料理人がオフに通う店
「旨い店は料理人に聞け!」食材を見る目や鋭い舌をもつ料理人が選ぶ店なら、決して外れがないことでしょう。 京都を代表する料理人がオフの日に通う店、心から薦めたいと思う店とは?
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2019.10.11
「点邑」―「リストランテ野呂」野呂和美さんが通う店
「リストランテ野呂」野呂和美さん《プロフィール》 青森県出身。東京「山の上ホテル」や「リストランテ・サバティーニ青山」に勤めたのち、「ロカンダ・ヴェッキア・パヴィア」をはじめ、イタリア各地のレストランで修業。帰国後、ホテルグランヴィア京都のレストラン「ラ・リサータ」でシェフとして活躍。その後「洋食おがた」勤務を経て、2017年6月に「リストランテ野呂」をオープンさせた。確かな技術と経験で四季折々の素材を活かしきる、珠玉の天ぷらと京料理大の天ぷら好きという野呂さんが「天下一品」と称賛するのが、今回おすすめとして挙げた「点邑」だ。京都を代表するし老舗旅館「俵屋」がプロデュースする天ぷら専門店として知られ、旬の食材を使った京風の天ぷらを、端正な京料理とともに味わえると、高い人気を誇る。元々御幸町通で営んでいたが、4年前に俵屋のすぐ近くに移転。風情ある一軒家の店舗にリニューアルした。オープン以来、ここで板長を務めるのが、小林紀之さんだ。小林さんの料理、そして気さくな人柄もこの店の魅力。まだ移転する前の店に初めて訪れたという野呂さんは、小林さんの料理と出合ったときの感動を振り返る。「京都のホテルに勤めていたときにお伺いしたのですが、ちょうど鱧の季節で鱧が薄造りで出てきたお皿に、まずびっくりして。もちろん天ぷらにもびっくりしたのですが、その包丁技術と味の持っていき方、食材への造詣の深さ、すべてが驚きで思い出としてずっと残っていました」。以来、野呂さんは何度か店を訪れるようになったという。時に店を訪れたり、飲みに誘ったりするなど、野呂さんとは普段から親交があるという小林さん。野呂さんの言葉を聞いて、笑いながら、「ちょっと大きく言ってるな(笑)。でも、うれしいですね。イタリアンの人と今まで付き合いはなかったけど、彼はなかなかいい料理人だと思ってつきあっています」と語る。「小林さんには、食材のことなどいろいろ教えていただきます。人に対しても懐が深くて、慕っている料理人は多いと思います」と、野呂さん。ここには野呂さんのように、小林さんの料理と人柄に魅かれた料理人たちがよく訪れるという。「小林さんの天ぷらはめちゃくちゃ美味いです。その天ぷらに入るまでのお料理もすごくて、何を食べてもおいしい」と、野呂さん。夜のメニューは、1万円の天ぷらコースと、天ぷらに京料理がついた1万3000円からの懐石天ぷら。特に地元客には、天ぷらと季節の料理、両方が食べられる懐石天ぷらが人気で、夏の鱧、冬のすっぽんなど、季節の料理を楽しみにする人も多いという。昼はコースのほか手頃な天丼や点心も楽しめる。韓国産の名残の鱧を使った「鱧と松茸のしゃぶしゃぶ」は、小林さんの卓越した技術を堪能できる一品だ。繊細に美しく骨切りされた鱧の身は、口の中でふわっと広がり、骨の存在を感じさせず、豊かな旨味だけが残る。搾り柚子と鰹節を入れ熟成させた特製ポン酢もその味を引き立てる。俵屋で長年京料理の腕を磨いてきた小林さんだからこそ出せるおいしさだろう。「同じ食材でも産地や季節などによってポテンシャルは全然違います。その食材をどう扱うかを丹念に研究して、全部理解した上でそれを体現されている。それも自然体でさらっとやられているのがすごいなと思います」(野呂さん)そして、天ぷら。綿実油の白締油で揚げた天ぷらは、軽くて胃にもたれないとお客に好評だ。魚介や野菜、生麩、湯葉などを織り交ぜて供される約10品の季節の天ぷらで、最初に登場するのが、野呂さんおすすめの「海老の天ぷら」。薄い衣で海老の甘味がしっかり感じられる。「海老の甘味を出す火入れ加減と、歯が喜ぶ揚げ加減に心をつかまれます」(野呂さん)野呂さんが特に印象に残ったというのが、海苔で包んだ「うにの天ぷら」。「鼻から抜ける磯の香りなどの余韻がすごくあって、おいしかったですね」(野呂さん)衣は海苔の下の部分にだけつけて揚げてあり、生のうにと海苔の天ぷらを楽しむ格好だ。ほんのり温かくとろけるようなうにと海苔の風味が相まって、たまらない味わいに。「少し熱を加えることで味に濃厚さが出ます。これを頼む人は多いですね」と小林さん。小林さんは、素材の種類や状態、天候などに応じて、粉のふるい方、卵液の濃度、衣のつけ方、油の温度、時間などをその都度調節しているという。そうした食材への造詣の深さが、やはり小林さんの天ぷらの魅力だと、野呂さんは言う。「本当においしいものを突き詰めておられて、その結果、琴線に触れるような料理、天ぷらができるのだと思います。揚げ方一つひとつが流れるような感じで、もう芸術の域ですね」。その言葉に、小林さんは「そこまで思ってもらえるとありがたいですね」と返す。小林さん流の天ぷらについて問うと、小林さんからは「一言で言うと、その食材の旨味を引き出すための調理法です」との答え。天ぷらは、蒸したり焼いたりいろいろできる調理法で、その特性を利用して理想の味を引き出していくのが、小林さんが考える天ぷら。試行錯誤しながら引き出し方を見つけ、ようやく料理として出せるという。そんな小林さんの研究心からは、しっとり焼きいものような味わいのさつまいもの天ぷらや、とろとろの食感のトマトの天ぷらなど、新たな味が生まれている。「正直言うと、まだまだです」と、今なお新しい天ぷらへの追求を続ける小林さん。野呂さんら若手料理人たちからの刺激も受けつつ、誠実にその時々の食材と向き合い続ける姿に、皆、更なるおいしさと出合えることを期待してしまうのだ。撮影 エディオオムラ 文 山本真由美■ 点邑京都市中京区麩屋町三条上ル075-212-777811:30~13:30(LO)、17:30~21:00(LO)※夜は要予約休 火曜日
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2019.09.22
「LURRA°」―「富小路やま岸」山岸隆博さんが通う店
