料理人がオフに通う店
「旨い店は料理人に聞け!」食材を見る目や鋭い舌をもつ料理人が選ぶ店なら、決して外れがないことでしょう。 京都を代表する料理人がオフの日に通う店、心から薦めたいと思う店とは?
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2019.02.04
「CINQ pain(サンク パン)」―「リストランテ ナカモト」仲本章宏さんが通う店
「リストランテ ナカモト」仲本章宏さんプロフィールシエナ「バゴガ」、フィレンツェのミシュラン3つ星店「エノテカ ピンキオーリ」と6年間のイタリア修業を経てニューヨークへ。2011年に実家のある木津川に「リストランテ ナカモト」をオープン。決してよい立地とはいえない場所にありながら、多くの美食家が、遠路はるばる足を運ぶ。30~40代の料理人との交流も深く、年間6回ほど主催する勉強会には京都・大阪・奈良・神戸から20~30名が集まり、関西の食文化の幅を広げている。おすすめコメント 「リストランテ ナカモト」をオープンしたばかりのころ、宮本正幸シェフが食事に来てくださいました。その時は名乗られなかったのでわからなかったのですが、後日、パンがどっさり届いたんですよ。宮本さんとしては「料理のお礼と名刺代わりに」というお気持ちだったようです。箱を開けた瞬間から小麦の香りが広がって、「これは普通のパンじゃないぞ」と思いました。そして口に入れた瞬間、そのことをさらに確信しました。「いったい何者なんだ!?」と調べたところ、ただものではないパン職人であることがわかったんです。 関西の料理人の間では、「CINQのパンをレストランで出せばミシュランの星が取れる」と囁かれています(笑)。実際、フレンチレストラン「Restaurant MOTOÏ(モトイ)」「レーヌデプレ」、イタリアンレストラン「リストランテ キメラ」、スペイン料理「aca 1°(アカ)」など、確かな味を提供するお店がCINQのパンを愛用されています。 私は自分でパンを焼いているのですが、宮本さん主催の勉強会でパンづくりを学んだのがきっかけです。でも宮本さんのような、パンへの愛情にあふれ、美学がこめられたものはなかなか焼き上げることはできません。CINQのパンをほおばりながら、宮本さんのパンへの想いに心を馳せるのが至福のひと時です。CINQ pain(サンク パン)名神高速道路の大山崎ジャンクション近くという、クルマでなければなかなか行きにくい場所にあるブーランジェリーに、8時のオープンからぞくぞくと人が集まる。 「休日に、クルマに乗って家族と遠足気分でうかがいます。午後に行くとほぼ売り切れ。ですので、午前中に行くことをおすすめします。それでもお昼近くにはパンの種類もわずかなので、そんなときには残っている全種類を買っています」 さて今日は、どのパンを手に入れることができるだろう......?「ハード系のパンって、硬すぎて噛み切れないものが多いですよね。ところがこちらは外はガリッ、そこから中へサクッと歯が入るんです。そしてとっても香ばしい! CINQでハード系パンへの概念が変わってしまいました。これはどれだけ学んでも、同じようには決してつくれません」 「パン・コムニコ」1/4サイズ525円(税込み)は、奈良のイタリアンレストラン「コムニコ」の「数日かけて、お客さんみんなで分かち合えるように、大きいパンがほしい」というリクエストから誕生した。イタリアンに合うように、見た目はハードだが歯切れがいいという、ハードとソフトの中間を目指したという。まるごと(1950円)だと直径30センチほどあるビッグサイズだ。 「家ではチーズをのせて焼いたり、ジャムをつけたり、サンドウィッチにするなどして楽しんでいます」「バターの香りが立ち昇るクロワッサン(216円)も、残っていたら大喜び。これもまた、とても歯切れがいいんです。こんなに香ばしく焼くことはできませんよ。クロワッサンひとつのなかに詰まった宮本さんの哲学を感じながらいただいています」 クロワッサンは職人によって、食感や味に大きな差の出るパンだと宮本さんは言う。 「パンは本来自ら熟成するものです。ところがクロワッサンの場合は生地に折り込むバターの状態を保ち生地の発酵を抑えるために、急速冷凍と冷蔵を繰り返して生地を折り込んでいきます。つまり、パンがやろうとしていること(熟成しようすること)を人間の手で止めているんです。パン自体に委ねるという、ほかのパンのつくり方とは真逆なんですよ」(宮本さん)京都のフレンチレストラン「Restaurant MOTOÏ」でも提供されているプティ(バゲットの小さいサイズ)を使った「パテサンド」356円。パテ好きの宮本さんは、パテも自家製だ。粗目の肉で食感がありながら、口の中でほろっとほぐれる心地よさ。パンと混然一体となった豊かな風味は、酒のつまみにもピッタリだ。 オリーブオイルを練りこんだ「シャバタ」は、フレンチ、イタリアン、スパニッシュなどのレストランでもよく提供されている、どんな料理にも合いやすいソフトパン。これに生ハム、セミドライトマトをはさんだ「生ハムサンド」334円は、モチッとしたパン生地にセミドライトマトのふわりとした半生食感と、生ハムの塩気が絶妙なバランスで存在している。 「シャバタはフォカッチャに似ている食感で、オリーブオイルの風味が顔を出します。