料理人がオフに通う店
「旨い店は料理人に聞け!」食材を見る目や鋭い舌をもつ料理人が選ぶ店なら、決して外れがないことでしょう。 京都を代表する料理人がオフの日に通う店、心から薦めたいと思う店とは?
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BLOG料理人がオフに通う店
2020.06.08
「Osteria CONACINETTA」-「炭焼みはな」長手未華さんが通う店
「炭焼みはな」店主 長手未華さん昔から食べることが大好き。大学時代、飲食の仕事に興味を持ち、この世界に進む。イタリアンの「La Camartina」や、鶏料理の「侘家古暦堂」などで修業を積み、昨年、自身の店をオープン。本人も大好きという、焼き鳥とナチュラルワインを提供。関西では数店舗しか扱いのない、丹波・高坂鶏も使用。夫は、イタリアンの「Lapintaika」のオーナーシェフ、正彦さん。光が差し込み、ナチュラルな心地よさに包まれる店内。 聖護院にほど近い静かな住宅地の一角にある一軒のオステリア。入り口では緑のハーブの鉢植えが出迎えてくれ、店内に入ると白い壁にナチュラルな木のテーブルと椅子が置かれ、自然な安らぎを与えてくれる。 オーナーシェフの坪内拓さんは、京都のイタリア料理「ボッカ・デルヴィーノ」で修業したのち、イタリアのプーリア州に渡り、マルティーナ・フランカという町の一軒のオステリアで腕を磨いた。 「コナチネッタ」という店名は「粉」とパスタを作る際の作業の「ちねる(抓る/つねる)」を組み合わせた、シェフオリジナルの造語だが、洒落たネーミングにもセンスを伺わせる。「以前勤めていた店に、シェフの坪内さんがお見えになって、いろいろと話しているうちに仲良くなって、お店に伺うようになりました。内装もシェフのセンスが溢れて気持ちがいいし、器もプーリアの窯元にオーダーして作ってもらったそうで、いちいち心憎いんです(笑)。最初に行った時から居心地もすごく良いし、お料理も美味しいし、すっかりファンになってしまいました」(長手さん)「プーリア州は南北に長く、北部は大穀倉地帯で、海沿いでは漁業が、中部では酪農や農業が盛んに行われ、まさにイタリアの食材庫という地域なんです。海の幸、山の幸に恵まれた土地で、修業をするなら絶対にプーリアで、と考えていました。料理はとてもシンプル。豊かな食材恵まれているので、素材の特徴をよく生かす料理法がベースになっています。そこに日本と同じく、旬を大切にする文化があり、素朴だけれど、奥行きがある食文化に魅了されました」(坪内さん)今日の前菜は、カポコッロ(豚肩肉の生ハム)、ミント入りのコロッケとズッキーニのフリット、パプリカのインヴォルティーニ、トマトとストラッチャテッラのフリセッリーネ。色とりどりの前菜は、これだけでもワインが空いてしまいそうなほど。よく冷えたスプマンテを合わせたくなる。パスタかメインを選ぶランチ2500円には前菜4皿がついてとてもお値打ち。ディナータイムには4皿1600円、7皿2500円(各一人前)。写真はすべて2人前。※価格はすべて税別。 「私は主に、女友達と行くことが多いですね。女子って美味しいものをちょっとずつ食べたいというのがありますよね。友達も美味しいものに目がなくて、欲張りさんなので、特にコナチネッタさんの小皿でいろいろ楽しめる前菜スタイルはピッタリなんです。連れていった友達は皆喜んでくれますよ。前菜と一緒にいただくプーリア州のアルタムーラというパンもお気に入りです」(長手さん) ランチでもディナーでも楽しめるのが、「店主のお楽しみ前菜」だ。小皿にその時々のおすすめの前菜料理を盛って、パンの町「アルタムーラ」から届く天然酵母を使い、自身で焼くアルタムーラパンと一緒に提供する。このパンはどっしりとして、噛み締めると穀物の甘みが豊かに広がっていく。「僕がプーリアで働いていたのは小さな家族経営の店で、店主の個性が打ち出されていて、お客さんもその店主との会話を楽しみに来るような店でした。店主の兄弟家族も皆、形態の異なるレストランを経営しており、それぞれの店でさまざまな料理やドルチェを勉強できるという恵まれた環境でした」(坪内さん) 料理のスタイルも味わいも、プーリアの郷土色を大切に、パスタやパン、タラッリなどの粉物をはじめ、カポコッロ(豚肩肉の生ハム)やサラミもできる限り、手作りを守っている。オリーブオイルはもちろんプーリア産を使用。そこに農家さんから直接買い入れる野菜などを使い、自分自身の味として打ち出している。坪内さんはパスタのサンプルを見せながら、食感や味わいの説明をしてくれる。丁寧に作った手打ちパスタは穀物本来の滋味に満ちている。「穀倉地帯であるプーリアは、パスタによく使う硬質小麦の一大生産地でたくさんの種類の手打ちパスタがあります。コシがあって味わいの濃厚なパスタが多く、うちの店でも乾麺のスパゲットーニ以外は、伝統的なオレキエッテやトゥリエ、トロッコリなど、すべて手打ちで作っています」 メニューには「オレキエッテクラシコ〜リナばあちゃんのクラシックなスタイルで」や「ひよこ豆のトゥリエ〜レッチェの食堂のメニューより」など、現地で親しくなった料理人たちから直伝の料理も並ぶ。「長手さんもそうですが、最初は前菜をあれこれ楽しんでいただいて、その後、パスタ、メインとオーダーされる方が多いですね。小腹が空いたという方は、前菜の小皿料理だけでワインを1本楽しまれたりもしますよ」(坪内さん)オレキエッテ・クルダイオーラ(本マグロ、チェリートマト、ルッコラのほんのり温かいサラダ仕立て)1800円には、カチョリコッタチーズをたっぷりとかけて。イタリアでは冷製パスタはほぼ見られないが、この料理は、プーリアの暑い季節にサラダ風に仕立てて、現地の人がよく好んで食べるという。プーリア州ご自慢のロザート(ロゼワイン)によく合いそう。