食知新ブログ
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BLOG京の会長&社長めし
2020.07.13
株式会社野村佃煮の社長が通う店「竹香(たけか)」
■野村 啓介(のむら けいすけ)さん 1969年9月生まれ。大学卒業後、ケンコーマヨネーズ株式会社に入社、その後株式会社野村佃煮へ入社。同社専務取締役、2014年に同社代表取締役社長に就任。最後の晩餐は、自分で漬けた梅干し入りの海苔巻きおにぎりと、ゆで玉子。幅広い世代から愛される、祇園育ちのはんなりやさしい味わいの広東料理仕事関係での外食が多いという野村さんがおすすめに挙げたのは、20年来のなじみの店という「竹香」。祇園・新橋通の橋のたもとにあり、芸舞妓から地元の家族連れ、観光客など、さまざまな人に長く親しまれている。京都には、「京風中華」と呼ばれるような独自の中華のスタイルがあるが、その先駆けともいえる一軒だ。「昔から会合などでよく行かせてもらっています。中華料理ですが、ニンニクとか八角とかは入っておらず、味もあっさりとしていてしつこくないんです。僕は本格的な中華らしい中華も好きですが、ここの中華料理もそれとは違ったおいしさがあります」(野村さん)創業は昭和41年。四条河原町の老舗広東料理店「芙蓉園」で修業した初代が、現在の場所で始めた。「まだ町場の中華料理屋が少なかった時代。私の祖母が祇園甲部のお茶の先生をしていて、芸舞妓さんたちが皆、食べに来てくれていましたし、この花街に根付くのも早かったようです」と、2代目で女将の永田由美子さん。両親が始めた店を引き継ぎ、料理長の夫・真司さんらと共に、その味を守り続けている。創業当時、お客の多くは祇園で夜の仕事をしている人々。「竹香」の料理のスタイルは、彼らのリクエストに応えるかたちで作られていったという。「お仕事前に来られるお客様から、においの強い野菜は使わないでほしい、香辛料を控えてほしいなど、いろんな注文があって。最初、父は『こんなんで中華料理はできひん』と思ったそうですが、ここで営業するのだったらと思い直し、それに合わせた料理を考えて作っていったんです」(由美子さん)1階はテーブルや小上がりの席で、アラカルト中心。2階は56名までの宴会も可能な座敷で、コース料理を楽しめる。贔屓客には企業経営者など地元の旦那衆も多い。「昔からJC(青年会議所)やロータリークラブなどのご利用が多く、会社のご接待や商談などに使われることもあります。野村さんは、JCの会合などでよくお見えになりますね。その時は宴会の対応があるのでゆっくりお話しはできませんが、プライベートでお友達と来られる時は、よくお互いの新商品の感想などを言い合ったりしています」(由美子さん)上品でやさしい味わいの竹香の料理は、1歳から90代まで幅広い年齢層に親しまれている。「離乳食が終わったぐらいの赤ちゃんが、ふかひれスープをご飯にかけて食べたりします。またご高齢の方も『ここだったら、お腹一杯食べても胃がもたれないから安心して来られる』と言ってくださいます」と、由美子さん。「皮のふわっとした柔らかい食感がいいし、素材の味がしっかり感じられて、ものすごくおいしい」と、揚げ物好きの野村さんが絶賛する「春巻き」1人前800円(写真は2人前)は、芸舞妓にも好評の看板メニュー。卵と強力粉を使った自家製の皮は、外側がパリッと、中はふっくらとした食感が絶妙で、ぎっしり詰まった豚肉、筍、椎茸、海老、カニなど野菜多めの具材の味もバランスがいい。サイズも小ぶりで、いくらでも食べてしまえる。「すぶた」1人前900円も、創業以来の代表的な一品。「あんにすごく透明感があって、さらっとしている。酸味も強くなくておいしいです」と、野村さん。小さく刻み、衣をつけて揚げた豚もも肉、カリフラワー、パイナップルのみというシンプルさ。まろやかな甘さのあんに肉の旨味が際立つ。この酢豚と春巻きは特にファンが多く、コースに入っていないとお客からクレームが来ることもあったそうだ。一品ではほかに蒸し鶏やふかひれスープなども人気だという。ガラナエキスを使ったすっきりとした甘さの「ダイヤモンドガラナ(ガラナ)」や「ダイヤレモン(サイダー)」などの珍しいソフトドリンクも、隠れた人気の品。「ガラナはビールのような色をしていて、昔はビールの代用品として飲まれる方もいらっしゃいました。『子供の頃からここでこれを飲むのが楽しみなんや』というお客様もおられます」(由美子さん) 「おもてなしについては、企業の方であれば、とにかく商談がうまくいくように邪魔をせず、緊張されている場合はその場の雰囲気を和らげるように努めています。ご家族で来られた時でも、ご自宅と同じようにくつろいだ気持ちで召し上がっていただけたらと思ってやっています」と、由美子さん。そうした温かみのある雰囲気もあってか、ここでは誕生日や結婚記念日など家族の記念日で使われることも多いという。「そのお家のお嬢様が成長されて、彼氏を連れてこられることもよくあります。『両親に初めて彼を紹介するので背中を押してください』と言われたりします(笑)」変わらない味と雰囲気と共に、ここでの食事が大切な思い出として刻まれているようだ。「ここはおいしくて雰囲気もいいし、サービスも申し分ない。値段もそれほど高くないのですごく使いやすいお店です。僕はあまり家族で外食をしないのですが、ここなら家族を連れてきてもいいなと思いますし、他府県からお客さんが来られた時にも使っていきたいですね」(野村さん)予算はアラカルトで大体3000円から。コースなら食べて飲んで6000円くらいから楽しめる。撮影 エディ・オオムラ 文 山本真由美■竹香京都市東山区橋本町390075- 561-1209営業時間 17時~21時(LO20時20分)定休日 火https://gion-takeka.com/
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BLOG料理人がオフに通う店
2020.07.13
「料理処はな」-「Osteria CONACINETTA」坪内拓さんが通う店