子供が大好きで、もりもり食べます(笑)」 最初に勤めた店を経て、ハード系パンと焼き菓子をきちんと学びたい――そう考えていたころに、大阪随一と称されるブーランジェリー「ル・シュクレクール」と出合い、味に惚れ込んだ宮本さん。弟子入りを願って1カ月間毎日、店に通い続けたという。その熱意が認められ、オーナーシェフの岩永歩さんからマンツーマンでの指導を受けることになった。 修業時代に師から言われ続けてきたのは「パンの声を聞く」ということ。よいパンをつくりたいのなら、パンと向き合い、パンに気を遣う。パンは環境によって様子は変わる。汗をかくことだってある。それに気づき、美味しくなる手助けをしてあげることが大切だと学んだという。 「自分本位ではなく生地に合わせているから、宮本さんのパンはいつ行っても満足できるんですよね」 3年の修業を経て2010年に独立し、対面販売のみの2畳ほどの小さな店舗を長岡京市に構える。だが駅から遠いのに駐車場はなく、手狭にもなっていった。そこで駐車場があること、そしてイートインもやりたいという願いをかなえるため、2016年に大山崎のこの場所に移転した。 「洛西出身なので土地勘のある長岡京や大山崎がよかったんです。パン職人は日々、工房にこもって作業しているので、街中でなく四季を感じられる場所で仕事がしたくて。ここは目の前に桜の木もあるので理想的です」(宮本さん) 今でも対面販売のスタイルだが、カウンターの前には購入したパンを飲み物とともに楽しめるイートインスペースが広がる。 「北欧っぽさも感じる、柔らかな日差しにほっこりする店内です。家具は京都のオーダー家具店『フィンガーマークス』製。宮本さんの主催されたBBQ会にフィンガーマークスさんも参加されていて、そのときにご縁をいただき『リストランテ ナカモト』でもテーブルと椅子をお願いしました。宮本さんは直接的に"この人は〇〇さん"と紹介することはないのですが、こうした会でさりげなく、人と人を引き合わせてくれるんです」 「こちらに移られてから、ビールやワイン、ジュースなども販売されるようになりました。どれも宮本さんが厳選されたことが伝わる品ぞろえです。ワインはすべて国産。宮本さん自らワイナリーに足を運んで選んでいらっしゃいます。国産だと土地の名前がすっと頭に入ってきて記憶しやすい。ナチュラルなものが多いことを知ってほしい。そして何より、自分自身の目で確かめたものを置きたい――そういう姿勢も宮本さんらしいな、と思います」 「宇和島みかんジュース」918円と「青森産りんごストレートジュース」237円。みかんジュースは、オープン祝いに旧知のシェフが贈ってくれて、その味に心打たれたそう。聞くと、そのシェフのお兄さんがつくっているものだった。イートインでもグラスで味わえる(345円)。 鹿児島県鹿屋市のふくどめ小牧場の肉加工品も販売している。父と兄が牧場で飼育した豚を、ドイツで7年間ハム・ソーセージ製造を学びマイスターの資格を持つ弟が加工するという、完全家内制だ。 「品数をたくさん置くのではなく、つくった人たちの想いが詰まっているものをおすすめしたいんです。こうしたものの販売を始めたのも、"CINQに来ればパンもあるし、食材も飲み物もある。食事が完結できる場所だな"と思っていただきたかったから。ご家族の食卓が豊かになるお手伝いをしたかったんです。仲本さんはご家族との時間をとても大切にされています。そんな方の休日の大切な家族団らんに、CINQを選んでくださるのがとてもうれしいです」(宮本さん) 「美味しくなりたい」というパンの願いがたわわに実ったCINQへ、次の休日もまた仲本さんはご家族とともにクルマを走らせるのだ。※価格は取材当時のもの撮影 瀧本加奈子 文 竹中式子■ CINQ pain京都府乙訓郡大山崎町字下植野小字宮脇114-9075-874-41598:00~18:00(完売次第終了)定休日 月曜、火曜(月曜が祝日の場合、水曜休み)http://www.cinqpain.com/
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2019.01.11
「韓国伝承 家庭料理・焼肉 芝蘭 CHI RAN」―「acá 1°(アカ)」東 鉃雄さんが通う店
「acá 1°(アカ)」東 鉃雄さん プロフィール25歳で料理人を志し、京都のスペイン料理の老舗「ラ・マーサ」で働きはじめる。4号店「フイゴ」の店長時代に研修で訪れたスペインでモダンスパニッシュと出合い、目指すべき方向性が定まる。その後、スペインにわたり修業を積み、帰国後の2014年に「フイゴ」の跡地に「acá 1°」をオープン。2017年にミシュランの一つ星を獲得、おまかせコースのみの予約の取れない一軒である。 おすすめコメント私は大半の時間を料理人として過ごしているので、食事に行っても勉強モードになっています。「この店のつくりは?」「素材の選び方は?」「料理人のポリシーは?」......などなど、いろいろなことが気になってしまうんです。ですから、まったくのプライベート気分でうかがう店というのは、実は少ないんです。 芝蘭さんは、私がオフモードでいられる貴重なお店です。韓国料理とはジャンルも違うので、料理人モードから思う存分解放されています。休日の朝に家族会議で「今日は芝蘭に行こう!」