BLOGうつわ知新2020.11.17

織部焼2

季節ではなく備前や織部、古染付といった焼物ごとにうつわをご紹介。京都・新門前にて古美術商を営む、梶古美術7代目当主の梶高明さんに解説いただきます。 さらに、京都の著名料理人にそれぞれの器に添う料理を誂えていただき、料理はもちろん器との相性やデザインなどについてお話しいただきます。

織部焼2回目も、1回目同様「洋食おがた」の緒方博行シェフに器と料理のコラボレーションに挑戦していただきました。

_MG_0023_1.JPG

梶高明

梶古美術7代目当主。京都・新門前にて古美術商を営む。1998年から朝日カルチャーセンターでの骨董講座の講師を担当し、人気を博す。現在、社団法人茶道裏千家淡交会講師、特定非営利活動法人日本料理アカデミー正会員,京都料理芽生会賛助会員。平成24年から25年の二年間、あまから手帖巻頭で「ニッポンのうつわ手引き」執筆など。 全国の有名料理店と特別なうつわを使った茶会や食事会を数多く開催。

織部焼と洋食

今回は、典型的な桃山時代の織部焼の「向付」と北大路魯山人作「 織部釉 十字皿」に洋食を盛ったらどうなるかというテーマで、「洋食おがた」の緒方シェフに料理制作に挑んでいただきました。

それぞれのうつわが持つ風合いやデザインから緒方シェフが受けるインスピレーションとは。料理を盛ることでさらに魅力的になるうつわの美しさをお楽しみください。

_MG_4383.JPG

織部焼向付

「典型的な桃山織部の鋳型に入れて製造した変形の向付です。
花籠に梅鉢模様をあしらっているものが4客、わらびに梅鉢をあしらったものが1客で一組となっています。これは、古いうつわに時々見受けられる取り合わせですが、1客だけ手の違うものを混ぜ込むことによって、陰と陽のバランスをとったものです。つまり、験担ぎ(げんかつぎ)です。外側に木賊などの模様を描き、緑の織部釉が流れ落ちる様を景色のアクセントにしています。
温かい肌色がうつわの柔らかさを感じさせますが、実は織部焼は往々にして、高温で焼き上げて硬く締まっていることが多いです。絵の具として使われた錆色(さびいろ)のものは、鬼板(おにいた)と呼ばれる鉄分を多く含む地層から採取した泥です。」

織部焼1より

_MG_4455.JPG

洋食おがたの前菜盛り合わせ

「5客揃いの向付を拝見し、小鉢風に使わせていただくことにしました。ひとつの鉢に多くを盛り付けないと決め、前菜を分けて盛り付けることを思いつきました。
冷たい料理は冷たく、揚げ物などは熱々でおだしできるうえ、ソースなどが混ざり合うこともない。そういう意味では多種の料理を一度に出すのにちょうどいい組み合わせができます。

人参のサラダ(キャロットラペ)、青菜のおひたし、てっぱいといった和洋の野菜料理は、このうつわに盛ると和食そのものの雰囲気を醸します。

揚げたての太刀魚とイカのフリットは揚げたてを一切れずつ。
一番苦労したのが、清水牧場のフレッシュチーズです。多すぎず少なすぎず、ミルキーなチーズの美味しさを堪能いただける量はどれくらいかと迷いました。

いずれも、わずかではあっても料理の下から絵柄がのぞくようほぼ中央に盛付け、うつわの上品さを損なわない彩を心掛けました。」

緒方シェフ

_MG_4422.JPG

北大路魯山人造 織部釉 十字皿

「魯山人は美濃の土と共に、信楽の土を混ぜて土味を面白くしたといわれています。
二つの異なる土を混ぜる場合、その収縮率が異なるために、このように窯の中で割れてしまうことがあります。このうつわは、どうやらもう一度窯に入れて焼き直しをしたのか、裂け目に釉薬が入ってくっついています。魯山人もある時から、自らこのような修復を手掛けるようになったと聞いています。裂け目が大変面白いアクセントとなって、表面を斑に流れた釉薬の景色が魅力を高めています。
流れやすい灰釉に銅の成分を混ぜることによって作られるこの織部釉は、釉薬の流れも一つの見どころと言えます。」

織部焼1より

_MG_4495.JPG

鰆のフライ

「緑のうつわは難しい。いろいろな色を置くとゴチャゴチャしてしまう。特にこの魯山人の器は中央に割れ目があり、それをどう生かすかで悩みました。

最終的にできるだけシンプルで色の少ない料理にしようと思い、レアに揚げた鰆のフライを盛ってみました。
この鰆は、静岡のサスエ前田魚店さんに届けていただいているもので、生でも食べられる鮮度も状態も良いものです。薄く衣をつけて、ミディアムレアに揚げました。
シンプルにお塩と辛子だけで召し上がっていただくと、鰆の上質さを感じていただけるでしょう。

意図していたわけではありませんが、うつわに盛り付けて真上から見ると、蝶が樹木に止まって羽を広げているように見え、驚きました。魯山人のうつわは、それ自体が存在感抜群ですが、料理を美味しく見せる力があると、改めて感じました」

緒方シェフ

ogata.jpg

緒方博行(おがたひろゆき)

熊本県出身。熊本のニュースカイホテル、長崎ハウステンボス内のホテルヨーロッパなどを経て、肉料理で名高い京都の「ビストロ セプト」の料理長をオープンから6年間務める。2015年に独立、「洋食おがた」を開き、ハンバーグやエビフライなどの本格的な洋食に、和のテイストを加えたメニューなどを、カウンターの"洋食割烹"スタイルで提供する。尾崎牛や平井牛、焼津の「サスエ前田魚店」から取り寄せる魚、鹿児島県の「ふくとめ小牧場」の幸福豚など、全国各地の厳選した素材で「大人の洋食」をつくり上げる。

ogata2_re.jpg

■洋食おがた

京都府京都市中京区柳馬場押小路上ル等持寺32-1
075-223-2230
11:30~13:30(L.O.)、17:30~21:30(L.O,)
休 火曜、月1回不定休