内の観光案内も可能です。秋の穴場的な紅葉名所もご紹介しておりますので、せっかくですからここで2か所ご紹介したいと思います。こちらのお寺をご存じの方はかなり京都通です。「栄摂院」はカメラ好きの方からの情報でした。決して多くはない紅葉。実直で誠実な深紅の輝きは人を立ち止まらせるぐらいの魅力があります。 15:30 京都市左京区の金戒光明寺(通称黒谷)の小院の「栄摂院」です。戦国武将の木俣守勝によって創建、通常は拝観できませんが、紅葉のシーズンに特別公開される時があります。平日は数人しか観光客がいないこともあり、隠れた紅葉スポットでもありますね。この葉の紅(くれない)が美しさ全開で迫ってきます。 16:30 もう一つの紅葉のスポットは「北野天満宮」です。菅原道真が祀られていて学業成就の神社として有名です。白梅町ともいわれていて「梅」のイメージがありますね。ここにはお土居という豊臣秀吉がつくった壁があるのですが、そこを下りた「紙屋川」周辺は、夕暮れ時に紅葉が黄金色に見えます。その一瞬をうまく狙うのがプロの観光タクシーの腕の見せ所ですね。実に美しい。この川の両岸を往復すると、いよいよグルメタクシーの終盤を迎えることになります。グルメタクシーの流儀⑨「黄昏時の癒しの時間をグルメで演出」 早朝からはじまったグルメツアーのなかで、夕暮れの時間を「癒し」時間と私は呼んでいます。ほっこりしてディナーに行っていただけるよう、カフェやお抹茶の出る寺院などで休憩できるところをおすすめします。おいしい珈琲とおつまみ、抹茶とお菓子、日本茶でほっこりみたいなものもいいですね。店主の気持ちが伝わる良質な珈琲。やっぱりいついっても、また行きたくなる味・空間です。 17:00 「カフェ デ コラソン」は以前御乗車いただいた「珈琲好き」のお客様が、美味しい京都の珈琲を飲みたいとおっしゃったときに、リサーチして発見しました。店主の川口勝さんは、有名店「珈琲屋バッハ」の店長をされていて、その後独立。専用の焙煎機を使い、京都の気候を巧みに察知して、焙煎されています。「コラソンブレンド」をはじめ、デザートの「珈琲ゼリー&ブランマンジェ」や「夏みかんのアーモンドケーキ」(春限定)などもあります。奥様も有名店で修行されていますからお菓子もおいしい。照明が温かく、ぬくもりある暖色の店内は「癒やしの空間」そのもの。夜のお店までの待ち時間にもちょうどいいですね。目の前の焼き菓子をみているとまた食べたくなります♪■カフェ デ コラソン (cafe de corazon)京都府京都市上京区革堂町593-15 075-366-313609:00~18:30定休日日曜日、第三月曜http://cafe-de-corazon.com/グルメタクシーの流儀⑩「お客様が訪問されたお店をすべて記録に残す」 御乗車されている間にいろいろなところへ行きますが、そのお店の記録は必ず残します。またそのときお客様が次回に要望された事も記載し、万全な状態で次回のご予約をお待ちします。「お客様ごとの食の記録」はグルメタクシーのもう一つの長所でもありますね。あのとき行ったお店にもう一度行きたい。今回は前回行ったところと違う新たな京都の食に出会いたい。などのニーズにもしっかりお応えできます。ある意味「スルメ」のように「噛めば噛むほどおいしい」のがグルメタクシーです。 「高須賀」 私のブログのこの店のタイトルは「ソースの価値を教えてくれる」と書いています。ビスク(甲殻類の料理) 乳化が最良の蕪のソース フランス産ホワイトアスパラガス パイ生地 18:00 お客様とのメールでのやりとりで「最後は京都のフレンチで、落ち着いた空間が希望」というご要望がありました。完全予約制の「高須賀」(タカスカ)を選択しました。この春に地元の食通から紹介された店で、高須賀シェフお1人で提供されるプライベートレストランです。シェフが1人でやっているレストランはほかにもありますが、ここはどちらかというと「1人でしかできない料理」に感じます。単独の感性でしか提供できないグルメは意思統一が必要ですから、かえって1人の方が有利です。ソースの味はもちろん「乳化」「アセゾネ(調味)」が整ったもの。料理にお皿がリンクしているのも興味深い。2階には食後にワインを楽しめるサロンがあります。今日の旅路を復習しながら京都の夜長を楽しめます。■高須賀 (タカスカ/髙須賀)京都府京都市東山区東大路七条下ル東瓦町690 075-366-313612:00~15:00(4名以上貸切のみ)17:00~23:00定休日水曜日・第1火曜日・第3火曜日http://www.takasuka-kyoto.jp お別れの時がきました。 お客様とはこのお店の玄関でお別れです。「おいしい京都、楽しめましたよ♪」と微笑んでいただき、お店の中に入っていかれるのをお見送りいたしました。私にとっては、この瞬間が一番嬉しいときです。京都にはまだまだご紹介したいところはありますが、何よりもまずは「お客様がお望みの味」を追求し、情報を提供することが大切。「私のおすすめ」が一番に来ることはありません。あくまでも「グルメコンシェルジュ」の肩書きを忠実に守っていきたいと思います。 最後に 連載開始からちょうど1年が経ち、四季折々の観光とグルメをご紹介することができました。今回で、いったん連載は完了となります。これからも「京都知新」の一員として京都のグルメ、文化、歴史など幅広く皆様にご紹介したいと思っております。掲載記事はいつでもご覧いただけますのでご参考になさってくださいね!是非一度、「京都グルメタクシー」に御乗車くださいませ!1年間、ご拝読の皆様、本当にありがとうございました! 「おいしい京都」、今日も探しています!街で見かけたら気軽にお声がけください!いつかまた!グルメタクシーの流儀 10箇条①「グルメコンシェルジュとしてお客様を診断」②「時間ロスはグルメタクシーの天敵」③「体を動かして空腹感をとりもどす」④「お土産選びも、グルメタクシーにおまかせ」⑤「食べたものしか紹介しない、紹介できない」⑥「お客様と職人・料理人との距離を短くする努力」⑦「季節感を最大限に生かす」⑧「通常の京都観光もできます」⑨「黄昏時の癒しの時間をグルメで演出」⑩「お客様の訪問されたお店をすべて記録に残す」 「人が一生で食べる食事の回数を増やすことは容易ではありません。しかし、美味しい料理に出会う機会を増やすことはわずかな努力さえあれば可能なことだと思います。美味しい料理、幸せの時間、京都で探しましょう!」 京都グルメタクシー 岩間孝志