おすすめのメイン料理の一つ、「ボンベッテ(モッツァレラチーズを包んだ豚肩ロース)のグリルと、仔羊と仔牛の合挽きミンチを羊腸に詰めたザンピーナの盛り合わせ」3200円。※写真は2人前左から、コメ ディンカント(カンティーナ・カンペンティエーレ/白)7,500円、サーレ5,000円(メンヒル/白)、サトゥルニーノ ロザート サレント(テヌーテ ルビーノ/ロゼ)4,800円。グラスワイン800円〜はスパークリング、白、赤、ロザート(ロゼ)、が揃う。ボトルワインは4,000円〜。「ワインはすべてプーリア州のものを揃えています。ワインも盛んに造られていて、優秀なワイナリーが多いんです。特にロザート(ロゼ)のクオリティは非常に高く、おすすめです。コース料理をすべて、いろいろなロザータで楽しんでいただくのもいいですね」(坪内さん)。店内では、プーリアを代表するパン、アルタムーラパンやワインに合うタラッリ、ビスコッティなどを販売。 窓を広く取った店内で明るい日差しを浴びながらの爽やかなランチ、明かりが灯る頃から始まる楽しいディナー。軽い料理とワインを、あるいは、しっかりとコース仕立てで。家族と、友人と、あるいはおひとり様で。 さまざまTPOにしっかり応えてくれる坪内さん。プーリアの風を運んでくれそうな料理の数々と、ワインと、温かなもてなしを存分に堪能したい。撮影/津久井珠美 取材・文/ 郡 麻江■Osteria CONACINETTA京都市左京区聖護院東町14075-744-653012:00~15:00(LO13:00)、18:00~23:00(LO21:30)不定休
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2020.05.23
「炭焼みはな」-「炭焼 芹生」芹生玄さんが通う店
「炭焼 芹生」店主 芹生玄さん大学時代、飲食の世界に興味を持ち、在学中に一年間、オーストラリアに留学。車でオーストラリア一周する時間が、外から日本文化を見つめる貴重な機会となり、和食の道へ進むことを決意。宮川町の「蜃気楼」をはじめ、木屋町の名店「割烹やました」では10年間修業し、長年、焼き場を担当。炭焼の技を研鑽する中で、炭焼の奥深さに魅了され、自身の店開く際も、炭火焼を柱に据えた。目利きとして厳選した旬の素材をふんだんに用い、最高の炭火の技を駆使して、香味豊かな炭火料理を提供している。店内はカウンターのみ。モダンな空間に和やかな空気が流れている。 三条通を烏丸通から西へ、個性的な新店が続々とオープンする釜座町界隈に、、また魅力ある店が昨年夏にオープンした。女性店主の長手未華さんは炭火料理の「侘屋古歴堂」や肉料理の「ハンター」などで働き、自身も強く魅了された炭焼の店をつくったという。ご主人は、岡崎近くのイタリアンレストランのオーナーシェフだ。「仕事帰り、『ハンター』さんによく伺っていて、その時、お店で働いていたのが長手さんでした。気さくで明るくて話しやすい人で、親しくさせてもらうようになりました」(芹生さん)「大学時代から飲食の世界に興味があって、進みたいと思っていました。色々なお店で経験を積ませていただきましたが、若い頃から焼鳥が大好きで、自分の店をするなら焼鳥を中心にした炭火料理の店をしたいなあと思っていました。女性一人で焼鳥店って入りにくいじゃないですが。そういうのをなくして、気軽に入りやすいお店にしたかったんです」(長手さん) 店内はカウンター席のみ。温かな雰囲気で、長手さんの人柄そのものの空気が満ちている。炭は場所によって温度帯を変え、串を絶妙なタイミングで動かしながら、火入れしていく。 素材を炭火で焼くというシンプルな手法が好き。それだけに素材の吟味、炭火の火加減、時間などに心を砕く長手さん。同じ鶏でも部位によって焼き加減を変える。高知県産の備長炭を使い、素材は丹波篠山の高坂鶏や鳥取の大山鶏が中心。その鶏の特性を最大限引き出せるよう、細心の注意を払って火入れをする。「店が近いということもあって仕事が終わった後に、スタッフを連れていくことが多いですね。遅めの時間に行くことが多いので、その日、まだ材料があるものからおすすめで何品か焼いてもらいます。焼き鳥に合わせて飲むのは主にワイン。僕はナチュラルワインが好きなので、いつもその日のおすすめのグラスワインをいただきます」(芹生さん)「芹生さんはいつも最初に一品ものを注文して、焼鳥の焼き上がりを待ちながら、ワインとともに楽しんでくださいます。お客様もそういう方が多いですね。私の考えですが、炭焼料理には造り手の想いが素直に反映されたナチュラルワインがすごく良く合うと思います。炭焼はシンプルな調理法ゆえに、出来あがる料理が焼き手によって異なります。ナチュラルワインもまた、量産型のワインと違って、同じ造り手でも年によってワインの味わいが変化するあたりが魅力で、炭焼と共通する点がとても多いと思います。芹生さんはとても勉強熱心な方なので、ワインのことを色々と聞かれますが、話していて私もとても勉強になります」(長手さん)人気の一品、「親鳥のたたき風」600円。しっかりとした肉質の親鳥のもも肉を炭火で香ばしく炙って、食べやすいよう細かく切って、ポン酢でいただく。濃厚な肉の旨みとあっさりとしたポン酢の相性がとてもいい。 女性に特に人気なのが季節の果物を使ったサラダ。写真は水ナスと文旦のサラダ580円。甘酸っぱい文旦の爽やかさとみずみずしい水ナス、カッテージチーズが軽やかな風味を生み出す。季節によって素材の組み合わせが変わるのも楽しい。「とにかく彼女は、炭焼の経験をしっかりと積んでいるので、焼き加減、火入れ加減が絶妙で、同じ炭焼をやるものとして、とても勉強になります。お?こんな素材を使うのか、とか、こんな素材の組み合わせがあるのか!とか、目からウロコの新鮮な発見があって、美味しく楽しみながら、こちらも勉強をさせてもらっています」(芹生さん)ムネ(梅しそ)250円はややレアめに焼き上げている。