食知新ブログ
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BLOG料理人がオフに通う店
2020.09.11
「Gori'sKitchen ゴリーズキッチン」-「PIZZERIA DA NAGHINO ピッ ツェリア ダ・ナギーノ」三條実永さんが通う店
「PIZZERIA DA NAGHINO ピッツェリア ダ・ナギーノ」のオーナーシェフ三條実永さん東京生まれ。グラフィックデザイナーを目指し、研修のため、イタリアのデザイン会社で働くことになったが、不思議な縁でナポリのピッツェリアで働くことに。その時食べたピッツァの美味しさに衝撃を受け、そのままナポリのピッツェリアで修業を続行する。ナポリでは、ピッツァイォーロという生地づくりから全体を統括する職人と、フォルナイヨという焼きを専門とする職人とに、作業の役割分担がはっきりしているが、三條さんは、まず焼き方としてスタートし、最終的にはピッツァイォーロのサブを勤めるまでになった。帰国後は、東京の「ピッツェリアGG」などの名店で働き、さらにシンガポールで4店舗のピッツェリアを展開するなど、ピッツァの道を一筋に歩む。自分の店を持つにあたって、公家の出身である三條さんは父祖の地である京都での開業を決意。2018年8月、「PIZZERIA DA NAGHINO」をオープンさせた。「店主の足立充憲(みつのり)さんとは、ナポリで修業中に出会ったんです。あの頃は、遠い将来の夢を漠然と語っていましたが、10年後、いろいろな経験を積んだあと、偶然、二人とも京都に店を出すことになり、ご縁を感じています。その後、互いの店を行き来するようになりました」(三條さん)店主の足立さんは、大阪の「Ristorante e Pizzeria SANTA LUCIA」で4年半、修業して、その後、さらに腕を磨くために南イタリアに渡った。現地のトラットリアで働いている時、三條さんと出会い、親しくなったと言う。 帰国後は、大阪の「asse(アッセ)」で5年働き、地元の京都に戻る。資金を稼ぐのと、他の世界もみておこうということで3年ほど不動産営業の仕事に就いたのち、2016年に自分の店をオープンさせた。「イタリア料理には、トラットリアやピッツェリアなどさまざまな業態がありますが、僕自身はナポリピッツァを中心にしながらも"僕が食べたいもの"をしっかりメニューにあげていくような店にしたいと考えました」(足立さん) なるほどメニューには、ナポリピッツアの定番と季節のおすすめ約20種のほか、前菜、メイン、パスタ、デザートなど多彩な料理が並ぶ。「気軽にきて、いろいろな料理を注文してもらって、ワイワイ賑やかに食事を楽しんでもらえるそんな店にしたかったんです。一人でも、家族連れでも、パーティーでも、軽い食事からがっつりディナーまで、どんな風にも利用できる使い勝手の良い店やと思います」(足立さん)温かくアットホームな雰囲気の店内。賑やかに人が集う場所。「うちのピッツァはナポリ風のどっしりとした生地ではなく、もう少し軽くてモチモチ感を重視した生地にしています。前菜やメイン、パスタなど自慢の料理がたくさんあるので、ピッツァだけでお腹いっぱいということがないように工夫しています」 特製のピザ窯で焼かれたピッツアは、確かにモチっとした食感で、それでいてカリッとクリスピーで軽やか。トッピング素材も一つ、ひとつ足立さんが厳選したもので、味わい深いだ。人気No.1の「ゴリーズピッツァ」1490円はマルゲリータにさらに工夫を重ねたもの。京丹波「ミルクファーム すぎやま」のジューシーなモッツアレラチーズを使用している。自家製のトマトソースはじっくり煮込んだ濃厚な味わいで、モッツアレラとのバランスが絶妙。※価格は全て税別。ピッツァは丹波篠山『Kuwa Monpe ( クワモンペ)』特製の窯で、高温でさっと焼き上げる。メイン料理の中の人気№1はこちら。亀岡産の「七谷鴨ロースのオーブン焼き」2490円。上質なロースの皮目をこんがり焼いて、オーブンで低温でじっくり焼き上げたもの。しっとりと柔らかく、肉の旨味がいっぱいに広がる。野趣と洗練が一つになった見事な一皿。「店主のガタイの良さからは想像のつかない(笑)、繊細な味わいが本当に魅力です。ピッツァや料理はもちろん、ドルチェも全て手作りで素晴らしい味わいですよ」(三條さん) 三條さん一押しのドルチェはティラミス。人気の瓶入りティラミスは、マスカルポーネ、玉子、生クリームのシンプルな素材を泡だてて、もったりとしたクリーミーな味わいに。エスプレッソコーヒーを染み込ませたサボイアルディのほろ苦さが味のアクセントになっている。キャラクターが描かれた瓶入りティラミス390円。プレーン、抹茶、ほうじ茶の3種類がある。お土産にもぴったり。他にもバスク風チーズケーキ、ガトーショコラ、季節のタルトなどが揃う。ワインはイタリア産が中心。ボトル2000円〜、グラスワイン400円〜というプライスも嬉しい。 新型コロナの影響で、世の中が変化しつつあるが、足立さんも新たな展開に挑戦することを決めた。