食知新ブログ
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BLOG京のほっこり菜時記
2020.05.31
「さざえ」
幼い頃、夏の旅行は、ほぼほぼ天橋立か伊勢志摩だった。両親が海好きだったのだろうか? 単に新鮮な海の幸を食べたかったからだろうか? そういえば、母と鮨屋に行くと、「ミル貝」「赤貝」「はまぐり」と、母は貝ばかり注文していた。貝の英才教育を受けたようなものだ。 伊勢志摩では、浜焼きの「さざえ」や「大あさり」の香ばしい醤油の香りに惹かれて海遊びの合間に食べ、天橋立では旅館で魚貝類の船盛りを食べた。昭和の贅沢を絵に描いたような旅行だった。 当時は、「さざえとは、なんと不思議な食べ物だろう」と思っていた。とげとげと角?が生えたような姿。刺身で食べるとコリコリとして噛みづらい。おまけに身の最後についているワタ(肝)はなんとも不思議な形で苦い...。初めて食べたときは、ほんの少しギョッとした。だが普段の晩御飯でも、おかずに「なまこ」や「飯蛸」がでる家だったから、「さざえ」の味にもすぐに慣れたというか、好きになった。 「さざえ」は、5月から8月にかけてが旬の貝。ゴールデンウィークや夏休みに食べた思い出が多い。産卵前の肥えた時期が美味しいと言われ、8月になると身が痩せてしまう。つまり、できれば初夏の間に食べておきたい貝なのだ。 ちなみに、ワタが緑色ならメス、白っぽいのがオスで、緑色のメスのワタにより苦味があるそうだ。バーベキューなどで壺焼きにするのと料理屋で食べるのとで味が違うのは、料理屋ではいったん茹でたり、雑味のある部分をとり除いたりと下処理をするから。家庭でも、しっかり下処理すれば、より上品な味になる。 さっと洗って網に乗せ、ぐつぐつと泡立ってきたところに酒と醤油をさっとかけて食べると磯の香りが口いっぱいに。ガーリックバターを落としてエスカルゴ風にしたり、オリーブオイルとバジルでイタリアン風味にしたりとアレンジするのもいい。 ビタミンB1やB2、肝機能に良いとされるタウリンも豊富だから、酒の肴にぴったり!?な料理だろう。ところで...「さざえは壺焼きだ!」と思っていた私の常識を、一口で変えてしまった料理がある。それは、御池間之町にある酒亭「笹蔵」の「さざえの唐揚げ」である。 店主の西村陽三さんが、「夏にサックリ食べられる揚物を」と考えたとき、「ふぐの唐揚げ」の衣で「さざえ」を揚げることを思いついた。店でだしてみるとこれが好評で、以来、夏の名物になったそうだ。衣はサクッとして身はやわらかく、塩胡椒だけという衣の味加減も抜群。一度食べたらやみつきになる。間之町から細い路地をたどった突き当りに、「笹蔵」の渋い暖簾が揺れている。ご主人の西村陽三さんはもと寿司職人で、自分の店を開いてからでも30年になるというベテランだ。手ぬぐいをねじった鉢巻がトレードマークで、自分で目利きした新鮮な魚や旨いものしか仕入れないという、ある意味頑固な人。だが、ものごし柔らかでいつも笑顔。優しい「いらっしゃい」に迎えられると、ほっとする。 先日もFacebookに自分でつくった鮪料理をアップしたら、西村さんが「マグロは山葵もいいけれど、カラシ醤油で和え、もみ海苔をパラパラとかけて食べると、鮪の甘味が際立って美味しいですよ」とDMで教えてくださった。「料理が大好き、人が大好き」、心底、尊敬する料理人のおひとりだ。 さて、「さざえの唐揚げ」の話にもどるが、唐揚げを食べ終えると、ワタを醤油バターで壺焼きにしてくれる。さらに、お願いすれば少量のご飯を一緒にだしてくれる。肝の風味の醤油バターをご飯にかけて食べる美味しさといったら。最近の私は、「さざえ」はこの店で食べると決めている。 「さざえ」の身が肥えている間に一度といわず二度、三度。夕暮れ時に暖簾をくぐりたい。 ■酒亭 笹蔵京都市中京区御池通間ノ町上ル高田町509075-252-321018時~23時(早仕舞の日もあるので要確認)休 日曜
中井シノブ
ライター
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BLOGうつわ知新
2020.05.29
水無月
梶高明梶古美術7代目当主。京都・新門前にて古美術商を営む。1998年から朝日カルチャーセンターでの骨董講座の講師を担当し、人気を博す。現在、社団法人茶道裏千家淡交会講師、特定非営利活動法人日本料理アカデミー正会員,京都料理芽生会賛助会員。平成24年から25年の二年間、あまから手帖巻頭で「ニッポンのうつわ手引き」執筆など。全国の有名料理店と特別なうつわを使った茶会や食事会を数多く開催。水無月6月といえばいよいよ夏。同時に雨の季節ですが、それとは裏腹に、水無月(みなづき)とも呼ばれ、文字の上では水の無い月と表されます。その理由は諸説ありますが、田に水を引き込むため、川の水位が下がってしまうので、水無月と呼ぶのだという説や、「水の月(みずのつき)」という意味を「水な月(みずなつき)」と呼んでいたのが水無月に変化したとも言われています。さて、一般に「天気が悪い」と聞かされると「雨だな」と日本人の誰もが思うことでしょう。しかし、出張先のタイで、「きょうは雨降って、涼しくていい天気だね。」と友人から思わぬ言葉を聞かされたことがあります。友人によると「タイには春・夏・雨季と3シーズンがあるが、雨季こそが実りをもたらす大切な季節だ。