食知新ブログ
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BLOGうつわ知新
2020.04.30
皐月 端午の節句
梶高明梶古美術7代目当主。京都・新門前にて古美術商を営む。1998年から朝日カルチャーセンターでの骨董講座の講師を担当し、人気を博す。現在、社団法人茶道裏千家淡交会講師、特定非営利活動法人日本料理アカデミー正会員,京都料理芽生会賛助会員。平成24年から25年の二年間、あまから手帖巻頭で「ニッポンのうつわ手引き」執筆など。全国の有名料理店と特別なうつわを使った茶会や食事会を数多く開催。皐月 端午の節句5月の時節を代表する花と言えば「あやめ」「しょうぶ」「かきつばた」が思い浮かびます。これらの花は、詳しい人でなければ区別がなかなかつかないらしく、「あやめ」と「しょうぶ」はいずれも漢字表記では「菖蒲」と表すほどに近しい花です。これらの花はうつわやお軸の図柄としてもたびたび登場いたしますので、今回はこれらの植物と美について少しお話をさせていただきます。陶芸家の北大路魯山人は「あやめ」を「あや免」と箱書きに記し、あやめを題材にした多くの作品を残しています。その中からまずは、「あや免鼠志野鉢」を紹介いたします。この作品は、縁の2箇所に「窯裂(カマギレ)」、つまり焼成中の歪みによって、縁の部分が裂けてしまったものを金継ぎ(金を用いて補修すること)してあります。私たちの業界では、うつわが完成した後に、人の過失によって破損した場合は「キズモノ」と呼ばれても仕方ないのですが、窯の中で発生したことは、自然のものとして、ありのまま受け入れようとする考え方があり、金を用いて修理した景色も、アクセントのひとつとして、面白いなぁ、と私は思うのですが、人によってはこれを「キズモノ」同様に嫌う方もおいでになります。さて、この「窯裂(カマギレ)」について、魯山人はある逸話を残しています。業界の大先輩にお聞きしたことがありましたので、皆様にもお伝えしておきましょう。魯山人 鼠志野鉢「あやめ」魯山人は昭和30年頃から、祇園の新門前通にあります京都美術倶楽部を会場に、作品の発表と販売を幾度か行っていましたが、それより少し以前に、京都女子大学近くの東山の山裾に佇む、裏千家の桐蔭席と呼ばれる茶室をお借りして作品を発表していたことがあったそうです。そこへ私どもの同業のご主人が訪れて、次回からは京都美術倶楽部で開催してはどうか、と提案されたことがあり、その際に、たまたま陳列会場の端に無造作に放置されていた「窯裂(カマギレ)」のある作品を目に留め、これも金継ぎ補修して販売されたら良い、とアドバイスをされたそうです。それ以来、魯山人は自ら金継ぎをして、作品を発表するようになったと言うことです。さて、このエピソードを聞いて、改めてこの「あや免鼠志野鉢」を見てみると、このうつわはまさにそういう経緯で生まれた品物だろうと思えてきます。ところで、魯山人はこの世に20万点以上の作品を残したと言われています。私が親しい陶芸家に、生涯に制作する点数を尋ねたところ、5万点くらいだろうと教えてくれました。彼は超人気作家で、決して作品数の少ない人ではありません。それを踏まえたうえで魯山人のことを考えると、その作品数の圧倒的な多さがおわかり頂けるかと思います。作品数が多いと、希少性が失われ、値打ちが下がるのでは、とお考えの方も、多くおいでになるかもしれません。しかしながら、作品数が多いからこそ、広く人の目に触れ、多くの人に所有され、市場を形成できたわけですから、作品のクオリティが保たれているのであれば、むしろ多作であることはその作家の評価を上げる効果につながると言えるでしょう。しかし魯山人がそれだけ多作であれば、同時に多くの破損した作品や失敗作、「窯裂(カマギレ)」を起こしたものも多数生み出されたことはご想像いただけるかと思います。私もいままでに、そういった作品をたくさん扱ってまいりましたが、それらはどれも「完品(かんぴん)」とは呼ばれなくとも、充分すぎる魅力をたたえた作品でした。一方で、魯山人が多くの作品を残せた理由は、それは本人が作らず、職人に作らせたからだと言う人がいます。しかし、私が以前読んだ書籍の中に、魯山人の作品は、全て本人が作った作品である、と明言している文章がありました。そしてそれはおそらく真実でしょう。というのも、彼が言わんとする「作る」という行為は、単に轆轤をひくということではなく、絵付を施すということでもない、つまりは自分は直接手を下していなくとも、土を選び、その配合割合を決め、釉薬の調整を指示し、形や造形にも関わっていく、それらを総合的に自分はコントロールしているのだ、ということなのだと思います。料理屋のご主人が、野菜を作り、魚を釣り、お出汁をひき、料理を盛り付け、といったすべてをひとりで行わず、時には誰かに委ねはするものの、最終的に自分の責任において吟味しつくし、自らの料理と呼ぶにふさわしい水準に引き上げてお客様に提供するのと同じことではないでしょうか。魯山人の作品は全て、魯山人自らの責任の下で完成をさせて世に送り出したもの、ということであって、自分が全ての工程を、誰の手も借りず行ったという意味ではないのです。自分で責任をもって作品を完結させているからこそ、魯山人の作品は、彼のこだわりが大変強く反映されていますし、それゆえ多くの作品が陳列されているオークション会場においても、彼の作品は一目で見分けることができるのでしょう。織部釉『あやめ十字皿』先にお話ししたように、魯山人は大変多作なアーティストでしたから、おそらくは傷物として世に発表されなかった作品も多く存在したことでしょう。