キッチンカーにピッツァ窯を積み込んで、いろいろな場所に出張するという新サービスだ。明るいブルーの車体のキッチンカー。足立さんはあちこちに出かけて、ゴリーズの味を伝えたいと笑顔を見せる。1万円以上の注文があればキッチンカーをオーダーできる。問い合わせは店まで。「ご自宅の駐車場があれば、キッチンカー出前はOKです。メインや前菜はケータリングスタイルで運んで、お好きなピッツァをその場で焼いて、焼き立てを味わっていただけます。世の中が大きく動いていく今、僕も新しいことにチャレンジしないといけないなと...。幸い、リピーターのお客さんには今までと変わらず来店いただいていますが、これからはおうちでプロの味を楽しむニーズがより増してくると思いますし、そういう流れにもしっかり応えていきたいですね」「難しい時代だけれど、笑顔で乗り切っていきたい」という足立さん。明るく飾らない人柄がお客さんに愛されている。撮影/竹中稔彦 取材・文/ 郡 麻江■Gori's Kitchen ゴリーズ キッチン京都市南区上鳥羽菅田町65番地1F075-200-9304平日11:30~ 14:00(13:45 LO)、18:00~23:30(23:00 LO)、土・日・祝11:30~ 14:30(14:15 LO)、17:30~22:30(22:00 LO)無休(年末年始は休み)
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BLOG料理人がオフに通う店
2020.09.02
「酒処てらやま」-「炭焼みはな」長手未華さんが通う店
「炭焼みはな」店主 長手未華さん昔から食べることが大好き。大学時代、飲食の仕事に興味を持ち、この世界に進む。イタリアンの「La Camartina」や、鶏料理の「侘家古暦堂」などで修業を積み、昨年、自身の店をオープン。本人も大好きという、焼き鳥とナチュラルワインを提供。関西では数店舗しか扱いのない、丹波・高坂鶏も使用。夫は、イタリアンの「Lapintaika」のオーナーシェフ、正彦さん。なんとも心地よさげな店内は、先斗町の店の空気感そのまま。カウンター席のほか、テーブル席、二階の座敷がある。 先斗町に店がある頃から、予約がなかなか取れないという人気店だった「酒処てらやま」は、昨年、4月に現在の場所に移転。綾小路通から細い細い路地を入った奥に、以前と変わらぬ温かなくつろぎをもたらす空間が佇んでいる。「女将の絵里佳さんは、以前、私が勤めていた店の後輩で、今でもとても仲良しです。彼女から寺山さんを紹介してもらったのですが、可愛い後輩の彼ということで見る目が厳しかったのかなと思いますが(笑)、当時、彼は私をちょっと怖がっていたかも...(笑)。今では夫婦同士仲良くなって、お店も行き来させてもらっていますが、寺山夫妻から学ぶこともとても多いです。お店は気軽に行ける雰囲気と使い勝手の良さが気に入って言います」(長手さん)「長手さんは仕事仲間やご友人とよく来てくださいます。一軒目として食事とお酒を楽しまれたり、二軒目に軽く一杯飲みに来られたり。自分の店を始めるとき、まさしくそういう店でありたいと考えたので、こんなふうに使っていただけるのが一番嬉しいですね」(寺山さん) 主人の寺山主一(しゅういち)さんは、長年、京都の料理屋や居酒屋で働き、最終的に「食堂おがわ」で修業して、2017年に、先斗町に自分の店をオープンした。「『食堂おがわ』では、割烹店としての味をしっかり提供しつつ、店の主人もスタッフも揃いのTシャツにエプロンというカジュアルなスタイルに新鮮な驚きを覚えました。いつか自分もこんなふうに、料理がうまくて、いろいろなお酒を揃えていて、でも気取りがなく、カジュアルに楽しめる店をやりたいと思うようになったんです」 "料理はシンプルに"が基本。しかしそれは単に素材の持ち味を活かすということだけでなく、吟味した素材に自身の感性と技を重ねて、ちょっとしたサプライズを加味した『てらやま』らしい味わいを打ち出したいと考えている。旬味旬菜を取り入れた一品料理とお酒をその日の気分で楽しむ。おすすめの一杯は自家製レモンチューハイ700円だ。自家製の国産レモンの砂糖漬けで作ったレモンチューハイは、爽やかでほんのり甘く、これからの季節にもぴったり。「先斗町の時は、店が狭くて、席数も少なかったのですが、今は二階の座敷を入れると倍の席数になりました。スタッフも増やして、できるだけ多くのお客さんに楽しんでほしいと思っています」(寺山さん) 新しい店になっても先斗町の頃の雰囲気を大切に守っている。L字の木のカウンター(以前はコの字型)の艶めいた深い茶色や壁の風合いなど「前と雰囲気は変わらんなあ」と常連さんが喜んでくれているという。二階の座敷席は2組まで利用できる。1グループで6〜7人になると貸切にしてくれるというのは嬉しい。「いつも季節のお造りや定番の一品ものの中から、その時の気分で注文しています。女将の実家がある丹後から届く新鮮な魚介類があれば必ず注文します。