料理人がオフに通う店
「旨い店は料理人に聞け!」食材を見る目や鋭い舌をもつ料理人が選ぶ店なら、決して外れがないことでしょう。 京都を代表する料理人がオフの日に通う店、心から薦めたいと思う店とは?
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2020.11.28
「Cantina ROSSI カンティーナ・ロッシ」-「Bistro Ceriser」椎葉正子さんが通う店
「Bistro Ceriser」の椎葉正子さん1998年にオープンした「Bistro Ceriser」は、現在、オーナー。店は椎葉さんがマダムとして切り盛りし、厨房はシェフの小森雄介さんが預かる。ブルゴーニュ、ガスコーニュ、リヨン、ブルターニュ、プロヴァンスなどフランス各地の郷土料理を提供している。「日本食でいえば、肉じゃがや茶碗蒸しのような身近なお惣菜のような存在のフレンチが好き」という椎葉さんは、どこか懐かしくてほっとする、そんな料理を楽しんでほしいといつも考えている。オープンキッチンで料理をする中川シェフ。お客さんとの会話も大切にしている。オーナーシェフの中川浩さんは、ユニークな経歴の持ち主だ。大学卒業後、大阪の建築事務所に20年以上勤め、建築士として新しい町づくりなど、いくつもの都市開発のプロジェクトを手掛けてきた。そのリサーチのために、イタリアを何度も訪れたそうで「町も人も料理もワインも大好きになった」とすっかりイタリアのファンになってしまった。阪神大震災の後、建築関係の仕事は多忙をきわめ、自分を振り返る時間もなく過ごしていたそうだが、まずは復興のために量をこなさなければならない仕事の環境に悩むようになり、39歳のときに思い切って建築士をやめて、この世界に飛び込んだ。「今、思えば我ながら、かなり思い切った決断だったと思います(笑)。たまたまですが、親しくさせてもらっていた「レストラン・フクムラ」の福村賢一オーナーシェフや、金沢の「イル・ガッビアーノ」の金山貴永オーナーシェフが親身にアドバイスをしてくれたんです。金山シェフなどは泊まり込んで、生パスタの作り方を伝授してくれました。オープン当初は、そのときにメモしたレシピ通りに料理をして、お客様に提供していたんですが、いま考えたら、よくやっていたなあとおもいますよ(笑)」。 京都のイタリアンを牽引してきた有名シェフと、金沢を代表するイタリアンの旗手、その二人の手ほどきを受けて、なんという贅沢な門出だろう?と今なら思えるが、イタリアンの店で修業をした訳でもなく、確かにかなり思い切った第二の人生の幕開けだったはずだ。シェフご自慢の生パスタ。小麦の滋味をしっかり味わうことができる。 当時、まだ珍しかった生パスタのメニューや、エスプレッソマシンの導入などで話題性も高く、さらに、細く、狭い路地裏の「こんなところにレストランが?」という意外性が話題を呼んで、口コミでお客さんが順調に増えていったという。すでに結婚していた美弥子さんと二人三脚で、現在まで店を懸命に切り盛りしてきた。 今も、初めて訪ねる時は「こんな住宅地の細い路地に店があるの?」と少々不安になるけれど、穏やかで心地よい店は健在だ。今も、自家製の生パスタはメニューの基本。喉ごしでつるりと食べる乾麺と異なり、生麺は」もっちりと弾力があり、よく噛み締めてこそ、旨味が伝わってくる。「生パスタはリガトーニ、タリアテッレ、スパゲティの三種を用意しています。生パスタはソースによく絡むのが魅力。ソースにももちろん大切ですが、パスタそのものもののおいしさを味わってほしいですね」前菜の「色々な野菜の盛り合わせ」1,200円(価格はすべて税込)。野菜の滋味とオリーブオイルの香味、絶妙の塩加減がマッチして、これだけでもワインのボトルが欲しくなる。「中川さんご夫妻とは、20年以上のお付き合いになります。よく双方のお店を行き来して、食事をしたり、食事を楽しんでもらったり。お店が終わるとそのままどちらかの店で飲み会が始まる...そんな感じで仲良くしてもらっています(笑)」(椎葉さん)。椎葉さんが店にくるとまず、注文するのがアンティパストの「色々な野菜の盛り合わせ」だ。インゲン、ナス、ズッキーニ、パプリカ、カボチャ、ポテトなど、とりどりの野菜をグリルやマリネした一皿で、カラフルな食材が食欲を誘う。シチリアやローマ近郊の美味しいオリーブオイルを厳選し、調理に使ったり、ソース代わりに料理にかけたりと使い分けているが、オリーブオイルの香りが素晴らしく、野菜の旨味や甘みをよく引き出している。塩、コショウといったシンプルな調味料だけで、深くコクのある野菜の味を生き生きと楽しむことができる。「これ以上、シンプルなパスタはない!」という中川さんご自慢の一皿。「カーチョエぺぺ」1,300円。削りたてのペコリーノ・ロマーノと挽きたての黒胡椒が、鼻腔をくすぐる。生パスタ本来の味わいとペコリーノ・ロマーノの質がすべてを決める一皿。椎葉さんのお気に入りのパスタは、メニューの中でも最もシンプルな、「カーチョエぺぺ」。削りたてのペコリーノロマーノと挽きたての黒胡椒をたっぷりと使い、パスタの茹で汁で練るように混ぜて、ゆでたてのスパゲティにしっかりとからめる。「塩味は、茹で汁の塩味とペコリーノの塩味のみ。生スパゲティは太めで重量があり、しっかりした噛みごたえで、濃厚なソースによく合います」と中川シェフ。 メニューは、アンティパスト、プリモ・ピアット、セコンド・ピアット、ドルチェで構成されている。前菜を何種類かとパスタだけで軽く食事をするもよし、メインのセコンド・ピアットもしっかりと味わって、コースのように楽しむもよし。夜はアラカルト中心だが、初めて訪れる時は、シェフおまかせのコース(3,700円〜)もおすすめだ。ちょっとした室内の小物にもオーナー夫妻のセンスが感じられる。右からシチリアのロゼ、ピエモンテの赤、ローマ近郊の白、シチリアの赤。各地のワインを地酒のように楽しむイタリアのワインは、どれも気候風土に育まれ、個性に溢れて魅力的だ。ボトル2,500円〜、グラス650円〜。 ワインももちろんイタリア各地のものを常時20種ほど揃える。ワインリストにイタリアのワインマップが挟んであって、地理を確かめながらワインを選ぶのもなかなか面白い。各地の気候風土が醸すワインの個性を地酒のように楽しみたい。「今は新型コロナでなかなか海外に行けませんが、それまでは毎年、二人でイタリア食紀行の旅をしていました。馴染みのレストランやチーズ屋さんを訪ねたり、各地の郷土料理やワインを味わったり...。