食知新ブログ
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BLOG京の会長&社長めし
2020.10.09
株式会社g-zoneの社長が通う店「御料理 だんじ」
■荒木 雄一朗(あらき ゆういちろう)さん 株式会社g- zone 代表取締役1976年生まれ日本体育大学卒業後、本田技研工業株式会社に入社現ラグビーTOPリーグ Honda HEATに所属2006に現役引退後、退社。その後、独立しトレーナーとして京都市内を中心に活動する。「いつまでも健康で元気に人生を送るために全ての人々をサポートする施設を作りたい」という思いで2016年株式会社g-zoneを設立キッズからシニアまでがトレーニング、治療、リハビリ、スポーツ内科学、カウンセリングを受けられる施設 g-zone Performance Center を運営最後の晩餐は、赤身のステーキをレアで。天ぷらなど季節の和食と店主セレクトの酒を満喫。美味いもん好きが通う洛北の注目店食べることが好きで、これまで海外や地方を含め、多くの飲食店を訪れてきたという荒木さん。京都のお薦めの店に挙げるのが、大徳寺近くで2018年6月にオープンした「御料理 だんじ」だ。「僕がホンダでラグビーをやっていた時の同期に京産大ラグビー部出身の人がいまして、その同期の大学の後輩が始めたお店です。彼の下積み時代に同期を通じて知り合い、彼が働いている店にもよく行っていました。僕は京都に戻って独立してから、あちこちいいお店に足を運んでいますが、ここはその中でもおいしいと思えるお店。家族や友人、仕事関係など、3、4カ月に一度くらい通っています。京都らしいお料理がリーズナブルに食べられて、いろいろ話ができる大将がいて雰囲気もいいので、地方のトレーナーさんたちとの会食にもよく利用するんですが、皆さん喜んでくださいますね」(荒木さん)大徳寺前バス停からすぐの一軒家。カウンター8席、テーブル2席のシンプルかつ落ち着いた空間で、元ラガーマンらしい堂々とした体躯の店主・入口(いりぐち)誠さんが迎える。「荒木さんとは知り合って20年くらいになります。荒木さんは昔からおいしいものをよくご存じで、器までしっかり見てくださいます。いつも明るくて前向きな方で、周りにいらっしゃる皆さんも素敵な方ばかりです」(入口さん)熊本出身の入口さんは、大学卒業後、祇園のバー勤務などを経て和食の道へ。高台寺の和食店や出町柳の京料理店「西角」で腕を磨き、小料理屋の料理長を務めた後、独立した。7年近く勤めた「西角」のように、肩ひじ張らずに和食を楽しめて、長く地元で可愛がられる店にしたかったという。毎日市場で吟味した魚介、上賀茂や大原の野菜などを用いて仕立てるのは、四季を大切にした、オーソドックスでシンプルな料理だ。「ブランドや産地を問わず、その時のおいしいものをおいしく調理してくれて、おいしい食べ方で食べさせてくれる。いつもおまかせしていますが、僕たちの満腹感に合わせて、内容もうまく調整してくれます」(荒木さん)メニューは8000円(7品)と11000円(9品)のおまかせコースのほか、馬刺しや土瓶蒸しなどの一品を揃え、季節の一品を肴に一杯を楽しむこともできる。好き嫌いやアレルギーをはじめ、さまざまな要望にも可能な限り対応している。「季節の天ぷらを揚げたてで食べられます」と、荒木さん。「西角」仕込みの「天ぷら」は、これ目当ての人も多いというお薦めの品。綿実油と白胡麻油で香ばしく揚げた天ぷらを、天日干しした伯方の塩を炒って細かくしたものや、天だしで味わう。写真はアラカルトの盛り合わせの一例で、車エビ2尾と長崎の甘鯛、銀杏。コースでは車エビと季節の魚など3種が盛られる。荒木さんもお気に入りだという入口さん自慢の蒸し物。「シンプルに素材の味を楽しめます。油を使っておらず、あっさりしているので、たくさん食べられるのがいい」(荒木さん)毎年9月後半~10月頃は、丹波栗と丹波黒豆を使った「丹波蒸し」がお目見え。粟麩にのせた丹波栗の饅頭の、やさしい甘味とほくほく感に癒される秋らしい一品で、世代や性別問わず好評だという。 「僕はお肉が大好きなんですが、彼の出すお肉はすごくおいしい。脂が上品で全然胃もたれしません」そう荒木さんが絶賛するのが、熊本赤牛や京都の平井牛などを使った「ビフテキ」で、11000円のコースにも登場する(写真はアラカルト3800円のもの)。1時間低温調理したあと、焼き目を付けた赤身肉は、旨味と脂が凝縮された豊潤な味わいがたまらない。まずわさびと一緒に、次に熊本の甘露醤油をつけてと、表情の異なる味わいが堪能できる。甘い醤油をつけたビフテキは、土鍋ご飯と一緒に味わうのもお薦め。酒は自分がおいしいと思うものを選んでいるという入口さん。日本酒は、店の料理に一番合うという久留米の「渓」をはじめ、さっぱりとした味の酒を中心に常時5~6種を揃える。「僕は和食の時はほぼ日本酒ですが、その時の食事に合ったものをピンポイントでチョイスしてくれるので、それも楽しみにしています」 そう話す荒木さんに、 「荒木さんのようにしっかりお酒とご飯を楽しまれると、こちらも楽しいですよね。荒木さんが来られる時はついお酒を買ちゃうんです(笑)」と入口さん。ここには、「西角」時代からの常連を中心に、スポーツ関係、医師、大学の先生、自営業者など、舌の肥えた人々が訪れる。「彼はその場を楽しませる会話が上手で、どのお客さんにもいつも丁寧で、気持ちがいい。料理の味はもちろんですが、そういう居心地のよさも魅力だと思います」(荒木さん)もてなしで大切にしている点について、入口さんは 「お客様の表情や仕草から、苦手なものなどに気づけるようにしたいと思っています。その一瞬を見逃さなければ、料理を食べやすくしてあげたり、ご飯の残りを持ち帰りにしてあげたりと、いろいろできると思うので」 と語る。派手ではないが、細やかな心遣いを感じる誠実なもてなしに、お客は心おきなく食事の時間に浸れ、また訪れたいと思うのだろう。予算は夜1万円程。要予約のお値打ちランチも見逃せない。これからも注目の一軒だ。撮影 エディ・オオムラ 文 山本真由美■御料理 だんじ京都市北区紫野雲林院町22075-431-2052営業時間 17時30分~22時(LO21時30分)※ランチ(水~日)は前日までの完全予約制。12時~15時(LO13時)定休日 月、火昼
