BLOG料理人がオフに通う店2021.10.18

「京旬いちえ」-「焼肉 文屋」岩村文植さんが通う店

「旨い店は料理人に聞け!」京都を代表する料理人がオフの日に通う店、心から薦めたいと思う店を紹介する【料理人がオフに通う店】。今回は「焼肉 文屋」の岩村文植さんが通う「京旬いちえ」をご紹介します。

_MG_1401.jpg

「焼肉 文屋」岩村文植さん(右)

梅小路公園の七条通に面した「焼肉 文屋」は2009年11月オープン。実家の料理店の手伝ったことから料理の道を目指した主人の岩村さんは、有名ホテルの名門中国料理店で修業し、四川・北京・香港料理など、中国料理を幅広く習得した。独立を考えた時、まず自分が大好きな料理を提供したいということで、「焼肉店を開きました(笑)」。家族や友人同士、みんなでワイワイとリラックスして旨い肉を楽しんで欲しいと日々、仕入れから調理まで力を尽くしている。気取りがなくて、賑やかな店はいつも笑顔で溢れている。今は新展開として、得意の中華料理の新しいスタイルのレストランの開店を企画進行中だという。

「『京旬いちえ』の主人の小谷さんとは、昔の仕事関係で知り合って長い付き合いになります。今では家族同士で互いの店を訪れ合う仲です。よく食材を吟味していて、いつ行っても、何を頼んでも美味しい。肉も魚も野菜もメニューが豊富なので、家族それぞれが好きなものを存分に楽しめます。料理を通じて、いつも旬を感じさせてくれる場所です」

_MG_4546.jpg

「一期一会。人も食材も空間も全て"出会い"があります。一つひとつの出会いを大切にしたいです」と話す「京旬いちえ」の小谷昇平さん。

 御所南の閑静な町の一角、ビルの一階の少し奥まったところに静かに佇む和食の店「京旬いちえ」。主人の京都出身の小谷昇平さんは調理師学校を卒後後、和食の道を目指して祇園の割烹で修業した。その後、2003年に独立したが、「最初から広い店は資金的にも難しかったので、料理も楽しめるような小さなバーからスタートしました」。その後、居酒屋、和食店と店舗を広げ、いまは、目指していた和食一本に絞りこんで、日々、和食の世界を研鑽している。

 店名は「一期一会」から取ったのだという。

「食材との出会い、お客様との出会い、店という空間との出会い。僕の料理を通じて、様々な出会いをつなげていきたい、一期一会の心を一品ひと品の料理に大切に表現していきたいと思っています」
 料理への思いは食材のまず、吟味から始まる。たとえば魚介。九州、四国、日本海など各地の、今が一番旬の美味しい魚介類を、馴染みの鮮魚専門店からセレクト。肉類は九州を中心とした黒毛和牛や大分の錦雲豚、丹波あじわい鶏など、肉そのものの風味が濃く旨味豊かなものを厳選。さらに京の露地野菜から、各地の野菜まで、これも今一番旬!という野菜たちをどっさりと仕入れる。

_MG_4531.jpg

品書きにない料理でも、ケースをのぞいて「この食材をこんなふうに食べてみたい」というわがままなリクエストにも応えてくれるそうだ。

 カウンター席の前に設えられたガラスケースには、本日の旬菜がずらり。今日は、ぐじ、黒毛和牛、丹波黒豆、賀茂の朝採りトマト、万願寺とうがらしなどが並んでいる。バラエティに富んだ食材を駆使して、品書きは魚介の造りから焼き物や揚げ物の一品、さらに〆の料理まで、見ているだけでワクワクしてきそうな料理名が並ぶ。
 しかし、基本はあくまで和。吟味した食材に、丁寧に大切に引いた黄金色の澄んだだしをベースにして、小谷さんがそっと遊び心を添えた料理を提供している。
「だしや野菜をふんだんに使って、化学調味料は一切使わず、ポン酢、たれ、ソースにいたるまですべて手作り。素材本来の味を丁寧に引き出しながら、旬を存分に味わっていただきたいと思っています」