また行けるようになるといいですね」と話す奥さんの美弥子さん。椎葉さんも必ず締めに注文するというドルチェは、美弥子さんが主に担当している。今日のおすすめは「アーモンドとキャラメルのセミフレッド」500円。ムース仕立てのお菓子を凍らせた一皿。アイスクリームとも、ムースともまた異なる食感で、冷たすぎず、ふわりとした口溶けがとても不思議な美味しさで、後を引く。キャラメルとナッツの香ばしさが寄り添って、仕上げのアマレッティの香りが華やかに漂い、一口、またひと口とペロリと食べてしまった。ナッツの香ばしさ、キャラメルの甘苦い味わい、不思議な口溶け。すべてが魅力的な「アーモンドとキャラメルのセミフレッド」500円。前菜からドルチェまで、本当に最初から最後まで、ワインと共にじっくりと味わいたくなるものばかり。料理ともてなし、店主夫妻の人柄。居心地が良くて、つい長居をしたくなってしまうのは当然だが、さらに店内空間の造りも素晴らしい。そう、建築士らしく、店の設計はもちろん中川さんによるものだ。暖かく、穏やかな雰囲気は、イタリアの田舎のワイン蔵をイメージしたのだとか。「イタリアに親しい友人がいまして、彼の家の地下に素晴らしいワイン蔵があるんです。彼の家に遊びに行くと、必ず、ワイン蔵で何時間も過ごします。友人からもヒロシはワイン蔵に住めるね、と言われています(笑)」 夫婦の和やかなもてなしと気取りのない会話。寛ぎの空間で、美味しい料理をゆるりと楽しみつつ、ひととき心身を休めてみてはいかが。白壁、レンガ、木。自然な素材が醸す温もりはとても心安らぐ。中川さんが設計した店内は、まさにワイン蔵にいるような落ち着きを感じる。夫婦の息のあったおもてなしと楽しい会話にこちらも笑顔になる。二人に会いに、また、すぐ訪ねてきたくなるような一軒だ。撮影/竹中稔彦 取材・文/ 郡 麻江■「Cantina ROSSI」京都市左京区吉田泉殿町 57-1075-751-6422ランチ12:00~14:00(LO)、ディナー:18:30~21:00(LO)日曜・祝日休(不定休)
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2020.10.10
「Bistro Ceriser」-「料理処はな」青山孝さん・美由紀さん夫婦が通う店
「料理処はな」の店主、青山孝さん・美由紀さん 店主の青山孝さんは、大学卒業後、法曹人を志していたが、30歳を契機に料理の世界に入った。調理師学校で一から学び、京都の老舗、「京料理 道楽」で修業したのち、大阪・天満にて地鶏料理の店、「地鶏焼 でんえん」を開店。3年後に、当時、イタリア料理店で勤務しており、のちに妻となるソムリエールの美由紀さんとともに、「料理処 はな」をオープンさせた。夫婦で茶の湯の稽古に通い、とくに魯山人の食への意識、器との取り合わせなど当意即妙な芸術観や料理スタイルに関心が広がり、当時の調理法などを深く掘り下げて学んでいる。重厚な木の温もりに包まれる店内。家族や友人とくつろいで食事ができる。1998年にオープンした「Bistro Ceriser」は、現在、オーナーの椎葉正子さんがマダムとして切り盛りし、厨房はシェフの小森雄介さんが預かる。 「料理は昔から変わらず、クラシカルなフランスの郷土料理を提供しています。アルザス、ブルゴーニュ、ガスコーニュ、リヨン、ブルターニュ、プロヴァンスなどフランス各地の郷土料理は、たとえば日本食でいえば、肉じゃがだったり、茶碗蒸しだったり、いわゆる身近なお惣菜だと思うんです。どこか懐かしくてほっとする、そんな料理を楽しんでいただきたいと思っています」(椎葉さん)。「僕がここに通い始めたのは23年前のことです。最初に伺った時から価格を超えた料理とサービスに感動しました。きちんとしたフレンチに触れたのはこのお店が初めてだったかもしれません。全ての料理の根底には、肉、魚、野菜などの素材から丁寧に抽出したフォン(だし)の深い味わいがあって、郷土料理の力強さを実感しました。以来、大ファンになり、ずっと通っています」(青山さん) 青山さんおすすめのパテ・ド・カンパーニュは、豚ミンチ、豚レバー、グリンペッパー、くるみハーブ各種を合わせて、アルマニャックの香りを添える。材料をなめらかになるまで混ぜて、背脂で包んで蒸し焼きにするという実にオーソドックスな作り方を守っている。「パテ・ド・カンパーニュはフレンチの定番ですし、いろいろな店で食べましたが、ここほど自分の好みにマッチした味は他にはないですね。肉の重量感があって、ねっとりとレバーの風味と血の気を感じさせて、それでいて決して重すぎない。軽くてスパイシーな赤ワインといつも楽しみます」(青山さん)くるみの食感が程よいアクセントのパテ・ド・カンパーニュ950円。添えられた季節の新鮮野菜とよく合う。※価格は全て税別。青山さんがここにきたら必ず注文したくなる料理の一つが、アルザス風シュークルートだ。シュークルートとは、キャベツの酢漬けで、アルザス地方を代表する保存食のひとつである。 見るからにボリューミーな一皿は、初めて見るひとはきっと驚くに違いない。ハーブやニンニクを利かせたソミュールという塩水に漬け込んだ豚のすね肉の煮込み(アイスバイン)に、自家製トゥールーズ風ソーセージ、フランクフルト、ロースハム、ベーコンなど自家製のシャルキュトリがたっぷりと盛られ、その下にシュークルートがこれまた、どっさりと隠れている。さらに、じゃがいもとにんじんが添えられて、二人でシェアするとちょうど良いサイズだろう。「シュークルートも大切な主役。とんかつのキャベツのような添え物と思われがちなのですが、肉と一緒にシュークルートもぜひ楽しんでください」(小森さん)「この料理には、白ワインを必ず合わせます。とくによく冷えたリースリングとのマリアージュは素晴らしいと思います。ワインの心地よい味わいが、肉と野菜の塩気をまろやかに包み込んでくれて、最後まで食べ飽きしません。フランス郷土料理の熱々のおいしさを実感できる一皿です」(青山さん)シンプルでいて、フランスの郷土料理の真髄が味わえる一皿、アルザス風シュークルート2900円。よく冷えたアルザスのリースリングがことのほか合う。「デザートは迷うことなく、ブラン・マンジェを注文します。一人で通っていた時も、妻と二人で来るようになってからも、子どもができて一緒に食べに来る時も、店のスタッフを連れて来る時も、みんなが美味しいと喜んでくれる締めの一皿ですね。マダムとシェフの思いがこもったデザートだと思います」(青山さん)シェフおすすめのブラン・マンジェとキャラメルアイスの盛り合わせを頼んでみる。