と決めて当日に予約を取ることが多いですね。7歳の息子も最近は「芝蘭に行きたい」と自らリクエストしてきます(笑)。そしてイベントに出店したあとのスタッフとの打ち上げでも重宝しています。紫野という、街中から離れている立地も、落ち着いていていいんですよ。 「韓国伝承 家庭料理・焼肉 芝蘭 CHI RAN」「芝蘭は韓国の家庭料理と焼肉が中心のお店です。京都の街中にもたくさん焼肉屋がありますが、私にはどうも味が濃く重い。でもこちらは料理も肉も味付けのバランスがよく、食べ疲れることがありません。席に着いたらまずは一品料理を一気に注文します。テーブルの上が料理の皿でいっぱいになるのを見るのが嬉しいんですよね」では、東さんの心をワクワクさせる韓国家庭料理をご紹介しよう。東さんが必ず注文するのが「パジョン」(ミックス税別1200円)。一般的にはチヂミと呼ばれている。「パ」はねぎのこと。「ジョン」は漢字の「煎」で、焼くという意味。つまり、ねぎのおやきである。ミックスにはイカ、海老、ホタテが入り、冬には牡蠣が追加される。餅粉を入れて焼き上げ、表面はカリッ、中身はトロッとした生地が甘みのあるねぎにからまり、風味を引き立てる。海鮮も肉厚で、食べ応え満点だ。ピリ辛の自家製タレ、ヤンニョンジャンも食欲を誘う。「息子の大好物です」と言うのが「とうもろこしのジョン」(500円)。韓国・江原道の郷土料理で、最初はグランドメニューではなかったそうだ。周年記念のサービス品として3日間だけ出したところ好評を博し、今に至る。「とうもろこしがほんのり甘く、まったく辛くないので、好き嫌いがある子供でもパクパク食べます。米粉中心の生地はぽってりとしていて、同じ"ジョン"でもパジョンとは違う食感を楽しめます」「冬ならこれですよ!」と東さんに冬の到来を待ち遠しくさせているのが、10~3月限定の「牡蠣のキムチ」(700円)。百済時代に生まれたスタイルのキムチは、海辺発祥らしく海鮮が入っている。発酵させないので酸味はなく、辛みが立っているのが特徴だ。「牡蠣のキムチ」は新鮮な生牡蠣を用い、漬けたその日から食べることができる。 「牡蠣は大ぶりでふっくらとしています。それがキムチのタレと絡みあうと、ほかの牡蠣料理では味わえない独特の旨みが口の中で弾けます」 芝蘭の女将である石敬戌(セキ・ケイイ)さんの実家は、40年以上続く焼き肉屋だった。20代のころに韓国で料理を学び、帰国後の1992年に自ら芝蘭をオープンした。当時の京都では、まだ韓国家庭料理を出す店は少なかったという。 「日本では"韓国料理=辛い"というイメージがありますが、本来は塩分控えめで、素材の味をとても大切にしています。辛い料理と辛くない料理も、はっきりと分かれています。これは私自身、韓国で料理を学んで驚いたことです。私はその伝統的な味を大切に、今風にアレンジせずに提供することを心がけています」(石さん) 一品料理を楽しんでいると、いよいよ肉がやってくる。 「まずは『上タン塩焼き』(1200円)です。ちょっと厚めに切ってもらうようにお願いしています」 肉は京都牛のメスを基本としている。 「昔はA5、A4なんてランク付けもなく、輸入の牛肉もありませんでした。焼肉屋は肉屋からいかにしていい肉を回してもらうかに全力を尽くしたものです。今は精肉の環境も随分変わりました。ホルモンも人気がどんどん上がってますよね」(石さん) 右から時計回りに「ヤキセンマイ」(800円)、「アギ」(700円)、「ウルテ」(700円)。アギやウルテは、食肉業者が手作業で細かく切れ目を入れてくれる。機械で切るのが主流になっているが、手作業のほうが断然味が深く、やわらかい。 手前より「カルビ」(1200円)、「ロース」(1500円)。 「厚みもあって"肉を食べた!"という満足感があるのに、脂はまったくくどくなく品のある甘みを感じるんです。部位によってベースのタレに手を加え味を変えているので、飽きることがありません。さっぱりと食べ終えることができます」 そして〆にはかならず「ピビン冷麺」(1000円)。「ピビン」はまぜるという意味で、唐辛子のきいた甘辛タレを、そば粉とじゃがいものでんぷんのもちもち麺にしっかりとからめる冷麺だ。 「本場韓国よりもタレは少し辛めにしているそうですが、辛い物好きの私と妻は辛さ増しでさらに倍かけてもらいます(笑)。これで2時間ほどの食事が終わります。芝蘭さんでは本当にたくさん食べますよ。デザートに『シルトッ』という小豆をまぶしたお餅がサービスで出るので、子供は大喜びです。でも大人たちはお腹がいっぱいで、いつもありつけません(笑)」 2階までを使ったかなり広い店内のなかで、1階のテーブル席が東さんのお気に入りだ。 「お店の方のキビキビとした気持ちのいい動きを見ることもでき、活気を感じられるので好きですね」 2階には掘りごたつとテーブルの個室もある。大人数の宴会にも対応できる。 そもそも東さんが芝蘭へ通うようになったのは、石さんの甥である石晶文(セキ・チョンムン)さんと、かつてスペイン料理店で一緒に働いていたことがきっかけだ。 「晶文さんはグループ内の別店舗に4年いて、同じ店で働いたのは1年弱。まじめで、礼儀正しくて、とにかく頑張り屋でした。年齢は私より10歳ほど下ですが、ひじょうに頼りがいがありましたね。