岩間孝志
京都グルメタクシー
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BLOG酒のふと道
2019.10.24
シーズン到来!京都・鴨川チェアリングにおすすめのテイクアウト3軒
その前に"チェアリング"って一体なに? と思われる方も多いと思いますので簡単にご説明をば。酒場ライターのパリッコさんとスズキナオさんの酒ユニット「酒の穴」のお二人が発案されたおとなの遊び、それがチェアリングです。具体的には、主にアウトドア用の折りたたみ椅子を持ち歩き、気に入った場所に設置してお酒を飲んだり景色を楽しんだりするのが目的。キャンプほど準備に手間がかからず、思い立ったらすぐにできるのが嬉しいポイントなのです。近場のお店でお酒やおつまみを調達する時間がまた「遠足の前日におやつを買いにいく」感じで楽しいんですよね〜。私が京都でチェアリングをするのにおすすめなのは鴨川周辺。特に出町柳周辺は近所にお店や公衆トイレがあり(これ大事!)、駅やバス停も近いのでとても便利です。しかも右大文字山をはじめとする東山の借景が素晴らしい!お天気のいい日にぜひチェアリングデビューしてみてくださいね。下鴨で激ウマなサンドイッチを買うなら『手作りサンドの店 華ぜる』で決まり!府立植物園の近く、下鴨中通りにある『手作りサンドの店 華(が)ぜる』は、以前は『コルヌ ドゥ ガゼル』というベーカリーでした。その時から美味しいパンを焼くことで知られていましたが、今春リニューアルしサンドイッチ専門店に。サンドイッチ好きにはなんとも嬉しいニュースです。北大路通から少し南へ下がった東側にあります。店頭にはできたてのサンドイッチが随時並べられていきます。どれもボリューム満点で、お野菜をたくさん使っているのが特徴。自然食品や国内産の素材を選んでいるとのことで、安心してたくさん食べられますね〜。お店のインスタグラムには日々美味しそうなサンドがアップされているのでぜひ予習しておいてくださーい。私が選んだのはこの3つ。オリーブバジルチキンのサンド。モロヘイヤを練りこんだヘルシーなパンにジューシーなチキンがたっぷりとサンドされています。国産の鶏もも肉をオリーブオイルと塩、バジルで味付けしてオーブンで余分な油を落として焼いてあるため冷めても美味しく味わえます。青レモンとクリームチーズのアクセントが酒飲み好み!?(左)厚焼き玉子とハムと野菜のサンド(右)国産もち豚ロースカツと野菜のサンドどちらも定番人気!厚焼き玉子はふんわりふわふわ〜、ほんのり甘みがあってとても優しい味です。そしてみんな大好きカツサンド!ソースがしゅんだ衣と柔らかいロース肉の相性がたまりません。そしてひっそりと寄り添う野菜サンドがまた美味しいんですよ。レタスやキュウリがシャキッとしたままで食感よし、シンプルな具を生かすパンの美味しさもよし、であります。ご覧の通りかなりのボリュームですので、カット用にプチナイフなど用意すると便利です。(私は実際カットして友人とシェアしました)人気のサンドは早々に売り切れることも多いので、事前に電話でお取り置きがベターかと。■手作りサンドの店 華(が)ぜる京都市左京区下鴨西本町5-3075-723-56138:30~18:00不定休(毎月末にお店のインスタグラムでお知らせ)本格的なタイ料理が評判の『パクチー丸太町』で密かに人気のテイクアウト京都でタイ料理といえば名の挙がることも多い『パクチー丸太町』。三条や四条、京都タワーサンドにも支店があり、どの店も昼夜賑わっています。ビニールシートで半屋台風の構え。「準備中」になっているのは私がランチタイムぎりぎりにテイクアウトを取りに行ったからです。すんません!『パクチー』の魅力は、現地の空気感や味をそのまま再現した本場っぽさ!タイに魅せられたオーナー夫妻が作り上げた店だけに、妥協なしの再現度です。厨房ではタイからやってきたコックさんたちが腕を振るい、タイの味を楽しませてくれます。店内はまんま、タイの食堂! でもちゃんと日本語が通じるのでご安心を。まだ知らない人が多いようですが、パクチーではテイクアウトメニューも用意されています。ランチタイム、ディナータイムで内容が変わるので、詳しくはお店にお問い合わせを。チェアリングは明るいうちにすることが多いのでランチメニューから選ぶことになります。で、ここでこっそり耳寄り情報をば。ランチのテイクアウトは基本的にご飯や麺のメイン系のみなのですが、実はこれらをオーダーした場合に限り、おつまみメニューもテイクアウトできちゃうんです! 追加できるのは、揚げ春巻き、鶏唐揚げ、春雨サラダ、トムヤムスープ小鉢、グリーンカレー小鉢。私はこの裏技を使って、こんな感じでオーダーしています。春雨サラダと揚げ春巻き。パッタイ。めちゃくちゃ量が多い〜〜(歓喜)。具をちまちまとつまみながらビールをぎゅいっとな。延々ともちます。鴨川を眺めながらタイ料理を食べるってなかなかレアな体験だと思います。ぜひともお試しいただきタイ!そうそう、このテーブルになっているものは100均ショップで売っている折りたたみ式の食器整理棚。この利用法はチェアリングの始祖「酒の穴」のお二人が考案されたもの。