料理人がオフに通う店
「旨い店は料理人に聞け!」食材を見る目や鋭い舌をもつ料理人が選ぶ店なら、決して外れがないことでしょう。 京都を代表する料理人がオフの日に通う店、心から薦めたいと思う店とは?
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2020.02.12
「酒陶 桺野」―「にし野」西野顕人さんが通う店
「にし野」西野顕人さん《プロフィール》京都市出身。東京で焼き鳥に魅了され、東京、横浜と8年間修業。2013年、独立のため京都に戻り、京都市中央卸売市場の鶏肉卸の加工場で働きながら、肉の解体や目利きを学ぶ。2014年に焼き鳥専門店「にし野」をオープン。趣向を凝らした焼き鳥のコースが評判を呼んでいる。オーナーの美学が詰まった一杯を旨い酒肴と。究極のシンプルが心地良い隠れ家的バー店選びはまず人ありきで、大好きな人の仕事に触れに行く感じだという西野さん。今回お勧めの「酒陶 桺野」も、そんな一軒だ。 烏丸三条交差点から三条通を西へ。壁の看板がなければ見過ごしそうなこの店は、京都のバー好きなら誰もが知る人気店。店主の柳野浩成さんが出す一杯を求め、さまざまな層が足を運ぶ。「土壁にレンガを使った内装、器も、美しくてカッコいい。お酒と一緒に料理も楽しめるんですが、魚も野菜も季節のものがちゃんとあることに驚きます」(西野さん) 店は22年前に開業。2008年に今の場所に移転した。レンガの壁が続く入口から中に入ると、土壁と一輪挿しが茶室を思わせる長いカウンター、その奥には庭を望むテーブル席が。自然の素材の風合いを生かし、余計な装飾を削ぎ落とした空間が広がる。「大勢のときはテーブルを利用しますが、カウンターに座ることが多いですね。普通、カウンターの後ろにボトルが並んでいて、照明に照らされているというのがバーの醍醐味としてあると思うんですけど、それとまったく逆で。お酒のボトルもグラスも一つも見せず、カクテルを作る手元だけが見えている。その表現の仕方もすごいなと思います」(西野さん) バーなのに和食を味わえるのも魅力。かつお、ぐじなどの魚に、蕪蒸し、菊菜ひたしなど、その時々の食材を使った一品が品書きに並ぶ。中でも魚料理のおいしさは出色だ。「アテに魚が、それも尋常じゃなく質、状態、鮮度のいいお造りが出てきます。何かいただくときは旬の魚をお願いします」(西野さん)写真はいかのてっぱい900円(税込・以下同)。菜の花やくわいなどを盛った季節の八寸900円。「京都で昔から当たり前に使われていた旬のお魚や野菜の定番料理を出す店が減って、普通に食べられなくなってきている。だから、うちはお酒のアテとしてそういうオーソドックスできっちりとした料理を出せたらいいなと思っています」と、柳野さん。しっかり食事をしたいなら、コースを予約することも可能だ。 カクテルやウィスキーなどの定番に加え、少数精鋭のワインも定評がある。「かんぱちに赤ワインなどを合わせて楽しませてくれるのも、柳野さん流で面白いです」(西野さん)「本当においしいワインって懐が深いし、広い。おいしい魚とおいしい酒なんて、そうそう喧嘩しないはずで。だから好きなん食べて好きなん飲んでくださいと、いつも言ってるんです」(柳野さん)西野さんとこの店との出合いは、ここで開かれたワインの勉強会だったという。「取引している酒屋さんが柳野さんと同じで、2、3年前にその方に連れて行っていただいたんです。数本のワインを開けて、それぞれどういう状態か、姿かたちを皆で感じて、意見し合う会でした。一般的なワイン会と違って、ブドウの品種や土壌の話題は出てこず、感じてどうするかという話をしたんです。『これは明るいワインやな』とか『もっといいはず』『コルクおかしいなあ』というふうに、教科書に書いてあるような、難しい単語は出てこない。でも、ワインをものとして見るだけじゃなく、こういう感じ方もあるんだと、不思議と腑に落ちたんです」と西野さん。勉強会に2度ほど参加したあと、お客として店を訪れたそうだ。ちなみに、この勉強会はワインのサービス向上を趣旨として同業者限定で行っているものだと柳野さんは言う。「お客さんにいかにワインを一番おいしい状態で楽しんでもらうかを考える勉強会。おいしいワインでも瓶差がすごくあるし、グラスの形状や飲み方ひとつで味が左右されるので、提供する側はそれをもっと知ろうと。同じワインでも日によって違うので、どんどん飲んでいって意見を出し合う。それを西野くんは面白がってくれたんでしょうね」西野さんは、やはりこの店のシンプルさに惹かれるという。「すごくシンプルなんですけど、それは膨大な知識や経験から出てきているものだという感じがします」その言葉に「そこに気づいてくれているならうれしいですね。例えばジントニックでも、普通の優しいジントニックやった、で終わっちゃうこともあるかもしれない」と柳野さん。「おいしいものを出そうというものすごい情熱が、ワインをグラスに注ぐ所作一つとっても伝わってくる。同じワインを、よりおいしくさせる技術はすごいと思います」(西野さん)柳野さんは、ワインはグラスの底を叩いて振動を与え、香りを確認してから出すという。「ワインのおいしさのスイートスポットはとても狭いので、それに合わせるために、こうして温度を1、2度上げたりしています。それで準備ができたら、お出しする。本来サービスとしてはしないことですが、そのワイン本来の姿に一番近づけることが僕たちの仕事なので」グラスワイン1000円~、カクテル1000円~。写真は、昔から常連客に人気のジンリッキー。店のシンプルさを象徴する一杯。西野さんら常連から「本当においしい酒を出してもらえる」と絶大な支持を集める柳野さん。最後に、もてなしで大事にしていることを伺った。「よく言っているのは、お客さんが何を期待して来ているのかを察知しなさいということ。皆求めていることがバラバラなので、できるだけ早く判断する。そこがバーテンダーにとって一番大切なことだと思っています」■酒陶 桺野京都市中京区三条通新町西入075-253-431018時~翌2時 ※食事のコースは前日までに要予約休 木