濃厚で香ばしいキャラメルアイスは、焦しキャラメルをつくり、ミルク、卵、生クリームをあわせて冷やしたもの。どこまでも、なめらかで後を引くおいしさにうっとりする。ブラン・マンジェは、ホールのアーモンドを砕いて、ミルク、生クリームとあわせて、香りをよく移してから、濾してゼラチンで固める。つるんとして、アーモンドの深いコクが感じられ、いつまでも甘やかな余韻が残る。コクのあるブラン・マンジェとほろ苦さと香味が際立つキャラメルアイス600円。「郷土料理のレシピはとてもしっかりしていて、美味しい。それを崩す必要はないんです。せっかくそれで美味しいのに、日本人向けの料理にしようとは思っていません(笑)」(小森シェフ)ソースの濃厚さやバターやクリームの重たさ、時にジビエな内臓のクセなども個性として一皿にしっかり表現していきたいという小森シェフ。この店のジビエを待ち兼ねるファンも少なくないと聞くが、それもうなずける。左:昔からマダムが大切にしているフランス郷土料理の本。右:ワインはフランス各地のものが揃う。「昔、とても寒い時期に開店前に来てしまったことがあって...。店内でお待ちくださいと招き入れてくれて、マダムが温かなカプチーノをご馳走してくれたんです。そのおもてなしが嬉しくて、妻にもよくその思い出話をするんです」(青山さん)マダムの椎葉正子さん。とても明るくて笑顔が素敵な女性。一皿のボリュームが半端ないので、二人でなら前菜二品、メイン1品、デザートとで十分満たされてしまう。分け合って食べる楽しさもまた、この店の魅力だろう。クラシックな郷土料理と心からくつろげる笑顔とサービス。古き良き時代の人の温もりがここにはある。またすぐに癒されに行きたくなる、ここはそんな場所なのかもしれない。撮影/津久井珠美 取材・文/ 郡 麻江■「Bistro Ceriser」(ビストロ・スリージェ)京都市左京区田中下柳町1−3075-723-5564ランチ12:00~14:00(LO)〔※月曜〜金曜はガレットランチ、土日はビストロランチ〕、ディナー:18:30~21:00(LO)木曜、第3水曜定休
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2020.09.11
「Gori'sKitchen ゴリーズキッチン」-「PIZZERIA DA NAGHINO ピッ ツェリア ダ・ナギーノ」三條実永さんが通う店
「PIZZERIA DA NAGHINO ピッツェリア ダ・ナギーノ」のオーナーシェフ三條実永さん東京生まれ。グラフィックデザイナーを目指し、研修のため、イタリアのデザイン会社で働くことになったが、不思議な縁でナポリのピッツェリアで働くことに。その時食べたピッツァの美味しさに衝撃を受け、そのままナポリのピッツェリアで修業を続行する。ナポリでは、ピッツァイォーロという生地づくりから全体を統括する職人と、フォルナイヨという焼きを専門とする職人とに、作業の役割分担がはっきりしているが、三條さんは、まず焼き方としてスタートし、最終的にはピッツァイォーロのサブを勤めるまでになった。帰国後は、東京の「ピッツェリアGG」などの名店で働き、さらにシンガポールで4店舗のピッツェリアを展開するなど、ピッツァの道を一筋に歩む。自分の店を持つにあたって、公家の出身である三條さんは父祖の地である京都での開業を決意。2018年8月、「PIZZERIA DA NAGHINO」をオープンさせた。「店主の足立充憲(みつのり)さんとは、ナポリで修業中に出会ったんです。あの頃は、遠い将来の夢を漠然と語っていましたが、10年後、いろいろな経験を積んだあと、偶然、二人とも京都に店を出すことになり、ご縁を感じています。その後、互いの店を行き来するようになりました」(三條さん)店主の足立さんは、大阪の「Ristorante e Pizzeria SANTA LUCIA」で4年半、修業して、その後、さらに腕を磨くために南イタリアに渡った。現地のトラットリアで働いている時、三條さんと出会い、親しくなったと言う。 帰国後は、大阪の「asse(アッセ)」で5年働き、地元の京都に戻る。資金を稼ぐのと、他の世界もみておこうということで3年ほど不動産営業の仕事に就いたのち、2016年に自分の店をオープンさせた。「イタリア料理には、トラットリアやピッツェリアなどさまざまな業態がありますが、僕自身はナポリピッツァを中心にしながらも"僕が食べたいもの"をしっかりメニューにあげていくような店にしたいと考えました」(足立さん) なるほどメニューには、ナポリピッツアの定番と季節のおすすめ約20種のほか、前菜、メイン、パスタ、デザートなど多彩な料理が並ぶ。「気軽にきて、いろいろな料理を注文してもらって、ワイワイ賑やかに食事を楽しんでもらえるそんな店にしたかったんです。一人でも、家族連れでも、パーティーでも、軽い食事からがっつりディナーまで、どんな風にも利用できる使い勝手の良い店やと思います」(足立さん)温かくアットホームな雰囲気の店内。賑やかに人が集う場所。「うちのピッツァはナポリ風のどっしりとした生地ではなく、もう少し軽くてモチモチ感を重視した生地にしています。前菜やメイン、パスタなど自慢の料理がたくさんあるので、ピッツァだけでお腹いっぱいということがないように工夫しています」 特製のピザ窯で焼かれたピッツアは、確かにモチっとした食感で、それでいてカリッとクリスピーで軽やか。トッピング素材も一つ、ひとつ足立さんが厳選したもので、味わい深いだ。人気No.1の「ゴリーズピッツァ」1490円はマルゲリータにさらに工夫を重ねたもの。京丹波「ミルクファーム すぎやま」のジューシーなモッツアレラチーズを使用している。自家製のトマトソースはじっくり煮込んだ濃厚な味わいで、モッツアレラとのバランスが絶妙。※価格は全て税別。ピッツァは丹波篠山『Kuwa Monpe ( クワモンペ)』特製の窯で、高温でさっと焼き上げる。メイン料理の中の人気№1はこちら。亀岡産の「七谷鴨ロースのオーブン焼き」2490円。上質なロースの皮目をこんがり焼いて、オーブンで低温でじっくり焼き上げたもの。しっとりと柔らかく、肉の旨味がいっぱいに広がる。野趣と洗練が一つになった見事な一皿。「店主のガタイの良さからは想像のつかない(笑)、繊細な味わいが本当に魅力です。ピッツァや料理はもちろん、ドルチェも全て手作りで素晴らしい味わいですよ」(三條さん) 三條さん一押しのドルチェはティラミス。