かさばらなくてバッグにすっと入るし軽いしでとても実用的です。これもぜひともお試しいただきタイ!■パクチー丸太町京都市上京区河原町通丸太町上ル桝屋町374075-241-089211:30〜14:00、18:00〜21:30(土日祝は17:00〜)不定休熱々を買って河原へ走れ!『出町 岡田商会』の揚げたてミンチカツおつまみの仕入れで一番最後に行くべしなのが、出町桝形商店街の入り口近く、豆餅目当ての行列でおなじみ『出町ふたば』の南隣にある『出町 岡田商会』です。80年以上続く精肉店で、昔ながらの揚げ物コーナーを併設。順番に注文を伝え、揚げてもらうスタイルです。いわゆる「共食いキャラ」がかわいいお品書き。う〜ん、悩む〜〜〜(ニヤニヤしながら)。あれこれ迷いますが、私のお気に入りはこちら〜。手前右から、ウインナー串カツ、海老カツ、ミンチカツ。この日は買ってないけどコロッケも安くてめっちゃ美味しいんですよ!初めての方はぜひコロッケもお忘れなく。海老カツ。変な持ち方をしているのは熱すぎて指先で掴めないからです。そのネーミングに偽りなしのエビっぷり!ぷりっぷりの小エビがほんの少しのつなぎでまとめられています。うんま〜〜〜い!そして一番好きなミンチカツ!ぱかっと割りますと......。はいジュワ〜〜〜〜〜!!!めっちゃ肉肉しいっ!スジも一緒にミンチにしているのでしょうか。時折コリコリっとした歯ごたえを感じます。ミンチたちの間から遠慮なく熱々の肉汁が流れ出しますので火傷にはお気をつけて。私も幾度も上顎をやられてますがそれでもやっぱり熱々を食べたいんですよねぃ。このように揚げ物を手で持つ場合などにあると便利なのがウエットティッシュ。個包装タイプではなく、20枚入りとかのシートで持参しておくと何かと使えます。マカロニサラダ。ミンチカツで火照ったお口をクールダウンするにはこちらを。お肉屋さんのものだけあって、ハムが分厚いし量も多めです。数人でシェアする際はハムだけ狙って人間性を疑われないようお気をつけあそばせ〜。そんなこんなで食べたり飲んだり景色を見たりしていたらあっという間に2〜3時間はすぎてしまいます。夕焼けを見たくなったら、椅子をたたんで場所を移動すればいいだけ!は〜、きれい......。そしてお腹いっぱい......。■出町 岡田商会京都市上京区河原町今出川上ル青竜町239075-221-37719:00〜18:00水曜休***チェアリングの魅力を少しはお伝えすることができましたでしょうか。暑くも寒くもないこの時期はベストシーズン!私も、けなげにこの体重を支え続けてくれているマイチェアを従えて、鴨川をはじめ各所でチェアリングするつもりです。がんばれマイチェア〜〜〜!
泡☆盛子
沖縄出身・京都在住のフリーランスライター
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BLOG外国人料理人奮闘記
2019.10.23
スペイン人料理人 ホルヘ・ユークさんの心を奪った平仮名の「の」
7人目の外国人料理人は、流ちょうな関西弁を話すスペインバル「tato」オーナー、ホルヘ・ユークさん。ひょんなことから日本に興味を抱いた少年が、京都で夢を叶えるまでの道のりをご紹介します。運命的な日本語との出会い日本を知ったのは家族でフロリダのディズニーワールドを訪れた7歳の時。日本語で書かれたディズニーワールドのパンフレットを見て「めっちゃかっこいいな、これ!」と手に取ったのが最初の出会い。数ある外国語のパンフレットの中で、なぜか日本語だけが特別格好よく見えて......ホテルに持ち帰って、意味も分からず文字を書き写したりして(笑)。その時「いつか必ず日本で日本語を習得するぞ!」って決めたんだ。カナダの大学を卒業した一週間後には、カナダで知り合った友人を頼って大阪へ。友人の実家に転がり込んで、子どもの英会話教室で働きながら、日本語の先生を探して語学のレッスンを開始。当時日本語は「トヨタ、サムライ、スシ」ぐらいしか知らなかったけど、スパルタンな先生にみっちりしごかれて、4年でかなり上達したね。その後、スペイン、京都、カナダと数年おきに転居を繰り返しながら、再び京都へ。せっかく日本に住むんだから「一番日本文化が濃いところに住まなくちゃ」と思って。着物、町家、寺社仏閣、歴史的な景観......京都の文化は濃厚で興味深い。まあ、仕事場は滋賀やったけど(笑)。滋賀で種を蒔き、満を持して京都へまずは滋賀で英語とスペイン語の塾を始めて、数年後には大学時代からの夢だったバルを膳所にオープン。高校や大学の非常勤講師もしてたから、めちゃめちゃハードだった。でも将来京都で店をやりたいっていう次の目標のために、料理もゼロからがんばったよ。実はそれまで料理をしたことがなくて、不動産屋さんから店の鍵をもらった日にスペインのお母さんに電話して「これとこれとこれのレシピ教えてください~」って。お母さんのレシピと舌の記憶、それだけを頼りに奮闘したけど、最初は当然失敗ばかり。「いつか京都で」と思いながら、滋賀でたくさん練習させてもらった。滋賀は練習(笑)。結局滋賀では10年塾をやって、そのうち4年は店との掛け持ち。その後、念願叶って京都に移転してからも、膳所時代の常連さんが支えてくれて心強かったね。京都のド真ん中で盛り上げ役に徹する今ここはもともと、塾の生徒さんの生家だったところ。つくづく不思議なご縁やね。当時彼女は80歳くらいだったかな。残念ながら数年前に亡くなってしまったけど、ここで産まれた彼女の息子たちは今も時々来てくれるから、その時はもちろん「おかえり!」って迎えるよ。営業中はもっぱら表で接客を担当。盛り上げ担当やね。店頭の立看板も自分で書く。ほら「ハイテンションスペイン人」って書いとかないと、知らないで入ってきた人がびっくりするやろ? 書いてても驚かれるけど(笑)。