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BLOGうつわ知新
2020.10.02
備前焼2
備前焼2回目の今回は「洋食おがた」の緒方博行シェフに料理とのコラボレーションに挑戦していただき、ご紹介します。梶高明梶古美術7代目当主。京都・新門前にて古美術商を営む。1998年から朝日カルチャーセンターでの骨董講座の講師を担当し、人気を博す。現在、社団法人茶道裏千家淡交会講師、特定非営利活動法人日本料理アカデミー正会員,京都料理芽生会賛助会員。平成24年から25年の二年間、あまから手帖巻頭で「ニッポンのうつわ手引き」執筆など。全国の有名料理店と特別なうつわを使った茶会や食事会を数多く開催。備前焼と洋食今回は、本来食器ではない備前焼の「まな板皿」と「灰器」に料理を盛ったらというテーマで、「洋食おがた」の緒方シェフに料理制作に挑んでいただきました。それぞれのうつわの存在感やデザインから緒方シェフが受けるインスピレーションとは。うつわ単体の魅力と料理を盛ってさらに映えるうつわの美しさをお楽しみください。牡丹餅と呼ばれる景色が現れているまな板皿です。牡丹餅というのは、窯の中で焼く際に、板の上に他の作品を乗せて焼成したことで現れる景色ですが、このまな板は本来うつわとして作られたものではなく、作品を乗せるための窯道具だったようです。(備前焼1より)骨付きサドルバックロースのトンカツ「お皿自体が力強く、最初に見た瞬間、骨付きサドルバックが頭に浮かびました。このお皿に負けないような力強さで料理を盛りたい。お皿に浮かび上がる丸い景色を活かしながらも、料理気が際立たせるにはどうしたらいいか。そう考えたときに、骨がガンとつきでるような盛り方にしようと決めました。この「骨付サドルバックロースのトンカツ」は、鹿児島県の「ふくどめ小牧場」で大切に育てられたイギリス原産のサドルバック種の豚を使っています。サドルバック種は古来からある品種ですが、イギリスでは絶滅し、アメリカに6頭だけ残っていたものを牧場主の福留さんが譲り受け、改良しながら育てています。放し飼いでのんびりと育てられた「サドルバック」は、週に1~2頭しか出荷されない希少な豚肉としても知られています。人肌で溶ける脂身の柔らかさが特徴ですが、ただ柔らかいだけでなく、サシが入って弾力もある昔ながらの豚肉の美味しさを味わえます。手をかけ過ぎず、シンプルに骨付きのままトンカツにしました。米油で揚げて肉汁をとじこめてしっとり仕上げる。器に負けないインパクトのある料理になっていると思います。」緒方シェフ茶席の炉の中を整えるために灰を盛っておく灰器、または焙烙(ほうろく)と呼ばれる道具です。灰器に食べ物を盛るなど言語道断とおっしゃる方もお見えになるかもしれませんが、古い時代の灰器は素晴らしい味わいを持っているものが多いのです。(備前焼1より)特製デミグラスソースで仕上げたハヤシライス「本来は食器ではないということでしたが、食器にもちょうどよい大きさと深みがあります。この灰器も、最初に見た時から茶色の料理を合わせて、備前の世界観を活かそうと思いました。でもカレーではなくハヤシライス。肉や具材のゴツゴツしたルーと少しのご飯を盛って、まわりに余白を残す。どちらかというとシックな盛り付けかもしれません。ハヤシライスはじっくり煮込んだ特製のデミグラスソースを使ったものです。ソースは濃厚だけれども、肉や玉ねぎなど食材の食感や味わいをしっかり残して、ご飯との相性を愉しんでいただくよう作っています。おがたはカレーというイメージですが、このハヤシライスもおすすめの1品。どこか懐かしさも感じていただける味わいになっていると思います。」 緒方シェフ緒方博行(おがたひろゆき)熊本県出身。熊本のニュースカイホテル、長崎ハウステンボス内のホテルヨーロッパなどを経て、肉料理で名高い京都の「ビストロ セプト」の料理長をオープンから6年間務める。2015年に独立、「洋食おがた」を開き、ハンバーグやエビフライなどの本格的な洋食に、和のテイストを加えたメニューなどを、カウンターの"洋食割烹"スタイルで提供する。尾崎牛や平井牛、焼津の「サスエ前田魚店」から取り寄せる魚、鹿児島県の「ふくとめ小牧場」の幸福豚など、全国各地の厳選した素材で「大人の洋食」をつくり上げる。■洋食おがた京都府京都市中京区柳馬場押小路上ル等持寺32-1075-223-223011:30~13:30(L.O.)、17:30~21:30(L.O,)休 火曜、月1回不定休
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BLOGうつわ知新
2020.09.30
備前焼