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2020.01.27
「にし野」―「隆兵そば」中村隆兵さんが通う店
「隆兵そば」中村隆兵さん《プロフィール》京都市出身。昭和51年、京菓子の「中村軒」4代目の次男として生まれる。大学卒業後、東京で4年ほど料理の修業をした後、小浜の禅寺に行き原田老師に師事。その後、丹波篠山の「ろあん松田」の大将と出会い、蕎麦作りを学ぶ。平成16年に「隆兵そば」を開業。良質の地下水を用いて仕立てる蕎麦と川魚料理のコースが人気を集めている。店主入魂の焼鳥を味わい尽くす充実のおまかせコースを、豊富な燗酒とともに阪急西院駅近くの住宅街に、おいしい焼鳥をコースで食べさせる「にし野」がある。2014年にオープン。中心部から離れた場所にありながら、今や全国からファンが訪れる人気店だ。中村さんとこの店の出会いは数年前だという。「仲のいい杜氏さんと一緒に行ったんですけど、ご主人の西野さんと同い年で、しかも誕生日まで同じだとわかり、盛り上がりました。コースで出されるのが珍しいしおいしかったので、それから通っています」と、中村さん。対する店主の西野顕人さんも、「隆兵さんは職人さんとご一緒に来ていただくことが多いです。同い年ですけど、料理人としては先輩だし、学ぶことだらけです。とにかくぶれないすごい人。とても尊敬しています」と語る。店舗は新聞販売所の建物を改装。厨房を囲むようにカウンターが設けられている。メニューは7000~8000円のコースのみで、決まった時間に一斉に始めるスタイルだ。「店のわがままになるのかもしれませんが、コースにして鶏を一羽丸ごと毎日使い切るほうが、いい鶏を仕入れることができるし、新鮮なものを新鮮なうちに使えるので」と、西野さんは説明する。現在は、目利きの業者から京都の丹波黒鶏と和歌山御坊の宮子姫地鶏を仕入れ、部位により使い分けている。「仕事に対してすごく真摯で、真剣にやられているところが気に入ってます。焼く技術が尋常じゃないというか、ピンポイントで狙って焼くのがすごい」(中村さん) 中村さんが「焼きのスペシャリスト」と絶賛する西野さんは、東京の焼鳥店で約10年間修業した後、地元の京都に戻って独立。開業までの1年間、勉強のために鶏肉業者で働いていたそうだが、そのことからも焼鳥に対する熱意が窺える。「京都で扱われている鶏のことを勉強したいと思って、中央卸売市場の鶏屋さんで鶏を解体する仕事をやらせてもらうことにしたんです。その仕事の傍ら、物件探しをしていました。その仕事が楽しくて、3カ月の予定が結局1年働いていました」と、西野さん。炭は土佐の備長炭。特に良質の炭を作る生産者から仕入れている。「生産者さんの窯にも何度か行って、いろいろ教えてもらっています」(西野さん) 「鶏のいろいろな部位が出てくるんですが、間に野菜をはさみながら、シメに親子丼やおにぎりが出てきたりします。塩でシンプルに食べるものもあれば、ソースを使ってアレンジするものもあって、とにかく飽きさせないですね」(中村さん)コースの内容はその時々の仕入れで変わり、野菜やスープ、漬物などを入れて15品ほど。焼鳥は手羽先、レバー、もも肉、つくね、鴨肉、ささ身などがお決まりで出されたあと、その他の部位をお客に選んでもらうという流れだ。レバーに赤酢を一塗りして出したり、鶏のたたきに3種をブレンドした酢、塩、柑橘を合わせたりと、さまざまな趣向でお客を楽しませる。中村さんのお気に入りは、「手羽先」。「皮がパリッとしてジャストの焦げ目がついているし、焼きのレベルが全然違う。手羽先って普通の焼鳥より形がいびつなんですが、どの角度から見ても焼きが完璧で、すごく感動しました」(中村さん)「うれしいですね。隆兵さんもシンプルな料理をされてるので、そういう点で料理について感じている部分は近い気がします」(西野さん)絶妙に火入れされた手羽先は、脂に対する塩加減も抜群で、実においしい。「焼鳥って、脂に対する塩のバランスだけなので。脂の甘さを焼き加減でコントロールするのが焼鳥やと思っています」と西野さん。中村さんのおすすめは、高知産を使った「鴨肉」。「シンプルだけど深さが堪能できる手羽先に対して、鴨肉は焼いてから休ませたり、ソースや果物を添えたりされている。焼き加減も絶妙で、季節ごとに違う食べ方ができておすすめです」(中村さん)塊で焼いて旨味を閉じ込めた鴨肉に、赤酢を煮詰めたソースと焼いた巨峰を添えて。口の中でやわらかい鴨肉がソースや巨峰の甘味と混じりあい、実に濃厚で豊かな味わいに。「ブドウと合わせて味が成立するよう鴨の塩は控えめにしています。果物と合わせることによってまた違った鴨の魅力が出ると思っています」(西野さん) ここでは日本酒やワインなどの酒類も充実。特に力を入れているのが燗酒だ。広島の「竹鶴」を中心に18銘柄ほどを豊富にそろえる。「僕は昔ながらの作り方をしているお酒が好きで。焼鳥を食べるときに燗酒を飲むと、口内で脂の味が化学変化を起こして、焼鳥の余韻が続くような感じになる。そこはお燗ならではかなと思います」と、西野さん。「カウンターで話しながら食べられるのが何よりのサービスですし、奥さんもよう気が付かれる方で、気持ちがいいお店」と、中村さん。一緒に店を切り盛りする妻の和佳さんのサポートも欠かせない。「営業中はずっと焼いているので、お客さんへの対応は大体嫁さんがしてくれます。作業が落ち着くとお話しできるんですが、そのときお客さんが話したいことがあるかという問題もあります」と西野さんは笑う。「まだまだ勉強することがあります」と、中村さんと同様、ストイックに料理に打ち込む西野さん。どの作業が楽しいかという問いに、こう答えた。「焼くことはもちろん楽しいですが、仕込みをして料理がお客さんに届いて、お客さんがおいしそうに頷いている姿を見るのがうれしいし、一番楽しいですね」■にし野京都市右京区西院北矢掛町36-16075-322-3184平日19時~ 土曜18時~・20時30分~の2部制 ※完全予約制休 水、日、祝日https://nishino-kyoto.com/