私も何点かそういったものを持っていて、ここに紹介する「織部釉菖蒲十字皿」はまさにそれに当たると思います。素焼きの段階で対角線上に割れてしまっていますが、織部釉をうまく裂け目に沿って掛け、裂け目を塞いでいます。このうつわが私の手元にやってきた時は、織部釉の表面が曇っているようで、まるですりガラスのような、光沢のないうつわでした。いつだったか、私が陶芸家たちと一緒に開催している勉強会の中で、うつわの表面をサンポールで拭き取ると、酸が作用してくすんだうつわの表面の透明感が増す、という話が出たことがあります。そこで、うつわをひと晩サンポールに浸しておいたところ、写真のような美しいかがやきが蘇りました。魯山人は割れたうつわをゲモノとして扱わず、割れた部分さえ見どころにしてしまおうと目論んだ、そんな魯山人独特の考えの証がこのうつわだと思っています。永楽十四代得全造『光琳絵様 色紙皿』次にご紹介するうつわは「永楽十四代得全作光琳絵様色紙皿」です。このうつわは20客絵替わりで揃っており、それぞれに季節の草花が描かれています。その中に、この時期に使ううつわとして、杜若(かきつばた)を描いた「八ツ橋図」があります。杜若が咲いている湿地の上に、簡単な足場としての板が渡してある風景が描かれているのですが、この風景は古くから日本人に愛されてきた伊勢物語の中の有名なエピソードを表しています。平安時代、在原業平が京の都に住まうことが難しい状況になり、お供を伴って東国へ下っていく情景が伊勢物語の中で語られています。そして、ちょうど三河の国辺りを通りがかったところで、このうつわに描かれた「八ッ橋」の風景に出くわしたそうです。大変美しい景色であったのでしょう、「か・き・つ・ば・た」という言葉を、節の先頭の音に絡めて「唐衣 きつつなれにし つましあれば はるばるきぬる 旅をしぞ思ふ」と歌を詠み「着慣れた唐ころものように気心の知れた妻を都に残してはるばるこんなところまで来てしまった」と、未練を込めて残した歌や心情を絵に置き換えて、幾度となく描かれてきたのがこの「八ツ橋図」なのです。 うつわを通して、日本の古典文学や和歌に触れられることの一例です。樂六代左入作の「柏皿」次は柏の葉の形をした向付をご紹介いたします。端午の節句に、みなさんは柏餅をいただかれることと思いますが、柏の葉はお正月のゆずり葉と同じ意味を持っていて、柏の葉は枯葉となっても木から落ちず、新しく葉が出てくれば古い葉が落ちて入れ替わる。つまり、「子が育つまで親は息災である」「家系が途絶え事がない」など、神様に見守られた世代交代を暗示する植物なのです。また柏(かしわ)は、米を炊(かしぐ)ときに柏葉を下に敷いたことからその名があると言われているので、男の子の成長を祝う端午の節句に、赤飯を炊き、餅を包むのに柏の葉を使ったことから、この時期の使われる向付になったのでしょう。今月も最後にお時候の掛軸をご紹介いたします。江戸の後期に活躍した三村晴山の手による「菖蒲甲虫図幅」です。何気なく見ているだけでは青葉の根元に甲虫が休んでいるだけの構図ですが、描かれているものの意味を読み解くと、また違った姿が見えてくるのです。このお軸の中では、菖蒲の葉は刀を、甲虫は兜を表しています。菖蒲は尚武(しょうぶ)、つまりは武道や武勇を重んじる精神を意味しており、まさに端午の節句にふさわしい植物なのです。 5月の掛軸に武者絵などを用いたり、甲冑を飾ったりもいたしますが、それに比べると、なんと和やかで洒落た表現なのだろう、と感心します。さて、ここまで5月の季節を様々な作品を通してお話しさせていただきましたが、感性だけで季節を楽しむのではなくて、知識や教養が、より深い美の世界を見せてくれることを感じ取っていただけたでしょうか。是非皆さんも、暮らしの中にそんな美を探してみてください。
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BLOG割烹知新〜奇想の一皿〜
2020.04.29
日本料理 とくを「春のグリーンフォンデュ」
奇想の一皿「春のグリーンフォンデュ」カウンター割烹の老舗『たん熊北店』などで修業し、2005年に独立した徳尾真次さん。京都が誇る割烹文化を次世代に伝えるべく、四季折々の割烹料理を用意して客を迎えます。時に包丁をマイクに持ち替え、ステージに立つこともある徳尾さんが、音楽イベントで目にした料理から発想を得た料理とは。見た目も春らしい奇想の一皿をご覧ください。発想秘話以前、僕がやってる音楽と食のイベントで、『京都ネーゼ』の森さんがフォンデュっぽい料理を出したことがあるんです。それが頭の隅に残っていて、今回「和食の枠を飛び越えた料理」というお題をもらったときに、自然とチーズフォンデュが思い浮かびました。もちろん和食の料理人が作るのですから、完全な洋風スタイルにするのではなく、和のエッセンスも取り入れたい。そこで、おだしと豆乳をベースにしたフォンデュソースを考えました。春らしさを感じてもらえるよう、えんどう豆を使ってグリーンのソースに仕上げてみようと思います。一般的なチーズフォンデュは茹でた野菜や魚介類、バケットなどを白ワインで伸ばしたチーズソースで食べますが、今回はフォンデュの具材として串カツをご用意します。串カツの材料はホタルイカ、ホワイトアスパラ、たけのこ、たらの芽、そしてシュガートマトの5種類。それぞれ食べやすい大きさにカットしていきます。たけのこ以外の野菜は生のまま、たけのこはおだしで炊いてあります。