人気の瓶入りティラミスは、マスカルポーネ、玉子、生クリームのシンプルな素材を泡だてて、もったりとしたクリーミーな味わいに。エスプレッソコーヒーを染み込ませたサボイアルディのほろ苦さが味のアクセントになっている。キャラクターが描かれた瓶入りティラミス390円。プレーン、抹茶、ほうじ茶の3種類がある。お土産にもぴったり。他にもバスク風チーズケーキ、ガトーショコラ、季節のタルトなどが揃う。ワインはイタリア産が中心。ボトル2000円〜、グラスワイン400円〜というプライスも嬉しい。 新型コロナの影響で、世の中が変化しつつあるが、足立さんも新たな展開に挑戦することを決めた。キッチンカーにピッツァ窯を積み込んで、いろいろな場所に出張するという新サービスだ。明るいブルーの車体のキッチンカー。足立さんはあちこちに出かけて、ゴリーズの味を伝えたいと笑顔を見せる。1万円以上の注文があればキッチンカーをオーダーできる。問い合わせは店まで。「ご自宅の駐車場があれば、キッチンカー出前はOKです。メインや前菜はケータリングスタイルで運んで、お好きなピッツァをその場で焼いて、焼き立てを味わっていただけます。世の中が大きく動いていく今、僕も新しいことにチャレンジしないといけないなと...。幸い、リピーターのお客さんには今までと変わらず来店いただいていますが、これからはおうちでプロの味を楽しむニーズがより増してくると思いますし、そういう流れにもしっかり応えていきたいですね」「難しい時代だけれど、笑顔で乗り切っていきたい」という足立さん。明るく飾らない人柄がお客さんに愛されている。撮影/竹中稔彦 取材・文/ 郡 麻江■Gori's Kitchen ゴリーズ キッチン京都市南区上鳥羽菅田町65番地1F075-200-9304平日11:30~ 14:00(13:45 LO)、18:00~23:30(23:00 LO)、土・日・祝11:30~ 14:30(14:15 LO)、17:30~22:30(22:00 LO)無休(年末年始は休み)
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2020.09.02
「酒処てらやま」-「炭焼みはな」長手未華さんが通う店
「炭焼みはな」店主 長手未華さん昔から食べることが大好き。大学時代、飲食の仕事に興味を持ち、この世界に進む。イタリアンの「La Camartina」や、鶏料理の「侘家古暦堂」などで修業を積み、昨年、自身の店をオープン。本人も大好きという、焼き鳥とナチュラルワインを提供。関西では数店舗しか扱いのない、丹波・高坂鶏も使用。夫は、イタリアンの「Lapintaika」のオーナーシェフ、正彦さん。なんとも心地よさげな店内は、先斗町の店の空気感そのまま。カウンター席のほか、テーブル席、二階の座敷がある。 先斗町に店がある頃から、予約がなかなか取れないという人気店だった「酒処てらやま」は、昨年、4月に現在の場所に移転。綾小路通から細い細い路地を入った奥に、以前と変わらぬ温かなくつろぎをもたらす空間が佇んでいる。「女将の絵里佳さんは、以前、私が勤めていた店の後輩で、今でもとても仲良しです。彼女から寺山さんを紹介してもらったのですが、可愛い後輩の彼ということで見る目が厳しかったのかなと思いますが(笑)、当時、彼は私をちょっと怖がっていたかも...(笑)。今では夫婦同士仲良くなって、お店も行き来させてもらっていますが、寺山夫妻から学ぶこともとても多いです。お店は気軽に行ける雰囲気と使い勝手の良さが気に入って言います」(長手さん)「長手さんは仕事仲間やご友人とよく来てくださいます。一軒目として食事とお酒を楽しまれたり、二軒目に軽く一杯飲みに来られたり。自分の店を始めるとき、まさしくそういう店でありたいと考えたので、こんなふうに使っていただけるのが一番嬉しいですね」(寺山さん) 主人の寺山主一(しゅういち)さんは、長年、京都の料理屋や居酒屋で働き、最終的に「食堂おがわ」で修業して、2017年に、先斗町に自分の店をオープンした。「『食堂おがわ』では、割烹店としての味をしっかり提供しつつ、店の主人もスタッフも揃いのTシャツにエプロンというカジュアルなスタイルに新鮮な驚きを覚えました。いつか自分もこんなふうに、料理がうまくて、いろいろなお酒を揃えていて、でも気取りがなく、カジュアルに楽しめる店をやりたいと思うようになったんです」 "料理はシンプルに"が基本。しかしそれは単に素材の持ち味を活かすということだけでなく、吟味した素材に自身の感性と技を重ねて、ちょっとしたサプライズを加味した『てらやま』らしい味わいを打ち出したいと考えている。旬味旬菜を取り入れた一品料理とお酒をその日の気分で楽しむ。おすすめの一杯は自家製レモンチューハイ700円だ。自家製の国産レモンの砂糖漬けで作ったレモンチューハイは、爽やかでほんのり甘く、これからの季節にもぴったり。「先斗町の時は、店が狭くて、席数も少なかったのですが、今は二階の座敷を入れると倍の席数になりました。スタッフも増やして、できるだけ多くのお客さんに楽しんでほしいと思っています」(寺山さん) 新しい店になっても先斗町の頃の雰囲気を大切に守っている。L字の木のカウンター(以前はコの字型)の艶めいた深い茶色や壁の風合いなど「前と雰囲気は変わらんなあ」と常連さんが喜んでくれているという。二階の座敷席は2組まで利用できる。1グループで6〜7人になると貸切にしてくれるというのは嬉しい。「いつも季節のお造りや定番の一品ものの中から、その時の気分で注文しています。女将の実家がある丹後から届く新鮮な魚介類があれば必ず注文します。友人と行くことが多いんですが、カウンター席に座って、BGMの昭和の歌謡曲を聴きながら、まったりと料理とお酒を楽しむのが好きです」(長手さん)「うちのBGMの最新曲は松田聖子ちゃんくらいでしょうか(笑)」(寺山さん)。 料理は基本、日替わりで提供する。造り、焼きもの、揚げもの、蒸しものなど、その日の仕入れで30〜40種ほどの一品料理に、〆のチャーハン、酒処カレーライス、にゅうめん、土鍋ご飯などが揃う。 野菜は地元のものを中心に、魚介は丹後の魚屋さんから毎日直送されたイキのいいところを、様々な味わいで提供する。泉州の旬の水茄子とトマト、新玉ねぎをさっぱりとしたドレッシングで合わせた水茄子とトマトのサラダ600円。オリーブオイル、酢、醤油にエシャロット、ニンニクなどを隠し味にした女将特製ドレッシングと相性よし。良い鯖が手に入った時は必ず〆るという、ほぼ定番のきずし1000円。