食知新ブログ
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BLOG京の会長&社長めし
2019.10.08
株式会社宮脇賣扇庵 の副社長が通う店「il cipresso(イル・チプレッソ) 花見小路」
■南忠政(みなみ ただまさ)さん 1976年生まれ。5代目宮脇新兵衛の孫で、株式会社宮脇賣扇庵 副社長。大学卒業後、母方の実家である同社に入社し、京扇子の製造・販売に携わり、扇文化の継承に努めている。自分から新しい店を開拓するのは、苦手なほう。外食でよく足を運ぶジャンルは、中華とイタリアン。最後の晩餐は、「中華のサカイ 本店」のオムライス。ハレの日には、元置屋を改装したモダンな空間で気鋭のシェフによる季節のコースをイタリア料理をよく食べにいくという南さんが、お気に入りの一軒に挙げるのが、祇園の「il cipresso 花見小路」。四条花見小路から南へ進んだ一筋目の通り沿いにあり、周囲に溶け込むように立つ一軒家レストランだ。「2年ほど前、若手経営者の集まりで行ったのが最初です。いつもは仲のいいメンバーと複数で行くことが多いですね。雰囲気がいいし、きっちりとした食事ができるし、女性を連れて行っても満足してもらえるお店だと思います」(南さん)2014年にオープンした同店の建物は、築100年以上の元置屋を改装。店内に入ると、シックな細長いアプローチが迎える。モダンな雰囲気の客席はカウンターがなく、テーブルと個室が箱庭を中心にして配されており、ゆとりを持たせた贅沢な空間になっている。「ハレの日や特別な記念日などに使っていただけるような、きちんとした店を目指しています。南さんはお知り合いの方が仕事の関係でうちをご存じで、一緒にいらっしゃったと思います。個人的に気に入ってくださり、ほかのお客様にもご紹介いただいています。ありがたいですね」と、シェフの伊藤敏浩さん。南さんは、3ヶ月に2度くらいの頻度で訪れるという。「祇園の店としてはわりとリーズナブルに食事ができます。季節の食材を使ったコースを出してくれるのですが、それが毎回楽しみで」。ここでは昼4000円、夜は1万円のコースが用意される。南さんがいつも利用するのは、庭に面した奥の個室。隠れ家のような贅沢な雰囲気の空間で、お気に入りの場所だという。「レイアウトがちょっと変わっていて、コの字型のテーブルで会議をするような並びになっているんですが、ゆったりできるし、皆と語らいやすくて長居してしまいますね」(南さん)今年からシェフを務める伊藤さんは、東京「リストランテ アカーチェ」「リストランテ ラ・バリック」、奈良「イ・ルンガ」、京都「t.v.b」などで修業した気鋭の料理人。産地を問わず、季節の良質の食材を使用し、時には和や中華の技法も取り入れて仕立てるコースは、前菜のような華やかな料理がありつつ、郷土料理がベースのものも盛り込むなど、メリハリをつけた構成にしている。「現代的で、これは何?と思うような見た目の料理が出ることも。料理の説明を受けて驚きながら、感心しながら皆で食べるのが楽しいですね」(南さん)南さんを含めお客から「きれいで可愛らしい」と好評なのが、前菜。伊藤さんは、「店への期待感が高まるのが前菜なので、例えば鮎をキュウリとシソのソースと合わせたものなど、素材の味を活かしつつ、何を食べてもらいたいのか明確なコンセプトの中で、盛り付けや食感などを考えて手を加えています」と説明する。シンプルに仕上げるパスタは、南さんもおすすめ。「量とか、前後の料理の流れを考えて出されているんだなと思います」(南さん)写真は秋の献立の一例で、3種のきのこを使い、仕上げにサマートリュフをたっぷりかけた「きのこのラグーのタリオリーニ」。炒めたジロール茸とプルロット、オイルで煮詰めたマッシュルーム入りのラグーソースと、細めの自家製麺がバランスよく絡む。きのこの凝縮した旨味を堪能できる一品だ。「肉料理は毎回期待してしまいますね。お肉に行くまでにすでに満足しているのですが、出てきたら食べてしまうおいしさがあります」(南さん)肉料理は、夏鹿や羊、鴨、子豚、鳩などを使うことが多く、「家庭であまり食べないようなものをお出ししたいですし、そういった食材の良さも知っていただきたいので」と、伊藤さん。この日は定番の「仔羊の炭火焼きタンドリー風」。ヨーグルトとスパイス、トマトソースでマリネして焼いたラムに、万願寺唐辛子のグラタン、オリーブのペースト、パプリカのソースなどを添えて。ジューシーなラムとタンドリーの風味がとてもよく合う。「ワインはいつもお任せしています」と、南さん。ここでは250~300種のワインを揃え、写真のバローロやグラヴネルなど、イタリアワインが99パーセントを占めているのが特徴だ。グラスも豊富で、「日によっては20種ぐらい開けることもあります」と、マネージャーの田村さん。ボトル8000円から、グラス1200円から楽しめる。どんなにおいしくても、堅苦しい店は苦手だと話す南さん。この店はそんな堅苦しさはなく、居心地がいい中でおいしい食事を楽しめるのがやはり魅力だという。それについて、「スタッフ間のコミュニケーションはよくとっているので、それが接客をはじめ、店のいい雰囲気づくりにつながっているかもしれません。レストランでは料理だけでなく、空間、サービスなどすべてを楽しんでいただきたいので、そうした空間づくりを心掛けていますね」と伊藤さん。南さんは、京都の飲食店にはもてなしの心地よさや料理にレベルの高さを感じるという。「繊細なところにまで気を配られていて、自然と感謝して食べたくなるような料理が多いですね」。この店もそう思わせる一軒なのだろう。撮影 竹中稔彦 文 山本真由美■ il cipresso 花見小路京都市東山区祇園町南側566075-533-7071営業時間 11時30分~15時、18時~23時要予約 ※個室は5名~7名まで利用可 定休日 日http://il-cipresso.jp/
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BLOG京のほっこり菜時記
2019.10.04
「松茸」