私が芝蘭に行くときは、彼はもしかして緊張しているかもしれません(笑)」 そんな東さんの言葉を聞いた晶文さんは、照れながら言う。 「東さんとは上司と部下の関係で、私にとっては雲の上の存在です。厳しさのなかに、"これをやる"という強い信念を持っていらっしゃると感じていました。一緒の厨房にいたころには、はっきり聞いたわけではありませんが、もうスペインへ修業に行かれることを考えていらっしゃったんだと思います。 私が芝蘭に勤め始めた5年前に、ふらりとご家族と一緒にいらっしゃいました。"東"のお名前で予約は入っていましたが、まさかあの東さんだとは夢にも思いません。お店で顔を合わせてやっと知ったんですから。そのときの驚きは並じゃありませんし、とっても緊張しました(笑)」(晶文さん) 叔母である石敬戌さんは、オープン以来ずっと一人で厨房に立ち、身内であろうと誰も調理に手を出すことを認めなかった。しかし20年近くたち「そろそろこの味を伝えたい......」と思い始めたころに、「ぜひやりたい!」と手を挙げたのが晶文さんだった。 「祖父母の焼肉屋、そして叔母の店と、小さいころからこの味で育ってきましたから。一番好きな味ですし、守っていきたいと思ったんです」(晶文さん) 東さんは芝蘭での初めての食事を終えた帰り際に「美味しかったわ。また来るな」と晶文さんに伝えたそうだ。そしてそれは社交辞令ではなく、以来ずっと通い続けている。 「月に1~2回は行っています。疲れているときは、肉を食べたいんですよね。芝蘭にはいつも疲れを癒してもらっています。家の台所、といってもいいほど私の生活に根付いているんです」 撮影 瀧本加奈子 文 竹中式子■ 韓国伝承 家庭料理・焼肉 芝蘭 CHI RAN京都市北区紫野下築山町54-3075-432-229817:00~23:00(L.O.22:30) 日曜・祝日17:00~22:30(L.O.22:00)定休日 月曜日※祝日の場合は営業http://www.chi-ran.co.jp/index.html
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2019.01.07
「リストランテ ナカモト」―「acá 1°(アカ)」東 鉃雄さんが通う店
「acá 1°(アカ)」東 鉃雄さんプロフィール25歳で料理人を志し、京都のスペイン料理の老舗「ラ・マーサ」で働きはじめる。4号店「フイゴ」の店長時代に研修で訪れたスペインでモダンスパニッシュと出合い、目指すべき方向性が定まる。その後、スペインにわたり修業を積み、帰国後の2014年に「フイゴ」の跡地に「acá 1°」をオープン。2017年にミシュランの一つ星を獲得、おまかせコースのみの予約の取れない一軒である。おすすめコメントオーナーシェフの仲本章宏さんとは、まだ私が店を開く前の、料理人が集うバーベキューで出会いました。シエナ「バゴガ」、フィレンツェ「エノテカ ピンキオーリ」などイタリアで6年、その後はニューヨーク「レストラン・ファライ」で1年間と海外経験が豊富な仲本さんに、当時スペインでの修業を考えていた私の相談に乗ってもらい、親しくなっていったんです。 「リストランテ ナカモト」は、京都の中心地から離れた木津川市に2011年にオープン。こちらはご実家のあった場所だそうです。なぜ、不便ともいえるこの場所に? と尋ねると、仲本さんはおっしゃいました。 「イタリアでは星付きのレストランの多くは、田舎の交通の不便な場所にある。お客様はその店で食事をするために、わざわざ足を運ばれるんです。それこそトマトパスタひと皿のために30分車を飛ばしたり。自分のクオリティを試すためにも、生まれ育った木津以外で店を構えることは考えられませんでした」 そのように好きなことに邁進される仲本さんとお話ししていると、とても気持ちがいいんです。私も「好き」が要にあって、その延長線上にある人やコトを吸収して仕事をしていくタイプですから。料理人として、経営者として、「会いたい」気持ちがつのる――そんな仲本さんのお店は、私にとって刺激のある学びの場です。 リストランテ ナカモト 「この立地で、このクオリティの高さ! 木津でお店を持たれることに意味があることを強く感じます。私も今は京都の中心地で店をやっていますが、いつかは落ちついた場所で......という夢はあります。とはいえまだ勇気がないんですよね。でも仲本さんは30代後半という同世代で、あえて木津でやる、という意志を貫いている。その姿勢にあこがれます」 京都駅から30分に1本のJRに揺られて40分、ほぼ奈良ともいえる木津駅前には高い建物はなく人もまばらで、鄙びた光景が広がる。そこからとぼとぼと代わり映えのしない街並みの中を5分ほど、木津川市役所の目の前に「リストランテ ナカモト」はある。決してにぎわっているとは言えないこの地へ、多くの美食家たちがわざわざ足を運んでいる。すべてはこの店の美食を味わうためにだ。 東さんが熱弁するとおり、リストランテの扉を開けると、仲本章宏シェフの美学が随所にあふれる空間が広がっていた。 中庭を臨むテーブル8席に、4名までの個室がひとつ。天井が高いので、こぢんまりとした空間ながら開放感がある。 「私の店もカウンターとテーブルで16席と、規模が近いのでとても参考になります。