だから雨季に入ると嬉しい。」のだそうです。「雨が嬉しい。」「雨が良い天気。」そう聞かされると、雨や蒸し暑ささえ、考えようによっては楽しむ方法があるかもしれないと思えてきます。京焼 編笠向付さて、今月最初にご紹介するうつわは、京焼の「編笠(あみがさ)向付」です。現代では使われることの少ない編笠ですが、昔はどのような使われ方をしていたのでしょうか。今でも雨天のお茶会では露地笠と呼ばれる編み笠を用意して、茶室までの道のりを案内しますし、お祭りでも行列の中の装束として編笠を見かけるもありますが、せいぜいこれくらいのことでしょう。「笠地蔵」の昔話では雪の中でも登場しますが、「編笠」は夏の季語として使われるので、やはり冬のものと言うより、夏場の日除け•雨具の意味が強いようです。そんな編笠をうつわの意匠に用いようとした思いは、雨や強い陽ざしを、単に悪天候とは捉えず、緑が深まり、実りに至るまでの植物の大切な成長の季節として扱った様子の表れではないでしょうか。次に京焼についてお話をさせていただきます。京焼はその名前の通り、京都で生産された焼き物を指しますが、千利休の求めに応じて生み出された楽焼だけは京焼に含めないとされます。さらに掘り下げると、美術愛好家たちが「京焼」と言う場合は、磁器質の清水焼を指さず、粟田焼・仁清焼・乾山焼などの施釉陶器を指すのに使っているようです。この京焼の一番の特徴は、描かれた絵の巧みさにあると思います。筆数の多い少ないにかかわらず、その施された絵の品の良さ、デザイン力の高さは、これを焼かせた発注主、つまり数寄者の文化度の高さを示すようですが、絵付けだけでなく、轆轤や細工の巧みさもうつわの品格を高めていると言えるでしょう。耐久性・実用性に背を向けてまで、壊れていく危うさ、はかなさも含めて、数寄者の感性を満たしたうつわが京焼です。読者の皆様の中には、本当にそれほど数寄者の求めを反映したうつわなのかどうか、疑問に思う方もあるでしょうから、もう少し詳しく解説してみましょう。この「編笠向付」は、轆轤で真円に引き上げた碗を、両手で左右から押して変形させ、そうしてできた狭い先端部の形をわずかに尖らせて整えています。それだけでなく、縁に高さの変化をつけて、うつわに前後の方向を与え、また、編み上げた風情や表現を強調するために口縁部に細かな刻みを入れてあるのが見て取れます。裏面の高台は低めに抑え、絵付けも錆絵にわずかに染付を添える程度に抑えて、わびた肌色の地色が編笠を品よく綺麗に見せるように、よく考えられています。まさに綺麗さびという完成です。こうしてうつわを眺めるだけでなく、読み解くむ感覚で見ていくと、いままで気づかなかったうつわの本当の姿が見えてくるかもしれません。春海バカラの鉢3種夏のかおりが漂い始め、水辺が恋しくなると、ガラスのうつわが活躍する季節です。ガラスは、ビードロ・瑠璃(るり)・玻璃(はり)・義山(ぎやまん)と、製法や歴史的背景によって呼称は数々あります。瑠璃と玻璃はそれぞれ、インドから渡ってくる仏像・仏具に嵌められていた石を意味します。瑠璃は青みがかった透明感のある宝石から、玻璃は水晶から生じたガラスの異称に由来するようです。ビードロは1543年に種子島に鉄砲が伝来して以降、ポルトガルとの交易が盛んになり、そこで伝えられたガラスを称する和製ポルトガル語です。しかしこの頃は薄い吹きガラスしか造る技術がなかったため、現代でもビードロは吹きガラスを意味する傾向があります。さて、義山(ぎやまん)ですが、島原の乱をきっかけに、キリスト教布教を伴う西洋諸国との交易は国政を危うくすると徳川幕府は考えました。そこで、布教をせず交易のみ行うと約束したオランダ船のみ、出島への入港を許可しました。このオランダ船によってもたらされたのが、厚いガラスにカットを施した切子(きりこ)ガラスであったとされています。これをオランダ語ではダイヤモンドを意味するディアマントと呼び、それを日本人が義山(ぎやまん)と呼ぶようになった訳です。かつて平安時代までは日本でもガラス造りは行われていたようですが、それ以降、技術は忘れられ、ガラスは舶来の貴重なものという感覚が私たちに宿るようになりました。 さて、現代の私たちが義山(ぎやまん)と呼んでいるうつわはどんなものか、ちょっと見てみましょう。春海バカラの向付と酒杯明治34年(1901年)大阪の時計宝飾商の安田源三郎が欧州から帰国した際に持ち帰ったバカラ製のクリスタルガラスを、古美術商の春海商店店主、春海藤次郎に見せたことによって、バカラ社に茶懐石の道具として発注されたのが所謂「春海バカラ」と呼ばれるものです。このうつわたちの美しさは当時の数寄者を虜にし、春海商店以外からもバカラ社にうつわが発注され、平安以降再起した日本のガラス産業にも大きな影響を与え、茶の湯の道具から懐石のうつわへと、義山の流行が広がっていったのです。カットを施したこの分厚いガラスをクリスタルガラスと呼びますが、英語ではlead glass(レッドグラス)と言い、つまり鉛ガラスを意味します。ガラスの成分に30%近くの鉛成分を含ませることで、硬さと透明感が生まれ、カットを施すことでダイヤモンドのごとくの強烈な輝きを放ちます。ただでさえ他のうつわでは代用できない、特別な輝きと透明感を持った鉢に、さらに色ガラスを被せてカットしたものも存在するので、そちらも併せてご紹介します。