あっさりしながら旨味が濃厚。塩とわさびでいただくだき身は、コクがあってとてもジューシー。300円。 人気上位のつくね250円は、ムネとももを粗挽きにして、肉らしい食感を楽しめる。長手さん自身が好きだというデリック・ラーセン氏や板原摩紀さんなど、個性ある作家ものの器使いもまた、店の大きな魅力になっている。 ナチュラルワインも豊富に揃う。左から、ロミュアルド・ヴァロ アントリュージョン ロゼ、ドメーヌ・ラ・トープ スラン、メイガンマ ロザート。グラスワイン800円〜。ボトルワイン4000円「開店して1年も経っていないので、まだまだやりたいことが山積みです。シンプルだからこそ奥が深い炭焼の世界を、もっともっと追求したい。大好きなナチュラルワインと焼き鳥のマリアージュをいろんな方に楽しんでいただきたいです」(長手さん) これからますます進化していく長手さんの炭焼の世界。じっくりと付き合っていきたくなる一軒だ。撮影/津久井珠美 取材・文/郡 麻江■炭焼 みはな京都市中京区釜座14 Pavillion三条1F075-221-559518:00~23:00(LO)不定休
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2020.05.22
「ESTRE」-「炭焼 芹生」芹生玄さんが通う店
「炭焼 芹生」店主 芹生玄さん大学時代、飲食の世界に興味を持ち、在学中に一年間、オーストラリアに留学。車でオーストラリア一周する時間が、外から日本文化を見つめる貴重な機会となり、和食の道へ進むことを決意。宮川町の「蜃気楼」をはじめ、木屋町の名店「割烹やました」では10年間修業し、長年、焼き場を担当。炭焼の技を研鑽する中で、炭焼の奥深さに魅了され、自身の店開く際も、炭火焼を柱に据えた。目利きとして厳選した旬の素材をふんだんに用い、最高の炭火の技を駆使して、香味豊かな炭火料理を提供している。アットホームな雰囲気でくつろげる店内。木のぬくもりが優しい。 東大路通三条下ル。ビルの一階にある小さな入り口を入ると、なんとも心地よい空間が広がる。wine & beer「ESTRE」は、クラフトビールやナチュール系のワインを豊富に取り揃え、オーナーシェフの井上純一さんが作る料理とともに気軽に楽しめるイタリアンバールだ。妻の春香さんとともに、アットホームなもてなしで出迎えてくれる。 井上さん夫妻の息の合ったもてなしがとても心地いい。「井上さんご夫妻とは、滋賀県で開催された食イベントで隣同士のブースになって、そこから交流が始まりました。ご主人は新潟出身、奥さんは青森出身で、お二人とも本当に人柄がよくて、二人が醸す暖かさが心地よくて通ってしまうんです」(芹生さん) 仕事が早く終わった日の帰りがけに、ふらりと立ち寄るという芹生さん。いつもチケーティ(小皿料理)を何皿か頼んで、それをつまみに、本日オススメのグラスワイン何種類か味わうのだそう。「チケーティは毎日、15種類くらい用意しています。一皿200円〜で、手軽に色々な料理を楽しんでいただけます。お二人以上なら、盛り合わせもおすすめです」。そう話すオーナーシェフの井上さんは、東京や京都のイタリアンレストランやカフェ、バールなどで修業を積み、3年前に独立。自分たちの好きなナチュール系ワインやクラフトビールとともに、気軽に料理を楽しめる店を作りたいと考えたという。 左からフレッシュオレンジと人参のサラダ、ブロッコリーのアンチョビソテー、ヤングコーンのチーズロースト、海老のクミンバターソテーなど、色とりどりのチケーティは一皿200円〜。前菜盛り合わせ1300円〜もお値打ち。 メニューは黒板にぎっしり書かれているが、その日の仕入れで変わるそうだ。野菜が特に好きで、いろいろな種類の野菜を様々にアレンジするのが楽しいという。チケーティだけをとっても、人参、ヤングコーン、ブロッコリーと野菜のメニューが多く、様々な味わいにアレンジされている。 メニューは野菜料理、魚介料理、肉料理、そしてパスタ、リゾットで構成されていて、チケーティとワインを軽く楽しみたいという人から、肉とパスタでガッツリ食事をという人まで、どんなシチュエーションでもしっかり応えてくれる。スペアリブのオレンジとローズマリーの煮込み700円。オレンジジュースと白ワインでスペアリブをじっくり煮込み、マスタードとローズマリーの香味をプラス。甘酸っぱいソースととろけるように柔らかい肉を堪能。「クミンなどのちょっとしたスパイス使いや、フレッシュな果実や果汁をソースに用いたり、とにかく井上さんは料理センスが抜群なんです。何を頼んでも美味しくて、毎回、料理談義も弾みます。いつも締めに頼むのが、大葉のジェノベーゼパスタ。これが本当に美味しくてメニューにあると必ず、注文してしまいます!」(芹生さん) 大量の大葉とローストアーモンドパウダーをミキサーにかけて作る香り高いソースに、海老、イカ、シラスなどの魚介を合わせて、リングイネ・ピッコロと合わせて、千切りの大葉をたっぷりトッピング。見た目も鮮やかな大葉のジェノベーゼパスタ1400円。「井上さんと奥さんがうちの店に来てくれることもあって、これからも交流を深めていきたいですね。料理について刺激しあえる間柄でいたいと思っています」(芹生さん)「そんな風に言っていただけると恐縮してしまいますが、とても嬉しいです」(井上さん) 自身もワインやクラフトビールが大好きという井上さん。お酒好きなシェフが作る料理は、どれもワインやビールがついつい進んでしまう味の仕立てだ。さらに店主夫婦の親しみやすい人柄と店の心地よさも手伝って、つい長居をしてしまいそうになる。料理のプロ同士の刺激的な交流から生まれるであろう、新しい味わいがこれからも楽しみだ。ナチュール系のワインが豊富に揃う。左はイタリア・ピエモンテ州のオレンジワイン、G940円、B6500円。右はフランス・ブルゴーニュのピノノアール、G990円、B7890円。グラスワインは泡、赤、白、オレンジなど常時7〜8種類、用意している。クラフトビールも多彩。1本800円〜。撮影:津久井珠美 取材・文:郡麻江■wine & beer「ESTRE」京都市東山区三条通南裏白川筋西入3丁目南西海子町434−6ー1F075-551-828918:00~24:00(LO)不定休
