食知新ブログ
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BLOG京の会長&社長めし
2021.07.26
株式会社KASEYAの社長が通う店「赤垣屋」
■綛谷 武史(かせや たけし)さん Maestro/株式会社KASEYA代表取締役社長2009年、京都に設立した完全提案型の花。庭の作成、内装・外装の装飾、自然の成果物をマテリアルに空間・環境のデザインを行う。2015年9月、法人化する。2017年AGINGをテーマとし、枝の表情に焦点を当てた「枝と技」をスタートする。2019年9月、中目黒にてグリーンショップ「quartetto」をオープン。2021年3月、初の実店舗となるカフェを併設したフラワーショップ「Maestro」をオープン。味良し、雰囲気良し、値段良し。昭和な雰囲気と大人の酒場文化に浸る、京の名居酒屋三条京阪から川端通を北へしばらく歩くと、赤ちょうちんに縄のれん、ネオン看板の歴史を感じさせる建物が見えてくる。川端二条の「赤垣屋」といえば、京都はもとより全国から酒好き、居酒屋好きが訪れる名店であり、予約が取りにくいことでも知られる。週に何度も飲みに行くタイプではないという綛谷さんも、定期的に足を運んでいる一人だ。「10年以上前、知り合いのお客さんに連れて行ってもらったのが最初ですが、それ以前から京都で一番古い居酒屋だとか評判を聞いていて行きたかったお店でした。店の佇まいや雰囲気がよくて、旬の魚など料理もお酒も安くておいしい。居酒屋の系譜というのか、こういうことが大事なんだと思いましたね。その後、店の若大将と共通の知り合いを通じて親しくなったこともあり、通うようになりました。今は2~3カ月に一度は行かせてもらっています」(綛谷さん)4代目店主の伊藤剛氣さんによれば、「赤垣屋」の創業は戦前で、今の場所より少し南にあったそうだ。「昭和24年に祖父母が氷屋だった建物を買ってこの場所に移ってきたようです。祖父母がやっていた頃は、苦学生やお金のない日雇い労働者の方向けの居酒屋でした」店は駅から少し離れた場所にあるが、常連客たちで開店早々から席が埋まる。当時のままの風格を感じさせる店内は、カウンターや小上がり、座敷、中庭など、昭和のノスタルジックな佇まいが味わい深い。カウンター以外は予約可能で、綛谷さんはいつも座敷や小上がりの席を予約して楽しんでいるという。「綛谷さんにはいつも可愛がっていただいています。綛谷さんはスタッフの方やお仕事関係の方と一緒に来られた時も、皆さんに対してきめ細かく気配りをしていらっしゃいますね」と伊藤さん。ここは独特の凛とした雰囲気の中、背筋を伸ばして飲む大人の酒場だ。好き勝手に楽しめばいいわけではなく、店とお客との間に暗黙のルールがある。「例えば、大きな声でしゃべらないとか、他のお客さんに絡みすぎないとか。基本的に常連さんに向けた店でありたいので、店の空気に合わない方はご遠慮いただいています」と、伊藤さん。店で感じる居心地の良さも長年常連客と共に築き上げてきたもの。それを崩さないために、節度を持って楽しんでほしいと話す。「料理も接客も雰囲気も、すべて常連さんが正しい答えを持ってはると思うんです。常連さんが居心地悪く感じるのは何かが違っていて、居心地がいいなら店の空気は守れているのかなと」伊藤さんが店を継いだのは約10年前。それまで継ぐつもりはなかったが、父である先代が高齢になったこともあり、好きなアパレルの仕事を辞め、勉強の期間を経て家業に入ったという。「小さい頃から跡取りと言われたり、店の手伝いをしたりしていたのが刷り込みになって。常連さんの顔も全部知っているので、なくしてしまうことはどうしてもできなかったですね」それだけに、老舗の居酒屋として受け継いだものを守り伝えていきたいという思いがある。「せっかくこの看板をいただいているのだから、飲み手と店の関係性とか、店の文化を伝えていくことは、僕らの役割かなと思っているんです」「ここの料理は全部おいしい。造りから旬のものにいって、あとはおでん盛り合わせなどの定番を頼みます。胡麻豆腐は最高だし、イカゲソ塩焼きは絶対食べます。いつも注文しすぎて腹いっぱいです」(綛谷さん)お客の一番の目当ては、やはり定評ある旬の魚をはじめ、毎日市場で仕入れる新鮮な食材を使った料理の数々。名物のしめさばやおでん、鴨ロースなどの定番に、夏なら鱧の落し、水ナス、茄子にしん煮など、四季折々の一品が並び、皆が美味い肴と共に思い思いの時間を楽しむ。品書きに値段はないが、料理2~3品に3杯飲んで4000円程度と手頃だ。綛谷さんのお薦め、特に若者に人気の「鴨ロース」。「肉厚でボリュームがある。味付けもいいし、すべてにおいてバランスがいいです」(綛谷さん)フォアグラ用の希少品種「マグレカナール」を使用した鴨ロースは、やわらかくジューシーで臭みがない。食べ応えも満点だ。綛谷さんが、「料亭と変わらないぐらいのクオリティで、おいしい」と、絶賛する「胡麻豆腐」は、先代の時からの人気メニュー。程よいくちどけ感のある上品な味わいで、胡麻の風味もしっかり感じられる。ここで飲むならやはり日本酒を。店のお薦めは伏見の「名誉冠」。燗酒でも冷酒でも楽しめるが、「燗で飲んでもらえるとうれしいですね」と、伊藤さん。「スタッフもたくさんいてすぐに来てくれるし、挨拶などしっかり教育されているなと感じます。雰囲気も、お酒も、料理も、全部が魅力。どこへ行こうかとなった時に、この店なら間違いないという安心感があります」と、綛谷さん。その言葉からも、店とお客の信頼関係が窺える。「やっぱり店のことを愛してくださっていると思える人を大事にしたいし、そういうことが文化になっていくと思っているんです。うちは常連さんが日常の中で当たり前に過ごす店でありたい。だから、居心地良く過ごしてもらえるよう、凛とした空気感を大切にしています。カジュアルな感じではなく、お客さんと心地良い緊張感を共有しながら、おもてなしをしていきたいですね」(伊藤さん)撮影 エディ・オオムラ/文 山本真由美■赤垣屋京都市左京区孫橋町9075-751-1416営業時間 17時~23時定休日 日曜