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2020.01.22
「青柳」―「隆兵そば」中村隆兵さんが通う店
「隆兵そば」中村隆兵さん《プロフィール》京都市出身。昭和51年、京菓子の「中村軒」4代目の次男として生まれる。大学卒業後、東京で4年ほど料理の修業をした後、小浜の禅寺に行き原田老師に師事。その後、丹波篠山の「ろあん松田」の大将と出会い、蕎麦作りを学ぶ。平成16年に「隆兵そば」を開業。良質の地下水を用いて仕立てる蕎麦と川魚料理のコースが人気を集めている。これまでにない魚のおいしさと出合う幸せを、おまかせコースで心ゆくまで「いろいろな料理屋さんでおいしい魚を食べますけど、ここの魚料理は群を抜いていておいしいです。お値段もそれなりにしますが、その値打ちは十分あります」そう中村さんが絶賛するのが、知恩院に程近い東山を望む白川沿いに立つ「青柳」だ。完全予約制の魚料理専門店で、店主の青柳旭紘(あきひろ)さんが、旬の魚の持ち味を存分に引き出した料理を提供。ここに来ればおいしい魚が食べられると、舌の肥えた人々が通う。店内は、カウンター6席のシンプルな空間。メニューはおまかせコースのみで、一斉に食事を始めるスタイルをとっている。 「以前は違う場所で営業されていて、今年3月に移転されたんです。最初に行ったのは1年前になるのかな。仲良くしている魚屋さんが青柳さんに魚を卸していて。すごくいい魚を入れている店があるから、と誘われて一緒に行きました。青柳さんは歳が一つ下で、僕の大学時代の後輩と同級生ということもあって親しくなり、通うようになりました。まだ新しいお店には行けていませんが、近々行っていろいろ話したいなと思っています」(中村さん)中村さんのことは以前から同級生から聞いていたという青柳さん。知り合ってから中村さんの店へ行くこともあり、いろいろ刺激を受けているという。「隆兵さんを見ていると、まだまだ僕もやらなあかんことがあるな、止まってられへんなと思います。だから隆兵さんがうちに来られるときは緊張しますね(笑)」 青柳さんはさまざまなジャンルの料理を経験した後、12年前に独立。魚料理専門にしたのは、時季や産地など、条件によって変わる魚を扱うことに面白さを感じ、魚料理を極めようと思い至ったからだという。「魚には旬があるし、また鮮度が命のものもあれば、熟成でおいしくなるものもある。天候にも左右されて、常に同じ質のものが入るとは限らない。そういう意味で難しいけれど、やっていて面白いし、おいしい魚に当たるとうれしくなります。お客さんにもこういうおいしい魚を味わってもらえたら、幸せだなと思って」そこから魚屋とのいい出会いもあり、試行錯誤を重ねながら、魚に関するさまざまな知識や経験を深めていったという青柳さん。熟成の技術も、熟成が注目される前から取り入れてきたことだ。14~15種類の魚介が使われるコースは、造りや焼き物をはじめ、旬の魚介を主体に、季節野菜を盛り込んだ全7品で構成され、最後ににぎりなどの寿司が登場する。「隆兵さんが蕎麦を追求して川魚しか使わないのと一緒で、うちも魚を引き立たせるため以外、肉は使いません。魚をもっとおいしく食べてもらえるよう、最近は野菜と合わせたり、日本酒やワインと合わせたりもしています」(青柳さん)「素材の持つ個性を表現するのが僕の仕事」という青柳さん。その時々で内容が変わるコースは、魚の個性を見極めた青柳さんならではの工夫が光る。「例えばお造りでもそのまま出すときもあれば、野菜と和えたりするときもあるし、焼き物も白みそを合わせたりと、その魚に合った出し方をされていて、魚への深い愛を感じます。それも余計なことはしていなくて、新しいんだけど落ち着いてみえる。これは意外と難しくて、魚のことをよほど考えていないとできないと思います」(中村さん) 写真はおすすめのお造りの一例で、フグの皮や身などのいろいろな部位と、クレソン、ラディッシュなどの野菜、油揚げなどを、ごま酢であっさり味付けた「フグのサラダ仕立て」。フグの食感と旨味を野菜のシャキシャキ感とともに堪能できる年明けの定番メニューだ。「フグって噛めば噛むほど味が出てくるので、最初に野菜でインパクトを与えて、最終的にフグの旨味を感じてもらうようにしています」(青柳さん)焼き物も中村さんおすすめの品。写真は「キンキの炭火焼 田楽味噌」。脂がのったキンキは、皮の香ばしさ、やわらかな身の芳醇な味わいが白みそとマッチして実に美味。「クリーミーな身質のキンキと白みそが意外と合っていて、脂を中和させてくれます」(青柳さん)中村さんは、青柳さんのことを魚料理の芸術家のようだと話す。その言葉に、「いやいや、僕なんかまだまだです(笑)。隆兵さんのように個性があって、すごい考え方を持っておられる方がたくさんいらっしゃるので、そういう考え方を新しい料理につなげていけたら」と、青柳さん。刺激を受けつつ、柔軟に、更なるおいしさを追求していく。 「日本酒やワインもいろんな種類があり、料理に合わせてお酒を選んでもらえます」と、中村さん。日本酒は大吟醸のみを扱い、常時10種類ほどが揃う。また、器もここでの楽しみの一つ。「器も本当にいいものを持っておられて、そういうところにも感動します」(中村さん)ガラスはラリックやバカラなどのアンティーク、陶磁器や漆器などは現代作家のものを使用。酒器も酒の量や味わいなどに合わせて、青柳さんがセレクト。器も酒も魚をおいしく食べてもらうための大切な要素だ。店内からは東山の景色を楽しめる。「一人で料理を作っているため完璧な接客はできませんが、その分おいしい料理をしっかり出す、お客さんにストレスなく過ごしてもらう、ということは大事にしています」と、青柳さん。予算は酒代を入れて3万円程度。渾身の魚料理やそれを引き立てる美酒とともに過ごすひとときを満喫したい。■青柳京都市東山区古門前通大和大路東入4丁目石橋町306-718時~19時30分(入店)※完全予約制(予約はHPから)休 不定休http://kyoto-aoyagi.jp/