幼い頃は、「松茸」の美味しさがまったくわからなかった。父や母が「すき焼きにしようか、松茸ご飯にしようか」と大騒ぎしている横で、「私は椎茸で十分」なんて思っていた。いつ頃からだろう。「秋といえば松茸でしょう」と心待ちするようになったのは。値段を知ってからだろうか。年を経るごとに私の中でも「松茸」はご馳走ランキングの上位に入るようになった。今では「松茸」と口に出して言うだけで、あの芳しい薫りがわきあがる。鱧松鍋、土瓶蒸し、焼き松茸、松茸ご飯に松茸フライ、松茸パスタと料理も際限なくあって悩ましい。いろんな料理をたっぷり食べたい時は、季節の特産品を商う寺町三条の「とり市」に足を向ける。店の前を何度も行ったり来たりして、籠盛になった「松茸」を横目で眺め、「あのくらいの値段なら買えるかも」、「よし! 今日は奮発しよう!」と決心して立ち止まるのだ。以前、この「とり市」の販売員の方に、松茸と料理の相性についてお聞きしたことがあった。「松茸」は生長にともなって若い時期のものから「ころ」、「椀」、「開き」と形態に合わせ呼ぶそうだ。頭の小さい「ころ」はシャクッとして歯ごたえがよく土瓶蒸しや鍋に、そして中開の「椀」は焼き松茸に、松茸ご飯には「開き」が適しているという。最近では、中国産やメキシコ産は7月頃から出回るというが、国産は9月以降がピーク。京都の丹波産も10月頃だろうか。私の実家では、お好み焼きの種に「開き」を刻んで混ぜ込んだ「松茸お好み」が定番だった。ふっくらしたお好み焼きに「松茸」の香りが封じ込められ、口に入れるとそれが広がる。高級なのかB級なのかわからない料理だが、妙に美味しかった。大人になった今は、割烹などで松茸料理を注文することもある。丸ごと焼いて、香りが立ち上がった頃合いに、手で割いて皿にとってもらうときの嬉しさと言ったら...。そのままでも美味だが、ちょっと塩をつけたり、酢橘をキュッと絞ったり。「もう今年はこれで十分です!」的な幸せに満たされるのだ。鱧松鍋や焼き松茸のように1本、2本といただくと高価だが、お椀や土瓶蒸しなどはそうでもない。京都の料理屋では、意外にもリーズナブルな価格で、松茸料理を堪能できるからありがたい。たとえば、京都駅近くで美味しいものというときに足を向ける料理屋「燕」もそんな一軒だ。店主の田中嘉人さんは、京都の名料亭やNYの精進料理店に勤めた経験を持つ料理人。和食に則りながらも、洋食材を使ったり、エスニックな味わいを加えたりと独自の料理をつくりあげる。「せっかく美味しいものが世界中にあるんだから、その風味を和食にとりいれて表現したい」と田中さんは言う。2013年の開業以来、そんな工夫に惹かれる客はどんどん増え、「京都に着たら必ず立ち寄る」常連を全国にもつ店になった。鶏や魚の唐揚げには、レモンではなくフィンガーライムを添える、白味噌椀に苺を合わせると新たな好相性を見つけ出す田中さんの味覚力は底知れない。だが一方で、誰もが食べたい鮎の塩焼きや鱧松のお椀など王道の日本料理もあるのが、この店の魅力。遠方から来た客に「京都の美味しいもの」をちゃんと用意してくれるのだ。 最近は早めの予約が必要になったが、空いていれば東京出張の前に立ち寄って小粋なつまみでビールを一杯。遅めに京都駅に着いた日に美味しいものを求めて立ち寄ることもある。出張帰りで疲れていても、気さくでおちゃめな田中さんと世間話をすると、なんだか心身がほぐれていく。そういう意味では、「松茸」×「田中」の組み合わせは最強の和み飯かもしれない。今年はどこで何回「松茸」を食べられるだろうか。楽しみな季節がやってきた。■ 燕 en京都市南区東九条西山王町15-2075-691-815517時30分~23時休 日曜・祝日の場合は月曜日
中井シノブ
ライター
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BLOG美人&イケメンスイーツ
2019.09.30
『スフレ&カフェコーナー 茶庭』の「バニラスフレ」
推薦人:有限会社コンフォート代表 辻衣緒里さんブライダルの企画や飲食店の経営など、多彩な仕事をこなす有限会社コンフォート代表取締役の辻衣緒里さん。2019年4月より、金戒光明寺境内のおばんざいランチ・甘味処「戀西楼 快庵」を運営。おばんざいランチ・きつねうどん・黒谷パフェ・みたらし団子など京都らしいメニューで評判を呼ぶ。 緑豊かな京都・岡崎。疎水のすぐ近くに手をけ弁当で知られる料亭、六盛があります。入口を入ってすぐ左手、疎水や庭園を望むテーブルとカウンター席の広々としたスペースが、午後のひととき、スフレをいただけるカフェサロン「スフレ&カフェコーナー 茶庭」です。 スフレを作るパティシエールの岸本香澄さんは、六盛の当代の長女で、辻さんとは長年の友人です。日々忙しく過ごす辻さんですが、ほんの少しほっとする時間を過ごすのがこの店だそう。 「友達同士や仕事関係の方とお茶を兼ねてどこかで、という時にお連れすることが多いのですが、いつも迷いなくここを選ぶんです」 いつ来てもゆったりと過ごせて、京の料亭という贅沢な空間でお茶を楽しむひとときは、自分自身もリフレッシュできて、ゲストにかならず喜んでもらえるといいます。 「どちらかというと甘いものよりお酒が好きなんですが、こちらのスフレは甘すぎず、ふんわり軽やかで私好みの味。甘いものが苦手な方もぺろっと召し上がるんですよ。優しい味わいなので、どんな世代の方にも好まれますね。いつも食べるのは、定番のバニラスフレ。おすすめの食べ方は、スフレにスプーンをいれて穴をあけて、ソースをかけるのですが、ソースの香りがすーっと立ってきて、熱々のスフレをいただくと、気持ちもふんわりしてきます」(辻さん) バニラスフレにはアングレーズソース、ショコラにはチョコレートソース、、抹茶には抹茶ソースとそれぞれベストな相性のソースがつきます。お酒にもよく合い、特にスパークリングワインとは格別なマッチングを見せます。スフレセット(バニラスフレのみ)1320円(税込)は、コーヒー、紅茶、スパークリングワインなどからドリンクを選べます。ふわふわ焼きたて熱々のうちにどうぞ。 スフレはバニラスフレなど定番が4種、それに季節のスフレが2種、計6種が常時揃っています。「スフレの店は31年前、祖父が始めたんです。たぶん、ヨーロッパあたりで口にしたのだと思いますが、ふんわりとした優しさや、儚く溶けていく食感が京都にあうのでは?と導入したそうです」と岸本さん。 まだスフレなど知られていない時代に、祖父の吉一さんが新しいお菓子に挑戦し、それがだんだんと認知され、いまでは京都でも数少ないスフレ専門店として多くのファンを獲得しています。 「四年前に同じ岡崎の別の場所からこちらに越して来られたのですが、以前は外で行列を待たなくてはいけなかったのですが、今は、お店の中で待てるので助かります(笑)」と辻さん。お気に入りのバニラスフレとスパークリングワインを楽しむ辻さん。「どんな方をお連れしても心からくつろいでもらえることが嬉しいです。料亭の雰囲気にも浸れますし、おもてなしも居心地も素晴らしいです。お気に入りの場所ですね」 スフレはとにかく焼きたてが命。