特にテーブル席から見る厨房の高さが絶妙ですね」 シェフ目線で見ると、こちらの厨房はとても機能的で、かつ客のことも考え抜かれているそうだ。 「厨房の床を掃除したときに水が流れやすいように、ゆるやかに傾斜がついています。熱がこもらないようダクトも、そしてエアコンも風が直接お客様にあたらないように天井に組み込まれています。厨房の熱い空気が客席に流れないよう、エアカーテンでブロックされてもいます。だからすっきりと見えるんですよね。料理人にもお客様にも快適です」 なるほど、料理人の手元だけでなく厨房の細部まで見るのも、「リストランテ ナカモト」ならではの楽しみ方なのだ。 厨房の各所には、いつまでもシェフであろうとする仲本さんの想いがつまっているという。 「この店を作るときに私が一番重視したのは、いかに機能的な厨房であるか、ということです。厨房器具の足元に水が入り込む隙間を作らず、作業に負担がかからない程度でも床に傾斜がついていれば、掃除が非常に楽ですよね。ダクトをはめ込んだ天井のシステムはドイツ製ですが、取り外しが簡単で、こちらも洗浄しやすい。 掃除の時間が短縮できれば、その分料理に時間をかけることができます。それに本を読んだり、大好きなバスケの試合を観たり、人に会ったりとインプットの時間も増やせます。身体にも負担がかかりませんから、10年20年と元気に仕事ができるでしょう。設備への初期投資費用はかかっても、長い目で見ればとても有意義なことだと思うんです」(仲本さん) コースのみで、ランチは5940円(税サ込)、大和榛原牛使用の場合は7740円。ディナーは9980円、大和榛原牛使用の場合は1万2470円。東さんが特に魅了されたのがパスタだそう。 「コースには必ずパスタが2品出てきます。すべて生パスタで、生地は練り上げてから2日間寝かせる。そうするとプチッと弾けるような歯切れのいいパスタになるそうです」 「ダブルの意味を持つ『ドッピオ ラビオリ』(※ディナーコースのみ)は、仲本さんがエノテカ ピンキオーリでの修業時代、シェフから請われて考案したもの。中に牛ほほ肉の赤ワイン煮と、リコッタとマスカルポーネチーズの2種類のソースが双子のように入っています。とても軽やかで、するりと喉を通ってゆくんです。あまりのレベルの高さと美味しさに、思わず"大盛りで!"と言ってしまい、仲本さんに苦笑されました(笑)」 「サラダもとても手が込んでいるんですよ。お店ではサラダではなく『野菜のひと皿』と呼んでいらっしゃいます。使用する野菜は季節や日によって変わり、冬なら根菜が多いそうです。野菜のうまみを引き出す一番合った方法で、それぞれ焼いたり、揚げたり、茹でたり......20種類くらいあるのかな? とてもボリュームがあります」 「そして特筆すべきはドレッシング! ワインビネガーをベースとした、酸味のあるドレッシングをシート状にし、野菜の上にふわりと掛けます。冬は霜を連想させる季節感、夏はさわやかな清涼感があり、一年を通して魅了されますね」 「デザートの後に出されるプチフールもすべて手作り。5種類も出てきて、どれから食べようか目移りします(笑)。カヌレはカリッとした触感を楽しんでいただくため、焼き上がりから2~3時間以内にテーブルへ運べるよう計算しているそうです。ロリポップタイプのアイスも季節によって味わいが変化、冬は柑橘系で口の中がさっぱりします」 プチフールには、紅茶、ハーブティーなど12種類の茶葉から選んだお茶も一緒に。 「お店にはスタッフを連れてうかがいます。厨房のつくり方からも、お料理からも、どれほど強い想いをもってお店に取り組んでいらっしゃるかを学ぶことができますから。仲本さんは3カ月に1回、お店で料理人に向けての勉強会も開かれ、私もよく参加しています」 その勉強会では、たとえば大阪の3つ星レストラン「ハジメ」の米田肇シェフと、その弟子である「モトイ」の前田元シェフを招いて鼎談をしたり。日本人で唯一、イタリア・アルバでトリュフ騎士の称号を授かった富松恒臣さんによる、トリュフについての講義を開いたり。閉店後の夜11時に、京都・大阪・奈良・神戸から毎回25~30人ほどが木津へ集まり、明け方まで続くという。 「情報は隠しているより、シェアしたほうがより広がりをもって身に付きますよね。オーナーシェフや料理長になると、なかなか勉強する機会もありませんから、みなさんとても真剣に参加されます」(仲本さん) 「仲本さんはオープンマインドで、多角的に物事をとらえる目を持っているんです」と東さんは言う。料理人が魅了される料理人は日々進化することを止めず、木津という場所から美食家たちと料理人たちの心をざわつかせているのだ。 撮影 菊地佳那 文 竹中式子■ リストランテ ナカモト京都府木津川市木津南垣外122-10774-26-550昼12:00~15:00(L.O.13:00) 夜18:00~23:00(L.O.20:00)定休日 毎週水曜含む月6回https://www.ristorantenakamoto.jp/
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2018.12.07
「菜処 やすかわ」―「京都吉兆」徳岡邦夫さんが通う店
