京都を代表する和食の料理人に、和食の範疇を飛び出した奇想天外な一皿を作っていただく【割烹知新】。今回は『祇園川上』加藤宏幸さんの「白味噌グラタン」をご紹介します。
奇想の一皿「白味噌グラタン」
洋食のコックをしていたお父様の背中を見て育ち「いつか帝国ホテル・村上信夫シェフの下で働きたい」と思っていた若き日の加藤さん。しかし「これからは和食の時代だ」というお父様の助言を受け、和食料理人になるべく18歳で『祇園川上』へ入店。名料理人・松井新七さんのもとで研鑽を積み、やがて師の元を巣立った加藤さんでしたが、松井さんに請われ再び『祇園川上』へ。正式に代替わりして早12年、京都を代表する板前割烹として、いよいよ円熟味を増す名店の登場です。
発想秘話
今日は僕の大好物でもある「グラタン」を作りたいと思います。僕は口の中がずるずるになるような正統派のグラタンがたまらなく好きなんですよ。お気に入りの店ですか? 新橋大和大路にある『祇園MIKUNI』の中辻(佳和)君の作るグラタンが好きですね。「最期の晩餐にはグラタンを」と常々思っています(笑)。
実は以前、今回の料理に通じるメニューを店で出したことがあって、そこから発想を膨らませました。夏に賀茂茄子をコースに組み入れる際、「食べやすくて、なおかつ見映えがいいもの―小さなオーブン焼きはどうだろう」と試してみたところ、皆さんとても喜んでくださって...。その時は賀茂茄子と田楽味噌という「出合いもの」を組み合わせましたが、今回は田楽味噌に少々手を加えて、根菜と合わせたいと思います。
以前作ったオーブン焼きは賀茂茄子などの夏野菜がメインでしたが、今日は今が旬の根菜を使います。これから寒くなるにつれて、ますますおいしくなっていきますからね。かぶら、海老芋、むかご、そしてグラタンに欠かせない海老。これらを白味噌のソースで召し上がっていただきます。


まずは野菜の下処理から。かぶらと海老芋はそれぞれ別の煮汁で炊いて、あっさりめに下味をつけます。むかごは塩ゆでしておきます。
ベシャメルソースの代わりに使う白味噌のソースは、田楽味噌をアレンジして作ります。白味噌に砂糖とみりんを加えて練り上げた田楽味噌に、少しずつ出汁を加えてのばしていきます。ゆるすぎると食材から水分が流れ出てしまうので、様子を見ながら慎重に。
別々に味をふくませたかぶらと海老芋、塩ゆでしたむかご、車海老をそれぞれ食べやすい大きさにカットします。
具材を伊賀焼のエッグベーカーに盛り付け、上から先ほど練った味噌をかけます。仕上げにチーズ、パン粉を乗せてオーブンで加熱すること約15分。表面においしそうな焼き色がついたら完成です。
うちはドストライクな割烹料理屋ですが、たまにはこんな風に少し目先を変えてみることもあります。僕は頭の中で料理を考えたあと、毎回それをスケッチに起こすんですよ。そのほうが「こういう器でこんな風に仕上げてよ」と皆に伝えやすいでしょう?
茄子と味噌は最高の出合いものですが、根菜と味噌の相性はいかがでしょうか。和食でチーズを使うことはまずありませんが、味噌とチーズの組み合わせって間違いないですよね。
店をやっていく上で僕が一番大切にしているのはチームワークです。学生時代に野球をやっていたこともあって、みんなでひとつの目標に向かっていくのが好きなんですが、そのために欠かせないのがチームワーク。実際、僕ひとりではまったく料理なんてできないですよ。このチームあってこその『祇園川上』だと思っています。
僕が小僧で入った当時の川上って、和気藹々とした学校みたいなところだったんですね。先輩も後輩も「ちゃん付け」で呼び合って、全力で仕事をしたあとにみんなで木屋町に繰り出して......。優しい先輩がたくさんいて、怖い番頭さんに鍛えられて(笑)。もちろんつらいこともありましたけど、今振り返るととても楽しい時代でした。
引退を決めた松井さんから「かとちゃん、ちょっとうち手伝ってくれへんか」と言われた時は、正直とても悩みました。しかし「がんばってみろよ」と背中を押してくださる方がいて、やれるとこまでやらせてもらおうと腹をくくったんです。
僕の尊敬する『瓢亭』の高橋英一さんが御著書の中で「右足は垣根を越えてもいいけど、両足で越えてはならん」と書いてらして、それを読んだときにすごく腑に落ちるものがあったんですね。松井さんの作り上げた「川上」という看板で仕事をすること、そして僕の「川上」を作っていくこと。垣根を意識しながらも、歴史ある『祇園川上』を精一杯守っていきたいと思います。
撮影 鈴木誠一 取材・文 鈴木敦子


■祇園川上
京都市東山区祇園町南側570-122
075-561-2420
12:00~13:30(L.O.)
17:00~21:00最終入店
不定休