食知新ブログ
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BLOG京の会長&社長めし
2021.09.23
株式会社緑寿庵清水の社長が通う店「じき宮ざわ」
■清水 泰博(しみず やすひろ)さん 金平糖職人/株式会社緑寿庵清水 代表取締役社長創業1847年、伝統と一子相伝の技を守り続ける京都でただ一軒製造販売する、日本唯一の金平糖専門店老舗・五代目当主。初代より長きに亘り受け継がれた独自の製法や伝統を守りながら、父である四代目・清水誠一が意欲的に取り組んだ「素材を加えた味のある金平糖」を五代目がさらに種類を増やし、伝統と革新を融合させた金平糖は、全国菓子大博覧会でも数々受賞。「本物の味、色、形」を追求しながら、皆様に永く、広く愛されるよう、職人技を極めた金平糖作りに挑戦している。PL学園高校時代は野球部に所属し、選抜高校野球大会で戦後初のV2。その後、明治大学でも野球を続け、高校時代にオールジャパンに選ばれオーストラリアに遠征した時の縁から半年間、現地で野球を教えるという経験を得た。帰国後も社会人野球チームに所属し、引退と同時に30歳で家業を受け継ぎ、五代目を継承する。創業170周年を機に、東京・銀座に「銀座 緑寿庵清水」(2017年)を、京都・祇園に「祇園 緑寿庵清水」(2019年)と二店舗の直営店をオープンし、現在では約90種類の金平糖を手掛ける。時代のニーズに合わせ展望を広げ、金平糖の真髄を伝承すべく精進し続けている。http://www.konpeito.co.jp/外食は主に和食。最後の晩餐は、奥様が作る煮込みハンバーグと春巻き。見て、食べて楽しく、身体も心も元気に。思いを込め、趣向を凝らした心づくしの京料理「仕事関係の人や、家族と一緒によく伺います。子供たちもこちらのお料理が大好きで、家族揃ってファンですね。料理長の泉さんは、海外のシェフとコラボされるなど勉強熱心で、これからの人だとすごく注目しています」(清水さん)四条烏丸から西に進み、堺町通を少し北へ。右手の石畳の路地に佇む「じき宮ざわ」は、2007年に店主の宮澤政人さんが開業して以来、多くのファンをひきつけている京料理の名店。「ごだん宮ざわ」オープンに伴い、2014年から弟子の泉貴友さんが料理長として腕をふるっている。緑を望むカウンター8席のみの落ち着いた空間に国内外から人々が集い、泉さんの料理に舌鼓を打つ。清水さんも献立が変わる時期に合わせて訪れるという。茶懐石をベースにしたコースは、夜は15皿で構成され、アイデア溢れる季節の料理がお目見えする。「ちょうどいい分量で、お料理も『こういうなん、前にどこかで食べたな』っていうのがまずない。そこがすごいところやなあと。僕らもお菓子を作っていますけど、勉強熱心なところに共感します」(清水さん)清水さんと店との出合いは4年程前。山形の高木酒造とのコラボイベントに夫婦で参加したのが最初だったという。「十四代のお酒に合わせた料理をふるまっていただいたのですが、すべてのお料理が美味しくて、また若い料理長さんなのに発想力がすごいんです。『これとこれを掛け合わすの?』というようなお料理で驚きました」普通の和食の概念にとらわれない料理にすっかり魅了された清水さん。以来、訪れるたび、料理や泉さんとの会話を楽しみ、刺激を受けているそうだ。「彼の志のようなものがすごく料理に出ていて、それを見ていると、自分ももの作りに対して彼のような熱意を持ってやらなあかんなと、また原点に戻れる。ですので、行き詰まった時や何かあった時に行くと、何か閃くこともありますし、食しながら勉強しているような感じです」そんな清水さんに、ありがたいですね、と泉さん。「あれほどの方なのに学ぼうとされる姿勢がすごいし、僕のほうこそ勉強になります。また理想のご家族で、素敵ですよね。食べ方も含めて料理に向き合う姿勢を子供さんにしっかり教えられていて、食育に関しても素晴らしいなと思います」「泉さんはすごく優しい方ですが、芯の強さみたいなものも感じられる。自信を持ってすべてのお料理を出されていることが、ひしひしと伝わってきます」(清水さん)泉さんの地元・滋賀県長浜市は、昔から発酵文化が根付いている地。コースに発酵を利用した料理が入ることも少なくない。清水さんお薦めの「鮎とおかひじきとスイカ」は、8~9月の献立の一例で、炭火で焼いた上桂の天然鮎に、藻をイメージしたおかひじき、そして刻んだ発酵スイカをまとわせた一品。鮎の骨せんべいは自家製からすみと味わう。「どこにもない料理。スイカの皮を食べさせるというのにまず驚きます。酸味はあるけど苦味はなく、この時期には最高のものですね」と清水さん。やわらかなおかひじきの食感、発酵液のやさしい酸味で鮎の美味しさが一層引き立つ。こちらもお薦めの「車海老とトマト」。炭火焼きの車海老の上に、空気を含ませながら攪拌したトマトと、その分離液を凍らせたものをかけた清涼感ある一皿。殻ごと食べたように香ばしい車海老とトマトの甘味がこの上なく合う。「かき氷みたいにトマトがかかってるんです。『よくこんなん考えましたね』って、思わず泉さんに言いました」(清水さん)また〆に登場する釜炊きのご飯は、宮ざわの定番。同級生の実家で作られた無農薬米のご飯は、煮えばなからおこげまで三度に分けて供される。「お米の味の変化を楽しめます。手間がかかることをあえてやられているのが素晴らしい」(清水さん)ここでは器使いにも注目。写真は朽ち木を使った作家物の平皿と、約800年前のおろし皿。