「Osteria CONACINETTA」オーナーシェフ坪内拓さん京都のイタリア料理「ボッカ・デルヴィーノ」で修業したのち、イタリアのプーリア州に渡り、マルティーナ・フランカという町の一軒のオステリアで腕を磨いた坪内さん。修業先は小さな家族経営の店で、店主の個性がよく打ち出されており、日本と同じく、旬を大切にしており、素朴でいて奥行きがある食文化に魅了されたという。自身の店では、プーリアの郷土色を大切にパスタやパン、タラッリなどの粉物をはじめ、生ハムやサラミ類もできる限り、手作りを守る。そこに京都の農家から直接買い入れる野菜などを用いて、自分自身の味として打ち出し、多くの人を魅了している。大きな窓から外の景色を楽しめる広々としたナチュラルな雰囲気の店内。 川端冷泉通下る、ビルの二階にある「料理処 はな」は、鴨川に向かって全面、ガラス窓が広がり、春夏秋冬の季節の移ろいを楽しめる。特に夕暮れから空の色や町の風景が変わりゆく様子はとても美しい。 奥のキッチンからは調理中の芳しい香りが漂ってきて、ゆったりと配置されたテーブル席に座ると、ほっとくつろげる。「かれこれ10年くらい前でしょうか。近くに住んでいて、ある夜たまたま、こちらを訪れました。今はメニューにはないのですが、3品を盛り合せにした突出しが出て、一品ごとの料理への手のかけように驚いたのを記憶しています。店内の落ち着いた雰囲気や、料理の丁寧な仕立て、応対など店主の青山夫妻のホスピタリティを心地よく感じる事が出来ます」(坪内さん) 店主の青山孝さんは、大学卒業後、法曹人を志していたが、30歳を契機に料理の世界に入った。調理師学校で一から学び、京都の老舗、「京料理 道楽」で修業したのち、大阪・天満にて地鶏料理の店、「地鶏焼 でんえん」を開店。3年後に、当時、イタリア料理店で働いていて、のちに妻となる美由紀さんとともに、「料理処 はな」をオープンさせた。 夫婦で茶の湯の稽古に通い、茶道にも関心が高い青山さんは、桃山文化の茶の湯や茶道具に惹かれ、料理を大皿に盛って取り分ける華やかでスケールの大きな食文化に興味を持ったという。さらには魯山人の食への意識、器との取り合わせなど当意即妙な芸術観や料理スタイルに関心が広がり、当時の調理法などを深く掘り下げて調べたそうだ。「もちろん魯山人の芸術観にはまだまだ及びませんが、意識の底にいつもその世界観を描いて、料理に向き合いたいと考えています」(青山さん)丁寧に生けられた端正な花の姿に心癒される。「僕のおすすめは、"知覧地鶏の炭火あぶり 柚子胡椒ポンズで"と"地鶏粥"。ここに来たら必ず注文します」(坪内さん)「大阪・天満で店をやっている時は、土地柄もあり、庶民的な料理や価格でお客様に贔屓にしていただいていました。この時、様々な土地を巡って探し出した知覧鶏やエゾ鹿などを使って、炭火焼の最高の調理法を研究し、肉という素材の面白さに目覚めました。この店でも知覧鶏の炭火焼や地鶏粥などの人気料理は引き継いでいます」(青山さん)"知覧地鶏の炭火あぶり 柚子胡椒ポンズで"は、旨味とコクが濃厚な知覧地鶏のむね肉ともも肉を炭火焼にした一皿。単なる炭火焼ではなく、天満時代に探究した独特の炭火焼の技術を余すところなく生かしている。 肉の美味しさは究極、脂の美味しさでもあると考える青山さんは、肉とは別に脂の塊も仕入れる。その脂を肉の周りに置いて焼き始め、脂が火種に溶け落ちて、じゅわーと上がってくる煙で肉を包み込み、脂の旨味をしっかりとまとわせて、仕上げていく。肉はスモーキーな香に包まれて、外はこんがり、中はしっとりと理想的な焼き上がりとなる。運ばれてくる瞬間からスモーキーな香気が鼻腔をくすぐる。自家製のポン酢と柚子胡椒を合わせたタレとともにいただく「知覧鶏炭火あぶり 柚子胡椒ポンズで」680円(価格は全て税別)。ソウメン瓜の包み揚げ1000円。夏の懐石料理でみられる「冬瓜の包み揚げ」をソウメン瓜でジ。オクラ、しいたけ、えび、うなぎの実山椒煮をソウメン瓜で包んで、からりと揚げた一品。チェリーやラズベリーの香りと濃いロゼ色が美しいロマルドグレコ ネグロアマーロ ロザートとペアリング。美由紀さんご自慢の自家製リコッタチーズを詰めたトルテッリ 柊野農園のフレッシュトマトソース 1400円。手打ちのトルテッリと濃厚な完熟トマトのソースの組み合わせ。よく冷えたカンパーニャ州のファランギーナとともに。「こちらのお店には、美味しい和食が食べたいなと言う時に、妻と行く事が多いですね。何を食べても、仕立てのクオリティーの高く、それでいてとてもリーズナブルな料金で、あれこれ注文してしまって、ついつい品数が多くなってしまします。今は子連れでお邪魔していますが、1歳5ヶ月の息子もバクバク食べてました(笑)」(坪内さん)定番の〆膳「地鶏粥」1000円。知覧鶏のガラを3日間炊いた濃厚なガラスープを漉して美味いエキスだけを抽出。このスープを使って生の米から炊いた地鶏粥は米の一粒ひと粒に鶏の旨味とコクがしっかり染み込んでいる。自家製のぬか漬けと一緒にどうぞ。 メニューは、仕入れによってほぼ日替わり。前菜、お造り、サラダ、揚げ、一品、炭火焼、パスタ、デザートなど、和食とイタリアンが融合した料理構成となっている。パスタやサラダなどは、イタリアン出身の妻の美由紀さんが腕をふるう。また、ソムリエでもある美由紀さんは、料理とワインのペアリングも提案してくれる。「イタリアを中心に70〜80種のワインを揃えています。おすすめの"グラスセット3種類"なら、スプマンテ、白、赤、ロゼからお好きなワインを選んでいただけますし、ペアリングをお任せいただければ、料理に合わせてチョイスさせていただきますよ」(美由紀さん)美由紀さんがセレクトしたワインの数々。料理とのペアリングを楽しみたい。「炭火焼をはじめ、シンプルな調理法を貫きながら、自分のモットーである自然界の素材の美しさや形を崩さず、できるだけ器の中にその味わいと美しさを表現すること。魯山人のように素材に対して、いかに当意即妙に自分が反応できるかをこれからも探っていきたいと思っています」 センスが光る料理の数々とワイン、窓いっぱいに広がる鴨川沿いの景色の移り変わりを楽しみつつ、息のあった夫婦のもてなしにゆっくりと浸ってみてはいかがだろう。撮影/竹中稔彦 取材・文/ 郡 麻江■料理処 はな京都市左京区川端二条上ル新生洲町104番地リヴァク鴨川Ⅱ 2F075-751-575717:00~22:30(LO)日曜定休(月祝の場合は日曜営業、月祝休)
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BLOGうつわ知新
2020.06.30
祇園祭
