和食を学ぶために板前修業をする人や自国の料理で勝負する人など世界の料理人が食の発想を求めて訪れる美食の街・京都。なぜ京都なのか? 彼らが京都で得るものは何なのか? 外国人料理人の苦労や成功体験を通して見える京都の食とは。
京都は生まれ故郷のフィレンツェに似ている
日本へ来た一番の理由は、妻が日本人だったから。彼女がフィレンツェに留学していたときに出会って結婚し、彼女が生まれ育った名古屋で暮らすことになったんだ。
僕の実家はレストランだったから16歳からずっと料理を続けていたこともあって、仕事に対する不安はまったくなかった。名古屋ではデパートやホテルのレストラン、町場のピッツエリアなどでも働いた。1年だけだけど、東京のイタリアンにも勤めていたよ。
名古屋にいた頃に、休みになると京都へ来ていた。なぜかというと、京都は僕が育ったフィレンツェにとても似ているから。山に囲まれた地形、四季のある気候、お日様が毎日見えるし空気もきれい。そして京都の人たちはフィレンツェ人みたいだと思った。真面目で自分の町や文化に誇りをもっている。どちらも古都だから、人柄も似ているのかもしれないね。
独立の場は京都
僕はレストランで、妻は企業に勤めて独立のための資金を貯めた。といっても10年くらいかかったけどね。いざ、独立というときに、京都を選んだのにはいくつか理由がある。さっきも言ったように京都が好きだったことがひとつ。東京には本格的なフィレンツェ料理の店が何軒かあるけれど、京都にはまだ少なかったこと。ヨーロッパの人など外国人もたくさん住んでいるから、きっと本格的な味を求めて通ってくれると思った。なにより、京都にいると落ち着くと言うか、ほっとできるんだ。
大通りではなく狭い路地に魅せられた
柳小路というこの素敵な路地の物件と出合えたことは、ほんとうにラッキーだった。インターネットや不動産屋めぐりもして、物件を探していただけれど、最初はなかなか見つからなくて。そんなとき、この路地に「柳小路taka」という店があることを知ったんだ。この店のオーナーシェフのタカさんは、ミラノの「ノブ」で10年間も勤めた人。何かヒントをもらえるかもと思って訪ねたところ、この路地を一目で気に入ってしまった。
彼とも意気投合して、できればこの路地で店を開きたいと思った。でも、そのときは空き物件がなくて。毎日、情報をチェックしていたら、あるときここの情報がでていたからすぐにエントリーした。大家さんとの面接では、どうしてもここでフィレンツェ料理の店をだしたいと想いを伝えて認めてもらい、お借りすることができた。ほんとうによかった。
現地の味を食べてほしい
海外では、アメリカやヨーロッパはもちろん、インドネシアなどアジアでもイタリアンといえばイタリアの味だ。けれど、なぜか日本だけは、日本人に合うようにアレンジされていて、食材も日本のものが多く使われている。東京にはわずかに、イタリアを貫く店もあるが、名古屋や京都にはない。ある意味、競合がいないことはラッキーだと思った。
2017年11月にここを開店して以来、僕がつくるのはフィレンツェの料理だけ。なかでも、トマトにニンニクをたっぷり加えたトマトソースは現地の味そのものだと思う。写真の「ピーチ にんにくトマトソース」は、太めのもちもち麺にたっぷりのトマトソースをからめたパスタ料理。コシの強いうどんのような食感は、日本の方にも気に入ってもらえるはず。
日本のイタリア料理も美味しいし、逆にリスペクトしているくらい。だけど、それはあくまでジャパニーズイタリアンだし、僕がつくらなくても、もっと熟達した料理人が京都にはたくさんいる。僕は僕が自慢できるフィレンツェの料理をつくればいいし、その味を京都の人にも知ってほしいと思っている。
オイルも牛肉もできる限りイタリアのもので
フィレンツェの料理は、肉や生ハム、サラミなどを使うものが多くて、塩と胡椒、ハーブで味をつける。素材の持ち味を大切にし、そういう意味では和食と共通する部分もあるのかもしれない。とにかく、シンプルな料理が多いから、逆に配分などを間違えるとまったく違う料理になる。だから食材はとても大切。だから調味料や食材はできる限りイタリア産のものを使えるようにと思っている。
お客様はイタリア人もいるけれど、イタリアに住んでいた人や旅行に行ったという人も多くて、みんな「フィレンツェの味だ!」と言って喜んでくださる。少しでもイタリアの風を吹かせられれば、そんな嬉しいことはない。
写真の「赤せんまい(ギアラ)の煮込み サルサヴェルデソース」は、フィレンツェのキングオブ・ストリートフード。赤せんまいを丁寧に掃除して下処理し、それを唐辛子やニンニク、ブラックペッパー、イタリアンパセリと煮込む。ピリッと辛くて、美味しい。思わず「ボーノ!」と言っちゃうよ!
イタリア人はみんなワイン好き!
料理を食べるときに、ワインを飲まない人はイタリアでは少ないね。だって、料理とワインはほんとうに相性がいい。そのうえワインは、塩や脂などを流してくれる。イタリアには、「ワインを飲む人は100年生きる」という名言がある。美味しい料理を食べてワインを飲み、幸せな気分になれば、ストレスもたまらない。みんなハッピーでいられるから。
うちのディナーマットにもこの言葉が書いてあるんだ。
辛いことや大変なことがあったときは、ぜひうちに来て、料理とワインを味わってほしい。きっと、いやなことなんてすっと忘れる。うちで初めてのフィレンツェ料理を食べた人たちは、現地に行っても困ることがない。同じ味に必ず出会えるから。
すめば都! どこに住んでも同じ!
最初は「京都の人に受け入れてもらえるだろうか?」と多少は不安だった。だけど、開店して1年半になるけど、嫌な思いはしたことがない。ここに来る人はみんな本当に優しいしいし、イタリア料理が好きな人ばかり。
イタリアやヨーロッパの友人たちも、日本へ来るときは必ず京都へ来てくれるのも嬉しいこと。京都がもつ伝統や文化の力だと思っている。京都にはアートもあるしカルチャーも音楽もある。
休みの日? 音楽を聴いたり、鴨川を散歩したり。焼き鳥や唐揚げ、ラーメンなど、大好きなものを食べに行くことも多い(笑)。京都は食のパラダイス。そんな街で、自分の国の料理をつくって食べてもらえることは、ほんとうに幸せだ!
■ヴィナイーノ キョウト
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