京都を代表する和食の料理人に、和食の範疇を飛び出した奇想天外な一皿を作っていただく【割烹知新】。今回は『即今 藤本』藤本宏和さんの「白子パスタ かぶらのソース」をご紹介します。
奇想の一皿「白子パスタ かぶらのソース」
店主の藤本宏和さんは多くの料理人を輩出した名割烹『桜田』出身。京都ホテルオークラ『粟田山荘』では8年にわたり料理長として活躍し、2018年、寺町二条に自身の店を構えました。挑戦的な食材選びや料理構成、「お客さんを楽しませたい」という思いが言葉の端々からあふれ出るような接客......訪れるたびに新たな驚きや発見がある、今注目の一軒です。
発想秘話
この時期、魚介類は選び放題なのですが、野菜の選択肢が少ないんですね。どうしても根菜中心になってしまう。かぶらも使い始めて4か月目となると、僕自身が飽きてくるんです。かぶら蒸しとか、すりおろして和え物にするとか、どれも普通でおもしろくないでしょ? そこで今月(3月)はかぶらをポタージュ風にアレンジして、ソースとして使っています。味を含ませた海老芋を油で揚げて、あつあつのかぶらソースで召し上がっていただく。これがなかなか好評だったので、今回はその「かぶらのポタージュ」に手を加えて、ちょっと変わったパスタ料理に仕立てたいと思います。
ポイントはソースを軽く、あっさりと仕上げること。味の濃いソースに頼るのではなく、魚介のコクやうまみがソース代わりになる......そんなパスタを目指します。そのために重要なのが、丁寧に下味をつけること。今日は麺そのものに下味をつけて、さらに魚介のうまみをまとわせます。それでは早速作っていきましょう。
これが今回の料理に使う食材です。かぶらと海老芋、玉ねぎはかぶらのポタージュ(ソース)に。ソースがあっさりしている分、具材にはふぐの白子や雲丹といったうまみの強い食材を用い、最後にからすみをたっぷりかけて仕上げます。
からすみは毎年11月に一年分、約20キロを仕込みます。うちのからすみは塩辛くないので、大根などを添える必要がありません。うまみをしっかり乗せていく「うまじお」仕立てなので、そのまま食べても美味しいし、青りんごや柑橘類、クリームチーズなどに合わせてワインと楽しんでもらうこともあります。


白子は二通りの使い方をします。具材として使う白子は大きめにカットし、串を打って炭火焼に。


残りの白子は日本酒で軽く煮てから裏ごしし、茹で上がった麺に絡めます。食べた時にお酒の風味がしっかり感じられると思います。
これが今回の料理の核となるかぶらのポタージュです。かぶらと玉ねぎは細かく切って牛乳で炊き、出汁で炊いた海老芋と合わせてペースト状にします。雲丹も白子も口当たりがなめらかな食材なので、それらと調和するようソースもできるだけなめらかに仕上げています。味付けは塩と少量の薄口醤油でごくごく控えめに。
使用するのは讃岐で作っている小麦粉100%の生パスタです。これを今日はお湯ではなく、牛乳にお酒と水、塩を加えたもので茹でます。こうすることで麺に下味が付き、素材そのもののおいしさがより引き立ちます。


湯がいた麺に太白の胡麻油をまぶし、先ほど裏ごした白子のペーストで和えたら麺の準備はOKです。


麺をお皿に盛り、ソースに見立てたかぶらのポタージュをたっぷりかけ、その上に焼き目を付けた白子と雲丹、うぐいす豆を乗せます。
最後に穂紫蘇と自家製のからすみをたっぷりかけて完成です。焼いた白子も箸で崩しながら、ソースのように麺に絡めて食べてみてください。野菜そのもののソースと濃厚な魚介のうまみが相まって......痛風の人は見ただけで発作を起こすんじゃないでしょうか(笑)。お皿に残ったソースをアテに、日本酒をちびちび飲むのも最高でしょうね。
独立一年目はとにかくしんどかったです。やはり一料理人と経営者では、見える世界が違うことを痛感しました。それでも、最初の年に来てくれたお客さんが二年、三年と途切れず通ってくださるのがめちゃくちゃうれしくて......。今年で4年目になりますが、いつも足を運んでくださるお客さんをどうにかして楽しませたい。「こんなのできるんや」と思ってもらえるよう、常に新しいものをアウトプットしていきたい―常にそういう気持ちでやっています。料理屋の料理がおいしいのはある意味当たり前だと思っているので、それに加えて「おいしくて、楽しかった」と言ってもらえるよう、目の前の課題にしっかり取り組んでいきたいですね。
撮影 鈴木誠一 取材・文 鈴木敦子


■即今 藤本
京都市中京区二条通寺町東入ル 榎木町92‐12
075-708-2851
12:00~13:30(L.O.) 17:00~19:30(L.O)
水曜休