友人と行くことが多いんですが、カウンター席に座って、BGMの昭和の歌謡曲を聴きながら、まったりと料理とお酒を楽しむのが好きです」(長手さん)「うちのBGMの最新曲は松田聖子ちゃんくらいでしょうか(笑)」(寺山さん)。 料理は基本、日替わりで提供する。造り、焼きもの、揚げもの、蒸しものなど、その日の仕入れで30〜40種ほどの一品料理に、〆のチャーハン、酒処カレーライス、にゅうめん、土鍋ご飯などが揃う。 野菜は地元のものを中心に、魚介は丹後の魚屋さんから毎日直送されたイキのいいところを、様々な味わいで提供する。泉州の旬の水茄子とトマト、新玉ねぎをさっぱりとしたドレッシングで合わせた水茄子とトマトのサラダ600円。オリーブオイル、酢、醤油にエシャロット、ニンニクなどを隠し味にした女将特製ドレッシングと相性よし。良い鯖が手に入った時は必ず〆るという、ほぼ定番のきずし1000円。酢でよく〆た昔ながらの味わいだ。炭火で焼いたうなぎの白焼き。皮目はパリッと香ばしく、身はふんわりしっとりとした食感。広島・海人(あまびと)の藻塩を使っている。先斗町の頃からの名物の〆料理、和牛炭焼サンドイッチ2500円。旨味豊かな和牛のモモ肉を炭火で炙り、塩、コショウのほか、ケチャップ、ウスター、玉ねぎみじん切りを合わせたソースに辛子をピリっと効かせて。パンも炭火で炙るのでとても香ばしい。切り落とした耳スティックがまた味わい深い。「僕が酒好きなので、この酒に合うのはどんな味かな?とか、この酒には是非この味を合わせてみたい!とか、どうしても、酒飲みの感性で作る料理というか(笑)、お酒に合う肴といった料理が中心になってしまうんですが、これからはもっといろいろなジャンルの味にも挑戦していきたいと思っています」(寺山さん)日本酒は丹後・伊根の「京の春」や寺山さんの出身地の広島の「ずいかん」、などを取揃えている。鹿児島の国産ウイスキー「MARS」はハイボールで飲むのが人気。 縄のれんをくぐれば、そこは昭和の歌謡曲が流れる世界。とくれば、昭和生まれにはたまらない懐かしさがこみあげてくる。その中で進化していく新たな『てらやま』の味を、推薦者の長手さんのようにまったりと味わってはいかがだろうか。女将の絵里佳さんと息のあったもてなしが、しみじみと心地いい。■酒処てらやま京都市下京区綾小路足袋屋町317−11075-708-723717:00~23:00(LO22:00)木曜定休※予約がベター
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BLOG京のとろみ
2020.08.31
「洋食おがた」のナポリタン
京都の御所南と呼ばれるエリアに店を構えて5年。 全国から食いしん坊の集まる洋食店がある。 シェフの緒方氏とはここの前々店からの付き合いだ。 ハンバーグやビフカツなど洋食の定番メニューはもちろん 最近は焼津のサスエ前田魚店から仕入れる魚介類も豊富で メニューの幅が広がった。 塊で焼く尾崎牛のステーキや火入れの素晴らしいアジフライもいいが 昭和のベタな洋食が好きな私はナポリタンなどを選んでしまう。 粉チーズとタバスコで食べる喫茶店のナポリタンも捨てがたいけど ちゃんとした洋食店のナポリタンは一味違う。おがたのナポリタンには半熟卵の目玉焼きが乗る。 これがいい! ゆでたまごでも生卵でも温泉玉子でもない、目玉焼きが一番合う。 半熟の目玉焼きを潰さないように食べ進め、自分のベストな タイミングで卵の黄身をフォークで潰す。 とろっとろの黄身が溢れ出しケチャップソースと混ざり合う。 その部分をフォークに絡めて食べる。 シンプルに最高である!ちなみにカレーライスには目玉焼きではなく生卵です。
ハリー中西
料理カメラマン
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BLOG料理人がオフに通う店
2020.08.28
「聖護院嵐まる」-「すし甚」西川政明さんが通う店
「すし甚」西川政明さん16歳からこの道に入って50年以上。昭和56年に「すし甚」をオープンした西川さん。お店があるのは、銀閣寺道バス停から徒歩すぐの場所。ジャズの流れる店内で、価格以上においしい寿司づくりを続けている。奈良県下の日本料理店を皮切りに、石垣島のホテルシェフ、祇園の割烹などで修業を重ねた佐藤泰樹さんが自分の店を開いたのが平成8年のこと。「敷居を高くせず、老若男女を問わず、美味しい和食を楽しんでいただける店にしたいという思いを込めて、自分の店を開きました」(佐藤さん)カウンターとテーブル、奥の座敷などこぢんまりとして居心地のいい店内。「海鮮がとにかく美味しいので、美味しい魚が食べたい!という時によく行かせていただいています」(西川さん)「西川さんとは祇園で働いている時からのご縁で、もう30年以上、お付き合いいただいています。互いの店もよく行き来させていただいて、料理のことや魚のことなど楽しく話をさせていただいています」(佐藤さん) 開店当初は、魚介も扱っていたが、おばんざいや創作料理などを中心にメニューを揃えていたという佐藤さん。しかし、年月を重ねるほどに「ほんまもん、それも究極をお出ししたい」という思いが強まっていったという。