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2019.12.25
「青いけ」―「卯今」小林健一さんが通う店
「卯今」小林健一さん《プロフィール》京都市出身。専門学校時代に知り合った松尾の人気居酒屋「龍馬」で、居酒屋の仕事に興味を持ち、2号店立ち上げを機に同グループに入社。2号店の閉店により本店に移り、店長に。桂駅東口店、西院店の店長を務めたあと、2010年に「卯今」をオープン。地元客から観光客、プロの料理人まで幅広い支持を集める。食べることが好きで、勉強も兼ねて食べ歩きに出かけることもしばしば。旬の京野菜を中心に、素材の魅力を引き出した五感に響くフレンチを、極上の空間で地下鉄丸太町駅から竹屋町通を東へ進むと、左手に見えてくる町家の建物。割烹とも見紛うこの店が、小林さんが通うフランス料理店「青いけ」だ。オーナーシェフ・青池啓行さんが野菜をふんだんに使ったコースを提供し、女性を中心に高い支持を集める。2014年にオープンし、すでにミシュランの星も獲得している実力店だ。「4、5年前から通っていて、記念日などに夫婦で来ています。とにかくお店の造りがすごい。入口が和食屋さんのようで、中は立派な8席ぐらいのカウンターがあります。2階もあるのですが、僕はカウンターで楽しんでいます」(小林さん)町家をリノベーションした店舗は、数寄屋建築で名高い中村外二工務店・中村義明氏がプロデュースしたもの。店内は精巧な欅のパッチワークカウンター、デンマークの家具、名画などが配され、モダンで洗練された空間になっている。青池さんは、「インテリアからカトラリーまですべて"ほんまもん"を使いたいと思いました」と話す。シャガール、小野竹喬などの作品が飾られた贅沢な空間。モザイク模様が美しいエルコーレ・モレッティの皿やシャガールの絵皿など、見事な器もお楽しみ。青池さんは京都ホテル出身。ホテル時代、現「レストラン スポンタネ」の谷岡シェフの下でフランス料理を学んだ。「シェフは野菜を中心に料理を考えられる方で、僕も大分影響を受けました。それに、僕は野菜農家の友人も多く、京都の野菜を中心に地産地消をしたかったので、野菜をベースにして、それに肉や魚などのタンパク質をつけていくというコース作りをしました」と青池さん。バターやクリームも極力控え、素材の味がわかる料理を目指したという。大原や鷹峯などでとれた野菜をはじめ、吟味した食材で手間暇かけて作られる月替わりのコースは、ランチ3800円~、ディナー6500円~。12月は聖護院蕪などの根菜に、蟹や雲子、ジビエなどが登場予定だ。「大体お昼に行って、夜のメニューをお願いします。あっさりとしたフレンチで、全部の料理がおいしいです」(小林さん)小林さんとこの店との出合いは、もともと青池さんが「卯今」のお客だったことがきっかけだ。「最初は一人で来られてぱっと食べて帰る、という感じだったんですが、共通の常連さんがいることがわかり、話をするようになって。それから僕もお店に行かせてもらうようになりました」と、小林さん。青池さんも、「小林くんは季節ごとに来てくれています。卯今さんは夜中にあんなおいしいものを出しているのがすごくいいなと思います。週1のペースで行って、彼やお客で来ている料理人さんと料理談義をしながら楽しんでいます」と話す。年齢も一歳違いで、互いのことを「信楽焼の狸」と茶化し合うほど気心の知れた仲だという。8品が付くディナーコースでは、約60種類もの野菜を使用。その中で小林さんがおすすめに挙げるのが、2日間かけて作るスペシャリテの「季節野菜のプレッセ」で、25種類の野菜が入っているという。「見た目がすごくきれいで感動します。一個一個の野菜に仕込みがされていて、甘味、辛味、苦味などいろいろな味が楽しめる一皿です」(小林さん)旬の野菜を押し固めたプレッセは美しい寄木細工のようで、食べるのが惜しくなるほど。各野菜の旨味が十分に引き出され、これ一つでかなり満足感が得られる。「ナスを真空調理にしたり、大根を甘酢に漬けたり、シイタケを揚げ焼きしたりと、煮る、焼く、蒸す、揚げるという調理の工程がここに凝縮されています」と、青池さん。この大きなサイズはおいしい野菜の数が揃わないと作られないそうで、どうしても食べたい場合は1週間以上前に予約するのがおすすめだ。毎回テーマを決めて趣向が凝らされる季節のスープも、小林さんが楽しみにしている一つ。「個人的に好きなのは、新じゃがの頃に出るジャガイモのスープ。ビジソワーズの下にメロンのジュレが入っていて、ビシソワーズだけでもおいしいんですが、ジュレと一緒に食べるとまた違う味が楽しめます」(小林さん)写真は石焼き芋をイメージしたサツマイモのスープで、「石焼き芋を食べたときの香ばしい匂いなどを表現するのに、サツマイモを皮ごと使おうと考えました」と、青池さん。里浦産サツマイモのポタージュに黒ゴマのピューレ、一保堂のほうじ茶で香りづけした寒天をトッピング。口の中で焼き芋のようなホクホク感や風味を楽しめる、存在感ある一品だ。「青池さんは、しめさばの作り方や鱧の処理の仕方など、料理についてよく聞いてこられますし、本当に勉強熱心やと思います」という小林さんの言葉に、「おいしいものを作って出すのは料理人共通のことですが、プロセスや技法はジャンルによって違う。料理は一生勉強なので、疑問に思ったことや知らないことは全部聞き、取り入れられるところは取り入れています」と青池さん。気さくで、話好きの青池さん。小林さんのようにその人柄に惹かれて通う人も多い。「レストランは、休息して走る"レスト(rest)・ラン(run)"。料理だけでなく、僕らとの会話やお客様同士の会話、皿や絵画、空間など、トータルで楽しく過ごしていただくところだと思うので、お金をいただく以上の価値があるかどうか常に考えながらやっています」その心づくしの食事のひと時を満喫したい。撮影 竹中稔彦 文 山本真由美■青いけ京都市中京区竹屋町通高倉西入塀之内町63112時~13時30分(LO)、18時~22時(LO20時30分)※要予約休 月http://aoike-kyoto.com/