上質の葛で練った名物「焼胡麻豆腐」をはじめ、清水さんが家族で楽しみにしているという「薬膳鍋」、「手打ち蕎麦」など、テイクアウト商品も好評。また清水さんはサービスについて、「料理人の方が4、5名おられるんですが、誰に聞いても料理についてちゃんと説明できるのがすごいなと思います」と感心する。「僕は何でも皆に聞いていますし、作ったものを食べてもらい感想を聞いたりしています。自分だけでできているものは一つもないので」と泉さん。チームとして自然と料理への思いが共有されているという。泉さんは、自身の料理についてこう語る。「根本的に、ただ珍しいものを作ろうというわけではなくて、食材を一番美味しいと感じてもらえる調理法を求めています。見ても食べても驚きのある楽しい料理が日本料理にあってもいいんじゃないかと思っているので、基本の線は外さず、新しい技法などを取り入れながら違ったかたちの日本料理を表現していけたら」人を喜ばせたいということが、料理を始めた一番のきっかけという泉さんにとって、やはりお客の喜ぶ顔が原動力。食べる人の顔を思い浮かべながら献立を考えていると、アイデアが浮かぶことも多いという。「空間、しつらえ、料理のポーションなども含め、お食事を気持ちよく召し上がっていただけるように。そして、次の日からまた励もうと思っていただけるような料理を皆で目指しています」と、泉さん。その思いは清水さんたちにもしっかり届いているはずだ。「お店を出て四条通に向かうんですけど、その短い間に『あれ美味しかったなあ』とか、皆でしゃべりながら歩くんです。その時が一番幸せやなあ、と感じますね」(清水さん)予算は昼6000円、夜2万円程度。撮影 エディ・オオムラ 文 山本真由美■じき宮ざわ京京都市中京区堺町四条上ル東側八百屋町 553-1075-213-1326営業時間 昼 12時/13時45分の2部制 夜18時~20時(入店)要予約(2ヵ月前の一日から受付) 定休日 火曜https://jiki-miyazawa.com/#jiki※営業時間は状況により変更の場合あり。お店にお問い合わせください。
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BLOG料理人がオフに通う店
2021.09.22
「焼肉 文屋」-「ぎおん 佐藤」佐藤龍幸さんが通う店
「ぎおん佐藤」の主人、佐藤龍幸さん 祇園で長年親しまれている【ぎおん 佐藤】。築150年の町家を改装した情緒ある空間で、ゆったりとくつろいで食事が楽しめる。「寿司割烹」でよく知られており、旬の食材をふんだんに使った割烹料理のあとは、丁寧な仕事を施した寿司を堪能する。主人の佐藤龍幸さんは熊本県出身。九州の和食店で料理人としてスタートし、その後、京都や大阪のホテル、和食店などで修業を積む。京都ホテルオークラで寿司カウンターを13年経験したのち、独立して「ぎおん 佐藤」をオープン。割烹と寿司のどちらも専門的に学んだという独自の経験を活かした「寿司割烹」を打ち出し、季節感溢れる割烹料理とともに多くのファンの舌と心を掴んでいる。木目が温かく、広々とした店内。BGMのジャズが耳に心地よく響く。 梅小路公園のすぐ近く、車の往来が賑やかな七条通に面した「焼肉 文屋」。テーブルの上にはロースターがずらりと並び、いかにも町の焼肉屋さんらしい雰囲気に、BGMのジャズが不思議とよくマッチしている。 主人の岩村文植(ぶんしょく)さんは、京都の出身。実家の料理店を手伝っていたことから料理の道を目指した。有名ホテルの名門中国料理店で修業し、四川・北京・香港料理など、中国料理を幅広く習得した。独立を考えたとき、まず自分が大好きな焼肉店を出したかったと笑う。「みんなでワイワイと食べる焼肉が好きで、気取りがなくて、家族や友人同士、寛いで楽しんでいただき、その喜ぶお顔に直接触れることができる、そんな店にしたいと思いました」と2009年11月にこの店をオープンした。「まず素材の肉がいいので誰を連れて行っても喜んでもらえる自信がありますよ。私のお勧めは、上タン塩と、あっさりして旨味があるハラミの安い方(笑)と、あとはホルモンです。焼肉といえば、ここ!と決めています」と推薦者の佐藤さん。休日などに家族で焼肉を楽しみにいくという。佐藤さんおすすめの赤身のハラミ1,280円は、切り口さえも瑞々しく美しい(価格はすべて税込)。あっさりしながらも肉の旨味が満ちている。焼肉の生命線である肉は、それこそ岩村さんが各地の和牛を試して、吟味に吟味を重ねたもので、今は九州の鹿児島や宮崎を中心とした黒毛和牛を「おいしい肉をたっぷりと、安心な価格で楽しんで欲しい」と一頭買いして、提供している。岩村さんがおいしいと思う肉は、「ロースやカルビは、脂にあっさりとした甘みがあって、肉の旨味とコクがぎゅっと詰まっているもの。ハラミなどの赤身は肉々しい旨味に満ちているもの」だという。 品書きにはタンやロースなど「厚切りメニュー」も多彩に揃う。良い肉だからこその自信がそこにあるのだろう。上タン1,380円。サシが細やかに入って、見るからに食欲をそそる。ザブトン、ランプ、カルビ、ロースの各部位2カットの四種盛りや、クラシタ、特選カルビ、焼きしゃぶサーロイン、厚切りカルビなど特選四種盛り、厚切りタン盛りなど、自慢の肉は「肉盛り」として、好きな部位をカット×人数分で注文もできる。迷った時は、ここから注文すると良い。長年の付き合いのある大阪の肉屋さんから黒毛和牛を「どーんと仕入れしているので(笑)」、希少部位もたっぷりと用意できるそうだ。果物や野菜をたっぷりと使った醤油ベースの2種のタレを用意している。さらりとした洗いダレと濃厚なタレ。