お客様の顔を見てオーダーをうけてから、キッチンで生地を泡立てて、200℃のオーブンで約25分、じっくりと焼きます。スフレ作りを一手に引き受けているのが岸本さんです。「時には急ぎのお客様もいらっしゃいますが、うちは焼きたてのスフレを召し上がっていただく店ですので、ご理解していただいています。ふわふわ熱々のところを召し上がっていただいてこそですから...」 料亭らしく季節感や京都の和のイメージも大切にしており、旬の素材や和テイストの素材を用いた独自のスフレレシピは50種以上になるのだそう。どれも試行錯誤しながら、何度も試食を重ねて完成させた自信作です。季節限定のスフレ、クリームチーズのスフレとブルーベリーのソース886円。クリームチーズのコクに、ブルーベリーの甘酸っぱさがよく合います。 四半世紀近く、スフレ一筋を焼き続けている岸本さんですが、気温や湿度、素材の状態で微妙に仕上がりが異なるのだとか。 「こんなことをいうとおかしいですが、ちょっと蕎麦打ちに似ているかもしれませんね。スフレは繊細なデコレーションをするわけでもなく、どちらかというとシンプルな作り方のお菓子。緻密に計算して作るというより、その時の勢いとか感覚が大切だったりします。23年焼き続けていても、なかなかこれで完璧!というのがない世界ですね」 もっともっと美味しいスフレをめざして、妥協を許さず、高みを目指す姿勢はまさしくスフレ職人といえるでしょう。愛らしい中にもきりりとした雰囲気の岸本さん。スフレのことを話し出すとスフレへの情熱を感じます。 辻さんのお気に入りの席は窓に面したテーブル席。手に取るように緑の木々が枝を伸ばしています。「ここからの景色は緑の木々が美しくて、心から癒されるんです。そして、何よりも変わらぬ味が安心でうれしい。ここに来て美味しいスフレをいただいて心身をリセットして、またがんばろうって気持ちになれます」 「そういう場所になれることがなによりうれしいですね」 ふんわりと人の心を包むような優しいお菓子。スフレを通じて会話が弾むひとときは、 なにものにもかえがたいしあわせな時間なのかもしれません。窓に映る緑の美しいこと!四季折々に移ろいゆく京都の景色もまたご馳走です。六盛の料理を堪能して、そのあとに店内を移動して、コーヒーとスフレを楽しむお客様も少なくないのだとか。撮影/竹中稔彦 取材・文/郡 麻江■スフレとカフェコーナー六盛茶庭京都市左京区岡崎西天王町71六盛内075-751-617114:00~17:00(LO)休 月曜(祝日の場合は翌日)
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BLOG割烹知新〜奇想の一皿〜
2019.09.30
祇園 楽味「鮎のお番茶揚げ」
奇想の一皿「鮎のお番茶揚げ」鮎の唐揚げをお番茶の香りとうるかのソースで 水野隆弘(ミズノタカヒロ)さんは岐阜県出身。名古屋のホテル内和食店で勤めた後、「祇園 さゝ木」に入店。以来15年間、佐々木浩さんの薫陶を受け、右腕といわれるまでになりました。3年前からは姉妹店「祇園 楽味」の料理長として腕を奮っています。「祇園 楽味」は、その時々の旬の食材を客の好みの味に仕立てる割烹形式の店。美味しいものを知りつくした食道楽が通うことでも知られる店です。発想秘話 鮎といえば塩焼きが定番。「祇園 楽味」に来店されるお客様のなかには、鮎の季節に何度も「塩焼き」を召し上がる方もいらして、なんとかほかに名物になるような料理をつくれないかと常々考えていました。頭なのなかには、本店の「祇園 さゝ木」で出す「子持ち鮎の唐揚げ」も浮かんでいましたが、同じものでは芸がない(笑)。そこで思いついたのが、常備菜として作られてきた伝統の味「鮎のお番茶煮」と合体させることでした。 鮎をいったん唐揚げにした後、番茶の香りを燻らせ付ける。鮎の特徴ともいえる肝はいったん取り出してうるか(内臓の塩辛)のソースにし、香りをつけた鮎の腹にもどすという料理。独特の肝の苦味や泳ぐような姿はそのままに、サプライズのある料理に挑戦しました。鮎を開いてはらわたを取り出し、うるかにしておきます。そのうるかにたっぷりの昆布と昆布だし、オイスターソース、実山椒を加えてミキサーにかけます。昆布を加えることで厚みのある旨味とねばりがでる。オイスターソースでコクを、実山椒で爽やかな辛味を添えた、鮎風味のソースになります。だしはもちろん「さゝ木」特製の味です。開いたお腹がつかないよう、クッキングペーパーを挟んで串をさし、表面に米粉を付けて揚げていきます。うちでは、唐揚げは小麦粉ではなく米粉。よその店では何粉を使っているのか知らないんですが(笑)。とにかく、米粉はカラッと揚がって食感がいいんです。中華鍋にアルミホイルを敷いて番茶を置き、網に鮎を並べて蓋をする。いわゆる燻製ですね。燻らせるのは1分くらい。身に熱が入りすぎると締まってしまいます。最後に、串を抜いてペーパーをとりだし、開いたお腹にうるかのソースを入れたらできあがり。見た目は普通の唐揚げだから、一口食べると「何か違う?」と驚きがあります。サクサクの皮にしっとり柔らかな身、噛むとうるかのソースの旨味やコクや辛味が広がる。そして最後にお番茶の香りが鼻に抜けていく。そのまま揚げるのとはまた違う美味しさがあります。この企画を依頼されたとき「和食から離れてもいい」と言われました。けれど考えれば考えるほど、洋食ではなく伝統料理に想いが向いてしまいました。まさに温故知新です。旬の時季の鮎は、シンプルな塩焼きも抜群ですが、香ばしくふくよかな味わいのこの鮎料理もぜひ食べていただきたい。家庭でつくってみるのもいいかもしれません。■ 祇園楽味京都市東山区祇園町南側570-206075-531-3733営17:30~23:00L.O.休 日曜、第2・4月曜
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BLOGうつわ知新
2019.09.30
名残りの月にこそ愉しみたい"冷えたもの"