シュガートマトは当初予定に入っていませんでしたが、おかみさんの「チーズに合うし、色も映えるのでは?」という鶴の一声で採用しました(笑)。それぞれ串に刺したら、パン粉をつけて揚げていきます。うちは割烹屋なので、普段からフライはよくするんですよ。目の細かいパン粉をさらっとまとわせて、さっぱりと召し上がっていただきます。衣が油を吸いすぎないよう、目の細かいパン粉を使うのがポイントです。うちでは市販のパン粉を手でもんで、極限までさらさらの状態にして使います。細かいパン粉で素材をコーティングするイメージですね。ホタルイカとトマトは破裂するのを防ぐため全体にパン粉を、それ以外の野菜は見映えを考慮して片面だけにパン粉をつけます。これで串カツの下ごしらえは完了。それではいよいよフォンデュソースに取りかかりましょう。鍋に一番だしと豆乳を1対1の割合で入れ、火にかけます。それぞれ100mlくらい。ここに白味噌大さじ1を加えて馴染ませます。ベースが和のおだしだったり、味付けに白味噌を使うことで、和食っぽさを出していけたらと思います。白味噌が溶けたところで、えんどう豆のペーストを加えます。これは茹でたえんどう豆を裏ごししたもの。うちでは「えんどう豆のすり流し」を作るときにも使っています。ざるを使ってペーストをすりつぶすように溶かし入れたら、次にクリームチーズを加えます。チーズが少し溶けにくいので、なめらかな舌触りになるまで何度か濾します。今日使ったクリームチーズは、スーパーやコンビニでも見かける『kiri』のもの。たまたま節約系のテレビ番組で「クリームチーズを使った激安リゾット」を紹介しているのを見て、「おもしろいな」と思って使ってみました。以前、某テレビ局の番組内で"身近な食材を使った5分間クッキング"のコーナーを担当していたので、「誰でも簡単に手に入る材料」を使ってみるのもいいかと思って......。豆乳だしとの相性も良く、イメージ通りの味に仕上がったと思います。火を入れすぎるとえんどう豆のきれいなグリーンが飛んでしまうので、加熱しすぎないよう気を付けながらソースを仕上げます。くずでとろみを足し、さらに濾してなめらかになったところで完成です。先ほど下ごしらえした具材をサラダ油で揚げ、串揚げが完成。最初はソースを鍋で提供するつもりでしたが、だんだん煮詰まってしまいますし、一皿に盛るのもきれいかなと思ってワンプレートに盛り付けました。あつあつをソースにくぐらせてお召し上がりください。クリーミーなソースはえんどう豆の風味が感じられて、これだけでも十分おいしいのですが、揚げたての串カツに合わせるのもおもしろいでしょう? 味の濃いホタルイカも、フォンデュソースがしっかりと受け止めてくれます。生野菜に添えてディップ代わりにしてもいいですし、もちろん単品でもお酒にぴったりの酒肴になります。僕はカウンター割烹の店で修業させてもらったので、自分の食べたいものを好きなように注文できる「割烹文化」に誇りとこだわりを持っています。実は開店から半年はいろんな準備が整わず、コースしかご用意できなかった。だから「割烹」とは名乗らず、あえて『日本料理 とくを』として暖簾を上げました。「割烹」を名乗るには、それだけの覚悟が必要だと思うからです。割烹には持久力に加え、お客さんの要望にすぐに応えられる瞬発力が必要です。オーダーが通ってからしか準備できないものが多く、お客様にずいぶん鍛えられました。お昼しかお越しになれない方のためにランチ営業も続けていきたいですし、「割烹文化を次世代に伝えていく」という使命感を持って、これからも精進していきたいと思います。撮影 鈴木誠一 取材・文 鈴木敦子■日本料理 とくを京都市下京区木屋町通仏光寺上ル075-351-390612:00~14:00(最終入店12:30)、18:00~22:00(最終入店20:00)定休日 日曜・月曜の昼 ※日曜が祝日の場合は翌日休
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BLOG料理人がオフに通う店
2020.04.23
「炭焼 芹生」-「Vena」早川大樹さんが通う店
イタリア料理「Vena」シェフ早川大樹(ハヤカワ ヒロキ)さん《プロフィール》1982年、京都府生まれ。イタリアンの名店「イル・ギオットーネ」で修業を積み、2016年、ソムリエの池本洋司さんとともに「Vena」を開業。これまで積み上げてきた経験をベースに、丁寧に食材を選び、旬を瑞々しく感じさせる料理で多くのファンの心と舌を掴んでいる。旬味満載の一品とひと手間掛けた炭火焼をコース仕立てで。素材の持ち味を引き出す、名店譲りの技に注目。先日、オープン3周年を迎えた「炭焼 芹生」。名割烹として知られる木屋町「やました」出身の芹生玄さんが、「やました」仕込みの炭火料理をコースで提供し、根強い人気を誇る一軒だ。「芹生さんとは朝の市場で顔を合わすことが多いですね。同い年ということもあり、自然と言葉を交わすようになりました」と早川さん。L字のカウンターは、おいしいものに目がない客で賑わいをみせ、早川さんのような飲食関係者も少なくない。同じ魚屋で仕入れをすることから、しばしば市場で顔を合わせるというお二人。今では互いの店を行き来したり、共通のお客さんを介した食事会で盛り上がることもあるそうだ。「休日に妻と伺うことが多いのですが、コースの料理はどれも美味しく、素材の持ち味をうまく引き出していると感じます。一見シンプルですが、調味料を工夫していたり、細やかな気遣いが勉強になります」(早川さん)コースには炭火焼以外に和え物やお造り、椀物、酢の物など、魅力的な料理が数多く盛り込まれ、旬のごちそうが一通り楽しめる内容に。