酢でよく〆た昔ながらの味わいだ。炭火で焼いたうなぎの白焼き。皮目はパリッと香ばしく、身はふんわりしっとりとした食感。広島・海人(あまびと)の藻塩を使っている。先斗町の頃からの名物の〆料理、和牛炭焼サンドイッチ2500円。旨味豊かな和牛のモモ肉を炭火で炙り、塩、コショウのほか、ケチャップ、ウスター、玉ねぎみじん切りを合わせたソースに辛子をピリっと効かせて。パンも炭火で炙るのでとても香ばしい。切り落とした耳スティックがまた味わい深い。「僕が酒好きなので、この酒に合うのはどんな味かな?とか、この酒には是非この味を合わせてみたい!とか、どうしても、酒飲みの感性で作る料理というか(笑)、お酒に合う肴といった料理が中心になってしまうんですが、これからはもっといろいろなジャンルの味にも挑戦していきたいと思っています」(寺山さん)日本酒は丹後・伊根の「京の春」や寺山さんの出身地の広島の「ずいかん」、などを取揃えている。鹿児島の国産ウイスキー「MARS」はハイボールで飲むのが人気。 縄のれんをくぐれば、そこは昭和の歌謡曲が流れる世界。とくれば、昭和生まれにはたまらない懐かしさがこみあげてくる。その中で進化していく新たな『てらやま』の味を、推薦者の長手さんのようにまったりと味わってはいかがだろうか。女将の絵里佳さんと息のあったもてなしが、しみじみと心地いい。■酒処てらやま京都市下京区綾小路足袋屋町317−11075-708-723717:00~23:00(LO22:00)木曜定休※予約がベター
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2020.08.28
「聖護院嵐まる」-「すし甚」西川政明さんが通う店
「すし甚」西川政明さん16歳からこの道に入って50年以上。昭和56年に「すし甚」をオープンした西川さん。お店があるのは、銀閣寺道バス停から徒歩すぐの場所。ジャズの流れる店内で、価格以上においしい寿司づくりを続けている。奈良県下の日本料理店を皮切りに、石垣島のホテルシェフ、祇園の割烹などで修業を重ねた佐藤泰樹さんが自分の店を開いたのが平成8年のこと。「敷居を高くせず、老若男女を問わず、美味しい和食を楽しんでいただける店にしたいという思いを込めて、自分の店を開きました」(佐藤さん)カウンターとテーブル、奥の座敷などこぢんまりとして居心地のいい店内。「海鮮がとにかく美味しいので、美味しい魚が食べたい!という時によく行かせていただいています」(西川さん)「西川さんとは祇園で働いている時からのご縁で、もう30年以上、お付き合いいただいています。互いの店もよく行き来させていただいて、料理のことや魚のことなど楽しく話をさせていただいています」(佐藤さん) 開店当初は、魚介も扱っていたが、おばんざいや創作料理などを中心にメニューを揃えていたという佐藤さん。しかし、年月を重ねるほどに「ほんまもん、それも究極をお出ししたい」という思いが強まっていったという。「じゃあ。ほんまもんって何や?ということなんですが...(笑)。自分が扱う食材の中で、究極までほんまもんを追求できるのは、魚かな?と思ったんです。自分が海に行って釣ってくる魚ほど、新鮮で安心できるものはないですよね。僕が◯◯で釣った魚です!と胸を張ってお客さんに言えますから」(佐藤さん) 15年ほど前から釣りを始め、今ではもうベテランの域。今日はここにいい魚が揚っているという情報を聞けば、日本海や瀬戸内海など、すぐ現地に出向いて釣ってくるのだという。現在は平均、週に2回ほど釣りに出かけ、新鮮な魚を提供している。ショウケースに本日の魚がぎっしり。この中にご主人の釣った獲物も...。 釣ってくるだけではない。魚は下処理、特に「血抜き」が非常に大切だと佐藤さんはいう。「血抜きをどのタイミングでするか、そのあと少し寝かせて脱水させるのですがその時間も大切です。きちんと下処理をしてこそ、本当に旨い魚をお客さんにお出しできるんです」もちろん市場で買ってくる魚も使うが、買ってきた魚も改めて自身の手で血抜きをするというほどのこだわりよう。自身が血抜きをすることで、さらに魚の味がよくなるのだそうだ。 客層は地元・京都の人がほとんど。やはり人気なのは、西川さんも必ず注文するというお造り盛り合わせだ。二人前で8種類ほどの魚介が盛り合わせてあり、質・量ともに半端ない。魚介好きならこれだけでワクワクと嬉しくなってしまうだろう。本日の造り盛り合わせ二人前3000円〜(価格は全て税別)。写真はイシカゲ貝、オナガダイ、ハモ、ビワマス、本マグロ、シマアジ、明石蛸、剣先イカ、シラサエビがたっぷりと盛り合わせてある。このうち、明石蛸と剣先イカは佐藤さん自らが釣ったもの。こちらは名物の「蛸と海老のエスカルゴ風」1480円。蛸を海老を使ってオリーブオイル、ニンニク、パセリ等と一緒に調理するが、店独自の味付けがあるそうだ。それは「企業秘密です、笑」だとか。アコウの煮付け。写真は3〜4人前で3000円。脂がよくのっているので、煮汁はあっさりと仕上げている。酒のアテにご飯のおかずにもよく合う味わい。あまり流通していない小さな蔵元の日本酒が、定番ものと季節限定種など常時15種類ほど揃う。壁には漁船や釣り道具メーカーのステッカーがぎっしり。品書きには、造り、一品、焼きもの、揚げ物、ごはんもの、寿司がずらり。海鮮料理と和食が中心だが、ホテルシェフ時代に洋食を学んだ経験を生かして、前出のエスカルゴ風やパスタ、カツ、ステーキなど洋風の料理も揃う。 奥さんの香織さん、息子の嵐志さんと共に、家族で息の合った温かなもてなしも、嬉しい。「旨い魚が食べたい!」というときはもちろん、「いろいろな料理とお酒を」「がっつりごはんを食べたい」などなど、どんな要望にも、真摯に、美味しく応えてくれる一軒だ。お客さんから贈られた魚柄のマスク。息子の嵐志さんと。「将来は店を息子に任せて、僕は仕入れ専門で釣り三昧もいいなあと思ってます(笑)」撮影/津久井珠美 取材・文/ 郡 麻江■聖護院嵐まる京都市左京区聖護院山王町28075-761-242117:30~24:00(LO)23:30月曜定休
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2020.08.27
「乃り英」-「すし甚」西川政明さんが通う店