梶高明梶古美術7代目当主。京都・新門前にて古美術商を営む。1998年から朝日カルチャーセンターでの骨董講座の講師を担当し、人気を博す。現在、社団法人茶道裏千家淡交会講師、特定非営利活動法人日本料理アカデミー正会員,京都料理芽生会賛助会員。平成24年から25年の二年間、あまから手帖巻頭で「ニッポンのうつわ手引き」執筆など。全国の有名料理店と特別なうつわを使った茶会や食事会を数多く開催。 十月を茶の湯では「名残り(なごり)の月」と呼んでいます。夏に新茶を収穫し、しばらく茶壺で寝かせておく。十一月に口切り(くちきり)といって、口の封を切って茶壺の蓋を開けます。そして取り出したお茶を石臼で挽き、茶会を催す。つまり、お茶的に暦を考えると、十一月が新年、十月は晦日月となります。晦日月には過ぎた時間を振りかえり、名残りとしての風情をいつくしみ、味わうわけです。 その趣向は、当然、十月に使うお道具やうつわにも表現されます。金継ぎ(きんつぎ)など、丁寧に修理を施したものや、枚数が半端になってしまったうつわなどを、整えたうえで、積極的にお客様のお出しして、あえて趣向として楽しむわけです。 最近、金継ぎを学びたい人に出会うことがままあります。ものを大切に修理して使うことは大変喜ばしいことです。ただ金継ぎというのは、傷を負った箇所を、金と漆を用いて修理するがために、修理箇所を強調してしまうことになります。修理部分に人の注目を集めることは、うつわ全体の持つ印象を大きく変えてしまうことにもなりかねません。だから金継ぎは、修理跡をさらけ出して、金の力を借りてさらに魅力を加えようとする積極的な修理だと、私は思っています。古いうつわの修理は、「ものを大切にする」ため「割れて捨てるのはもったいない」からという思いだけ行うのではないと思っています。本来、無傷であり、数もそろっていることが望ましいでしょう。そして、自らの不注意でうつわを破損させてしまった後悔は、形あるものの命を奪ったような罪悪感すら感じます。しかし、しばらくして冷静さを取り戻すと、残された破片たちに未だ魅力がとどまっていることに気づかされます。そこで修理の方法を検討するわけですが、金継ぎはまさにこの傷を思い切って遊んでしまおうという割り切った気持ち持った修理法だと思っています。私は美術商として長年の経験を重ねてきましたが、以前は欠点にしか見えていなかった修理や品物に刻まれた傷が、今では別の魅力として目に映るようになってきました。アイドルが年月を重ね、老いという欠点を円熟という魅力に変えて、渋い名優として再評価される姿を見るようです。料理屋に出向いた際、食材だけでなく器にも名残が表現されていたら、ぜひこの話を思い出してみてください。 わびさびというのは、千利休が完成した茶の湯の精神と言われていますが、利休より約半世紀早く、武野紹鴎はこのわびさびを「冷える」という言葉で表しています。 紹鴎がとらえた「冷える」という意味は、例えば若い茶人がたくさんの道具を抱えて華やかに茶会を開いたとします。するとそれは分不相応な成金的な茶会だと人々の目には映ることでしょう。ところが、年長者が時間をかけて学びながらコツコツと集めてきたお道具で茶会を開くと、人々の尊敬を集めることになるでしょう。このふたつの違いは、茶会を開くまでに要した時間長さの違いを取り上げていて、選んだ道具を比べて、その評価の違いを問題にしているわけではありません。時間の存在が、お道具をその人にとって分相応なものに変えていく役目を果たすのだと言っているようです。そして、このことを「冷える」という言葉で表現しているのです。時を経てジーンズの藍がなじんでいくが如く、新しい洋服が時間を経て、その人のスタイルと呼ばれるが如くにになっていく。「冷えていく」ということをそんな感覚で捉えられていたようです。さてこの10月、名残りの月にこの「冷える」という感覚をテーマに様々なお楽しみをしてみては如何でしょう。古い洋服に腕を通す、食器棚の奥から半端ものの器を取り出して使ってみる、欠けてしまって捨てようかと迷っていた器を修理してみる。少し寂しいような懐かしいような感覚。枯れる前のひと時を愛でるような秋もありだなと私は思います。今月の器〜冷えたもの〜 名残りの月にふさわしく「冷えたもの」をテーマに、金継ぎの器を選んでみました。器が壊れる原因は、不注意によるものがその大半ですが、古美術の世界では意図的に破損させて、修理を楽しんでいるケースも見受けられます。これについてはまたの機会にお話しをすることにして。今月は金継ぎを施された、ふたつのうつわを取り上げています。古染付双鹿図七寸皿 (1630年代 明)澄んだ、光沢のあるガラス状の透明釉の下に二匹の鹿、鳥、草花が呉須と呼ばれる藍色の染料によって描かれている、明時代末の1630年頃景徳鎮で作られた、古染付と呼ばれるうつわです。精密に写生をすることには興味を覚えず、伸びやかにざっくり描くことによって、くずした面白さを強調したようなうつわです。このころは未だ素焼きをする技術が無く、成形し、乾燥させたうつわに、いきなり呉須を使って描いています。まさに鉛筆による下書きの作業を経ずに、すぐに絵筆で描いた小学校に入学して間もない子供たちの絵のように躊躇いの無い絵付けです。スピード感をもった絵付けは、陶芸家と言うよりも、相当に描き慣れた絵師としての技量がある者の手によるのだろうと思います。 それが、400年の時間の中で、誰かが粗相をして割ってしまったのでしょう。金継ぎを施して大切に使ってきたのだと思います。この時代特有の濃紺の染付に、金色がよく映えて、料理を盛っても隠れることのない部位に位置するアクセントになっています。同時に元の所有者のうつわに対する愛情も感じられるようです。伊万里古九谷様式色絵山水図五寸皿 1640~1690 美しい色彩を使った伊万里古九谷様式の皿です。こちらも整いすぎないところに美があると思います。正確にきっちりと絵を描かず、筆の勢いにのせて描いているように思えところが好ましいところです。絵を見せよう、皿を鑑賞させようと言うのではなく、料理をとの相性を考えて、この程度の完成度に留めてあるのでしょうか。或いは、禅画のようにさらりと描くことで、見る側の自由な想像力に委ねようとしているのでしょうか。絵が強いメッセージを待たない模様であるかのようで、うっかり見過ごしてしまそうです。絵があまりに主張するとそれはもう「うつわ」ではなく「絵」になってしまい、作品として独立し、料理を置いてきぼりにしてしまう。この五寸皿は、余白の取り方といい、絵の重心を皿の中心から左下方にずらして、料理にステージ中央を譲っているところも、うつわとしての役割を理解した憎い演出なのでしょう。 この色絵山水図の皿は、日本でも色絵の生産が始まって、まだ駆け出しの頃のものと言ってよいでしょう。色絵は作り始めたけども、まだ中国からの影響が著しいので、図柄に中国的様式が色濃く残っていますよね。 真ん中の絵を囲む額縁の存在のように紺色の円が描かれています。円の外側は空白のままにして、皿の外周を反り返えらせて、紺色の円と対比するかのように白い円のように見せています。これは鍔型と呼ばれる形状です。古九谷様式、古染付にもよく見かけます。また魯山人もよく鍔型を作品に取り入れています。 写真の皿も、恐らく一部を欠くくらいひどく割ったのでしょう。うつわの割れる形は人の力でコントロールできませんから、割れた形の面白さは、雲の形のように自由奔放です。