肉の種類やお好みで使い分けていただく。タレに自家製調味料のヤンニンやネギ油などを混ぜ合わせるのも楽しい。人気のホルモン。写真は上ミノ980円、テッチャン980円、ホソ780円を盛り合わせている。新鮮で艶々としている。肉を待つ間にビールとともに楽しみたいアテも豊富。もやし、ゼンマイ、小松菜のナムルは母、津康子(つやこ)さんのお手製で家庭的な旨さには定評がある。ユッケも人気だ。自家製タレ2種。あっさりとした「洗いダレ」と濃厚ダレはお好みでどうぞ。旨い肉とアットホームなもてなしで、リピーターもどんどん増え、2軒目となる「西大路八条店」をオープン。こちらもいつも賑わっている。岩村さんはなんと11月頃に梅小路のレトロビルに、ちょっと洒落たチャイニーズレストランを開業する予定だという。「もともとが中国料理出身ですし、その経験を生かして、新しい食空間を創ってみたいと考えています。街場の中華店とは少し違って、女性同士でも来やすくて、いろいろな種類の料理をリラックスして楽しめるような店を企画中です」 京都の食シーンにまた楽しい変化が生まれる予感。岩村さんの新たな構想も目が離せない。従業員の小島亘さんと母、津康子(つやこ)さんと。息のあった仕事でもてなしてくれる。■「焼肉文屋」京都市下京区朱雀内畑町2-3075-311-2915営業時間17:00~23:00定休日・木曜日予約・ベター撮影/竹中稔彦 取材・文/ 郡 麻江
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BLOG京都美酒知新
2021.08.31
カクテルが飲みたくなる話「シャンパーニュ・ジュレップ」
■西田稔(にしだみのる) 京都木屋町二条「Bar K6」、「cave de K」、「keller」のマスターバーテンダー。2020年開業の「ザ・ホテル青龍 京都清水」内の「Bar K36」を監修。自らもカウンターに立つ。京都生まれ、同志社大学卒業後、東京のバーで経験を積み、1994年に「Bar K6」を開業した。シャンパーニュの将校、グラッパの騎士、クリュッグアンバサダー、ウイスキーコンテスト審査員シャンパーニュ・ジュレップカクテル言葉「楽天的」シャンパーニュにクレームドカシスを合わせるキールロワイヤル、ブルーキュラソーを合わせるシャンパン・ブルースなどシャンパンのカクテルは、たくさんあります。それぞれ彩も美しく華やかさもあって、女性好みのカクテルといえるかもしれません。今回ご紹介するのは、シャンパーニュのカクテルのなかでも爽やかな味わいで、夏にぴったりの「シャンパーニュ・ジュレップ」です。モヒートのシャンパーニュバージョンといわれています。通常のレシピでは角砂糖を使うところ、「BAR K36」では、上品な甘みの和三盆を用いて、より深みのある味わいに仕上げています。手で押しつぶして香りをだしたミントと和三盆、ライム果汁を合わせ、シャンパーニュを注ぎます。ミントの爽やかな香りがシャンパンにうつるとともに、和三盆のまろやかな甘みが広がるカクテルです。クラッシュアイスがつまったシャンパーニュグラスの中でミントが太陽の光に照らされ、爽やかな輝きをもたらしてくれるでしょう。カクテルレシピシャンパーニュ 120mlライム 1/4カット和三盆 1tspミントリーフ 15枚8月のウイスキーシーバスリーガル ミズナラ12年シーバスリーガル ミズナラ12年は、名誉マスターブレンダー、コリン・スコットが日本のウイスキーファンのためにブレンドした特別なスコッチウイスキーです。日本の伝統文化とウイスキーづくりへの称賛を込め、12年以上熟成したモルトとグレーンウイスキーに、日本原産の希少なミズナラ樽でフィニッシュした原酒をブレンドしたのです。白檀が香るようなシーバスリーガル ミズナラ12年は、スコットランドから日本への心を込めた贈り物なのです。ハイボールにして、ふんわりとした甘さと柑橘系の香り、スムースな口あたりを愉しんでください。シーバス・ブラザーズ社1801年、スコットランドでコーヒーやブランデーなどの高級品を扱う店を営んでいたシーバス兄弟がシーバス・ブラザーズ社を創業。王室をはじめとする富裕層の「より滑らかで豊かな味わいのウイスキーを」という要望に応え、1850年代に、熟成したウイスキーのブレンディングを地下のセラーで始めました。1900年代初めには初代ブレンダーが世界初の25年熟成のブレンデッドウイスキーを作り、製品名を「シーバスリーガル」と命名。「シーバス」は創業者のシーバス兄弟の名前から、「リーガル」には「王者にふさわしい」「威厳のある」という意味があるそうです。その後、アメリカへの輸出が始まり、1920年代に禁酒法が施行されるまでアメリカの代表的なウイスキーブランドとして人気を博しました。1938年にシーバスリーガルは世界で初めて「12年熟成」を表示する製品として復活し、現在に至ります。■Bar K6京都市中京区木屋町二条東入ル ヴァルズビル2F075-255-5009撮影協力:Bar K36/撮影:ハリー中西
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BLOGうつわ知新
2021.08.30
漆器3