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2020.04.23
「炭焼 芹生」-「Vena」早川大樹さんが通う店
イタリア料理「Vena」シェフ早川大樹(ハヤカワ ヒロキ)さん《プロフィール》1982年、京都府生まれ。イタリアンの名店「イル・ギオットーネ」で修業を積み、2016年、ソムリエの池本洋司さんとともに「Vena」を開業。これまで積み上げてきた経験をベースに、丁寧に食材を選び、旬を瑞々しく感じさせる料理で多くのファンの心と舌を掴んでいる。旬味満載の一品とひと手間掛けた炭火焼をコース仕立てで。素材の持ち味を引き出す、名店譲りの技に注目。先日、オープン3周年を迎えた「炭焼 芹生」。名割烹として知られる木屋町「やました」出身の芹生玄さんが、「やました」仕込みの炭火料理をコースで提供し、根強い人気を誇る一軒だ。「芹生さんとは朝の市場で顔を合わすことが多いですね。同い年ということもあり、自然と言葉を交わすようになりました」と早川さん。L字のカウンターは、おいしいものに目がない客で賑わいをみせ、早川さんのような飲食関係者も少なくない。同じ魚屋で仕入れをすることから、しばしば市場で顔を合わせるというお二人。今では互いの店を行き来したり、共通のお客さんを介した食事会で盛り上がることもあるそうだ。「休日に妻と伺うことが多いのですが、コースの料理はどれも美味しく、素材の持ち味をうまく引き出していると感じます。一見シンプルですが、調味料を工夫していたり、細やかな気遣いが勉強になります」(早川さん)コースには炭火焼以外に和え物やお造り、椀物、酢の物など、魅力的な料理が数多く盛り込まれ、旬のごちそうが一通り楽しめる内容に。「やはり『やました』での経験が大きいと思います。大将は食材の持ち味を引き出すのがうまい人。常に"素材の味をどう表現すべきか"と考える癖がついたのは、大将の影響ですね」と芹生さん。「『やました』では、まだジビエを扱う店が少なかった頃から猪や熊を積極的に使っていて、川のものなどでも他所の店では扱ってないものを出していました」と、修業時代を振り返る。コース中ほどに出される野菜焼き。しいたけは炭火で焼いた後、バターとブランデーで別途香り付けを。皿には能登の天然塩と、自家製の合わせ味噌が添えられる。味噌は柑橘類やごまで風味付けした焼き野菜用の特製味噌で、思わず日本酒を追加したくなる味わい。「野菜は季節によっていろんなものを使います。旬のものを市場で仕入れることが多いですね。丸茄子があるときは茄子田楽を作ってみたり、その時々で出し方も工夫しています」(芹生さん)この日の肉は和牛のラム芯(もも)。鹿児島県産の赤身を使うことが多いという。猪や鴨、ごく一部の店でしか食べられない鹿児島産の希少な豚「サドルバック」が入荷することも。「休ませながらじっくり時間をかけて焼いていくので、柔らかいでしょう?」と、笑顔の芹生さん。肉に添えられたタレがまたくせ者で「コース終盤でもすんなり胃に収まってしまいます」と、早川さんも絶賛。「これは『やました』で覚えた肉だれです。大根、人参、セロリなどが入った和風のデミグラスソースで、ハマる人が多いですね」(芹生さん)「今日は千葉の金目を焼きました。同じ魚でも獲れた場所によって味や脂の乗りが全然違うんです」と、今から焼く魚を見せてくれる。いつも捌く前の魚を直接お客さんに見てもらい、どれを焼くか選んでもらっている。金目は焼き上がり直前に刷毛で醤油をサッと塗り、香ばしく仕上げる。時には西京焼きや幽庵漬など、下味をつけた魚を用意することも。「本当は『やました』のような割烹スタイルが理想なんですが、うちの規模ではなかな難しい。でもせめてメインぐらいは自由に選んでもらえたら」と、主菜の選択肢を多めに用意する。仲のいい料理人仲間と全国の人気店に足を運び、「今どんな料理が求められているのか」「どんな調理法が流行っているのか」など、情報収集にも余念がない。ブラッシュアップを欠かさない芹生さんの料理と気さくな接客を楽しみに、今日も多くの客が「芹生」の暖簾をくぐる。コースは8000円~20時半以降はアラカルトでの注文も可。撮影 鈴木誠一 取材・文 鈴木敦子■炭焼 芹生京都市中京区占出山町299 ヒラタビル1F075-744-048811:30~13:00(L.O.)、17:00~22:00(L.O.)月曜・第3日曜休
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2020.04.15
「IL GECO」-「Vena」早川大樹さんが通う店
イタリア料理「Vena」シェフ早川大樹(ハヤカワ ヒロキ)さん《プロフィール》1982年、京都府生まれ。イタリアンの名店「イル・ギオットーネ」で修業を積み、2016年、ソムリエの池本洋司さんとともに「Vena」を開業。これまで積み上げてきた経験をベースに、丁寧に食材を選び、旬を瑞々しく感じさせる料理で多くのファンの心と舌を掴んでいる。 四条西洞院下ルにある静かなビルの地下一階。そこに「イタリア料理&ワインIL GECO」がある。オーナーシェフの矢守保則さんは、京都の「サンタ・マリア・ノヴェッラ」をはじめ、京都、大阪のイタリアンレストランで修業を積んだ。7年前に独立し、自分の店をオープンさせた。「奇をてらわず、普通の料理が当たり前に美味しいという店を目指しました」という矢守さん。アラカルトが主体で、ワインはすべてイタリアのものを揃えている。