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BLOG料理人がオフに通う店
2021.07.26
「創作料理と京野菜のびすとろKIZANO」-「H.Splendideアッシュ・スプランディード g旬風庵」井手さんが通う店
「H.Splendideアッシュ・スプランディード g旬風庵」オーナーシェフ 井手 弘昭さん 旧京都ホテルを皮切りに、京都ホテルオークラ、リッツカールトン大阪などの有名ホテルで腕を磨き、2004年に、創作フレンチの店「旬風庵」をオープンした。町屋ブームの先駆けとして、また、和のテイストとフレンチのクロスオーバーを楽しめる店として、一躍人気店に育てた。2007年、一つの原点回帰として純然たるフレンチを目指して、1日限定4室のみ、個室フレンチのレストラン「アッシュス・プランディード」をスタートさせた。現在は、「旬風庵」を洋食店としてリスタートさせ、2店舗を切り盛りしている。「お客様の喜びのために」というモットーで、日々、丁寧な仕事を心がけている。家族的な雰囲気が温かくて心地よい店内。地元の根強いファンも多い。 東本願寺の東の真向かいにある心地よい一軒。ここはオーナーシェフの野崎雅也さんと真理子さんが営むビストロだ。野崎さんは、からすま京都ホテルで仕事をスタートさせた。その間に、ホテルと東京銀座のレストラン「KIHACHI」のコラボレート企画に関わるチャンスに恵まれ、1週間、銀座の店で、創業者であり、創作フレンチの第一人者とされる熊谷喜八さんのもとで様々な料理や素材、技法に出会うことができた。「ジャンルレスで常識にとらわれることなく、国境を超えて自在な料理の融合や発想ができることに本当に衝撃を受けました」と当時を振り返る。そのことが契機となり、知らない世界でもっとチャレンジしたいと、ホテルを退職し、新たな道へと進んだ。その時に知り合ったのが井手さんだった。「井手さんもちょうど、京都ではまだほとんどなかった創作料理への挑戦を始めた頃で...。京野菜など京都らしい素材の活かし方などを、勉強をさせていただきました」。一年ほどで、新しく声がかかり、別の店に移ったが、井手さんとは今も店を行き来するなどの交流を続けている。「野崎君がいたのは1年余りですが、当店を巣立たったのちは、お互い、一オーナー シェフとして切磋琢磨しながら、刺激を受けています。野崎君の料理は間違いないうえに、奥様の真理子さんの何とも言えぬほんわかしたキャラクターがええ感じで、ついつい通ってしまいます。うちのスタッフを連れて行っても、いつも喜んでもらえます」(井出さん) 京田辺で店を任されて、創作料理の腕を磨いた野崎さんは、2010年、いよいよ自分の店を持つことに。なかなか良い場所がなく悩んでいた時に、偶然、出会ったのが東本願寺の真向かいという絶好の場所。京都駅にもほど近く、観光客も多い場所で、妻の真理子さん共々、迷うことなくここに決めた。「しばらく使われていなかったのと、お金もなかったので、二人で毎日通って、DIYでリノベートして、なんとかレストランらしくすることができました(笑)」。若い夫婦のまさに、二人三脚のスタートだった。隠し味、利かせ味、王道の味。各国の様々な調味材を駆使して、独自の味わいを追求する。 井出さんの店や「KIHACHI」で学んだことは、何よりも素材の出会いの面白さだった。ナンプラーやタバスコなど多国籍な素材やスパイスを使って、そこに京都のおいしい野菜と、醤油や味噌など日本人に食べ慣れた味わいを巧みに組み合わせて、独自の味の世界を展開していく。隠し味という言葉だけでは表現しきれない面白さが一皿ひと皿に反映されていて、コースの中にリズムが生まれて、飽きさせることがない。その技ありのテイストを気軽に楽しめるのが、コースのスタートにふさわしい「旬の彩り前菜5種盛り合わせ」だ。和洋中、アジアンなど多彩な味わいが一皿にぎゅっと盛り込まれている。人気の夜の「びすとろコース」3850円から抜粋。 前菜5種は左から、黒豚の田舎風パテと自家製ピクルス、セセリのタイカレー煮込み モッツアレラチーズ焼き、野菜と魚介の春巻きスイートチリとサルサソース添え、鱧のバプール、 真鯛のカルパッチョ 上賀茂の柴漬けソース。魚介、肉、野菜のバランスが素晴らしく、チリソース、サルサソース、柚胡椒、グリーンカレーなど、多国籍な味わいとともに楽しむことができる。冷えたスパークリングワインがグイグイと進む。こんがり皮目を焼いて、絶妙の火入れで仕上げたたっぷりの野菜とともにいただく、ヨコシマフエフキ鯛のポアレ。 「びすとろコース」では、メインを魚、肉の3品からチョイスする。今日の魚料理はヨコシマフエフキ鯛のポアレ。白味噌と大葉のまろやかなソースと香ばしいバルサミコのソースでいただく。シコシコとした白身と、和ベースのソースの相性がたまらなくいい。添えられた野菜にも注目。カリフラワー、ブロッコリー、アスパラ、モロヘイヤ、ズッキーニ、ニンジン、サツマイモ、ハクサイ菜、ヒメタケなど、超絶アルデンテで、本来の旨味と食感を生き生きと味わえる仕上がりになっている。高さのある盛り付けが印象的な鴨肉のロースと賀茂茄子の田楽 肉料理は、鴨肉の胸ロースと賀茂茄子の田楽。とろりと焼き上げた賀茂茄子の甘やかな味噌味に、鴨肉のロースと、野菜やフォンドヴォーを合わせたシャリアピンソースの濃厚な味わいが一つにぴたりと重なり、まさに、味の出会いの妙を演出している。鴨肉の美しいロゼ色が食欲をそそる。 いろいろな国のスパイスや独自の調味材を見事に使いこなして、それらの組み合わせやバランスもまたお見事。野菜、魚、肉などメイン素材の味を最大に引き出しつつ、酸味、苦味(にがみ)、甘味、辛味、鹹味(かんみ)、淡味(たんみ)の六味をバラエティ豊かに創造していく。「今でもKIHACHIさんの店での1週間の興奮と感動をよく覚えています。