「富小路やま岸」山岸隆博さん《プロフィール》京都市出身。「七栄鮨」、中央市場の鮪問屋、ホテルの和食店などを経て、「京都一の傳」で10年間修業した後、2015年10月に独立し、「富小路 やま岸」を開く。茶道裏千家講師、華道嵯峨御流華範、書道準五段、京都検定取得。2019年8月には姉妹店「二条やま岸」をオープンし、さらに9月「富小路やま岸 香港店」をオープンする予定。まるで世界を旅するように。薪火を使った独創的な料理に笑顔が広がる食空間「京町家を改築したレストラン。ガラス張りのお店の中に入ると、ガスが無く、ピザ窯と薪焼きだけのキッチンをカウンターが囲むしつらえ。そこに外国人のシェフ。ここから一体どんなお料理が出てくるのだろうと、否が応でも期待が膨らみます」(山岸さん)この7月に東山三条に開業した「LURRA°」は、今、京都で最も注目を集めるレストランだ。米国人シェフのジェイカブ・キアーさん、GMの宮下拓己さん、ミクソロジストの堺部雄介さんの、いずれも海外の有名店で経験を積んだ3人が、ニュージーランドの「Clooney」で同僚として出会い、意気投合。築150年以上の京都の古民家を舞台に、レストランプロジェクトを立ち上げた。宮下さんは、「京都は自然に近い場所にあるのがいいし、伝統工芸の街でもある。日本でやるなら京都が一番やりたいことができるなと」と、京都を選んだ理由を語る。この店のことはオープン前から「面白い店になる」と注目していたという山岸さん。対する宮下さんも、山岸さんから店作りへのインスピレーションをもらったと振り返る。「『やま岸』さんに行かせていただいたときに、すごく楽しいお店だなという印象があって。お客さんが皆笑顔になれるお店っていいなと思っていたんです」ここでは、大原や伏見などの農家から仕入れる京都の野菜や、水揚げ当日の昼に届く魚介など、日本の旬の素材を使い、2種類の薪の火を駆使して調理したオリジナリティあふれる料理を、ドリンクペアリング付きの5品を含む全10品のコースで提供。コペンハーゲンの「Noma」などで培った技術に、日米のエッセンスも交えたキアーシェフの料理は、発酵や塩漬け、燻製などの手法も用いながら、素材の新たな魅力を引き出している。キルン(窯)と野菜用のピザ窯がある厨房は完全なオープンで、L字のカウンター席から活気ある調理の様子を眺めたり、窯から漂う薪火の香りを楽しんだりしながら食事ができる。厨房の床はお客の目線と合うよう低くなっており、お客とスタッフの距離も近く感じられる。そんな雰囲気に、山岸さんも「初めてお会いする隣の席の方とも、おいしいですね!面白いですね、この組み合わせ!と話が弾んでしまった」そうだ。「うちの料理は特に決まったジャンルはなく、だしや醤油も使えば、インドのスパイスも使います。料理で旅をするような感じを楽しんでいただければ」と、宮下さん。たとえば、山岸さんおすすめの「賀茂茄子、シトラスヨーグルトとコリアンダー」。二度焼きして水分をとじこめた賀茂茄子に、インドのスパイス「バドバン」を混ぜたバターを塗り、ヨーグルト、コリアンダーペーストなどを添えた、香りと楽しむエスニックな味わいの一品だ。「京都人が考えつかない茄子をヨーグルトで食べるという発想に驚き、食べてみたら相性が良いことに更に驚きました」(山岸さん) コースの内容はその時々の食材によって変わるが、唯一定番となっているのが、山岸さんも「おいしかった」と評する締めの「焼きおにぎり茶漬け」。軽く炙って薪の香りを移したおにぎりに具材、お米のチップス、木の芽の粉末をのせ、鹿児島産の鰹節と鱧の骨の燻製でとっただしをかけていただく。具材は燻製穴子の佃煮など、時季により異なる。漆器は輪島塗の老舗の8代目に依頼したもの。器やカトラリーは若手作家のものを中心に、国産の品を使用している。また、この店を語るうえで欠かせないのが山岸さんも絶賛するドリンクペアリング。「ここの魅力は料理もさることながら、ノンアルコールペアリングの秀逸さ。どれも本当においしくて大満足。ワインペアリング以上に考え尽くされている印象を受けました」クラフトビールや発酵ベリーのジュースなど、ノンアルコールは料理に合わせたものを自分たちで作る。「フードに寄り添うような飲み物を、コース全体のバランスを考えながら用意します。フードとのバッティングが起きないよう、酒精を低くし、香り成分や余韻などで合わせています。僕らが時間をかけたものに対して評価していただけるのは、うれしいですね」と、ペアリングを担当する堺部さん。賀茂茄子の料理に合わせたドリンクは、液体窒素で急速冷凍した2種類のミントと日本ハッカ、抹茶を潰したものを柚子の発酵ジュースに混ぜ合わせ、香りと苦味にはコリアンダーやゼラニウム、仕上げにジュニパーベリーの蒸留水を少し。焼きおにぎり茶漬けには、水出しの京煎り番茶をスターアニスと漬けこんだものを合わせる。食事が終わると、全員で「囲炉裏」と呼ばれるテーブルへ移り、談笑しながらデザートを楽しむ。「デザートに合わせたお飲み物も、味を引き立てていてたまらなくおいしい!デザートがここまでおいしいとまた来たくなってしまいます」(山岸さん)写真は「焦がしジャージーミルクとルバーブ」。香ばしいミルクアイスにルバーブの酸味と甘みを合わせた優しい味わいで、美味。「家にゲストを招待するようなイメージの店にしたかった」との宮下さんの言葉通り、お客もスタッフもフラットになれるアットホームな店の雰囲気は、革新的な料理とともに、食事の時間をより楽しく、印象深いものにしてくれるようだ。「友人と食事をする際はこの店を選びたい。どこにも無かったスタイルのお店だから話が盛り上がること間違いなしです」(山岸さん)※料金は2019年10月1日より25,000円(ペアリング付・税サ別)撮影 瀧本加奈子 文 山本真由美■LURRA°京都市東山区石泉院町396050-3196-143317:30~、20:30~(2部制)※インターネットによる完全予約制 https://lurrakyoto.com/休日曜、月曜
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2019.09.13
「リストランテ野呂」―「富小路やま岸」山岸隆博さんが通う店