「京都吉兆」徳岡邦夫さんプロフィール「吉兆」創業者・湯木貞一氏の孫にあたる。15歳から貞一翁のもとで料理の核心を学びはじめる。その後、高麗橋吉兆、東京吉兆での修業を経て、京都・嵐山本店へ。1995年以来、総料理長として現場を指揮。伝統を守りながらも時代に即した食へのアプローチに挑戦し続ける。2009年のミシュランガイド関西版の発行以来、嵐山本店は10年連続で三つ星を獲得。おすすめコメント名古屋などの近郊への出張帰り、夜9時ごろに京都駅に降りたつと、その足で向かうのが祇園にある「やすかわ」さん。参加したパーティでそれほど食事ができず、お腹が物足りない時にもうかがっています。おでんの種類も豊富で、おばんざいも有名ですが、私はいつでも決まったおでん種と一品料理をいただきます。 行く時はたいてい一人です。5~6年前に初めてうかがった時からそうでした。ゆっくりと一人でご飯を食べたい、ほっと一息つきたい、そんな気持ちを満たしてくれる空気がこちらにはあるからです。会議やパーティでたくさんの方と接して高揚した気持ちを落ち着かせ一日の最後にリセットしてくれる、私にとって大切なお店です。菜処 やすかわ「大根、糸こんにゃく、さつまあげ、豆腐の4種類が私の定番です。4つ一緒に頼むこともありますが、出汁が冷めないようにたいていは2種類ずつ。一番最初の大根は外せません。鰹節と昆布を濃い目に利かせた出汁がじゅんと染みわたっています」 昭和60年にオープンして以来33年間、毎日つぎ足されてきた出汁で煮込んだおでん(1個税別200円、すじ肉おでんのみ400円)。その出汁は「やすかわ」の一品料理のベースにもなっている。 「2個の卵に出汁たっぷりの、ゆるめでフワフワの出汁巻きもお気に入りです」店主の安川裕貴子さんが店内で見る、徳岡さんの姿とは......? 「徳岡さんがいらっしゃる夜9時すぎは、ちょうど最初のお客様がお帰りになってお店が落ち着いたころです。予約の電話もなく、いつもお一人でふらりといらっしゃいます。そして冷の日本酒でいつものおでん4種をつまんでいる間に、焼き魚を注文されます。最近は鯖の塩焼きが多いですね。私とお話しされることはなく、携帯をご覧になったり、考え事をされたりと、お一人の時間を楽しんでいらっしゃるようです」(安川さん) そうして小一時間ほどするとさっとスマートに切り上げて帰られるとか。「一人ですと、やはりカウンターが落ち着きますね。空いていれば端の席を選びます」開店当初はカウンターと小上がりのみだったが、18年前に改装して今では奥に座敷が設けられ、宴会利用もできる。大正時代から続く置屋だった安川さんの実家の一角を改装。深夜1時まで営業しているので、店じまい後の料理人も多く訪れる。撮影 津久井珠美 文 竹中式子■ 菜処 やすかわ京都市東山区末吉町93075-551-339018:00~翌1:00定休日 日曜、祝日※12月31日は営業、ゴールデンウィークも一部営業
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2018.12.05
「和久傳」―「祇園さゝ木」佐々木浩さんが通う店
「祇園 さゝ木」 佐々木浩さんプロフィール京都、滋賀の有名料理店で腕を磨き、1998年独立して「祇園さゝ木」を開店。カウンター前で客に魅せる勢いとサプライズ溢れる佐々木さんの料理は、いつしか「さゝ木劇場」と呼ばれる。客一人ひとりに心を寄せる親身な接客にはファンが多い。2009年以降、連続してミシュラン二つ星を獲得している。佐々木さんおすすめコメント「和久傳」さんには、「高台寺和久傳」、「室町和久傳」、京都駅にある「京都和久傳」と、3軒とも伺ったことがあり、特に「室町和久傳」さんによく行かせてもらっています。 2018年4月に料理長になられた松本進也さんとは、「高台寺和久傳」時代からの??......と思っていましたが、娘がまだ小さかった頃「京都和久傳」で京都タワーを眺めながら家族団らんしていた姿を憶えていただいているそうで、実はずいぶん長いお付き合いだったんです。 近頃、「和久傳」出身の料理人が和食界を席巻していますが、どの方も料理はもちろん、サービスやホスピタリティー、店のしつらえなどに対する考え方が素敵で、とにかくみなさん、美意識が洗練されていると思います。料亭できっちり修業された強みであり、料理人としての矜持をしっかりと養ってこられた証しです。「和久傳」さんに伺うと、いつも感じるところがあって、勉強させていただいています。室町和久傳カウンター中心で、手ごろな値段で料亭の味を楽しめる。そのスタイルが愛され続ける「室町和久傳」の料理長・松本進也さんは「高台寺和久傳」でも6年間料理長を務めた、生粋の和久傳料理人。 「佐々木さんとは高台寺のお座敷で何度かお目にかかりましたが、いつも控えめに下座にいらっしゃり、とても礼儀正しく私にもしっかりと頭を下げてくださった姿が印象的です」 そう座敷での思い出を語る松本さんは、カウンター仕事へのあこがれも強かったそう。「リアルタイムでお客様と向き合うカウンターは舞台のよう。料理人の想いを直接お伝えできて、お客様のテンションを上げることができる。そのエンタテインメント性が魅力です」。 佐々木さんが絶賛する和久傳出身の料理人達の魅力は、松本さんの言葉にも表れているように、料理だけに傾倒しない、サービスへの意識の高さにもある。そして料理は「繊細でありながら野趣」であること。食材のポテンシャルを最大限に活かすため、手先だけに頼ることなく研究を重ねる姿勢が脈々と受け継がれている。 