「すし甚」西川政明さん16歳からこの道に入って50年以上。昭和56年に「すし甚」をオープンした西川さん。お店があるのは、銀閣寺道バス停から徒歩すぐの場所。ジャズの流れる店内で、価格以上においしい寿司づくりを続けている。「街から少し離れた場所で、静かに食事ができます」と、西川さんが教えてくれたのは一乗寺にある「乃り英」。正統派の日本料理が楽しめる割烹だ。白川通りから曼殊院道を少し東に、庭園の美しさで知られる詩仙堂からもすぐの閑静な地にある。店主の福原英人さんがこの店をオープンしたのは2011年3月。当初は一本南側に店を構えていたが、5年前に現在の場所に移転した。檜の一枚板を用いたカウンター8席と、手入れの行き届いた庭に面した掘りごたつ式の座敷が1室。20名まで利用できる大部屋もあり、落ち着いた空間で料理を味わえる。 「ここは湯豆腐屋さんやったんです。お客さんに入っていただくスペースは住居として使われていたところ。家で食事をするような感覚で料理を楽しんでいただきたいと思い、建物の構造も生かして靴を脱いで上がっていただくスタイルにしました」と話すのは、朗らかな女将・美和さん。「前の店では靴を履いたままテーブルに座っていただきましたが、それやとこのあたりは寒いから足元が冷えるんです」。もっとくつろいでもらえる空間にしたいと「次は必ず床暖房を」と決めていた。熊本出身の福原さんは、16才で大阪に出て料理の世界に飛び込んだ。4年後に京都へ移り、今はなき祇園の名店「割烹乃り泉」へ。正統派日本料理店として知られたこの店が閉店するまで6年間、店主の髙乗英樹さんの元で経験を積んだ。その後、知る人ぞ知る名古屋の「加瀬」をはじめ、数々の日本料理店で腕を磨いた。 「将来は熊本に帰って料理屋を開こうと思っていました」という福原さんに、「わたしの京都パワーが勝ったんやね」と冗談交じりに返す美和さん。美和さんは、「乃り泉」のご主人・髙乗さんの姪にあたり、そんな縁もあって「乃り泉」時代からの馴染み客が多く訪れる。座敷の床の間に飾られた掛け軸は、髙乗さんと親交あった書家・吉川蕉仙さんによるもの。カウンターの目の前に掲げられた墨書「大愚者終身不霊」も吉川さんの作品だ。乃り泉を贔屓にしていたという俳優・森繁久彌さんの書も飾られている。すし甚の西川さんとも、「乃り泉」時代からの付き合い。その関係はもう30年以上になるという。「叔父もすし甚さんにはよくお邪魔していて、わたしもたまに連れて行ってもらったんです。叔父が入院していた頃は外出許可が出た日に伺いました。うちの子どもも大好きで、今でもよく家族で寄せてもらいます」(美和さん)「乃り英さんへは季節の変わり目ごとにお邪魔して、その時々の旬の魚を楽しみます」という西川さん。開店して間もない頃に訪れ、それから10年近く通い続けているそうだ。年間を通してさまざまなネタを揃える寿司屋と、季節ごとの食材だけをピンポイントで扱う割烹。お互いの料理を味わい手本にすることも多い。今回お店に伺ったのは8月はじめ。「鱧」の季節だ。「鱧といえば夏のイメージですが、秋までおいしく食べられるんです。梅雨の雨水を吸って旨みを増すといい、時期によって脂の乗りが変わります。それに合わせて、はじめはお椀、その後に落とし、鱧寿司、焼き霜、鱧しゃぶというように、食べ方も変えてお出しします」今この時の鱧料理を楽しめるのだ。これから迎える秋は、鰆や甘鯛、穴子、のどぐろがおいしくなるという。手間を惜しまず丁寧に仕上げられた料理は、いずれも正統派。料理人仲間には「まだそこまで手をかけているのか」と、驚かれることもある。胡麻豆腐は、とろ火にかけて1時間練りあげる。手を休めずに混ぜ続けることで、強い粘りをだすことができるのだ。アワビを添えて秋のはじめの先付にする。器使いや盛り付けで、客の目を楽しませることも忘れない。鈴虫の声が聞こえる頃には、虫籠をイメージした八寸を。虫籠を開けると、鮎の風干しにトコブシ、白だつ(白ずいき)の胡麻和え、鱧の肝の煮こごりなどが現れる。「この銀椀は吉兆の創業者・湯木貞一さんが考案してつくられたお椀で、銀を混ぜた漆が施されています」という福原さん。聞けば、50客ほどしかない稀少なものだという。深みのある銀砂色の蓋を開けると、松茸の香りが立ち上がる。小豆を萩の花、銀杏を葉に見立てた秋のひとときだけの楽しみだ。本枯節と利尻昆布の一番だしを、毎日汲む北白川の地下水でとる。比叡山の山肌から湧き出る水は、ミネラル分が豊富で、口当たりはマイルド。「松茸は産地の篠山まで、直接わけてもらいに行きます」という福原さん。春の筍は大枝塚原、初夏のとり貝は宮津、冬のぼたん(猪肉)は丹波と自ら産地を訪れ、目で確かめ食材を仕入れる。基本はおまかせコース(8,000円〜)だが、好みや予算に応じて料理の相談にも乗ってくれる。「蟹は京丹後の間人(たいざ)産だとやっぱり値が張ります。事前にお客さんとお話しさせてもらい、予算に応じで産地やお料理も変えます」と美和さん。1組1組に応じた料理ができるのは、完全予約制だから。昼は2日前までに予約すれば松花堂弁当も注文可能。「夜のコースはハードルが高い」という方は、リーズナブルに楽しめる昼時に、まずは訪れてほしい。撮影/津久井珠美 文/野村枝里奈■乃り英京都府京都市左京区一乗寺下リ松町31-2075-703-804511:30~14:00(L.O) 17:00~21:00(L.O)不定休
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BLOG料理人がオフに通う店
2020.07.28
「PIZZERIA DA NAGHINO ピッツェリア ダ・ナギーノ」-「Osteria CONACINETTA」坪内拓さんが通う店
「Osteria CONACINETTA」オーナーシェフ坪内拓さん京都のイタリア料理「ボッカ・デルヴィーノ」で修業したのち、イタリアのプーリア州に渡り、マルティーナ・フランカという町の一軒のオステリアで腕を磨いた坪内さん。修業先は小さな家族経営の店で、店主の個性がよく打ち出されており、日本と同じく、旬を大切にしており、素朴でいて奥行きがある食文化に魅了されたという。自身の店では、プーリアの郷土色を大切にパスタやパン、タラッリなどの粉物をはじめ、生ハムやサラミ類もできる限り、手作りを守る。そこに京都の農家から直接買い入れる野菜などを用いて、自分自身の味として打ち出し、多くの人を魅了している。三條実永さんが自身のピッツェリアをオープンしたのは2018年8月。東京で生まれ育った三條さんは、もともとグラフィックデザイナーを目指していた。研修のため、イタリアのデザイン会社で働くことになり、イタリアに渡ったのだが、不思議な縁でナポリのピッツェリアで働くことになったという。