梶高明梶古美術7代目当主。京都・新門前にて古美術商を営む。1998年から朝日カルチャーセンターでの骨董講座の講師を担当し、人気を博す。現在、社団法人茶道裏千家淡交会講師、特定非営利活動法人日本料理アカデミー正会員,京都料理芽生会賛助会員。平成24年から25年の二年間、あまから手帖巻頭で「ニッポンのうつわ手引き」執筆など。全国の有名料理店と特別なうつわを使った茶会や食事会を数多く開催。祇園祭 京都に住まう者にとって、7月といえばやはり祇園祭の月でしょう。祇園祭においては、17日と24日の山鉾巡行はもちろん、実は7月初旬からほぼ一カ月の期間の中で様々な行事が執り行われています。つまり、祇園祭は7月をまるまる使った、とても盛大なお祭りなのです。 祇園祭といえば京都独特の祭りと思われがちですが、日本各地にも同様の鉾や山車(だし)を曳く祭りが残っていますし、以前、ネパールを旅していてこの祇園祭とそっくりの鉾が曳かれるのを見たこともあります。 祇園祭の山鉾が世界中から取り寄せられた工芸品や宝物で飾られることからも、国内だけでなく、やはり広く世界中からの影響を受けているものと思われます。 さて、今回ご紹介する二つの染付の鉢は、どちらも同じ図柄を有しており、その図柄はまさに、祇園祭のシンボル的なお飾りの「祇園守(ぎおんまもり)」のような紋様です。ですから私は7月にこの鉢をよく使わせてもらいます。 ひとつは古染付(こそめつけ)とよばれるもので、約400年前の明朝末期に中国の景徳鎮(けいとくちん)で作られた「古染付祇園守図兜鉢(こそめつけぎおんまもりずかぶとばち)」です。 もうひとつは、ほぼ同時代に景徳鎮より400㎞ほど南下した場所にある漳州窯(しょうしゅうよう)で焼かれ、別名、汕頭焼(すわとうやき)と呼ばれる「呉須祇園守図兜鉢(ごすぎおんまもりずかぶとばち)」です。この漳州窯で焼かれた品を呉須・呉州・昂子と表記し、いずれも「ごす」と読ませています。染付の染料の「呉須」とまぎらわしいので注意してください。 いずれにせよ、古染付と漳州窯の呉須の二種類の焼物は、海を渡った明の国に日本人が発注し、1620年から1640年頃にもたらされたものと考えられています。景徳鎮は現在においても焼き物の一大産地です。時をさかのぼり、明の時代においては、国家が管理する官窯(かんよう)として発達を遂げていました。しかし、政治体制の乱れにより、労働に見合った保護が受けられなくなった職人たちは、同じ時期に発生した、貨幣を使って物を売買する経済習慣に乗り切れず、国家からの仕事だけでは暮らしが立ち行かなくっていきます。やがて、職人たちは官窯を離れ、自分達で国の政策に反した陶磁器を生産して、独自のルートで流通をさせていくことになります。 このことは、国家によって認可されていない交易を発展させ、景徳鎮の人たちに貨幣的な富をもたらしました。それと同時に、多くの陶磁器を、東インド会社を通じて西洋へ、そして日本へももたらしました。そして、その中で形や文様を指定しての発注が行われた結果、この祇園守に似たの図柄が出来上がったのだろうと想像します。こうして説明してしまうと、産地も違うのに絵柄が揃っているということは、まるで祇園祭に馴染みがある京都の人のための限定的なうつわのように思えてきますが、そうではなく、この紋様は数ある吉祥紋のひとつと考えるべきでしょう。このめでたい図柄がたまたま産地の異なる漳州窯へも発注され、産地の異なる同じ図柄の鉢が祇園祭に適したものとして、ここに揃ったものだと思います。 この二つを比較すると、それぞれの焼物の特徴が箇条書きできるくらいにはっきりしています。古染付は薄手で、絵の描かれていない余白部分が白く、呉須(コバルト)の発色も明るい。縁には虫喰いと呼ばれる、欠けたようにも見える釉薬の剥がれが見受けられます。高台の畳付(たたみつき)部分には釉薬が掛からず、そこから見える土色は白く、高台周辺には少量の砂の付着が見られます。高台内には高台を削り出すときに放射線状に残った鉋 (かんな)跡が残されていることが多いのも特徴と言えるでしょう。 一方の漳州窯は厚手で、白い余白部分も曇天の空のようにくすんだ色をしており、呉須の色は黒く沈んでいます。虫喰いはないものの、裏面の高台内外にはべっとりと多くの砂が付着しており、釉薬の切れ目から覗く生地は白とは程遠い濁った色をしていますの見える部分から見える粗雑なうつわの印象が強く感じられます。呉須は生地の色が美しくないことを隠す目的なのか、分厚く釉薬がかけられていて、古染付の高台内に見られた鉋跡は見ることができません。 景徳鎮と漳州窯は、400年前の明ではライバル的な産地でありながら、景徳鎮の方が高い評価を得ていたのか、染付、色絵、青磁に関わらずより広く世界に輸出をされていたようです。 それに対して、なんとか巻き返しを図るべく、漳州窯でもこの二つの鉢の対比にみられるような、景徳鎮をまねた形や図柄を生産して世に送り出したようです。しかし、景徳鎮ほどの評価を得ることはなく、特に西洋社会においては下手な焼物と評価されていたようです。日本においては逆にその粗削りな表現が面白いと呉須赤絵(ごすあかえ)は特に好まれました。 この二つにみられるような兜形の器形は、見込みの部分が平らで広く確保できているために、たっぷりの料理やお菓子も盛りやすく、それでいて狭い茶席でも取り回しが容易です。そんな絶妙なサイズ感が、日本の茶人たちに重宝されたようです。 本来、利休の趣向の侘茶では、地味な土ものの茶器が好まれ、白や藍さらには色絵磁器のような華やかなうつわは用いられることはありませんでした。しかし利休のあとを引き継いだ古田織部をはじめとする大名茶人たちは、利休の美意識から一歩踏み出して、新たな道具も取り込んで自分たちの世界を表現しようとしました。つまり茶の湯の世界でも大名であることの権力を誇示し、自分の美意識を鮮烈にアピールしたい欲求が、明からもたらされたうつわなども広く取り込む結果を導いたのだろうと思うのです。 祇園祭のイメージで使えるうつわは他にもあります。ご紹介するのは「棗(なつめ)」と呼ばれる抹茶を入れておくための漆のうつわで、「時代片輪車図蒔絵平棗(じだいかたわくるまずまきえひらなつめ)」です。「時代」という表現は作者が不詳の古作に対して使う表現です。「片輪車」は現在では誤解を招きやすい表現のため好まれず、「波車(なみぐるま)」あるいは「車洗(くるまあらい)」と置き換えられているものも多く見られます。 棗の蓋裏には祇園祭を執り行う八坂神社の紋の一つである、三つ巴の紋が散りばめられています。