「じゃあ。ほんまもんって何や?ということなんですが...(笑)。自分が扱う食材の中で、究極までほんまもんを追求できるのは、魚かな?と思ったんです。自分が海に行って釣ってくる魚ほど、新鮮で安心できるものはないですよね。僕が◯◯で釣った魚です!と胸を張ってお客さんに言えますから」(佐藤さん) 15年ほど前から釣りを始め、今ではもうベテランの域。今日はここにいい魚が揚っているという情報を聞けば、日本海や瀬戸内海など、すぐ現地に出向いて釣ってくるのだという。現在は平均、週に2回ほど釣りに出かけ、新鮮な魚を提供している。ショウケースに本日の魚がぎっしり。この中にご主人の釣った獲物も...。 釣ってくるだけではない。魚は下処理、特に「血抜き」が非常に大切だと佐藤さんはいう。「血抜きをどのタイミングでするか、そのあと少し寝かせて脱水させるのですがその時間も大切です。きちんと下処理をしてこそ、本当に旨い魚をお客さんにお出しできるんです」もちろん市場で買ってくる魚も使うが、買ってきた魚も改めて自身の手で血抜きをするというほどのこだわりよう。自身が血抜きをすることで、さらに魚の味がよくなるのだそうだ。 客層は地元・京都の人がほとんど。やはり人気なのは、西川さんも必ず注文するというお造り盛り合わせだ。二人前で8種類ほどの魚介が盛り合わせてあり、質・量ともに半端ない。魚介好きならこれだけでワクワクと嬉しくなってしまうだろう。本日の造り盛り合わせ二人前3000円〜(価格は全て税別)。写真はイシカゲ貝、オナガダイ、ハモ、ビワマス、本マグロ、シマアジ、明石蛸、剣先イカ、シラサエビがたっぷりと盛り合わせてある。このうち、明石蛸と剣先イカは佐藤さん自らが釣ったもの。こちらは名物の「蛸と海老のエスカルゴ風」1480円。蛸を海老を使ってオリーブオイル、ニンニク、パセリ等と一緒に調理するが、店独自の味付けがあるそうだ。それは「企業秘密です、笑」だとか。アコウの煮付け。写真は3〜4人前で3000円。脂がよくのっているので、煮汁はあっさりと仕上げている。酒のアテにご飯のおかずにもよく合う味わい。あまり流通していない小さな蔵元の日本酒が、定番ものと季節限定種など常時15種類ほど揃う。壁には漁船や釣り道具メーカーのステッカーがぎっしり。品書きには、造り、一品、焼きもの、揚げ物、ごはんもの、寿司がずらり。海鮮料理と和食が中心だが、ホテルシェフ時代に洋食を学んだ経験を生かして、前出のエスカルゴ風やパスタ、カツ、ステーキなど洋風の料理も揃う。 奥さんの香織さん、息子の嵐志さんと共に、家族で息の合った温かなもてなしも、嬉しい。「旨い魚が食べたい!」というときはもちろん、「いろいろな料理とお酒を」「がっつりごはんを食べたい」などなど、どんな要望にも、真摯に、美味しく応えてくれる一軒だ。お客さんから贈られた魚柄のマスク。息子の嵐志さんと。「将来は店を息子に任せて、僕は仕入れ専門で釣り三昧もいいなあと思ってます(笑)」撮影/津久井珠美 取材・文/ 郡 麻江■聖護院嵐まる京都市左京区聖護院山王町28075-761-242117:30~24:00(LO)23:30月曜定休
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BLOG料理人がオフに通う店
2020.08.27
「乃り英」-「すし甚」西川政明さんが通う店
「すし甚」西川政明さん16歳からこの道に入って50年以上。昭和56年に「すし甚」をオープンした西川さん。お店があるのは、銀閣寺道バス停から徒歩すぐの場所。ジャズの流れる店内で、価格以上においしい寿司づくりを続けている。「街から少し離れた場所で、静かに食事ができます」と、西川さんが教えてくれたのは一乗寺にある「乃り英」。正統派の日本料理が楽しめる割烹だ。白川通りから曼殊院道を少し東に、庭園の美しさで知られる詩仙堂からもすぐの閑静な地にある。店主の福原英人さんがこの店をオープンしたのは2011年3月。当初は一本南側に店を構えていたが、5年前に現在の場所に移転した。檜の一枚板を用いたカウンター8席と、手入れの行き届いた庭に面した掘りごたつ式の座敷が1室。20名まで利用できる大部屋もあり、落ち着いた空間で料理を味わえる。 「ここは湯豆腐屋さんやったんです。お客さんに入っていただくスペースは住居として使われていたところ。家で食事をするような感覚で料理を楽しんでいただきたいと思い、建物の構造も生かして靴を脱いで上がっていただくスタイルにしました」と話すのは、朗らかな女将・美和さん。「前の店では靴を履いたままテーブルに座っていただきましたが、それやとこのあたりは寒いから足元が冷えるんです」。もっとくつろいでもらえる空間にしたいと「次は必ず床暖房を」と決めていた。熊本出身の福原さんは、16才で大阪に出て料理の世界に飛び込んだ。4年後に京都へ移り、今はなき祇園の名店「割烹乃り泉」へ。正統派日本料理店として知られたこの店が閉店するまで6年間、店主の髙乗英樹さんの元で経験を積んだ。その後、知る人ぞ知る名古屋の「加瀬」をはじめ、数々の日本料理店で腕を磨いた。 