これらを手に入れた明治時代の数寄者の喜びがいまでも伝わるような美しさではないでしょうか。やがて数寄者たちは、菓子鉢に留まらず日本独特の蓋向付や、酒盃までも発注するようになっていきます。いまでは夏の定番のようになった義山のうつわたちにもこんな歴史があることを覚えておいてください。最後に、今月も掛軸を一本ご紹介させていただきます。まるで子供の落書きのようなこの絵は、日本を代表する画家の一人、熊谷守一の手によるものです。彼は裕福な家庭に生まれながらも、「画壇の仙人」とも呼ばれるほどの極貧生活を送り、また彼の住まいから、長い年月外へ出かけることなく、その家の庭で日々起こる些細な出来事を見つめ続ける暮らしを送った人です。この絵は雨だれを描いたもので、家の樋(とゆ)から雫が落ちて、水たまりに跳ねる様子を描いています。水の跳ねる姿が彼の興味をそそっただけなのでしょうか。私は、もう少し違うように感じました。 描かれている跳ねた水滴は、まるで仏様が座っているような姿にも見えます。もしかすると、こんな些細な日々の出来事の中にも、彼は仏が宿っていることを感じていたのかもしれません。コロナウイルスの問題で、自宅待機を強いられているこんな時期。私たちは家に留まって、 熊谷守一の生き方から学ぶものがあるのかもしれません。撮影:竹中稔彦
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BLOG京のとろみ
2020.05.28
「鳳泉」の酢豚
京中華というジャンルがある。京都中華、京風中華とも呼ばれ町中華でもなく高級中華でもない京都で生まれた独特の中華料理だ。油ギトギトではなく、香辛料やニンニクも控えめで昆布だしを使う。あっさり中華は花街の舞妓さんや芸妓さんにも人気がある。そんな京中華の中に鳳舞、第一樓、飛雲の料理を受け継ぐ「鳳舞系」と呼ばれる店がある。鳳泉、鳳舞樓、龍鳳、鳳飛、平安などがそうだ。 河原町二条に店を構える「鳳泉」さん。こちらの人気メニューはエビカシワソバ(からしそば)やシャキシャキくわい入りの焼売、卵生地の春巻きなど。どれも上品な味付けで私も大好きだが甘酢を愛する私が必ず注文するのが酢豚だ。食べやすいように小さめにカットされた豚肉、ライチ、胡瓜、パイナップルが入り爽やかな酸味の効いた甘酢餡がたっぷりとかかってくる。酢がきつくなくフルーティーな酸味で優しい。 この酢豚と必ず一緒に注文するのが炒飯。濃い味付けの酢豚の場合は白ごはんがよく合うが、こちらの酢豚には同じくあっさり仕上げた炒飯がベストマッチだと思う。このパラパラあっさり炒飯にとろとろ爽やか甘酢餡をかけて食べるのが最高に幸せである。
ハリー中西
料理カメラマン
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BLOG割烹知新〜奇想の一皿〜
2020.05.27
祇園 にしむら「青椒海鮮」
奇想の一皿「青椒海鮮」大学を卒業後、料理の道へと進んだ西村さん。「東京吉兆」で腕を磨き、1994年に20代で「祇園にしむら」を開店。円熟の域に達した料理はもちろん、店主との丁々発止のやり取りを楽しみに、多くの常連が夜ごと暖簾をくぐります。千枚漬けをまとわせた鯖寿司「八坂の雪」は、京都の定番おもたせとしても人気。発想秘話僕は普段から料理を考えるのにあまり時間を割かないんです。店の献立もいつも一瞬で決まる。だから今回も構想10分。頭の中で完璧にイメージ出来ているので、試作もなし。今からぶっつけ本番で作ります。発想の原点ですか? (これまでの連載で)いい料理屋さんがぎょうさん出てはるので、僕は「超高級」をテーマにしようかと(笑)。インパクトのある高級食材で中華風の炒め物を作ります。能書きはこれぐらいにして、作りながら解説していきましょう。今日のメイン素材は鮑と伊勢海老、それに万願寺唐辛子です。中華風といっても味付けに使うのは普段店で使っている調味料だけ。中華には大量の油や化学調味料が欠かせませんが、今回は「和食の食材だけで調理する」のがポイントになります。鮑の肝はのちほどソースに使うので、別に取り分けておきます。貝殻から外した身は、こんなふうに塩で揉んで下処理します。このまま少し置いておくと水がたくさんしみ出てくるので、鮑のことを「水貝」なんて呼ぶ人もいますね。伊勢海老は身と味噌の両方を使うので、それぞれ別に処理していきます。味噌の詰まった頭の部分は塩をあてて、先ほどの鮑の肝と一緒に蒸し器で蒸します。身のほうは炒め物の具材にするので、お造りにするときのような掃除はせず、食感が残るぐらいの大きさにカットしておきます。鮑は薄造りに。こうして置いている間にも、どんどん水が出てきます。この時期の貝はめちゃくちゃおいしいんですよ。今回はこれを贅沢に炒め物にするという......こんなのおいしいに決まってますよ(笑)。ピーマン代わりの万願寺唐辛子は、種を取って細切りに。万願寺をこんな風に切るのってちょっと見たことないでしょう? これで具材の下ごしらえは終了です。次は炒め用のソースを作ります。すり鉢でまずは木の芽をすります。次に生の山椒の実を加えてすり、先ほど蒸した鮑の肝と伊勢海老の味噌、少量の海老の身を加えてさらにすります。どうですこのええ香り、たまらんでしょう? よくすり潰したら白味噌とごく少量の赤味噌、二番だしを足して伸ばしてやります。これで味がまろやかになり、和テイストにまとまっていくんですよ。