祇園祭のために作られた棗というわけではないと思われますが、表面に施された車輪が祇園祭の鉾を連想させると共に、三つ巴紋が八坂神社にご縁がある物として、この時期に用いたものです。 さて、ここで一つ知っておいていただきたいことがあります。お茶会の道具建てを考えるときには「なぜ今回これを用いたのか」という理由を明確にしておかなければなりません。お茶会の中でその理由を参加者に披露し、それをご馳走として楽しむ習慣があるからです。食事の中で旬の食材を用いて、その産地にまで話がおよび、食事のシーンを盛り上げるのとよく似ています。うつわにおいても、なぜ今日このうつわを使ったのかという理由は、食事のご馳走のひとつになり得るものだと思います。ですので、うつわ選びにも、茶会の道具立て同様、細心の注意を払えればより楽しい演出ができるかな、と思います。 最後に、私が祇園祭の頃にぜひ使ってみたい菓子器をご紹介します。京都で銀製品を製造する老舗、竹影堂の銀の菓子器です。銀を使って笹の皮を表現したものですが、その形状から粽(ちまき)などの長物にちょうど使いやすいものになっています。 祇園祭の時期、粽は好んで食べられるのですが、粽の起源は中国の紀元前の楚(そ)の時代の故事に由来すると言われます。楚の国の懐王(かいおう)に仕えた重鎮に屈原(くつげん)という者がいました。楚は常に大国・秦からの侵略に怯える立場にありましたが、ある時、秦の調略によって、和平協定を結ぶ話が持ち上がりました。多くの家臣はそれに賛成をしたのですが、屈原はひとり秦の策略を見抜き、断固としてそれに反対をしました。そのため、屈原は地方に左遷されてしまい、都落ちして赴任先に赴く途中、楚の都の陥落を耳にします。これを悲観した屈原は入水自殺を図り、湖の底に沈んでしまいました。民衆からの信望も厚かった屈原に対して、人々は魚に食い荒らされる屈原の屍を救いたいという願いから、湖に食べ物を投げ入れます。 しかし、直に投げ入れたのでは湖面にいる魚にばかり食べられてしまい、湖の底に眠る屈原のところまで届かないことに気が付き、笹にくるんで投げ入れる習慣が始まった。それが粽の始まりと言われています。 また、応仁の乱により一面の焼け野原と化した京の都において、天皇家は困窮を極めた時期があったと言われます。その窮状を見かねた吉野の葛族(くずぞく)が自分たちの主食としている葛を献上しました。その葛の調製を承ったのが、川端道喜(かわばたどうき)でした。 以降、川端道喜の水仙粽は明治初年まで皇室に献上され続け、現在の日本の粽の形を作りました。粽は笹でくるまれていますが、本来は茅(ちがや)を用いた時代もあり、「夏越の祓(なごしのはらえ)」の頃には、神前に茅で編んだ大きな輪「茅の輪(ちのわ)」が設置され、人々はそれをくぐることによって、半年の穢れを祓い、夏の疫病や災厄などから免れることを祈願しています。 このような様々なストーリーを経て、笹や茅を使ったものは夏や祇園祭を表す象徴的なものへと考えられるようになりました。 祇園祭においても、鉾町でお守りとしての粽が売られたり、鉾の上から粽が撒かれたり、また祇園祭に近い時期の茶会には粽をいただく習慣が出来たのです。 しめくくりとして。 このように京都では祇園祭と言う一大行事が茶会の道具に、食事のうつわや食材にまで影響を及ぼし、また私たちもそれぞれに趣向を凝らすことによって楽しみ、梅雨から盛夏にかけての厳しい気候を乗り切ってきたわけです。
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BLOG京のほっこり菜時記
2020.06.25
「白ずいき」
ずいきは、芋がらともよばれ、八ツ頭や唐の芋、赤芽芋など里芋の葉柄を栽培したもの。表面の皮色によって赤・白・青(緑)の三種類に分けられる。赤ずいきは主に八頭の葉がらで、柔らかなピンク色。青ずいき(緑)は蓮芋の葉がらで、切り口に穴が開いて蓮根に似ていることからハス芋と呼ばれる。そして、白ずいき(白ダツ)。京都の料理屋で一番よく見かけるのが、この白ずいきだ。白ずいきは海老芋や里芋などの葉がらで、日が当たらないよう軟白栽培する。えぐみが無くて淡泊な味付けに適しているから、和え物、酢の物、煮物などにしてシャキシャキとした食感と淡麗な味を楽しむのだ。京都の家庭では、ずいきの炊いたんや酢の物がよく食べられるが、母も、夏になるとずいきと油揚げの煮物をよく作ってくれた。おそらく赤ずいきか青ずいきだったのだと思う。奈良の日本料理店「白(つくも)」さんでいただいた、「白ずいきの一品」奈良の伝統野菜「軟白ずいき」などは、丈の低いうちから新聞紙等で包んで光を遮り栽培する手間のかかるもの。その分、ほかのずいきに比べて高級だから、なかなか一般のスーパーなどには出回らないのだ。淡泊でカロリーも低そうな白ずいきは、栄養価的にはどうなのだろう?調べてみると、思った通りというか、カロリーは100gで12kcalとわずか。そのほとんどは水分なのだが、次に多いのが不溶性食物繊維。そう、腸を調えてくれる食物繊維が豊富なのだ。免疫力をアップするには、腸を調えることが一番ともいわれているから、夏バテなどで体が弱りそうな時にこそ食べたい食材なのである!ちなみに、京都の北野天満宮で催される「ずいき祭」をみなさんは、ご存知だろうか?1年の五穀豊穣を感謝する祭で神前に新穀、野菜、果実などを供えたのが始まりだという。このお祭りは毎年10月に執り行われるが、白ずいきが出回るのは6月~9月の夏の間なのだ。さて、そんな栄養効果もある白ずいきを、どんな料理で食べたいかと問われると、私は迷わず「胡麻和え」と答えるだろう。もちろん、白ずいき自体をちゃんと食べるようになったのは、大人になってから。というか、家のおかずではなく日本料理として美味しいと思うようになったのは、自分で料理屋に行けるようになってから。そんななかで、大好物になったのが、この「胡麻和え」なのだ。とりわけ、「食堂おがわ」の「白ずいきの胡麻和え」は、いつ食べても、何度食べても感動のある一品。はんなりとしながらもシャクッとした白ずいきに濃厚なクリームのような胡麻ペーストがとろりとかかっている。胡麻ペーストのほのかな甘みや香ばしい風味がからまる贅沢な味。家庭では決して食べられない極上料理だ。「食堂おがわ」は、言わずと知れた京都の人気店。予約がとりづらいと言われる店でもある。私も、運よく予約がとれたなら、「あれも食べよう、これも食べよう」と思い浮かべ、その日が来るのを心待ちにしてしまう。だから、必ず注文する料理も多い。とりの唐揚げ、だし巻、夏なら毛蟹、鱧のつくり、鯖寿司...。壁にかかった黒板メニューも見るが、行く前から頭の中に食べたいものをたくさんメモっているから、迷うこともほとんどない。あとは、何人でいくか、誰といくかなのだが...。この店なら全く知らない人と行っても絶対に愉しめるだろうと思ってしまう。料理が目の前でできあがっていくライブ感はもちろんのこと、心弾む料理の味やコストパフォーマンスの高さなど、ここだけでしか味わえない幸福感が満ちる稀少な一軒なのである。■食堂おがわ京都市下京区西木屋町四条下る船頭町204 1F17:30~23:30(L.O.22:30)定休日 水曜、月最後の火曜