今月のテーマは「漆器」です。日本料理にとって欠かすことのできない「漆器」について、その特徴を梶さんに解説いただきました。1回目は日本の漆器と使い方について。2回目は料理に用いるうつわの見方や解説です。そして3回目は、中華料理を新しい解釈で再構築するイノベーティブ中華の雄「ベルロオジエ」の岩崎シェフとのコラボレーション。 中国と日本の季節感を織り交ぜた岩崎シェフの美しい料理と漆器との稀なる融合です。「漆器の世界」をお楽しみください。梶高明梶古美術7代目当主。京都・新門前にて古美術商を営む。1998年から朝日カルチャーセンターでの骨董講座の講師を担当し、人気を博す。現在、社団法人茶道裏千家淡交会講師、特定非営利活動法人日本料理アカデミー正会員,京都料理芽生会賛助会員。平成24年から25年の二年間、あまから手帖巻頭で「ニッポンのうつわ手引き」執筆など。 全国の有名料理店と特別なうつわを使った茶会や食事会を数多く開催。漆器3朽木盆 朽木盆は滋賀県の北西部、若狭と京都を結ぶ鯖街道に沿って発達した山間の朽木の集落周辺で、豊富な森林資源を背景に作られた漆器の盆です。 室町時代末期には足利幕府も弱体化し、12代将軍足利義晴・13代将軍足利義輝が京からこの朽木の地に難を逃れて滞在するなど、歴史の舞台に度々登場することから、単なる山間の閉ざされた集落ではなかったのでしょう。この朽木盆は領主の朽木氏が奨励して生産させ、上質なものは参勤交代の折に献上品として数多く江戸へ持参され、広く名前を知られるようになりました。 写真の朽木盆は、江戸に運ばれた上質な盆とは異なり、分厚く丈夫な作りで、低い足をつけて食事の折敷としても、給仕する側の扱い易さも考慮した、実用性に富んだ盆です。民間で自然発生し、発達した民芸色が強いので、一般の懐石料理店でこれをお使いになっているのは見かけませんが、摘み草料理で名を知られている美山荘では、この盆をお使いになり、お料理の趣をさらに高めておられるようです。漆器2より海老チリ風団子と名残鱧を陰陽スタイルで 「日本料理では、9月には重陽の節句にちなんだ料理が出されます。そもそもこの節句という考えは、中国の陰陽思想からくるものです。すべてのものを陰と陽のふたつに分ける陰陽思想では、奇数は陽の数字とされ、陽数の極み9が重なる日、9月9日が重陽と呼ばれるようになったのです。 今回は、陰陽思想を表す白と黒の「太極図」を料理で表現してみました。白の陽は、海老チリ団子にフロマージュブランのソースを合わせたもの。海老のひき肉を団子にして揚げ、桜海老をトッピングしています。一方、黒の陰は、名残鱧のミンチ、インゲン、大葉などをカダイフ(極細麺状の生地)で巻き、揚げたもの。秋ナスのピュレをソースに、焼き茄子のチュイールを添えています。 朱色と黒の朽木盆を見た時に、陰陽のデザインが頭に浮かびました。本来ならお盆として使われるものですが、今回はうつわに見立て使わせていただきました。」岩崎シェフ北大路魯山人造 日月椀 多くの人が憧れる北大路魯山人の漆器の代表作、日月椀です。このお椀は漆器の産地である温泉で有名な加賀地方の山中の辻石斎という職人が手がけました。私も様々な勉強をするうちに、魯山人と辻石斎が作り始めた当初の日月椀は、今の姿とはずいぶんと異なるものであったことを知りました。金銀の装飾部分は、金色の代わりに朱色、銀色の代わりに灰色を用いたのです。しかも、椀の外側表面の漆の下地に和紙を用いた艶の少ない一閑張(いっかんばり)も、最初は光沢のある一般的な椀の仕上げでした。 時間の経過とともに試行錯誤と改良を加えられた日月椀は、やがて一閑張が採用され、装飾では、金色の下に赤、銀色の下に灰色が隠されたお椀になっていきます(金銀の下なので見えませんが...)。 ただし魯山人はある時、辻石斎に対して絶縁状を送りつけて縁を切っておりますので、その後京都で作らせたものなのか、やはり山中の誰かに作らせたものなのか、詳細が分からなくなっています。この日月椀を眺めているうちに私は気づいたのですが、椀の胴にかすかなくびれがあります。このような形はお椀には見たことがありません。唯一心当たりがあるのは、樂家の作る樂茶碗に見かける特徴です。 魯山人がお椀に一閑張を採用したこと、微かに胴を締めた姿にしたことは、茶道具の形を熟知した数寄者からの助言に強いひらめきを得たのではないかと思っています。写真の右側の日月椀の金銀彩の下にはどちらにも朱色が隠されているのが見て取れます。下地の色が最終的に朱色と灰色になるまでには試行錯誤があったことが想像できます。 30年くらい前には、大きなサイズの煮物椀を好む料理人の方が多くいましたが、いまは小さめのサイズが好まれるようになりました。 しかし、この日月椀の人気はそんなサイズがどうこうという問題など、まったく関係ないようです。漆器2より蕪と菊花のお椀「9月に日本料理店にうかがうと、菊のお軸がかかっていたり、料理に菊花が用いられていたりと、重陽の季節感をさまざまに表現されています。 中国では、菊は不老長寿の効能があるとされ、古くから薬草として用いられてきました。重陽の節句には、菊に綿をのせて露を含ませ、その綿で身や顔をぬぐったそうです。 このお椀は、菊花を模した蕪に菊の花びらを添えた、まさに重陽を表した料理です。蕪の中には、栗のチャーハンを詰め込み、フカヒレをトッピング。鶏の白湯スープをはっています。魯山人のお椀の圧倒的な存在感には、シンプルで色も少ない料理をと思い、このお椀を仕立てました。 これほど素晴らしい漆器を中国料理に使わせてくださった梶さんの寛容なお心に感謝いたします。」岩崎シェフベルロオジエ2019年12月に苦楽園から四条河原町GOOD NATURE STATION2Fに移転して開業。ベースは中国料理だが、モダンスパニッシュにも通じるアート感覚にあふれた料理が評判。大阪のホテルで広東料理を、京都のホテルで四川料理を身に付けた岩崎祐司さんが、独学でフレンチなどガストロノミーを学び個性あふれるチャイニーズ・イノベーションを創り上げた。餃子や酢豚を再構築して旨味を積み重ね、デザイナブルな料理に仕上げる。温前菜からデザートまでのおよそ10~14品のコースは、驚きと感動の連続。ゆったりと楽しみながらも、時間があっという間に過ぎていく。■ ベルロオジエ京都市下京区河原町通四条下ル2丁目稲荷町318番6 GOOD NATURE STATION 2F075-744-698412:00~15:00(※12:30最終入店)、18:30~22:30(※19:00最終入店)休 水曜日(不定休あり)