「富小路やま岸」山岸隆博さん《プロフィール》京都市出身。「七栄鮨」、中央市場の鮪問屋、ホテルの和食店などを経て、「京都一の傳」で10年間修業した後、2015年10月に独立し、「富小路 やま岸」を開く。茶道裏千家講師、華道嵯峨御流華範、書道準五段、京都検定取得。2019年8月には姉妹店「二条やま岸」をオープンし、さらに9月「富小路やま岸 香港店」をオープンする予定。食べ手思いの巧みな季節のイタリアンや洋食で、会話も弾む楽しい時間を休日はよく食べ歩きに出かけるという山岸さん。その際は、「おいしいのは当たり前なので、それ以外のことがどれだけ行き届いているか、どれだけ考えてはるかを見にいくことが多い」のだそうだ。そんな山岸さんがおすすめとして挙げるのが、二条城の南にある「リストランテ野呂」。JR二条駅から御池通を東へ進んだところにひっそりと佇む町家のレストランだ。細長い空間を活かした店内は、1階はゆったりとしたカウンター席、2階はテーブル席で構成される。オーナーシェフの野呂和美さんは、日本やイタリアの有名イタリアンで腕を磨き、ホテルグランヴィア京都「リサータ」の料理長、「洋食おがた」勤務を経て、2017年に独立。気取らない雰囲気のなか、野呂さんの料理が楽しめるこの店はたちまち評判となり、ファンを増やし続けている。ここに山岸さんが初めて訪れたのは、昨年のこと。「『SUGALABO』の須賀さんや『Restaurant TOYO』の中山さんなど、パリと東京、京都の料理人たちと、ANAクラウンプラザホテルで食のイベントをしたんですよ。メンバーの一人『末富』の山口さんがこの店をご存じで、須賀さんたちと一緒に食べに行きました。パスタなどをパパパッと作ってくれはったのがおいしくて、そのあとも一回食べに行きましたね。料理もきれいだし、清潔感があって、値段もリーズナブル。また行きたいと思えるお店です」(山岸さん)その時のことを、野呂さんは「山岸さんのことはいろんな料理人仲間や仲卸の人から常々聞いていて、すべてを兼ね備えたすごい料理人だと。だから、初めてお会いしたときは緊張しましたね。山岸さんはじめ、どえらい人ばかりで来られて、勘弁してよって思いました(笑)」と、振り返る。野呂さんは、和やフレンチなど他ジャンルの料理人との交流も多く、そうした人たちに大いに刺激を受けているという。こちらのメニューはアラカルト中心で、イタリアンと洋食の二本立てで構成される。注目したいのが、オーダーのフレキシブルさ。その日のおすすめがメニュー表にあるが、たとえばパスタなら好みのソースと具材、麺の量を指定してお願いすることも可能だし、好きな肉料理を好きな量で盛り合わせたり、カレーやリゾットなどの裏メニューを用意したりといった要望にも対応してくれるという。「僕が作りたいものじゃなく、お客さんの食べたいものをお作りするスタンス。コースであれば、この地方の料理を同じ地方のワインと合わせてとか、ベジタリアンのコースでという具合にご要望に沿ってもお作りします。100人いたら100人に合わせられる"私のお抱え料理人"のようなイメージです」(野呂さん)毎朝中央市場で仕入れる魚のほか、高知や野呂さんの地元・青森からの直送分など、目利きの業者から届く上質な魚を使った料理に定評がある。中でも、山岸さんおすすめの前菜「旬の魚の食べ比べ」は、多くの常連が頼む人気の品だ。「お魚を8種類ほど盛り合わせてあるんですけど、食べやすくて、味付けもバランスがいい。一皿の中にメリハリがあって、全部食べて完成されるおいしさ」(山岸さん)その日の仕入れによって内容が変わり、この日はハマチ、よこわ、アオダイ、マアジなど9種の鮮魚が、昆布締め、マリネ、炙りなど、それぞれに合った調理法で仕立てられている。一品一品手をかけ、煮野菜やピクルスなどと合わせた魚は、繊細な味わいで素材の魅力が際立つ。これだけの種類の魚を一度に味わえるのもここならではだ。「この中から好きな分だけ選んでいただくこともできます。お客さんによっては、カットの大きさを変えたり、切れ目を入れたりしています。また切る厚さや塩加減なども、その日の魚の種類や状態によって変えます。だから、ただレシピ通りにするのではなくて、レシピがないのがレシピみたいな感じですね。そうじゃないと、お客さんの琴線に触れられるとは思っていないので」と野呂さん。お客や魚に寄り添う野呂さんの思いが窺える一皿だ。山岸さんのもう一つのおすすめは、パスタ。「単純においしかった。バランスがうまいなあと。パスタって味が濃いとおいしいんですけど、濃い中にもどう食べさせたらおいしく感じてもらえるかというところまで考えているようなソースで、好きでした」(山岸さん)写真は、釜揚げのシラスとアサリを使った「魚介ときのこの軽いサフランクリームソースのパスタ」。魚介の旨味がぎゅっと詰まったまろやかな味わいの一品だ。こうしたパスタの味付けも、野呂さんはお客によって変えたりするそうだ。「少しでもお客さんの"おいしい"に結び付けたいので、お客さんの会話や飲み物などの情報をもとに、乳化の仕方や塩加減などを変えて、好みのソースの味にしていきます」。ソース、麺のゆで加減など、何千通りある中でこれという味を模索しながら作っていくのだというが、これもパスタへの豊かな知識や経験のある野呂さんだからできることだろう。「ベースができていなければ、それをやってもちぐはぐになってしまいます。何が本当なのか基本がわかったうえで、お客さんに寄り添える何かを作ることができるので」(野呂さん)「お客さんの笑顔が見たいから何でもやっちゃう」と話す野呂さん。その料理とともに、明るく飾らない人柄も大きな魅力で、野呂さんとの会話を楽しみに訪れる人も少なくない。「すごく気さくな方で、お客様を楽しませることに長けておられる。誰が行っても気持ちよく食べさせてくれるんやろうなと思いましたね」と山岸さんは言う。もてなしの面で、野呂さんが意識していることはどんなことなのだろう。「たくさんお店がある中で、わざわざ電話して、わざわざ電車を乗り継いで、わざわざ来ていただいているわけですから、楽しんでもらいたいし、こちらも本当に楽しく作らせていただいています。それには僕だけでなく、スタッフも気持ちよく仕事をすることが大事で、各個人が責任を持ちながら伸び伸びと仕事ができるようにしています。お客さんからもよく『みんなきびきびやっていて気持ちがいい』と言われますね」山岸さん以外にも、ここには有名和食店の主人や料理長が訪れることもしばしばだという。名だたる料理人たちも認める同店。予算は食べて飲んで1万円~1万5千円ほどで、コースは8千円から楽しめる。撮影 高見尊裕 文 山本真由美■リストランテ野呂京都市中京区西ノ京職司町67-14075-823-810011:30~14:30(LO13:30)、17:30~22:00(LO20:30)休 月曜、月1回火曜不定休