「やはり『やました』での経験が大きいと思います。大将は食材の持ち味を引き出すのがうまい人。常に"素材の味をどう表現すべきか"と考える癖がついたのは、大将の影響ですね」と芹生さん。「『やました』では、まだジビエを扱う店が少なかった頃から猪や熊を積極的に使っていて、川のものなどでも他所の店では扱ってないものを出していました」と、修業時代を振り返る。コース中ほどに出される野菜焼き。しいたけは炭火で焼いた後、バターとブランデーで別途香り付けを。皿には能登の天然塩と、自家製の合わせ味噌が添えられる。味噌は柑橘類やごまで風味付けした焼き野菜用の特製味噌で、思わず日本酒を追加したくなる味わい。「野菜は季節によっていろんなものを使います。旬のものを市場で仕入れることが多いですね。丸茄子があるときは茄子田楽を作ってみたり、その時々で出し方も工夫しています」(芹生さん)この日の肉は和牛のラム芯(もも)。鹿児島県産の赤身を使うことが多いという。猪や鴨、ごく一部の店でしか食べられない鹿児島産の希少な豚「サドルバック」が入荷することも。「休ませながらじっくり時間をかけて焼いていくので、柔らかいでしょう?」と、笑顔の芹生さん。肉に添えられたタレがまたくせ者で「コース終盤でもすんなり胃に収まってしまいます」と、早川さんも絶賛。「これは『やました』で覚えた肉だれです。大根、人参、セロリなどが入った和風のデミグラスソースで、ハマる人が多いですね」(芹生さん)「今日は千葉の金目を焼きました。同じ魚でも獲れた場所によって味や脂の乗りが全然違うんです」と、今から焼く魚を見せてくれる。いつも捌く前の魚を直接お客さんに見てもらい、どれを焼くか選んでもらっている。金目は焼き上がり直前に刷毛で醤油をサッと塗り、香ばしく仕上げる。時には西京焼きや幽庵漬など、下味をつけた魚を用意することも。「本当は『やました』のような割烹スタイルが理想なんですが、うちの規模ではなかな難しい。でもせめてメインぐらいは自由に選んでもらえたら」と、主菜の選択肢を多めに用意する。仲のいい料理人仲間と全国の人気店に足を運び、「今どんな料理が求められているのか」「どんな調理法が流行っているのか」など、情報収集にも余念がない。ブラッシュアップを欠かさない芹生さんの料理と気さくな接客を楽しみに、今日も多くの客が「芹生」の暖簾をくぐる。コースは8000円~20時半以降はアラカルトでの注文も可。撮影 鈴木誠一 取材・文 鈴木敦子■炭焼 芹生京都市中京区占出山町299 ヒラタビル1F075-744-048811:30~13:00(L.O.)、17:00~22:00(L.O.)月曜・第3日曜休
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BLOG京の会長&社長めし
2020.04.21
株式会社西利の社長が通う店「山家(やまが)」
■平井誠一(ひらい せいいち)さん 1967年京都生まれ。大学卒業後、山本海苔店に勤務した後、京つけもの西利へ入社。 取締役営業部長、代表取締役専務を経て2013年代表取締役社長に就任する。「旬 おいしく、やさしく。」をモットーに和食文化を大切に食卓に健康と笑顔をお届けすることを目標にしている。和食の基本である「ごはん」を美味しく食べてもらい、和食を楽しんで頂けるように「京つけもの西利」「酵房西利」のブランドを活用し、漬物だけでなく西京漬や総菜など様々な提案を行う。 また新たに「京都発酵食研究所」を設置し、これまで培ってきた西利の発酵食の知見と技術を活かして「発酵生活」や「乳酸発酵甘麹AMACO」などのブランドを活用して調味料、ドレッシング、スープなど、現代の食生活に即した提案も行う。 最後の晩餐は、宮川町「ポパイ」のレモンチャーハン。地元で愛される老舗居酒屋で、丹波地鶏を使った自慢の鶏料理ほかバラエティ豊かな味を普段、会合や会食でコース料理を食べることが多い分、プライベートではアラカルトで楽しめる店を選ぶという平井さん。その中でも今回お薦めの「山家」は、家族でよく利用する一軒だと話す。「僕は家で食事をすることが少なくて、たまに家で食べられるときは、逆に家族が外食をしたがるんですよ(笑)。それで鶏料理が好きなこともあって、近所にあるこの店に行き始めたんです。鶏料理がメインの居酒屋ですが、僕は居酒屋というより鶏料理の店だと思って行っています。料理はおいしいし、お店の皆さんも気さくで、いつも賑わっていますね。家族で外食しようとなると、一番に候補に挙がるお店です」(平井さん)「鶏料理以外にもメニューがいっぱいあって、お造りやアテ系のものなど、居酒屋的な頼み方をして楽しんでいます」(平井さん)「府立大学前」バス停前にある居酒屋「山家」は、1973年の創業。鶏肉専門店の飲食部門として営業していたが、その後、鶏肉販売をやめて飲食のみの経営となり、2010年に現在の店舗にリニューアルした。メニューは串焼きやたたきなど朝挽きの丹波地鶏の料理をメインに、魚介の料理や豆腐料理、サラダなど、旬の食材を使用した豊富な一品がリーズナブルに楽しめ、幅広い層から人気を集める。常連には平井さんのように2代3代で通う地元客のほか、府立大学、京都大学、大谷大学といった近隣大学の関係者、また学生時代を懐かしんで訪れる遠方の客も多く見られるという。「平井社長にはよくご家族で来ていただいています。まだ小さかったお子さんがもう大学を卒業されるくらいなので、最初に来られてから6~7年くらいになるでしょうか。