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BLOG京のとろみ
2021.08.30
「そば処みやこ」の天とじ丼
そんなに頻繁に行くわけではないが30年以上通っている蕎麦屋がある。西洞院通蛸薬師下ルにある「みやこ」さんだ。近所の方やサラリーマン、OLに愛されている普段使い出来る蕎麦屋さん。蕎麦、うどん、焼きそばなど自家製麺が良い。夏場は細いささめうどん、冬は味噌煮込みうどんなどメニューも豊富で、いつもオーダーに困ってしまう。にしんそばや天ぷらそばも抜群に旨い。丼物の種類も多く、中でも卵とじ系が素晴らしい!玉子丼、親子丼、衣笠丼など、どれも美味しいけれど私のオススメは天とじ丼!トロトロにとじられた卵と天ぷらの衣が最高の組み合わせになる。卵と出汁をたっぷり吸った衣が一体となり口いっぱいに広がる。幸せすぎる。昼の日替わり定食は麺類と丼物(小)、小鉢が付いて¥1100こちらもオススメである。
ハリー中西
料理カメラマン
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BLOGうつわ知新
2021.08.28
漆器2
今月のテーマは「漆器」です。日本料理にとって欠かすことのできない「漆器」について、その特徴を梶さんに解説いただきました。1回目は日本の漆器と使い方について。2回目は料理に用いるうつわの見方や解説です。そして3回目は、中華料理を新しい解釈で再構築するイノベーティブ中華の雄「ベルロオジエ」の岩崎シェフとのコラボレーション。 中国と日本の季節感を織り交ぜた岩崎シェフの美しい料理と漆器との稀なる融合です。「漆器の世界」をお楽しみください。梶高明梶古美術7代目当主。京都・新門前にて古美術商を営む。1998年から朝日カルチャーセンターでの骨董講座の講師を担当し、人気を博す。現在、社団法人茶道裏千家淡交会講師、特定非営利活動法人日本料理アカデミー正会員,京都料理芽生会賛助会員。平成24年から25年の二年間、あまから手帖巻頭で「ニッポンのうつわ手引き」執筆など。 全国の有名料理店と特別なうつわを使った茶会や食事会を数多く開催。漆器2菊水蒔絵煮物椀 今から思えば撮影現場へは、もっと華やかな蒔絵のお椀も数多く持参していたはずなのに、なぜかこの静かな椀の写真しか撮影していなかったので、ここから話を始めましょう。 この菊水模様は南北朝時代に後醍醐天皇の下に馳せ参じて、足利勢と戦った楠木正成の旗印の紋として知られますが、流水に菊の花びらが半分浮かび上がった模様は「浮かび上がる」という縁起の良さで、延命長寿のめでたい柄と考えられていたようです。菊の花は重陽の節句の象徴的な花ですから、このお椀は秋に向いている図柄です。ところが同時に、菊は長寿を表すことから、特に季節を問わずに使われる傾向にあります。 このようにお椀の図柄で使う季節が限定されると生真面目に考えてしまう人も多いことでしょうが、模様の持つ意味についてもう少し深く学ぶと、使える機会を広げることが出来るでしょう。人によっては、どんな季節でも使える図柄を求める方もおいでになりますが、一年中同じ椀を使い続けることはうつわを楽しむ観点から言えば面白くありません。あの学生服でさえ夏物冬物があるくらいです。四季の移ろいやハレとケは私たち日本人にとって大切な感性です。それをうつわの中でも楽しまないと損なのではありませんか。左:四君子蒔絵大徳寺盆 右:高台寺蒔絵大徳寺盆 業界用語というわけではないのでしょうが、大徳寺盆と呼ばれる写真のような丸盆が存在します。きっと大徳寺で使われていた古い盆があって、それを写したものを大徳寺盆と呼ぶのであろうと思っていました。ところが調べても、これがオリジナルだと言える古い大徳寺盆が見つかりません。 この2種類の盆もおおまかにサイズは同じなのですが、塗も蒔絵の模様も異なります。茶道の大本山的な存在の大徳寺の名前がつけられているのだから、茶道具として活躍する決められた場所があるのだろうと思っていたら、そうでもない。「どう使うのですか?」と私も尋ねられて困ることがよくあるのです。 しかもこのお盆はコンディションも良いものがたくさん残されているので、良い品の割に安価なのです。そんなことから私はお料理を提供する時に、気軽にこのお盆を使わせてもらっています。肉の赤身や、野菜の濃い緑がよく映えます。漆器のうつわといえばお椀しかないと思わず、また和食使いと決めつけず、もっと漆器を知ってください。使えるものがたくさんあると思いますよ。手前:音丸耕堂造 高麗盆 奥:日の丸盆 ほとんどの懐石料理店で使われるのは黒塗か蝋色・塗溜塗の黒系の四方の折敷です。朱色や丸形の折敷をお求めになる方はとても少ないのです。それはダイレクトに価格に反映されるので、品質の割にそれらは安価に手に入れるチャンスも多いようです。 折敷もうつわのひとつと気遣いをされるなら、季節で向付を替えるように、折敷もお洒落にお取替えになってはいかがかと、日頃から思うのです。 