中井シノブ
ライター
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BLOG京の会長&社長めし
2020.06.19
株式会社俵屋吉富の社長が通う店「太陽カレー」
■石原 義清(いしはら よしきよ)さん 1964年6月29日生まれ。京都府出身。同志社大学文学部卒。宝暦5年(1755)創業の京菓子司「俵屋吉富」の9代目当主で、2004年7月に代表取締役社長就任。(一財)ギルドハウス京菓子 理事、京菓子協同組合 副理事長、茶道裏千家淡交会 京都西支部 副支部長なども務める。最後の晩餐は、奥様の手料理の出汁巻き。「俵屋吉富 烏丸店」北隣にある「京菓子資料館」では、2020年6月18日~9月15日の期間、「世界のお菓子展」を開催。京菓子をはじめ日本の菓子に関するさまざまな資料や道具等を展示するほか、パネルなどで世界各国の郷土菓子についても紹介する。https://kyogashi.co.jp/shiryoukan/毎日通えるリーズナブルさもうれしい。ワイン好きにもお薦めの極ウマ欧風カレー日本の国民食ともいえるカレー。京都のカレー好きから多くの支持を集める一軒に、石原さんお薦めの「太陽カレー」がある。ソムリエの背戸昭宏さんが作る欧風カレーが大評判で、開店前から大勢が列を作る。 フランスの田舎の小さなレストランをイメージした店内は、白が基調のシンプルな内装にフランスの音楽が流れるおしゃれな雰囲気だ。石原さんはオーナーの背戸さんとは35年来の親友同士で、年5、6回訪れるという。「20歳の頃からのつきあいで、ワインブームの前から一緒にワインパーティーをして楽しんだりしていました。彼はワインを使ってカレーを作っているんですが、ワインのふくよかさが上手にカレーに生かされていて、おいしい。ワイン好きも納得の味だと思います。サービスも奥さんの対応が素晴らしいし、気に入らないのは30分並ばないと食べられないことぐらい(笑)。1人でも家族4人でも行きますが、家族からはいつも連れて行けと言われます」(石原さん)「石原君はもともとローターアクトクラブの仲間で、小学校の後輩でもあり、家族ぐるみで仲良くさせてもらっています。本当においしいものを毎日食べている社長さんが、うちのカレーをおいしいと言って食べに来てくれることが、うれしいですね」(背戸さん)「昔ながらの欧風カレーを今風にして、毎日でも食べてもらえて、ワインとも合うカレーを目指しました」そう話す背戸さんは、大手アパレルメーカー勤務を経て家業のブティックを営んでいたが、料理の仕事をしたいと、創作居酒屋「ばくばく」を開業。その後、15年続けた居酒屋をやめ、2013年11月にカレー専門店「太陽カレー」を始めた。「ワインとカレーという自分が好きな2つをくっつけて、お客様に喜ばれるものができないか、と思ったのがそもそものスタート。ワインには甘味や酸味、苦味など、いろいろな味のバランスがあり、ブルゴーニュワインと同じ味のバランスをカレーに応用できれば、2つがマリアージュしたかたちで食べてもらえると考えたんです」フレンチのソースの感覚でルーを作っているという背戸さん。赤ワインを使ったルーは、追い足してきたものを2日間寝かせ、当日の朝から4、5時間煮込むそうだ。「ルーもその日の天気や季節によって酸味や甘味などを調整しています」 米は「八代目儀兵衛」がカレー用に吟味した大粒の島根産きぬむすめ。白ワインとオリーブオイルを加え、パラパラになるよう固めに炊いている。ご飯一粒一粒にルーがまとわりついて、味が均一になるという。メニューはプレーンな「太陽カレー」550円(税込)を基本に、有機野菜、三元豚ロースなどをトッピングしたカレーが揃い、好みのカレーに追加のトッピング、ご飯の量、辛さなどを選ぶシステム。背戸さんは、女性には野菜を多めにしたり、お年寄りには食べやすい具材を増やしたりと、お客一人ひとりの顔を見ながら提供しているという。高級洋食店にも負けないクオリティながら、多くが1000円以下ということに驚くが、「安くておいしいのが毎日食べてもらうのには一番なので」と背戸さん。石原さんの定番は「太陽カレー」をご飯少なめ、ルー多めで。(写真:ご飯小盛はミニサラダ付き)「最初に甘味が来るけど、あとに辛さが残ってどんどん食べられる。やみつきになるカレーです」(石原さん)淡路島産玉ねぎなど野菜がベースのルーは、豊かなコクに甘味や辛味、酸味などがバランスよく感じられ、何とも美味。ルーをまとったご飯も食べ応え十分だ。もう一つのお薦め、彩り美しい「季節の野菜カレー」700円。大原の契約農家の有機野菜を使い、揚げる、蒸す、焼くなど、素材ごとに調理。どの野菜も甘味が濃厚で力強い。「大原の野菜がおいしい。家内が喜んで食べています」(石原さん)この店をオープンする前、背戸さんにとって忘れられない出来事があったという。「2012年に、石原君の誘いで『シモン・ビーズ』というブルゴーニュワインの生産者のところに滞在し、ブドウの収穫をさせてもらったんです。後日、その生産者の方々がイベントで来日され、うちの居酒屋へお見えになられて。その時に生産されたワインと一緒にカレーを試食してもらい、ワインと合うか尋ねたんですね。そしたら、これは絶対いけると。フランスの方においしいと言ってもらえたことは自信になりました。イベントも石原君が関わったもので、彼には感謝しています」店内には、その時に生産者に書いてもらった宝物のサインやブルゴーニュでの記念写真などが大切に飾られている。カレーに使用する南仏産ピノ・ノワールとシャルドネをグラスワインで提供(各500円)。「シモン・ビーズ」がその時々のスペシャルワインで登場することも。「お客様は高校生から高齢の方まで幅広く、年齢に応じた接客をしています」と、妻の優美さん。優美さんやスタッフの笑顔や温かく丁寧なサービスも人気の理由だろう。「常に仕事を楽しみながらおいしいものを提供することを大事にしています。そうすることで、お客様にも楽しい雰囲気を感じてもらえると思うので」と背戸さん。ワインへの愛とお客への細やかな心配りが詰まったカレーで、これからも多くのカレーファンを魅了していく。「ここの魅力は、やっぱりワインをカレーで表現しているところと、背戸君の人柄。それは太陽カレーにしかないものですね」(石原さん)撮影 エディ・オオムラ 文 山本真由美■太陽カレー京都市中京区西大路四条東入ル ボイスビル2F075-311-0011営業時間 11時~14時(LO14時)※売り切れ次第終了定休日 日、祝、不定休あり(Facebookでお知らせ)https://www.facebook.com/taiyo.curry/