今は娘さんと息子さんだけで来ていただいたりもして、本当にうれしい限りです」と、3代目店主の三原一恭さん。父が開いたこの店を、大学時代から手伝い、20代後半で叔父から引き継いだ。現在は奥さんやスタッフと店を切り盛りしている。「奥さんをはじめ、皆さん明るくていい人ばかり。雰囲気は家庭的なんですが、おしゃれでかっこいい」そんな平井さんの言葉に、三原さんは少し照れながら、「ありがたいですね。接客は家内が担当していて、仲良くさせていただいています。本当にいいご家族で、いつも和やかに食事をされている印象があります」と語る。カウンターとテーブル席、中庭を挟んだ奥に掘りごたつの個室を配したナチュラルモダンな店内は、京都工芸繊維大学の長坂教授の設計によるもの。ゆったり過ごせる雰囲気で、時にはサッカーやラグビーの試合の観戦イベントを行うことも。「お一人様からカップル、ご家族連れ、女子会など、いろいろご利用いただいています」と、三原さん。一人客用に料理をハーフサイズにしてもらうこともできる。カウンターの上には懐かしいレコードジャケットが。三原さんが好きだという80年代の洋楽も流れ、ノスタルジックな気分にさせる。食材は、鶏肉や鴨肉はもちろん、魚介も野菜も信頼を置く業者や生産者から新鮮で質のいいものを揃える。特に野菜は上賀茂・森田農園の賀茂茄子など、できる限り地のものを使用しているという。数あるメニューの中で創業以来の名物になっているのが、「肉の焼き加減やポン酢の味がいい」と、平井さんも必ずオーダーする「おらが焼き」820円。鶏もも肉一枚を天火で焼いたあと、炭火で軽くあぶり、おろしポン酢でさっぱりと仕上げる。皮はパリッと、身はジューシーで柔らかく、まろやかで少し甘めの自家製ポン酢と相性抜群。トッピングのネギと紅ショウガの風味や食感もアクセントになっている。平井さんがいつも締めに食べるという「鴨と水菜のはりはり鍋」2200円は、年中楽しめる人気の品。「2人前で出てくるので、皆で分けて食べます。おだしが最高においしい」(平井さん)九条ネギの甘さを引き立てるかつおのだしに、大阪・河内産の鴨肉をさっとくぐらせ、しゃきしゃきの水菜やキノコ、油揚げなどと味わう。柔らかく程よい脂と旨味の鴨肉に山椒の風味、だしがしみた油揚げがこれまた美味。「僕はあまり食べないんですが、鍋のあと雑炊にしてもらうこともできます」と、平井さん。ご飯ものでは、大葉とちりめん山椒を混ぜた「しそじゃこご飯」や、いろいろな具が入ったおにぎり「ばくだん」もお薦めだという。酒類も充実しており、日本酒や焼酎は、定番アイテムに加え、「今月の美酒」として月替わりのお薦めが登場する。写真はその一例で、石川の「五凛」、奥さんの出身地、愛媛の「京ひな 内子座」、京都の「蒼空」など。京都ではレアだという「京ひな」は、優しい香りとすっきりとした飲み口の純米吟醸。自家製鶏味噌を使った「焼き味噌」などの酒肴と共にぜひ味わってみたい。お客から帰り際に「おいしかった」と言われるのが一番うれしいという三原さん。その笑顔を見るために、創業以来の味と明るく温かな雰囲気づくりを大切にしている。「楽しくお食事をしていただいて、元気になって帰ってもらうのがうちのモットー。それには、お客さんの雰囲気を邪魔しないなど、ちょっとしたことに気づいてあげることが大事だと、スタッフにも厳しく言っています。気さくな感じの中でも、きっちりとしたサービスをしていきたい。ただ料理がおいしいだけじゃなく、明日への活力になるような店でありたいですね」撮影 エディ・オオムラ 文 山本真由美■山家京都市左京区下鴨西本町7-3075-722-0776営業時間 17時30分~23時(LO22時30分)定休日 木 http://www.kyoto-yamaga.com/
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BLOG料理人がオフに通う店
2020.04.15
「IL GECO」-「Vena」早川大樹さんが通う店
イタリア料理「Vena」シェフ早川大樹(ハヤカワ ヒロキ)さん《プロフィール》1982年、京都府生まれ。イタリアンの名店「イル・ギオットーネ」で修業を積み、2016年、ソムリエの池本洋司さんとともに「Vena」を開業。これまで積み上げてきた経験をベースに、丁寧に食材を選び、旬を瑞々しく感じさせる料理で多くのファンの心と舌を掴んでいる。 四条西洞院下ルにある静かなビルの地下一階。そこに「イタリア料理&ワインIL GECO」がある。オーナーシェフの矢守保則さんは、京都の「サンタ・マリア・ノヴェッラ」をはじめ、京都、大阪のイタリアンレストランで修業を積んだ。7年前に独立し、自分の店をオープンさせた。「奇をてらわず、普通の料理が当たり前に美味しいという店を目指しました」という矢守さん。アラカルトが主体で、ワインはすべてイタリアのものを揃えている。サービスを担当する妻の寛美さんと二人で店を切り盛りしている。「僕がVenaを開店した頃から伺うようになりました。定休日前日の、仕事終わりに訪ねることが多いですね。うちの店は、王道のイタリアンというよりは、創作イタリアンにシフトしているので、本場の味に近いものを出しておられる矢守シェフの料理をよく食べたくなるんです。矢守さんは、よくイタリアに行かれていて、たとえばシチリアやヴェネト、ローマなどの現地の料理を視察、体験して、それをリアルに活かした料理を出してくれるので、とても勉強になりますし、刺激を受けています」(早川さん)「そうですね。ほぼ毎年、一度のペースでイタリアに料理の研修に行きます。