左は昭和30年に人間国宝に指定された音丸耕堂作の高麗盆です。高麗盆と言うからにはそのオリジナルが朝鮮半島の品の中にあるのかと探して見ましたが探しあてることができませんでした。朝鮮半島では、足付きのお膳で食事をする習慣があるので、足のない折敷は音丸耕堂のオリジナル色の強いものだろうと思います。アジアで広く作られていた独楽盆に意匠を得たのかもしれません。京都の老舗懐石料理店で音丸耕堂作の高麗盆お使いになっておられるのを見たことがありましたが、お料理を引き立てるのに折敷の役目も大切なのだとはっきり教えられるほど、素晴らしい存在感を放っていました。 右は二月堂練行衆盤(にがつどうれんぎょうしゅうばん)または日の丸盆と呼ばれ、東大寺二月堂で行われる修二会(しゅにえ お水取)の際,練行衆(篭りの僧侶)が食堂で飯椀・汁椀・菜椀・木皿などの食器類をのせるために使用する盆を写しています。 本歌の裏面にも、写真の盆にも「二月堂練行衆盤二十六枚内永仁四年十月日漆工連仏」と記されています。本歌は重要文化財に指定され11枚現存しています。ただの丸い盆でありながら私個人はこの盆に強く惹かれるところがあります。ただシンプルに轆轤で引いているだけですが、一尺四寸強(約42㎝)のたっぷりの寸法の朱色の表面に、わずかに顔をのぞかせる黒。裏面も含め、全体に下地塗りされた黒が折敷の印象を引き締めています。本歌は長年の使用で、朱漆が薄れて下地の黒が浮かび上がって趣のある歴史観を漂わせています。 調理することも食すことも修行と考える禅の教えの中で育まれた懐石料理が、このような宗教色の強いうつわたちとの相性が悪いはずはないと思うので、根来塗のうつわなども含めて、ぜひ使っていただきたいと思います。朽木盆 朽木盆は滋賀県の北西部、若狭と京都を結ぶ鯖街道に沿って発達した山間の集落で、豊富な森林資源を背景に作られた漆器の盆です。 室町時代末期には足利幕府も弱体化し、12代将軍足利義晴・13代将軍足利義輝が京からこの地に難を逃れて滞在するなど、歴史の舞台に度々登場することから、単なる山間の閉ざされた集落ではなかったのでしょう。この朽木盆は領主の朽木氏が奨励して生産させ、上質なものは参勤交代の折に献上品として、数多く江戸へ持参され、広く名前を知られるようになりました。 写真の朽木盆は、江戸に運ばれた上質な盆とは異なり、分厚い丈夫な作りで、低い足をつけて食事の折敷としても、給仕する側の扱い易さも考慮した実用性に富んだ盆です。民芸色が強いので、一般の懐石料理店でこれをお使いになっているのは見かけませんが、摘み草料理で名を知られている美山荘では、この盆をお使いになり、お料理の趣をさらに高めておられるようです。北大路魯山人造 日月椀 多くの人が憧れる北大路魯山人の漆器の代表作、日月椀です。このお椀は漆器の産地である温泉で有名な加賀地方の山中の辻石斎という職人が手がけました。私も様々な勉強をするうちに、魯山人と辻石斎が作り始めた当初の日月椀は、今の姿とはずいぶんと異なるものであったことを知りました。金銀の装飾部分は、金色の代わりに朱色、銀色の代わりに灰色を用いたのです。しかも、椀の外側表面の漆の下地に和紙を用いた艶の少ない一閑張(いっかんばり)も、最初は光沢のある一般的な椀の仕上げでした。 時間の経過とともに試行錯誤と改良を加えられた日月椀は、やがて一閑張が採用され、装飾では、金色の下に赤、銀色の下に灰色が隠されたお椀になっていきます(金銀の下なので見えませんが...)。 ただし魯山人はある時、辻石斎に対して絶縁状を送りつけて縁を切っておりますので、その後京都で作らせたものなのか、やはり山中の誰かに作らせたものなのか、詳細が分からなくなっています。この日月椀を眺めているうちに私は気づいたのですが、椀の胴にかすかなくびれがあります。このような形はお椀には見たことがありません。唯一心当たりがあるのは、樂家の作る樂茶碗に見かける特徴です。 魯山人がお椀に一閑張を採用したこと、微かに胴を締めた姿にしたことは、茶道具の形を熟知した数寄者からの助言に強いひらめきを得たのではないかと思っています。写真の右側の日月椀の金銀彩の下にはどちらにも朱色が隠されているのが見て取れます。下地の色が最終的に朱色と灰色になるまでには試行錯誤があったことが想像できます。 30年くらい前には、大きなサイズの煮物椀を好む料理人の方が多くいましたが、いまは小さめのサイズが好まれるようになりました。 しかし、この日月椀の人気はそんなサイズがどうこうという問題など、まったく関係ないようです。漆器3へつづく
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BLOGうつわ知新
2021.08.28
漆器1