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2019.12.13
「隆兵そば」―「卯今」小林健一さんが通う店
「卯今」小林健一さん《プロフィール》京都市出身。専門学校時代に知り合った松尾の人気居酒屋「龍馬」で、居酒屋の仕事に興味を持ち、2号店立ち上げを機に同グループに入社。2号店の閉店により本店に移り、店長に。桂駅東口店、西院店の店長を務めたあと、2010年に「卯今」をオープン。地元客から観光客、プロの料理人まで幅広い支持を集める。食べることが好きで、勉強も兼ねて食べ歩きに出かけることもしばしば。遠方から蕎麦好きが通う住宅街の人気店。井戸水で丁寧に作られる蕎麦や川魚料理を桂小橋の畔、桂離宮に近い閑静な住宅地の一角。ここに、小林さんおすすめの「隆兵そば」はある。店主の中村隆兵さんは、明治創業の和菓子店「中村軒」の次男で、「中村軒」の裏手に2004年7月に店をオープン。蕎麦や川魚料理を中心に季節の料理をコースで提供し、グルメな人々からも高い評価を得ている。「こんな住宅街の裏の細々としたところに、こんなすごいお店があるのかと、驚きました」(小林さん)小林さんとこの店との出会いは、オープン間もなくの頃だという。「まだ僕が桂で店長をしていた頃、近くにおいしい蕎麦屋があると聞いて寄せてもらったのが最初です。すごく感じのいい店主で、料理もとても満足しました。居酒屋の店長をしているという話をしたら、うちの店にも来てくれて。それからのおつきあいです」と、当時を振り返る。中村さんが小林さんの一つ年下ということもあり、今も互いの店に行き合ったり、一緒に飲みに行ったりする仲だという。「小林さんは大体昼に家族で来られます。お店の方や他の店の料理人さんを連れて来てくれることもありますね」と、中村さん。有機栽培や無農薬、減農薬の野菜など、地元や近郊の食材を主体にしたメニューは、昼はセット3100円から、予約制の夜はおまかせが8000円から楽しめる。小林さんは、訪れるときは大抵「お蕎麦充実コース」(5900円)を頼むそうだ。「焙煎の粗挽き蕎麦、盛り蕎麦、季節で変わる温かい蕎麦の3種の蕎麦がついていて、その間にいろいろな料理が出るんですが、トータルバランスを考えてコースを作られているなと。僕の中ではここは蕎麦屋というより、蕎麦が出る料理屋さんというイメージ。和食屋の中でも好きなお店の一つです」と、小林さん。中村さんは、東京の和食店などで4年間修業後、京都へ戻り、丹波篠山の名店「ろあん松田」で蕎麦作りを学んだ。「京都で店をやろうとなったときに、何か他の店と違う特徴を出したくて。それでコース料理にお蕎麦を入れようと思ったんです。知人の陶芸家の先生にお店を紹介してもらい、そこの大将に蕎麦打ちやつゆの作り方を教えてもらいました」(中村さん)桂という中心から離れた場所にあるため、開店当初はお客が来ず苦労したそうだが、店をやるなら生まれ育ったこの地でと決めていたという。その大きな理由が桂離宮周辺を流れる良質な井戸水。ここでは井戸の水脈を3本も掘って使用しているそうだ。「ここの井戸水は愛宕山系の伏流水。僕はこの水で育っているので、よその水だと感覚が狂うやろし、お蕎麦やだしはまともに水の影響を受けるので、水のことを考えたら絶対ここやなと。究極の地産地消のかたちはそこの水を使うことやと思うんです」(中村さん)蕎麦と共にこの豊富な井戸水が欠かせないのが、川魚料理だ。「せっかくいい水が湧いているんだから」と、5年ほど前から海の魚を川魚に切り替えたという。潤沢な井戸水を利用し、これまでにないやり方で仕立てる中村さんの川魚料理は、泥臭いという川魚のイメージを大きく変えるものだ。「定番のうなぎの飯蒸しに、鯉、びわます、もろこ、鮎など季節によっていろいろ楽しめます。特に鯉は、井戸水から生簀をしつらえて、そこでしばらく置くんです。締め方も血抜きや神経締めは川魚であまり聞かないんですが、それをしているのでまったく臭みがない。ほかにも今流行りの熟成など、すごく面白いことをしていますね」と、小林さん。写真は小林さんおすすめの鯉の刺身。4日間かけ流しの生簀で泳がせた鯉は、臭みが全然なく、凝縮した旨味が感じられる。鯉は生のほか昆布締めにすることも。十割の盛りそばも小林さんおすすめの一つ。そば粉は滋賀など近郊のものが主に使われる。「蕎麦とつゆのバランスがいい。コクがありながら蕎麦の香りを損なわないように作られていると思います。昔はそれほど蕎麦が好きではなかったんですけど、こちらのお蕎麦を食べてから興味を持つようになりました」と、小林さんは言う。中村さんが「一番の肝」と重視するつゆは、本枯れ節を大量に使い、香りだけを飛ばして旨味だけを凝縮させたもの。昆布は蕎麦湯でほんのり香る程度にごく少量使われる。きりっとシャープな味わいのこのつゆと合わせて蕎麦が完成する。中村さんが蕎麦を打つ際に大切にしているのは、一つひとつ丁寧に打つということ。これはサービスを含めすべてのことに通じることでもある。「スタッフには、とにかく一つひとつ丁寧にということは言っています。冷蔵庫を乱暴に閉めないとか。ざるならざるを作っている人がいるわけで、雑に扱えばその人に申し訳ない。そうしたところまで考えずにいい加減にすると、それが料理の味に出てしまうし、お客さんにも伝わってしまうので」(中村さん)14席ある店内は、木の風合いが温かい落ち着いた空間。小林さんは、料理を「松の司」などの日本酒とともにじっくり堪能し、時には中村さんとの会話を楽しむという。「彼の店に行くと、いつもいろいろな刺激を受けます。また頑張ろうという気持ちにさせてくれる店ですね」(小林さん)撮影 竹中稔彦 文 山本真由美■隆兵そば京都市西京区桂浅原町157075-393-713011時~14時(LO)、17時30分~19時(入店)※夜は要予約休 水、毎月18日、火不定休(祝日は営業)https://ryuhei-soba.jp/