「将来は熊本に帰って料理屋を開こうと思っていました」という福原さんに、「わたしの京都パワーが勝ったんやね」と冗談交じりに返す美和さん。美和さんは、「乃り泉」のご主人・髙乗さんの姪にあたり、そんな縁もあって「乃り泉」時代からの馴染み客が多く訪れる。座敷の床の間に飾られた掛け軸は、髙乗さんと親交あった書家・吉川蕉仙さんによるもの。カウンターの目の前に掲げられた墨書「大愚者終身不霊」も吉川さんの作品だ。乃り泉を贔屓にしていたという俳優・森繁久彌さんの書も飾られている。すし甚の西川さんとも、「乃り泉」時代からの付き合い。その関係はもう30年以上になるという。「叔父もすし甚さんにはよくお邪魔していて、わたしもたまに連れて行ってもらったんです。叔父が入院していた頃は外出許可が出た日に伺いました。うちの子どもも大好きで、今でもよく家族で寄せてもらいます」(美和さん)「乃り英さんへは季節の変わり目ごとにお邪魔して、その時々の旬の魚を楽しみます」という西川さん。開店して間もない頃に訪れ、それから10年近く通い続けているそうだ。年間を通してさまざまなネタを揃える寿司屋と、季節ごとの食材だけをピンポイントで扱う割烹。お互いの料理を味わい手本にすることも多い。今回お店に伺ったのは8月はじめ。「鱧」の季節だ。「鱧といえば夏のイメージですが、秋までおいしく食べられるんです。梅雨の雨水を吸って旨みを増すといい、時期によって脂の乗りが変わります。それに合わせて、はじめはお椀、その後に落とし、鱧寿司、焼き霜、鱧しゃぶというように、食べ方も変えてお出しします」今この時の鱧料理を楽しめるのだ。これから迎える秋は、鰆や甘鯛、穴子、のどぐろがおいしくなるという。手間を惜しまず丁寧に仕上げられた料理は、いずれも正統派。料理人仲間には「まだそこまで手をかけているのか」と、驚かれることもある。胡麻豆腐は、とろ火にかけて1時間練りあげる。手を休めずに混ぜ続けることで、強い粘りをだすことができるのだ。アワビを添えて秋のはじめの先付にする。器使いや盛り付けで、客の目を楽しませることも忘れない。鈴虫の声が聞こえる頃には、虫籠をイメージした八寸を。虫籠を開けると、鮎の風干しにトコブシ、白だつ(白ずいき)の胡麻和え、鱧の肝の煮こごりなどが現れる。「この銀椀は吉兆の創業者・湯木貞一さんが考案してつくられたお椀で、銀を混ぜた漆が施されています」という福原さん。聞けば、50客ほどしかない稀少なものだという。深みのある銀砂色の蓋を開けると、松茸の香りが立ち上がる。小豆を萩の花、銀杏を葉に見立てた秋のひとときだけの楽しみだ。本枯節と利尻昆布の一番だしを、毎日汲む北白川の地下水でとる。比叡山の山肌から湧き出る水は、ミネラル分が豊富で、口当たりはマイルド。「松茸は産地の篠山まで、直接わけてもらいに行きます」という福原さん。春の筍は大枝塚原、初夏のとり貝は宮津、冬のぼたん(猪肉)は丹波と自ら産地を訪れ、目で確かめ食材を仕入れる。基本はおまかせコース(8,000円〜)だが、好みや予算に応じて料理の相談にも乗ってくれる。「蟹は京丹後の間人(たいざ)産だとやっぱり値が張ります。事前にお客さんとお話しさせてもらい、予算に応じで産地やお料理も変えます」と美和さん。1組1組に応じた料理ができるのは、完全予約制だから。昼は2日前までに予約すれば松花堂弁当も注文可能。「夜のコースはハードルが高い」という方は、リーズナブルに楽しめる昼時に、まずは訪れてほしい。撮影/津久井珠美 文/野村枝里奈■乃り英京都府京都市左京区一乗寺下リ松町31-2075-703-804511:30~14:00(L.O) 17:00~21:00(L.O)不定休
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BLOG京のほっこり菜時記
2020.08.25
「薬味」
薬味と言って思い浮かべるものはたくさんある。葱、生姜、大葉、茗荷、大根おろし、パクチー、山葵、かいわれ大根などなど・・・ほんとうにたくさんあるけれど、それぞれを料理や季節によって使い分けることが多い。冷奴なら生姜にネギ、素麺なら大葉と茗荷など組み合わせを変えて、違った味わいと食感を楽しむ。造りにちょんと山葵をのせるだけで辛味が合わさって、より魚の新鮮さを感じられたり、淡泊な味わいの素麺などは、逆に薬味がさまざまな風味を生んでくれたり。どんな薬味を選ぶかで料理の味わいは大きく変わる。だからというか、やはりというか、薬味は料理に欠かせないもの。なくてはならないものなのだ。そして、薬味のもうひとつの大きな役割は、その薬効である。いや、なかには味というより薬効成分があるからこそ、薬味を料理とともに味わう人もいるかもしれない。たとえば、葱には、殺菌作用や血流促進、発汗作用、疲労回復、風邪予防などに効果があるといわれている。また独特の香りが肉や魚の臭みをとってくれる。つまり、葱はシャキシャキとした食感もあって料理を一味違うものにしてくれるうえ、体にもいい。なにかにつけて料理とともに味わいたい香味野菜なのだ。最近よく薬味として使うのは、パクチーやクレソン。