今月のテーマは「漆器」です。日本料理にとって欠かすことのできない「漆器」について、その特徴を梶さんに解説いただきました。1回目は日本の漆器と使い方について。2回目は料理に用いるうつわの見方や解説です。そして3回目は、中華料理を新しい解釈で再構築するイノベーティブ中華の雄「ベルロオジエ」の岩崎シェフとのコラボレーション。中国と日本の季節感を織り交ぜた岩崎シェフの美しい料理と漆器との稀なる融合です。「漆器の世界」をお楽しみください。梶高明梶古美術7代目当主。京都・新門前にて古美術商を営む。1998年から朝日カルチャーセンターでの骨董講座の講師を担当し、人気を博す。現在、社団法人茶道裏千家淡交会講師、特定非営利活動法人日本料理アカデミー正会員,京都料理芽生会賛助会員。平成24年から25年の二年間、あまから手帖巻頭で「ニッポンのうつわ手引き」執筆など。 全国の有名料理店と特別なうつわを使った茶会や食事会を数多く開催。漆器1 今月のうつわ知新では漆器についてお話をさせていただこうと思います。ここの読者にはプロの料理人さんも少なからずおいでになると思います。その方々は、漆器が欠かすことのできないうつわだとよくご理解されていることでしょう。吸物椀・煮物椀・小吸物椀・折敷などはお料理の流れの中で必ず必要とされる漆器ですし、懐石料理の中では煮物椀がメインディッシュである以上、漆器の出番こそが一番気の抜けない料理の見せ場なのかもしれません。ところが一般のご家庭を見てみると、煮物椀をお作りになる機会はほとんどなく、お吸物やお味噌汁をお料理に添えられるだけで、季節感のあふれたお椀を、幾種類も持って使い分けておられる方は少ないことでしょう。 私も多くの漆器を扱っておりますが、茶道人口が激減しているこの頃、料理人以外の方が漆器のお椀のみならず、折敷などをお求めになる事はほぼありません。漆器のうつわから一般の人々の心がどうして遠のいてしまったかの理由を考察しても面白くないので、漆器のうつわの興味深いところに焦点を当ててお話をしていきたいと思います。 漆器は英語でlacquerware(ラッカーウエァー)といいます。またJapan(ジャパン)も日本の国を意味する英語である以外に漆器という意味を持っていると文章では読んだことがあります。しかし、Japanを漆器という意味で使っている外国人に出会ったことはありません。漆器は私の知る限りアジア各地で生産されていますが、Japanという英語に漆器という意味があるのなら、きっと日本の漆器は他国と比べて出来栄えが素晴らしいと評価された結果なのでしょうね。 以前、ミャンマーの漆器のお店で経験した話です。当時の私は喫煙者でしたので、店内で喫煙の可否を尋ねました。すると、すかさず灰皿を用意してくれたのですが、それが漆器の灰皿だったのです。ご存じの通り漆器は熱いみそ汁を注ぐと黒い漆は茶色に変色してしまいます。これを漆が焼けると言うのですが、当然私はそのことを知っていたので、漆の灰皿は使うことが出来ないから、金属かガラス製の灰皿に交換してくれるようにお願いしました。ところが店員さんは笑って応じず、そのまま使うように勧めるので、タバコを吸い、そしてタバコを押し付けて火を消しました。すると店員さんは漆が変色していないことを私に見せて「ミャンマーの漆は強い」と自慢げに言いました。確かにタイやミャンマーで見かける漆器は、日本の漆器には見られないエナメル素材のような光沢の強い黒色で熱に強い。それならば、古染付など中国のうつわが日本でもてはやされたように、日本人はどうして煮物椀や吸物椀のような熱い汁物を注ぐうつわにタイやミャンマーの漆器を採用せず、香合・煙草壺・煙草盆などの道具類のみを輸入したのでしょう。 懇意にしている塗師の方に尋ねたところ、漆科の植物でも日本の漆と東南アジアの漆では種類が違うため、その性質が大きく異なるのだそうです。漆は乾燥させることによって固まるのではなく、適度な湿気と温度で、漆の中に含まれている「ラッカーゼ」という成分が水分と酵素反応を起こし、漆の主成分である「ウルシオール」という物質の硬化を促進させるのです。この「硬化する」ことを便宜上「漆が乾く」と言っているだけなのです。日本の漆は非常に硬く固まるのに比べて、東南アジアの漆には若干の変形にも耐える柔軟性が残ります。その特徴を生かして、タイ・ミャンマーには弾力性のある籃胎 (極薄の竹で編んだ籠地)に漆を塗布した蒟醤(きんま)製品が発達したようです。 漆器は高い熱によって変色してしまうのに、なぜ日本ではお椀に使われているのでしょうか。じつは漆器は単純に熱に弱いというのは正しい理解ではないようです。紫外線の当たる環境下(直射日光の当たる場所や強い蛍光灯の光のもと)に長く放置すると、漆表面の退色と共に劣化が進みます。その劣化した状態に、いきなり熱湯を注ぐことで黒い漆が変色する問題があるのだそうです。 また長時間、紫外線の下に放置したわけでなくとも、涼しい環境に置かれていた漆器に熱いものを突然に注ぐような、急激な温度変化にさらすことも変色の原因になります。つまり使用前にぬるま湯にさらすなどの準備運動をさせてやる余裕が必要なのだそうです。このように急激な変化(特に温度変化)を与えなければ、椀も変色せず、折敷や机に輪ジミ(湯呑やコップを置いた跡)がつくことも防ぐことができます。 日本の漆は東南アジアの漆とは違って、年月と共にどんどん硬化して、変色にも衝撃にも強くなり、数千年の年月にも耐えうるものだと言われます。この耐久性の他にも、耐水性、抗菌性、防腐作用もあり、酸(酢)にも強いことが、うつわに必要な条件を満たし、さらに仏像などに至っても漆を施すことで長い年月に耐えることが出来るわけです。 陶磁器に比べてはるかに古い歴史を持つ漆のうつわ。磁器のうつわのみで組み立てられる西洋料理にあって、ガラスは飲み物、金属はカトラリーと、ほぼきっちり区別されています。ところが日本では、陶器・磁器・ガラス・竹、そして漆器も料理を盛るためのうつわとして当然のように使われています。様々な種類のうつわを混ぜて使って食事を組み立てるこの習慣を、当たり前のように日本人の意識に植え付ける先駆的な役目を果たしたのが、漆器のうつわなのではないでしょうか。また漆器を用いるために、金属製の箸・ナイフ・フォークを使って食さない。そのことでうつわにダメージを与えず、ひいてはうつわを長く大切に使う日本人の意識に繋がっているように思います。 いま、現代人の暮らしの中、漆器のうつわとの距離が遠のいてきているようです。改めて漆器について学んでみると、その歴史の古さや、奥深い美しさを再発見することができるでしょう。ぜひ漆器のうつわを見直してください。 日頃から漆のことについてご教授くださる漆芸家の土井宏友氏に今回もお世話になりました。感謝申し上げます。漆器2へつづく