昼は7000円、1万円の2コース、夜は1万5000円、2万円コースに、おまかせ2万5千円で、高台寺の和久傳に比べるとかなりリーズナブル。肩の荷を下ろしてカジュアルに、料理人と向かい合いながら「和久傳」の味とサービスを体感できるのは「室町和久傳」ならではだ。鱧と松茸の成相(なりあい)焼き 香り豊かな松茸をたっぷりと裂き、脂ののった鱧でぐるりとくるむ。そして炭火で30分、じっくりと焼き上げると、松茸に鱧の旨味が染みこみ得もいわれぬ味わいがあふれ出す。醤油で炊いた梅干しとタレでいただくもよし、塩が振られているので何もつけずにそのまま素材の味を堪能するもよし。秋(9~11月半ば)の定番で、夜の2万円以上のコースに含まれる。3年前にコの字のカウンターに改装。店内奥と手前にある2カ所の庭が臨みやすいと好評。どの位置からもカウンター内を見渡すことができ、4人の料理人による和久傳劇場を楽しめる。おくどを改装した天井の高い8人までのカウンター個室や、テーブル個室もあり。文 竹中式子■ 「室町和久傳」京都市中京区堺町通り御池下ル東側075-223-3200営業時間/11時30分~15時(最終入店13時30分)、17時30分~22時(最終入店20時)定休日/火曜、12月27日〜30日※12月31日〜1月3日は特別献立にて営業
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2018.12.03
「広東旬菜 一僖(いっき)」―「京都吉兆」徳岡邦夫さんが通う店
「京都吉兆」徳岡邦夫さんプロフィール「吉兆」創業者・湯木貞一氏の孫にあたる。15歳から貞一翁のもとで料理の核心を学びはじめる。その後、高麗橋吉兆、東京吉兆での修業を経て、京都・嵐山本店へ。1995年以来、総料理長として現場を指揮。伝統を守りながらも時代に即した食へのアプローチに挑戦し続ける。2009年のミシュランガイド関西版の発行以来、嵐山本店は10年連続で三つ星を獲得。おすすめコメント祇園界隈からぶらりと歩いていける場所にあり、とても使い勝手がよいお店です。初めてうかがってから2カ月の間に3~4回立て続けに訪ね、今でも東京からいらっしゃったお客様をカジュアルにおもてなしする時、中華をいただくなら「一僖」さんと決めています。 店内もお値段もカジュアルですが、素材本来の味わいを引き出すご主人の腕前のなんと見事なこと。定番料理もありますが、素材ありきで毎日変わるメニューは、中華料理でありながら、まるで割烹のようでもあります。ご主人はかなりの目利きで、素材選びを教えてほしいとやってくる食品納品業者もいるとか。 お料理のほとんどは米油を使用されているので、優しい味わいで胃もたれしません。お年寄りでも2日連続で召し上がれるのではないでしょうか。この味にすっかり魅了され、周囲にも何度も語り、おすすめしています。私の熱弁に興味を持ち足を運ばれた方々は誰もが「大満足!」と言われるので、私も鼻が高いです。広東旬菜 一僖「このソースが大好きでね、エビワンタンがない時でも、剣先イカなど旬の素材でアレンジしてもらうほどのお気に入りです」 徳岡さんが愛してやまないというソースを使用した一品が、「プリプリエビワンタン 香りねぎホンコンしょうゆソース」(税込1200円)。エビがゴロリと入った大ぶりのワンタンの上に、クールブイヨンで仕上げたあっさりソース、そしてたっぷりの白髪ねぎをのせ熱々のネギ油を回しかけると、ジュジュッと音を立てて何とも香ばしい薫りが鼻腔をくすぐる。 「ご主人がウェスティンホテル大阪時代に、香港人シェフから学んだという本場仕込みの味。あらゆる人におすすめしては、必ず気に入ってもらえるキラーメニューです」「もう一品、必ず頼むのが干し貝柱フカヒレスープ(2800円)です。2~3人でいただくのがちょうどいい。こちらの清湯スープはスッキリと喉を通り、清々しい気持ちになれます」 その秘密は、鶏ガラや豚骨は一切使わず、豚・鶏の「肉」をそのまま使用し、長く煮込まないから。濁ることなくうま味がたっぷりだ。気仙沼産フカヒレのスープには世界三大ハムとも称される金華ハムを足し、香ばしさとコクがしっかりと広がる。※写真は1人前に取り分けたもの 「オープンして1年ほどたったある日、予約もなく突然、徳岡さんが店にいらっしゃったので『え!? あの京都吉兆の徳岡さんが!?』と、とても驚きました(笑)」(下村さん) 今でも徳岡さんが、シャイな様子で扉を開けて店に入ってきた瞬間をはっきりと覚えていると語る、オーナーシェフの下村一太さん。神戸のオリエンタルホテル、ウェスティンホテル大阪など関西圏のさまざまなホテルの中国料理店を経て、平成26年に「一僖」をオープンした。ホテル時代から広東料理一筋、そして今の料理は広東料理ベースの香港スタイルだという。 「香港スタイルは調味料に頼ることなく素材の持ち味を引き出し、そして香り豊かだと思います。和食に近い部分もあるかもしれませんね。実際、和食の料理人の方も味付けや香りに興味を持たれ、ご質問をいただくことも多いです」(下村さん)しかし、徳岡さんが下村さんと料理について語ることはないそうだ。 「料理人同士の関係ではなく、一人の客として私はこの店のファンなんです。カウンター席に座って、エビワンタンとフカヒレスープは必ず注文。