サービスを担当する妻の寛美さんと二人で店を切り盛りしている。「僕がVenaを開店した頃から伺うようになりました。定休日前日の、仕事終わりに訪ねることが多いですね。うちの店は、王道のイタリアンというよりは、創作イタリアンにシフトしているので、本場の味に近いものを出しておられる矢守シェフの料理をよく食べたくなるんです。矢守さんは、よくイタリアに行かれていて、たとえばシチリアやヴェネト、ローマなどの現地の料理を視察、体験して、それをリアルに活かした料理を出してくれるので、とても勉強になりますし、刺激を受けています」(早川さん)「そうですね。ほぼ毎年、一度のペースでイタリアに料理の研修に行きます。あちこちの都市を巡るのではなく、ある一定に地域に滞在して、まず、その土地の郷土料理を食べる。何軒もの店を回って、同じメニューを味わって、その料理の郷土色や風土が育てた味の原点を感じ取るようにしています。でも帰ってからが大変で...。毎回、研修結果報告の料理アルバムを作成すること、研修記念の特別メニューに取り組むことを自分に課しているので(笑)。でもお客さんも楽しみにしてくださるので、それは続けているんです。その特別メニューの中から、評判の良かった人気料理をグランドメニューにすることもあります」(矢守さん)モチモチとした食感が食欲をそそる「クルルジョネス」600円 メニューは大きくアンティパスト、プリモピアット、セコンドピアットに分かれている。深夜2時頃までオープンしているので、早川さんのような同業者のプロの料理関係の人もよく立ち寄るそうだ。 「僕はまずビールを飲んで、そのあとはワインを1本、ゆっくり飲みます。最初に前菜をアラカルトで頼んだり、盛り合わせにしたり。その後は、おまかせでその時期のパスタをいただきます。仕事が終わってからなので、大抵夜中の12時ぐらいから行って、閉店までいる感じですね」(早川さん)。 早川さんも時々食べるのが、矢守さんご自慢の前菜、サルディーニャ島のマンマ直伝の「クルルジョネス」600円。本当はパスタ料理だが、量が多くなってお腹がいっぱいになってしまうので、2個だけ前菜として提供している。 自家製のパスタでじゃがいも、ペコリーノ、ミントを包んで、茹でて、トマトソースを添えた一皿で、パスタのもちっとした食感、じゃがいもとペコリーノの相性も良く、2個、ペロリと食べてしまう。「こういう現地の料理を食べながら、材料や作り方について、いろいろ教えてもらって...。料理の話をよくしていますが、本当に勉強になります。新しいメニューを考えている時や、はじめての食材に出会った時など、どんな料理にしたらいいかとか、どんな食材を合わせたらいいかとか、いつも丁寧に答えてもらえるので、助かっています」(早川さん)。「イタリアは各地に郷土食があって、現地の人も誇りを持ってその料理を大切にしています。京都にいても、肉や魚、野菜などの素材は、ほぼイタリアと同じものが手に入るので、調理法は出来るだけ現地のやり方を踏襲しています。日本独特の季節の素材など、その時に旬の美味しいものが手に入ったときは、それもまたイタリアの地産地消の考えと同じで、素材は日本、調理法はイタリアの技法で料理していきますね」(矢守さん)甘酸っぱさが日本人にもなじみやすい、牛レバーのアグロドルチェ 1100円。 もう一品、人気の前菜がヴェネト州の郷土料理である、牛レバーのアグロドルチェ 1100円。アグロドルチェとは甘酢。酸味をヴィネガーから、甘味を玉ねぎから引き出し、そこにバターをからめてコクのある一品に。新鮮なレバーは臭みを感じさせず、まろやかな味わいは、ついワインを呼んでしまう。マリアージュの楽しさもじっくり堪能したくなる。「こういった食材の組み合わせ方、出会いの妙、ワインとの相性など、感性豊かで楽しくて、いつもヒントをもらって帰ります」(早川さん)。滑川産ホタルイカ濃厚ペーストリングイネ1600円 本日おすすめの季節のパスタは、滑川産ホタルイカ濃厚ペーストリングイネ1600円。ぷりぷりのホタルイカを潰してペースト状にしたものをソースにして、やや平麺のリングイネに合わせた一品。ホタルイカのほろ苦さと香りが、パスタによくからんで、まさに春の香り高き一品に。「僕は塩をあまりダイレクトに調味に使わないんです。このパスタもホタルイカが持っている塩分とアンチョビの塩味で、味付けしています。そのほうが料理全体が良く馴染んで、さらに美味しくなるように感じるので...」(矢守さん)。 「早川シェフのように、若手でがんばる人たちと料理の話をするのは、僕自身も刺激を受けるし、相談に乗りながら自分の中でパッとひらめいたり、アイデアが浮かんできり。僕にとっても楽しいひとときになっています」(矢守さん) 店名のGECOはヤモリのこと。矢守さんの名前をもじって店名にしている。家を守るようにシェフが立ち働く温かく心地いい空気に包まれて、イタリア各地のワインとともに、郷土の香りが立ち上るような料理を堪能する食時間。京都にいながらにして、まるでイタリア各地を食べ歩いているかのように、気分も高揚してくる。シェフ渾身!の旅の料理アルバムをめくりながら、各地の思い出話に花を咲かせるのもなかなか贅沢だ。撮影/竹中稔彦 文/郡 麻江■イタリア料理&ワイン「IL GECO」(イル・ジェーコ)京都市下京区西洞院通四条下ル妙伝寺町720 光悦ビルB1F075-371-647718:00~2:00ぐらいまで 予約がベター休 月(不定休あり)
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2020.03.21
「ツネオ」―「青柳」青柳旭紘さんが通う店
