京都にある会社の会長&社長は、どんな店でどんな料理を食べているのでしょうか? 彼らが通う一見さんお断りの超高級店から大衆店までご紹介する【京の会長&社長めし】。今回は株式会社緑寿庵清水 社長の清水泰博さんが通う日本料理店「じき宮ざわ」です。
■清水 泰博(しみず やすひろ)さん
金平糖職人/株式会社緑寿庵清水 代表取締役社長
創業1847年、伝統と一子相伝の技を守り続ける京都でただ一軒製造販売する、日本唯一の金平糖専門店老舗・五代目当主。
初代より長きに亘り受け継がれた独自の製法や伝統を守りながら、父である四代目・清水誠一が意欲的に取り組んだ「素材を加えた味のある金平糖」を五代目がさらに種類を増やし、伝統と革新を融合させた金平糖は、全国菓子大博覧会でも数々受賞。
「本物の味、色、形」を追求しながら、皆様に永く、広く愛されるよう、職人技を極めた金平糖作りに挑戦している。
PL学園高校時代は野球部に所属し、選抜高校野球大会で戦後初のV2。
その後、明治大学でも野球を続け、高校時代にオールジャパンに選ばれオーストラリアに遠征した時の縁から半年間、現地で野球を教えるという経験を得た。帰国後も社会人野球チームに所属し、引退と同時に30歳で家業を受け継ぎ、五代目を継承する。
創業170周年を機に、東京・銀座に「銀座 緑寿庵清水」(2017年)を、京都・祇園に「祇園 緑寿庵清水」(2019年)と二店舗の直営店をオープンし、現在では約90種類の金平糖を手掛ける。
時代のニーズに合わせ展望を広げ、金平糖の真髄を伝承すべく精進し続けている。
http://www.konpeito.co.jp/
外食は主に和食。最後の晩餐は、奥様が作る煮込みハンバーグと春巻き。
見て、食べて楽しく、身体も心も元気に。思いを込め、趣向を凝らした心づくしの京料理
「仕事関係の人や、家族と一緒によく伺います。子供たちもこちらのお料理が大好きで、家族揃ってファンですね。料理長の泉さんは、海外のシェフとコラボされるなど勉強熱心で、これからの人だとすごく注目しています」(清水さん)
四条烏丸から西に進み、堺町通を少し北へ。右手の石畳の路地に佇む「じき宮ざわ」は、2007年に店主の宮澤政人さんが開業して以来、多くのファンをひきつけている京料理の名店。「ごだん宮ざわ」オープンに伴い、2014年から弟子の泉貴友さんが料理長として腕をふるっている。
緑を望むカウンター8席のみの落ち着いた空間に国内外から人々が集い、泉さんの料理に舌鼓を打つ。清水さんも献立が変わる時期に合わせて訪れるという。
茶懐石をベースにしたコースは、夜は15皿で構成され、アイデア溢れる季節の料理がお目見えする。
「ちょうどいい分量で、お料理も『こういうなん、前にどこかで食べたな』っていうのがまずない。そこがすごいところやなあと。僕らもお菓子を作っていますけど、勉強熱心なところに共感します」(清水さん)
清水さんと店との出合いは4年程前。山形の高木酒造とのコラボイベントに夫婦で参加したのが最初だったという。
「十四代のお酒に合わせた料理をふるまっていただいたのですが、すべてのお料理が美味しくて、また若い料理長さんなのに発想力がすごいんです。『これとこれを掛け合わすの?』というようなお料理で驚きました」
普通の和食の概念にとらわれない料理にすっかり魅了された清水さん。以来、訪れるたび、料理や泉さんとの会話を楽しみ、刺激を受けているそうだ。
「彼の志のようなものがすごく料理に出ていて、それを見ていると、自分ももの作りに対して彼のような熱意を持ってやらなあかんなと、また原点に戻れる。ですので、行き詰まった時や何かあった時に行くと、何か閃くこともありますし、食しながら勉強しているような感じです」
そんな清水さんに、ありがたいですね、と泉さん。