この皿は修理面積も大きいのですが、お構いなしに金を貼り付けて素知らぬ顔をしているようです。持ち主の細かいことを気に留めない気質の表れでしょうか。この修理箇所に模様を描いても面白いでしょうね。 美しいのだけれど、整い過ぎておらず、おおらかさや勢いをも同時に持ち合わせて、まさにその時代や、その作者にしか生み出せない古いうつわの持つ魅力。そこに後世の者が金継ぎという修理を施す。これって決して許されることのない文化財への落書きのようなことではありませんか。割れた筋に沿って金を貼り付ける以上に、好きな線を描き、模様を施すことも自由自在なのです。そして、また古いうつわに「いま」が新たな味わいとなって加えられるのです。古いうつわに「いま」の持ち主の思いを刻み込む。そしていずれ、また誰かの手に渡って行くのです。今、あなたが手にしているうつわも、そうしてここに辿り着いたもの。長い時を経て独特の味わいを醸す、こういったうつわこそ、「冷えたもの」の真髄をよく表していると思います。うつわのキズも修理もこの秋「名残り」として味わってみましょう。 次回も引き続き「冷えたもの」のお話をしたいと思います。今度は「粗相して」壊れたものでなく、「あえて」、もともと壊れているもの、半端なものを集めて愛でるというあたりから、「冷えたもの」の別の側面をご紹介したいと思います。■ 梶古美術京都市東山区新門前通東大路西入梅本町260075-561-4114営10時~18時年中無休(年末年始を除く)
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BLOG京都グルメタクシー
2019.09.27
おいしい京都案内 | 記憶に残る京都の素敵な料理人
「京都グルメタクシー」を立ち上げてすでに9年が経とうとしています。当初は「おいしいお店」を探すのが目的でしたが、次第に「お客様のニーズにあったお店」を探すことに変わっていきました。「美味しい」という部分では同じ目的のように思えるのですが、私にもやはり嗜好があり、それが時としてお客さま好みの店を探す邪魔になることがあります。それを極力少なくして情報を客観的にご紹介するのが、タクシードライバーの枠を超えた「グルメタクシー」だと思っています。 こんにちは!京都グルメタクシーの岩間です。車に乗るだけで、あなたにとっての「おいしい京都」をご案内いたします。さて今回は少し趣向を変えて、「おいしいお店」のリストつくりで出会った料理人の話をしたいと思います。 私が店選びで重要視しているのはお店そのものではなく料理人やサービススタッフがどんな流れで仕事をしているかということ。有名店や人気店で修業された方を優先するのではなく、修業店でどういった経験をされ、その後どんな経緯でお店を開かれたかを一番知りたいと思っています。だれに影響をうけたか、どの料理に感銘を受けたのか。料理人の人生をたどることこそ、その店の「料理」という作品を理解できると思っています。これまで出会ったなかで、人生の歩みや想いが料理に反映されていると感じる料理人をご紹介いたします。☆☆☆ ル・ピックアシエット (Le pique-assiette) 田邉正明シェフ「リヨン風魚のクネル ホタテ・天使の海老のポワレ添え ズワイガニのアメリケーヌ」 田邉シェフと出会ったのは2013年7月。その当時のメニューは「オレガノ風味ツブ貝 トマトコンソメ ババロア 塩豚のテリーヌ」「鯛のポワレ」「バベットステーキ 赤ワインと黒こしょうのソース アッシュパルマンティエ」など、フランス料理の王道という構成でした。さらに私が修業したフランスのエリアの料理と似通った方向性を感じ取ることができました。とにかく肉料理の印象が強いお店です。付け合わせもメインにぴったりリンクしていて、なかでもジャガイモ料理は賞賛したい味です。その後お客様も多くご紹介させてもらいました。プライベートで8回目の訪問時にでたのが、この「リヨン風魚のクネル」でした。あの味♪そう、私が修業時代訪問したリヨンにある「ピエール・オルシー」のオマール海老の料理ともつながるおいしさ。ここは肉料理だけではないと改めて思わせられました。現地そのものの味にも驚かされました。料理人は人や街からも影響を受けます。田邉シェフは若い頃に一度リヨンの料理に出会い、その後、再度リヨンを研修先に選んだという熱い想いのある人です。リヨンで出会った料理が自分のつくりたいフレンチに通じたのでしょうね。もしも、自らの料理にまだ満足できていない料理人がいたら、今からでも遅くはありません。お気に入りの街や尊敬できる師匠を探してもいいのかもしれません。田邉シェフの「リヨン愛」が彼のフランス料理の技術をさらに向上させ、それと同時にリヨンという土地が田邊シェフを望んだのかもしれません。 照れながら「料理はすこし時代遅れかもしれません」と直向きにおっしゃるシェフの笑みを見ていると、分厚いフランス料理の本を片手に学んだ一人として、このお店の計り知れない潜在能力を感じさせられます。前進し続けるリヨン料理を、ぜひこちらで堪能してください。■ル・ピックアシエット (Le pique-assiette)京都府京都市東山区下馬町491 アースコート清水 1F075-531-9850 ランチ 12:00~15:00(13:30L.Oディナー18:00~22:30 (20:30L.O)定休月曜日 (祝日の場合は火曜日) ※その他不定休ありhttp://le-pique-assiette.com/☆☆☆ 自家製紛 手打ち十割そばみとしろ 戸田新二さん「海老天辛味せいろ(天然海老 薩摩芋 ししとう えのき)」 蕎麦屋さんですが、天ぷらの画像を掲載しています。地元のファンに「から汁」と親しまれる「十割辛み大根 せいろ蕎麦」が人気の品。産地を問わず日本全国から仕入れる蕎麦粉で打つ、十割蕎麦を食べることができます。戸田さんの蕎麦は十割の良さが前面にでているのですが、最近さらにキレの良さを感じます。蕎麦を打つ際の店主の流儀をお聞きしました。 「三だて」 挽きたて 打ちたて 茹でたてということです。つまりつくっておいた蕎麦を出すことはないということですね。薬味や山葵も切りたてです。つゆは関東風で濃く、蕎麦は北海道産+天然水で「細い。腰がある。すこし甘い香り。蕎麦自体の香り。雑味なし」と初訪問のブログ記事に書きました。ですが、今回は天ぷらに注目しました。戸田さんにこの店の蕎麦の打ち方をお聞きすると「秘密♪」と苦笑い。まったく教えてくれません(笑)。天ぷらは関西風ですが、すこし「ベニエ」(フランスの衣にビールを入れた揚げ物)に似た「外はカリっと、中はまったり」の揚げ具合で、衣と具材が一体化しています。