あちこちの都市を巡るのではなく、ある一定に地域に滞在して、まず、その土地の郷土料理を食べる。何軒もの店を回って、同じメニューを味わって、その料理の郷土色や風土が育てた味の原点を感じ取るようにしています。でも帰ってからが大変で...。毎回、研修結果報告の料理アルバムを作成すること、研修記念の特別メニューに取り組むことを自分に課しているので(笑)。でもお客さんも楽しみにしてくださるので、それは続けているんです。その特別メニューの中から、評判の良かった人気料理をグランドメニューにすることもあります」(矢守さん)モチモチとした食感が食欲をそそる「クルルジョネス」600円 メニューは大きくアンティパスト、プリモピアット、セコンドピアットに分かれている。深夜2時頃までオープンしているので、早川さんのような同業者のプロの料理関係の人もよく立ち寄るそうだ。 「僕はまずビールを飲んで、そのあとはワインを1本、ゆっくり飲みます。最初に前菜をアラカルトで頼んだり、盛り合わせにしたり。その後は、おまかせでその時期のパスタをいただきます。仕事が終わってからなので、大抵夜中の12時ぐらいから行って、閉店までいる感じですね」(早川さん)。 早川さんも時々食べるのが、矢守さんご自慢の前菜、サルディーニャ島のマンマ直伝の「クルルジョネス」600円。本当はパスタ料理だが、量が多くなってお腹がいっぱいになってしまうので、2個だけ前菜として提供している。 自家製のパスタでじゃがいも、ペコリーノ、ミントを包んで、茹でて、トマトソースを添えた一皿で、パスタのもちっとした食感、じゃがいもとペコリーノの相性も良く、2個、ペロリと食べてしまう。「こういう現地の料理を食べながら、材料や作り方について、いろいろ教えてもらって...。料理の話をよくしていますが、本当に勉強になります。新しいメニューを考えている時や、はじめての食材に出会った時など、どんな料理にしたらいいかとか、どんな食材を合わせたらいいかとか、いつも丁寧に答えてもらえるので、助かっています」(早川さん)。「イタリアは各地に郷土食があって、現地の人も誇りを持ってその料理を大切にしています。京都にいても、肉や魚、野菜などの素材は、ほぼイタリアと同じものが手に入るので、調理法は出来るだけ現地のやり方を踏襲しています。日本独特の季節の素材など、その時に旬の美味しいものが手に入ったときは、それもまたイタリアの地産地消の考えと同じで、素材は日本、調理法はイタリアの技法で料理していきますね」(矢守さん)甘酸っぱさが日本人にもなじみやすい、牛レバーのアグロドルチェ 1100円。 もう一品、人気の前菜がヴェネト州の郷土料理である、牛レバーのアグロドルチェ 1100円。アグロドルチェとは甘酢。酸味をヴィネガーから、甘味を玉ねぎから引き出し、そこにバターをからめてコクのある一品に。新鮮なレバーは臭みを感じさせず、まろやかな味わいは、ついワインを呼んでしまう。マリアージュの楽しさもじっくり堪能したくなる。「こういった食材の組み合わせ方、出会いの妙、ワインとの相性など、感性豊かで楽しくて、いつもヒントをもらって帰ります」(早川さん)。滑川産ホタルイカ濃厚ペーストリングイネ1600円 本日おすすめの季節のパスタは、滑川産ホタルイカ濃厚ペーストリングイネ1600円。ぷりぷりのホタルイカを潰してペースト状にしたものをソースにして、やや平麺のリングイネに合わせた一品。ホタルイカのほろ苦さと香りが、パスタによくからんで、まさに春の香り高き一品に。「僕は塩をあまりダイレクトに調味に使わないんです。このパスタもホタルイカが持っている塩分とアンチョビの塩味で、味付けしています。そのほうが料理全体が良く馴染んで、さらに美味しくなるように感じるので...」(矢守さん)。 「早川シェフのように、若手でがんばる人たちと料理の話をするのは、僕自身も刺激を受けるし、相談に乗りながら自分の中でパッとひらめいたり、アイデアが浮かんできり。僕にとっても楽しいひとときになっています」(矢守さん) 店名のGECOはヤモリのこと。矢守さんの名前をもじって店名にしている。家を守るようにシェフが立ち働く温かく心地いい空気に包まれて、イタリア各地のワインとともに、郷土の香りが立ち上るような料理を堪能する食時間。京都にいながらにして、まるでイタリア各地を食べ歩いているかのように、気分も高揚してくる。シェフ渾身!の旅の料理アルバムをめくりながら、各地の思い出話に花を咲かせるのもなかなか贅沢だ。撮影/竹中稔彦 文/郡 麻江■イタリア料理&ワイン「IL GECO」(イル・ジェーコ)京都市下京区西洞院通四条下ル妙伝寺町720 光悦ビルB1F075-371-647718:00~2:00ぐらいまで 予約がベター休 月(不定休あり)
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BLOG京の会長&社長めし
2020.04.14
株式会社西利の社長が通う店「ぎおん 佐藤」