「あれほどの方なのに学ぼうとされる姿勢がすごいし、僕のほうこそ勉強になります。また理想のご家族で、素敵ですよね。食べ方も含めて料理に向き合う姿勢を子供さんにしっかり教えられていて、食育に関しても素晴らしいなと思います」
「泉さんはすごく優しい方ですが、芯の強さみたいなものも感じられる。自信を持ってすべてのお料理を出されていることが、ひしひしと伝わってきます」(清水さん)
泉さんの地元・滋賀県長浜市は、昔から発酵文化が根付いている地。コースに発酵を利用した料理が入ることも少なくない。清水さんお薦めの「鮎とおかひじきとスイカ」は、8~9月の献立の一例で、炭火で焼いた上桂の天然鮎に、藻をイメージしたおかひじき、そして刻んだ発酵スイカをまとわせた一品。鮎の骨せんべいは自家製からすみと味わう。
「どこにもない料理。スイカの皮を食べさせるというのにまず驚きます。酸味はあるけど苦味はなく、この時期には最高のものですね」と清水さん。
やわらかなおかひじきの食感、発酵液のやさしい酸味で鮎の美味しさが一層引き立つ。
こちらもお薦めの「車海老とトマト」。炭火焼きの車海老の上に、空気を含ませながら攪拌したトマトと、その分離液を凍らせたものをかけた清涼感ある一皿。殻ごと食べたように香ばしい車海老とトマトの甘味がこの上なく合う。
「かき氷みたいにトマトがかかってるんです。『よくこんなん考えましたね』って、思わず泉さんに言いました」(清水さん)
また〆に登場する釜炊きのご飯は、宮ざわの定番。同級生の実家で作られた無農薬米のご飯は、煮えばなからおこげまで三度に分けて供される。
「お米の味の変化を楽しめます。手間がかかることをあえてやられているのが素晴らしい」(清水さん)
ここでは器使いにも注目。写真は朽ち木を使った作家物の平皿と、約800年前のおろし皿。
上質の葛で練った名物「焼胡麻豆腐」をはじめ、清水さんが家族で楽しみにしているという「薬膳鍋」、「手打ち蕎麦」など、テイクアウト商品も好評。
また清水さんはサービスについて、「料理人の方が4、5名おられるんですが、誰に聞いても料理についてちゃんと説明できるのがすごいなと思います」と感心する。
「僕は何でも皆に聞いていますし、作ったものを食べてもらい感想を聞いたりしています。自分だけでできているものは一つもないので」と泉さん。チームとして自然と料理への思いが共有されているという。
泉さんは、自身の料理についてこう語る。
「根本的に、ただ珍しいものを作ろうというわけではなくて、食材を一番美味しいと感じてもらえる調理法を求めています。見ても食べても驚きのある楽しい料理が日本料理にあってもいいんじゃないかと思っているので、基本の線は外さず、新しい技法などを取り入れながら違ったかたちの日本料理を表現していけたら」
人を喜ばせたいということが、料理を始めた一番のきっかけという泉さんにとって、やはりお客の喜ぶ顔が原動力。食べる人の顔を思い浮かべながら献立を考えていると、アイデアが浮かぶことも多いという。
「空間、しつらえ、料理のポーションなども含め、お食事を気持ちよく召し上がっていただけるように。そして、次の日からまた励もうと思っていただけるような料理を皆で目指しています」と、泉さん。その思いは清水さんたちにもしっかり届いているはずだ。
「お店を出て四条通に向かうんですけど、その短い間に『あれ美味しかったなあ』とか、皆でしゃべりながら歩くんです。その時が一番幸せやなあ、と感じますね」(清水さん)
予算は昼6000円、夜2万円程度。
撮影 エディ・オオムラ 文 山本真由美
■じき宮ざわ
京京都市中京区堺町四条上ル東側八百屋町 553-1
075-213-1326
営業時間 昼 12時/13時45分の2部制 夜18時~20時(入店)
要予約(2ヵ月前の一日から受付)
定休日 火曜
https://jiki-miyazawa.com/#jiki
※営業時間は状況により変更の場合あり。お店にお問い合わせください。