「何か妙なものでも飲んでる?」ってお客さんにしょっちゅう聞かれるよ。ミルクティーしか飲んでないのに! ぺらぺらぺらぺらしゃべりながら、お客さんを楽しませて、世界中のいろんなお酒を飲んでもらうのが僕の喜び。セクシー足はついに140本超え!今切ってるこのセクシーな生ハムは、膳所時代の第1号から数えてちょうど140代目と141代目。赤いラベルがついてる140代目はイベリコ・ベジョータといって、ちょっとスペシャルなグレードのもの。いつもあるわけじゃないけど、これ目当てに来る人もいるくらいの上物。これと一緒に赤ワインを口に含むと、ワインがぐっとおいしくなる。時期にもよるけど、1本消費するのにひと月はかからないね。今までで一番早かったのは祇園祭の時。新しくおろした生ハムが1日で骨になっちゃった。その日は一日中スライスしていた気がする(夢にも出てきたし......)。ぜひ出来立てを味わって!歴代スタッフの得意料理が加わって、メニューの数もずいぶん増えた。営業中、僕に代わって厨房を切り盛りする杉本拓くん(冒頭の写真右)自慢のスパニッシュオムレツは、いわゆるスペインのおふくろの味。スペインでは玉ねぎを入れる派と入れない派があって、うちは入れる派。焼きたてのオムレツはもう最高。毎回焼きあがったら、香りがたつようにお皿をくるくるまわしながら各テーブルをまわっちゃう。お客さんの鼻の下でいつもめちゃまわしてるよ!地図の余白を埋め続けていきたい7歳の時、初めて見た日本語の中で、特に気になったのがひらがなの「の」。丸っこい見た目が可愛くて、「なんやこれ?」って。文法的にも「の」は大事やろ? 勉強してみて分かったけど「の」を使わないと会話も成り立たない。スペイン語と日本語はものすごく遠い言葉だけど、その国の文化を理解するにはやっぱり言葉を知らないとね。外国で暮らして、その国の言葉を学ばないのはとてももったいないと思うよ。次にやりたいこと? 常に考えてはいるけど、リタイアするまでは日本で仕事をしていきたい。日本はとても仕事がしやすい国。というのも、例えば業者さんにしても、みんな時間はきっちり守るし、注文は間違えないし本当に感心する。これがスペインだったら、毎回違う商品が届くよ。しかも違う店に! 行政の手続きも早くてミスがないしね。たまに一週間ぐらい帰国すると「おっそいねん、もう~!」ってめちゃめちゃイライラする。日本のペースが当たり前になっちゃったから、もうほかの国では働けないかもね。この日本地図と世界地図は、今まで店に来てくれたお客さんの出身地が一目で分かる地図。「どこから来たの?」って聞いて、マチ針を刺してもらうんだ。昨日は新たにニューカレドニアに針が立った。この地図が、年を重ねるごとにマチ針だらけになっていくのが楽しみやね。■Tato京都市中京区蛸屋町151075-211-909017:30~23:30閉店休 日曜(祝日の場合は営業、翌月曜休)
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BLOG美人&イケメンスイーツ
2019.10.21
『阿闍梨餅本舗 満月』の「阿闍梨餅」
推薦人:三嶋 雄太(みしま ゆうた):京都大学 iPS細胞研究所 特定研究員/T-CiRA program Sub-PI医薬学博士。専門はエピジェネティクス、再生医療、血液学、腫瘍免疫学、レギュラトリーサイエンス。薬学部を卒業後、大学院在学中にiPS細胞を世界で初めて事業化したバイオベンチャー企業のアメリカ支店設立プロジェクトに参画。その後ボストンへ渡米、ハーバード大学医学部・ベスイスラエルメディカルセンター研究員を経て現職。iPS細胞技術と遺伝子改変免疫細胞を組み合わせた次世代型がん治療製品の実用化を目指し、現在はiPS細胞から、狙ったがん細胞だけを攻撃する免疫細胞つくる最先端のがん治療製品の研究をしている。実用化を目指した大手製薬企業との共同研究のため、現在は関東と行き来する生活をしている。5年前に海外の留学から帰国して京都大学のiPS細胞研究所で研究をする事になったのが京都との縁。留学先のボストンは京都市と姉妹都市提携が今年で60年目でとても縁を感じているという。「海外や関東から友人が来た際に必ずというほど連れていくのがこちらのお店です。研究のミーティングや、研究所の案内をする機会がとても多いのですが、本店が京都大学の研究所の近くにあるので時間に余裕があれば紹介しています」と話す三嶋さん。 研究室からもほど近い場所にある「阿闍梨餅本舗 京菓子司 満月」は、江戸末期、安政3年に初代、彌右衛門が出町柳に菓子舗を構えたのが始まり。慶応年間の都の騒乱を避けて、一度、やむなく店を閉めましたが、明治17年(1884)に再開。戦後の混乱を経て、現在の地に移転し、その後、160年余理、暖簾を守り続けています。 海外での仕事も多い三嶋さんですが、海外では抹茶はかなり市民権を得てきた感があるそうです。そのため海外からの友人が日本に来た時は、抹茶以外にも日本の代表的な甘み文化である小豆の美味しさを味わってもらいたいと思っているのだとか。「海外の人にとって小豆は好き嫌いが分かれる事が多いなと思います。人生で日本に来る限られた機会かもしれないと考えたときに、本当に美味しい小豆の京菓子と、この老舗らしい店構えを記憶して帰ってもらいたいと思い、満月さんによく案内させていただいています」 白い暖簾が揺れ、たくさんの人に愛される菓子舗の誇りを感じさせる本店の佇まい。ここに来ればいつもと変わらぬ美味しさの阿闍梨餅が待っている。「冷えたものももちろん美味しいですが、ほんのりまだ温かくて、皮がさらにもっちりしている感じで感激しました」。そう話す三嶋さんがよく行くのは百万遍に近い本店。ここは、時に出来立ての阿闍梨餅を食べるチャンスがあるそうです。