中華で言うところの「なんとか醤(ジャン)」的な、スペシャルソースの完成です。フライパンに油をひかずに伊勢海老をまず炒め、次にしみ出した水分ごと鮑を加え、火が入ったら先ほどの醤を投入。少量の二番だしで伸ばしながら、全体に醤を絡めていきます。最後に万願寺を加えてサッと火を通し、薄口醤油、砂糖少量、お酢で味を調えたら完成です。万願寺にはあまり火を入れず、軽く食感が残るぐらいがいいんじゃないかな。唐辛子などの辛み調味料は入りませんが、山椒のピリピリとしたいわゆる「シビ辛」な味付けになっています。見た目は中華っぽいですが、油を使っていないのであっさりした味わいです。日本料理の食材だけで、ここまで中華っぽく仕上げられる、という提案ですね。ちなみにこの醤は、肉や焼き野菜に付けてもおいしいですよ。肝の苦みや味噌のコクが混然一体となっていて、日本酒との相性もばっちりです。ぶっつけ本番で作りましたが、思った通りの仕上がりになったんじゃないかな。鮑はもう少し厚めにカットしても良かったかもしれません。この料理はおいしいものを一通り食べ尽くした人、値打ちの分かる人に受ける気がします。去年はちょっと肉を使いすぎたと思っていて、今は逆に原点回帰の傾向にあるんです。素材同士の組み合わせで、よりおいしいものが作れるんじゃないかなって......。僕ら料理人は、食べた人が幸せな気持ちになるようなおいしい料理を作ってナンボ。わざわざ店に足を運んでくれるお客さんの想いに応えていきたいですね。撮影:鈴木誠一 取材・文:鈴木敦子■祇園にしむら京都市東山区祇園町南側570-169075-525-272717:00~20:00入店(完全予約制)日曜休
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BLOG料理人がオフに通う店
2020.05.23
「炭焼みはな」-「炭焼 芹生」芹生玄さんが通う店
「炭焼 芹生」店主 芹生玄さん大学時代、飲食の世界に興味を持ち、在学中に一年間、オーストラリアに留学。車でオーストラリア一周する時間が、外から日本文化を見つめる貴重な機会となり、和食の道へ進むことを決意。宮川町の「蜃気楼」をはじめ、木屋町の名店「割烹やました」では10年間修業し、長年、焼き場を担当。炭焼の技を研鑽する中で、炭焼の奥深さに魅了され、自身の店開く際も、炭火焼を柱に据えた。目利きとして厳選した旬の素材をふんだんに用い、最高の炭火の技を駆使して、香味豊かな炭火料理を提供している。店内はカウンターのみ。モダンな空間に和やかな空気が流れている。 三条通を烏丸通から西へ、個性的な新店が続々とオープンする釜座町界隈に、、また魅力ある店が昨年夏にオープンした。女性店主の長手未華さんは炭火料理の「侘屋古歴堂」や肉料理の「ハンター」などで働き、自身も強く魅了された炭焼の店をつくったという。ご主人は、岡崎近くのイタリアンレストランのオーナーシェフだ。「仕事帰り、『ハンター』さんによく伺っていて、その時、お店で働いていたのが長手さんでした。気さくで明るくて話しやすい人で、親しくさせてもらうようになりました」(芹生さん)「大学時代から飲食の世界に興味があって、進みたいと思っていました。色々なお店で経験を積ませていただきましたが、若い頃から焼鳥が大好きで、自分の店をするなら焼鳥を中心にした炭火料理の店をしたいなあと思っていました。女性一人で焼鳥店って入りにくいじゃないですが。そういうのをなくして、気軽に入りやすいお店にしたかったんです」(長手さん) 店内はカウンター席のみ。温かな雰囲気で、長手さんの人柄そのものの空気が満ちている。炭は場所によって温度帯を変え、串を絶妙なタイミングで動かしながら、火入れしていく。 素材を炭火で焼くというシンプルな手法が好き。それだけに素材の吟味、炭火の火加減、時間などに心を砕く長手さん。同じ鶏でも部位によって焼き加減を変える。高知県産の備長炭を使い、素材は丹波篠山の高坂鶏や鳥取の大山鶏が中心。その鶏の特性を最大限引き出せるよう、細心の注意を払って火入れをする。「店が近いということもあって仕事が終わった後に、スタッフを連れていくことが多いですね。遅めの時間に行くことが多いので、その日、まだ材料があるものからおすすめで何品か焼いてもらいます。焼き鳥に合わせて飲むのは主にワイン。僕はナチュラルワインが好きなので、いつもその日のおすすめのグラスワインをいただきます」(芹生さん)「芹生さんはいつも最初に一品ものを注文して、焼鳥の焼き上がりを待ちながら、ワインとともに楽しんでくださいます。お客様もそういう方が多いですね。私の考えですが、炭焼料理には造り手の想いが素直に反映されたナチュラルワインがすごく良く合うと思います。炭焼はシンプルな調理法ゆえに、出来あがる料理が焼き手によって異なります。ナチュラルワインもまた、量産型のワインと違って、同じ造り手でも年によってワインの味わいが変化するあたりが魅力で、炭焼と共通する点がとても多いと思います。芹生さんはとても勉強熱心な方なので、ワインのことを色々と聞かれますが、話していて私もとても勉強になります」(長手さん)人気の一品、「親鳥のたたき風」600円。しっかりとした肉質の親鳥のもも肉を炭火で香ばしく炙って、食べやすいよう細かく切って、ポン酢でいただく。濃厚な肉の旨みとあっさりとしたポン酢の相性がとてもいい。 女性に特に人気なのが季節の果物を使ったサラダ。