ある程度油が衣に残っているのですが、そこがこの店の持ち味。なんともやみつきになる衣なのです。 戸田さんはいつも笑顔で楽しんで仕事をされています。食べているお客様の表情を見ると同時に、食材を真剣に見つめます。その繰り返しが、美味しい蕎麦を生み出すのでしょう。料理についていろいろ相談してみると、彼の引き出しの多さに驚かされます。お店は不便な場所にあって比較的空いていますが、もし中心部や駅前にあったら行列ができるだろうと思ったり。蕎麦のあとは、「そばがき善哉」(2人前から対応)をぜひお試しください。この甘味にも、店主の想いが込められています。■みとしろ京都府京都市北区大宮西総門口町45 075-493-3990 ランチ 月~土・第1・2日曜11:30~15:00ディナー 月・火・水・木・土18:30~20:30(LO)金曜日夜休み定休日第3・4・5日曜、第1・2日曜の夜☆☆☆ プッチーロ (PUCCIRO) 木村雄一郎シェフ「定番 マンマ直伝のミートソースの手打ちスパゲッティ(自家製麺)」※9月中にスパゲッティ→タリアテッレに変更予定 「大宮通りにおいしいミートソースのお店がある」という噂を聞いたのが2012年。当時はフランス料理店以上にイタリア料理店が乱立する時代でもありましたし、パスタはすでに「手打ち麺」優勢の状況でした。食通の方々の口コミは最良の店選び手段です。イタリア料理ファンのなかには毎日パスタを食べる勢いある食通もいました。そんななかで、この「ミートソース」の噂が聞こえてくるということは、よほどのことだと思いました。 挽肉たっぷりのミートソースは赤みがかっておらず、熟成したうまみが凝縮されています。後味は意外とすっきり爽快。一口目から「おいしい」と感じるのではなく、半分ぐらい食べてからじわじわと「おいしい」と思えてくる味です。「毎日食べたいミートソース」とは、と考えさせられる味なんです。この、ミートソースができあがるまでには、不思議な出会いがあったことを、後に木村シェフから聞きました。 木村シェフが勉強のためイタリアのお肉屋さんでホームステイをしていたとき、そこのマダム(マンマ)に教えてもらったのが、このミートソースだったそうです。通常料理人は人気レストランの味を参考にしますが、たまたまご縁のあった家庭の味を参考にしたのです。その後、木村シェフの技法やレシピをソースに加え、現在のプッチーロの味に仕上げたそうです。だからいい意味で「家で食べるような安心感のある味」です。長時間かけて煮込み、仕上がるミートソースを食べ、心温まるマンマの味を感じてくださいね。■プッチーロ (PUCCIRO)京都府京都市下京区大宮通高辻下ル高辻大宮町123 モンテベルデ壬生 1F075-842-1616ランチ 11:30~14:30(L.O.13:30)ディナー 18:00~22:30(L.O.21:30)定休日 木曜日 不定休ありhttp://pucciro.com/index.html☆☆☆ わかば 五十嵐 博文さん「ジャンボ海老フライ 自家製タルタル添え」 私の自宅から歩いて行けるお店で、現役Jリーガーも訪れる人気店です。和洋にこだわらず常時100種類以上ある低価格メニューを惜しみなく提供してくれます。店主の五十嵐さんはお人柄最高の方で、元料理人の私からみても、料理に向き合う姿勢がすばらしい。お店は、昭和なサラリーマンの憩いの場・高架下にあります。この店の大切な存在が博文さんのお母様。フライなどを揚げながら、カウンターの中で息子さんを見守っておられます。おふたりの漫才のようなやり取りや、親子の会話が、終始ゲストを楽しませてくれます。エンターテイメントのように楽しいお二人の素敵な会話にお客さんも加わり、和やかな時間が過ぎていくのです。 五十嵐さん親子が生み出す料理は広範囲で充実しています。記憶に残っているのは、「刺身盛り合わせ」「磯辺揚げ」「カキフライ」「海老フライ」「しらすの天ぷら」「鯖寿司」「いなり」などきりがないほど。特に印象的だったのが「ジャンボ海老フライ」です。 30センチはあるでしょうか。ガッツリ衣がついたぷりっぷり!の大海老。このビジュアルのすごさに「満足間違いなし」と思わされます。「自家製タルタル」は、洋食屋さんも含め私がこれまで頂いた中でもなかなか巡り合えない見事なソースでした。玉子の黄身と白身、パセリ、塩、胡椒が上手く混ざり合い、いい塩梅なソースに仕上がっています。これをつけて食べるとさらにエビフライがおいしくなります。「名脇役ここにあり」と言いたげに輝いています♪ このお店のことをわかりやすく解説するなら「お客様とは親身に、料理には緊張感をもつ」ということでしょう。店主やお母様は客と日々起こったことや、スポーツの話をするけれど、料理に関しては気をぬかず、上質なおいしさを目指していることがわかります。その姿勢があるからこそ、常連さんが足を向けるのでしょう。近鉄高架下の「わかばスタジアム」をお訪ねください。■わかば京都府京都市伏見区観音寺町 桃山御陵駅のガード下075-621-371917:00~24:00(23:00LO)定休日日曜・祝日http://aquadina.com/kyoto/spot/8330/ 「おいしい出会い。記憶に残る京都の素敵な料理人」特集はいかがだったでしょうか。「出会い」「街」「時間」「家族」、料理は様々な背景があって生まれます。どこかのレシピを真似た料理より、ストーリーのある店独自の料理は親しまれ、人を幸せにします。自著の2冊(「おいしい京都」「もっと食べたい京都」でも、多くのお店をご紹介していますが、やっぱり私は料理人が好きなのだなあと、あらためて思っています。かつて私は「京都口コミ食べ歩き情報」(現在終了)という口コミに特化したサイトを運営していました。当時知り合ったグルメな仲間とは今でもオフ会やメールで情報交換をしています。口コミはつねに「黄金の導き」です。おいしさへの近道でもあります。精査した情報の中から「京都グルメタクシー」のコースプランをつくっているので、精度は上がっていると思っております。何気なく食べた「おにぎり」が、ある人にとっては「最高クラスのグルメ」ということもあるでしょう。一人一人、心に響く料理は別です。食べたときに感じる様々な感動を、これからも伝えていきたいと思います。料理人や職人に出会う時間や知識はかけがえのないものです。すばらしい人々や料理に出会うきっかけを増やしてくれるのが「京都知新」でもあります。京都グルメタクシーもお客様により多くの出会いを持ってもらえればと思っています。グルメ情報満載の「食知新」。これからも、どうぞよろしくお願い申し上げます!