「本店のすぐ向かいで製造していますので、時々、そう言って喜んでいただくお客様もおられます。毎日、毎日、作り立てをお届けしたいと、日々、努力しています。阿闍梨餅は大正11年、二代目当主が考案したものです。丹波大納言の粒餡を、餅粉、水飴、砂糖、卵を使った秘伝の餅生地で包みます。しっとり、もっちりした独特の食感をお客様に喜んでいただいております」と話すのは同店の常務取締役 中嶋哲夫さんです。 取材中もひっきりなしにお客さんが訪れて、5個、10個と買っていきます。1個売りからというのも嬉しい限り。近所の人が散策がてら寄って、1個、2個と毎日、買っていくことも多いのだそう。地元に根付いて長く愛されている店ということが伝わってきます。「おかげさまで、阿闍梨餅は毎日、各店舗で多くの方にご購入いただいていますので、機械を導入して製造していますが、例えば餡場には、ベテランの餡炊き専門の菓子職人が何人もついて、火加減、炊き上がりのタイミングなどを見計らっています。生地も同じ。季節によって気温や湿度が変わりますから、生地の寝かせ具合、火入れの加減などやはり人の目と技が不可欠ですね」阿闍梨というのは比叡山で修行する僧侶にちなんで命名したもの。僧侶たちがかぶる編み笠をかたどっている。こんがりきつね色の生地と上品な甘み、独特の食感が食欲をそそり、幾つでも食べられてしまう。1個119円(税込) 三嶋さんは、本店と金閣寺店で、土日祝日のみ購入できる「満月」も好んで、あえて土日祝日に訪ねて、希少なお菓子を買うそうです。「店名の冠のついた商品であるにも関わらず、週末にしか販売していないというのはとても貴重だと思います。土日祝日に行くときは、満月と阿闍梨餅を必ず両方買いますよ(笑)」 「満月」は明治33年に、九條家御用達の命を受けてつくられたお菓子。希少な最上級の白小豆の漉餡を小麦粉の生地で包み、焼き上げた洋風の香り漂う焼き菓子です。当時はかなりモダンなお菓子やったと思います。生地の薄さはたった2ミリ、これだけは今も職人の手包みでつくっています。さっくりした生地の中にしっかりとした漉餡がぎゅっと詰まっていて、食べ応えがあります」 人気のお菓子なのになぜ、土日祝日の限定販売なのでしょうか。 それは同店の基本姿勢にあります。「"材料を落とさず、値段を上げない努力"は、初代からずっと当店で大切にしている言葉です。丹波大納言も白小豆も自然の産物ですから、不作の時もあります。それでも品質を落とさない、値上げをしないことに本当に苦心します。 特に高品質の白小豆はそもそもの生産量が少ないのでどうしてもたくさんつくることができません。そのため限定販売にしているのです」 また、同店では"一種類の餡で一種類の菓子しかつくらない"という基本方針があるそうです。一つひとつの菓子は職人のあらゆる技、思いが注ぎ込まれた作品。餡の素材になる小豆は産地を限定して、生地の餅粉や砂糖も、この店のこの菓子のためだけに特別に配合したものを選び、食感や味付け、製造法まで考えに考え抜いて開発したものだからです。今、同店では、阿闍梨餅、満月、棹物の京納言、最中の4種類だけしかつくっていませんが、それも基本姿勢を貫くためなのです。希少な白小豆のみを使ってコクのある漉餡を、厚さ2ミリの極薄の生地で包み、さっくりと焼き上げた満月。本店と金閣寺店で、土日祝日のみ購入できる。1個303円。「努力と苦心を重ねて、お菓子をつくり続けるのは、疲れた時、一休みしたい時、美味しいお茶を入れて甘いものを食べれば、みなさん元気になるでしょう?"ああ、美味しかった"とほっとくつろいで、リフレッシュして、また頑張れる。小さなお菓子ですが、そんな風にお役に立てるのが何より嬉しいんです」 三嶋さんも、研究や実験が行き詰まって集中力が切れてきたときに、お菓子を食べるそうです。研究の仕事は、世の中の人が普通に生活していく中でほとんど気にしないような、非常に細かい事柄の違いについて常に深く考え続ける仕事なのだとか。「ずっと集中していると、ふと集中が途切れた時に、お腹は減らないのですが甘いものを欲しい!という思いが襲ってくる時があるんです。そんな時には研究仲間を誘って、休憩室で、コーヒー片手にスイーツを食べながら話をするのですが、こういった時に良い情報やアイデアが降ってくることがとても多いんです。だから、お茶と甘いものの時間を意図的に設けることはとても大事だと思っています。時間が許すときは、満月さんに行って、阿闍梨餅を買うことも多いです」 贈答用としても人気がある阿闍梨餅。変わらぬ包み紙のデザインにも伝統を感じる。10個入り(箱入り)1296円 伝統ある阿闍梨餅や満月ですが、時代ごとに少しずつ進化しているといいます。素材自体の変化や気候の変化に対応して、「昨日よりさらに美味しく、進化し続けている」、それが「満月」のお菓子なのです。「最新の研究をされている方の脳の疲労にもうちのお菓子が役立っているなんて光栄ですね。満月はお抹茶がよく合いますし、阿闍梨餅はお煎茶がおすすめです。お煎茶もできれば急須、湯呑みを温めて、ゆっくり淹れて欲しいです。 忙しいときほど、お茶の時間を大切にしていただいて、素晴らしい研究を進めてほしいです。うちもモットーを守って、美味しいお菓子をご提供していきたいと思います」 京の人々に愛され、最先端の研究者をも癒す阿闍梨餅と満月。できれば土日祝に店を訪れて、ぜひ両方のお菓子を味わってみてください。 店の前のスペースでは、丹波大納言と白小豆の鉢植えが植えてある。自然環境にめげず懸命に育つ植物に感謝を込めて、店のシンボルとして大切に育てているのだそうだ。収穫した豆もちゃんとお菓子に使うという。 扁額がいくつもかかり、昔ながらの趣きを残す本店店内。ショーケースの中には潔く、4種のお菓子しか並んでいない。ブレることのない老舗の意気を感じる。■阿闍梨餅本舗 満月 本店京都市左京区鞠小路通り今出川上ル075−791-41219:00~18:00水曜不定休