梶高明梶古美術7代目当主。京都・新門前にて古美術商を営む。1998年から朝日カルチャーセンターでの骨董講座の講師を担当し、人気を博す。現在、社団法人茶道裏千家淡交会講師、特定非営利活動法人日本料理アカデミー正会員,京都料理芽生会賛助会員。平成24年から25年の二年間、あまから手帖巻頭で「ニッポンのうつわ手引き」執筆など。全国の有名料理店と特別なうつわを使った茶会や食事会を数多く開催。備前焼備前の焼き物について語る前に、この備前と言う名前がどこから来たのかということについてお話をしなければなりません備前はご存知のように備中・備後、つまり備に対して全中後という言葉が加わったものです。備州あるいは吉備国と呼ばれた名が基になっていることを知っておく必要があります。この吉備国はたいそう繁栄した地域で文化度も高かったようです。良質な砂鉄を産し、それを加工するための燃料である赤松にも恵まれた地域であり、なおかつ瀬戸内を通じて全国に届ける海運が発達していました。鉄器文化が他の地方より随分と進んでいたことにより、火を扱って加工する設備や窯などの知識にもたけていたことから、備前焼が誕生する前の寒風焼と呼ばれる白い陶器(須恵器)が作られ、平安時代の都の貴族達にももてはやされていました。もともと備前周辺は、鉄器つまり刀剣類と白い須恵器の生産地として、ともに平安の頃に大変栄えた2大産業の地域であったということです。備前焼は、日本の六古窯の一つに数えられます。六古窯というのは、平安時代に端を発する古い陶器の産地を指します。備前を筆頭に、丹波 信楽 伊賀 越前 常滑 瀬戸 があります。瀬戸を除いたすべての窯は、焼き締めと呼ばれる釉薬を使わない陶磁器を生産しておりましたが、その中でも特に多くの作品が残されていて、現在も盛んな窯は備前ではないでしょうか。備前焼は、伊部という地域で作られていたので伊部焼と呼ばれていたようで、それが長い年月の間に備前という名前に変わってしまい、現在では、備前焼がこの地域の焼き物の総称となりました。その中でも、 鉄分を多く含む泥を塗って焼いたスタイルを伊部と呼んで区別するようになっています。古美術を扱っていますといろいろ分かるのですが、古い時代の備前焼で見受けられるのは、甕、種壷、陶板、すり鉢といった鑑賞を目的としていない雑器のようなものが多数でした。それが桃山期の茶の湯の流行とともに花生、茶入、建水、灰器、水指、手鉢など多くの茶道具を生産するようになります。その茶道具のほとんどが泥によって化粧された伊部の手であることが大変興味深いことです。古い時代に作られた備前焼きを数々見てまいりましたが、どういうわけか直接口に触れる茶盌や口のそばでつかわれる向付はほぼ存在しません。それは備前焼に限らず、 六古窯のうちの瀬戸を除く五つの焼締の窯のどの焼き物ついても言えることであります。土を成形して焼いてみただけの焼き締めは、本来、下手で不潔なものという風に考えられていたのでしょう。この伊部という鉄分を多く含んだ泥を塗ってまるで釉薬をかけたがごとくに化粧をする方法で茶道具が生み出されていたことを考察すると化粧を施すことで釉薬をかけたようにみせかける目的があったのであろうと思われます。料理店で備前にかかわらず、焼き締めの器を使う時はたっぷりと水にさらして濡らした状態で使うということがお約束です。濡らす理由は、料理から出る水分をうつわが吸収し料理の臭いや出汁の色を付着させないように、先にたっぷりと水を吸わせておこうとするからだと料理人たちの間では伝えられていますが、私はそれを違っていると思います。 土を焼き固めただけの下手なうつわは、使用前に清める必要があり、お客様に強くアピールする必要があったのだと思いますそしてこの備前は特に濡らしてやると乾燥したように見えていた肌がしっとりと濡れて、僅かに赤みを差した肌も鮮やかな赤や青が浮かび素晴らしく美しくなります。 さらに、予期しなかった結果として料理の水分や臭いや、汚れを付着させないという結果が後で分かったというのが本当のところではないでしょうか。備前は、伊部という手の他にも、焼きあがった景色によっていくつかに分類されます。 最上のものは灰が被って、それが焼き物の表面に付着し、さらに高温でその灰が溶けて黄色いゴマを振ったかのような景色、あるいはそれが大量にかかって溶け流れた景色を生み出す「ごまだれ」です。窯の中で炎が強く当たる部分、少し影になった部分、つまり炎の通り道によって生じる温度差が表面に異なる発色をもたらす窯変、降り積もった灰や燃えカスが器の側面、あるいは全体を覆い隠してくすぶって焼きあがった灰色あるいは青色にも近い景色を棧切と言います。窯の中で意図的に品物を積み重ねて起こった景色を「ぼたもち」と言います。窯に火を入れる前に焼物に巻き付けた藁などによって表面を赤く筋模様の変化を生み出す火襷など様々な種類が存在します。この水指は、円筒形に轆轤で引き上げ、口の部分を内側に折り返した「矢筈(やはず)」と言われる形で、桃山時代の古備前の茶道具では定番の、化粧土を塗った伊部手で作られています。 大きな垂れ耳をくっつけて形を歪ませ、その上にヘラ目を引っ掻いたような縦筋が入り、腰分にも線を一周回すことで、強い作為が表現されています。轆轤目の上に軽く飛んだゴマの、黄色い自然釉も、そこに更なる味わいを与えています。利休好みの静かさとは異なる積極的な造形に、織部好みの時代の反映が感じられます。続いてご紹介するのは、牡丹餅と呼ばれる景色が現れているまな板皿です。牡丹餅というのは、窯の中で焼く際に、板の上に他の作品を乗せて焼成したことで現れる景色ですが、このまな板は本来うつわとして作られたものではなく、作品を乗せるための窯道具だったようです。そのせいか、裏面にも下敷き板として使われた際にできたと思われる景色が残っています。たっぷりと濡らして使うことが、焼き締めのうつわのお約束ですが、備前は濡らすことで生まれ変わりをように赤が浮き立ち、表面に光を遊ばせるように反射して、カサついた表情が生まれ変わったようになります。