人生であれほどの刺激を若いうちに受けることができて幸運だったと思います」 「お客様を飽きさせないこと。それを最も意識しています。濃い、薄い、インパクトのある味、どこか懐かしい味、スパイシーな味、柔らかな味など、メリハリをつけながら、コース料理を飽きることなく召し上がっていただいて、それらが一つのまとまりとして幸せで深い印象を残すことができれば、嬉しいですね」 締めには小さなお茶碗のごはん、お漬物、ほうじ茶をお出しする。お客さんはみな、ほっとした顔で喜んでくれるそうだ。窓からは東本願寺の緑がすぐ目の前に見えて、春の桜、夏の緑を楽しみ、秋には大銀杏が黄金色に輝く。京都の四季を身近に感じたい時は、ぜひ訪れて、目で舌で京の食時間を堪能してほしい。京都のワインも揃う。野崎シェフの味わいは、ジャパニーズワインの清らかな味にもよく合う。■創作料理と京野菜のびすとろKIZANO京都市下京区卓屋町66-1 ベルセゾン京都駅前1F075-708-2454営業時間11:30~15:00(L.O 14:00)、18:00~21:00(最終入店20:00)※現在は新型コロナに関連して、クローズ時間に変動あり、コース料理のみ。 昼プレートランチ1,540円〜 コース2,530円、夜3,850円〜※全て税込、サなし月曜定休(その他に不定休あり)※予約がベター撮影/竹中稔彦 取材・文/ 郡 麻江
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BLOG京のとろみ
2021.06.30
「相生餅本店」のひややまそば
西洞院と新町の間、四条通りに面した北側に相生餅本店はある。30年以上前、すぐ近くのデザイン事務所に居候していてこちらには昼ごはんを食べによく来ていた。当時は中華そばばかり食べていた。中華そばは優しいスープに柔らかめの細麺、蒲鉾も入ってコショウは最初からかかってる食堂の正統派。入り口のショーケースには赤飯やおはぎが並び、そそられる。店内はけっこう広く歴史を感じる内装。お茶は小ぶりなやかんごと出してくれる。麺類、丼物、定食、ぜんざいやかき氷などメニューはかなり多い。ちなみに「麺類一式」というのはうどん、そばだけでなく中華麺もあることを言うらしい。この日、注文したのは冷やし山かけそば。厨房には「ひややまそば」と通る。黒い蕎麦の上にとろろ芋、卵黄、ネギ、刻み海苔、わさびが乗る。ミシュラン掲載店のこだわりの蕎麦も大好きだけどこういう食堂の蕎麦がホッとする。全部一気に混ぜてズルズルっと啜るのが気持ちいい。蕎麦の香りと言うよりも喉が喜んでる。今からの季節、欠かせないメニューだ。おいなりさんも忘れずに。
ハリー中西
料理カメラマン
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BLOGうつわ知新
2021.06.29
祥瑞3
今月のテーマは「祥瑞」です。染付のなかでも緻密な文様が特徴で、ファンの多い「祥瑞」について梶さんに解説いただきました。1回目は「祥瑞」が生み出された歴史的背景や特徴について。2回目はそれぞれのうつわの見方や解説です。そして、3回目は、野菜をメインにしたフレンチレストラン「青いけ」の青池啓行シェフとのコラボレーションです。青池シェフが祥瑞の個性をひきだす料理を盛り付けてくださいます。「祥瑞の世界」をお楽しみください。梶高明梶古美術7代目当主。京都・新門前にて古美術商を営む。1998年から朝日カルチャーセンターでの骨董講座の講師を担当し、人気を博す。現在、社団法人茶道裏千家淡交会講師、特定非営利活動法人日本料理アカデミー正会員,京都料理芽生会賛助会員。平成24年から25年の二年間、あまから手帖巻頭で「ニッポンのうつわ手引き」執筆など。 全国の有名料理店と特別なうつわを使った茶会や食事会を数多く開催。祥瑞3祥瑞手捻子文七寸皿染付の色はバイオレットカラーです。見込みには松と鳥が描かれていて、その周辺の捻子(ねじ)模様(螺旋模様)の中に幾何学文を描いています。透明ガラス釉の輝きも、純白の磁胎も美しいので、これだけで「祥瑞」に分類してやってもよいでしょう。高台内は「五良大甫 呉祥瑞造」ではなく「角福(かくふく 角ばった福ノ字)」らしき模様が描かれています。高台の砂、口縁部の虫喰いも見ることができます。祥瑞2より活オマール海老とホワイトアスパラガス ハーブ添え「あまりにも美しいうつわの紋様に、ドキドキしました。 まず頭をよぎったのは、少しでも多くこの文様を食べる方に見ていただきたい、ということでした。 色目を考えて鮮やかな青紫の紋様と互いに引き立て合う朱と緑の料理、それもナチュラルな感じのあるものにしたいと考えました。 火を入れ過ぎずレア感を残したオマール海老と新鮮なホワイトアスパラガスの一皿。アスパラソバージュのほか酸味のあるハーブを添えて、オマールやホワイトアスパラのしみじみと美味しい滋味を感じていただきます。 最初にうつわを見て楽しみ、最後まで食べてまたうつわ全体の紋様を味わう。そんな幸せを感じてください」青池シェフ右手前:祥瑞手波兎文小皿 左と右奥:祥瑞手五寸向付これらのうつわは、「祥瑞手(しょんずいで)」と表記したように、「祥瑞」と呼んで良いものかどうなのか、判断に迷ううつわです。兎文様以外の2種類のうつわは、見込みの図柄が少し異なってはいるものの、実に似通ったうつわです。どちらも染付の色は暗く沈んだ「古染付」の典型的な色をしています。しかし見込みの周辺には幾何学文を配して「祥瑞」らしい風情があります。実はこのうつわは魯山人が残した「古染付百品集」と言う書籍に掲載されていました。そこには「祥瑞風平向(しょんずいふうひらむこう)」と命名されていました。魯山人もこのうつわが「祥瑞」の特徴を示してはいるが、「祥瑞」と呼んでしまうのには、少し不十分と考えていたようです。「祥瑞」の様式が突発的に成立したのではなく、これは誰が見ても「祥瑞」だ、というものが出現するまでには試行錯誤を繰り返して仕上がって行ったと考える方が自然ではないでしょうか。