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BLOG料理人がオフに通う店
2019.10.18
「卯今(うこん)」―「リストランテ野呂」野呂和美さんが通う店
「リストランテ野呂」野呂和美さん 《プロフィール》 青森県出身。東京「山の上ホテル」や「リストランテ・サバティーニ青山」に勤めたのち、「ロカンダ・ヴェッキア・パヴィア」をはじめ、イタリア各地のレストランで修業。帰国後、ホテルグランヴィア京都のレストラン「ラ・リサータ」でシェフとして活躍。その後「洋食おがた」勤務を経て、2017年6月に「リストランテ野呂」をオープンさせた。旬の素材を駆使した豊富なメニューが、料理人から家族連れまで皆を笑顔に堀川御池交差点から数分の場所にある居酒屋「卯今」。ここは、野呂さんが「兄貴的な存在」として慕う料理人、小林健一さんが営むお店だ。地鶏料理や海鮮料理をはじめとする多彩な料理で楽しませる。「お店としてトータルで素晴らしくて心地がいい。料理人の常連も多いと思います」(野呂さん)店は6席のカウンターに、テーブルと小さな座敷のある落ち着いた雰囲気。淡海地鶏や近江軍鶏を使った炭火焼き、旬の天然の鮮魚を使った料理をメインに、創作料理、麺類まで、バラエティに富んだメニューが並ぶ。特に海鮮はイワガキや鮑、毛がにといった高級な素材も登場する。「食材への造詣も深く、すごくいいものを揃えて手をかけて作られている。一品料理屋と言っていいぐらい、ちゃんとしたお料理を出されます。お造りからフライものまで献立の種類も多いですし、一つひとつの味にメリハリがあって、おいしいですね」(野呂さん) 「自分が好きなもの、食べたいものを出している」という店主の小林さん。京都にある居酒屋の本店や支店などで12年間勤務したのち、2010年に独立。自分の店を開くにあたり、春巻きなどの居酒屋メニューから高級食材を使ったものまで、何でも扱う居酒屋にしたかったと話す。「自分の行きたい店というのがコンセプト。店を始めたとき、うちの子はまだ小さかったんですが、子供も行けるクォリティの高い店があまりなかったんです。それで子供も大人もおいしいものを食べられる、居心地のいい店を目指しました」。実際、ここには孫を連れた夫婦など、家族連れも多数訪れる。野呂さんとこの店とのそもそもの出合いは、「点邑」の小林料理長から紹介されたのがきっかけだったという。「前からお店のことは知っていましたが、行ったのは点邑の小林さんに誘ってもらったのが最初でした。今は仕事終わりなど、週に1~2回は通っています」(野呂さん)小林さんも、「点邑の小林さんとはオープンの頃からのおつきあいなんですが、1年ほど前に来られたときに『リストランテ野呂ってお店知ってる?今から来るし』って言われて。僕も野呂さんのお店に食べに行って、すごくおいしいお店だなと思っていたので、うれしかったですね」と振り返る。このときに二人は意気投合。以来、互いの店を行き来したり、一緒に食べ歩きに行ったりするようになったそうだ。「料理の味も小林さんの性格と同じで屈託がない」と話す野呂さん。一番のおすすめは、淡海地鶏のミンチを使った「季節の春巻き」。鶏ガラスープで炒めた具を、自家製の皮で包んで揚げた人気の品。地鶏の旨味がしっかり伝わる。写真は夏野菜を入れたもので、秋はレンコンやきのこに変わるという。「地鶏と季節の具材が入っていて、創意工夫が凝らされていて本当においしい。皮がふわっとした感じなのも面白いです。揚げ方、具の味付けなど勉強になりますね。ビールにも焼酎にも合います」(野呂さん)野呂さんが「あれば必ず食べる」という「迷い鰹のたたき」。鰹は黒潮に乗って太平洋側を北上するが、群れの一部が対馬海峡を渡り、日本海に迷い込んでしまうことがあるそうで、「迷い鰹」と呼ばれている。「脂の質がほかと違っていて、あっさりと食べられます。希少なので、入荷したときは魚屋さんに確保してもらうようにしています」(小林さん)軽く炙ったあと、炭火の香りをつけたたたきを、鬼おろし、玉ねぎなどと一緒にポン酢で味わう。口の中に脂がふわりと広がり、トロを食べたような口当たり。料理人がこぞって頼むというのも納得だ。小林さんはこの鰹にかけるすだちや鬼おろしの量を背と腹によって変えるそうだが、素材に対する細やかな気配りが窺える。茄子の海老ジュレがけなど6種から選べる日替わりの付け出しも好評で、「これに合わせてお酒を頼まれる方は多いですね」(小林さん)日本酒はいろいろな飲み口のものを常備するほか、季節のおすすめを「きまぐれ日本酒」として出しているという。野呂さんは、「料理の楽しみ方の提案や提供の仕方が多岐にわたっているので、本当にいろんな層の人たちが来ていて、皆さん満足して笑顔で帰られる。スタッフも元気がいいし、愛される店づくりをされていると感じます。僕もあそこでは楽しく酒が飲めて、元気にさせていただけますね」と、この店の魅力を語る。もともと食べることが好きだという小林さん。いろいろな店の味を研究したり、常連の有名料理人たちから情報を得たりと、味への向上に余念がない。「一つの料理を一層よくしようという気構えでやられていると思います」との野呂さんの言葉に、「やっぱり店は成長していかなくてはいけないので。お客さんを裏切りたくないし、努力はしているつもりです。料理の話を彼としたら、止まらないですね(笑)。彼には勉強させてもらうことがいっぱいあります」と、小林さん。リスペクトし合う仲間との切磋琢磨が、また更に魅力ある店にしていくに違いない。撮影 エディオオムラ 文 山本真由美■卯今京都市中京区姉小路通西堀川西入 樽屋町474075-777-813417時30分~翌1時(LO24時)休 木、月1回水不定休