幾度も焼成され歪みや窯切れが出来ていますが、そこがさらに見どころにもなってる、面白いうつわです。 写真左の花生は、赤く襷(たすき)掛けをしたように見えることから、緋襷と呼ばれています。緋襷というのは、作品を焼く際、意図的に窯の中で灰を被らないように鞘(さや)と呼ばれる陶器の容器に入れて作られます。その際、巻き付けられた藁紐(わらひも)が一緒に焼けて、藁に含まれるカリウムと素地の鉄分とが反応して発色すると言われています。この藁紐は、窯の中で横に並べる作品同士が触れ合わないように巻いたとも、窯場までの運搬に用いたとも言われています。いまではガスや電気の窯で焼かれることも多いと聞きます。 写真右側のつる首は、江戸の前期に作られ、献上徳利と呼ばれています。瀬戸内の海運の要の地であった鞆の浦の辺りで、現在でも保命酒と呼ばれるお酒が作られていますが、そのお酒を献上する際に使われたものだと言われています。これも伊部手の作品となっています。身分の高い人への献上品ですから、釉薬をかけたような風情に見せたかったのでしょうね。薄く轆轤引きされた端正な姿は、存在感ある荒々しい桃山期の古備前から、時代に求められるセンスが変わって来た証にも思えます。 写真中央は瓢箪型をした耳付きの水指です。古い時代に作られた茶道具の大半は伊部手だったということから考えれば、伊部手と異なるこの作品は、少し時代の下がった生まれだと思われます。それを裏付けるかのように、特徴ある形をしていながらも、備前特有の力強さや荒々しい表現が弱くなっているように感じられます。全体的に青、あるいは灰色っぽく見えるのは、窯に投入された薪の燃えカスや、降り積もった灰に全体が埋もれてしまい、くすぶった状態で焼き上がったからだ考えられます。この景色は棧切りと呼ばれています。写真中央と左の作品は、北大路魯山人の手によるものです。どちらも一品物なので、数物の皿ではなく、「鉢」と箱に記されています。 魯山人の作品は作為に溢れていて、古備前とは異なり一筋縄では理解できないこともよくあります。左の円形の鉢は表面に灰が軽く被った景色をしていますが、裏面は塗り土を施した光沢がある伊部手になっています。中央の角鉢は伊部手でありながら、その上に灰が被るように焼かれており、それが上手く溶けて「ゴマ」と呼ばれる景色を見せています。ところがこのゴマの景色は裏面にも出ているので、恐らく両面に灰が被るように、窯の中で立てて焼かれたのではないかと想像されます。その証拠に四方の一辺がややひしゃげたように変形しています。 写真右側の皿は現代作家の澁田寿昭氏の手によるものです。この作品は平皿の上に、何か別のものを伏せて焼くことで牡丹餅の景色を表現していますが、それだけに留まらず伏せた物の中に藁を入れて緋襷模様も浮かび上がらせています。複数の土の配合によって生み出された、やや乾燥したような地肌に、かすかに灰がかぶったのか周辺には艶が見られます。うつわを濡らすと、乾燥気味の肌があずき色につやつやと輝き、やや中央をずらして浮き出てた牡丹餅の景色がなんともいえない魅力を振りまいています。このうつわは、本来茶席の炉の中を整えるために灰を盛っておく灰器、または焙烙(ほうろく)と呼ばれる道具です。灰器に食べ物を盛るなど言語道断とおっしゃる方もお見えになるかもしれませんが、古い時代の灰器は素晴らしい味わいを持っているものが多いのです。そのため、こうしてうつわに転用されたものも少なくありません。手前の口縁に近い部分は、少し轆轤が乱れたような表情が見え、さらにその部分に窯の中で灰が被って、景色に変化が出るように計算されていたのでしょう。見事に激しい景色に焼きあがっています。これもやはり茶道具ですから、お約束通りの伊部の手です。ちなみにお料理は、私が世界一美味しいと思う洋食おがたのハヤシライスです。大好物なので忖度をしてくれたのでしょう、シェフがうつわに盛ってくださいました。笑文章と写真によって、すべてのうつわの表情を説明しつくすことは叶いませんが炎の芸術として、あたかも偶然が生み出したかのようにみえる多くの景色は長い年月の陶芸家の経験や巧みな作戦によって表現されているということをこれをきっかけに読み解き食事と共にたのしんでいただく一路をしていただければ幸いです。皆様にその味わい深さをご説明することは、とてもとてもかないませんが、すべての古い陶器、そして現在も焼き続けられている様々な手法によって色んな工夫をされている。そのことを器の中から読み取ることができます。備前焼は歴史の長い 途中で途絶えることなく続けられた焼き物であるだけに見どころもたくさんあります。ぜひ備前焼をもう一度見直し あるいは現地に出かけて。深く鑑賞していただきたいものだと思います。※備前2回目では、上記の器から2点に実際に緒方シェフに料理を盛っていただきご紹介します。
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BLOG京のとろみ
2020.09.30
「天下一品」のこってり
全国に展開する京都発祥のラーメン店には 新福菜館、横綱、魁力屋など人気店がたくさんあるが ファンの多さでは天下一品が一番だろう。 ファンは親しみを込めて「天一(てんいち)」と呼ぶ。 天一のラーメンにはこってりとあっさりの二種類あるが 基本はスープドロドロのこってり。 あまりにもドロドロなのでよく豚骨と間違われるが 鶏ガラと野菜をじっくり煮込んでとろみを出している。 なので見た目ほどひつこくなくスープは飲み干せる。 私が初めて天一を食べたのはたぶん40年位前だと思うが それまで味わったことのないドロドロに衝撃を受けた。 これが美味しいのかどうかもわからなかった。 30代の頃、木屋町でバーテンダーをしてた頃はほぼ毎日 天一を食べていた。 そして今も、40年を超えて定期的に食べている。 ラーメンを食べたい時に行くのは天一ではない。 「天一に行こう!」という気分の時に食べるのだ。 「天一のこってり」という食べ物があるのだ。 食べ終えるとラーメン鉢に「明日もお待ちしております」と 書いてある。 明日は来られるかわからないけど、きっとまた近いうちに来ます。