「向こうのデザイン事務所での仕事が自分のやりたかったこととあまりに違うこともあって、どうしようか悩んでいるときに、たまたま日本人の知り合いがナポリのピッツェリアで働いていて、自分が帰国するので空きが出るから、働いてみないか?と声をかけてくれたんです。ナポリで食べたピッツァの美味しさに衝撃を受けたこともあって、そのまま流れに乗ったという感じでしょうか(笑)」(三條さん)ナポリのピッツェリアでは、ピッツァイォーロという生地づくりから全体を統括する職人と、フォルナイヨという焼きを専門とする職人とに、作業の役割分担がはっきりしているそうだ。三條さんは、まず焼き方として修業を積み、最終的にはピッツァイォーロのサブの役目を勤めるまでになった。「ナポリでピッツアづくりに携わるようになって、その面白さに完全に魅了されました。各店で生地の味わいもちがうし、具材の組み合わせにも個性があって、お客さんもそれぞれの店の味にファンがいるんです。ナポリの住民全体がピッツアを愛し、誇りを持っていて、さすがピッツアの伝統がある街だと思いました」(三條さん)帰国後は、東京の「ピッツェリアGG」など、ナポリ風ピッツァの名店でさらに経験を積む。その後、シンガポールで4店舗のピッツェリアを展開する仕事を任され、人材育成なども手がけた。ピッツァの道一筋に数々の経験を積んで、ようやく自分の店を持つことになった。なぜ京都に開店したのか?その名前からも想像しやすいのだが、実は三條さんは公家の出身。小さいころから京都によく来ていたそうだが、父祖の地であるここ京都で自分の店を始めたいという気持ちが強くなっていったという。三条京阪から歩いてすぐの場所にある、この看板とオリーブの鉢植えが目印。「京都では、なかなか行きつけのピッツェリアがなかったのですが、こちらの店が開店してからは"あ、ここだ!"という感じで、その日から行きつけになりました(笑)」(坪内さん)「自分の店を始めるにあたっては、出来る限りナポリの味を踏襲することを心がけました。とくにピッツァ生地については、ナポリでは水分が少なめでしっかりとして歯応えがある生地が好まれるんですが、日本人はもちっとした食感を好むので、水分量を調整して、9割ナポリ、1割日本人好みの食感を意識した生地にしています」(三條さん)小麦粉、オリーブオイル、モッツァレラチーズ、トマト缶など8割以上の素材はすべてイタリアから取り寄せている。もちろんピッツァ窯もナポリの専門メーカーから船便で取り寄せた。店名の「ダ ナギーノ」とは、ナギーノの店という意味。ナギーノとは、三条さんがナポリで呼ばれていた愛称で、そのNとナポリのNをあわせて、窯の中央には誇らしげに「N」の頭文字がついている。生地をサッと伸ばして、具材をのせ、あっという間にピッツァがかたちづくられる。ピッツァは三條さんが前の日から用意しておいた生地を伸ばし、具材をのせ、窯入れする。熊本から取り寄せた楢の薪を使い、窯内の温度を550度近くまで上げる。薪を立て、炎を巧みに起こして、窯全体に熱が滞留するようにして、ピッツアを入れる。一度、取り出し、向きを変えて再度入れて、全体に焼きを入れていく。焼き時間はほぼ一分半、あっという間に焼き上がる。しっかりとした生地は、ほんのりモチモチ感をあわせ持ち、小麦の甘味をしっかりと感じさせる。ご自慢のピッツァ窯でピッツァを焼き上げる。ナポリ、東京、シンガポールで長年、磨いてきた腕をふるう瞬間。「イタリア料理やピッツアは、家族や友人とワイワイしながら食べるのが僕の理想です。現地の空気を感じさせるメニュー構成や、家族や子供連れでも気兼ねすることのない雰囲気も魅力です」(坪内さん)。チェックのクロスが、カジュアルでアットホーム、明るい雰囲気を醸し出す店内。人気のマルゲリータ1100円(価格は全て税別)。モッツアレラチーズはナポリのカゼルタから取り寄せている。ナポリ特有の青菜、フリアリエッリは菜の花に似た風味。フリアリエッリとローズマリーの香りを利かせたサルシッチャ(自家製ソーセージ)、モッツアレラをのせたサルシッチャ エ フリアリエッリ1550円。つまみにぴったりの料理も揃う。フリッタティーナ(グラタン入りコロッケ)2個入り480円(上)、写真下は、カラマーリ・フリッティ(スルメイカのフリット/下)850円。スターターとして何品かのフリット料理とイタリアンビールを頼んで、ピッツアの焼き上がりを待つという人も多い。イタリアのビールもおすすめ。アントニアーナ マーレキアーロ(左)、ナストロアズーロ(右)、共に750円。温かな色合いの店内の壁には、三條さんの修業時代の思い出の写真が並ぶ。「今日は外食の日という時に、どこにする?と妻に相談すると必ずノミネートされる一軒です(笑)。料理はもちろんですが、程よい広さと温かなサービス、店の雰囲気もとても良くて...。三條さんとのご縁は、以前、ここにおられたスタッフの方がうちの店にきてくれたことがきっかけだったのですが、話をしていて、お二人の信頼関係を垣間見ることができて、そのうちに三條さんも来てくださるようになりました。イタリアの話や僕の知らないピッツアの世界の話、自営業同士の話など、話が盛り上がりました。とても温和で、こちらがリラックスできる三條さんの温かな人柄が、この店の心地よさに繋がっていると思います」(坪内さん)Nの頭文字が誇らしげピッツァ窯の前で微笑む三條さん。温和な人柄が伝わってくる。「ナポリにおけるピッツェリアは、老若男女、いろいろな人が気軽に来て、食事を楽しむ場所。京都でもそういう場所をつくっていきたいと思っていますし、実際、いろいろな方が気軽に訪ねてきてくれています。ナポリから来られた方から日本でこんな懐かしい味に会えるとは!と喜んでもらうこともあります。今、日本人スタッフ二名に、イタリア人のピザ職人が加わって、このメンバーで、楽しくて美味しい食のひとときを作り上げていきたいと思っています」(三條さん)撮影/竹中稔彦 取材・文/ 郡 麻江■PIZZERIA DA NAGHINO ピッツェリア ダ・ナギーノ京都市東山区七軒町20-2 サングリーン1F075-744-656811:30~15:00、17:30~21:30(LO)(22:00 CL)不定休
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BLOG料理人がオフに通う店
2020.07.13
「料理処はな」-「Osteria CONACINETTA」坪内拓さんが通う店