そのように考えれば、「祥瑞」の条件を完全に満たしていなくても、「祥瑞」への過渡期のうつわと捉えるべきなのかもしれません。祥瑞2より左;活鱧のポシェ 野菜のピュレ 右:毛ガニとアボカドのミルフィーユ「料理をワンランク上にしてくれるうつわです。 このふたつのうつわは、同じような文様であるのに、色目も描き方も違う。 一緒にお出しすることで、その違いも楽しんでいただきたいと思いました。 左は活鱧にさっと火をいれたポシェ。上賀茂トマトとオリーブのピュレを添え、スナップエンドウやパプリカなど夏の野菜を添えています。 右は毛ガニの実とアボカドの甘酢漬をビーツのシートで挟んだもの。 いずれの料理もお皿の色柄を邪魔しないような控えめな色合いで。文様の部分だけでなく柄のない白い空間も残すように盛り付けました。 うつわの美しさを楽しむのもレストランで料理を味わう楽しさのポイントです。 うつわと料理の組み合わせの妙をぜひ実感ください」青池シェフ青池啓行(あおいけ ひろゆき)1975年、京都府生まれ。京都ホテルで修業を開始。現【レストラン スポンタネ】(※1日4組限定のフレンチレストラン)の谷岡シェフに師事する。その後、26歳でヘッドハンティングされて市内のカウンターフレンチ【パリの朝市】のオープンに参画。これを含め、フランス料理店5軒で立ち上げに関わる。39歳で京町屋を改装し、【Restaurant 青いけ】を開業。現在に至る。青いけ青池啓行さんが、2014年京都・御所南に開いたフランス料理店。中村外二工務店設計の端正な店内で味わえるのは、野菜の持ち味を存分に生かした季節のコースです。コースには30~50種もの野菜が使われるのが特徴で、女性はもちろん健康を気遣うヘルシー志向の食通にも評判。1階では、シェフの調理や盛り付けを間近に見られ、カウンター席の醍醐味を満喫できます。■青いけ住所:京都市中京区竹屋町通高倉西入塀之内町631電話:075-204-3970営業時間:12時~13時30分(L.O) 、18時~19時30分(L.O)定休日:日曜、不定休あり
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BLOGうつわ知新
2021.06.27
祥瑞2
今月のテーマは「祥瑞」です。染付のなかでも緻密な文様が特徴で、ファンの多い「祥瑞」について梶さんに解説いただきました。1回目は「祥瑞」が生み出された歴史的背景や特徴について。2回目はそれぞれのうつわの見方や解説です。そして、3回目は、野菜をメインにしたフレンチレストラン「青いけ」の青池啓行シェフとのコラボレーションです。青池シェフが祥瑞の個性をひきだす料理を盛り付けてくださいます。「祥瑞の世界」をお楽しみください。梶高明梶古美術7代目当主。京都・新門前にて古美術商を営む。1998年から朝日カルチャーセンターでの骨董講座の講師を担当し、人気を博す。現在、社団法人茶道裏千家淡交会講師、特定非営利活動法人日本料理アカデミー正会員,京都料理芽生会賛助会員。平成24年から25年の二年間、あまから手帖巻頭で「ニッポンのうつわ手引き」執筆など。 全国の有名料理店と特別なうつわを使った茶会や食事会を数多く開催。祥瑞2祥瑞大鉢 私が所有する「祥瑞」の中で、もっとも「祥瑞」らしい特徴を持った大鉢です。呉須は美しいバイオレットカラーをしていて、見込みには8種類の幾何学模様を配しています。これだけで「祥瑞」と分類してやってもよいでしょう。高台内には「大明成化年製」と記されており、先に解説した「五良大甫 呉祥瑞造」ではありません。高台の畳付き付近には粗い砂の付着が見られ、砂の付着を防ぐために高台部分の釉薬を削ることはされていません。また、口縁部分には虫喰い予防の鉄薬も塗られておらず、ハッキリ虫喰いができています。このようにいくつかの特徴が欠けていますが、この鉢を「祥瑞」と呼んで問題ないと思います。祥瑞手捻子文七寸皿 やはり染付の色はバイオレットカラーです。見込みには松と鳥が描かれていて、その周辺の捻子(ねじ)模様(螺旋模様)の中に幾何学文を描いています。透明ガラス釉の輝きも、純白の磁胎も美しいので、これだけで「祥瑞」に分類してやってもよいでしょう。高台内は「五良大甫 呉祥瑞造」ではなく「角福(かくふく 角ばった福ノ字)」らしき模様が描かれています。高台の砂、口縁部の虫喰いも見ることができます。右手前:祥瑞手波兎文小皿 左と右奥:祥瑞手五寸向付 これらのうつわは、「祥瑞手(しょんずいで)」と表記したように、「祥瑞」と呼んで良いものかどうなのか、判断に迷ううつわです。右手前の中央に兎を描いたうつわの染付はバイオレットカラーです。しかし、兎以外には模様化された唐草が描かれてはいますが幾何学文ではありません。それでは、染付の色合いだけで「祥瑞」と判別するのか?と考えさせられるうつわです。 私はこれとよく似た兎の同種のうつわを幾度も扱いました。それらはみんなバイオレットカラーでした。図柄は、あるものは幾何学的な模様と判断できるものもありましたので、その経験からこれを「祥瑞」の仲間に分類しても良いように思います。 他の2種類のうつわは、見込みの図柄が少し異なってはいるものの、実に似通ったうつわです。どちらも染付の色は暗く沈んだ「古染付」の典型的な色をしています。しかし見込みの周辺には幾何学文を配して「祥瑞」らしい風情があります。実はこのうつわは魯山人が残した「古染付百品集」と言う書籍に掲載されていました。そこには「祥瑞風平向(しょんずいふうひらむこう)」と命名されていました。魯山人もこのうつわが「祥瑞」の特徴を示してはいるが、「祥瑞」と呼んでしまうのには、少し不十分と考えていたようです。「祥瑞」の様式が突発的に成立したのではなく、これは誰が見ても「祥瑞」だ、というものが出現するまでには試行錯誤を繰り返して仕上がって行ったと考える方が自然ではないでしょうか。