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2019.11.29
「すし甚」―「点邑」小林紀之さんが通う店
「点邑」小林紀之さん《プロフィール》 東京都出身。服部学園で料理を学んだのち、京都で和食の世界へ入り、老舗旅館「俵屋」へ。「俵屋」プロデュースの天ぷら専門店「点邑」のオープンより同店料理長を務め、腕を振るっている。熟練の技による繊細な季節の一品や天ぷらは、全国に多くのファンを獲得している。季節の一品や握りをつまみ、会話に興じる至福のひと時。長く愛され続ける洛北の人気店銀閣寺道バス停から、徒歩すぐ。今出川通沿いに見えてくるモダンな建物が、地元で人気の寿司屋「すし甚」だ。小林さんはここに30年近く通い続けているという。「僕がまだ俵屋にいる頃からのおつきあい。若い頃、どこかの料理屋さんの大将に連れて行ってもらったのが最初だったと思う。今も変わらずおいしくて、うちの家族や両親も大好きなお店です。時には店の子を連れて行ったりすることもあります」(小林さん)16歳からこの道に入って50年以上という店主の西川政明さん。38年前に北白川で店を始め、2年後に現在の場所へ移転。これまで、価格以上においしい寿司作りに努めてきたという。ジャズが流れる明るい店内は、1階にコノ字型のカウンターがあり、ネタの入ったガラスケースがずらりと並ぶ。老舗の寿司屋といっても、西川さんの親しみやすい雰囲気で、緊張感なく楽しめるし、品書きのすべてに価格が記載されているので、会計を気にする心配も無用だ。「僕も、小林さんのお店にはたまに寄せてもらいますが、勉強になるところがたくさんあります」と、西川さん。鮮魚は毎日市場に赴き、淡路産をはじめ近海のものを中心に仕入れる。季節ごとに変わる品書きには、旬の魚介の造りや焼き物に、鯛のあら煮、生麩田楽、松茸土瓶蒸し、焼き茄子のかにあんかけ、ぐじ酒蒸しなど、一品料理が豊富に揃うのがうれしい。「季節に合わせて旬のものをストレートに出してくれるお店。とにかく一品料理がたくさんあって、お寿司にたどり着くまでの一品一品がとてもおいしいんですよ。お酒を飲みながらそうした一品を味わって、最後はちょっと握っていただくというスタイルです」と、小林さん。写真は刺身盛り合わせで2人前3600円~。脂の乗った鰹をはじめ、トロ、鯛、トリガイ、海老など、どれも美味い。「今だと鰹がおいしい。あまり鰹を食べる機会がなかったんだけど、ここの戻り鰹はあれば必ず頼みます」(小林さん)こちらの寿司は赤酢を使わない関西風の味付けで、新鮮なネタとシャリのバランス、酢の加減もちょうどいい。「関東の方もおいしいと言ってくださいます」と、西川さん。自慢のシャリには、米屋に特注したブレンド米を使用し、水も米の甘味を生かすために元豆腐屋の地下水を使っているという。醤油も薄口と濃口をブレンドし、昆布やシイタケ、酒などを加えて店用に仕立てたもの。ここではそのまま食べられるように、寿司はさっと醤油を塗ってから出しているそうだ。ふっくらとろけるようなおすすめの穴子や煮だこなど、細かな工夫が施されたにぎりは1貫200円~1000円(各1貫・税別)。小林さんはうずら玉子の軍艦や芽ねぎ、このわたなどをよく頼むそうで、「一品は注文してすぐには出てこないから、待っている間にこのわたのお寿司で一杯飲んだりしています」。予算は7千~8千円と、決して安価ではないが、寿司も一品もそれ以上の満足感が得られるはずだ。西川さんと、奥様の晴美さん、そして元イタリアンの料理人で今は西川さんの補助を務める娘の美早子(みさこ)さん。小林さんは、この店の魅力は、何よりも店を切り盛りする西川さんたち家族やスタッフの人柄の良さだと話す。「僕は仕事終わりに行くんですが、奥様はいつも電話で快くどうぞと言ってくださるし、接客も気持ちいい。大将、奥さん、娘さん、スタッフ皆が素敵で、仕事の疲れも消してくれるようなお店です」(小林さん)「小林さんに限らず、来店されて帰られるまでは、片付けでばたばたすることなく、ちゃんと応対させてもらうようにしています」と、西川さん。サービスに関して、ポリシーとしているのは気配りだと話す。「例えばすぐに食べたあとのお皿をさげる、お茶をかえるといった当たり前のことですが、なかなかできなかったりする。お客さんの様子を見ながら、細かなことまで気を配って行えるよう心掛けていますね」(西川さん)落ち着いた雰囲気の2階はテーブル席になっており、宴会などでの利用もできる。「うちは一品も多いので、気軽にわいわいと楽しんでいただければ」と西川さん。店には、30年以上のご贔屓から最近の若いファンまで、幅広い層が訪れる。この日は平日だというのに、開店時間から予約が入り、6時半頃にはカウンターが常連客たちでほぼ満席に。中には、市内南部や西部など遠くからタクシーを飛ばしてきているお客も。皆、西川さんたちとのやりとりを楽しみながら、一品や寿司に舌鼓を打っている。その様子がなんとも楽しげで、このひと時を味わいたいがために、わざわざ足を運んでいるのだということがよくわかる。「食べ物がおいしいところはいろいろあるけれど、すべてに満足して帰ってこられるお店ってなかなかない。ああ、本当にこの人に会えてよかったとか、すべてを含めてほっとするお店です」(小林さん)撮影 エディオオムラ 文 山本真由美■すし甚京都市左京区浄土寺西田町100-3817:30~24:00(LO23:00)※要予約休 木、第3水075-751-7574