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BLOG割烹知新〜奇想の一皿〜
2020.06.19
のぐち 継「五島のカルボナーラ」
奇想の一皿「五島のカルボナーラ」長崎県は五島列島出身。当代きっての料理人が登場し、一世を風靡した人気番組「料理の鉄人」に夢中になり、やがて料理の道を志すようになった少年時代の吉田さん。高校を卒業後、福岡の寿司割烹を皮切りに、京都のホテルや東京銀座の名店などで研鑽を積み、縁あって再び京都へ。2019年秋よりミシュラン星付きの人気割烹「京天神 野口」の姉妹店「のぐち 継」にて腕を振るう。発想秘話僕が育った五島列島は、すばらしい食材の宝庫なんです。対馬海流に乗ってさまざまな魚が回遊し、東シナ海に広がる世界有数の大陸棚では身の締まったうま味の強い天然魚がたくさん獲れます。そんな五島の食材を使って何か作れないかと思い、地元名物の「地獄炊き(※)」をヒントに考案したのが、これから作る冷たいカルボナーラです。※地獄炊き:鉄鍋で茹でたあつあつの五島うどんを生醤油と生卵、薬味で食べる五島の郷土料理使用する麺は、地元で僕の友人が作っている「浜崎製麺所」製の五島手延べうどん。茹でた後、冷たい水で締めると生パスタのような食感になります。ソースになる鯛の白子、パンチェッタ代わりの鯛、そして五島うどんと、今回使う材料はすべて五島の食材です。チーズや肉の代わりに白子や鯛の昆布締めを用いて、どれだけカルボナーラに近づけるか。それでは早速作っていきましょう。カルボナーラでは一般的にパルミジャーノなどのチーズを使いますが、今回はチーズの代わりに鯛の白子の味噌漬を用意しました。西京味噌に砂糖と酒を加えた漬け地に、白子を二日間ぐらい漬け込んだものです。しっかり味が入っているので、軽く焼いてそのまま食べてもおいしいですよ。まずは白子の味噌漬を裏ごしします。そのままでは少し固いので、鯛のアラからとったスープで伸ばします。アラを煮出す場合、臭みを消すためネギや生姜を使うことが多いのですが、このスープは鯛のアラをかつおだしだけで煮出したもの。鯛のうまみがしっかり感じられると思います。うどんの茹で時間は7~8分くらい。冷水で締めたあと、先ほど作った白子のソースで合えます。五島のうどんは麺同士がくっつかないよう、生地を伸ばす前に島産の椿油でコーティングし、熟成させるのが特徴です。その後、潮風に当てて乾燥させることで、伸びにくくコシの強い麺が出来上がります。一般的なカルボナーラに使われるパンチェッタやベーコンの代わりに、今回は鯛の昆布締めを使います。普段作っている昆布締めに比べ、かなり塩味(えんみ)は強めですが、昆布のうまみが塩味を丸くほぐしてくれるので、塩辛いというほどではありません。ベーコンを意識して角型にカットした鯛を先ほど合えた麺にトッピングし、最後に卵黄の醤油漬を乗せて......あー、真ん中にうまく乗せるのって難しいな(笑)。ブラックペッパーの代わりに、バリバリに揚げて砕いた鯛皮を散らして完成です。濃厚なソースをまとったつるつるのうどん、ねっとりとした昆布締めの鯛、そしてそれぞれの素材をまとめあげる卵黄。三位一体のおいしさを味わってください。隠れ家のような立地と風情ある町家の雰囲気が人気の「京天神 野口」と違い、こちらは祇園のど真ん中にあり、いわゆる「ごはん食べ」のお客様も多くお見えになります。コースの内容や盛り付けなどは僕が提案し、大将の意見を取り入れた上で決定しています。実は当店では、「最近の料理屋さんのコースは量が多くて食べきれない」という女性や年配のお客様の声に応え、あえてコースの品数を絞っています。月替わりのおきまりコースは、料理5品のあとにごはんのお供セット(ごはん、じゃこなどの「お供」、赤だし)とお菓子・コーヒーというシンプルな構成で、おなかに余裕がある場合は追加でアラカルトをご注文いただいています。いわば料亭と割烹、両方の"いいとこどり"をしてもらえるのではないでしょうか。お客様それぞれのコンディションに合わせて、自由に楽しんでいただけたらと思います。写真:鈴木誠一 取材・文:鈴木敦子■のぐち 継京都市東山区清本町371-4 巽橋下ル三軒目西側075-561-300317:30~21:30最終入店日曜不定休
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BLOG料理人がオフに通う店
2020.06.08
「Osteria CONACINETTA」-「炭焼みはな」長手未華さんが通う店