写真は水ナスと文旦のサラダ580円。甘酸っぱい文旦の爽やかさとみずみずしい水ナス、カッテージチーズが軽やかな風味を生み出す。季節によって素材の組み合わせが変わるのも楽しい。「とにかく彼女は、炭焼の経験をしっかりと積んでいるので、焼き加減、火入れ加減が絶妙で、同じ炭焼をやるものとして、とても勉強になります。お?こんな素材を使うのか、とか、こんな素材の組み合わせがあるのか!とか、目からウロコの新鮮な発見があって、美味しく楽しみながら、こちらも勉強をさせてもらっています」(芹生さん)ムネ(梅しそ)250円はややレアめに焼き上げている。あっさりしながら旨味が濃厚。塩とわさびでいただくだき身は、コクがあってとてもジューシー。300円。 人気上位のつくね250円は、ムネとももを粗挽きにして、肉らしい食感を楽しめる。長手さん自身が好きだというデリック・ラーセン氏や板原摩紀さんなど、個性ある作家ものの器使いもまた、店の大きな魅力になっている。 ナチュラルワインも豊富に揃う。左から、ロミュアルド・ヴァロ アントリュージョン ロゼ、ドメーヌ・ラ・トープ スラン、メイガンマ ロザート。グラスワイン800円〜。ボトルワイン4000円「開店して1年も経っていないので、まだまだやりたいことが山積みです。シンプルだからこそ奥が深い炭焼の世界を、もっともっと追求したい。大好きなナチュラルワインと焼き鳥のマリアージュをいろんな方に楽しんでいただきたいです」(長手さん) これからますます進化していく長手さんの炭焼の世界。じっくりと付き合っていきたくなる一軒だ。撮影/津久井珠美 取材・文/郡 麻江■炭焼 みはな京都市中京区釜座14 Pavillion三条1F075-221-559518:00~23:00(LO)不定休
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BLOG京の会長&社長めし
2020.05.23
株式会社福寿園の社長が通う店「鮨嵩(すしたか)」
■福井 正興(ふくい まさおき)さん 1971年11月、京都府生まれ。同志社大学商学部94年3月卒業、同年4月株式会社福寿園入社。入社後2年間、農林水産省 野菜・茶業試験場にてお茶づくりの基礎を学ぶ。同社専務取締役営業本部長、同社代表取締役副社長等を経て2013年5月、同社代表取締役社長に9代目として就任、現在に至る。株式会社福寿園は、寛政2年(1790年)に福井伊右衛門が京都・山城に創業した宇治茶の老舗。以来、この地で「無声呼人」(むせいこじん/徳のある人のところには呼ばれなくても人が集まる)の家訓のもと、茶一筋に歩み続けている。伝統を守り育てる一方で、ペットボトル「伊右衛門」やネスレ「スペシャルT」の開発や海外展開など革新的な取組みによって日本の茶業界を牽引している。また、2011年には公益社団法人日本青年会議所の第60代会頭を務め、同年に発災した東日本大震災復興に尽力した。 お茶の販売店だけでなく、お茶づくり体験ができる施設やお茶を使った飲食店なども運営している。最後の晩餐は、分厚い赤身のステーキを。締めくくりは一碗の抹茶で。体験施設 宇治工房、CHA遊学パーク他http://www.ujikoubou.com/guide/index.html http://www.fukujuen.com/company/cha.html飲食店 京都本店3階「シェ・ナカノ」(お茶を使ったフレンチ)、茶寮 FUKUCHA(新感覚の宇治茶カフェ)他http://www.fukujuen-kyotohonten.com/3f/index.htmlhttps://fukucha-fukujuen.com/名物「なみだ巻き」など、天然魚を使った美味い寿司や一品をほろ酔い気分で楽しみたい「ここも本当に親しい人しか連れて行かないお店。元々錦市場の近くで営業されていて、最初に行ったのは、多分移転される前だったと思います。今は夫婦でやっておられるんですが、結婚された時に披露宴でスピーチしたことを覚えています。お寿司はいい素材を使っていておいしいし、気取っていないところがいい。少なくとも月一回は行っていると思います」(福井さん)普段から食事はほぼ外食だが、同じ店に行くことはあまりないという福井さん。そんな中からここで紹介していただいた2軒は、共にプライベートでも通っている数少ない店。とりわけ祇園にあるこの「鮨嵩」は、「唯一、一人でふらっと行ける」隠れ家的な存在だという。賑やかな四条通から大和大路通を南へ進み、一つ目の小路を入ったところの小さなビルの1階。主人の衣川芳知さんが、奥さんやスタッフと切り盛りする店は、8席のカウンターと、8席の小上がりのみの空間で、いつも地元の常連客や観光客で盛況だ。「福井さんとはもう15年くらいのお付き合い。最初は青年会議所の関係で来られたと思いますが、それから仲良くしていただいています。大きな会社の社長さんなのに、友達に会いに来るような感じで気楽に来てくださるのがうれしいですね。お顔が広いので、いろんな方を連れてきてくださいます」(衣川さん)京都市出身の衣川さんは、大阪の寿司店で約10年修業した後、1997年に寺町蛸薬師に「すし屋のやまたか」をオープンし、人気を博す。その後、祇園北側に移り、10年前からは店名を改めて現在の場所へ。ミシュランガイド2017ではビブグルマンに選ばれている。