ハリー中西
料理カメラマン
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BLOG京の会長&社長めし
2020.09.25
株式会社桂窯の社長が通う店「日本料理 櫻川(さくらがわ)」
■檜垣 良多(ひがき りょうた)さん 1976年生まれ 桂窯四代目1997年 寄神崇伯、母である檜垣青子に師事し、作陶を始める2000年 京都府立陶工訓練校成形科卒2001年 京都市立工業試験場窯業科卒2001年 株式会社桂窯入社2008年 裏千家学園卒2013年 桂窯 代表取締役になる桂窯入社4年目に一旦退社し3年間、裏千家学園にて茶の湯を学ぶ。現在は茶ノ湯道具を中心に作陶に励み、各地にて個展、グループ展を開催。最後の晩餐は、ハワイにあるベトナム料理店のフォー。木屋町で長く愛されているカウンター割烹で、細やかな仕事による四季折々のコースを木屋町通の起点、木屋町二条あたりは高瀬川沿いに歴史的な景観が残り、京都らしい風情が感じられる場所。その一角に立つのが、檜垣さんお薦めの「日本料理 櫻川」。舌の肥えた京都人が通う昭和53年創業の名店で、ここ出身の有名料理人も少なくない。代々料理人が店を引き継ぐかたちで、現在は、山本智史さんがオーナー兼三代目料理長として腕を振るっている。「僕は中学生の頃から行っているんですが、清潔感のあるいいお店です。とにかく料理がおいしい。年に2、3回、家族や友人となど、プライベートで利用しています」(檜垣さん) 店内は特注の檜製のカウンターに、小さなテーブル席が一つ。タイルの壁や美しく弧を描いたカウンターも印象的だ。料理は、昼はお弁当と7000円のコース、夜は2万円のコースのみ。素材は大原、修学院の農家などから入手する京野菜、明石や瀬戸内海を中心にかつぎの魚屋から仕入れる鮮魚など、季節の味覚を吟味。代々の味を踏襲し、過度に手を加えず、素材の持ち味を引き出したシンプルな料理を身上としている。正統派の日本料理に現代的な要素も加えた献立は、長年の常連客にも好評だ。「檜垣さんはご両親が先代の料理長の時からのお客さんで、ずっと来てくださっています。今はもうお互いが(店や家業を)引き継いでやる立場になっていますね」と、山本さん。家族に連れられ店を訪れていた檜垣さんだが、本格的に通うようになったのは高校を卒業してからだという。「中学・高校の同級生の前田くん(現「前田」店主)が、うちの母の紹介で『櫻川』に入ったこともあって、よく行くようになりました。当時料理長だった広崎さん(現「食工房ひろさき」店主)や兄弟子の山本さんにもすごくお世話になりました」檜垣さん自身、陶芸の修業を始めた頃でもあり、勉強の一環として店に通っていたそうだ。「器にどう盛り付けられるのか、料理を盛ってどんな見え方がするのかに興味があり、そういうことを研究したくて、なけなしのバイト代で料亭などいろいろなお店に行きました」と、当時を振り返る。 店と檜垣さんの関係は、単に料理屋とお客の枠に留まらなかったという。「僕を気遣って、広崎さんがいろんな器を作れと導いてくださったんです。特に思い出に残っているのが鱧しゃぶの器。うちの焼き物は衝撃に弱くて割れやすい素材なんですが、火にはすごく強い。だしを沸騰させてしゃぶしゃぶができるような器がほしいと言われて作りました。今もそれを定番メニューで出されています」(檜垣さん) この檜垣さんの器を使った一人用の「鱧しゃぶ」は、夏から初秋のコースに登場する人気の品。毎年これ目当てにたくさんの常連が訪れるそうだ。だしを張った器を熱し、煮立った状態で提供する。「うちとしては温かいおだしで鱧しゃぶをしてもらうので、器が熱を保つようにしてほしいわけです。それを檜垣さんにいろいろ試行錯誤してもらい、直火にかけて温められるような器を桂窯さんの楽焼の釉薬を使って作ってもらいました。この料理はこの器ができたから完成したといえます」と、山本さん。 檜垣さんもお薦めの「鱧しゃぶ」は、新玉ねぎの風味を利かせた特製だしに、淡路島産の鱧をくぐらせ、すだちを搾って味わう。檜垣さんが手掛けただしの器は、土鍋のように一旦温まれば余熱が持続するという。鱧を食べたら鱧のうま味や脂が溶け込んだだしを最後に堪能する。檜垣さんが更にお薦めの料理として挙げたのが椀物。「料理人の味は、だしに集約されている気がするんです。山本さんはものすごく真面目な人で、それが椀物のおいしさに現れていると思います」写真は9月の夜のコースの一例より、松茸や三度豆、柚子をあしらった「毛ガニのしんじょう」。ベースとなるのは利尻昆布と鹿児島産鰹を使った伝統のだし。鰹節を削ってだしをとり、香り高くバランスのいい味わいに仕立てている。 供される料理の器も楽しみの一つ。代々の料理長によって集められたさまざまな器には、名だたる作家の作品が見られる。日本酒は、料理に相性良しの酒が幅広く揃う。「お酒は山本さんがお薦めを選んで出してくれるんですが、どれも食事を邪魔しないお酒で美味いですね」(檜垣さん)「山本さんは根っからの板前でとても丁寧な仕事をされるので、食べていて安心感があるというか、ただただ美味いという感じです。