BLOG料理人がオフに通う店2019.09.13

「リストランテ野呂」―「富小路やま岸」山岸隆博さんが通う店

「旨い店は料理人に聞け!」京都を代表する料理人がオフの日に通う店、心から薦めたいと思う店を紹介する【料理人がオフに通う店】。今回は「富小路やま岸」の主人、山岸隆博さんが通う「リストランテ野呂」です。

「富小路やま岸」山岸隆博さん

《プロフィール》
京都市出身。「七栄鮨」、中央市場の鮪問屋、ホテルの和食店などを経て、「京都一の傳」で10年間修業した後、201510月に独立し、「富小路 やま岸」を開く。茶道裏千家講師、華道嵯峨御流華範、書道準五段、京都検定取得。20198月には姉妹店「二条やま岸」をオープンし、さらに9月「富小路やま岸 香港店」をオープンする予定。

食べ手思いの巧みな季節のイタリアンや洋食で、会話も弾む楽しい時間を

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休日はよく食べ歩きに出かけるという山岸さん。その際は、「おいしいのは当たり前なので、それ以外のことがどれだけ行き届いているか、どれだけ考えてはるかを見にいくことが多い」のだそうだ。

そんな山岸さんがおすすめとして挙げるのが、二条城の南にある「リストランテ野呂」。JR二条駅から御池通を東へ進んだところにひっそりと佇む町家のレストランだ。細長い空間を活かした店内は、1階はゆったりとしたカウンター席、2階はテーブル席で構成される。オーナーシェフの野呂和美さんは、日本やイタリアの有名イタリアンで腕を磨き、ホテルグランヴィア京都「リサータ」の料理長、「洋食おがた」勤務を経て、2017年に独立。気取らない雰囲気のなか、野呂さんの料理が楽しめるこの店はたちまち評判となり、ファンを増やし続けている。

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ここに山岸さんが初めて訪れたのは、昨年のこと。

「『SUGALABO』の須賀さんや『Restaurant TOYO』の中山さんなど、パリと東京、京都の料理人たちと、ANAクラウンプラザホテルで食のイベントをしたんですよ。メンバーの一人『末富』の山口さんがこの店をご存じで、須賀さんたちと一緒に食べに行きました。パスタなどをパパパッと作ってくれはったのがおいしくて、そのあとも一回食べに行きましたね。料理もきれいだし、清潔感があって、値段もリーズナブル。また行きたいと思えるお店です」(山岸さん)

その時のことを、野呂さんは「山岸さんのことはいろんな料理人仲間や仲卸の人から常々聞いていて、すべてを兼ね備えたすごい料理人だと。だから、初めてお会いしたときは緊張しましたね。山岸さんはじめ、どえらい人ばかりで来られて、勘弁してよって思いました(笑)」と、振り返る。野呂さんは、和やフレンチなど他ジャンルの料理人との交流も多く、そうした人たちに大いに刺激を受けているという。

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こちらのメニューはアラカルト中心で、イタリアンと洋食の二本立てで構成される。注目したいのが、オーダーのフレキシブルさ。その日のおすすめがメニュー表にあるが、たとえばパスタなら好みのソースと具材、麺の量を指定してお願いすることも可能だし、好きな肉料理を好きな量で盛り合わせたり、カレーやリゾットなどの裏メニューを用意したりといった要望にも対応してくれるという。

「僕が作りたいものじゃなく、お客さんの食べたいものをお作りするスタンス。コースであれば、この地方の料理を同じ地方のワインと合わせてとか、ベジタリアンのコースでという具合にご要望に沿ってもお作りします。100人いたら100人に合わせられる"私のお抱え料理人"のようなイメージです」(野呂さん)

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毎朝中央市場で仕入れる魚のほか、高知や野呂さんの地元・青森からの直送分など、目利きの業者から届く上質な魚を使った料理に定評がある。中でも、山岸さんおすすめの前菜「旬の魚の食べ比べ」は、多くの常連が頼む人気の品だ。

「お魚を8種類ほど盛り合わせてあるんですけど、食べやすくて、味付けもバランスがいい。一皿の中にメリハリがあって、全部食べて完成されるおいしさ」(山岸さん)

その日の仕入れによって内容が変わり、この日はハマチ、よこわ、アオダイ、マアジなど9種の鮮魚が、昆布締め、マリネ、炙りなど、それぞれに合った調理法で仕立てられている。一品一品手をかけ、煮野菜やピクルスなどと合わせた魚は、繊細な味わいで素材の魅力が際立つ。これだけの種類の魚を一度に味わえるのもここならではだ。

「この中から好きな分だけ選んでいただくこともできます。お客さんによっては、カットの大きさを変えたり、切れ目を入れたりしています。また切る厚さや塩加減なども、その日の魚の種類や状態によって変えます。だから、ただレシピ通りにするのではなくて、レシピがないのがレシピみたいな感じですね。そうじゃないと、お客さんの琴線に触れられるとは思っていないので」と野呂さん。お客や魚に寄り添う野呂さんの思いが窺える一皿だ。

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山岸さんのもう一つのおすすめは、パスタ。「単純においしかった。バランスがうまいなあと。パスタって味が濃いとおいしいんですけど、濃い中にもどう食べさせたらおいしく感じてもらえるかというところまで考えているようなソースで、好きでした」(山岸さん)

写真は、釜揚げのシラスとアサリを使った「魚介ときのこの軽いサフランクリームソースのパスタ」。魚介の旨味がぎゅっと詰まったまろやかな味わいの一品だ。こうしたパスタの味付けも、野呂さんはお客によって変えたりするそうだ。「少しでもお客さんの"おいしい"に結び付けたいので、お客さんの会話や飲み物などの情報をもとに、乳化の仕方や塩加減などを変えて、好みのソースの味にしていきます」。ソース、麺のゆで加減など、何千通りある中でこれという味を模索しながら作っていくのだというが、これもパスタへの豊かな知識や経験のある野呂さんだからできることだろう。「ベースができていなければ、それをやってもちぐはぐになってしまいます。何が本当なのか基本がわかったうえで、お客さんに寄り添える何かを作ることができるので」(野呂さん)

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「お客さんの笑顔が見たいから何でもやっちゃう」と話す野呂さん。その料理とともに、明るく飾らない人柄も大きな魅力で、野呂さんとの会話を楽しみに訪れる人も少なくない。

「すごく気さくな方で、お客様を楽しませることに長けておられる。誰が行っても気持ちよく食べさせてくれるんやろうなと思いましたね」と山岸さんは言う。

もてなしの面で、野呂さんが意識していることはどんなことなのだろう。「たくさんお店がある中で、わざわざ電話して、わざわざ電車を乗り継いで、わざわざ来ていただいているわけですから、楽しんでもらいたいし、こちらも本当に楽しく作らせていただいています。それには僕だけでなく、スタッフも気持ちよく仕事をすることが大事で、各個人が責任を持ちながら伸び伸びと仕事ができるようにしています。お客さんからもよく『みんなきびきびやっていて気持ちがいい』と言われますね」

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山岸さん以外にも、ここには有名和食店の主人や料理長が訪れることもしばしばだという。名だたる料理人たちも認める同店。予算は食べて飲んで1万円~15千円ほどで、コースは8千円から楽しめる。

撮影 高見尊裕  文 山本真由美

■リストランテ野呂

京都市中京区西ノ京職司町67-14
075-823-8100
11:30~14:30(LO13:30)、17:30~22:00(LO20:30)
休 月曜、月1回火曜不定休