BLOG料理人がオフに通う店2020.02.21

「日本酒とワインと炭火焼 なかむら」―「にし野」西野顕人さんが通う店

「旨い店は料理人に聞け!」京都を代表する料理人がオフの日に通う店、心から薦めたいと思う店を紹介する【料理人がオフに通う店】。今回は「にし野」の店主、西野顕人さんが通う「日本酒とワインと炭火焼 なかむら」です。

「にし野」西野顕人さん

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《プロフィール》

京都市出身。東京で焼き鳥に魅了され、東京、横浜と8年間修業。2013年、独立のため京都に戻り、京都市中央卸売市場の鶏肉卸の加工場で働きながら、肉の解体や目利きを学ぶ。2014年に焼き鳥専門店「にし野」をオープン。趣向を凝らした焼き鳥のコースが評判を呼んでいる。

素材のポテンシャルを引き出す技に唸る絶品の炭火焼を、多彩な酒と楽しめる人気店

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祇園新橋に近い繩手通の小さなビル。その2階に美味い炭火焼料理を出すと人気の「日本酒とワインと炭火焼 なかむら」がある。今年でオープン9年目となるこの店を営むのは、祇園の「うずら屋」で腕を磨いた中村憲幸さん。西野さんがリスペクトする料理人の一人だ。

「炭火で焼いた鶏や牛、野菜などのお料理がコースで食べられます。お酒をつい飲みたくなるような料理を出されるので、テンション上がりっぱなしです」(西野さん)

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カウンター6席と子供連れも使える個室の小体な空間は、食べること、飲むことが大好きな人々で賑わう。

西野さんは、ここに3年ほど前から通っているという。

「とてもいいお店だし、勉強になるよと、共通の知人や共通のお客さんからも話を聞いていてずっと行きたいと思っていました。高校の先輩でもある酒屋さんに連れられ伺い、炭火焼の可能性に感動しました」

その後、年に一度くらい互いの店を訪れたり、一緒に愛媛の醤油蔵へ行ったりするなかで親しくなったそうだ。

「西野くんは共通の酒屋さんが『面白いやつがおるから』と、紹介してくださったんです。とても真面目な方で、探求心がすごくて頭が下がります。お互いまったく違うけれど、興味を持つところが似ていて、いろいろ勉強し合える仲ですね」と中村さん。

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「料理はシンプルなんですけど、吟味した素材を使って手間暇かけた丁寧な仕事をされます。カウンターで焼かれている様子を見ていても、素材に対する思い入れが伝わってきます」(西野さん)

メニューは、全78品の8000円のコースのみ。むね肉の前菜なども盛り込みながら、炭火焼をメインに仕立てる。鶏肉は熊本の天草大王、牛肉は宮崎の尾崎牛、そして舞鶴と福岡の農家のものを中心に、全国から届く旬の野菜を使用している。

「シンプルな調理法なので、できるだけいい食材を使って余計な味付けをせず、シンプルに食べていただけるようにしています」(中村さん)

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中村さんは、調理師専門学校卒業後、中華料理店のサービスの仕事を経て、料理修業のために「うずら屋」へ。そこで炭火焼に魅了されたという。

「見たこともないような野菜をたくさん使っておられていて、炭火焼って面白いなあと。お肉もおいしかったんですが、それ以上に炭火で焼く野菜の魅力をすごく感じました」(中村さん)

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西野さんは、中村さんの料理から並々ならぬ熱意を感じるという。

「よりおいしくするために緻密にいろいろな工夫をされているんですが、気張った感じはなくて、自然体で淡々と感性を発揮される。それがすごいと思います」(西野さん)

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「浅い火の入れ方をした野菜と、徹底的に火が入った野菜が一緒に盛り付けられていて、その対比がとても面白い。一つひとつを丁寧にされる姿を見ていていつも勉強になります」(西野さん)

西野さんが薦める焼き野菜の盛り合わせは、酒にもよく合う店の名物的な一品。特に男性客に好評だという。色とりどりの季節の野菜が10種類前後入って、結構なボリューム。巧みに引き出された旨味や甘味をしっかり味わうことができる。

サツマイモを2時間以上蒸すなど、素材に合わせて丁寧な下ごしらえを行い、表面にオリーブオイルと米油を混ぜたものを塗って焼いていく。油で野菜の水分を閉じ込めることで、一見生だが火がしっかり入った仕上がりになるという。

「水分を抜いたほうがいい野菜、そうでない野菜があるので、そういうところを考えながらやると、多彩な味になります」と、中村さん。炭火の力で素材のポテンシャルを引き上げていく。

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「牛肉の料理も独自のアレンジをされています。このカツはやわらかくふっくら焼けていて、食べるとカツと炭火焼の中間のような感じ。油っこさはないけど、衣の旨味はちゃんとあってと、言葉では言えますが、難しい調理をさらりとされます」(西野さん)

尾崎牛の外ももの部分があるときに作られるのが、この焼きカツ。水分を逃さないよう赤身肉の上下の面にパン粉をつけ、油を塗って炭火で焼いたもの。お好みでリンゴ酢入りの国産マスタードをつけて味わう。絶妙に火が入った肉は、程よい脂とコクがあり、噛むほどに旨味がじわり。通常の炭火焼とはまた違ったおいしさだ。

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また、酒好きの中村さんが用意するワインや日本酒も見逃せない。

「日本酒も豊富だし、ワインもグラスでいろいろ味わえるのでうれしいですね。いつも料理に合わせてお酒を選んでいただいています」(西野さん)

日本酒は「不老泉」「而今」「鍋島」など、おすすめの酒蔵のものを揃える。ワインもイタリア、フランス、日本のものを中心に赤白各40種ほどと充実している。

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そして、「不老泉」の仕込水で炊き上げる土鍋ご飯。「毎日精米してから炊いておられる白ご飯が美しいんです」と西野さん。中村さんによれば、精米したてがおいしいことと、水分量を調整しやすいことから行っているという。

使用する有機栽培の中能登産コシヒカリは、小粒だがしっかりとした味わいの米で、粘りが少ないためコースの締めに食べてもくどくならないという。

艶やかでさらっとした口当たりのご飯に、焼き海苔、能登の塩、ちりめん山椒。これだけで幸せな気分になれる。

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「一人でやっているのでお客様が来られるとうれしいですし、できるだけお相手したいと思っています。料理を食べてもらいたいという思いも強いですが、何より楽しく食べて帰っていただくことが目標ですね」と、中村さん。カウンター越しの会話と共に、匠の技で仕立てる旨い料理と酒をしみじみ味わう時間はまた格別だ。

撮影 エディ・オオムラ  文 山本真由美

■日本酒とワインと炭火焼 なかむら

京都市東山区繩手通新橋下がる弁財天町13-1 祇園繩手ホワイトビル2F
075-253-4310
18時~24時(LO23時) 要予約
休 月