京都で一番丁寧なカウンター割烹かもしれません」と、檜垣さんは「櫻川」の魅力を語る。その言葉に、「ありがとうございます。私としてはそれしかないので(笑)、そこを守りながらやっています」と、山本さん。そんな実直で丁寧な仕事ぶりは、もてなしにおいても同様だ。「お客さんが求められるものに対して、できる限りお応えしていきたいという思いでいます。カウンターなので、この食材はこうして食べたいと言われたら、コースでも臨機応変に対応しています。常連さんは皆そんな感じなので、常連さんばかりになると大変ですが(笑)、それが言えるお店があるとうれしいかなと思うので」予算は、昼5000円から、夜は25000円程度。撮影 エディ・オオムラ 文 山本真由美■日本料理 櫻川京都市中京区木屋町通二条下る上樵木町491075-255-447712時~14時(LO13時)、18時~22時(LO20時)休 日http://www.kyoto-sakuragawa.jp/
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BLOG京のほっこり菜時記
2020.09.24
「えだまめ」
「えだまめ」は完熟する前の大豆だということは、みなさんもご存知だろう。4000年前にはすでに中国で生産されていたと言われている。日本でも縄文時代の遺跡にその存在が認められているというから、たいした歴史のある食材である。400種類も品種があるうえ、ブランドものも多い。よく知られているのは山形の「だだちゃ豆」や新潟の「茶豆」。いずれも香ばしい風味で、口にすると止まらなくなる。そして、京都でえだまめといえば「紫ずきん」。物語の主人公のような可愛い名前をもつこのえだまめは、京都・丹波の生まれ。れっきとした京野菜だ。丹波黒大豆が完全に熟す前に収穫する。食べごろに色づいた薄皮が、頭巾のように豆にかぶさっていることからこの名がつけられた。丹波地方は朝と夜で寒暖差が激しく、その気候があるからこそ、甘みのある豆ができる。収穫時期は9月半ばから10月末頃までと、わすか1カ月半ほど。このえだまめが店頭に並ぶのを待ちわびるファンもいる(もちろん私も!)。普通の枝豆より大粒で食べ応えがあり、むちむちとして甘みもたっぷり。口に入れると独特の香ばしい風味とコクがある。一度食べるとクセになるのだ。塩ゆでしてほくほくとした食感を愉しむのもいいし、豆ご飯にしたり、かき揚げにしたりと独特の味をさまざまな料理で楽しめる。私は、ちょっと堅めの塩ゆでが好み。ゆでたてをざるにとって甘めの天然塩をかけ、ざるを振って全体に塩をなじませる。熱々のままで食べることが多いが、冷めてももちろん美味しい。スーパーで「紫ずきん」の名を見かけると、思わず手に取ってしまうくちなのだ。とはいえ「紫ずきん」は一時期のものだから、年中食べられるわけではない。もちろん、初秋だけの味だからこそ、心待ちにするというのもあるのだが。 ビール好きの呑み助は「とりあえずビール」をやめられない。どんな時期でも、どんな店でも私はまず「瓶ビール」を注文してしまう。家で飲むときも同じで、料理の下拵えをする頃には、すでにビールの栓を開けている。そして、とにかくすぐに何かをつまみたい。そんなときに重宝するのが冷凍のえだまめだ。かつては、茹ですぎた感があって「やっぱり冷凍はだめなのか」と思うこともあったが、最近はスーパーやコンビニで売っているものも、十分すぎるほど上質。ひょっとしたら自分で生を買って茹でるほうが、失敗が多いかもしれない。 ちょっと自慢になってしまうが、うちの冷凍庫には黒豆のえだまめが入っている。「黒豆茶庵 北尾」が開発した冷凍「黒豆枝豆」だ。冷凍庫から出して自然解凍して食べるか、オーブンで軽く温めるかすればいいから、面倒は一切ない。黒豆独特の風味がしっかりしていて、ゆで加減も抜群。私がゆでるよりよほど美味しい。会長の北尾さんは、この「黒豆枝豆」を完成させるには、長い月日をかけたと話しておられた。まずは、丹波の黒豆の種を台湾にもっていき、約6年かけて、丹波産と変わらないものを育てたそうだ。その後も、ゆで加減や冷凍技術にもこだわり、2018年、完成にこぎつけた。ビールはもちろんだが、ハイボールや焼酎にも合う。初秋といわず、いつでも美味しい「黒豆枝豆」が食べられるのは、ほんとうにありがたい。 さまざまなものが進化する今、確実に食品も進化している。けれど「美味しさ」にかける情熱や手間暇は惜しむと味は半減する。そこだけは変えてはいけないものなのかもしれない。そういえば、先日、丸太町通の「くまのワインハウス」で食べた「フェンネルえだまめ」がなんとも美味しかった。ゆでたえだまめをオリーブオイルとフェンネルでさっとソテーしているのだろうか。フェンネルの爽やかな香りがえだまめの皮にまとわりついていて、口に入れるとすっと香りがぬける。ワインとの相性を大切にしていることが感じられる。ほかにも人参サラダや和牛料理を注文して、たらふく食べた。店主の長谷川琢馬さんとは、彼が以前サービスを務めていた北大路のビストロでお会いしたことがあった。当時からものごし柔らかな方だと思っていたが、それは今も変わらない。いや、さらに柔らかに、そして親身になっておられる。この料理にはどんなワインが合うかなど、丁寧に説明してくれるから、ついワインも進む。素材重視の料理はもちろんワインのラインナップもナチュラル重視で気持ちいい。するすると食べて、ゴクゴク飲んでも、すっきり感が続くのだ。えだまめも、こんなお店で調理してもらえれば、きっと本望。「とりあえずのおつまみ」なんて言わせない、堂々の料理として登場する。■北尾商事株式会社 通信販売部京都市下京区西七条南中野町470120-877-6009時〜17時30分休 土曜・日曜・祝http://www.kitaoshoji.co.jp/■くまのワインハウス京都市左京区東丸太町41-7 丸太町東大小路西入ル075-285-100118時~24時休 水曜