パクチーを鯛の昆布締めとトマトに合わせると、なんだかエスニックな風味になる。クレソンを刻んでお鍋の薬味にすると、独特の苦味や香りがあって、出汁を和から洋へと変えてくれる。ちなみに、私が一番好きな薬味は茗荷である。茗荷は「花みょうが」とも呼ばれ、赤紫色のふっくらとしたものは開花前の蕾にあたるそうだ。シャキシャキとした歯ざわりが特徴で、夏ならば冷奴、素麺、サラダ、酢の物、煮物など、いろいろな料理にしてその爽やかな香味を味わう。最近はまっている糠漬けにもしたが、なかなか乙な味わいだった。冷え性やむくみの改善、消化促進、食欲減退のほか、体を適度に冷やす効果もあるから、熱中症や夏バテ予防にもいいという。ほぼ日本全域で栽培され、「花みょうが」が出回るのは6月~10月頃。葉の部分を柔らかく栽培した「みょうがたけ」は京都が産地で、こちらも薬味としても用いられる。先日、友人と「家ご飯を愉しもう」ということになり、「じき宮ざわ」の「明石鱧の薬膳鍋」を取り寄せてみた。鍋セットの蓋を開けて驚いたのは、芸術品のように食材が美しく盛り込まれていることだった。そして、なんと薬味や野菜も多いこと。茗荷、葱、生姜、オクラ、蓮根、椎茸...。オクラや蓮根は薬味というより具材といったほうがいいのかもしれないが、それぞれ違った食感や風味で鱧や鶏団子を引き立ててくれた。だしには、炒った古代米や陳皮、クコの実、棗、丁子、山椒など十三種の薬膳が入っていて、温めると体にじんわり効きそうな香りが立ち上がってくる。だが、その香りは薬膳といっても薬臭さはなく、優しい和の風味、旨味がしっかりと残っている。まずは、細く薄く切られた蓮根や牛蒡、葱を入れ、それらが柔らかくなったら、ふっくらした鱧をしゃぶしゃぶして味わう。出汁も具材もあまりに美味しくて、あっという間に〆のうどんに辿り着いた。出汁とともに味わううどんもまた、お腹をじんわり温め満たしてくれる。ところで、「じき宮ざわ」は、錦市場傍にある日本料理の割烹だ。茶懐石を基本としながらも創意に満ちた和食をいただける。かねてより「焼き胡麻豆腐」などおもたせ料理を販売していたが、ほかにも何か家庭で楽しめる料理をと考え、鱧やコチ、鮑などの薬膳鍋を考案したという。夏バテなど体が弱くなる時期だからこそ、食べたい料理だ。お酒の肴になる「晩酌セット」もあって、これがまたいい。自家製からすみ、水なす昆布締、鰆燻製、和牛きんぴら、タコの酢の物の5品がセットになっている。こんなつまみがあったら、いつまででも呑める。料理屋で食事をする時間はもちろん楽しく心弾むが、ときには家族や友人と家で食卓を囲むのもいい。■じき宮ざわ京都市中京区堺町四条上ル東側八百屋町553-1075-213-132612:00~13:45、18:00~20:00(いずれも最終入店)取り寄せはメールで info@jiki-miyazawa.com
中井シノブ
ライター
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BLOGうつわ知新
2020.08.25
重陽 ―菊の節句―
梶高明梶古美術7代目当主。京都・新門前にて古美術商を営む。1998年から朝日カルチャーセンターでの骨董講座の講師を担当し、人気を博す。現在、社団法人茶道裏千家淡交会講師、特定非営利活動法人日本料理アカデミー正会員,京都料理芽生会賛助会員。平成24年から25年の二年間、あまから手帖巻頭で「ニッポンのうつわ手引き」執筆など。全国の有名料理店と特別なうつわを使った茶会や食事会を数多く開催。重陽 ―菊の節句―この世には「陰」と「陽」の気があり、その組み合わせによって調和がはかられているという考え方が2000年以上前の春秋時代の中国に興りました。数字にも「陰陽」が存在し、偶数を「陰」、奇数を「陽」として扱ってきました。9月9日の重陽の節句はその文字が示す通り、1から9までの数のうちで一番大きい「陽」の数である9が重なる日です。そのため、「陽」の気が高まり過ぎることから不吉とされ、それを祓うための節句の儀式が執り行われていました。それがまるで祝い事であるかのように扱いが変わって、現代に至っているのです。ちょうど旧暦の9月9日は、菊が咲く季節でありますから、「重陽の節句」は「菊の節句」とも呼ばれるようになり、古くから菊の花びらを散らした酒を飲んだり、菊にきせ綿をして露を含ませ、その綿で顔や体をぬぐって、長寿や不老を願ったりもしました。今も、9月の「重陽の節句」の頃には、料理屋さんでもお客様の健康長寿を願って、菊を模したうつわを用いておられます。千家十職の樂家や永樂家の懐石のうつわだけでなく、菊の意匠は焼き物の中でも最もポピュラーなものと言ってよいでしょう。織部 キク平鉢北大路魯山人もまた、菊の意匠を用いたうつわを多数残しています。「織部 キク平鉢」は、魯山人が盛んに用いたつば型で菊の意匠を施した鉢です。つば型とはうつわの外周部分に帽子のつばのように平らな部分を有しているものをこう呼ぶのです。