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BLOG京の会長&社長めし
2019.10.16
株式会社宮脇賣扇庵の副社長が通う店「祇園割烹 匠庵(しょうあん)」
■南忠政(みなみ ただまさ)さん 1976年生まれ。5代目宮脇新兵衛の孫で、株式会社宮脇賣扇庵 副社長。大学卒業後、母方の実家である同社に入社し、京扇子の製造・販売に携わり、扇文化の継承に努めている。自分から新しい店を開拓するのは、苦手なほう。外食でよく足を運ぶジャンルは、中華とイタリアン。最後の晩餐は、「中華のサカイ 本店」のオムライス。大将の人柄と繰り出す料理にファン多数。リニューアルも楽しみな人気割烹京都の割烹と聞くと、やはり敷居の高さを感じてしまうもの。それが祇園となると、なおさらだろう。今回南さんが推薦する「祇園割烹 匠庵」は、そんな気負いを感じさせず、楽しませてくれる一軒だという。「"お米マイスター"の山下治男さんに紹介してもらい、3年ほど前から通っています。大和大路通から路地を入った奥にある隠れ家のようなお店。ここは知らなかったという人も多いと思うんですけど、一緒に行った人には気に入ってもらえますね。今度、同じ祇園に移転されると聞いています」(南さん)「南くんはうちが取引しているお米屋さんの社長の後輩で、いろんな会合なんかで使ってもらったりしていますね」と、店主の小谷(おだに)匠さんは言う。「匠庵」を始めたのは2009年2月。もとは木屋町にあり、約6年前に四条大和大路に移転。数寄屋造の建物に桜の一枚板のカウンターや個室の座敷、中庭などを配した落ち着いた空間で、季節の京料理をおまかせコースや一品が楽しめるこの店は、多くのリピーターを獲得してきた。開店から10年の今年、店は10月にいったん閉店し、11月に祇園の北側の自社ビルに場所を移してリニューアルオープンすることになっている。「今度の店は町家風の構えで、中は12席のカウンターのみになる予定」と、小谷さん。かねてから考えていた一品主体のカウンター割烹のスタイルにするという。南さんは、料理もさることながら、小谷さんの人柄もこの店の大きな魅力だと話す。「大将は、どこかロック魂というか、気風のいい男気を感じるようなところがいいですね。そんなロックな感じの人なのに、作られる料理は繊細で可愛らしかったりします」南さんの言葉に、「料理もロックやろ」と小谷さんは笑う。ちなみに小谷さんが仕込み中にかける音楽は、ロックユニット「B'z」の曲。ボーカル稲葉浩志氏と同じ高校の卒業生という縁から応援しているといい、「営業中はジャズを流すけど、気心の知れた常連さんばかりだと『B'z』の曲をかけることもあるよ」と、小谷さん。「カウンターで食べるときは、炊き合わせとか出し巻きとかも頼みます。ちょうどいい味付けでどれもしっかりおいしいです」(南さん)小谷さんは、滋賀のホテルの和食部門や京都の料理旅館、割烹などで京料理の腕を磨いた料理人だが、一品で出される日替わりのメニューには、例えば造りや鯛のあら炊き、賀茂茄子田楽、出し巻き、丸鍋などの料理に加え、ビフカツなど和食以外の品も登場。お客のリクエストでメニュー外のものを作ることもしばしばで、「お客さんが望むものなら何でも料理してあげる」という。お客を楽しませるためのフレキシブルさも、この店の特徴だ。「こちらでお刺身とお酒を楽しむのが好きで、その日おすすめの魚介を盛り合わせで頼むことが多いです」と、南さん。店自慢の海鮮料理は、鰹や貝類など、毎日高知から直送される天然ものを中心に、あとは産地を限定せず、その時々のいい鮮魚を使用する。写真は「造り盛り合わせ」の一例で、トロ、コチ、ハマチ、マアジ、北海道産うに。「夏の鱧とかはあえて造りでは出さず、椀物とかほかの食べさせ方にします」(小谷さん)日本酒は25種類ほど揃う。「お酒は結構珍しいものも揃っているので、特にお酒好きな人は楽しめると思います。僕は十四代があるといつも頼みます」と、南さん。そして、多くの常連が頼むという意外な名物が、「匠庵の〆のアレ!」と名付けられた自家製ラーメン。「本格的なラーメンがあるのが面白い。行くとやっぱり食べたくなって頼んでしまいます」と、南さん。無類のラーメン好きの小谷さんが、研究を重ね、完成させた自信作で、「最初は裏メニューで出してたけど、お客さんからすごく好評でメニューとして出したら、ということになって」と小谷さん。鶏ガラと豚骨など厳選した材料を使って7~8時間煮込んだスープに、もちろんチャーシューも自家製。スープは細めのストレート麺によく絡み、しっかりコクがありながら、後口はすっきり。一味と豆板醤の辛みがアクセントになって、シメに食べるのにはぴったりのおいしさだ。カウンターならではのサービスといえるのが、写真のイワシの甘露煮と酒盗と鮎の塩辛和えなど、料理を待つ間に出される酒肴。「対面なので、料理を出せないときに、どうぞ、とちょっとしたお酒のアテとして出してあげる。カウンターの良さはそこなんよね。座敷だとそれができないから」と、小谷さんは話す。大将とのそうしたやり取りの楽しさもあって、常連客は皆、カウンターを選ぶそうだ。「新しい店では、ほんまの俺のやり方がそのままだ出せるかなと思う」と小谷さん。一品の内容はほぼ変わらないが、ポーションが小さいものも用意するなど、カウンターを生かしたメニューを計画中で、予算は1万~1万5千円程度を想定。祇園の風情ある雰囲気の中、「マジック好き」という小谷さんが、その遊び心でどのようにファンを楽しませてくれるか注目だ。撮影 エディオオムラ 文 山本真由美■祇園割烹 匠庵京都市東山区祇園町北側347-87075-525-0288営業時間 18時~25時(予定)定休日 不定休http://www.shouan.co.jp
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BLOG料理人がオフに通う店