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2019.08.27
「Bar K6」―「蛸八」掛谷浩貴さんが通う店
「蛸八」掛谷浩貴さん《プロフィール》京都生まれ京都育ち。京都の料理屋などで修業を積み、1999年に実家である「蛸八」に入店。当初は先代の父とともにカウンターに立ち、2016年に先代が亡くなり店を継ぐ。誠実な料理や芯のある接客にはファンが多く、若手料理人たちの兄貴的存在でもある。旨い酒&フードに上質のもてなし。京都のナイトシーンを牽引する名バー木屋町二条にある「Bar K6」といえば、京都の酒好きの間では必ず名前が挙がるほどの人気バーだ。京都を代表するバーテンダー・西田稔氏が、1994年に現在の場所で開業。今年3月に25周年を迎えた。ここで初めてカクテルの味を知ったという人も少なくないだろう。この店を推薦した掛谷さんにとっても、若い頃の思い出深い店だったようだ。「初めて行ったのが20代前半の頃。お酒も飲めないのに、ここのバーは凄いぞという噂を聞いて行きました。そこには西田さんがおられ、酒も飲めない僕がいちびって(調子に乗って)、『すんませ~ん、こんな感じの作ってください』って言うと、ほんまにこんな感じのやつが出てきて感動したのを覚えています。カウンターに埋められたライトに照らされたカクテルが最高に綺麗で。そして西田さんのかっこよさ、何よりも西田さんの作ったカクテルのおいしさ最高でした」と、掛谷さんは当時を振り返る。現在の店内は、オーセンティックな2つのバーカウンターとテーブル席がある空間だが、創業当時は違ったと、チーフバーテンダーの澤真吾さんは言う。「掛谷さんが来られたのはまだオープンして間もない時で、このカウンターとテーブル一つだけの小さなお店だったんです。その当時は照明ももっと暗くて、ライティングでカクテルが浮かび上がるような印象を持っていただいていたのだと思います」「当時は、バーやのにお酒が弱いものでフードを頼む方が多かったと思います。フードばかり頼んでたら悪いなと思って、それから行かなくなっちゃって」と、掛谷さん。長く足が遠のいてしまっていたが、今年、20年ぶりに店を訪れたという。「カウンターには西田さんはもう立っておられないですが、僕の大好きな澤さんが立っておられます。澤さんはうちにも来られていて『K6』に行きたいなぁって思ってたんです。澤さんに、『こんな感じのください』と頼むと、やっぱりこんな感じのやつが出てきて、感動しました!」(掛谷さん)実は、澤さんは十数年来「蛸八」に通う常連で、掛谷さんとは顔なじみなのだそうだ。「僕は和食好きで、20代の頃から飲食の仕事の勉強も兼ねて行かせてもらっていました。当時はお父さんが大将でやっておられて。あんな素敵なお店はもうなかなかないと思いますね。3年ほど前、お客様に「蛸八」さんへ連れていっていただいた時に、僕のことを紹介していただいて。掛谷さんとお話しさせていただくようになったのは、それからです。奥様と2人でここに来てくださって、うれしかったですね」(澤さん)シングルモルトを中心としたウイスキーをはじめ、幅広いアイテムを揃える。「ウイスキーを楽しまれる方と、あとカクテルも多いですね。スタンダードなカクテルはもちろん、旬のフルーツを使ったカクテルを目当てに来られる方も非常に多いです」(澤さん)フードの充実ぶりもこの店の魅力の一つ。料理専門のスタッフがおり、チーズや生ハムなどの前菜からハンバーグ、カレーといったメニューまで揃える。「昔ながらの喫茶店の洋食を思い出すような味作りにしています。お酒と一緒に食べていただくものなので、味はしっかりめ。食前酒、お食事とお酒、食後のお酒と、どの時間帯に来ていただいても楽しめるような店づくりを目指しています」(澤さん)。人気はおつまみやサラダ、フィッシュアンドチップスなど。ここで遅い夕食をとる飲食店関係者も多いそうだ。掛谷さんが今回いろいろ頼んだ中で「たまらんおいしかった」と絶賛するメニューの一つが、ブランデーやマディラ酒に漬けた自家製の鶏のレバーパテ。洋酒が香るパテは、なめらかでクリーミーな味わいに胡椒が利いて、お酒がすすむ。「僕も休日、たまに自分の店に来る時はよく頼みます。こういうくせのないレバーパテには、黄金色をした白ワインや、ちょっと甘さのある貴腐ワインなども合います」(澤さん)もう一つのおすすめ、人気のヴェスビオのアラビアータ。フレッシュトマトやベーコン入りの辛いソースがあとを引くおいしさ。ソースがショートパスタに絡んで食べやすいのもいい。「2、3人で来られる場合、会話とお酒を楽しみながらになるので、フォークに刺しておつまみのようにして食べていただけるようにしています」と、澤さん。料理を出す際も、何か一言添えることを心掛けている。「バー空間というのは非日常を求めてきていただいているので、おいしいと思っていただけるように努力することが大事。居心地のよさって、やはりこういう細かいことが一つずつ積み重なって、『あそこで飲んで楽しかったな』ということにつながると思うんです」。料理もお酒もおいしいのは当たり前、あとはいかに居心地良く過ごしてもらうかが大切だと澤さんは言う。これまで優秀なバーテンダーを輩出してきた「K6」だが、その哲学というのは、どういうところにあるのだろう。澤さんは、この店で働くうえで一番大事なのは、人が好きかどうか、次に細かいことにまで気が付けるかどうかだという。「たとえばジントニックを作る時なら、天候やライムの状態、ジンの温度など、100のチェック項目を作るんです。それがクリアできて初めて、お客様の灰皿がいっぱいになっていることや、お客様にお水を出すタイミングなどが察知できる。