常連の大半は企業経営者や自営業者で、競走馬の馬主や騎手なども訪れるという。高級寿司店ばかりが集まるこの界隈で、1万円前後で楽しめるというリーズナブルさだが、使用するネタに妥協はない。毎日5軒ほどの業者から吟味して仕入れる天然ものが基本で、「高級店と遜色ないものを使っています」と、衣川さん。メニューはアラカルトのみで、日替わりの品書きから好きなものを頼むスタイル。割烹のように季節の一品も豊富で、常連の多くはホワイトボードにあるその日のお薦めから注文するという。これからのお楽しみはやはり鱧。鱧の落としのほか、予約で鱧の鍋や棒寿司も登場する予定だ。「お造りをはじめお薦めの一品をいろいろいただいてから、お寿司を頼みます。ここは握りも得意なんですが、僕は細巻きが好きでそればかり頼んでしまうので、握りまでいけない。その繰り返しで、もう何年も握りを食べていないんです(笑)」と、福井さん。創業以来の名物として有名なのが、「なみだ巻き」1/2本1900円。ネギトロを裏巻きにして、表面にわさびをたっぷり塗ったボリュームある一品で、福井さんも必ず頼むという。醤油をつけて一口で味わうのがお薦め。「抹茶ロールケーキのように、外側がほぼわさびになっていて、初めて行った人はびっくりします。不思議なことにそんなに辛くなくて、すごくおいしいんです」と福井さん。その言葉通り、口の中でトロの脂にわさびの辛みが中和され、とろけるような味わいに。ネギの風味も食欲をそそり、いくらでもいけそうだ。寿司ネタなどに使用する鮮魚は、産地を決めずにその時々のいいものを選び、米も毎年業者と相談しながら新潟、丹波、滋賀など、産地を変えているという。寿司屋では珍しい定番メニューの「かき揚げ」1260円も、福井さんお気に入りの一品だ。「揚げ物が好きなので、かき揚げは絶対頼みます。その季節のものを上手に食べられる感じです」(福井さん)写真は海老、ホタテ、玉ねぎ、三つ葉のかき揚げ。かき揚げの内容はその時期によって変わる。新鮮な旬の素材の旨味が詰まったかき揚げは、香ばしく、食べ応えも十分。 福井さんは、いつもカウンターで一品を肴に好きな酒を楽しむという。「ビールやハイボール、あと調子のいい時はなぜかあるテキーラを頼みます。大将もお酒が好きなので、店でよく一緒に飲みます。たまに飲みすぎて迷惑もかけることもあります(笑)」(福井さん)写真は店主お薦めの奈良の酒「春鹿」と、常連に人気のテキーラ「オルメカ」。寿司屋でテキーラを置いているというのもユニークだ。「テキーラはたまたま好きな友達が多いので置いているんですが、それを福井さんが見つけて飲まれるようになって(笑)」と、衣川さんは説明する。マナーが悪かったり周囲に迷惑をかけたりするお客には厳しいという衣川さんだが、信頼関係ができてしまえば、「こんな食べ方をしたい」といったわがままにもできる限り応えてくれる。そうしてお客と共に作り上げてきた温かく楽しい雰囲気も、ここでは欠かせない魅力となっているようだ。「大将は一見とっつきにくそうですが、非常に心優しくて人当たりが良いところが僕は好きなんです。僕が心を許せて、困った時に頼れるお店です」(福井さん)平均単価は8000円~1万円。たくさん飲む場合は1万5000円~2万円程度見ておく方がよいだろう。撮影 エディ・オオムラ 文 山本真由美■鮨嵩京都市東山区大和大路四条下る大和町21-1075-531-6010営業時間 16時~23時(LO22時) ※予約がベター定休日 不定休
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BLOG京の会長&社長めし
2020.05.22
株式会社福寿園の社長が通う店「祇園245」
■福井 正興(ふくい まさおき)さん 1971年11月、京都府生まれ。同志社大学商学部94年3月卒業、同年4月株式会社福寿園入社。入社後2年間、農林水産省 野菜・茶業試験場にてお茶づくりの基礎を学ぶ。同社専務取締役営業本部長、同社代表取締役副社長等を経て2013年5月、同社代表取締役社長に9代目として就任、現在に至る。株式会社福寿園は、寛政2年(1790年)に福井伊右衛門が京都・山城に創業した宇治茶の老舗。以来、この地で「無声呼人」(むせいこじん/徳のある人のところには呼ばれなくても人が集まる)の家訓のもと、茶一筋に歩み続けている。伝統を守り育てる一方で、ペットボトル「伊右衛門」やネスレ「スペシャルT」の開発や海外展開など革新的な取組みによって日本の茶業界を牽引している。また、2011年には公益社団法人日本青年会議所の第60代会頭を務め、同年に発災した東日本大震災復興に尽力した。 お茶の販売店だけでなく、お茶づくり体験ができる施設やお茶を使った飲食店なども運営している。最後の晩餐は、分厚い赤身のステーキを。締めくくりは一碗の抹茶で。体験施設 宇治工房、CHA遊学パーク他http://www.ujikoubou.com/guide/index.html http://www.fukujuen.com/company/cha.html飲食店 京都本店3階「シェ・ナカノ」(お茶を使ったフレンチ)、茶寮 FUKUCHA(新感覚の宇治茶カフェ)他http://www.fukujuen-kyotohonten.com/3f/index.htmlhttps://fukucha-fukujuen.com/訪れるたび独創的な品々との出合いに心躍る。