京都在住の美人&イケメンにお気に入りのスイーツ、デザートを教えていただく企画。今回は、京都大学医学部IPS細胞研究所三嶋雄太さんに『阿闍梨餅本舗 満月』の「阿闍梨餅」についてお話しいただきました。
推薦人:三嶋 雄太(みしま ゆうた):京都大学 iPS細胞研究所 特定研究員/T-CiRA program Sub-PI
医薬学博士。専門はエピジェネティクス、再生医療、血液学、腫瘍免疫学、レギュラトリーサイエンス。薬学部を卒業後、大学院在学中にiPS細胞を世界で初めて事業化したバイオベンチャー企業のアメリカ支店設立プロジェクトに参画。その後ボストンへ渡米、ハーバード大学医学部・ベスイスラエルメディカルセンター研究員を経て現職。iPS細胞技術と遺伝子改変免疫細胞を組み合わせた次世代型がん治療製品の実用化を目指し、現在はiPS細胞から、狙ったがん細胞だけを攻撃する免疫細胞つくる最先端のがん治療製品の研究をしている。実用化を目指した大手製薬企業との共同研究のため、現在は関東と行き来する生活をしている。5年前に海外の留学から帰国して京都大学のiPS細胞研究所で研究をする事になったのが京都との縁。留学先のボストンは京都市と姉妹都市提携が今年で60年目でとても縁を感じているという。
「海外や関東から友人が来た際に必ずというほど連れていくのがこちらのお店です。研究のミーティングや、研究所の案内をする機会がとても多いのですが、本店が京都大学の研究所の近くにあるので時間に余裕があれば紹介しています」と話す三嶋さん。
研究室からもほど近い場所にある「阿闍梨餅本舗 京菓子司 満月」は、江戸末期、安政3年に初代、彌右衛門が出町柳に菓子舗を構えたのが始まり。慶応年間の都の騒乱を避けて、一度、やむなく店を閉めましたが、明治17年(1884)に再開。戦後の混乱を経て、現在の地に移転し、その後、160年余理、暖簾を守り続けています。
海外での仕事も多い三嶋さんですが、海外では抹茶はかなり市民権を得てきた感があるそうです。そのため海外からの友人が日本に来た時は、抹茶以外にも日本の代表的な甘み文化である小豆の美味しさを味わってもらいたいと思っているのだとか。「海外の人にとって小豆は好き嫌いが分かれる事が多いなと思います。人生で日本に来る限られた機会かもしれないと考えたときに、本当に美味しい小豆の京菓子と、この老舗らしい店構えを記憶して帰ってもらいたいと思い、満月さんによく案内させていただいています」
白い暖簾が揺れ、たくさんの人に愛される菓子舗の誇りを感じさせる本店の佇まい。ここに来ればいつもと変わらぬ美味しさの阿闍梨餅が待っている。
「冷えたものももちろん美味しいですが、ほんのりまだ温かくて、皮がさらにもっちりしている感じで感激しました」。そう話す三嶋さんがよく行くのは百万遍に近い本店。ここは、時に出来立ての阿闍梨餅を食べるチャンスがあるそうです。
「本店のすぐ向かいで製造していますので、時々、そう言って喜んでいただくお客様もおられます。毎日、毎日、作り立てをお届けしたいと、日々、努力しています。阿闍梨餅は大正11年、二代目当主が考案したものです。丹波大納言の粒餡を、餅粉、水飴、砂糖、卵を使った秘伝の餅生地で包みます。しっとり、もっちりした独特の食感をお客様に喜んでいただいております」と話すのは同店の常務取締役 中嶋哲夫さんです。
取材中もひっきりなしにお客さんが訪れて、5個、10個と買っていきます。
1個売りからというのも嬉しい限り。近所の人が散策がてら寄って、1個、2個と毎日、買っていくことも多いのだそう。地元に根付いて長く愛されている店ということが伝わってきます。
「おかげさまで、阿闍梨餅は毎日、各店舗で多くの方にご購入いただいていますので、機械を導入して製造していますが、例えば餡場には、ベテランの餡炊き専門の菓子職人が何人もついて、火加減、炊き上がりのタイミングなどを見計らっています。生地も同じ。季節によって気温や湿度が変わりますから、生地の寝かせ具合、火入れの加減などやはり人の目と技が不可欠ですね」
阿闍梨というのは比叡山で修行する僧侶にちなんで命名したもの。僧侶たちがかぶる編み笠をかたどっている。こんがりきつね色の生地と上品な甘み、独特の食感が食欲をそそり、幾つでも食べられてしまう。1個119円(税込)
三嶋さんは、本店と金閣寺店で、土日祝日のみ購入できる「満月」も好んで、あえて土日祝日に訪ねて、希少なお菓子を買うそうです。