お客様が何を求めているかを察知できるバーテンダーになってほしいと思います」。澤さん自身、先輩から店のジントニックを受け継いでいくために、試行錯誤を繰り返すうち、お酒以外のことにも気付けるようになったという。お客の細かな表情などから、何を求められているか察知する。掛谷さんのイメージ通りのお酒を作ることも、一流のバーテンダーのそうした心配りが可能にするものなのだ。「K6」で受け継がれるジントニック。「ジントニックはその店の名刺代わりになるものなので、これだけはうちのバーテンダーの共通の味にしています」(澤さん)いつ訪れても心地よい時間を過ごさせてくれるこの店の哲学が、この一杯に詰まっている。撮影 エディオオムラ 文 山本真由美■Bar K6京都市中京区木屋町二条東入る ヴァルズビル2F075-255-500918:00~27:00(金土~29:00)無休(8月に1日休業日あり)http://www.ksix.jp/
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2019.08.16
「旬肴家 秀」―「蛸八」掛谷浩貴さんが通う店
「蛸八」掛谷浩貴さん《プロフィール》京都生まれ京都育ち。京都の料理屋などで修業を積み、1999年に実家である「蛸八」に入店。当初は先代の父とともにカウンターに立ち、2016年に先代が亡くなり店を継ぐ。誠実な料理や芯のある接客にはファンが多く、若手料理人たちの兄貴的存在でもある。産地直送の季節の魚や酒がすすむ一品に、心地よく酔える穴場的居酒屋阪急烏丸駅から四条通を西へ5分ほど歩くと、四条西洞院交差点の手前に、「膏薬図子(こうやくのずし)」と呼ばれる風情ある石畳の路地が出現する。ここは平安時代中期、空也上人の念仏道場があったと伝わる場所。現在は民家が連なる中に飲食店がいくつもできて、知る人ぞ知るスポットとなっている。その一角、路地を入ってすぐの場所に佇む町家の建物が、今回掛谷さんがお薦めする「旬肴家 秀」だ。「旬肴家 秀」は2008年にオープンし、今年で12年目を迎える。町家の空間で、新鮮な魚や一品がリーズナブルに楽しめると、ビジネスマンや観光客に人気の居酒屋だ。「『秀』の店主とは、彼が友人の店で働いていた頃からの知り合いで、オープン当初から通っています。家がお店から近いということもあり、休みの日に家族で伺います」(掛谷さん)店主の伊藤秀諭さんが料理の世界に入ったのは、20歳の時。仕出し屋で修業した後、サントリーのグループ会社の飲食部門に勤務。その後、知人が営む鳥料理店を経て、この店を始めたという。「もともと独立して店をやるつもりでいたので、その準備期間に知り合いの店の手伝いに行かせていただいていたんです。掛谷さんはその方と同級生で、お店に食べに来られたり、また僕も蛸八さんに連れていってもらったりして、そこから仲良くしてもらうようになりました。ですから15、6年のおつきあいになりますね」と、伊藤さん。今もオフに互いの店へ行き合う存在だと話す。昭和初期に建てられた町家を利用した店内。時代を感じる壁や柱が味わい深い。「街中の賑やかすぎる場所は嫌だったので、少し離れたゆっくり落ち着けるようなところをあちこち探していた時に、ここの建物を紹介していただいたんです」(伊藤さん)店の奥にはテーブル席も。掛谷さんは家族で訪れると、大抵ここが定席だという。「今はもう奥さんとお2人が多いですが、昔は掛谷さんのお母さんや、奥さん、お子さんたちと一緒に自転車でご飯を食べに来られて、家族団らんを楽しんでおられましたね」(伊藤さん)掛谷さんのように家族連れの利用も多いそうだ。ここでは舞鶴漁港をはじめ産地から仕入れる魚介を使った本日の魚料理を中心に、人気のポテトサラダや、生麩の揚げ出し、出し巻きといった通年メニューが並ぶ。「何を食べてもおいしいのですが、『あれが食べたい』と思う家庭料理的なものも多く、気持ちが和みます」(掛谷さん)。「女性をターゲットにスタートして、初めはもっとひねったもんを出してたんですが、来ていただく方の年齢層が比較的高くて、エイヒレとか、だんだんメニューがそっち寄りになっていきました」と、伊藤さんは笑う。掛谷さんが気に入ってよく注文するのが、店おすすめの「アツアツお好み焼き風月見つくね」。「鉄板の上にのせて出され、ソースをつけながら熱々をいただきます。ほかの店ではこの料理は見たことがないですね」(掛谷さん)。軟骨入りのつくねをドーナツ状にして焼いたもので、真ん中に卵を落とし、半熟状態に仕上げて供される。トッピングは特製ソースとマヨネーズ、鰹節、刻み海苔と、見た目はまさにお好み焼きだ。これをミニコンロにのせて温かいまま食べられるのもうれしい。「掛谷さんは『つくねバーグ』って呼んではります(笑)」と伊藤さん。鶏ミンチを手ごねし、にんにくや生姜、ごまを加えたあっさりした味わいのつくねと、濃厚な半熟玉子、甘めのソースやマヨネーズが絡み合い、なんともおいしい。また、自慢の季節の魚料理はぜひ味わいたいところ。今の時期なら舞鶴産岩がきやマナカツオ、活け鱧など、その時々の魚を多彩な料理に仕立てる。中でも「天然お造り盛合せ」は、掛谷さんもよく頼むという一品だ。今日の内容はアジ、剣先イカ、本マグロ、信州サーモン、イシガキ鯛などのほか、コバンザメも入る。「コバンザメのように珍しいものがある時は、できるだけ入れるようにしています」と伊藤さん。毎回どんな魚が食べられるかを楽しみにしている常連客も多いそうだ。「うちは高級料理店ではないので出始めのものは無理ですけど、同じものを少しでも安く食べてもらえたらと思っています」掛谷さんは、ほかに「ピリ辛四川風麻婆豆腐」や「レタスチャーハン」もおすすめに挙げている。麻婆豆腐は粗挽きの豚ミンチや豆鼓醤を使った濃厚な味わいに、山椒がピリリとアクセントに。程よい辛さにご飯がすすむ。「最初は辛さ控えめだったんですが、少しずつ辛くなってきました。レタスチャーハンは、オイスター風味の肉入りのあっさりとしたチャーハン。麻婆豆腐と一緒に頼まれる方も多いですね」(伊藤さん)料理を味わってもらうために、日本酒は純米酒のみを扱う。伊藤さんにとって、もてなしでまず重視していることは、一杯目のビールだという。