BLOG外国人料理人奮闘記2019.08.26

スペイン人料理人 ラウル・ナバロさんの「自分のしてほしいことを人にもする」

和食を学ぶために板前修業をする人や自国の料理で勝負する人など世界の料理人が食の発想を求めて訪れる美食の街・京都。なぜ京都なのか? 彼らが京都で得るものは何なのか? 外国人料理人の苦労や成功体験を通して見える京都の食とは。

5回目に登場いただくのは、「フォーシーズンズホテル京都」のバーテンダーでありビバレッジマネージャーでもあるラウル・ナバロさんです。日本の文化に感動し、来日してから7年。「フォーシーズンズホテル京都」に欠かせないバーの顔になりました。

四季のある京都の文化に引き寄せられて

スペインのバルセロナで生まれ育ち、「世界どこにでも行ける時代に生まれたんだから、自分の国以外も見なきゃもったいない」と思っていました。ディズニーランドやUSJなどアミューズメントパークが大好きということもあって、8年前に日本を訪れたんです。

東京も面白いけれど、日本と言えばやっぱり京都。京都に行かずして日本文化は語れないと思い、足をのばしました。それが京都との運命の出合いになろうとは...。

季節はちょうど秋でした。嵐山など観光名所をめぐって感じたのは、どこもかもが美しいということ。お寺の庭に散る紅葉も古い町並みもほんとうに綺麗でした。そのうえ、京都の人はみんな優しい。だからこの街をもっと知りたいと思ったんです。

京都の文化や人を知るには日本語を身に付けることが必要でしょう。そこで意を決し、翌年日本に留学しました。そう、もちろん京都です。昼は日本語学校に通い、夜はスペイン料理店で働きました。

ZARAのショップ店員からホテルマンに

日本語学校を卒業した後は、スペインの知識が役に立つ「ZARA」に就職。四条河原町で仕事をしていました。そんなとき、「フォーシーズンズホテル京都」が開業スタッフを募集していることを知りました。私は、人との触れ合いがとにかく好き。だから、できるだけいろいろな人と触れられる接客業につくのが理想でした。そういう意味でホテルマンなら、お客様のために働けると思ったんです。

ドアマンが第一希望でしたが、面接をした総支配人が「君は人の話を聞くのが上手い。だからドアマンよりもっとお客様と話せるバーテンダーが絶対にむいている」と言ってくれました。バーテンダー経験はゼロでしたから迷いました。でも何事も挑戦と思いバーテンダーの職につくことを決めたんです。

学べば学ぶほど面白くなるバーテンダーの仕事

「短期間のトレーニング」で経験ゼロの私がなぜバーテンダーになれたか。ひとつには、バーテンダーの仕事が面白い仕事だったからです。当初はシンガポールに行って、その頃フォーシーズンズの系列だったホテル内にあるアジアトップクラスのバー「マンハッタンバー」でOJTを受けました。そこで素晴らしい先輩バーテンダー達に出会いましたが、中でも感銘をうけたのはトム・ホーガンでした。
彼は、「カクテルは同じレシピでつくっても、つくる人によって全く違う味になる」と言いました。面白いでしょう。結局はお酒も人がつくるものだということです。シェーカーにお米をいれてふったり、友達のバーテンダーにコツを聞いたり。失敗もしたし、どうしたらいいかわからないこともあった。でも、辞めようとは思わなかったですね。始めた限りは最後までやり遂げたいという想いもありました。

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今、私のとなりにいるロレンツォ・アンティノーリの影響も大きい。彼はアジア太平洋地区のフォーシーズンズホテルのバーを統括するアドバイザーでフォーシーズンズ独自のバートレーニングプログラムを構築した人でもあります。スマホやパソコンなど、どこででも見てレッスンできるプログラムをつくりあげました。私も、その育成プログラムの京都でのトレーナーとして、フォーシーズンズらしいサービスや体験をお届けできるバーテンダー育成に携わっています。新しい人材を育てることは、とてもやりがいのあることです。

ロレンツォさんからラウルさんについてひとこと

カクテルはお客様をお乗せする車のようなもので、お客様をどんな風景のどんな場所にお連れするかというストーリーを考えるのがバーテンダーです。バーテンダーにとって技術は必要ですが、それ以上にキャラクターが大切。ラウルは仕事への情熱があって、カクテルの味を緻密に研究するなどスキルを身につけきた優秀なバーテンダーです。でもそれ以上に個性がある。自分の意志や熱い想い、キャラクターで、お客様を心から楽しませることができる人です。

お客様とのコミュニケーションがなによりの楽しみ

今は、バーテンダーになって本当によかったと思っています。それというのも、お客様おひとりずつと、常に密なコミュニケーションをとれる仕事だからです。それは、僕の理想でもありましたからね。「今日は爽やかな味わいのカクテルが飲みたい。フルーツも使ってほしい」という言葉から要望をくみ取り、瞬時に頭の中の引き出しをあれこれ開けて、自由な発想でベストな一杯をつくる。お客様に「美味しい!」とか「この味好き!」とか言ってもらえたら、もうまいあがっちゃいます。

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ホテルが建つその地、たとえばここなら京都の特徴をだすことも、カクテルづくりに求められること。日本らしさや京都らしさ、旬、文化などをカクテルに盛り込むのもミッションのひとつなんですね。だから、日本文化や京都の歴史、伝統、風物詩なども勉強しなくちゃいけない。大変かどうか? いや楽しいに決まっています。勉強した成果を毎日発表できるんだから。

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このカクテルは「シークレットガーデン(2,800円)」というザ・ラウンジ&バーのシグニチャーカクテルです。国産ウイスキーに日本酒、エルダーフラワーリキュール、ローズマリー、みかんシロップ、自家製のダージリンティーとカモミールビターズが入っています。季節によって入れるものは少しずつ変わります。

その名のとおり、お庭をイメージしたカクテルです。バーから見えるホテルの日本庭園「積翠園」を観察しなから、それぞれの季節の庭に咲く草木や自然にインスピレーションを得てつくったものです。

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こちらは「フォーシーズンズホテル京都752,800円)」。穂紫蘇を添えた姿も素敵でしょう。京都産の季の美ジン、澪、ゆずとパッションフルーツのシロップ、レモンジュースをシェイクし、すっきりした味わいに仕上げました。。ゆずの風味がジンとよく合う一杯。女性に人気のカクテルですね。

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僕の信念は「自分がしてほしいことを人にもする」で、小学校6年の時に尊敬する先生に言われてからずっと自分でもそれを実践してきました。ところが、ここに入って驚いたのは、フォーシーズンズのゴールデンルール(社訓)が、「私たちは常に自分が接して欲しいように相手に接します」だったんです。同じなんですよ。だからここでは、お客様に喜んでいただけるために何ができるかをマニュアル通りでなく自分で考え、心からのサービスをすることができる。

バーテンダーは職人でありつつも、臨機応変な対応やクリエイティビティも求められる難しい仕事。一生をかけて勉強し、もっと実力あるバーテンダーになりたいですね。

撮影:ハリー中西

■フォーシーズンズホテル京都 ザ・ラウンジ & バー

京都市東山区妙法院前側町445-3
075-541-8288
10:00~24:00(バーカウンター営業は18:00~)