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BLOG京の会長&社長めし
2020.09.23
株式会社桂窯の社長が通う店「ピッツェリア イル・ピッコリーノ」
■檜垣 良多(ひがき りょうた)さん 1976年生まれ 桂窯四代目1997年 寄神崇伯、母である檜垣青子に師事し、作陶を始める2000年 京都府立陶工訓練校成形科卒2001年 京都市立工業試験場窯業科卒2001年 株式会社桂窯入社2008年 裏千家学園卒2013年 桂窯 代表取締役になる桂窯入社4年目に一旦退社し3年間、裏千家学園にて茶の湯を学ぶ。現在は茶ノ湯道具を中心に作陶に励み、各地にて個展、グループ展を開催。最後の晩餐は、ハワイにあるベトナム料理店のフォー。薪窯で焼く出来立てのナポリピッツァが評判。のどかな田園地帯の中の人気ピッツェリア「僕の中学時代の友人がやっているナポリピッツァのお店なんですが、味は一流です。もともと沖縄でお店を出していたんですが、それが京都に移ったこともあって、15年くらい行かせてもらっています。人情味あふれるシェフで、奥さんもいい方です。月2回ほど行きますが、いつも混んでいてなかなか入れません(笑)」(檜垣さん)檜垣さんお薦めの「イル・ピッコリーノ」があるのは、洛西・大原野。沓掛インターチェンジ近くの高台の、うっかりすると見落としそうな一軒家がそれだ。ここにはオーナーの金定(かねさだ)慎平さんが作る窯焼きピザを目当てに、地元の常連を中心に多くの人が訪れる。営業は昼のみで、特に週末は予約が取りにくいという人気ぶりだ。「檜垣とは中学が違ったんですが、共通の友人がいて仲良くなりました。沖縄にいた頃から店に食べに来てくれていて、今も家族と来たり、陶芸教室の生徒さんを連れてきてくれたりしています。僕のピッツァを好きでいてくれるのが、ありがたいですね」と、金定さんは話す。昔から飲食店を始める夢を持っていたという金定さんは、2005年にイタリア・ローマへ渡り、ナポリピッツァづくりを学び、2006年、沖縄の恩納村で「イル・ピッコリーノ」を始めた。そして沖縄で6年間営んだ後、京都に帰って2012年に再オープンさせたという。「母が自分のお店をするために購入していた一軒家が空くことになって、こちらに移ってきたんです」と、金定さんは説明する。京都に戻り、沖縄との水の違いに苦労しながらバージョンアップさせたという金定さんのピッツァ。イタリア産を含む2種をブレンドした粉と、イタリアの塩、水、ビール酵母を使用した生地を一晩寝かせたあと、イタリア製の石窯で薪を使って焼き上げる。「粉と塩と水とビール酵母。この4つが入ってナポリピッツァと呼べるんですが、粉が同じだったりすると、どうしても似た味になってしまう。それをどう自分なりのものにするか、常に考えているところです」と、金定さん。イタリアで出合った理想の味に近づけるためにいろいろ研究しながら、少しずつ変化を加えているという。民家として使われていた建物は、キッチンや廊下など一部を改装した以外はほぼそのまま。靴を脱いであがるスタイルで、知り合いのお宅を訪ねたようなゆったりのんびりとした空気感がまた魅力の一つになっている。 「生地がすごくおいしい」と檜垣さんが絶賛するピッツァは、レギュラーメニューと本日のおすすめピッツァを含め、20種ほど。一枚がとても大きくボリュームがある。「最初は皆さん、驚かれますね」と、金定さん。ランチタイムにはサラダやスープ、前菜など、ドリンクとミニデザート付きのセットと一緒に楽しめる。「うちは5人家族なので、ピッツァ3枚とスープセット5人前という感じで注文します。マルゲリータは必ず頼んで、季節のピッツァ、あとガッツリいきたい時はカルツォーネとか。ピッツァのほかにパスタが2種類あるんですが、それも美味いんですよ」と檜垣さん。写真は水牛のモッツァレラチーズを使ったトマトソースベースの「マルゲリータ・ブッファラ」1816円。定番のシンプルな組み合わせで自慢の生地を堪能できる。「トマトソースと生地の相性がよく、すごくおいしい」(檜垣さん)程よい塩気に旨味を感じる生地は、ボリュームがあるのにそれほど重さを感じさせない。ちなみに、店内で食べきれなかったピッツァは持ち帰ることができる。檜垣さんのもう一つのお薦めは、「クアットロフォルマッジ」1365円。モッツァレラ、ゴルゴンゾーラ、スモークチーズ、グラナパダーノの4種のチーズを使用し、濃厚な味わいが楽しめる。チーズ好きにはたまらない一品。こちらは金定さんお薦めの「気まぐれピッツァ2」1650円。モッツァレラ、ミニトマト、ピリ辛サラミ、バジル、グラナパダーノ、唐辛子、黒コショウなどを盛り込んだオリジナルピッツァで、「自分の好きなものを全部入れました」と、金定さん。かなりスパイシーでパンチの利いた味わいは、ビールのおともにもぴったりだ。 店では金定さんはピザ作りに専念し、沖縄出身の妻・明日香さんとスタッフがサービスを担当している。「うちの奥さんと喋るのを楽しみに来るお客さんもおられます。気取った店ではないので、自然な感じでお客さんと接したいというのはありますね。時間は限られているんですけど、ここに来てピッツァを食べてほっとしてもらえたらと思っています」と、金定さん。ここには若者からお年寄りまで、実に幅広い層が訪れるそうで、「たまにお客さんの平均年齢が60~70代という時もあります(笑)」と笑う。本格派の味わいと自然体の親しみやすい雰囲気で、世代を問わず愛されている実力店だ。予算は1500円程度。オープンから13時までは予約を受け付けている。撮影 エディ・オオムラ 文 山本真由美■ピッツェリア イル・ピッコリーノ京都市西京区大枝西長町6-42075-333-301811時~16時(LO15時30分) ※ランチ~14時30分(LO)休 月、月1回火https://www.facebook.com/PizzeriaIlPiccolino/
