BLOG京の会長&社長めし2020.01.20

山田繊維株式会社の社長が通う店「本家尾張屋 本店」

京都にある会社の会長&社長は、どんな店でどんな料理を食べているのでしょうか? 彼らが通う一見さんお断りの超高級店から大衆店までご紹介する【京の会長&社長めし】。今回は山田繊維株式会社社長の山田芳生さんが通う「本家尾張屋 本店」です。

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■山田芳生(やまだ よしお)さん 

山田繊維株式会社代表取締役(3代目)。1965年生まれ、京都生まれ京都育ち。大学卒業後、神戸で5年間アパレルの会社に勤務した後、山田繊維の東京事務所開設を機に家業に就く。東京で8年間営業を経験した後、2001年に京都に戻り、2003年社長に就任。
現代のライフスタイルに適したふろしきの開発に力を入れる他、東京(神宮前)と京都(三条)に直営店「むす美」を開設、またセミナーや書籍の発刊など、ふろしきの普及活動も行う。新しいことも、伝統的なことも、その両面が体験できる仕事と、京都という地の利に感謝している。
伝統と革新が入り混じる京都の食文化も大好きで、和食も中華もイタリアンも大好きだが、やっぱり魚料理が一番好き。
最後の晩餐は、グジの焼き物。

16代続く蕎麦の老舗。四季のしつらえに風情を感じ、名水を使った蕎麦に舌鼓

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100年以上の歴史を持つ店が数多ある京都。烏丸御池から程近い「本家尾張屋 本店」もその一つに数えられる。1465年、尾張の国出身の初代が菓子屋として創業し、江戸時代中期からは蕎麦も商うように。代々受け継がれる蕎麦と蕎麦菓子が京都の人々から愛されてきた。

明治時代に建てられた築約130年の店舗は、看板や「寶」の染め抜きの暖簾が歴史と風格を感じさせる。

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今回推薦した山田さんも、長年この店の味に親しんできた一人だ。

「学生時代にも訪れたことはありましたが、ちょくちょく行くようになったのは、会社で仕事を始めた25年くらい前から。最近はあまり行けていないのですが、お昼に親父とよく行っていましたね」(山田さん)

「私は普段裏方の仕事をしているため、なかなかご挨拶ができないのですが、ご愛用いただいて本当にありがたいと思っています。地元の人に愛してもらうお店であることがすごく大事だと聞いて育ってきたので、長い歴史があったとしても、庶民のお蕎麦屋さんであることを意識していきたいと考えています」と、16代目の稲岡亜里子さん。

ここでは蕎麦やうどんなどの麺類に丼物、甘味と、豊富なメニューを楽しめる。特に天ぷらそばや天せいろ、天とじ丼など、注文が入ってから揚げる天ぷらを使ったメニューが人気だという。

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「京都でお蕎麦の尾張屋さんと言えば、誰でもご存じだし、会社から歩いて行けるので、お客さんと一緒に行くこともあります。ここのお蕎麦はおだしがおいしいので気に入っています。何でもおいしいですが、特に温かい蕎麦が京都らしくて好きですね。親父は年中とろろ蕎麦で、僕は、冬は鴨なんばを食べていました」(山田さん)

尾張屋の蕎麦は、北海道・音威子府(おといねっぷ)で契約栽培された蕎麦粉を使って蕎麦を打ち、注文が通ってから湯であげる。だしは、利尻昆布と宗田鰹、ウルメ、サバ節などの削り節を用い、比叡山水系の軟水の地下水で時間をかけてとった一番だし。無添加で、優しくまろやかな味わいが身上だ。

「お蕎麦はもちろん大切ですが、京都の文化はだしなので、だしを取る素材はすごく吟味しています。また、鶏肉や鴨肉、かまぼこ、麩などの食材も長年京都でおいしいものを作られているところから仕入れています」(稲岡さん)

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山田さんがおすすめに挙げるのが、脂ののった肉厚の鴨肉とたっぷりの九条ネギがのった冬の定番「かもなんば」1980円。
「鴨肉は噛みごたえがあっておいしいし、品書きにあると、この季節が来たなと思います」(山田さん)

上品で深みのあるだしは、やわらかい鴨肉の脂や旨味が溶け込み、更に豊かな味わいになる。
「山椒をかけて食べていただくのがおすすめです」と、稲岡さん。10月から3月後半まで楽しめる。

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山田さんのもう一つのおすすめは、稲岡さんの祖父である14代目が考案した「宝来そば」。「わりご」という五段の漆器に盛り付けた打ち立ての蕎麦を、海老天、しいたけ、錦糸卵などの異なる薬味で一碗ごとに味わう名物だ。

「僕は薬味が好きなんです。京都は湯豆腐など薬味を使う料理が多いですよね。これは薬味がいろいろ添えてあるところが京都らしいし、お客さんが来られたときにもおすすめできます」(山田さん)

「お蕎麦は宝を集める縁起の良い食べ物とされているので、お祝い事や接待などの特別なときにも、おめでたいお蕎麦として楽しんで食べていただけると思います」(稲岡さん)

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山田さんは、店内のしつらえなどに京都らしさが感じられることも魅力に挙げる。

「たとえば、旧暦に合わせて昔ながらの飾り方でお雛さんを出しておられたりするので、『さすが尾張屋さんやなぁ』と思います。庶民的な普通のお蕎麦屋さんなのに、そういったところに気を遣われているところがいいですね」(山田さん)

「しつらえは母の担当で、季節のお花や、雛人形や兜など、昔から続けているものを守っています。京都に住んでいると、そうした季節のものが日常の中にあります。商売をしている中で、お花を生けるのも節句の飾りでお祝いするのも、一つひとつが自然やお客様への感謝からくるものだと思うので、大切にしていきたいですね」(稲岡さん)

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また、接客について、「あれだけたくさんのお客さんが来る中で、お店の人がてきぱきと嫌な思いをさせずに上手に対応されているなと思います」という山田さんの言葉に、

「ありがとうございます。出来立てのお蕎麦を食べていただくために、裏はすごいスピードで動いているのですが、お客さんへは、心豊かにするものとして落ち着いた気持ちでお出しすることを皆、意識してやってくれていると思います」と、稲岡さん。

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「空間、お料理、素材、従業員のサービスのあり方、そして、ものの値段が上がっても、できるだけ値段を抑えること。そのすべてがもてなしにつながっていると思っています」と、稲岡さん。そうして質の高いものを提供し続けることが、長く愛される秘訣なのだろう。

稲岡さんは、16代目の新たな取り組みとして、店舗横に蕎麦菓子専門の店をオープンする予定だという。

「うちはルーツが菓子屋。そのルーツともう一度つながって蕎麦菓子の店をもつことで、蕎麦菓子屋と蕎麦屋の2つの顔の尾張屋を守っていきたいと思っています」

撮影 エディ・オオムラ  文 山本真由美

■本家尾張屋 本店

京都市中京区車屋町通二条下る
075-231-3446
11時~19時(LO18時)※菓子販売のみ9時~
定休日 1/1~1/2