「青柳」青柳旭紘さん《プロフィール》京都市生まれ。23歳の時に調理師学校に入り、24歳から料理の世界へ。和洋の料理を経験する中で魚を扱う面白さ、奥深さを知る。30歳で独立し、魚料理専門店「青柳」をオープン。上質の素材を駆使した季節のコースで、魚介の魅力を余すところなく伝えている。今年で13年目を迎える。選り抜きの素材で織りなす料理と上質ワイン。幸せな出合いを現代と過去が融合した空間で「最初に会ったのは市場やったかな。ここも魚屋さんが同じで、互いの店に行くようになったと思います。いい魚を使った和食が食べられてワインもおいしいし、堅苦しくなく、居心地がいい。遅くまで営業されていたので、仕事終わりに行くことが多かったですね。最近祇園に移転されたんですが、前より使いやすく、雰囲気もおしゃれ。落ち着いて飲める大人の店になった印象です」(青柳さん)花見小路通からすぐの富永町の雑居ビルの1階奥。明治時代のレトロなガラス戸を開けると、中は大きなワインセラーが置かれたコンクリート打ちっぱなしの空間に。青柳さんが通うここ「ツネオ」は、上質の素材を使った和食や豊富なワインが楽しめると、人気の店。もとは下河原通で営んでいたが、今年2月5日に移転。行きやすくなったと、常連たちを喜ばせている。以前と同様、厨房を囲むカウンターで、食事を楽しむスタイルだ。「青柳くんとは市場の仕入先が同じで、行く時間帯は違うんですが、たまに一緒になるので親しくなって。最初に来てくれたのは2、3年前かな。店でも料理の話をしたりします。僕と同い年で、同年代の中でも趣味趣向がバチっと合うというか、尊敬しあえる存在ですね」と、店主の岸名裕彦さん。「イル・ギオットーネ」丸の内店など、東京のイタリアンでサービスの仕事に従事した後、独学で料理を勉強し、2013年に店を開いた。 「食べ疲れしないというか、口に入った瞬間に、ああ、おいしいなと思ってもらえるような引き算の料理を心がけています」と、岸名さん。"毎日でも通える食べ飽きない料理"をコンセプトに、白ごまを使った定番の嶺岡豆腐や造りなど、素材本位のシンプルな料理をアラカルト中心に提供している。それだけに素材選び、特に魚介への思い入れは強く、毎朝市場に赴き、納得したものだけを仕入れている。 「仕入先が一緒だから、どれだけいいものを使っているのかわかります。あの人は食材マニアで、食材をよく知っている。凝り性でもあるので、同じ食材でも『こういう使い方もあるんや』と思うような料理を出されていて、勉強になりますね」と、青柳さんも刺激を受ける岸名さんの料理。極上の素材を更においしくするために、下処理にも力を入れ、例えば白ぐじなどの魚を血抜きして熟成させるなど、手間暇かけて工夫が施されている。サービス出身の岸名さんが集めたワインの充実ぶりも人気の秘訣。入口近くに設けられたセラーには、イタリア、フランスを中心に約150種、300本以上揃い、料理とのマリアージュを提案してもらえる。青柳さんは、ワインのセレクトを岸名さんにお任せし、料理をつまみながら楽しむことが多いそうだ。「入手しにくい古いビンテージのものなどを結構揃えています。青柳くんはシャンパンやしっかりめの白がお好みですね」(岸名さん)牛生レバーをヒントにしたという青柳さんお薦めの「低温調理した濃厚あん肝」2000円(価格は時期により変動あり)。「うちも使っている大きめのあん肝を低温で調理されていて、すごく柔らかい。とろけるような感じで、ワインにもものすごく合います。クリーミーで全然生臭さもないですね」と、青柳さん。あん肝を血抜きして牛乳に浸け、1時間程湯せんしたものを、ねぎとゴマ油、塩と共に味わう。ふわっとした食感、まったりとした味わいに、マルドンの塩がアクセントに。日本酒やローヌの赤ワインなどがよく合うという。「まず姿がすごくきれい。頭ごと食べられて、鮎を堪能できる感じです。肝の苦みもあるし、ワインにも合います」(青柳さん)青柳さんもよく頼むという「オイル鮎ディーン」800円は、脂ののった鮎で仕立てるスペシャリテ。ぬめりをとった鮎を1時間程塩をあてた後、ローリエなどと一緒にひたひたのオイルに入れ、ラップして6時間蒸すという。ふっくらと仕上がった鮎は、骨まで柔らかく、絶妙な塩加減でお酒が進む味わいだ。「皆、こんな鮎は食べたことがないと驚かれます。ワインはオーストリアのグリューナーフェルトリーナーのようなちょっと青臭い白がいいですね」と、岸名さん。 カウンター越しのコミュニケーションを大事にし、その中でお客の好みをくみ取りながら献立を考えたりするという岸名さん。青柳さんが「これもお薦め」という裏メニューのパスタも、お客のリクエストから始まったものだ。「こんなん食べたいと言われると、チャレンジしたくなる部分はあります。この界隈は口の肥えた方も多いので、そういう人たちの急な要望などにも対応できるようにしていけたら」「僕がコースよりアラカルトを中心にしているのは、自分の好きなものを自由に食べていただくほうが、お客さんもストレスなく楽しめるんじゃないかと思うからなんです」と、岸名さん。あちこちから入るオーダーを聞きながら、料理を作り、会話する。そんなライブ感が好きだという。それはお客にとっても、同様に魅力的な時間に違いない。予算はワインを飲んで1万5000円~2万円程。撮影 エディ・オオムラ 文 山本真由美■ツネオ京都市東山区富永町123 花見会館107号室075-746-497718時~23時(LO21時)休 不定
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BLOG料理人がオフに通う店
2020.03.18
「Vena」―「青柳」青柳旭紘さんが通う店
