BLOG割烹知新〜奇想の一皿〜2021.04.17

京都 いと「甲いかのお造り サラダ香草仕立て」

京都を代表する和食の料理人に、和食の範疇を飛び出した奇想天外な一皿を作っていただく【割烹知新】。今回は『京都 いと』料理長・大河原謙治さんの「甲いかのお造り サラダ香草仕立て」をご紹介します。

奇想の一皿「甲いかのお造り サラダ香草仕立て」

料理学校を卒業後、猪突猛進の勢いで憧れの『京都吉兆』へ入社。「一念岩をも通す」熱意が通じ、嵐山本店に配属される。サミット会場となった『ザ・ウィンザーホテル洞爺 』内の『あらし山吉兆 洞爺湖店』では料理長を任され、吉兆での料理人生活は20年にも。現在は東本願寺南『京都 いと』の料理長として、和食と他ジャンルを自由に往来する"これからの料理"を提案。その活動は厨房内に留まらず、食材の流通や後進の育成、新たな料理人像の構築など、旧来の料理人のイメージを覆す活躍が注目を集める。

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発想秘話

うちは椀物の吸い地がコンソメだったり、12品のコースのうち3~4皿はフレンチ出身の野口翔平シェフが担当したりと、いわゆる和食の本流からは少し離れた料理を提供しています。どのお皿も僕ら2人がアイデアを出し合い、お互いの引き出しの中身をすり合わせて作り上げたもの。ですから「奇想の一皿」のコンセプト自体は、僕らが普段やっていることとそんなに違わないのかな、と思います。

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今日の料理の主役は和歌山で獲れた紋甲イカです。極端な話、うちではこのイカが入った時しかイカ料理は作りません。それくらい惚れ込んだ食材です。獲れたてはもちろん、少し寝かせてねっとりさせてもおいしいのですが、今日は新鮮な紋甲イカをサラダ仕立てにしようと思います。

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うちでは普段からお造りに普通の醤油は合わせません。「蕗の薹の醤油」だったり、「あん肝醤油」だったり、「うに醤油」だったりと、季節や食材によっていろんな醤油を使い分けます。
イカに合わせる定番はカリフラワーのピュレ。今日の料理にももちろん使います。イカの甘みとカリフラワーの味がよく合うのに加え、テクスチャーや香りのニュアンスなど、共通点が多いんです。もともとフレンチでは、同じ色同士の食材を掛け合わせることが多いのですが、そういう意味でもイカとカリフラワーは相性がいいんじゃないでしょうか。

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掃除した紋甲イカに飾り包丁を入れます。食感の違いが楽しめるよう半分は生で、もう半分はバーナーで焼き目を付けます。

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鹿の子に包丁を入れたイカの身に串を打ち、表面にオリーブオイルを塗ってからバーナーで炙ります。

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生の身は新鮮なイカ特有の食感が生きるよう、蛇腹に包丁を入れます。「蛇腹」と「鹿の子」、包丁の入れ方を変え、それぞれの食感の違いを楽しんでもらいます。

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次にカリフラワーのピュレを用意します。強火でカリフラワーを茹で、オリーブオイル、ひまわり油、出汁と一緒にミキサーにかけます。ここで出汁を少し加えることで、不思議と「和」の味わいに寄っていくんですよ。うまみが底上げされるイメージですね。

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これでピュレも完成です。あとは盛り付けるだけ。今日はアスパラガスを盛るために作られたバカラのお皿を使います。

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ハーブ、茗荷、生姜、カリフラワーのピュレ、土佐酢のジュレとともに盛り付けて、一口一口、いろんな味を楽しんでもらえるとうれしいですね。フランス料理って一枚のお皿の上に何種類ものソースが乗るでしょう? そんな感覚で、味変(あじへん)しながら召し上がってみてください。

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シャンパーニュ、白ワイン、日本酒...どれを合わせてもおいしいと思います。仕上げにパルミジャーノを振ってもよかったかな。繊細でふくよかな味わいのイカに、なめらかなピュレがよく合うでしょう? しっかり和えたり、ジュレを付けたり...好きなように楽しんでください。

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北海道時代にいろんな生産者の方々と交流し、食材に対する考え方が大きく変わりました。「おいしい食材をおいしく調理する」のではなく、「食材の持ち味を生かすにはどうしたらいいか」「どうすれば一番おいしく食べられるか」を第一に考えるようになりました。彼らとの交流は今も続いていて、越冬百合根やホワイトアスパラガスなど、いろんな道産野菜使っています。「野菜がおいしい店」でありたいし、そう言われるとうれしいですね。

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「おしゃれ」で「きれい」で「かわいい」。これからの料理にはそういう要素も必要だと思います。伝統を受け継いでいくことも大切ですが、新しい料理にも挑戦し続けたい。料理人同士、料理人とお客さん、お客さん同士が「繋がる」ことで、新しいものを生みだしていく......そんな「繋がる」場でありたいと思って、この店を作りました。
フレンチ出身の野口シェフとお互いの経験や技術、アイデアをぶつけ合いながら、「明日は今日よりもっとおいしいものを」という気持ちで、日々ブラッシュアップしていきたいですね。

撮影 鈴木誠一 取材・文 鈴木敦子

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■京都 いと

京都市下京区中居町112‐1
075-371-2238
18:00~19:00最終入店
日曜、第2・4水曜定休

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