岩間孝志
京都グルメタクシー
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BLOG外国人料理人奮闘記
2019.09.24
イタリア人料理人 フランチェスコ・ビアンキさんの「駅」と「七転び八起」
6回目に登場いただくのは、「木乃婦」で板前修業をするイタリア人のフランチェスコ・ビアンキさんです。京都市が日本料理の海外への普及を目的に「就労しながら日本料理を学ぶ」外国人を募集。その審査に合格して2019年4月に来日、日本料理を学ぶ日々を過ごしています。日本料理の淡麗で素直な味わいが好きみなさん、こんにちは。イタリアから来たフランチェスコ・ビアンキです。4月から京都の日本料理店「木乃婦」で修業をしています。もともと日本の文化や歴史が好きで、中学生の頃から日本語を勉強していました。イタリアでも和食をはじめ、天ぷらやラーメンなど日本の料理を食べたことがあって、日本料理にも興味をもっていました。学校を卒業してからは、料理人を目指してイタリア料理店で働いていましたが、その頃から、いつかは日本料理も学んでみたいと思っていました。イタリア料理と同様に、日本料理は素材の味はもちろん食感や香りなどそれぞれが持つ個性を大切にします。凝ったソースを使うわけではないのに、味わい深い日本料理は、私にとって神秘であり、その流儀や作法を知りたいと思っていました。京都市の募集に応募して念願の京都修業へそんななか、ロンドンで料理人修業をしている友人が、京都で日本料理を学びながら働けるプログラムがあると教えてくれました。2年半ほど前だと思います。ぜひ参加したいと思って申し込み、審査に通ることができました。本当にラッキー! 夢がかないました。今は八寸場で仕込みのお手伝い9月で京都に来て5カ月になります。木乃婦で働くほかの板前さんたちと一緒に寮で暮らしています。造り場、焼き場、炊き場、八寸場などいろいろな持ち場があるのですが、2ヶ月ごとに違う持ち場で働く仕組みで、今は八寸場で仕込みなどを手伝っています。朝は9時から板場に入って、細かな調理を教えていただきながら働きます。料理ごとに先輩方が包丁など道具の使い方から、調理法、レシピなどを教えてくださいます。今、直接指導してくださるのは、4年生の勝部さんです。厚焼き玉子の作り方や鯖寿司の巻き方など、何度も質問するわたしに面倒がらず丁寧に教えてくださいます。ほんとうに感謝しています。日本料理は、レシピがあっても、それだけで作れる料理ではありません。一つひとつの繊細な技術を繰り返して体にたたきこみ、自分のものにしなければいけないからです。すべてを身に付けるには、気の遠くなるような時間を要するでしょう。味覚だけでなく、食材などの感触や匂い、調理の音など五感を駆使して学ぶことを、ここに来て教えられました。休憩時間に「桂むき」が日課です午後には2時間ほどの休憩時間がありますが、その時間も自主的に「桂むき」の練習など、ひとりでできることを繰り返します。桂むきだけでも、上手くできるようになるには1年くらいはかかるのではないでしょうか。けれど少しずつ何かができるようになっていく。その達成感が今はモチベーションです。休憩後は夜の料理の仕込み。仕事を終わって寮に帰るのは8時頃でしょうか。そういう意味では長時間ですが、今のわたしにとっては、あっという間なんです。慶応大学の先生に取材を受けましたところで、先日、慶応大学で外国人の就労について研究されているグレッグ先生の取材を受けました。今後は外国人労働者が増えてくることから、どのように料理法や技術を伝えるか、どうすれば外国人が日本の料理店に上手くなじんで働けるかなどを研究されているそうです。習慣も言葉も違う国の料理を教え、教えられることはほんとうに大変。私たちの意見が、これから日本に来る人のために少しでも役にたてばうれしいですね。将来も大切だけれど、今が大事休みは週に1,2回。初めてのお給料で買ったピアノの練習をしていることもあれば、ボルダリングをするために外出することもあります。お寺や神社も訪れたいのですが。それは、これから先の楽しみです。今はまだ、あまり深く将来のことは考えていません。ただ、もっと料理を学びたい。ここでの研修が3年になるか5年になるかはわかりませんが、その後も、できることなら日本にいて天ぷら店や鮨店でも学んでみたい。イタリアに帰ったら以前とは違うイタリア料理も身に付けたい。まだしばらくは、将来のためにさまざまな料理を学ぶ時期だと思っています。好きな漢字は「駅」、好きな言葉は「七転び八起」漢字はほんとうに面白い。たとえば「駅」という漢字には「馬」という文字が入っていますが、それは、街道の宿場など人が集まる場所で馬を乗り換えたからだそうです。列車が走るようになっても、その場所は「駅」と呼ばれたんですね。アルファベットとは違って、文字一つひとつにも意味がある。ほんとうに興味深い。好きな言葉は「七転び八起」。この言葉には力強さを感じます。どんな辛いことがあってもへこたれない心身を養うことが大切だと気づかされます。魚の三枚おろしが上手くできなかったときなど、私はしばらく落ち込みます。けれど、いつまでも落ち込んでいては、前に進めません。気持ちを入れ替えてまた新たに挑みます。そういうことを繰り返し経験していくうちに、自分に力がついていくのだと信じています。■木乃婦京都市下京区新町通り仏光寺下ル岩戸山町416075-352-000112:00~14:30(L.O.13:00)、18:00~21:30(L.O.19:00)休 水曜
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BLOG料理人がオフに通う店
2019.09.22
「LURRA°」―「富小路やま岸」山岸隆博さんが通う店
