BLOG京の会長&社長めし2019.06.10

原了郭の代表取締役が通う店 「ぎをん 福志」

京都にある会社の会長&社長は、どんな店でどんな料理を食べているのでしょうか? 彼らが通う一見さんお断りの超高級店から大衆店までご紹介する【京の会長&社長めし】。今回は原了郭 代表取締役の原 悟さんが通う店、京割烹「ぎをん 福志」です。

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■原 悟(はら さとる)さん 

原了郭 代表取締役
1703年創業の、各種香煎・薬味を取り扱う「原了郭」。創業者・原儀左衛門道喜は、赤穂義士四十七士のひとりである原惣右衛門を父に持つ。陳皮など数種の漢方薬を原料に、焼き塩で味付けした「御香煎」は、公家、宮家、茶人、文人墨客に愛されてきた。「黒七味」とともに、その味は一子相伝。原悟さんは21歳の時に13代当主を継承。以来その技法を受け継ぎ、日々調合に励んでいる。

客に寄りそう、コースでありながらアラカルトのような気遣い

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「たん熊北店 本店」で17年、そのうち7年間料理長を務めた人物が、201712月に満を持して祇園に割烹を構えた。その名は「ぎをん 福志」。

「たん熊北店 本店さんから紹介されて以来、今では月に2、3回行くこともあるほど大好きなお店になりました。会合やロータリー関連の友人たちをどんどん連れていっています。そうすると誰もが気に入って、今度は彼らが個人的に訪れていく――そんな連鎖ができていて、いずれ予約が取れない店になるだろうと思います。今回紹介することは、自分にとっては痛しかゆしですね(笑)」(原さん)

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まだ新しい店先ののれんをくぐると、店主・福士卓義さんと女将の祐子さんの福福しい笑顔が出迎えてくれる。福士さんの口調は優しくやわらかで、凛とした店内にあたたかな空気を送り込む。

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「カウンター越しに目の前で料理が出来上がっていき、供される。そして福士さんはとても美味しそうに説明してくださるんですよね。その一連の流れが見事です」(原さん)

福士さんは「お客様から"美味しい"というお言葉をいただいてから、料理の説明をするようにしています。召し上がっていただく前に、産地や料理内容をお伝えするのは無粋ですから」と言う。

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原さんが訪れるたび感動するのが造りだそう。

19時に予約を入れたとします。すると逆算をして、魚をどれだけ寝かすか? 何時に〆るか? そこまで緻密に考えられているんだろうということが、魚を口にすると伝わってきます。見事な歯ごたえを導き出していらっしゃるんです」(原さん)

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たとえば、鯛の造り。

「鯛は明石の水口商店から、選び抜かれた身が活かっているものを毎日持ってきていただいています。水口さんはよい鯛が手に入らないときは"今日は持っていけません"と言ってくださるので、とても信頼しています。そしてお客様にお出しする1213時間前に神経締めにして、氷の冷蔵庫で保管します。そうすることで身に旨味が出るのです」(福士さん)

どんな魚でも大切なのが扱い方だと福志さんはきっぱりと言う。使いまわしでない発砲スチロールで運び、ほかのものを切っていないまな板を使う。そして柵には手を添えて、やさしく置く。聞くと簡単なことだが、こうした些細な点にまで気を配り、手を抜かないでいることは、なかなか難しい。

「そうしたことを、原さんは魚の味から感じとってくださるのでしょうね」(福士さん)

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写真はマグロ、イカ、鯛の造り。マグロにのったたっぷりのわさびにギョッとするが、醤油に漬けて口に入れるとマグロとともにホロリととろけて、その絶妙なバランスにたちまち恍惚となった。

「わさびって、適量が分かりにくいですよね。それに造りにのせるべきか、醤油に溶かすのかなど、いろいろ悩みもあります(笑)。そういう煩わしさを、お客様が感じずにすむようにしてゆきたいんです」

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福士さんの「お客様のために」という想いは、その供され方にも現れている。メニューはコースのみで18000円から(税サ別)。しかしその料理には、まるでアラカルトを注文したかのように、客それぞれの好みや量にも反映されている。

「原さんは手を加えすぎず、素材が活きた料理を好まれます。なのであしらいをつけず、ストレートにお出しします。一方、京都らしさを求めていらっしゃるお客様には、割烹らしからぬ意外性を添えるようにしているんです。たとえば八寸も、季節ごとの歳時記を意識しながら、華やかに演出して提供させていただいております」(福士さん)

八寸は6月は梅雨やあじさい、7月は祇園祭、8月はお盆......と、時節が取り入れられている。取材時は5月だったので、端午の節句が描かれ、鯛と穴子のちまき寿司が。

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「歯の悪い方には薄造りにしたり、おなかがいっぱいになった方には、コースの途中からネタの質を上げて品数や盛り付けを減らしたり。風邪気味の方には、コース内にはない丸鍋をお出しすることも。準備したから全部を出すのではなく、お客様それぞれに合ったお料理をおつくりします」(福士さん)

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その臨機応変な対応に、原さんが驚き、さらに心酔したというエピソードがある。

「私には高校2年生になる息子がいます。そろそろよいお店を経験させておこうという年頃ですので、こちらに連れていったんです。息子は魚が好きなのですが、福士さんの手による造りは、今まで食べてきたものとは格段にレベルが上だということが分かったようです。"お父さんは、いつもこんなにいいものを食べてるの!?"と恨まれました(笑)。

そしてあまりにも感動した息子は、なんと鯛の造りのおかわりをお願いしたんです。すると福士さんは快く出してくださったんです。コース料理のお店ですから、ふつうに考えると、鯛の数は決まっているでしょう。その対応力の高さは見事です」(原さん)

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福士さんと祐子さんとのコンビネーションのよさも、「かしこまりすぎず、楽しくすごせる」理由のひとつだと原さんは言う。

「原様は、オープンして2カ月ほどしてから訪ねてくださって、以来とてもよくしていただいています。スーツ姿が決まっていて、いつも素敵なネクタイをしていらっしゃいます。そして何より気遣いの方です。原様が手前どもの店のそばを通られましたとき、臨時休業で店を閉めていると心配してお声をかけてくださったり。お連れの方に楽しんでいただこうと細やかに接していらっしゃるお姿は、私も勉強になります」(祐子さん)

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原さんは、予約の時には誰と行くか、その方の苦手なものを伝えるだけで、自分からの注文はしない。それでも阿吽の呼吸で通じあい、訪れた日には原さんにとっていちばんふさわしい味が目の前に現れる。それは原さんだから特別なのではなく、誰にとっても同じように「特別な味」が、確かな技術のもと提供されているのだ。だから、原さんが「福志はいずれ予約困難な店」になる心配をするのも、なんとも合点がゆくのだった。

撮影 鈴木誠一  文 竹中式子

■ぎをん 福志

京都市東山区祇園町南側570-120
075-354-5314
12:00~、17:30~(19:30最終入店)
定休日 日曜、第2・第4月曜、月1回不定休あり※変動あり。HPで確認を
http://gion-fukushi.jp/