シェフが繰り出す食のエンターテインメント古美術店などが集まる新門前通に佇む町家の建物。玄関から更にガラス戸の中へ進むと、表の印象から一転、和モダンな空間に。オーナーの吉岡正和シェフが腕を振るうこの店は、2011年のオープンよりオリジナリティ溢れる料理で注目を集め、多くのファンを獲得してきた。福井さんもその一人で、気心の知れた人たちとよく訪れるという。「僕は食事に行っても自分のことを名乗らないんですが、ここは福寿園の社長であることも知ってもらった上で行ける数少ないお店。すごく熱心な料理人がいると、知人の紹介で行ったのが最初です。青年会議所の仲間が京都へ来た時や、誕生日祝いなどに行っています」(福井さん)「福井さんは1~2年目くらいから来てくださっていると思います。今は年4回ぐらいかな。大らかで面白くて、僕も大好きな方です」(吉岡さん)「鰻の寝床」を生かした店内は、8席のカウンターと個室が一つ。広々としたカウンターでは、キッチンのライブ感と共に食事ができる。吉岡さんは、一つのエンターテインメントとして食を楽しんでもらいたいと話す。「大々的に料理を作っているところを見て、会話しながら楽しんでもらう。レストランは非日常的な場所だと思っているので、うちでしか食べられないような料理を作っています」「人の記憶をはがして、うちの店の記憶を張り付けるくらい印象に残るような料理を提供したい」そう話す吉岡さんは、イタリアンの名店「カノビアーノ」の3店舗で8年半、腕を磨いたのち、1年のヨーロッパ修業を経て独立した。島根県から届く無農薬野菜をはじめ、全国の安全な旬の素材で仕立てる夜のおまかせコース12000円(税サ別)は、希少な牛トンビなどが登場するメインをはじめ、10品前後で構成。締めにカレーが出るなど、イタリアンの枠にとどまらない趣向を凝らした品々が並ぶ。「気に入っているのは料理のセンスと味。また、自分の好みも聞いてくれるし、料理の説明を聞きながらシェフとやり取りするのも楽しい」と、福井さん。吉岡さんも、 「福井さんは食べることがすごく好きな方で、疑問に思うことは聞いてくださるし、本当に楽しんで料理を食べておられると感じます」と話す。吉岡さんは、年に数回ヨーロッパ各国を巡り、現地の文化や料理、食材からインスピレーションを得ているという。「素材も技法も、他ではあまり体験したことがないものを取り入れて楽しませてくれる。たまに行きたい時に1週間休みだったりすることもありますが(笑)、その分、期待してしまいます」(福井さん)「海外へ行くと必ず新しい発見があり、それが料理にはまる瞬間が楽しい。常連の方も『次行ったら、また新しいもん食べさせて』と言ってくださいます」(吉岡さん)最近はスペインへ行くことが多いという吉岡さん。2018年にはバリャドリードであったタパスの世界大会に出場し、賞を獲得。また現地のレストランとのコラボなどさまざまな活動を行っている。コース内容は基本月替わりだが、中には定番のものも。福井さんも大好きだという「鰻と鶉卵の燻製」は、オープン以来のスペシャリテ。三河一色産の大ぶりの鰻と半熟の鶉卵を燻製し、燻製煙が立ち上るガラスの器で提供。燻製の香ばしさと玄米塩麹で味付けした鰻と半熟卵の旨味、組み合わせの妙を五感で堪能する。父親がかつて鰻の仲買人で、鰻のことも熟知している吉岡さんならではの一品だ。「他では食べられない料理。熱々の鰻と冷たい鶉卵を一口で食べるんですが、なんとも美味い」(福井さん) もう一つのおすすめ「245サラダ」も、野菜使いに長けた吉岡さんらしい定番の品。赤地に黒の皿に、生や焼き物、マリネ、フリット、ニョッキ、チップなど、多様な調理法で仕立てた約30種の野菜を、美しく盛り付ける。中には四つ葉のクローバーや女性限定のハートの花びらを忍ばせ、野菜の下には熟成発酵させた黒ニンニクのソースを。柚子の酸味とゴマを加えたソースは、香ばしく味噌のように深みがある。「盛り付けが立体的で、非常に華やかなサラダ。当社もレストランを運営していますが、遊び心や鮮やかな色使いなど、緑や茶色が中心のお茶の世界ではできないことを体現されていて、こんなふうにしたいなと、いつも刺激を受けています」と、福井さん。その言葉に、「うれしい」と吉岡さんも返す。「福井さんは否定から入らず、一旦自分の中に受け入れてくれるような方。作り手としてもやりがいがあります」床は一部ガラスになっており、地下のワインセラーが見えるように。こうした仕掛けも非日常の演出の一つ。ワインはイタリア、フランスを中心に約600本をストック。スペインで買い付けたものやシャンパンも充実。 「場所柄、緊張される方もおられるので、節度を持ちつつフランクに接して、居心地よく過ごしてもらうことを心がけています。今は料理がおいしいのは当たり前で、いかに楽しかったと思って帰ってもらえるかが大事。『楽しかった』に『おいしかった』も含まれると思うので、そこに全力を傾けたいですね」と、吉岡さん。そんな店の姿勢に多くの常連も信頼を寄せているのかもしれない。「料理を突き詰めていくシェフのように、よりお客様に喜んでいただけることを考え出さなければと、ここに来ると思わされます。料理やサービスはもちろん、そういうところも好きなのかなと思います」(福井さん)撮影 エディ・オオムラ 文 山本真由美■祇園245京都市東山区新門前通花見小路東入中之町245-1075-533-8245営業時間 12時(入店)、18時~20時30分(LO)定休日 火、不定休http://www.gion-245.com/