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BLOG割烹知新〜奇想の一皿〜
2020.09.12
佳肴 岡もと「焼き茄子の冷製スープ」
奇想の一皿「焼き茄子の冷製スープ」名店の誉れ高いカウンター割烹での修業経験から、自身もカウンタースタイルにこだわりたかったと話す岡本さん。L字に配した客席すべてに目を配り、食事を楽しんでもらうための雰囲気づくりに心を砕きます。ストーリーを感じさせる料理とお酒、そして細やかな接客が楽しめる注目の一軒です。発想秘話誰でも手に入れやすい旬の野菜ということで、メイン食材は茄子にしました。これからの時期は秋茄子も美味しいですしね。茄子自体は平凡な食材ですが、やりようによっておもしろいものが作れるんじゃないかと思います。夏野菜って油との相性がすごくいいんですよ。茄子の揚げびたしとか最高でしょう? でも今回は単に油で揚げたり焼いたりするんじゃなく、油を茄子に「閉じ込めて」みたいと思います。では作っていきましょう。京都中央市場が近いので、ほぼ毎朝買い出しに出掛けます。産地にこだわらず、僕の料理の表現方法にハマりそうな食材は積極的に取り入れるほうですね。たとえば石垣島のアセロラを焼き物のソースに使ってみたり...。といっても、あくまで日本料理としての一線を越えず、奇抜になり過ぎないよう気をつけています。途中までは焼き茄子を作る手順と同じです。まずは茄子を強火で焼いていきます。長く焼き過ぎると水分が抜けて身がかすかすになり、繊維質もぼろぼろになってしまうので、短時間で一気に中まで火を通します。茄子の香りが十分出て、尚且つみずみずしさが失われない程度に焼き上げたら、氷水の中で皮を手早く取り除きます。皮をむいた茄子を適当な大きさに切り、裏ごしします。繊維や種が残らないよう、しっかりと力を込めてなめらかなピュレ状に。焼き茄子の香ばしい香りが立ち上がってきます。ここからいよいよ茄子に油を閉じ込めていきます。イタリアンではパスタソースに茹で汁を加えて乳化させますが、和食で「乳化」の手法を使うことはほぼありません。僕らが「たまごのもと」と呼んでいる、酢の入らないマヨネーズ状のソースを作る時ぐらいでしょうか。今回はブレンダーを使い、太白の胡麻油で茄子のピュレを乳化させ、油のコクを茄子の中に閉じ込めてしまいます。この胡麻油は胡麻の香りが少ないので、焼き茄子の香りを打ち消さず、深みだけがプラスされます。油のほかには白味噌、豆乳、醤油を少々。乳化すると全体的に白っぽい色に変化していきます。最後に出汁を少し加えます。出汁醤油とオイルはとても相性がいいので、少し出汁を加えるだけで風味がガラッと変わるんです。焼き茄子特有の焦げたような香りとも相性抜群です。冷やしたほうがおいしいので、氷水で冷やしてから盛り付けましょう。絹サヤと花穂紫蘇、胡麻油で作った人工キャビアを乗せて完成です。この胡麻油のキャビアは口の中で弾けるまで香りがしないので、胡麻油を直接垂らすよりいいかなと。質感も加わりますし、温冷どちらの料理にも使えて便利なアイテムですね。どうですか? まさに「飲む焼き茄子」って感じでしょう? このままソースとして使ってもおいしいんじゃないかな。肉や魚にも良く合うと思います。僕は瀬戸内海の小さな島の出身なんですが、やはり独立するならレベルの高いところで勝負したいと思って京都に店を構えました。料理学校を卒業後、『京都吉兆』や大阪の天ぷら専門店、京都の料亭などで修業をし、『上賀茂 秋山』(https://www.mbs.jp/kyoto-chishin/shoku/shokuchishinblog/kappo/73702.shtml)を最後に独立しました。最も影響された料理人は、間違いなく秋山さんですね。秋山さんからカウンター割烹のおもしろさや醍醐味を教わりました。あの経験があったからこそ、今ここでカウンターの店をやっているんだと思います。料理を出して「あとはお好きにどうぞ」というのではなく、料理の詳細やストーリーを直接お伝えしたいし、それらを知った上で食べていただきたい。お客様の反応を見ながら、より楽しんでもらえるようなお手伝いもしたい。僕の接客する姿を見た妻が「こんなにしゃべる人じゃなかったのに...」って驚くんですが、そのような接客術も含めて、秋山さんから教わったものは本当に大きいですね。「今日は岡本のところへ行こうかな」と、ちょっとだけ足を伸ばして来ていただきたい。そんな思いもあって、街の中心部から少し離れたこの場所を選びました。料理は13,500円(税込)のおまかせ一本のみ。僕自身が好きということもあるのですが、日本酒は常時60種類ほど揃えています。小さめのグラスを用意しているので、料理に合わせていろんなお酒を味わってもらえるとうれしいですね。撮影 鈴木誠一 取材・文 鈴木敦子■佳肴 岡もと京都市東山区馬町東入ル南側常盤町470-4075-551-105517:30~22:00(L.O.)月曜、毎月最終日曜休
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