■平井誠一(ひらい せいいち)さん 1967年京都生まれ。大学卒業後、山本海苔店に勤務した後、京つけもの西利へ入社。 取締役営業部長、代表取締役専務を経て2013年代表取締役社長に就任する。「旬 おいしく、やさしく。」をモットーに和食文化を大切に食卓に健康と笑顔をお届けすることを目標にしている。和食の基本である「ごはん」を美味しく食べてもらい、和食を楽しんで頂けるように「京つけもの西利」「酵房西利」のブランドを活用し、漬物だけでなく西京漬や総菜など様々な提案を行う。 また新たに「京都発酵食研究所」を設置し、これまで培ってきた西利の発酵食の知見と技術を活かして「発酵生活」や「乳酸発酵甘麹AMACO」などのブランドを活用して調味料、ドレッシング、スープなど、現代の食生活に即した提案も行う。 最後の晩餐は、宮川町「ポパイ」のレモンチャーハン。吟味した素材で作る逸品の数々。わがままなオーダーにも応える懐の深さも魅力の鮨割烹 花街・祇園の南側。花見小路通を西に入った一角は、表通りの喧騒が嘘のように、落ち着いた雰囲気を漂わせる。平井さんが通う人気の鮨割烹「ぎおん 佐藤」は、そんな静かな小路沿いに立つ。「お寿司屋さんですが、お寿司以外のアラカルトメニューも充実しているのが気に入っています。焼き物、煮物、天ぷらなど、普通の和食割烹として成立するほど豊富にあって、しかもお寿司はとびきりおいしい。だから、お寿司のおいしい高級居酒屋のような感覚で使うことも多いです」(平井さん)店は築100年以上の町家を改装。1階は庭を望む白木のカウンター、2階は個室を備え、美味いものをよく知る人々が訪れる。「カウンターが好きなので、お客様か友人と、2、3人で行くことが多いですね。宴会のときは2階でおまかせを頼みますが、普段はカウンターで一品を楽しみます」(平井さん) 創業より寿司と割烹料理を中心としたスタイルで、アラカルトやコースのメニューを提供。お薦めの甘鯛の昆布締めや穴子などの寿司をはじめ、甘鯛と野菜のあんかけ、自家製からすみなど、選りすぐりの食材を使った品で楽しませる。春なら筍、ハマグリ、白魚など、季節物が定番に加わる。「京都の人は、お酒と一緒に一品料理を食べてから、最後にお寿司を頼まれることが多いですね。平井社長もお酒を飲まれるので、おつまみになるものをお出ししています」と、主人の佐藤龍幸さん。佐藤さんが店を開いたのは2007年。京都ホテルオークラの京料理店「入舟」で13年間腕を磨いた後、独立。2015年に店を切通しから今の場所に移した。平井さんは、ホテル時代から佐藤さんの寿司のファンだったという。「京都ホテルの改装で『入舟』に寿司カウンターができて、ホテルへ行く際はよく利用していたんです。数人いる板前さんの中でも佐藤さんの握るお寿司がおいしくて、彼が入る日を狙って食べに行っていました。それから独立されて、こちらに通うようになって。だから25年ぐらいのお付き合いになります」と、平井さん。佐藤さんも、「平井社長とは、ご結婚される前の頃にお会いしたのが最初です。お店を出す際、ご連絡を差し上げていなかったんですが、店が雑誌に載ったのを見て来てくださいました。以来、本当に可愛がっていただいています」と、振り返る。佐藤さんは、お客から品書きにない料理を注文されることも多いという。「急に親子丼作って、とかいわれる方もおられます(笑)。今はお店主導のところも多いですが、うちはお客さんのわがままやご要望は、できる限り聞いてあげたいと思うんです。」そうした"お客様第一"の姿勢は、ホテル時代から変わらない。即興でお客を満足させる料理に仕立てられるのも、佐藤さんの技術とセンスあってのことだろう。「何を頼んでもはずれがない」と、平井さん。店で必ず頼むのが、炙った煮穴子で仕立てる「つまみ穴子」3500円。「穴子をキュウリやたくあんと一緒に巻いて食べさせてくれます。食感や風味の違うものがうまくミックスされて、トータルでおいしい。それも技ですよね」(平井さん)穴子はかつぎの魚屋から仕入れる明石の300グラム以上のものを使用。肉厚で脂がのったとろけるような煮穴子、キュウリ、たくあん、大葉、海苔のバランスが絶妙で、至福の味わいを楽しめる。一切でも満足度が高い逸品だ。お店の定番の一つ「トロたく」1300円も、平井さんお決まりのメニュー。この日のトロは和歌山産。とけるようなトロの甘味とたくあんの程よい塩気のコンビネーションが抜群で、お酒が進む。平井さんは、その日の気分で日本酒か焼酎を楽しむという。日本酒は宮城の「日高見」や静岡の「初亀」、群馬の「龍神」など、純米酒や純米吟醸を中心に常時15~16種揃える。メニューにはお客の要望から生まれたものがいくつかある。その代表的なものが、平井さんが「たまらなくおいしい。締めに必ず食べます」と薦める「牛肉しぐれ丼」1800円だ。黒毛和牛を使った一品のしぐれ煮に、ネギやミョウガ、胡麻、卵黄をトッピングした丼で、柔らかなしぐれ煮の甘辛さに卵黄のまろやかさが加わり、豊かな味わいに。ファンが多いのも頷ける。「佐藤さんとは冗談ばかり言い合っています。長い付き合いなので、気兼ねが要らず、居心地がいい。あれだけおいしい料理を出されるのに、気取っていないのも気に入っているところです」(平井さん) 店のもてなしについて、「常連の方もそれぞれ食べるリズムやスタイルが違いますから、それを把握して、スムーズにお出しできるように準備しています」と、佐藤さん。堅苦しさを感じさせない雰囲気のなかで、好きなものを思い思いに楽しむ。そんな食事の心地良さも、細やかな心配りから生まれているのだろう。「一緒に行った人は皆、喜んでくれて、お客さんになっていかれます。中には僕より頻繁に通う人もおられます」との平井さんの言葉に、「ありがたいですね。これからも、気持ちよく食事をしていただき、帰るときにまた来たいと思っていただける店でありたいと思っています」と、佐藤さん。その巧みな料理の技やお客に寄り添うもてなしの心で、更にファンを増やしていくに違いない。予算は15000円~20000円程度。撮影 エディ・オオムラ 文 山本真由美■ぎおん 佐藤京都市東山区祇園町南側570-118075-531-8811営業時間 17時~21時(入店) ※要予約定休日 月 http://www.gion-sato.com/