「最初にビールを頼む方が多いので、そのビールがまずいのは最低ですから。最初の一杯で店の印象が変わると思います。ビールの管理やグラスの保存状態も含め、ビールをおいしい状態で出すこと。特にここにはお酒の好きな方が来られるので、どれだけおいしく飲んでもらえるかは大事やと思っています」「ここを誰かに教えたくないという常連さんも中にはおられます。それでは困るんですけどね(笑)」(伊藤さん)どこか懐かしさを覚える気軽な雰囲気の隠れ家で、丁寧に作られたおいしい料理と酒を味わい、会話を楽しむ。掛谷さんにとってそうであるように、多くの常連にとっても、リラックスした時間を過ごせるオアシス的な場となっているのだ。撮影 エディオオムラ 文 山本真由美■旬肴家 秀京都市下京区四条通西洞院東入る新釜座町719075-352-220518:00~24:00(フードLO23:00、ドリンクLO23:30)休 不定休
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2019.07.17
「ryuen」―「食堂おがわ」小川真太郎さんが通う店
「食堂おがわ」小川真太郎さん《プロフィール》福岡県出身。福岡の居酒屋に勤めた後、20代前半に京都へ。仕出し店で約5年間修業を積み、その後先斗町「余志屋」、「祇園さゝ木」で腕を磨いて2009年に独立。2010年に現在の地へ移転。上質でいて手ごろ価格な料理が評判となり、最も予約の取りづらい店の1軒といわれるように。2019年7月には2号店「食堂みやざき」を開店する予定。鉄の魂を持つシェフに、憧れがつのりすぎる「ひと皿ひと皿に魂がこもっている。食べると元気になる――それがryuenさんの料理です」その口調にも熱がこもる、小川さんのあふれんばかりの熱愛店が、烏丸御池のイタリアン「ryuen」だ。オーナーシェフの竜円威人さんがこの地に店を構えたのは、2005年のこと。10年を経て、店内も外観も全面改装。テーブルもカウンターも木のぬくもりにあふれる、ナチュラルな空間となった。「33歳でオープンしてから年々、自分が変化していることを感じていました。料理への向き合い方は変わりませんが、若い頃は薄かったものが、年を経て厚くなったといいますか。進化するとともに「深化」しようと、掘り下げて考えることができるようになりました。そんななか、10年という節目に、新たにアクションを起こしたいと思ったんです。移転も考えたのですが、ここ以上の場所がなくて。そこで全面改装に踏みきりました。私は自分に正直に生きたいと思っています。だからまた10年経ったら、まったく違う形でアクションを起こすかもしれません(笑)」(竜円さん)自身の店の片づけが早めに終わった日、ゆっくり料理とワインを食べたくなった時に、小川さんはryuenを訪ねるという。「竜円さんの料理はぶれません。そしてここでしか食べることのできない唯一無二の料理。そのようにい続けられるのは、流行に流されない鉄の魂を持っていらっしゃるからです。私もそうなりたいと思って料理をしています」(小川さん)ryuenはアラカルトのみ。小川さんの定番は「熊本産 馬肉のカルパッチョ しょうがのバーニャカウダ 霜降り」(税別3000円)だ。竜円さんは馬肉の本場・熊本県まで上質な肉を探しにゆき、おばあさん2人が営んでいる小さな肉屋と巡りあった。「とろける馬肉、上質なオリーブオイル、スライスオニオン。私の好きなものしか載っていません。すりおろしたしょうがが入ったバーニャカウダソースと一緒にいただくと、ワインが進むんです」(小川さん)和の馬刺しをイメージして口にすると、イタリアンの味わいになっていることに驚く。スライスオニオンに甘い醤油、しょうがでいただくのが熊本スタイル。それをアレンジし、馬肉は見事にイタリアンへと昇華した。さらに外せないのが牛肉料理。「いつもryuenさんのメニューの中の、その時一番の牛肉を食べます。つけあわせの野菜も楽しみのひとつなんですよね。野菜は基本的に、京都吉祥院の農家・石割照久さんか、福岡県糸島のシルビオ・カラナンテさんの作る野菜、つまり農家直送のものだけを使ってらっしゃいます。野菜本来の旨みがとても濃いです」(小川さん)写真は「宮崎県産 尾崎牛 肩ロースのポワレ 生わさびのソース」(税別5900円)。絶妙な火入れ加減で、表面は香ばしく、中はふわっとやわらか。肉を食べている充実感は満点なのに、驚くほどさっぱりとしている。すりおろした山芋でトロミのついたソースが、その軽やかさの一端を担っているようだ。「私はバターやオリーブオイルはあまり使わず、和の食材をもちいて味付けすることが多いんです。ここは日本で、私も日本人。だから和の食材を使うのはとても自然なことだと思います。食材の味、水、気候は、イタリアと日本では全く違います。イタリアと同じことをしようとしても無理が出てきてしまう。日本人であると意識することが"美味しい"につながるのではないでしょうか。イタリアやフランスのワインの生産者の方もお見えになるのですが、みなさんこの日本式イタリアンを、とても喜んでくださいます」(竜円さん)オープンは深夜1時まで。小川さんのように閉店後に、お腹を満たすために訪れる料理人がたくさんいるという。竜円さんは修業時代、閉店後に訪れて「ちゃんと手をかけた食事」のできるレストランがあまりにも少ないことから、自分の店はそうありたいと1時まで店を開けることにした。「なので、私がお店を閉めた後に行けるお店は、1~2軒になってしまいました(笑)」(竜円さん)小川さんはそんなryuenならではのエピソードを話してくれた。「ある日、お店にいらっしゃるお客様すべてが、顔見知りの料理人だったことがあります。どなたかがお帰りになるたび、みんな席を立って挨拶しあって。まるで料理人サロンのようで面白かったです」(小川さん)子供のころに観た料理バトル番組「料理の鉄人」で、きびきびと美しい料理をつくり上げる料理人の姿に夢中になったという竜円さん。なかでも憧れの存在だったフレンチの三國清三シェフも、ryuenを訪れるそうだ。「さすがにその時は、私だけでなく、お店中に緊張感が走ります(笑)」(竜円さん)修業時代の常連客に教えてもらい、ryuenに通いだして10年以上。