織部は本来、美濃地方の焼物でありますから、美濃地方特有の「もぐさ土」が用いられているのですが、魯山人は美濃の陶器を作る際、焼き上がった土味の中に赤みが浮かぶ信楽の土を用いることが多く、古典的なものと異なる味わいを演出しています。この鉢はたっぷりとしたサイズに作られていますが、つばがある分、料理を盛る面積に制限があり、縁ギリギリまで盛り付けることはできませんが、料理を盛り付けた後でもうつわの存在感を強く表しているように思います。また、中央部に菊の意匠があしらわれていますが、この菊もわずかにうつわの中心から外れた部分に置かれ、さらにうつわ自体にもわずかな歪みをもたせてあります。このことが私たちの印象に持たらす効果を、魯山人はよく理解していたらしく、彼の作品によく見受けられる手法です。織部釉も若干のムラを持たせるように掛けてあり、ここにも魯山人の企みが潜んでいるようです。織部釉 菊割文平向付同じ菊の意匠のうつわ「織部釉 菊割文平向付」からも、魯山人の企みを読み解くことが出来ます。全体に釉薬をかけた後、中心部分の釉を軽くふき取ってあります。釉薬を拭っても、陶器の表面には釉薬の成分(恐らくはアルカリ分)がわずかに残り、それが地肌を赤く発色させることを、彼は知っていて狙ったのでしょう。縁の花びらの部分にも、中心に近いところに釉薬が溜まり、緑の濃淡が面白い効果を演出しているようです。このように魯山人のうつわには、なぞかけのように彼の「企み」が散りばめられています。しかし、私たちはそれが彼の意図がはたらいたものではなく、自然にそのような景色が現れたのだと思い込み、数々の「企み」を気づかずに素通りして、それらのうつわを使ってしまいます。魯山人はうつわが作品であるとは考えていなかったのではないでしょうか。料理を盛ることによって完成される美しさや楽しさをいつも頭に描いていた人だったようです。ですから魯山人を陶芸家としてだけ評価するのでは不十分なのかもしれません。「立花図」大岡春卜最後に江戸中期の狩野派、「大岡春卜」(おおおかしゅんぼく・1680-1763)が描いた一双屏風をご紹介いたします。菊を様々な花生に生けた「立花図」と呼ばれる屏風です。この屏風はおそらく単純に絵を楽しむという目的だけで描かれたものではなく、様々な花生について、さらにその活け方について教えるための教科書でもあったのではないでしょうか。当時は、今のように画家が自分の好みの題材で作品を発表し、その中から私たちが選んで求めるのではなく、絵の依頼主が「客をもてなすため」「自分の権威を示すため」「祝い事に華を添えるため」「人に教えるための教材にするため」というような目的をもって製作依頼をしていたようです。ですからこの屏風はおそらく教育的な目的で描かれたものだと推測します。合戦図や物語図も同様の目的で描かれていたものが少なからずあると考えられます。当初はうつわ知新と銘をうって、月ごとに、うつわについてのお話を展開するようにご依頼を受け原稿を書き始めました。ところが書き進めるうちに、食事を楽しむ要素は食材やうつわだけではなく、食事をいただく部屋の設えや装飾までもがうつわと考えられるのではないかという結論に至り、文化全体をひらたくお話をさせていただきました。そのため話が多岐にわたり、文章量も多くなってしまいましたし、もしかすると、うつわ好きの人には、余計な話が多すぎるというご不満もあったかもしれません。日ごろから私の所蔵いたします品々を用いて茶会・食事会・勉強会など、様々な企画で皆さんと遊ばせていただいているため、この場においてもついつい同じようなスタイルで話を進めてしまいました。こうして12回、1年間の連載の仕事を終えたと思っておりましたところ、次は季節感でうつわを捉えるのではなく、やきものの種類ごとの話を連載して欲しいとお話をいただきました。この1年間の投稿をお読みくださった皆様や、連載にお力添えを賜った皆様へのご挨拶の文章を書き終えてからのオファーでした。締めくくりの文章をこのように書き直しながら、コロナ禍で、まだしばらく続く自粛生活のなか、皆様の暮らしに潤いをもたらすようなお話が続けられるよう、もう一度気持ちを新たにして努めてまいります。もう一年お付き合いをいただけますようお願いいたします。
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BLOG京の会長&社長めし
2020.08.12
株式会社美濃与の社長が通う店「瀘川(ろせん)」