早速、目移りしそうなほど心惹かれる品書きから、いくつかおすすめを作ってもらった。

_MG_4404.jpg

九条ねぎのシャキシャキ感を残しつつ、丹波しめじ、京のお揚げさんとともにさっと炊いた「九条ねぎと丹波しめじの煮浸し」900円。柚子の香りがほんのりと爽やかさを添える。

_MG_4485.jpg

「賀茂トマト カマンベール 餡かけ」1200円。品書きから想像できない姿で供される人気の一品。

賀茂トマトを丸ごと使って、カマンベールとパルミジャーノの2種のチーズをたっぷりとのせ、銀あんをとろりとかけて、石鍋で焼いた熱々の一品。スプーンでほぐしながら全ての素材を混ぜて、ふうふうといただけば、お腹もじんわりと温まってくる。最初は和の風味を感じつつ、だんだんとイタリアンの美味しさがあらわれ、途中でタバスコをかけると、テイストが進化する...という驚きの一品に小谷さんの創意工夫を感じる。
 さらにひと捻りを感じるのが、錦雲豚を使った一皿。野菜ベースの甘味のある醤油だれに錦雲豚をじっくり漬け込んでオーブンでこんがりと焼く。これだけでも十分美味しいのに、さらに、この肉を北京ダックの生地、烤鴨餅(カオヤーピン)に香味野菜やナッツとともに巻いていただく。プロが美味しさを追求するとこういう味にたどり着くのだ...とちょっと感動する。

_MG_4473.jpg

創意工夫に満ちた一皿。「錦雲豚のクレープ包み」(ハーフサイズ)800円は、老若男女に愛される味だ。通常1600円でもう一皿がついてくる。

〆の料理もなかなかの充実ぶりで、中でも特筆すべきは自家製のスパイスカレーだろう。なんとこの店では、昼間はカレー店「ココハイチエ」として、カレーを提供している。ご主人は割烹着からエプロン姿に変わり、これもまた、玉ねぎをじっくりいため、野菜をコトコト煮るところから、オール手作りのスパイスカレーを作る。海老バターカレーやキーマカレーなど4種のカレーから選ぶ「あいがけ」がおすすめだ。

_MG_4413.jpg

カレーあいがけ(2種かけ)1200円〜。写真は海老バターとキーマカレー。
海老バターにのっているエビフライのカダイフ衣がパリパリっとした食感。

お気に入りの一品に軽く白ワインを一杯飲んで、あるいは夜カレーを食べに来たり、もちろんコースで存分に味わったり、家族でさまざまな味をシェアしたり...。
「お客様には、使い勝手よく、自由に楽しんでいただいています」という主人の言葉どおり、その時々で様々な対応してくれるのが嬉しい。
 一見、奥まった場所で入りにくそうに感じるが、中に入れば敷居は高すぎず、和やかな雰囲気の中、芯からリラックスできる。こんな居心地のよい隠れ家こそ、大切な誰かを連れてきたくなる。

_MG_4517.jpg

お酒はワイン、日本酒、焼酎などが揃う。多彩な料理はどんなお酒とのペアリングもできそう。

 コロナの自粛期間中、知人の店で握り寿司の勉強をしていたというご主人。和食にカレー、そしてまた新たな世界をその視線は見つめている。いつ訪ねても、「おっ」と唸ってしまうような、ちょっと心憎い美味いものを食べさせてくれる場所。今日はなにかおいしいものを食べたいな、と思った時は、迷わず選びたい一軒だ。

_MG_4586.jpg

昼はカレー店、夜は和食店を切り盛りする小谷さん。料理が好きで好きで、一日中厨房にいても苦にならないという、まさに料理の申し子だ。

_MG_4622.jpg

■「京旬いちえ」

京都市中京区夷川通高倉東入百足屋町146-1F
075-231-1122
営業時間 カレーランチ【ココハイチエ】11:00〜14:00(平日のみ)、ディナー17:30〜23:00(LO 22:00)
※現在はコロナ禍にてディナーは休業中
定休日・日曜(祝前日は営業)
要予約
※営業については事前に必ず電話で問い合わせを。

撮影/竹中稔彦 取材・文/ 郡 麻江