小川さんの竜円さんへの想いは年々強くなっている。「ryuenさんには友人、お客様、スタッフ、そして大事な人とうかがいます。どなたを、どんな時にお連れしても、みなさんに喜んでいただけるんです。誰と行くかはあまり決めていませんが、ひとりで行ったことはありません。憧れの店なので、恥ずかしくて(笑)。ひとりで行く勇気がないんですよ。竜円さんを愛してるんです」(小川さん)その言葉を聞いた竜円さんは「何をおっしゃっているのか(笑)」と笑顔に。「小川さんとプライベートでのお付き合いはありませんが、お店にいらっしゃるとテーブルにうかがってお話をさせていただきます。連日連夜、『食堂おがわ』が満席なのは、料理とともに小川さんの人柄、想い、在り方が、お客様に伝わっているからなのだと思います。シャイな方なので、前面にはそういう姿を出さず、ユーモアで隠してしまわれますが、私はそんなところも含め、"ちゃんとしている"小川さんが大好きです」と竜円さんも小川さんへの愛を語ってくださった。小川さんはイタリアンレストランで少し働いていた時期があり、イタリアンの世界にも憧れがあるという。「70歳、80歳になっても、左手にフォカッチャを持ちながら足を組み、斜め45度に構えて、パスタを食べながらパンをちぎりワインで流し込む。その姿が似合う白髪のおじいさんになりたいと思っております」(小川さん)そんな小川さんの姿を見かけることができるのは、やはりryuenに違いない。撮影 鈴木誠一 文 竹中式子■ryuen京都市中京区三条通室町西入ル衣棚町39075-211-868818:00~翌1:00定休日 木曜
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BLOG料理人がオフに通う店
2019.07.10
「蛸八」―「食堂おがわ」小川慎太郎さんが通う店
「食堂おがわ」小川真太郎さん《プロフィール》福岡県出身。福岡の居酒屋に勤めた後、20代前半に京都へ。仕出し店で約5年間修業を積み、その後先斗町「余志屋」、「祇園さゝ木」で腕を磨いて2009年に独立。2010年に現在の地へ移転。上質でいて手ごろ価格な料理が評判となり、最も予約の取りづらい店の1軒といわれるように。2019年7月には2号店「食堂みやざき」を開店する予定。何気ない料理が何気なく旨い!全国の居酒屋通が「一度は訪ねたい」と熱望する「蛸八」は、呑み助の聖地ともいえる店。京都の街中、蛸薬師新京極にある小体な店には渋い暖簾がかかる。 「食堂おがわ」の小川真太郎さんは「仕事帰りや休みの日の2軒目など、ふらりと覗いて、席が空いていたら必ず一杯飲んでいく」店だという。遅めの時間帯には、小川さんだけでなく、京都の料理人がカウンターに並んでいることも多い。開店は昭和54年。職人気質で名人と言われた先代の掛谷陞さんが、京都の割烹「河しげ」で修業を積んだ後に開いた店だ。割烹とはいうものの、どの料理も安価で、いつしか「日本一の居酒屋」と呼ばれるようになった。「一度は行きたいと思ってましたが、修業中はなかなか行ける店ではなくて...。初めてうかがったのは、余志屋時代。お客さまに連れていっていただきました。何気ない料理ばかりなのに、何を食べても本当に美味しくて。圧倒されました」と小川さん。小川さんが通うようになったのは独立してから。その頃には、他店での修業を終えて実家にもどった浩貴さんもカウンターに立ち、父息子ふたりで店を切り盛りしていた。 「うちの親爺は、あれをこうして、これはこうしてと言葉にして教えてくれる人ではなかったんで、すべて見ておぼえる方式ですよね。いやあ、最初はわけがわからなかった。父のつくったものを陰でそっと味見することもあったし、ぐじ焼きなんかも、ひたすらそばで見てましたね」と2代目の浩貴さんは話す。 実家にもどってから20年。「親爺の時代からの常連さんも多いから、いまだに鱧の骨切りの音がお父さんと違うと言われます」と笑う。淡々とした料理のしみじみとした味わい、あたたかいのにピシッとした店の雰囲気も、ここに憧れる理由だと小川さんは言う。 「品書きは食材の名前だけ。割烹として、ここは崩してはいけないという凛とした姿勢を保っている。浩貴さんの代になってもそれを変えないのがカッコいいですね」と小川さん。「いろんな意味でかなり影響をうけている」そうだ。 「以前、覗いたときに満席で、あきらめようと思ったら、お客さんが席をつめてあげると言ってくださって。そんな空気感がまたいいんですよね」(小川さん) カウンターに座ってまず注文するのは造り。鯛など白身も好きだが、蛸は必ず注文する一品。「質のいい蛸を、最高の状態にゆで上げていらっしゃる。簡単なようでなかなか真似のできない職人技です」(小川さん) 蛸の造り900円~のほか、たいやかつお、夏には鱧と定番の味が品書きに並ぶ。「品書きも親爺の代からまったく変えてません。自分の代になったら違う料理をつくってみたいと思った時期もありましたが、結局、親爺のやっていたことが一番だと気づきました」と浩貴さん。春なら、若竹煮、冬はすっぽん鍋、最後の締めは、鱧丼にすることが多いと小川さん。「鱧の焼き加減も抜群。つぎ足して使っているタレも独特で、ここでしか食べられない味です。若竹煮も、普通はそこまでトロトロにしないだろうと思うほど若芽を煮る。なかには苦手というお客様もいるかもしれないけれど、これが蛸八スタイルと貫く芯の強さというか、そういうところもリスペクトしている部分ですね」(小川さん)「自分の代になって、小川さんのように若い世代の料理人も来てくれるようになった」と嬉しそうに話す掛谷浩貴さん。今も目標は先代の陞さんで、一生かかっても親爺の料理にはたどり着けないかもしれないと謙遜する。 「真ちゃん(小川さん)はすごい料理人だと思いますよ。僕なんかは親爺がつくった店を継いだだけですからね。彼は福岡からでてきて、いろんな店で技を身につけ自分の店を開いた。ただ開いただけじゃなくて、あそこまでの評判の店にした。尊敬しますよ」(浩貴さん) 「イタリアンは男同士で行くと照れてしまうけど、蛸八なら様になる。カッコつけてないカッコよさんがある店なんですよね」と小川さん。料理人として、人としてリスペクトしあえるからこそ、浩貴さんは心をつくしてもてなし、小川さんは居心地がよくなる。そんな関係があればこそ、お互いにより高みを目指せるのだろう。 撮影 竹中稔彦■蛸八京都市中京区蛸薬師通新京極西入ル東側町498075-231-299518時~23時休日曜