そのように考えれば、「祥瑞」の条件を完全に満たしていなくても、「祥瑞」への過渡期のうつわと捉えるべきなのかもしれません。手前:14代永楽妙全作 祥瑞平皿 右奥:12代永楽和全作 祥瑞写茶盌 明代末期のうつわを並べて、それが「祥瑞」かどうかを検証することも良いのですが、日本の陶芸家たちは何をもって「祥瑞」と思って写して来たかを学べば、「祥瑞」の姿がもっとハッキリするのではないでしょうか。ここに明治から大正期の永楽家の作品を2点ご紹介します。 残念ながらどちらの作品も特徴的なバイオレットカラーはうまく表現できていません。しかし、全体的に幾何学文を配し、虫喰いが発生しそうな口縁や、茶碗の胴紐(胴体に回した紐状の装飾)部分は、焼成前に透明釉を拭き取って、代わりに鉄釉を塗って、虫喰いの発生予防をしています。私が特に注目したのは茶碗の高台部分です。写真では少し見にくいかもしれませんが高台の先端部の畳付(たたみつき)から約2mmの高さまで、透明釉を削って、砂を付着させないための配慮がされています。この虫喰いや砂の付着への対策が、小堀遠州の目指した「綺麗さび」へのこだわりが伺える点ではないでしょうか。 これら2点は京都の永楽家が作ったものですが、永楽家の勝手な創作ではないと思われます。それは、永楽家の染付磁器では虫喰いも砂の付着も発生しないのですから、それに対策をする必要はありません。ですから「写(うつし)」の文字が示すように永楽家は、徳川家・三井家などのスポンサーに「祥瑞」と伝わる本歌(ほんか=オリジナル)を借りて、忠実に写した結果、本来不必要なはずの作業も行なわれている訳です。 こうして「祥瑞」について学んで来ると、「祥瑞」の定義は、案外はっきりしていないことにお気付きになったことでしょう。箇条書きにした「祥瑞」特徴も、その全部にあてはまるものなどほんの一握りしか存在しなくて、ほとんどは私たちのおおよその判断でもって、「古染付」と「祥瑞」の境界線を引いているということでしょう。祥瑞3につづく
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BLOGうつわ知新
2021.06.26
祥瑞1
今月のテーマは「祥瑞」です。染付のうつわのなかでも緻密な文様が特徴でファンの多い祥瑞について梶さんに解説いただきました。1回目は祥瑞が生み出された歴史的背景や特徴について。2回目はそれぞれのうつわの見方や解説です。そして、3回目は、野菜をメインにしたフレンチレストラン「青いけ」の青池啓行シェフとのコラボレーションです。青池シェフが祥瑞の個性をひきだす料理を盛り付けてくださいます。「祥瑞の世界」をお楽しみください。梶高明梶古美術7代目当主。京都・新門前にて古美術商を営む。1998年から朝日カルチャーセンターでの骨董講座の講師を担当し、人気を博す。現在、社団法人茶道裏千家淡交会講師、特定非営利活動法人日本料理アカデミー正会員,京都料理芽生会賛助会員。平成24年から25年の二年間、あまから手帖巻頭で「ニッポンのうつわ手引き」執筆など。 全国の有名料理店と特別なうつわを使った茶会や食事会を数多く開催。祥瑞 今月は「祥瑞(しょんずい)」のうつわについてお話させていただきます。まずは、「祥瑞」の言葉が持つ意味から探っていきましょう。「祥」は「吉事の前触れ」を意味し、「瑞」は「みずみずしく美しいこと」の意味を持っています。そして、ふたつの文字を合わせて「祥瑞(しょうずい)」と読むと「うつくしい、めでたい兆(きざ)し」という意味になります。また、これを「祥瑞(しょんずい)」と読むと、中国の明代につくられ、日本の桃山~江戸初期に日本に渡来した陶磁器のなかでも、ある特徴を持ったものを指す言葉となるのです。 私はいままでに数え切れないほどのうつわを見て参りましたが、絵が描かれているうつわの、そのほとんどには、縁起の良い模様が施されていました。ちょうど着物の文様と同じように、うつわの文様も、大概は富貴・幸運・長寿の意味が好まれていたのでしょう。そしてこの「祥瑞(しょんずい)」のうつわは、その名前自体が吉兆を意味するほどに、それらのうつわたちの中でも特別なうつわだった、ということですね。 2020年11月に「古染付」についてのお話をさせていただきましたが、その景徳鎮で焼かれた「古染付」家族のひとりである「祥瑞」は、日本の茶の湯に深くかかわった特徴を持った焼物とお考えいただいて間違いありません。 さて、「わび茶」は千利休の時代に完成したと言われていますが、利休の時代における美的基準は、ひと目で読み取れるところに存在する、明らかで単純な美よりも、深く読み込むようにしてようやく浮かび上がる渋い趣を高く評価したようです。そのような深いところに存在する美は、京や堺に居住した富裕層が国内外の文化に接し、美術品を蒐集することで手に入れた高い数寄の感性(こだわりの美意識)の中にあったのです。その感性にふれ、審美眼を養い、互いの情報交換をするための最高の場所が茶会であったため、利休をはじめとする茶人や有力数寄者のもとに権力者や富裕層が集まったのだと考えられます。 しかし、そもそも審美眼や数寄の感性は、ものの見どころや鑑賞法を教わったからと言って育つものなのでしょうか。むしろ、その人の生い立ちや、交流をもった数寄者同士の関りの方が、その感性の成長に大きく影響を及ぼすのではないかと私には思えます。 利休の後の茶の湯を牽引した古田織部や小堀遠州たちは、下剋上の世の中を勝ち上がってきた大名茶人だったので、彼らの美意識の中には自らの力を強く誇示したい傾向が見えるように思えます。それが、丸い茶碗をわざわざ歪ませることや、釉薬の変化だけで飽き足らずに、積極的にうつわに独特の絵模様を添えることであったのでしょう。深い趣を味わうことよりも、人々の目を素早く引き付けるための魅力作りに重きを置いた結果ではないでしょうか。 同様に、利休の提唱した「わび茶」の継承者でありながら、大名としての顕示欲が強かったために、わざわざ明国から取寄せた染付磁器や華やかな色絵磁器を茶の湯に持ち込み、やがて彼らは明らかに利休とは異なる独自の方向を見出していったのだと思えるのです。 