「青柳」青柳旭紘さん《プロフィール》京都市生まれ。23歳の時に調理師学校に入り、24歳から料理の世界へ。和洋の料理を経験する中で魚を扱う面白さ、奥深さを知る。30歳で独立し、魚料理専門店「青柳」をオープン。上質の素材を駆使した季節のコースで、魚介の魅力を余すところなく伝えている。今年で13年目を迎える。年代物中心に充実のイタリアワインと旬の食材で織りなす独創的な皿のマリアージュを食材選びなどにポリシーがあり、独自性が感じられるような店に行くことが多いという青柳さん。今回お薦めに挙げるのは、御所南にある「Vena」。「イル・ギオットーネ」出身のシェフ・早川大樹さんと「ボッカ・デル・ヴィーノ」出身のソムリエ・池本洋司さんが共同経営するリストランテで、2016年12月のオープンながら2020年版ミシュランで星を獲得するなど、早くから高評価を受けている。町家を改装した店舗は、1階は庭を望むカウンター、2階は2つの個室で構成。池本さんが10年ほど前から集めていたという北欧の家具や、日本の作家の器など、上質なものが揃えられている。青柳さんは、元々2人と面識があったという。「早川さんはイル・ギオットーネの料理長をされている頃から魚の仕入先が同じで、話をするようになりました。池本さんも、ボッカ・デル・ヴィーノ時代にお店へ何度か行って「おいしいワインを出さはるな」と思っていたんです。その2人がやるお店はどんなんやろうと。僕の店にも来てくれていたし、できてすぐ行ったと思います。アンティークの椅子などもあって、すごく素敵なお店です」(青柳さん)「青柳さんは早川が知り合いで、彼を通して僕も青柳さんのことを知るようになりました。お互いの料理に刺激を受ける部分があるのでしょう。最初はアカの東さん、高台寺和久傳の松本さん、お魚屋さんと一緒に来てくださいました」そう話す池本さんは、修業時代、互いの店で交流があったことから早川さんと親しくなり、一緒に店を持つことを考え始めたという。「早川も将来的には独立を考えていましたが、ワインのことなど勉強し直さないといけない。僕も料理ができる人間を探さないといけないということで、お互いにないものを持っていた感じです。僕が力を入れてやりたかったのは、イタリアの熟成したワイン。ワイン本来のおいしさと、それに合わせたシェフのお料理を楽しんでいただこうというのが、コンセプトです」と、池本さんは経緯を語る。季節の味覚を盛り込んだメニューは昼6000円、夜13000円(各税サ別)のコースのみ。春は白アスパラ、筍、ホタルイカ、貝類などが登場予定だ。「素材の組み合わせが独特で面白いし、調理方法など考えをもってやっておられるのを感じます。ジャンルは違いますが、すごく勉強になります」と、青柳さん。その言葉に、「ありがとうございます。青柳さんとは、朝市場で食材の使い方など世間話程度に聞き合ったりします。僕は市場でメニューを考えるので、自然と季節に応じた料理を作っていく感じです。季節の素材を使った自分の思う料理を、イタリア料理を媒介に表現しています」と、早川さん。青柳さんの楽しみの一つが手打ちパスタ。写真の菜の花と自家製からすみのスパゲッティは、京都の農家から届く菜の花をペーストのように柔らかく炊き、からすみの角切りと小粒のパスタを揚げたものを散らして。アサリと鶏のだし入りのオイルが麺に絡む。しっとりしたからすみのコク、菜の花の風味がよく合う春らしい一品だ。「このパスタもだしが利いていて食感もよく、おいしかった。からすみも菜の花も麺も、一つひとつが考えられていると思います」(青柳さん) 早川さんが手打ちパスタにするのは理由があるという。「手打ちだとソースも麺も自分で作るので、一つの料理にしやすいんです。コースの途中で出すので、太いパスタにはせず、食べやすくするためもちもちと程よい弾力になるようにしています」(早川さん)「うちは魚屋なので肉料理は新鮮。毎回違うお肉が出るので楽しみにしています」(青柳さん)フランス・ラカン産の小鳩の炭火焼は、筍と原木椎茸のフキノトウと黒ニンニク和え、鳩の肝のソースと味わうシェフの自信作。鳩は丸ごと低温で火入れしたのち、骨から外して炭火で炙り、皮の脂を落として供する。身が詰まった鳩は、しっとりなめらかな食感で豊かな旨味がありおいしい。「鳩は敬遠されがちですが、実はすごく食べやすいんですよ」と、早川さん。肉料理は鳩のほか鴨、羊、牛などがよく使われるという。オールドビンテージの品揃えを誇るイタリアワインは、1960年代~80年代を中心に約1200~1300本をストック。「オープン2年ほどの店でこれほどオールドビンテージがあるところはほぼないと思います」と、池本さん。ワインを目当てに遠方から訪れるお客も数多いという。古いビンテージボトルを料理と味わうほか、料理に若いワインを合わせるペアリングも好評だ。「いつもペアリングで楽しんでいます。池本さんが薦めるワインがおいしくて、早川さんの料理とマリアージュするから、更においしく感じます」(青柳さん)「居心地がよく、休みの日に妻と行く時はカウンターでゆっくりさせてもらっています。接客も自然で、ストレスなく過ごせるのがいいですね」と、青柳さん。池本さんは、「店の内装などから少し緊張される方もおられますが、あまり堅苦しくならないような接客を心がけています。一度入ってしまえば、くつろいでいただけると思います」と語る。 「料理がおいしいのはもちろん、ワインもおいしいし、接客も雰囲気もいい。ミシュランをとられた理由がわかります。予約が取りにくくなるのは困りますが、応援しています」(青柳さん)夜2~3万、昼は1万円前後で楽しめる。撮影 エディ・オオムラ 文 山本真由美■Vena京都市中京区室町通夷川上る鏡屋町46-3075-255-875712時~13時(入店)、17時30分~21時(入店) 要予約休 水 ※木・金は夜のみ営業https://www.facebook.com/venakyoto/
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BLOG料理人がオフに通う店
2020.02.21
「日本酒とワインと炭火焼 なかむら」―「にし野」西野顕人さんが通う店
