BLOG料理人がオフに通う店2020.07.13

「料理処はな」-「Osteria CONACINETTA」坪内拓さんが通う店

「旨い店は料理人に聞け!」京都を代表する料理人がオフの日に通う店、心から薦めたいと思う店を紹介する【料理人がオフに通う店】。今回は「Osteria CONACINETTA」オーナーシェフ坪内拓さんが通う「料理処はな」をご紹介します。

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Osteria CONACINETTA」オーナーシェフ坪内拓さん

京都のイタリア料理「ボッカ・デルヴィーノ」で修業したのち、イタリアのプーリア州に渡り、マルティーナ・フランカという町の一軒のオステリアで腕を磨いた坪内さん。修業先は小さな家族経営の店で、店主の個性がよく打ち出されており、日本と同じく、旬を大切にしており、素朴でいて奥行きがある食文化に魅了されたという。自身の店では、プーリアの郷土色を大切にパスタやパン、タラッリなどの粉物をはじめ、生ハムやサラミ類もできる限り、手作りを守る。そこに京都の農家から直接買い入れる野菜などを用いて、自分自身の味として打ち出し、多くの人を魅了している。

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大きな窓から外の景色を楽しめる広々としたナチュラルな雰囲気の店内。

 川端冷泉通下る、ビルの二階にある「料理処 はな」は、鴨川に向かって全面、ガラス窓が広がり、春夏秋冬の季節の移ろいを楽しめる。特に夕暮れから空の色や町の風景が変わりゆく様子はとても美しい。

 奥のキッチンからは調理中の芳しい香りが漂ってきて、ゆったりと配置されたテーブル席に座ると、ほっとくつろげる。

「かれこれ10年くらい前でしょうか。近くに住んでいて、ある夜たまたま、こちらを訪れました。今はメニューにはないのですが、3品を盛り合せにした突出しが出て、一品ごとの料理への手のかけように驚いたのを記憶しています。店内の落ち着いた雰囲気や、料理の丁寧な仕立て、応対など店主の青山夫妻のホスピタリティを心地よく感じる事が出来ます」(坪内さん)

 店主の青山孝さんは、大学卒業後、法曹人を志していたが、30歳を契機に料理の世界に入った。調理師学校で一から学び、京都の老舗、「京料理 道楽」で修業したのち、大阪・天満にて地鶏料理の店、「地鶏焼 でんえん」を開店。3年後に、当時、イタリア料理店で働いていて、のちに妻となる美由紀さんとともに、「料理処 はな」をオープンさせた。

 夫婦で茶の湯の稽古に通い、茶道にも関心が高い青山さんは、桃山文化の茶の湯や茶道具に惹かれ、料理を大皿に盛って取り分ける華やかでスケールの大きな食文化に興味を持ったという。さらには魯山人の食への意識、器との取り合わせなど当意即妙な芸術観や料理スタイルに関心が広がり、当時の調理法などを深く掘り下げて調べたそうだ。

「もちろん魯山人の芸術観にはまだまだ及びませんが、意識の底にいつもその世界観を描いて、料理に向き合いたいと考えています」(青山さん)

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丁寧に生けられた端正な花の姿に心癒される。

「僕のおすすめは、"知覧地鶏の炭火あぶり 柚子胡椒ポンズで"と"地鶏粥"。ここに来たら必ず注文します」(坪内さん)

「大阪・天満で店をやっている時は、土地柄もあり、庶民的な料理や価格でお客様に贔屓にしていただいていました。この時、様々な土地を巡って探し出した知覧鶏やエゾ鹿などを使って、炭火焼の最高の調理法を研究し、肉という素材の面白さに目覚めました。この店でも知覧鶏の炭火焼や地鶏粥などの人気料理は引き継いでいます」(青山さん)