「Osteria CONACINETTA」オーナーシェフ坪内拓さん京都のイタリア料理「ボッカ・デルヴィーノ」で修業したのち、イタリアのプーリア州に渡り、マルティーナ・フランカという町の一軒のオステリアで腕を磨いた坪内さん。修業先は小さな家族経営の店で、店主の個性がよく打ち出されており、日本と同じく、旬を大切にしており、素朴でいて奥行きがある食文化に魅了されたという。自身の店では、プーリアの郷土色を大切にパスタやパン、タラッリなどの粉物をはじめ、生ハムやサラミ類もできる限り、手作りを守る。そこに京都の農家から直接買い入れる野菜などを用いて、自分自身の味として打ち出し、多くの人を魅了している。大きな窓から外の景色を楽しめる広々としたナチュラルな雰囲気の店内。 川端冷泉通下る、ビルの二階にある「料理処 はな」は、鴨川に向かって全面、ガラス窓が広がり、春夏秋冬の季節の移ろいを楽しめる。特に夕暮れから空の色や町の風景が変わりゆく様子はとても美しい。 奥のキッチンからは調理中の芳しい香りが漂ってきて、ゆったりと配置されたテーブル席に座ると、ほっとくつろげる。「かれこれ10年くらい前でしょうか。近くに住んでいて、ある夜たまたま、こちらを訪れました。今はメニューにはないのですが、3品を盛り合せにした突出しが出て、一品ごとの料理への手のかけように驚いたのを記憶しています。店内の落ち着いた雰囲気や、料理の丁寧な仕立て、応対など店主の青山夫妻のホスピタリティを心地よく感じる事が出来ます」(坪内さん) 店主の青山孝さんは、大学卒業後、法曹人を志していたが、30歳を契機に料理の世界に入った。調理師学校で一から学び、京都の老舗、「京料理 道楽」で修業したのち、大阪・天満にて地鶏料理の店、「地鶏焼 でんえん」を開店。3年後に、当時、イタリア料理店で働いていて、のちに妻となる美由紀さんとともに、「料理処 はな」をオープンさせた。 夫婦で茶の湯の稽古に通い、茶道にも関心が高い青山さんは、桃山文化の茶の湯や茶道具に惹かれ、料理を大皿に盛って取り分ける華やかでスケールの大きな食文化に興味を持ったという。さらには魯山人の食への意識、器との取り合わせなど当意即妙な芸術観や料理スタイルに関心が広がり、当時の調理法などを深く掘り下げて調べたそうだ。「もちろん魯山人の芸術観にはまだまだ及びませんが、意識の底にいつもその世界観を描いて、料理に向き合いたいと考えています」(青山さん)丁寧に生けられた端正な花の姿に心癒される。「僕のおすすめは、"知覧地鶏の炭火あぶり 柚子胡椒ポンズで"と"地鶏粥"。ここに来たら必ず注文します」(坪内さん)「大阪・天満で店をやっている時は、土地柄もあり、庶民的な料理や価格でお客様に贔屓にしていただいていました。この時、様々な土地を巡って探し出した知覧鶏やエゾ鹿などを使って、炭火焼の最高の調理法を研究し、肉という素材の面白さに目覚めました。この店でも知覧鶏の炭火焼や地鶏粥などの人気料理は引き継いでいます」(青山さん)"知覧地鶏の炭火あぶり 柚子胡椒ポンズで"は、旨味とコクが濃厚な知覧地鶏のむね肉ともも肉を炭火焼にした一皿。単なる炭火焼ではなく、天満時代に探究した独特の炭火焼の技術を余すところなく生かしている。 肉の美味しさは究極、脂の美味しさでもあると考える青山さんは、肉とは別に脂の塊も仕入れる。その脂を肉の周りに置いて焼き始め、脂が火種に溶け落ちて、じゅわーと上がってくる煙で肉を包み込み、脂の旨味をしっかりとまとわせて、仕上げていく。肉はスモーキーな香に包まれて、外はこんがり、中はしっとりと理想的な焼き上がりとなる。運ばれてくる瞬間からスモーキーな香気が鼻腔をくすぐる。自家製のポン酢と柚子胡椒を合わせたタレとともにいただく「知覧鶏炭火あぶり 柚子胡椒ポンズで」680円(価格は全て税別)。ソウメン瓜の包み揚げ1000円。夏の懐石料理でみられる「冬瓜の包み揚げ」をソウメン瓜でジ。オクラ、しいたけ、えび、うなぎの実山椒煮をソウメン瓜で包んで、からりと揚げた一品。チェリーやラズベリーの香りと濃いロゼ色が美しいロマルドグレコ ネグロアマーロ ロザートとペアリング。美由紀さんご自慢の自家製リコッタチーズを詰めたトルテッリ 柊野農園のフレッシュトマトソース 1400円。手打ちのトルテッリと濃厚な完熟トマトのソースの組み合わせ。よく冷えたカンパーニャ州のファランギーナとともに。「こちらのお店には、美味しい和食が食べたいなと言う時に、妻と行く事が多いですね。何を食べても、仕立てのクオリティーの高く、それでいてとてもリーズナブルな料金で、あれこれ注文してしまって、ついつい品数が多くなってしまします。今は子連れでお邪魔していますが、1歳5ヶ月の息子もバクバク食べてました(笑)」(坪内さん)定番の〆膳「地鶏粥」1000円。知覧鶏のガラを3日間炊いた濃厚なガラスープを漉して美味いエキスだけを抽出。このスープを使って生の米から炊いた地鶏粥は米の一粒ひと粒に鶏の旨味とコクがしっかり染み込んでいる。自家製のぬか漬けと一緒にどうぞ。 メニューは、仕入れによってほぼ日替わり。前菜、お造り、サラダ、揚げ、一品、炭火焼、パスタ、デザートなど、和食とイタリアンが融合した料理構成となっている。パスタやサラダなどは、イタリアン出身の妻の美由紀さんが腕をふるう。また、ソムリエでもある美由紀さんは、料理とワインのペアリングも提案してくれる。「イタリアを中心に70〜80種のワインを揃えています。おすすめの"グラスセット3種類"なら、スプマンテ、白、赤、ロゼからお好きなワインを選んでいただけますし、ペアリングをお任せいただければ、料理に合わせてチョイスさせていただきますよ」(美由紀さん)美由紀さんがセレクトしたワインの数々。料理とのペアリングを楽しみたい。「炭火焼をはじめ、シンプルな調理法を貫きながら、自分のモットーである自然界の素材の美しさや形を崩さず、できるだけ器の中にその味わいと美しさを表現すること。魯山人のように素材に対して、いかに当意即妙に自分が反応できるかをこれからも探っていきたいと思っています」 センスが光る料理の数々とワイン、窓いっぱいに広がる鴨川沿いの景色の移り変わりを楽しみつつ、息のあった夫婦のもてなしにゆっくりと浸ってみてはいかがだろう。撮影/竹中稔彦 取材・文/ 郡 麻江■料理処 はな京都市左京区川端二条上ル新生洲町104番地リヴァク鴨川Ⅱ 2F075-751-575717:00~22:30(LO)日曜定休(月祝の場合は日曜営業、月祝休)
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