「にし野」西野顕人さん《プロフィール》京都市出身。東京で焼き鳥に魅了され、東京、横浜と8年間修業。2013年、独立のため京都に戻り、京都市中央卸売市場の鶏肉卸の加工場で働きながら、肉の解体や目利きを学ぶ。2014年に焼き鳥専門店「にし野」をオープン。趣向を凝らした焼き鳥のコースが評判を呼んでいる。素材のポテンシャルを引き出す技に唸る絶品の炭火焼を、多彩な酒と楽しめる人気店祇園新橋に近い繩手通の小さなビル。その2階に美味い炭火焼料理を出すと人気の「日本酒とワインと炭火焼 なかむら」がある。今年でオープン9年目となるこの店を営むのは、祇園の「うずら屋」で腕を磨いた中村憲幸さん。西野さんがリスペクトする料理人の一人だ。「炭火で焼いた鶏や牛、野菜などのお料理がコースで食べられます。お酒をつい飲みたくなるような料理を出されるので、テンション上がりっぱなしです」(西野さん)カウンター6席と子供連れも使える個室の小体な空間は、食べること、飲むことが大好きな人々で賑わう。西野さんは、ここに3年ほど前から通っているという。「とてもいいお店だし、勉強になるよと、共通の知人や共通のお客さんからも話を聞いていてずっと行きたいと思っていました。高校の先輩でもある酒屋さんに連れられ伺い、炭火焼の可能性に感動しました」その後、年に一度くらい互いの店を訪れたり、一緒に愛媛の醤油蔵へ行ったりするなかで親しくなったそうだ。「西野くんは共通の酒屋さんが『面白いやつがおるから』と、紹介してくださったんです。とても真面目な方で、探求心がすごくて頭が下がります。お互いまったく違うけれど、興味を持つところが似ていて、いろいろ勉強し合える仲ですね」と中村さん。「料理はシンプルなんですけど、吟味した素材を使って手間暇かけた丁寧な仕事をされます。カウンターで焼かれている様子を見ていても、素材に対する思い入れが伝わってきます」(西野さん) メニューは、全7~8品の8000円のコースのみ。むね肉の前菜なども盛り込みながら、炭火焼をメインに仕立てる。鶏肉は熊本の天草大王、牛肉は宮崎の尾崎牛、そして舞鶴と福岡の農家のものを中心に、全国から届く旬の野菜を使用している。「シンプルな調理法なので、できるだけいい食材を使って余計な味付けをせず、シンプルに食べていただけるようにしています」(中村さん)中村さんは、調理師専門学校卒業後、中華料理店のサービスの仕事を経て、料理修業のために「うずら屋」へ。そこで炭火焼に魅了されたという。「見たこともないような野菜をたくさん使っておられていて、炭火焼って面白いなあと。お肉もおいしかったんですが、それ以上に炭火で焼く野菜の魅力をすごく感じました」(中村さん)西野さんは、中村さんの料理から並々ならぬ熱意を感じるという。「よりおいしくするために緻密にいろいろな工夫をされているんですが、気張った感じはなくて、自然体で淡々と感性を発揮される。それがすごいと思います」(西野さん)「浅い火の入れ方をした野菜と、徹底的に火が入った野菜が一緒に盛り付けられていて、その対比がとても面白い。一つひとつを丁寧にされる姿を見ていていつも勉強になります」(西野さん)西野さんが薦める焼き野菜の盛り合わせは、酒にもよく合う店の名物的な一品。特に男性客に好評だという。色とりどりの季節の野菜が10種類前後入って、結構なボリューム。巧みに引き出された旨味や甘味をしっかり味わうことができる。サツマイモを2時間以上蒸すなど、素材に合わせて丁寧な下ごしらえを行い、表面にオリーブオイルと米油を混ぜたものを塗って焼いていく。油で野菜の水分を閉じ込めることで、一見生だが火がしっかり入った仕上がりになるという。「水分を抜いたほうがいい野菜、そうでない野菜があるので、そういうところを考えながらやると、多彩な味になります」と、中村さん。炭火の力で素材のポテンシャルを引き上げていく。 「牛肉の料理も独自のアレンジをされています。このカツはやわらかくふっくら焼けていて、食べるとカツと炭火焼の中間のような感じ。油っこさはないけど、衣の旨味はちゃんとあってと、言葉では言えますが、難しい調理をさらりとされます」(西野さん)尾崎牛の外ももの部分があるときに作られるのが、この焼きカツ。水分を逃さないよう赤身肉の上下の面にパン粉をつけ、油を塗って炭火で焼いたもの。お好みでリンゴ酢入りの国産マスタードをつけて味わう。絶妙に火が入った肉は、程よい脂とコクがあり、噛むほどに旨味がじわり。通常の炭火焼とはまた違ったおいしさだ。また、酒好きの中村さんが用意するワインや日本酒も見逃せない。「日本酒も豊富だし、ワインもグラスでいろいろ味わえるのでうれしいですね。いつも料理に合わせてお酒を選んでいただいています」(西野さん)日本酒は「不老泉」「而今」「鍋島」など、おすすめの酒蔵のものを揃える。ワインもイタリア、フランス、日本のものを中心に赤白各40種ほどと充実している。そして、「不老泉」の仕込水で炊き上げる土鍋ご飯。「毎日精米してから炊いておられる白ご飯が美しいんです」と西野さん。中村さんによれば、精米したてがおいしいことと、水分量を調整しやすいことから行っているという。使用する有機栽培の中能登産コシヒカリは、小粒だがしっかりとした味わいの米で、粘りが少ないためコースの締めに食べてもくどくならないという。艶やかでさらっとした口当たりのご飯に、焼き海苔、能登の塩、ちりめん山椒。これだけで幸せな気分になれる。「一人でやっているのでお客様が来られるとうれしいですし、できるだけお相手したいと思っています。料理を食べてもらいたいという思いも強いですが、何より楽しく食べて帰っていただくことが目標ですね」と、中村さん。カウンター越しの会話と共に、匠の技で仕立てる旨い料理と酒をしみじみ味わう時間はまた格別だ。撮影 エディ・オオムラ 文 山本真由美■日本酒とワインと炭火焼 なかむら京都市東山区繩手通新橋下がる弁財天町13-1 祇園繩手ホワイトビル2F075-253-431018時~24時(LO23時) 要予約休 月
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