「店名の冠のついた商品であるにも関わらず、週末にしか販売していないというのはとても貴重だと思います。土日祝日に行くときは、満月と阿闍梨餅を必ず両方買いますよ(笑)」
「満月」は明治33年に、九條家御用達の命を受けてつくられたお菓子。希少な最上級の白小豆の漉餡を小麦粉の生地で包み、焼き上げた洋風の香り漂う焼き菓子です。
当時はかなりモダンなお菓子やったと思います。生地の薄さはたった2ミリ、これだけは今も職人の手包みでつくっています。さっくりした生地の中にしっかりとした漉餡がぎゅっと詰まっていて、食べ応えがあります」
人気のお菓子なのになぜ、土日祝日の限定販売なのでしょうか。
それは同店の基本姿勢にあります。
「"材料を落とさず、値段を上げない努力"は、初代からずっと当店で大切にしている言葉です。丹波大納言も白小豆も自然の産物ですから、不作の時もあります。それでも品質を落とさない、値上げをしないことに本当に苦心します。
特に高品質の白小豆はそもそもの生産量が少ないのでどうしてもたくさんつくることができません。そのため限定販売にしているのです」
また、同店では"一種類の餡で一種類の菓子しかつくらない"という基本方針があるそうです。一つひとつの菓子は職人のあらゆる技、思いが注ぎ込まれた作品。餡の素材になる小豆は産地を限定して、生地の餅粉や砂糖も、この店のこの菓子のためだけに特別に配合したものを選び、食感や味付け、製造法まで考えに考え抜いて開発したものだからです。今、同店では、阿闍梨餅、満月、棹物の京納言、最中の4種類だけしかつくっていませんが、それも基本姿勢を貫くためなのです。
希少な白小豆のみを使ってコクのある漉餡を、厚さ2ミリの極薄の生地で包み、さっくりと焼き上げた満月。本店と金閣寺店で、土日祝日のみ購入できる。1個303円。
「努力と苦心を重ねて、お菓子をつくり続けるのは、疲れた時、一休みしたい時、美味しいお茶を入れて甘いものを食べれば、みなさん元気になるでしょう?"ああ、美味しかった"とほっとくつろいで、リフレッシュして、また頑張れる。小さなお菓子ですが、そんな風にお役に立てるのが何より嬉しいんです」
三嶋さんも、研究や実験が行き詰まって集中力が切れてきたときに、お菓子を食べるそうです。研究の仕事は、世の中の人が普通に生活していく中でほとんど気にしないような、非常に細かい事柄の違いについて常に深く考え続ける仕事なのだとか。
「ずっと集中していると、ふと集中が途切れた時に、お腹は減らないのですが甘いものを欲しい!という思いが襲ってくる時があるんです。そんな時には研究仲間を誘って、休憩室で、コーヒー片手にスイーツを食べながら話をするのですが、こういった時に良い情報やアイデアが降ってくることがとても多いんです。だから、お茶と甘いものの時間を意図的に設けることはとても大事だと思っています。時間が許すときは、満月さんに行って、阿闍梨餅を買うことも多いです」
贈答用としても人気がある阿闍梨餅。変わらぬ包み紙のデザインにも伝統を感じる。10個入り(箱入り)1296円
伝統ある阿闍梨餅や満月ですが、時代ごとに少しずつ進化しているといいます。素材自体の変化や気候の変化に対応して、「昨日よりさらに美味しく、進化し続けている」、それが「満月」のお菓子なのです。
「最新の研究をされている方の脳の疲労にもうちのお菓子が役立っているなんて光栄ですね。満月はお抹茶がよく合いますし、阿闍梨餅はお煎茶がおすすめです。お煎茶もできれば急須、湯呑みを温めて、ゆっくり淹れて欲しいです。
忙しいときほど、お茶の時間を大切にしていただいて、素晴らしい研究を進めてほしいです。うちもモットーを守って、美味しいお菓子をご提供していきたいと思います」
京の人々に愛され、最先端の研究者をも癒す阿闍梨餅と満月。できれば土日祝に店を訪れて、ぜひ両方のお菓子を味わってみてください。
店の前のスペースでは、丹波大納言と白小豆の鉢植えが植えてある。自然環境にめげず懸命に育つ植物に感謝を込めて、店のシンボルとして大切に育てているのだそうだ。収穫した豆もちゃんとお菓子に使うという。
扁額がいくつもかかり、昔ながらの趣きを残す本店店内。ショーケースの中には潔く、4種のお菓子しか並んでいない。ブレることのない老舗の意気を感じる。
■阿闍梨餅本舗 満月 本店
京都市左京区鞠小路通り今出川上ル
075−791-4121
9:00~18:00
水曜不定休