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BLOG料理人がオフに通う店
2019.11.15
「貴与次郎」―「点邑」小林紀之さんが通う店
「点邑」小林紀之さん《プロフィール》東京都出身。服部学園で料理を学んだのち、京都で和食の世界へ入り、老舗旅館「俵屋」へ。「俵屋」プロデュースの天ぷら専門店「点邑」のオープンより同店料理長を務め、腕を振るっている。熟練の技による繊細な季節の一品や天ぷらは、全国に多くのファンを獲得している。締めの土鍋ご飯もお楽しみ。名水と旬の素材で仕立てる京料理をくつろいだ雰囲気で二条城から程近い、商家などが立ち並ぶ静かな一角。ここに小林さんおすすめの京料理店「貴与次郎」がある。町家を改装した店舗で、上賀茂の農家から届く京野菜など、季節の食材の味を丁寧に引き出したコース料理を提供し、多くのリピーターを持つ。玄関から畳敷きの渡り廊下、庭のある渡り廊下と続く客室へのアプローチが、京都らしさを感じさせる。店主の堀井哲也さんは、俵屋と並ぶ老舗旅館「柊家」で料理長を務め、2011年に独立。小林さんが長年公私ともに信頼を置く料理人だ。「堀井くんとは、彼が北海道から京都へ来たときからのおつきあい。僕が俵屋にいた頃、仕事終わりに近所の料理屋の若い子らと一緒に銭湯に行くのが習慣だったんです。同じ年月を過ごす中で、家族ぐるみのつきあいをするほどになって。お店には家族や両親を連れて行くこともあるし、俵屋の料理長の集まりにも使わせてもらっています」(小林さん)対する堀井さんも、「当時、小林さんはあの辺の若い子の面倒をよく見ていて。僕も京都に来て2カ月程した頃に初めて小林さんにお会いしたんですが、それからずっと仲良くさせてもらっています」と振り返る。小林さんには料理の面でも人としても、多くのことを学ばせてもらったという堀井さん。店を始める際もいろいろな助言や協力を得たという。店内は、檜の一枚板のカウンターと掘りごたつ席、テーブル、個室を備える。堀井さんは、お客が食べる姿を見ながら料理が作れる店にしたかったと話す。「旅館ではお客様が食べる姿を見ることがないですし、出しにくい料理もありました。そうした点からも作り立ての状態で料理を出せる店づくりをしたいなと。お客様の様子を見て、苦手なものだとわかれば別のものに差し替えたりもします」。コースの内容も、お客の要望にできるだけ対応しているそうだ。「(カウンターにしたのは)僕がお客様とお話しするのが大好きなこともあります。小林さんはお客様にもすごく上手に対応されますし、優しさも丁寧さも伝わってくる。そういうところも勉強させてもらっています」と、堀井さん。堀井さんの献立作りは、旬のおいしい食材を使い、食べる人に負担のない味付けをするのが基本だという。「北海道にいるときから、料理人に一番大事なのはお客様の健康管理だと教えられてきました。うちでは砂糖や料理酒はほぼ使わず、食材の味に味噌、塩、醤油、酢をプラスするだけです。お客様からはたくさん食べたのに翌朝、体が楽だとよく言われます」また、京料理において重要な水には、千利休ゆかりの名水「柳の水」を使用。柳の水を使い、血合いを抜いた鮪の削り節と日高昆布でとった一番だしは、まろやかで上品な旨味、香りが際立つ。「この水を使うと、すごく香りが立つんです」と、堀井さん。こちらの名物といえるのが、「鮑の白みそ仕立て」。「コースに必ず鮑と白みそを使った椀物があり、最後に土鍋で炊いたご飯が出る。この2つは、店を代表する味だと思います」(小林さん)堀井さんは、「旅館では白みそを使うのは正月ぐらいで、もったいないと思っていたんです。それで僕が貝好きなこともあり、白みそと相性のいい鮑を合わせました」と説明する。だしを含んだ白みそに、柔らかく煮た鮑と豆腐、水菜、柚子に、松茸などの季節野菜を添える。白みそのやわらかな旨味とコクに鮑の食感が引き立つ。ひき肉でごま豆腐を包んで蒸し焼きし、ごま酢をかけた「京都牛ごま豆腐包み」も、おすすめの品。肉の旨味と温かいごま豆腐のとろける食感が楽しめ、子供連れにも好評だ。夜の7千円、9千円のコースで味わえる。柳の水で炊く自慢の土鍋ご飯は、「ご飯が甘くてすごくおいしい」と、小林さんも絶賛。米は「八代目儀兵衛」から届く新米から、毎年柳の水に最適なものを選んで使用する。「お米本来の甘味と旨味、艶があるのが理想の炊きあがり。水に合ったお米でないと、それが出てこないんですね。うちのご飯は本当に甘くて、おかずなしで食べてもらえます。お客様から、お腹いっぱいだけど、このご飯は食べられると言っていただくのが、一番うれしい瞬間です」と、堀井さん。炊き立ての艶やかなご飯はバランスのとれたおいしさで、鯛おかかのふりかけなどのご飯のお供と楽しむことができる。 「京料理のお店って、敷居が高くて緊張するというお客様が多いんですね。柊家に『来者帰如(わが家に帰ってきたようにくつろいでいただく)』という教えがあるのですが、うちも同じように、友達の家に遊びに行く感覚でゆっくり食事ができる雰囲気作りができればと、皆で頑張っています」と、堀井さん。「彼の料理はもちろんだけど、やっぱり人柄が魅力。人のできないところに気付いてやってくれるので、気持ちがいい」と小林さんが言うように、堀井さんの話からは、お客に対する純粋な思いや細やかな気遣いが窺える。そんな実直な人柄が伝わるような"気持ちがいい"料理やサービスが、多くの人々に「また来たい」と思わせるのだろう。撮影 エディオオムラ 文 山本真由美■貴与次郎京都市中京区油小路通三条上ル宗林町95-2075-213-131311:30~14:30(入店)、17:30~22:00(入店20:30)※要予約休 月(祝日の場合は火)https://kiyojirou.com/