■長瀬 文彦(ながせ ふみひこ)さん 1973年生まれ法政大学文学部卒1995年中沢乳業株式会社入社2000年株式会社美濃与入社2008年同社代表取締役社長に就任京菓子原材料専門店、本年で創業118年を迎え、昨年原材料のきな粉を自家製造する専用工場を建設。 最後の晩餐は、奥様が作るミラノ風カツレツ。女性ファンも多数。自慢の麻婆豆腐など、手間をかけて作る本格中華を気軽な雰囲気で「ここは本当に日常使いで、昼夜問わず頻繁に行くお店です。小さくて街の中華料理屋さん的な感じなのに、本格的な中華を出されます。中心街から離れたエリアでこれだけのクォリティがあるのか、と驚くぐらいおいしい。隠れた名店だと思います」そう長瀬さんが絶賛する西京区樫原の「瀘川」は、阪急桂駅から徒歩約20分。樫原山陰街道交差点から西へ少し進むと、白壁に赤いひさしのある店舗にたどり着く。2006年にオープンしたこちらは、24席ほどある1階と、宴会用の2階座敷というこぢんまりとした店内で、店主の深谷信人さんが腕を振るっている。長瀬さんが店を訪れたのは十数年前のことだという。「友人から、ここにおいしい中華の店があるよと紹介してもらいました。担々麺と麻婆豆腐が圧倒的に美味い。地元のほとんどの人が知っているお店だと思います。僕は一人で行くこともありますし、家族と行ったり、友人と行ったり、また会社の宴会をしたりと、オールマイティーに使っています」そんな長瀬さんの言葉に、「ありがとうございます。私一人で作っているため、あまり表に出てお客様にご挨拶することができないのですが、気に入って来てくださり、うれしいです」と深谷さん。 西宮の有名四川料理店などで腕を磨いた後、中国・上海のホテルで単身研修するなど経験を積んだ深谷さんは、店を開くにあたり、大衆中華と高級中華の中間を目指したという。「高級中華に慣れていないお客様にも、うちの店を足掛かりに本格的な中華を知ってもらえたら、中国料理のファンも増えるんじゃないかと思い、いろんな味を揃えるようにしています」(深谷さん)メニューはアラカルトが主体で、地元農家から仕入れる季節の中国野菜など、地場の食材も取り入れながら、よだれ鶏やバンバンジーなどの四川料理を中心に、北京、広東、上海、など本場の味を生かした多彩な品を提供。既存の調味料に手を加えたり、調味料を自作したりするなど、手間を惜しまず自分の求める味に仕立てているという。そんな深谷さんの料理を目当てに、近所のビジネスマン、OLから、家族連れ、企業経営者まで、多くの常連客が訪れる。 この店の麻婆豆腐と担々麺が大のお気に入りの長瀬さんだが、もともと辛い物はあまり好きではないと話す。「僕は辛いのはまったくダメで、ここで好きになったんです。汗は出るし、お水を飲まずにいられなかったのが、だんだんおいしくなって。この2つは行くといつも頼んでいますね」実は、作り手の深谷さんも辛い物は苦手。けれど、そういう自分だから、苦手な人でもおいしく食べられる四川料理が作れるのではないかと考えたそうだ。長瀬さんお薦めの「四川麻婆豆腐」1241円も、そんな思いのもと試行錯誤の末に作り出した自信作で、自家製を含む3種の豆板醤を用いた、独特の奥深い味わいが魅力だ。刺激的な辛さだが、単調ではなく、辛さと旨味が重層的に感じられておいしい。「山椒がたっぷりですごく辛いのですが、コクがあってやみつきになります」(長瀬さん)「長瀬社長のように、辛いのが苦手だけどこれだったら食べられる、と言っていただけるのが一番うれしいですね。うちの麻婆豆腐は辛いですけど、店を出る頃には辛さが引いていると、皆さんおっしゃいます」(深谷さん)麻婆豆腐と並ぶ人気の担々麺は、白胡麻、黒胡麻、カレーなどがあり、中でも長瀬さんお薦めは「特製黒胡麻担々麺」730円。伝統的なやり方に則り、黒胡麻を一から摺ってペーストにしたものを使用し、トッピングの肉みそももちろん手作りという手間をかけた一品。黒胡麻の風味豊かで濃厚な旨辛スープと細麺との絡みもよく、何度でも食べたくなる味わい。既製品の練り胡麻を使わないため、胃もたれすることもないという。「後を引く辛さで、胡麻の風味とコクが最高。スープを白ご飯にかけて食べてもおいしいです」(長瀬さん)中国料理の枠にとらわれず、いいと思ったものは取り入れているという深谷さん。杏仁豆腐やパンナコッタなどの手作りデザートも用意し、女性を中心に好評。杏仁の実から作る「正式杏仁豆腐」426円は、ここの杏仁豆腐だけは食べられるというファンも。バニラビーンズをふんだんに使った写真の「パンナコッタ」389円も、まろやかでコクのあるパンナコッタに、カラメルの爽やかな苦味がぴったりでお薦めだ。この地でおいしい料理を提供し続け、週末はほぼ満席状態という人気ぶり。そんな地元で愛されているこの店だからこそ大事にしていることがある。「場所柄、お客様は通りすがりではなく、『瀘川』に来たいと思って来てくださる方ばかり。私もスタッフも、お客様に笑顔で来て、笑顔で帰っていただけるようなお料理と接客を心がけています。かしこまらず、笑顔で過ごしていただいて、来て良かったと思って帰っていただきたい。だから、お料理は少し時間がかかっても一品一品手を抜かず、しっかり丁寧に作るようにしています」(深谷さん)予算は昼900円~、夜2000円程度。要予約のコースのほか、予約不要のプリフィクスコースも楽しめる。撮影 エディ・オオムラ 文 山本真由美■瀘川京都市西京区樫原平田町14-30075- 757-4504営業時間 11時30分~14時30分(LO14時)、17時30分~21時30分(LO21時)定休日 水、月1回連休ありhttp://rosen.main.jp/※状況によって営業時間の変更あり。詳しくはお問い合わせください。
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