"知覧地鶏の炭火あぶり 柚子胡椒ポンズで"は、旨味とコクが濃厚な知覧地鶏のむね肉ともも肉を炭火焼にした一皿。単なる炭火焼ではなく、天満時代に探究した独特の炭火焼の技術を余すところなく生かしている。

 肉の美味しさは究極、脂の美味しさでもあると考える青山さんは、肉とは別に脂の塊も仕入れる。その脂を肉の周りに置いて焼き始め、脂が火種に溶け落ちて、じゅわーと上がってくる煙で肉を包み込み、脂の旨味をしっかりとまとわせて、仕上げていく。肉はスモーキーな香に包まれて、外はこんがり、中はしっとりと理想的な焼き上がりとなる。

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運ばれてくる瞬間からスモーキーな香気が鼻腔をくすぐる。自家製のポン酢と柚子胡椒を合わせたタレとともにいただく「知覧鶏炭火あぶり 柚子胡椒ポンズで」680円(価格は全て税別)。

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ソウメン瓜の包み揚げ1000円。夏の懐石料理でみられる「冬瓜の包み揚げ」をソウメン瓜でジ。オクラ、しいたけ、えび、うなぎの実山椒煮をソウメン瓜で包んで、からりと揚げた一品。チェリーやラズベリーの香りと濃いロゼ色が美しいロマルドグレコ ネグロアマーロ ロザートとペアリング。

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美由紀さんご自慢の自家製リコッタチーズを詰めたトルテッリ 柊野農園のフレッシュトマトソース 1400円。手打ちのトルテッリと濃厚な完熟トマトのソースの組み合わせ。よく冷えたカンパーニャ州のファランギーナとともに。

「こちらのお店には、美味しい和食が食べたいなと言う時に、妻と行く事が多いですね。何を食べても、仕立てのクオリティーの高く、それでいてとてもリーズナブルな料金で、あれこれ注文してしまって、ついつい品数が多くなってしまします。今は子連れでお邪魔していますが、1歳5ヶ月の息子もバクバク食べてました(笑)」(坪内さん)

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定番の〆膳「地鶏粥」1000円。知覧鶏のガラを3日間炊いた濃厚なガラスープを漉して美味いエキスだけを抽出。このスープを使って生の米から炊いた地鶏粥は米の一粒ひと粒に鶏の旨味とコクがしっかり染み込んでいる。自家製のぬか漬けと一緒にどうぞ。

 メニューは、仕入れによってほぼ日替わり。前菜、お造り、サラダ、揚げ、一品、炭火焼、パスタ、デザートなど、和食とイタリアンが融合した料理構成となっている。パスタやサラダなどは、イタリアン出身の妻の美由紀さんが腕をふるう。また、ソムリエでもある美由紀さんは、料理とワインのペアリングも提案してくれる。

「イタリアを中心に7080種のワインを揃えています。おすすめの"グラスセット3種類"なら、スプマンテ、白、赤、ロゼからお好きなワインを選んでいただけますし、ペアリングをお任せいただければ、料理に合わせてチョイスさせていただきますよ」(美由紀さん)

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美由紀さんがセレクトしたワインの数々。料理とのペアリングを楽しみたい。

「炭火焼をはじめ、シンプルな調理法を貫きながら、自分のモットーである自然界の素材の美しさや形を崩さず、できるだけ器の中にその味わいと美しさを表現すること。魯山人のように素材に対して、いかに当意即妙に自分が反応できるかをこれからも探っていきたいと思っています」

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 センスが光る料理の数々とワイン、窓いっぱいに広がる鴨川沿いの景色の移り変わりを楽しみつつ、息のあった夫婦のもてなしにゆっくりと浸ってみてはいかがだろう。

撮影/竹中稔彦  取材・文/ 郡 麻江

■料理処 はな

京都市左京区川端二条上ル新生洲町104番地リヴァク鴨川Ⅱ 2F
075-751-5757
17:00~22:30(LO)
日曜定休(月祝の場合は日曜営業、月祝休)