古田織部は慶長20年(1615年)、徳川家康への謀反の嫌疑をかけられ、切腹させられてしまいます。しかし、利休亡き後の茶の湯の牽引役として、それまでの約20年間、実に大きな足跡を残しました。特に「織部」という彼の名前をいただいた向付は、実にユニークな形と絵付けを施されたうつわです。 ところが織部の切腹の後は、罪人が手掛けたうつわの生産は止められ、大量廃棄され、商いの最前線からも大急ぎで姿を消してしまいます。産地であった美濃地方でも、ろうそくを吹き消したように消滅した織部のうつわですが、明代末期の景徳鎮の窯では、まるで織部焼のその後の進化を引き継いだかのような展開をみせています。つまり、織部焼の向付にみられたように、鋳型を使って様々な形に成形された厚手の「古染付」の向付は、動植物などの多様な形が織部焼に追加されたように生み出されていきます。そして、それら「古染付」が本格的に日本にもたらされたのが、まさに織部の死後からまだ程ない時期だったのです。 豊臣秀吉から徳川家康へと権力が移行する時期に活躍したのが古田織部ならば、織部亡き後、徳川幕府の基礎を作った家康から二代将軍秀忠の時代、日本の茶の湯を牽引したのは小堀遠州でした。人は先人の残した仕事を引き継ぐ際、そのまま継承するのではなくそこに新たな自分の色を持ち込もうとします。 利休が完成した「侘び茶」に、古田織部が「歌舞(かぶ)いた」ものや、「ひょうげた」表現を茶の湯に持ち込んだように、小堀遠州はさらに「綺麗さび」と呼ばれる彼なりの表現を持ち込んだと言われています。明代末期の景徳鎮への注文品に至っても彼らの好みは大きく反映されたと考えられています。織部の影響が色濃く残された、鋳型成型を中心にした「古染付」に対して、小堀遠州が海の向こうの明国に注文したのが、「古染付」を遠州好みにもう一段進化させた「祥瑞」だったのではないかと言われています。 「祥瑞」が日本に渡ってきたのは、明国滅亡前の最後の皇帝、崇禎帝(すうていてい/1628年~1644年)の時代だったとされていますが、それでは「祥瑞」の特徴について、「古染付」と比較して箇条書きにしてお話をさせていただきましょう。 いくつかの特徴は「古染付」と共通するものがありますので、それに関しては軽く流してまいります。その詳しい説明が必要な方は古染付の解説月に戻ってご覧ください。①虫喰いがある。(古染付と共通)②高台に砂が付着している。(古染付と共通)③高台内側に放射線状に高台を削り出したカンナ跡が多く見られる。(古染付と共通)④生がけである。(古染付と共通)⑤染付の呉須が大変鮮やかな瑠璃色を呈しているものが多い。⑥幾何学的な模様を多用している。⑦高台内に「五良大甫 呉祥瑞造(ごろうだゆう ごしょんずいぞう)」と記されているものがある。⑧釉薬の透明感が強く、輝きが強い。⑨古染付より、白く上質な磁胎が使われている傾向が見られる。⑩畳付きへの砂の付着を嫌って、高台部分の釉薬をやや幅広に削り落としていることも見受けられる。⑪虫喰いを嫌って、口縁部分釉薬を削って、鉄釉を塗っていることも多く見られる。⑫古染付型物向付同様、日本向けに作られ、他国では見られない。⑬茶道具を中心に発注された傾向がある。上記のように「古染付」と「祥瑞」の特徴は、多くのところで重なっています。しかも「古染付」から、ある日を境に突然「祥瑞」が発生したわけではないのです。そのため、両方の特徴を合わせ持つものもたくさん見受けられます。「古染付」から「祥瑞」への移行途中と言うべきものも多く、明確な線引きはかなり困難であると思ってもよいかもしれません。それでは上記を項目単位でご説明させていただきます。① 「古染付」「祥瑞」共に釉薬と磁胎の収縮差が、うつわに虫が喰ったかのようなカケに似た景色を生み出しました。② 「古染付」「祥瑞」共に、うつわ底部の釉薬が窯の底部に固着しないように砂を撒いたため、それが高台周辺に付着しています。③ 「古染付」「祥瑞」共に、円形の高台を削りだして成形するときに使ったカンナが、高台内で跳ねて生み出した削り跡です。④ 「古染付」「祥瑞」共に、天日乾燥ののち絵付けし、釉薬をつけて焼成したということで、低い温度で一度素焼きをしてから絵付けをする工程はまだなかったということです。⑤ の呉須の色の違いについてですが、「古染付」ではやや沈んだ青色が多くみられることが特徴ですが、「祥瑞」では紫に近い青、つまり瑠璃色と言うべき色が特徴です。⑥ の幾何学的な模様を多用しているという点ですが、幾何学模様があれば「祥瑞」、無ければ「古染付」と言った具合に、このことだけで線引きをすると見誤ってしまいます。ただ「古染付」に比べて図柄が絵画的ではなく、模様のようにパターン化されている結果として、「祥瑞」は幾何学的な模様が目立っている、くらいに解釈したほうがよい品物も見受けられます。曖昧な表現ですが、はっきり断定してしまうと模様だけで線引きをしようとして、偏った見方になってしまうのです。⑦ の高台内に記された「五良大甫 呉祥瑞造」の銘についてですが、これが何を意味するのかは諸説あり、単純に「五良大甫(ごろうだゆう)」なる人物が「祥瑞」を造った、ということにはならないのです。紛らわしいことに、伊藤五郎太夫という伊勢の商人が実在し、1513年に明国から焼物について学んで戻った記録が残っていたために、この人物と「祥瑞」を結びつけて考えられる説もありました。しかし、「祥瑞」が日本にもたらされたとされる約100年以前の人物が、その製造に関りを持ったということは、到底説明がつくものではありません。この銘が意味するものが特定の人物を指し示すものなのかどうかは、現時点の研究で明らかにすることはできませんので、むしろこの銘の解釈に捉われず、他の特徴を見逃さないように注意すべきだと思います。⑧ ~⑪ にかけての項目は、「祥瑞」は日本からの強い要望によって、それまでの「古染付」より高い品質を求めた結果として現れた特徴だと考えられます。