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BLOG割烹知新〜奇想の一皿〜
2021.08.27
割烹KIZAHASHI「韓国風冷麺 和の酸味」
割烹KIZAHASHI「韓国風冷麺 和の酸味」ザ・サウザンド キョウト『KIZAHASHI』はカジュアルなダイニングエリアと割烹スタイルのカウンターを併せ持つ日本食レストラン。カウンター割烹を取り仕切る宮下司料理長は、RED U35(35歳以下の若手料理人を対象とした日本最大級の料理コンペティション)で優秀な成績を収めるなど、京都でも注目を集める存在。『祇園丸山』『祇園さゝ木』といった名店での豊富な経験を生かし、祇園町で味わうような割烹体験を提供しています。発想秘話食欲が減退しがちな暑い夏に欠かせない冷たい麺。この時期、家でも外でも冷たい麺類を召し上がる機会が多いんじゃないでしょうか。でも和食でお出しする「冷たい麺」って意外と種類が限られるんですよ。そこで何か目先の変わったものを......と考えた時に、ラーメン用の鶏スープで「韓国冷麺」のような澄んだスープの冷麺を作ったら面白いんじゃないかと思ったんです。鶏スープは当店のシメの一品として常備しているラーメン用のもの。コース終盤でもするするとお腹に収まるような、とてもすっきりした味わいのスープです。通常はチャーシューなどおなじみの具材を乗せてお出ししていますが、今日はちょっと意外性のある食材を使い、夏にぴったりな一品に仕上げようと思います。今日使う手延べ素麺は奈良で作られている本葛入りの全粒麺で、いわゆる素麺とは食感がだいぶ異なります。鮎魚醬と梅干しはスープに深みを与える隠し味に使います。具には今が盛りの桃と胡瓜を。桃と麺、胡瓜と魚醬......互いを引き立てる相性の良さを感じてもらえるとうれしいですね。では早速作っていきましょう。まずは煎り酒を作ります。純米酒に梅干しを入れて火にかけ、アルコールを飛ばします。少し煮詰めて梅の酸味と塩味を酒に移し、冷ましたらすぐに使えます。さっぱりしていて白身魚によく合うので、夏は醤油代わりに造りに添えることもあります。常備している鶏スープに煎り酒と鮎魚醬を加えます。鶏スープは塩でよく練った鶏ミンチからとったもの。ミンチを使うことで、非常にすっきりとした味わいになります。一般的な韓国冷麺は水キムチの漬け汁などを隠し味に使いますが、今日は鮎魚醬と煎り酒で発酵のうまみと酸味を補ってやります。桃と麺はとても相性がいいのですが、少し食感が物足りない。そこで胡瓜を加えました。瓜の香りは魚醬との相性も抜群です。麺と絡みやすいよう桃は薄くスライスし、胡瓜は千切りにします。弾力ある食感に仕上げるため、茹で時間は短めに。氷水でしっかり洗い流すと、食感がさらによくなります。麺の上に先ほどカットした桃と胡瓜を乗せ、仕上げに葱油を。アクセントに自家製の実山椒ペーストを乗せて完成です。お好みでそら豆の時期に仕込んだ豆板醤を足してみてください。桃と喉ごしのいい素麺、鶏スープの相性はいかがですか? すっきりしたスープがフルーツともよく合うでしょう? 食欲がない時でも、するするっと召し上がっていただけるんじゃないでしょうか。和食に軸足を置くのはもちろんですが、面白いアイデアはどんどん形にしていきたい。もっと言えば「みんなと同じことはしたくない」と思ってやっています。今日の麺も、高級食材を使えばいくらでもおいしくできる。でもそれは僕の目指すところじゃありません。それよりも逆に「迷ったら減らす」。なるべくシンプルに、要素を少なく。僕が目指すのはそういう料理なんです。例えば椀物。緩急あるコースの中で、お椀は出汁を楽しんでもらう料理です。「ならば野菜だけのシンプルな椀があってもいいのでは」と思い、野菜だけの椀をお出ししています。今の椀だねは揚げてから炊いた賀茂茄子ですが、お客様の反応も非常にいいですね。要素を増やすのは簡単だけど、逆に減らすのはすごく怖い。それだけに、挑戦のし甲斐があると感じます。自分の主軸さえブレなければ、そして気持ちを入れて作ったものなら、どんな料理も胸を張って「食べてや」って言える......これは『祇園さゝ木』の大将から学んだことでもあります。これからも思考にブレーキをかけず、新しいことにどんどん挑戦していきたいと思います。 撮影 鈴木誠一/取材・文 鈴木敦子■ザ・サウザンド キョウト 日本料理KIZAHASHI内 割烹KIZAHASHI京都市下京区東塩小路町570075-351-0700(レストラン総合受付10:00~19:00)月・火曜休17:00~20:00(19:00L.O.)※時短営業中(まん延防止重点措置により、8/31(火)まで酒類の提供を休止しております)※営業時間・営業内容につきましては、日本政府及び京都府関係機関の示す方針に準じ、変更が生じる場合があります。※記事内容は取材時(2021年7月末)のものです。最新の情報は直接『ザ・サウザンド キョウト』までお問い合わせください。
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