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BLOG料理人がオフに通う店
2019.10.18
「卯今(うこん)」―「リストランテ野呂」野呂和美さんが通う店
「リストランテ野呂」野呂和美さん 《プロフィール》 青森県出身。東京「山の上ホテル」や「リストランテ・サバティーニ青山」に勤めたのち、「ロカンダ・ヴェッキア・パヴィア」をはじめ、イタリア各地のレストランで修業。帰国後、ホテルグランヴィア京都のレストラン「ラ・リサータ」でシェフとして活躍。その後「洋食おがた」勤務を経て、2017年6月に「リストランテ野呂」をオープンさせた。旬の素材を駆使した豊富なメニューが、料理人から家族連れまで皆を笑顔に堀川御池交差点から数分の場所にある居酒屋「卯今」。ここは、野呂さんが「兄貴的な存在」として慕う料理人、小林健一さんが営むお店だ。地鶏料理や海鮮料理をはじめとする多彩な料理で楽しませる。「お店としてトータルで素晴らしくて心地がいい。料理人の常連も多いと思います」(野呂さん)店は6席のカウンターに、テーブルと小さな座敷のある落ち着いた雰囲気。淡海地鶏や近江軍鶏を使った炭火焼き、旬の天然の鮮魚を使った料理をメインに、創作料理、麺類まで、バラエティに富んだメニューが並ぶ。特に海鮮はイワガキや鮑、毛がにといった高級な素材も登場する。「食材への造詣も深く、すごくいいものを揃えて手をかけて作られている。一品料理屋と言っていいぐらい、ちゃんとしたお料理を出されます。お造りからフライものまで献立の種類も多いですし、一つひとつの味にメリハリがあって、おいしいですね」(野呂さん) 「自分が好きなもの、食べたいものを出している」という店主の小林さん。京都にある居酒屋の本店や支店などで12年間勤務したのち、2010年に独立。自分の店を開くにあたり、春巻きなどの居酒屋メニューから高級食材を使ったものまで、何でも扱う居酒屋にしたかったと話す。「自分の行きたい店というのがコンセプト。店を始めたとき、うちの子はまだ小さかったんですが、子供も行けるクォリティの高い店があまりなかったんです。それで子供も大人もおいしいものを食べられる、居心地のいい店を目指しました」。実際、ここには孫を連れた夫婦など、家族連れも多数訪れる。野呂さんとこの店とのそもそもの出合いは、「点邑」の小林料理長から紹介されたのがきっかけだったという。「前からお店のことは知っていましたが、行ったのは点邑の小林さんに誘ってもらったのが最初でした。今は仕事終わりなど、週に1~2回は通っています」(野呂さん)小林さんも、「点邑の小林さんとはオープンの頃からのおつきあいなんですが、1年ほど前に来られたときに『リストランテ野呂ってお店知ってる?今から来るし』って言われて。僕も野呂さんのお店に食べに行って、すごくおいしいお店だなと思っていたので、うれしかったですね」と振り返る。このときに二人は意気投合。以来、互いの店を行き来したり、一緒に食べ歩きに行ったりするようになったそうだ。「料理の味も小林さんの性格と同じで屈託がない」と話す野呂さん。一番のおすすめは、淡海地鶏のミンチを使った「季節の春巻き」。鶏ガラスープで炒めた具を、自家製の皮で包んで揚げた人気の品。地鶏の旨味がしっかり伝わる。写真は夏野菜を入れたもので、秋はレンコンやきのこに変わるという。「地鶏と季節の具材が入っていて、創意工夫が凝らされていて本当においしい。皮がふわっとした感じなのも面白いです。揚げ方、具の味付けなど勉強になりますね。ビールにも焼酎にも合います」(野呂さん)野呂さんが「あれば必ず食べる」という「迷い鰹のたたき」。鰹は黒潮に乗って太平洋側を北上するが、群れの一部が対馬海峡を渡り、日本海に迷い込んでしまうことがあるそうで、「迷い鰹」と呼ばれている。「脂の質がほかと違っていて、あっさりと食べられます。希少なので、入荷したときは魚屋さんに確保してもらうようにしています」(小林さん)軽く炙ったあと、炭火の香りをつけたたたきを、鬼おろし、玉ねぎなどと一緒にポン酢で味わう。口の中に脂がふわりと広がり、トロを食べたような口当たり。料理人がこぞって頼むというのも納得だ。小林さんはこの鰹にかけるすだちや鬼おろしの量を背と腹によって変えるそうだが、素材に対する細やかな気配りが窺える。茄子の海老ジュレがけなど6種から選べる日替わりの付け出しも好評で、「これに合わせてお酒を頼まれる方は多いですね」(小林さん)日本酒はいろいろな飲み口のものを常備するほか、季節のおすすめを「きまぐれ日本酒」として出しているという。野呂さんは、「料理の楽しみ方の提案や提供の仕方が多岐にわたっているので、本当にいろんな層の人たちが来ていて、皆さん満足して笑顔で帰られる。スタッフも元気がいいし、愛される店づくりをされていると感じます。僕もあそこでは楽しく酒が飲めて、元気にさせていただけますね」と、この店の魅力を語る。もともと食べることが好きだという小林さん。いろいろな店の味を研究したり、常連の有名料理人たちから情報を得たりと、味への向上に余念がない。「一つの料理を一層よくしようという気構えでやられていると思います」との野呂さんの言葉に、「やっぱり店は成長していかなくてはいけないので。お客さんを裏切りたくないし、努力はしているつもりです。料理の話を彼としたら、止まらないですね(笑)。彼には勉強させてもらうことがいっぱいあります」と、小林さん。リスペクトし合う仲間との切磋琢磨が、また更に魅力ある店にしていくに違いない。撮影 エディオオムラ 文 山本真由美■卯今京都市中京区姉小路通西堀川西入 樽屋町474075-777-813417時30分~翌1時(LO24時)休 木、月1回水不定休
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