しかし全ての「祥瑞」にこの特徴がはっきり確認できるとは限らず、あくまでもその特徴を備えている傾向が強い、くらいの解釈に留めて、作品を見間違わないように気をつけてください。⑫⑬ は日本人が新しい茶道具の流行をこの「祥瑞」の中に求めた結果このようになったのだと考えられます。従って茶道具は日本独自の物で、他国には不要であったため、日本に向けてのみ船積みされたのでしょう。ただし、茶道具には茶懐石のうつわも含まれていますので、茶碗や水指だけとは思わないでください。 このようにして「祥瑞」について皆様にご説明してきましたが、この文章を書きながら、私自身ここまで詳しく書くことが良いことなのかどうか疑問に思ってしまいます。 皆さんにお話しする前に、私も様々な勉強を積み重ねてきました。でも私が欲しいと思う情報が書かれた書籍や論文は、難しい言葉で表現することこそ良い資料なのだと言わんばかりに、凡人の私が理解するには意地の悪い文章ばかりでした。 それらを読み砕くことは本当に苦痛でしかありませんでした。それを感じた自分なのに、私も皆さんに難しく説明しすぎてはいないかと言う疑問から逃れることができずにいます。美術の本質は鑑賞して楽しむことです。私の表現力が乏しいために、いつも長文になってしまうことに、うんざりされているのではないでしょうか。 もっと読みやすく、わかりやすく語ることを忘れないでおこうと思います。 例えば「祥瑞」はとても細密な絵付けが施されて、高い品質を追い求めているので、多くの労力が払われています。しかし、そのことが必ずしも、うつわとして料理を引き立てるのに役に立っているわけではありません。私個人は、おおらかな古染付の方に魅力を感じています。どうでしょう、このくらいの簡潔さで充分なのかも知れません。 そんなことを自問自答しながら、これからも毎月の投稿を続けて行こうと思います。祥瑞2につづく
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BLOG京都美酒知新
2021.06.25
カクテルが飲みたくなる話「ダイキリ」
■西田稔(にしだみのる) 京都木屋町二条「Bar K6」、「cave de K」、「keller」のマスターバーテンダー。2020年開業の「ザ・ホテル青龍 京都清水」内の「Bar K36」を監修。自らもカウンターに立つ。京都生まれ、同志社大学卒業後、東京のバーで経験を積み、1994年に「Bar K6」を開業した。シャンパーニュの将校、グラッパの騎士、クリュッグアンバサダー、ウイスキーコンテスト審査員ダイキリカクテル言葉「希望」「ダイキリ」は、1986年キューバのダイキリという鉱山で働いていたアメリカ人技師、ジェニングス・コックスが、灼熱の地で清涼感を求めてキューバのお酒ラムにライムと砂糖、氷を入れて作ったのが始まりとされています。「希望」というカクテル言葉が生まれたのは、鉱山で働く抗夫たちが、厳しい労働に耐えながらも、未来に希望をもっていたことから付けられたそうです。厳しい時があったとしても、必ずいつかは光が差す。そんな明るい未来を感じさせてくれるカクテルです。ますます暑くなるこれからの季節、ルーフトップバーなどで飲むフローズンダイキリも最高です。作家のアーネスト・ミラー・ヘミングウェイがこよなく愛したことでも知られるこのカクテル。彼の作品を思い浮かべながら...なんていうのもいいですね。カクテルレシピバカルディー(ラム) 45mlライムジュース 15ml(フレッシュ10ml、コーディアルライム5ml)シュガーシロップ 10mlハバナクラブ ダーク 1tsp(フロート)6月のウイスキーグレンモーレンジィ 10年ウイスキーの本場、スコットランドでも最も高さのある5.14メートルにもおよぶポットスチル(蒸留器)を使用して造られる「グレンモーレンジィ」。この高さはなんと、大人のキリンと同じくらいなのだそうです。比重が重いアルコール蒸気は、ポットスチルを昇り切ることができないため、蒸気のなかでも軽やかなフルーティーでフローラルな成分だけが抽出できるのです。華やかなアロマとエレガントな味わいをもち、柑橘やバターのニュアンスがあるので、オレンジピールを最後に加えるオレンジハイボールで味わうのがおすすめ。今年は丑年グレンモーレンジィの年ですよ!!グレンモーレンジィ蒸留所「グレンモーレンジィ蒸留所」は、スコットランド・ハイランド、ドーノック湾を臨むテインの町の北西に位置する蒸溜所です。1843年に、 William Mathesonが1738年に設立されたモーレンジ醸造所を購入、蒸溜所へ改装して設立したのがグレンモーレンジィ蒸留所だと伝わります。追加熟成のパイオニアとして尊敬され、個性にさらなる厚みと複雑味を与える最高級の樽を求めて、ウイスキー・クリエイターたちが世界中を旅するとか。良質な樽を選んでウイスキーを熟成させるだけでなく、2回までしか使わないのも大きな特徴。樽の要素を最大限に抽出し、まろやかでなめらかな味わいを得るためです。MHD(モエ ヘネシー ディアジオ)HPより■Bar K6京都市中京区木屋町二条東入ル ヴァルズビル2F075-255-5009撮影:ハリー中西
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BLOG京の会長&社長めし
2021.06.24
株式会社永楽屋の社長が通う店「市場小路 四条烏丸店」