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BLOG料理人がオフに通う店
2020.05.22
「ESTRE」-「炭焼 芹生」芹生玄さんが通う店
「炭焼 芹生」店主 芹生玄さん大学時代、飲食の世界に興味を持ち、在学中に一年間、オーストラリアに留学。車でオーストラリア一周する時間が、外から日本文化を見つめる貴重な機会となり、和食の道へ進むことを決意。宮川町の「蜃気楼」をはじめ、木屋町の名店「割烹やました」では10年間修業し、長年、焼き場を担当。炭焼の技を研鑽する中で、炭焼の奥深さに魅了され、自身の店開く際も、炭火焼を柱に据えた。目利きとして厳選した旬の素材をふんだんに用い、最高の炭火の技を駆使して、香味豊かな炭火料理を提供している。アットホームな雰囲気でくつろげる店内。木のぬくもりが優しい。 東大路通三条下ル。ビルの一階にある小さな入り口を入ると、なんとも心地よい空間が広がる。wine & beer「ESTRE」は、クラフトビールやナチュール系のワインを豊富に取り揃え、オーナーシェフの井上純一さんが作る料理とともに気軽に楽しめるイタリアンバールだ。妻の春香さんとともに、アットホームなもてなしで出迎えてくれる。 井上さん夫妻の息の合ったもてなしがとても心地いい。「井上さんご夫妻とは、滋賀県で開催された食イベントで隣同士のブースになって、そこから交流が始まりました。ご主人は新潟出身、奥さんは青森出身で、お二人とも本当に人柄がよくて、二人が醸す暖かさが心地よくて通ってしまうんです」(芹生さん) 仕事が早く終わった日の帰りがけに、ふらりと立ち寄るという芹生さん。いつもチケーティ(小皿料理)を何皿か頼んで、それをつまみに、本日オススメのグラスワイン何種類か味わうのだそう。「チケーティは毎日、15種類くらい用意しています。一皿200円〜で、手軽に色々な料理を楽しんでいただけます。お二人以上なら、盛り合わせもおすすめです」。そう話すオーナーシェフの井上さんは、東京や京都のイタリアンレストランやカフェ、バールなどで修業を積み、3年前に独立。自分たちの好きなナチュール系ワインやクラフトビールとともに、気軽に料理を楽しめる店を作りたいと考えたという。 左からフレッシュオレンジと人参のサラダ、ブロッコリーのアンチョビソテー、ヤングコーンのチーズロースト、海老のクミンバターソテーなど、色とりどりのチケーティは一皿200円〜。前菜盛り合わせ1300円〜もお値打ち。 メニューは黒板にぎっしり書かれているが、その日の仕入れで変わるそうだ。野菜が特に好きで、いろいろな種類の野菜を様々にアレンジするのが楽しいという。チケーティだけをとっても、人参、ヤングコーン、ブロッコリーと野菜のメニューが多く、様々な味わいにアレンジされている。 メニューは野菜料理、魚介料理、肉料理、そしてパスタ、リゾットで構成されていて、チケーティとワインを軽く楽しみたいという人から、肉とパスタでガッツリ食事をという人まで、どんなシチュエーションでもしっかり応えてくれる。スペアリブのオレンジとローズマリーの煮込み700円。オレンジジュースと白ワインでスペアリブをじっくり煮込み、マスタードとローズマリーの香味をプラス。甘酸っぱいソースととろけるように柔らかい肉を堪能。「クミンなどのちょっとしたスパイス使いや、フレッシュな果実や果汁をソースに用いたり、とにかく井上さんは料理センスが抜群なんです。何を頼んでも美味しくて、毎回、料理談義も弾みます。いつも締めに頼むのが、大葉のジェノベーゼパスタ。これが本当に美味しくてメニューにあると必ず、注文してしまいます!」(芹生さん) 大量の大葉とローストアーモンドパウダーをミキサーにかけて作る香り高いソースに、海老、イカ、シラスなどの魚介を合わせて、リングイネ・ピッコロと合わせて、千切りの大葉をたっぷりトッピング。見た目も鮮やかな大葉のジェノベーゼパスタ1400円。「井上さんと奥さんがうちの店に来てくれることもあって、これからも交流を深めていきたいですね。料理について刺激しあえる間柄でいたいと思っています」(芹生さん)「そんな風に言っていただけると恐縮してしまいますが、とても嬉しいです」(井上さん) 自身もワインやクラフトビールが大好きという井上さん。お酒好きなシェフが作る料理は、どれもワインやビールがついつい進んでしまう味の仕立てだ。さらに店主夫婦の親しみやすい人柄と店の心地よさも手伝って、つい長居をしてしまいそうになる。料理のプロ同士の刺激的な交流から生まれるであろう、新しい味わいがこれからも楽しみだ。ナチュール系のワインが豊富に揃う。左はイタリア・ピエモンテ州のオレンジワイン、G940円、B6500円。右はフランス・ブルゴーニュのピノノアール、G990円、B7890円。グラスワインは泡、赤、白、オレンジなど常時7〜8種類、用意している。クラフトビールも多彩。1本800円〜。撮影:津久井珠美 取材・文:郡麻江■wine & beer「ESTRE」京都市東山区三条通南裏白川筋西入3丁目南西海子町434−6ー1F075-551-828918:00~24:00(LO)不定休
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