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BLOG京のほっこり菜時記
2020.04.07
「ほたるいか」
ほたるいかといえば富山...と多くの人が思う。実際に漁獲量は、富山県や兵庫県が多い。だが、日本海側の広い範囲でほたるいかは生息し、京都府丹後近辺でも春季には底曳網で獲れるそうだ。「ほたる」という名が付いたのは、小さな体の至るところに500~1000個もの発光器があって、それがほたるのように青白く光るから。以前、富山を訪ねた際に日本で唯一の「ほたるいかミュージアム」を見学した(笑)ちょうどほたるいかの漁獲シーズン(3月末~5月)で、ほたるいかの発光ショーを見ることができたのだが、思った以上にきれいで幻想的。それでも、やっぱり「美味しそう!」と思って観てしまったのだが。私たちが食べているほたるいかは、すべて産卵前のメス。産卵するために、深海から浅いところへ移動してきたところを獲るのだという。目や肌に良いレチノール(ビタミンA)や生活習慣病の予防につながるビタミンE、肝臓の働きを助けるタウリンなどが含まれ栄養豊富。5月末までの旬の時季にはスーパーなどにも並ぶので、たっぷり食べたいところである。傷みが早いこともあり、基本的には水揚げしてすぐ浜で釜茹でして出荷される。浜茹でされたものをそのまま酢味噌や生姜醤油で食べるほか、天ぷらやフライ、パスタの具材にとさまざまな料理で味わえる。烏丸御池からもすぐの和食イタリアン「To.」で出合ったのが写真の「ほたるいかの餃子」だ。中のほたるいかを見せられなくてごめんなさい。一口でパクっと食べてしまった...。 サクッとした皮とプリッとしたホタルイカの食感ギャップや野菜とからまるほたるいかのほの甘さ。添えられたふきのとう味噌をつけると、苦味も加わって、なんとも大人な味わい。ビールにもハイボールにも合う!「To.」は、日本の風土で育まれた食材を用いるイタリアン「fudo」の2号店として2020年1月にオープンした。和食イタリアンと書いたが、どちらかというと和食寄り。和食にイタリアンのテイストを何かしら盛り込んだ料理がメインの、和の「イノベーティブ」店だ。「fudo」のオーナーシェフ入江哲生さんが、2号店として「居酒屋のように気軽な店をつくりたい」と考えていたときに、京都のカフェで腕を奮っていた吉田伸介さんと知り合い、意気投合してこの店の話がまとまった。 ところが「今の店の引継ぎをちゃんとしたいから、1年待ってほしい」と吉田さんは言ったそうだ。1年は相当長いから、普通なら「ほかの料理人を探そう」となるところ、入江さんは、その誠実さに心打たれ、吉田さんを待つことにした。それから1年、ふたりが思う内装やメニューを実現させ「作りたかった店」が誕生した。この話を聞いたとき、「なんと良い話だろう」と思った。 マンションの1階を店にしたのは、「まずは半径500Mに暮らす人を美味しいもので幸せにしたい」から。「ご近所さんがふらりと立ち寄って自分のダイニングのように使ってくださったらうれしい」と吉田さんは言う。 写真はスペシャリテ(お通し)、フィンガーフードの「八to 橋」。八ッ橋で鴨のテリーヌを挟んだもの。上にのっかっているのは、ウコンチップス。これを食べれば深酒も安心?ということ?ほかにも、イタリアのマルサラ酒で煮込んだ「豚の角煮」や器のなかでカプレーゼを再構築した「ストラッチャテッラのカプレーゼ」など、オリジナル料理ばかり。カプレーゼには、穂紫蘇がちらされ、なんとも風雅。ほかでは食べたことがない味に驚かされる。 「和食もいいけど、イタリアンもね」という日に訪ねたい新店だ。■To.京都市中京区御池高田町500 ポポラーレ御池1階075-708-372017時~24時(23時LO)休 木曜日+不定休
中井シノブ
ライター
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BLOG京のとろみ
2020.03.31
「京うどん だいりき」のあげカレー丼
壬生寺近くの「京うどん だいりき」さん。 おいなりさんが名物で昼過ぎには売り切れてしまう。 店先には「おいなりさん売り切れました」や「おいなりさんあります」の札が出ている。 私がここで注文するのはだいたいカレー物で、うどん・そば・中華麺・丼から選ぶのだが、「あげカレー丼」を頼むことが圧倒的に多い。 ここでは肉よりお揚げさんだ。 あげカレー丼を注文すると「お揚げさん甘いのにしますか?甘くないのにしますか?」と聞かれる。 私はいつも甘いほうを頼むのだが、これも売り切れてる時がある。 京都人は甘いお揚げさんが好きだ。 ふっくら炊き上がった揚げに甘いだしがしっかりしみ込みカレーのスパイスとの相性がいい。 具は揚げの他に九条ねぎと玉ねぎ。 餡は片栗粉抑えめで私の好み、絶妙なとろとろ具合い。 カレー丼の場合はレンゲでいただくのでこの餡をたっぷりすくえるのがいい! ごはんと甘いお揚げさん、たっぷりのカレー餡をレンゲに山盛りにして熱々を頬張るのが最高に美味しい。 やわやわの京うどんを楽しみたい時はカレーうどん、二日酔いの時はカレーそば 腹ペコの時はカレー中華を白ごはんにオンザライス。 これが私のだいりきの楽しみ方である。
ハリー中西
料理カメラマン
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