■齋田 芳弘(さいた よしひろ)さん 株式会社永楽屋 代表取締役社長四条河原町に本店を構え、あまいもの(京菓子)とからいもの(京佃煮)を取り扱う。看板商品は、仕上がりの美しさにこだわり抜いた寒天菓子「琥珀」や、作家 向田邦子氏にも愛された国産原木栽培椎茸の佃煮「一と口椎茸」など。本店2階には2014年リニューアルの喫茶室があり、吹き抜けの和モダンな空間で手作りの甘味を味わうことができる。https://www.eirakuya.co.jp/1973年 京都府京都市生まれ最後の晩餐は、美味しい桃。コスパの高さにも大満足。希少な部位も登場する黒毛和牛を熱々のかまど炊き土鍋ご飯と「3~4年前に友人から紹介されました。うちの室町店や大丸京都店とも近いのでよく利用しています。従業員や取引先の方、また室町店が(祇園祭の鉾町の)鯉山町にあるので、鉾町の友人と一緒にお昼に伺うことが多いですね。夜は家族から『美味しい焼肉が食べたい』とおねだりされた時でしょうか(笑)。行かれた方は皆、満足していただいています」(齋田さん)外食をする機会は多いほうで、特に料理、サービスなどを通して努力や良心が感じられる店が好きだという齋田さん。今回ご紹介いただいた「市場小路 四条烏丸店」もその一つだ。大正14年に西洋料理店として創業し、現在市内に十数店舗を展開する「スター食堂」が手掛ける。以前はおばんざいの店だったが、2017年3月に「市場小路」初の焼き肉店としてリニューアルオープンした。四条烏丸の駅直結のビル食堂街にあり、昼時はビジネスマン、OLなどで賑わう。齋田さんも月に一度ほど訪れるそうだ。80席ある店内は、格子戸が町家を思わせる和のテイストで、席の多くがロールカーテンで仕切った席や半個室になっている。「ボックス席で、ゆったりしていて少人数で話したりするのにも向いています。立地もよく、地下でそれほど並ぶこともないのですごく使いやすい。娘を2~3歳の頃から連れて行っていますが、子供連れでも安心して行けると思います」(齋田さん)「席は接待にも使っていただけるようになっています。オープン時、私はまだアルバイトでしたが、齋田社長はその頃から来てくださっています。すごく気さくな方で、軽くお話をさせていただいたりしています。齋田社長をはじめいろいろな社長さんが使ってくださり、そういうご縁がすごくありがたいと思っています」と、2年前から店長を務める安藤美穂さん。入り口の朱塗りのおくどさんが目を引く。こちらでは一頭買いする黒毛和牛肉、そしておくどさんで炊き上げるご飯が自慢だ。齋田さんも、「お肉はもちろん、炊き立ての土鍋ご飯がとても美味しい。うちも佃煮の商売をしていますので、ご飯が美味しいのはやはりポイントです」と話す。肉はA4ランク以上の黒毛和牛で、産地を決めず、老舗精肉卸から料理長が目利きして買い付けたものを提供。また一頭買いで希少部位など普段食べられない部位の肉を楽しめるのも魅力だ。「いいお肉を仕入れておられ、コストパフォーマンスはすごく高いと思います」(齋田さん)「シャトーブリアンやヒレなど、なるべくいいお肉は原価に近いお値段でお出ししています。希少部位を仕入れたら早く食べてほしいのでお薦めとして数量限定で出しており、楽しみにされる方も多いです。ここに来たら間違いなくいいお肉が食べられると言っていただくこともあります」(安藤さん)お昼はコース、夜はアラカルトで楽しむという齋田さん。牛タンや赤身などに加え、よく注文するのが、「至福のおまかせ7種盛り」(写真は3名用7590円)。ロースやカルビなどの定番に、希少部位を含むその日のお薦めが味わえる。「迷ったら、まずこれを頼まれたら間違いないと思います。気に入った部位はハーフサイズでもご注文いただけます」と、料理長の岡田真依さん。「日本人好みの味。娘がとてもお気に入りで、結構な頻度で連れて行けと言われます」(齋田さん)焼いた肉を卵黄入りの割り下につけて味わうブリスケの「焼きすき」1199円は、熱烈なファンもいる人気の一品で、締めにご飯と一緒に食べても。ブリスケは前バラの肉で、淡白だが薄くスライスすると味わい深くなるという。「赤身が強い部位で、卵と割り下を絡めて食べていただくと、よりお肉の旨味を感じられると思います」(岡田さん)ほかにサーロイン(1990円)でも楽しめる。齋田さんたち常連に人気の「炊きたて土鍋ごはん」759円(1合半炊き)。錦市場「中央米穀」の丹波産コシヒカリを使い、注文から約25分かけて炊き上げる。水加減や温度、浸水時間など、季節やお米の状態に応じて調整しているという。煮えばなからおこげまで堪能できるご飯は、焼肉の甘ダレとも相性良し。ちなみにお昼の御膳に付くご飯はお代わり自由。焼肉に合う飲み物としてビールと共にお薦めしているのが、大きなグラスに入ったジントニック。黒コショウを入れたオリジナルの飲み方を提案しており、好評だという。齋田さんは、安藤さんを中心としたきめ細やかな対応も店の魅力だと話す。「気持ちの良いサービスと温かいおもてなしがとてもうれしいです。ボックス席だと目が届きにくく、手が離れがちになると思うんですが、頻繁に目配りや声がけをして、子供が汚したりしてもすぐにフォローしてもらえる。いつも笑顔でいい雰囲気で対応してくださるので、見習わないといけないなと思っています」そんな齋田さんの言葉に、「ありがとうございます。網の交換や最後のお茶をお出しするのはもちろん、お子様連れは予約時に個室をお取りする、ハサミやおしぼりの替えをお持ちするなど、ちょっとしたことですが少しでも居心地良く過ごせるよう気を付けています」と、安藤さん。アイデアマンの前任店長の後を受け、新たな魅力を加えるべくスタッフと奮闘している。「お客様においしいと言って喜んでもらえるとうれしいし、その笑顔を見たいという気持ちでやっているんです。そういうことをスタッフにも伝えられたらと思っています」予算は昼1600円、夜5000円程度。撮影 エディ・オオムラ 文 山本真由美■市場小路 四条烏丸店京都市下京区四条烏丸北東角長刀鉾町8 京都三井ビルディングB1F075-253-1461営業時間 11時半~15時(LO14時)、17時~23時(LO22時)定休日 年末年始※営業時間は状況により変更の場合あり。お店にお問い合わせください。https://www.star-kyoto.co.jp/restaurant/shop-3/
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