「炭焼みはな」店主 長手未華さん昔から食べることが大好き。大学時代、飲食の仕事に興味を持ち、この世界に進む。イタリアンの「La Camartina」や、鶏料理の「侘家古暦堂」などで修業を積み、昨年、自身の店をオープン。本人も大好きという、焼き鳥とナチュラルワインを提供。関西では数店舗しか扱いのない、丹波・高坂鶏も使用。夫は、イタリアンの「Lapintaika」のオーナーシェフ、正彦さん。光が差し込み、ナチュラルな心地よさに包まれる店内。 聖護院にほど近い静かな住宅地の一角にある一軒のオステリア。入り口では緑のハーブの鉢植えが出迎えてくれ、店内に入ると白い壁にナチュラルな木のテーブルと椅子が置かれ、自然な安らぎを与えてくれる。 オーナーシェフの坪内拓さんは、京都のイタリア料理「ボッカ・デルヴィーノ」で修業したのち、イタリアのプーリア州に渡り、マルティーナ・フランカという町の一軒のオステリアで腕を磨いた。 「コナチネッタ」という店名は「粉」とパスタを作る際の作業の「ちねる(抓る/つねる)」を組み合わせた、シェフオリジナルの造語だが、洒落たネーミングにもセンスを伺わせる。「以前勤めていた店に、シェフの坪内さんがお見えになって、いろいろと話しているうちに仲良くなって、お店に伺うようになりました。内装もシェフのセンスが溢れて気持ちがいいし、器もプーリアの窯元にオーダーして作ってもらったそうで、いちいち心憎いんです(笑)。最初に行った時から居心地もすごく良いし、お料理も美味しいし、すっかりファンになってしまいました」(長手さん)「プーリア州は南北に長く、北部は大穀倉地帯で、海沿いでは漁業が、中部では酪農や農業が盛んに行われ、まさにイタリアの食材庫という地域なんです。海の幸、山の幸に恵まれた土地で、修業をするなら絶対にプーリアで、と考えていました。料理はとてもシンプル。豊かな食材恵まれているので、素材の特徴をよく生かす料理法がベースになっています。そこに日本と同じく、旬を大切にする文化があり、素朴だけれど、奥行きがある食文化に魅了されました」(坪内さん)今日の前菜は、カポコッロ(豚肩肉の生ハム)、ミント入りのコロッケとズッキーニのフリット、パプリカのインヴォルティーニ、トマトとストラッチャテッラのフリセッリーネ。色とりどりの前菜は、これだけでもワインが空いてしまいそうなほど。よく冷えたスプマンテを合わせたくなる。パスタかメインを選ぶランチ2500円には前菜4皿がついてとてもお値打ち。ディナータイムには4皿1600円、7皿2500円(各一人前)。写真はすべて2人前。※価格はすべて税別。 「私は主に、女友達と行くことが多いですね。女子って美味しいものをちょっとずつ食べたいというのがありますよね。友達も美味しいものに目がなくて、欲張りさんなので、特にコナチネッタさんの小皿でいろいろ楽しめる前菜スタイルはピッタリなんです。連れていった友達は皆喜んでくれますよ。前菜と一緒にいただくプーリア州のアルタムーラというパンもお気に入りです」(長手さん) ランチでもディナーでも楽しめるのが、「店主のお楽しみ前菜」だ。小皿にその時々のおすすめの前菜料理を盛って、パンの町「アルタムーラ」から届く天然酵母を使い、自身で焼くアルタムーラパンと一緒に提供する。このパンはどっしりとして、噛み締めると穀物の甘みが豊かに広がっていく。「僕がプーリアで働いていたのは小さな家族経営の店で、店主の個性が打ち出されていて、お客さんもその店主との会話を楽しみに来るような店でした。店主の兄弟家族も皆、形態の異なるレストランを経営しており、それぞれの店でさまざまな料理やドルチェを勉強できるという恵まれた環境でした」(坪内さん) 料理のスタイルも味わいも、プーリアの郷土色を大切に、パスタやパン、タラッリなどの粉物をはじめ、カポコッロ(豚肩肉の生ハム)やサラミもできる限り、手作りを守っている。オリーブオイルはもちろんプーリア産を使用。そこに農家さんから直接買い入れる野菜などを使い、自分自身の味として打ち出している。坪内さんはパスタのサンプルを見せながら、食感や味わいの説明をしてくれる。丁寧に作った手打ちパスタは穀物本来の滋味に満ちている。「穀倉地帯であるプーリアは、パスタによく使う硬質小麦の一大生産地でたくさんの種類の手打ちパスタがあります。コシがあって味わいの濃厚なパスタが多く、うちの店でも乾麺のスパゲットーニ以外は、伝統的なオレキエッテやトゥリエ、トロッコリなど、すべて手打ちで作っています」 メニューには「オレキエッテクラシコ〜リナばあちゃんのクラシックなスタイルで」や「ひよこ豆のトゥリエ〜レッチェの食堂のメニューより」など、現地で親しくなった料理人たちから直伝の料理も並ぶ。「長手さんもそうですが、最初は前菜をあれこれ楽しんでいただいて、その後、パスタ、メインとオーダーされる方が多いですね。小腹が空いたという方は、前菜の小皿料理だけでワインを1本楽しまれたりもしますよ」(坪内さん)オレキエッテ・クルダイオーラ(本マグロ、チェリートマト、ルッコラのほんのり温かいサラダ仕立て)1800円には、カチョリコッタチーズをたっぷりとかけて。イタリアでは冷製パスタはほぼ見られないが、この料理は、プーリアの暑い季節にサラダ風に仕立てて、現地の人がよく好んで食べるという。プーリア州ご自慢のロザート(ロゼワイン)によく合いそう。おすすめのメイン料理の一つ、「ボンベッテ(モッツァレラチーズを包んだ豚肩ロース)のグリルと、仔羊と仔牛の合挽きミンチを羊腸に詰めたザンピーナの盛り合わせ」3200円。※写真は2人前左から、コメ ディンカント(カンティーナ・カンペンティエーレ/白)7,500円、サーレ5,000円(メンヒル/白)、サトゥルニーノ ロザート サレント(テヌーテ ルビーノ/ロゼ)4,800円。グラスワイン800円〜はスパークリング、白、赤、ロザート(ロゼ)、が揃う。ボトルワインは4,000円〜。「ワインはすべてプーリア州のものを揃えています。ワインも盛んに造られていて、優秀なワイナリーが多いんです。特にロザート(ロゼ)のクオリティは非常に高く、おすすめです。コース料理をすべて、いろいろなロザータで楽しんでいただくのもいいですね」(坪内さん)。店内では、プーリアを代表するパン、アルタムーラパンやワインに合うタラッリ、ビスコッティなどを販売。 窓を広く取った店内で明るい日差しを浴びながらの爽やかなランチ、明かりが灯る頃から始まる楽しいディナー。軽い料理とワインを、あるいは、しっかりとコース仕立てで。家族と、友人と、あるいはおひとり様で。 さまざまTPOにしっかり応えてくれる坪内さん。プーリアの風を運んでくれそうな料理の数々と、ワインと、温かなもてなしを存分に堪能したい。撮影/津久井珠美 取材・文/ 郡 麻江■Osteria CONACINETTA京都市左京区聖護院東町14075-744-653012:00~15:00(LO13:00)、18:00~23:00(LO21:30)不定休
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BLOG京の会長&社長めし
2020.06.04
株式会社俵屋吉富の社長が通う店「京の茶膳 シェ・ナカノ」