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BLOG料理人がオフに通う店
2019.06.19
「炭焼きむら」―「洋食おがた」緒方博行さんが通う店
「洋食おがた」緒方博行さん《プロフィール》熊本県出身。熊本のニュースカイホテル、長崎ハウステンボス内のホテルヨーロッパなどを経て、肉料理で名高い京都の「ビストロ セプト」の料理長をオープンから6年間務める。2015年に独立、「洋食おがた」を開き、ハンバーグやエビフライなどの本格的な洋食に、和のテイストを加えたメニューなどを、カウンターの"洋食割烹"スタイルで提供する。尾崎牛や平井牛、焼津の「サスエ前田魚店」から取り寄せる魚、鹿児島県の「ふくとめ小牧場」の幸福豚など、全国各地の厳選した素材で「大人の洋食」をつくり上げる。1串でビール3杯はいけてしまう、追い続ける京都のソウルフード北大路駅から北大路を通りを東へ15分ほどゆくと、まだ新しい建物に、白いのれんがきりりとかかる。ここ『炭焼きむら』に、緒方さんは足しげく通っている。 「うちには月に6日定休日がありますが、イベントなどで地方へ行くことも多く、京都で晩御飯が食べられる機会は本当に少ないんです。そんななか、月に2回は訪れているのが、きむらさんです」北大路のこちらに移転して4年目、店内はまだ新しさもある。しかし、かつては熊野神社前で64年間、10~11人掛けのカウンターと半屋外のテーブル席という風情ある佇まいの店舗を構え、備長炭で焼きあげた焼き鳥は地元の人から愛されていた。営業時間になると、もくもくと白い煙が空に昇っていたという。 「熊野神社前近くで働いていた時、通りすがりにその煙を見て、いったいどんな店なんだろう?と興味を持ったんです。うちのお客様から、老舗の焼き鳥屋さんだと教えていただき、ひとりで訪ねたのが始まりです」「当時のカウンターは15センチくらいの奥行で、すぐ目の前に焼き台がありました。大将の鼻が私の顔にくっつきそうなほどの近さ(笑)。焼きあがったらすぐに目の前に置かれ、熱々を頬ばりながらビールで流し込む!たまりませんでしたね。今ではカウンターの奥行も広くなりましたが、その臨場感は健在です」緒方さんには、きむらでの食べる順番のセオリーがあるという。 「まずメニューの一番最初にあるタンから順番に、一品料理以外の焼き物をひととおり。最後のイカまで食べ終えたら、2段目のトリに戻ってまた順番に。昔は二巡できたんですけど、今では一巡後はプラス3~4串。トリカワかセセリあたりで終了です(笑)」 若大将の木村龍さんも証言する。 「緒方さんとお仲間の4人くらいでいらっしゃると、みなさんは一巡するとお腹いっぱいでダウンされるんですが、緒方さんは必ず二巡目に入られます(笑)」(木村さん)緒方さんが一番最初に口にするのがタン(税別300円)。数量限定なので予約必須。みなさんに行き渡るようにと、緒方さんも二巡目にはタンは含まないとか。やわらかさのなかにほどよい弾力があり、なんとも噛み心地がいい。レバー(税抜き300円)。まろやかな味わいで、口の中に旨みがふわりと広がる。「きむらさんの肉は新鮮で質がいいんです。そして大きいんですよね」と緒方さんを笑顔にする肉は、「毎日仕入れて、毎日売り切る」ことを心がけているそう。 「値上げをするたびにお客様に申し訳なくて、肉がだんだん大きくなりました(笑)。でも、今お出ししているサイズが、美味しく焼ける限界ですね」と、大将の木村晴雄さんは言う。きむらではタレか塩かを選べるが、おまかせも可。緒方さんは基本おまかせ。トリ(1本税別240円)を頼むと、GSで出てくる。GS?それはいったい――? 「カレー粉と、先代から受け継がれている自家製ニンニクタレで味付けたものです。ピリ辛のカレーのスパイスとニンニクの風味が、噛みしめるとジュワッと染みだす肉汁と見事にからみあいます。これがめちゃくちゃビールと合うんです!GSのトリ1本で生ビール3杯はいけますね!」(緒方さん) GSとは「ゴールデン(GOLDEN)・スペシャル(SPECIAL)」の略。常連客が「ゴールデン・スペシャルで」と呼ぶうちに、いつの間にか定着したそうだ。自家製のニンニクタレは、焼き鳥のタレに細かく刻んだニンニクを漬けこんでいる。ニンニクのパンチが効いた、キレのある味わいだ。各テーブルに置かれ、おかわり自由のつきだしのキャベツや、焼き鳥に自由にかけることができる。緒方さんはキャベツにこのタレをたっぷりかけながら、焼き鳥の焼きあがりを待つのが至福の時だとか。大将の木村晴雄さん(写真右)、女将さんの悦子さんが焼き台に立ち、若大将の龍さん(写真左)はフロア担当。 「緒方さんは黙々と召し上がって、あまり話しかけていらっしゃることはありません。こちらの状況を見て、空気を読んでくださってるんです。それは飲食業の方特有の気遣いですね。そしてとてもお酒がお強い!焼酎の伊佐美のお湯割りを5~6杯飲まれた後に、"最後に濃い目で"と頼まれたことも(笑)。それでも顔色ひとつ変わらず、しっかりとした足取りで帰っていかれます」(龍さん) さすがは九州・熊本県出身の緒方さんらしいエピソードだ。「きむらさんのお店では、自分が料理人であることを忘れ、シンプルにすごい!美味しい!と思わせられます。京都に来てから通い続けている店って、実は4軒ほどなんです。その1軒がきむらさんです」(緒方さん) 熊野神社前の地元のソウルフードが、移転を経て、今では北大路のソウルフードにもなっている。しかしどこにあろうとも、緒方さんにとって、一途に思い続ける"京都"のソウルフード、それがきむらの味なのだ。 撮影 鈴木誠一 文 竹中式子■炭焼きむら京都市左京区下鴨西本町456075-555-326717:30~23:00※串がなくなり次第終了休 日曜、祝日https://www.sumiyaki-kimura.com/
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