BLOG京のほっこり菜時記2020.08.25

「薬味」

By中井シノブ

飲食店取材1万軒を超える京都在住のライターが、時々の「うまいもの」を歳時記的につづる【京のほっこり菜時記】。 今回は、素麺や冷奴など夏の料理に欠かせない薬味について、その味わいと薬効をお話しします。

薬味と言って思い浮かべるものはたくさんある。
葱、生姜、大葉、茗荷、大根おろし、パクチー、山葵、かいわれ大根などなど・・・
ほんとうにたくさんあるけれど、それぞれを料理や季節によって使い分けることが多い。

冷奴なら生姜にネギ、素麺なら大葉と茗荷など組み合わせを変えて、違った味わいと食感を楽しむ。

造りにちょんと山葵をのせるだけで辛味が合わさって、より魚の新鮮さを感じられたり、淡泊な味わいの素麺などは、逆に薬味がさまざまな風味を生んでくれたり。

どんな薬味を選ぶかで料理の味わいは大きく変わる。
だからというか、やはりというか、薬味は料理に欠かせないもの。なくてはならないものなのだ。

そして、薬味のもうひとつの大きな役割は、その薬効である。いや、なかには味というより薬効成分があるからこそ、薬味を料理とともに味わう人もいるかもしれない。

たとえば、葱には、殺菌作用や血流促進、発汗作用、疲労回復、風邪予防などに効果があるといわれている。また独特の香りが肉や魚の臭みをとってくれる。つまり、葱はシャキシャキとした食感もあって料理を一味違うものにしてくれるうえ、体にもいい。なにかにつけて料理とともに味わいたい香味野菜なのだ。

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最近よく薬味として使うのは、パクチーやクレソン。パクチーを鯛の昆布締めとトマトに合わせると、なんだかエスニックな風味になる。クレソンを刻んでお鍋の薬味にすると、独特の苦味や香りがあって、出汁を和から洋へと変えてくれる。

ちなみに、私が一番好きな薬味は茗荷である。

茗荷は「花みょうが」とも呼ばれ、赤紫色のふっくらとしたものは開花前の蕾にあたるそうだ。シャキシャキとした歯ざわりが特徴で、夏ならば冷奴、素麺、サラダ、酢の物、煮物など、いろいろな料理にしてその爽やかな香味を味わう。最近はまっている糠漬けにもしたが、なかなか乙な味わいだった。

冷え性やむくみの改善、消化促進、食欲減退のほか、体を適度に冷やす効果もあるから、熱中症や夏バテ予防にもいいという。

ほぼ日本全域で栽培され、「花みょうが」が出回るのは6月~10月頃。葉の部分を柔らかく栽培した「みょうがたけ」は京都が産地で、こちらも薬味としても用いられる。

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先日、友人と「家ご飯を愉しもう」ということになり、「じき宮ざわ」の「明石鱧の薬膳鍋」を取り寄せてみた。鍋セットの蓋を開けて驚いたのは、芸術品のように食材が美しく盛り込まれていることだった。

そして、なんと薬味や野菜も多いこと。茗荷、葱、生姜、オクラ、蓮根、椎茸...。

オクラや蓮根は薬味というより具材といったほうがいいのかもしれないが、それぞれ違った食感や風味で鱧や鶏団子を引き立ててくれた。

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だしには、炒った古代米や陳皮、クコの実、棗、丁子、山椒など十三種の薬膳が入っていて、温めると体にじんわり効きそうな香りが立ち上がってくる。だが、その香りは薬膳といっても薬臭さはなく、優しい和の風味、旨味がしっかりと残っている。

まずは、細く薄く切られた蓮根や牛蒡、葱を入れ、それらが柔らかくなったら、ふっくらした鱧をしゃぶしゃぶして味わう。出汁も具材もあまりに美味しくて、あっという間に〆のうどんに辿り着いた。出汁とともに味わううどんもまた、お腹をじんわり温め満たしてくれる。

ところで、「じき宮ざわ」は、錦市場傍にある日本料理の割烹だ。茶懐石を基本としながらも創意に満ちた和食をいただける。かねてより「焼き胡麻豆腐」などおもたせ料理を販売していたが、ほかにも何か家庭で楽しめる料理をと考え、鱧やコチ、鮑などの薬膳鍋を考案したという。夏バテなど体が弱くなる時期だからこそ、食べたい料理だ。

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お酒の肴になる「晩酌セット」もあって、これがまたいい。自家製からすみ、水なす昆布締、鰆燻製、和牛きんぴら、タコの酢の物の5品がセットになっている。こんなつまみがあったら、いつまででも呑める。

料理屋で食事をする時間はもちろん楽しく心弾むが、ときには家族や友人と家で食卓を囲むのもいい。

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■じき宮ざわ

京都市中京区堺町四条上ル東側八百屋町553-1
075-213-1326
12:00~13:45、18:00~20:00(いずれも最終入店)
取り寄せはメールで info@jiki-miyazawa.com

中井シノブ

京都の情報誌編集長を経てライターに。飲食店取材1万軒。外飯、外酒がライフワーク。著書に『京都女子酒場』(青幻舎)、『京の一生もん』(紫紅社)などがある。