■石原 義清(いしはら よしきよ)さん 1964年6月29日生まれ。京都府出身。同志社大学文学部卒。宝暦5年(1755)創業の京菓子司「俵屋吉富」の9代目当主で、2004年7月に代表取締役社長就任。(一財)ギルドハウス京菓子 理事、京菓子協同組合 副理事長、茶道裏千家淡交会 京都西支部 副支部長なども務める。最後の晩餐は、奥様の手料理の出汁巻き。「俵屋吉富 烏丸店」北隣にある「京菓子資料館」では、2020年6月18日~9月15日の期間、「世界のお菓子展」を開催。京菓子をはじめ日本の菓子に関するさまざまな資料や道具等を展示するほか、パネルなどで世界各国の郷土菓子についても紹介する。https://kyogashi.co.jp/shiryoukan/中野シェフの熟達の技が冴える王道フレンチのコースに、宇治茶の世界が融合京都の繁華街、四条通沿いに、宇治茶の老舗「福寿園」の京都本店がある。地下1階、地上9階で、随所に京の伝統工芸が取り入れられたこのビルは、単にお茶を販売するだけでなく、京の王朝文化と宇治茶の文化に親しむための甘味処やレストラン、茶室なども備えている。今回、石原さんがおすすめの1軒に挙げたのは、その3階にあるフレンチレストラン「シェ・ナカノ」だ。実は、石原さんと福寿園の福井正興社長は、大学のクラブの先輩後輩の仲で、ここでは福井さんたち数人の仲間と食事を楽しむことが多いのだという。「福井君とは、彼が大学1年生で茶道部に入部してからのおつきあい。福寿園のレストランということで、オープン当初から年に数回レギュラー的に行かせてもらっています。パリの『マキシム』で修業されたシェフが本格的なフレンチを出されていて、その熟練された料理が味わえるのが、ありがたいですね。以前、淡交会青年部の卒業記念に、4階の茶室でワイン茶会というのをやらせてもらったことがあるのですが、その時もシェフにお願いして点心程度のお料理を作ってもらいました」(石原さん)落ち着いた雰囲気の店内は、人間国宝・羽田登喜男氏の友禅作品が飾られるなど、他のフロアと同様に京の匠の技が生かされている。「石原社長は、よく裏千家さんの会合がある時などにご利用いただいております。ソースがたっぷりある料理がお好きで、ご挨拶に行くと、今日のソースはどうだったと、感想を話してくださいます」と、2008年9月のオープン時から総料理長を務める中野鉄也さん。中野さんは、京都ホテルで10年間勤めた後、渡仏し、「ル・グラン・ヴェフェール」「ボーマニエール」「マキシム」などの名店で修業。帰国後は、京都「レストラン・リヨン」の料理長や銀座「マキシム・ド・パリ」総料理長を務めるなど、長年日本のフランス料理界で活躍してきたベテランシェフだ。「マキシム・ド・パリ」を定年退職後、第一線から退いていたが、京都本店の建設を進めていた福寿園の福井正憲会長(当時は社長)に乞われ、本店レストランの総料理長に就任した。「最初は甘味処のデザート作りを指導してほしいというお話があり、僕は料理しかできないからと断ったんです。そしたら会長が、それならレストランをやってくれということで、設計を変更してレストランを作ることになったんです」(中野さん)(写真提供:シェ・ナカノ)「シェ・ナカノ」の料理は、「フレンチと宇治茶のコラボレーション」がコンセプト。ひと月半ごとに替わるコースには、中野さんが極めてきた正統派のフレンチに加え、中に抹茶を入れた舌平目の詰め物など、宇治茶を使った創作メニューも盛り込まれる。ウェルカムティーから食後のお茶まで、コースを通じてフレンチとお茶との出合いを体験できる構成だ。「料理に日本茶を使うのは難しいんです。特に抹茶は火が入ると色が変わるし、香りも飛んでしまうので」と、メニュー開発について語る中野さん。新たな挑戦として仕立てるコース料理は、全体にあっさり軽めの味わいで、年配のファンにも好評だという。 コースは昼4000円~、夜6500円~。誕生日や記念日など、予算や要望などを伝えて特別なメニューを用意してもらうこともできる。「いつも料理はお店にお任せしているんですが、コースの組み立てもいいし、ちょうどお腹がいっぱいになるくらいの量を出していただけるのもありがたいですね」(石原さん)なお、器にはすべてオリジナルの京物を使用。季節に合わせて変わる絵皿の柄もお楽しみ。コースの始まりは、食前酒代わりの水出し玉露から。「盛り付けもきれいで、おいしい」と、石原さんが薦める野菜たっぷりの前菜。写真はその一例で、グレープフルーツの風味が爽やかな「海老とグレープフルーツのサラダ」。トマトを使った酸味のあるソースを添え、石臼でひく前の抹茶の原料となる碾茶(てんちゃ)を振りかけて。鴨川と柳と都わすれを描いた清水焼の皿が初夏らしい。「『お茶と料理』が合わさることで広がる楽しさ、マリアージュを味わっていただけたら」とマネージャーの山本さん。テーブルにはトッピング用に3種のお茶が置かれ、お好みで料理に入れて楽しむことができる。手前から煎茶、碾茶、抹茶。煎茶は肉料理、碾茶はスープ、抹茶はクリーム系ソースなどによく合うという。肉料理も、石原さんがこの店を気に入っている理由の一つ。「お肉の火の入れ方が絶妙で、どんなお肉を食べてもお薦めできます」写真は「国産牛フィレ肉 ペリグーソース」。フォンドヴォーにポルト酒などを入れて煮詰め、フォアグラやトリュフを加えた濃厚なソースで味わう贅沢な一品だ。「最後に抹茶のカプチーノが出てくるんですが、おいしいですよ」と、石原さん。食事の締めくくりには、シェ・ナカノオリジナルのブレンド宇治茶や抹茶のカプチーノなど、季節に合わせたお茶を小菓子と一緒に。6月は新茶が楽しめる。自分が食べて納得できる料理しか出さないという中野さん。60年のキャリアを経ても変わらず、真摯に誠実に料理と向き合い、挑戦を続ける。その原動力は、やはり多くのファンからの「おいしかった」の声だろう。「僕はいつもお客さんが食べ終わられたお皿を見るのですが、もう洗わなくてもいいくらいきれいなお皿が下がってくるんです。そこまでうちの料理を楽しんでもらったら、すごくうれしいですね」撮影 エディ・オオムラ 文 山本真由美■京の茶膳 シェ・ナカノ京都市下京区四条通富小路角 福寿園 京都本店3F075-221-6173営業時間 11時30分~15時(LO14時)、17時30分~21時30分(LO19時30分)定休日 火、水 ※要予約(休業日、営業時間は状況により変更の場合あり)http://www.fukujuen-kyotohonten.com/3f/
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