「富小路やま岸」山岸隆博さん《プロフィール》京都市出身。「七栄鮨」、中央市場の鮪問屋、ホテルの和食店などを経て、「京都一の傳」で10年間修業した後、2015年10月に独立し、「富小路 やま岸」を開く。茶道裏千家講師、華道嵯峨御流華範、書道準五段、京都検定取得。2019年8月には姉妹店「二条やま岸」をオープンし、さらに9月「富小路やま岸 香港店」をオープンする予定。まるで世界を旅するように。薪火を使った独創的な料理に笑顔が広がる食空間「京町家を改築したレストラン。ガラス張りのお店の中に入ると、ガスが無く、ピザ窯と薪焼きだけのキッチンをカウンターが囲むしつらえ。そこに外国人のシェフ。ここから一体どんなお料理が出てくるのだろうと、否が応でも期待が膨らみます」(山岸さん)この7月に東山三条に開業した「LURRA°」は、今、京都で最も注目を集めるレストランだ。米国人シェフのジェイカブ・キアーさん、GMの宮下拓己さん、ミクソロジストの堺部雄介さんの、いずれも海外の有名店で経験を積んだ3人が、ニュージーランドの「Clooney」で同僚として出会い、意気投合。築150年以上の京都の古民家を舞台に、レストランプロジェクトを立ち上げた。宮下さんは、「京都は自然に近い場所にあるのがいいし、伝統工芸の街でもある。日本でやるなら京都が一番やりたいことができるなと」と、京都を選んだ理由を語る。この店のことはオープン前から「面白い店になる」と注目していたという山岸さん。対する宮下さんも、山岸さんから店作りへのインスピレーションをもらったと振り返る。「『やま岸』さんに行かせていただいたときに、すごく楽しいお店だなという印象があって。お客さんが皆笑顔になれるお店っていいなと思っていたんです」ここでは、大原や伏見などの農家から仕入れる京都の野菜や、水揚げ当日の昼に届く魚介など、日本の旬の素材を使い、2種類の薪の火を駆使して調理したオリジナリティあふれる料理を、ドリンクペアリング付きの5品を含む全10品のコースで提供。コペンハーゲンの「Noma」などで培った技術に、日米のエッセンスも交えたキアーシェフの料理は、発酵や塩漬け、燻製などの手法も用いながら、素材の新たな魅力を引き出している。キルン(窯)と野菜用のピザ窯がある厨房は完全なオープンで、L字のカウンター席から活気ある調理の様子を眺めたり、窯から漂う薪火の香りを楽しんだりしながら食事ができる。厨房の床はお客の目線と合うよう低くなっており、お客とスタッフの距離も近く感じられる。そんな雰囲気に、山岸さんも「初めてお会いする隣の席の方とも、おいしいですね!面白いですね、この組み合わせ!と話が弾んでしまった」そうだ。「うちの料理は特に決まったジャンルはなく、だしや醤油も使えば、インドのスパイスも使います。料理で旅をするような感じを楽しんでいただければ」と、宮下さん。たとえば、山岸さんおすすめの「賀茂茄子、シトラスヨーグルトとコリアンダー」。二度焼きして水分をとじこめた賀茂茄子に、インドのスパイス「バドバン」を混ぜたバターを塗り、ヨーグルト、コリアンダーペーストなどを添えた、香りと楽しむエスニックな味わいの一品だ。「京都人が考えつかない茄子をヨーグルトで食べるという発想に驚き、食べてみたら相性が良いことに更に驚きました」(山岸さん) コースの内容はその時々の食材によって変わるが、唯一定番となっているのが、山岸さんも「おいしかった」と評する締めの「焼きおにぎり茶漬け」。軽く炙って薪の香りを移したおにぎりに具材、お米のチップス、木の芽の粉末をのせ、鹿児島産の鰹節と鱧の骨の燻製でとっただしをかけていただく。具材は燻製穴子の佃煮など、時季により異なる。漆器は輪島塗の老舗の8代目に依頼したもの。器やカトラリーは若手作家のものを中心に、国産の品を使用している。また、この店を語るうえで欠かせないのが山岸さんも絶賛するドリンクペアリング。「ここの魅力は料理もさることながら、ノンアルコールペアリングの秀逸さ。どれも本当においしくて大満足。ワインペアリング以上に考え尽くされている印象を受けました」クラフトビールや発酵ベリーのジュースなど、ノンアルコールは料理に合わせたものを自分たちで作る。「フードに寄り添うような飲み物を、コース全体のバランスを考えながら用意します。フードとのバッティングが起きないよう、酒精を低くし、香り成分や余韻などで合わせています。僕らが時間をかけたものに対して評価していただけるのは、うれしいですね」と、ペアリングを担当する堺部さん。賀茂茄子の料理に合わせたドリンクは、液体窒素で急速冷凍した2種類のミントと日本ハッカ、抹茶を潰したものを柚子の発酵ジュースに混ぜ合わせ、香りと苦味にはコリアンダーやゼラニウム、仕上げにジュニパーベリーの蒸留水を少し。焼きおにぎり茶漬けには、水出しの京煎り番茶をスターアニスと漬けこんだものを合わせる。食事が終わると、全員で「囲炉裏」と呼ばれるテーブルへ移り、談笑しながらデザートを楽しむ。「デザートに合わせたお飲み物も、味を引き立てていてたまらなくおいしい!デザートがここまでおいしいとまた来たくなってしまいます」(山岸さん)写真は「焦がしジャージーミルクとルバーブ」。香ばしいミルクアイスにルバーブの酸味と甘みを合わせた優しい味わいで、美味。「家にゲストを招待するようなイメージの店にしたかった」との宮下さんの言葉通り、お客もスタッフもフラットになれるアットホームな店の雰囲気は、革新的な料理とともに、食事の時間をより楽しく、印象深いものにしてくれるようだ。「友人と食事をする際はこの店を選びたい。どこにも無かったスタイルのお店だから話が盛り上がること間違いなしです」(山岸さん)※料金は2019年10月1日より25,000円(ペアリング付・税サ別)撮影 瀧本加奈子 文 山本真由美■LURRA°京都市東山区石泉院町396050-3196-143317:30~、20:30~(2部制)※インターネットによる完全予約制 https://lurrakyoto.com/休日曜、月曜
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