2019.10.11
「点邑」―「リストランテ野呂」野呂和美さんが通う店
「リストランテ野呂」野呂和美さん《プロフィール》 青森県出身。東京「山の上ホテル」や「リストランテ・サバティーニ青山」に勤めたのち、「ロカンダ・ヴェッキア・パヴィア」をはじめ、イタリア各地のレストランで修業。帰国後、ホテルグランヴィア京都のレストラン「ラ・リサータ」でシェフとして活躍。その後「洋食おがた」勤務を経て、2017年6月に「リストランテ野呂」をオープンさせた。確かな技術と経験で四季折々の素材を活かしきる、珠玉の天ぷらと京料理大の天ぷら好きという野呂さんが「天下一品」と称賛するのが、今回おすすめとして挙げた「点邑」だ。京都を代表するし老舗旅館「俵屋」がプロデュースする天ぷら専門店として知られ、旬の食材を使った京風の天ぷらを、端正な京料理とともに味わえると、高い人気を誇る。元々御幸町通で営んでいたが、4年前に俵屋のすぐ近くに移転。風情ある一軒家の店舗にリニューアルした。オープン以来、ここで板長を務めるのが、小林紀之さんだ。小林さんの料理、そして気さくな人柄もこの店の魅力。まだ移転する前の店に初めて訪れたという野呂さんは、小林さんの料理と出合ったときの感動を振り返る。「京都のホテルに勤めていたときにお伺いしたのですが、ちょうど鱧の季節で鱧が薄造りで出てきたお皿に、まずびっくりして。もちろん天ぷらにもびっくりしたのですが、その包丁技術と味の持っていき方、食材への造詣の深さ、すべてが驚きで思い出としてずっと残っていました」。以来、野呂さんは何度か店を訪れるようになったという。時に店を訪れたり、飲みに誘ったりするなど、野呂さんとは普段から親交があるという小林さん。野呂さんの言葉を聞いて、笑いながら、「ちょっと大きく言ってるな(笑)。でも、うれしいですね。イタリアンの人と今まで付き合いはなかったけど、彼はなかなかいい料理人だと思ってつきあっています」と語る。「小林さんには、食材のことなどいろいろ教えていただきます。人に対しても懐が深くて、慕っている料理人は多いと思います」と、野呂さん。ここには野呂さんのように、小林さんの料理と人柄に魅かれた料理人たちがよく訪れるという。「小林さんの天ぷらはめちゃくちゃ美味いです。その天ぷらに入るまでのお料理もすごくて、何を食べてもおいしい」と、野呂さん。夜のメニューは、1万円の天ぷらコースと、天ぷらに京料理がついた1万3000円からの懐石天ぷら。特に地元客には、天ぷらと季節の料理、両方が食べられる懐石天ぷらが人気で、夏の鱧、冬のすっぽんなど、季節の料理を楽しみにする人も多いという。昼はコースのほか手頃な天丼や点心も楽しめる。韓国産の名残の鱧を使った「鱧と松茸のしゃぶしゃぶ」は、小林さんの卓越した技術を堪能できる一品だ。繊細に美しく骨切りされた鱧の身は、口の中でふわっと広がり、骨の存在を感じさせず、豊かな旨味だけが残る。搾り柚子と鰹節を入れ熟成させた特製ポン酢もその味を引き立てる。俵屋で長年京料理の腕を磨いてきた小林さんだからこそ出せるおいしさだろう。「同じ食材でも産地や季節などによってポテンシャルは全然違います。その食材をどう扱うかを丹念に研究して、全部理解した上でそれを体現されている。それも自然体でさらっとやられているのがすごいなと思います」(野呂さん)そして、天ぷら。綿実油の白締油で揚げた天ぷらは、軽くて胃にもたれないとお客に好評だ。魚介や野菜、生麩、湯葉などを織り交ぜて供される約10品の季節の天ぷらで、最初に登場するのが、野呂さんおすすめの「海老の天ぷら」。薄い衣で海老の甘味がしっかり感じられる。「海老の甘味を出す火入れ加減と、歯が喜ぶ揚げ加減に心をつかまれます」(野呂さん)野呂さんが特に印象に残ったというのが、海苔で包んだ「うにの天ぷら」。「鼻から抜ける磯の香りなどの余韻がすごくあって、おいしかったですね」(野呂さん)衣は海苔の下の部分にだけつけて揚げてあり、生のうにと海苔の天ぷらを楽しむ格好だ。ほんのり温かくとろけるようなうにと海苔の風味が相まって、たまらない味わいに。「少し熱を加えることで味に濃厚さが出ます。これを頼む人は多いですね」と小林さん。小林さんは、素材の種類や状態、天候などに応じて、粉のふるい方、卵液の濃度、衣のつけ方、油の温度、時間などをその都度調節しているという。そうした食材への造詣の深さが、やはり小林さんの天ぷらの魅力だと、野呂さんは言う。「本当においしいものを突き詰めておられて、その結果、琴線に触れるような料理、天ぷらができるのだと思います。揚げ方一つひとつが流れるような感じで、もう芸術の域ですね」。その言葉に、小林さんは「そこまで思ってもらえるとありがたいですね」と返す。小林さん流の天ぷらについて問うと、小林さんからは「一言で言うと、その食材の旨味を引き出すための調理法です」との答え。天ぷらは、蒸したり焼いたりいろいろできる調理法で、その特性を利用して理想の味を引き出していくのが、小林さんが考える天ぷら。試行錯誤しながら引き出し方を見つけ、ようやく料理として出せるという。そんな小林さんの研究心からは、しっとり焼きいものような味わいのさつまいもの天ぷらや、とろとろの食感のトマトの天ぷらなど、新たな味が生まれている。「正直言うと、まだまだです」と、今なお新しい天ぷらへの追求を続ける小林さん。野呂さんら若手料理人たちからの刺激も受けつつ、誠実にその時々の食材と向き合い続ける姿に、皆、更なるおいしさと出合えることを期待してしまうのだ。撮影 エディオオムラ 文 山本真由美■ 点邑京都市中京区麩屋町三条上ル075-212-777811:30~13:30(LO)、17:30~21:00(LO)※夜は要予約休 火曜日
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