「旨い店は料理人に聞け!」京都を代表する料理人がオフの日に通う店、心から薦めたいと思う店を紹介する【料理人がオフに通う店】。今回は「青柳」の店主、青柳旭紘さんが通う「ツネオ」です。
「青柳」青柳旭紘さん
《プロフィール》
京都市生まれ。23歳の時に調理師学校に入り、24歳から料理の世界へ。和洋の料理を経験する中で魚を扱う面白さ、奥深さを知る。30歳で独立し、魚料理専門店「青柳」をオープン。上質の素材を駆使した季節のコースで、魚介の魅力を余すところなく伝えている。今年で13年目を迎える。
選り抜きの素材で織りなす料理と上質ワイン。幸せな出合いを現代と過去が融合した空間で
「最初に会ったのは市場やったかな。ここも魚屋さんが同じで、互いの店に行くようになったと思います。いい魚を使った和食が食べられてワインもおいしいし、堅苦しくなく、居心地がいい。遅くまで営業されていたので、仕事終わりに行くことが多かったですね。最近祇園に移転されたんですが、前より使いやすく、雰囲気もおしゃれ。落ち着いて飲める大人の店になった印象です」(青柳さん)
花見小路通からすぐの富永町の雑居ビルの1階奥。明治時代のレトロなガラス戸を開けると、中は大きなワインセラーが置かれたコンクリート打ちっぱなしの空間に。
青柳さんが通うここ「ツネオ」は、上質の素材を使った和食や豊富なワインが楽しめると、人気の店。もとは下河原通で営んでいたが、今年2月5日に移転。行きやすくなったと、常連たちを喜ばせている。以前と同様、厨房を囲むカウンターで、食事を楽しむスタイルだ。
「青柳くんとは市場の仕入先が同じで、行く時間帯は違うんですが、たまに一緒になるので親しくなって。最初に来てくれたのは2、3年前かな。店でも料理の話をしたりします。僕と同い年で、同年代の中でも趣味趣向がバチっと合うというか、尊敬しあえる存在ですね」と、店主の岸名裕彦さん。「イル・ギオットーネ」丸の内店など、東京のイタリアンでサービスの仕事に従事した後、独学で料理を勉強し、2013年に店を開いた。
「食べ疲れしないというか、口に入った瞬間に、ああ、おいしいなと思ってもらえるような引き算の料理を心がけています」と、岸名さん。
"毎日でも通える食べ飽きない料理"をコンセプトに、白ごまを使った定番の嶺岡豆腐や造りなど、素材本位のシンプルな料理をアラカルト中心に提供している。それだけに素材選び、特に魚介への思い入れは強く、毎朝市場に赴き、納得したものだけを仕入れている。
「仕入先が一緒だから、どれだけいいものを使っているのかわかります。あの人は食材マニアで、食材をよく知っている。凝り性でもあるので、同じ食材でも『こういう使い方もあるんや』と思うような料理を出されていて、勉強になりますね」と、青柳さんも刺激を受ける岸名さんの料理。極上の素材を更においしくするために、下処理にも力を入れ、例えば白ぐじなどの魚を血抜きして熟成させるなど、手間暇かけて工夫が施されている。
サービス出身の岸名さんが集めたワインの充実ぶりも人気の秘訣。入口近くに設けられたセラーには、イタリア、フランスを中心に約150種、300本以上揃い、料理とのマリアージュを提案してもらえる。青柳さんは、ワインのセレクトを岸名さんにお任せし、料理をつまみながら楽しむことが多いそうだ。
「入手しにくい古いビンテージのものなどを結構揃えています。青柳くんはシャンパンやしっかりめの白がお好みですね」(岸名さん)
牛生レバーをヒントにしたという青柳さんお薦めの「低温調理した濃厚あん肝」2000円(価格は時期により変動あり)。
「うちも使っている大きめのあん肝を低温で調理されていて、すごく柔らかい。とろけるような感じで、ワインにもものすごく合います。クリーミーで全然生臭さもないですね」と、青柳さん。
あん肝を血抜きして牛乳に浸け、1時間程湯せんしたものを、ねぎとゴマ油、塩と共に味わう。ふわっとした食感、まったりとした味わいに、マルドンの塩がアクセントに。日本酒やローヌの赤ワインなどがよく合うという。
「まず姿がすごくきれい。頭ごと食べられて、鮎を堪能できる感じです。肝の苦みもあるし、ワインにも合います」(青柳さん)
青柳さんもよく頼むという「オイル鮎ディーン」800円は、脂ののった鮎で仕立てるスペシャリテ。ぬめりをとった鮎を1時間程塩をあてた後、ローリエなどと一緒にひたひたのオイルに入れ、ラップして6時間蒸すという。ふっくらと仕上がった鮎は、骨まで柔らかく、絶妙な塩加減でお酒が進む味わいだ。
「皆、こんな鮎は食べたことがないと驚かれます。ワインはオーストリアのグリューナーフェルトリーナーのようなちょっと青臭い白がいいですね」と、岸名さん。
カウンター越しのコミュニケーションを大事にし、その中でお客の好みをくみ取りながら献立を考えたりするという岸名さん。青柳さんが「これもお薦め」という裏メニューのパスタも、お客のリクエストから始まったものだ。
「こんなん食べたいと言われると、チャレンジしたくなる部分はあります。この界隈は口の肥えた方も多いので、そういう人たちの急な要望などにも対応できるようにしていけたら」
「僕がコースよりアラカルトを中心にしているのは、自分の好きなものを自由に食べていただくほうが、お客さんもストレスなく楽しめるんじゃないかと思うからなんです」と、岸名さん。あちこちから入るオーダーを聞きながら、料理を作り、会話する。そんなライブ感が好きだという。それはお客にとっても、同様に魅力的な時間に違いない。
予算はワインを飲んで1万5000円~2万円程。
撮影 エディ・オオムラ 文 山本真由美
■ツネオ
京都市東山区富永町123 花見会館107号室
075-746-4977
18時~23時(LO21時)
休 不定