青ネギ入り焼きシューマイもよく頼みます。点心もすべて手作りで、心に残る味わいなんですよね。そしてその日のおすすめがびっしりと書かれた黒板を眺めて、ご主人と相談しながら気になる素材の料理を追加する。コースもありますが、私は必ず単品での注文です」瓶入りの紹興酒は通常2回煮沸するところ、甕出しの「塔牌〈陳十年〉」(グラス650円、デカンタ3000円)は1回のみのため、香りがよく舌触りもビロードのようにまろやか。 「こちらを2杯、調子がよい時には3杯いただくと、お連れしたお客様との会話もますます弾みます(笑)」京都の風情漂う東山安井の交差点近くに店を構える。 「父の故郷である京都で店を持ちたいと夢見ていました。ここは祇園も近く、徳岡さんのような料理人の方や食通の方がとても多い場所なので、身が引き締まりますね(笑)」(下村さん)※価格は取材当時のもの撮影 津久井珠美 文 竹中式子■ 広東旬菜 一僖京都市東山区月見町17-5075-744-1947昼11:30~13:00(L.O.) 夜17:30~21:30(L.O.)定休日 木曜全日、金曜昼、月1回の不定休
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BLOG料理人がオフに通う店
2018.11.01
「スペイン料理aca」―「祇園 さゝ木」佐々木浩さんが通う店
「祇園 さゝ木」 佐々木浩さんプロフィール京都、滋賀の有名料理店で腕を磨き、1998年独立して「祇園さゝ木」を開店。カウンター前で客に魅せる勢いとサプライズ溢れる佐々木さんの料理は、いつしか「さゝ木劇場」と呼ばれる。客一人ひとりに心を寄せる親身な接客にはファンが多い。2009年以降、連続してミシュラン二つ星を獲得している。おすすめコメント僕が行きたいと思う店は、腰を据えたとき店の雰囲気や室礼などが気持ちよく、ほっと落ち着ける店。なかでも、客も含めて店全体が楽しそうで活気のある店には心惹かれます。プライベートで食事の際に足を向けるのは、和食店や鮨店がほとんど。佇まいが京都らしく、料理と器、分量などのバランスがとれている店に行きたいと思います。 普段は和食店に通う僕が、どうしても行きたいと思って訪ね、感動したのがモダンスパニッシュの「aca(アカ)」さんです。ご主人の東さんは大変勉強熱心な方。開店当初はアラカルトで料理を出すお店でしたが、「流れのいいコースを出したい」と、うちにも何度も食事に来られました。同じ料理人として意見交換し、その真摯な姿勢に驚かされ、いつかはうかがいたいと思っていました。考え抜かれたコースの構成や食材の扱い方、最上の旨味の引き出し方など、誠意をもって料理に向き合う姿勢に心をうたれました。魚料理や季節の食材を使ったパエリヤなど、どの料理も味が決まっていて量のバランスもいい。ぜひお薦めしたいお店です。スペイン料理 aca佐々木さんおすすめの「aca 」は、「ラマーサ」出身の東鉄雄さんが、2013年に高倉三条に開いたスペイン料理の実力店。オープンから数年でミシュランガイドの星を獲得し、今や名店ひしめく京都の中でも特に予約が取りにくい一軒だ。炭火焼き料理を主体に「自分が食べたいと思うものを作っている」という東さん。京都の市場はもちろん築地からも仕入れる魚介、洛北・大原や岡山の生産者による野菜など、上質の食材にとことん向き合い、火入れの仕方など独自の工夫で持ち味を引き出した料理は、佐々木さんたち和食の料理人をも唸らせている。「真剣にスペイン料理を食べてもらいたい」と、メニューは9~10品からなるおまかせのみ。中でも蟹、鮑、鮎、雲丹など、その時々のおいしい魚介を使った絶品のパエリアは、具材に合わせてスープや調理法を変えて作られ、毎回楽しみに通うファンも多い。スペインワインは50種近くあり、グラスが7~8種揃うのもうれしい。シェフ東鉄雄さん高級料亭や割烹などでも用いられる上質な季節の食材を使い、それらをシンプルに活かす"引き算"の料理を心がけているという東さん。炭火を使って焼く作業もすべて東さんが自ら行っている。ワタリガニのパエリアコースのメイン、パエリアの一例より、野菜、帆立、イカなどを使った深みのある味わいに、濃厚な蟹のうま味が際立つ渡り蟹のパエリア。蟹のパエリアは時季により蟹の種類が変わり、11月はこっぺ蟹が登場。もろこを使った前菜おまかせコースの一例より、琵琶湖産のモロコを使った前菜。炭火でふっくらと焼いたもろこと、煮詰めたシェリービネガーの甘酸っぱさ、マンチェゴチーズの組み合わせも絶妙な、ワインが進む一品。カウンターとテーブルの店内は16席あるが、「少数のお客さんに全力でいいものが出せるように」と、一日8~9名に限定。年内の予約はすでに埋まっており、来年1月以降の予約を11月1日からインターネットで受付予定。京都文化博物館そばにある三条通沿いの小さなビルの2階。ここにはプロの料理人が来店することも多く、京都や大阪はもとより東京からも訪れ、東さんと料理談義に花が咲くこともしばしばとか。 ■ スペイン料理 aca京都市中京区桝屋町55 白鳥ビル2F075-223-3002水~土12時(入店)18時30分※完全予約制http://aca-kyoto.jp/
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