ウイスキーなどお酒には、歴史や醸造の苦労話などさまざまな物語があります。 「京都美酒知新」では、カクテルとウイスキーにまつわるお話をご紹介していきます。 美しいカクテルをつくり、解説してくださるのは、全国にファンのいる名バーテンダー 「K6」の西田稔さんです。このお話を読むと、カクテルが飲みたくなるに違いありません。

■西田稔(にしだみのる)
京都木屋町二条「Bar K6」、「cave de K」、「keller」のマスターバーテンダー。
2020年開業の「ザ・ホテル青龍 京都清水」内の「Bar K36」を監修。自らもカウンターに立つ。
京都生まれ、同志社大学卒業後、東京のバーで経験を積み、1994年に「Bar K6」を開業した。シャンパーニュの将校、グラッパの騎士、クリュッグアンバサダー、ウイスキーコンテスト審査員
ウイスキー・アレキサンダー
カクテル言葉「初恋の思い出」
「アレキサンダー」は、ブレイク・エドワーズ監督のアメリカ映画『酒と薔薇の日々(Days of Wine & Roses)』に登場することでも知られるカクテルです。この映画では、「アレキサンダー」を酒好きの夫から薦めれた妻が、その口当たりの良さに惑わされ、次第に夫婦そろってアルコール依存症に陥っていく姿が描かれています。
「アレキサンダー」は、ジンやブランデーをベースにつくることが多いカクテルですが、このコーナーでは、アイラウイスキーをベースにしてスモーキーな香りをまとわせました。
生クリームやカカオリキュールを入れるのでまろやかで甘味があり、映画のヒロインではありませんが、つい飲み過ぎてしまいがちなカクテルです。
オーセンティックバーでこのカクテルを注文すると、目の前でナツメグをすりおろしてカクテルに入れるバーテンダーを見ることがあります。ところがこれは、日本だけのレシピ。実は、終戦直後の日本では質の悪い生クリームが出回っていて、その生臭さがカクテルに影響を及ぼすことがあり、臭み消しのためにナツメグを入れていたのだそうです。そのレシピが今も残っているのでしょうね。
時代は移り、今は逆に、上質な生クリームの美味しさを感じられる一杯になりました。ひんやりと口当たりのいい「アレキサンダー」は、珠玉の一杯です。とはいえ、飲み過ぎは禁物。ほどよく飲んで、ほろ酔いの心地よさを愉しんでください。
カクテルレシピ
アイラウイスキー ラガヴーリン16年 30ml
カカオリキュール 15ml
生クリーム 15ml
2月のウイスキー
ラガヴーリン16年をストレートで
ラガヴーリンはオークカスクの中で最低でも16年熟成させる完成度の高いシングルモルトウイスキーです。ドライでスモーキー、ヨード臭と潮の風味がうまくまとまり、セカンドフィルシェリー樽からくる甘味やフルーティーさが同居しています。
口にするとスモーキーでピーティー、正露丸のようなヨード香と磯の香が一気に押し寄せます。けれど、それら薬品香の奥には花の蜜が潜んでいて、最後にドライフルーツ、バニラの甘味と香りがしっかりと感じられる。ラガヴーリン蒸留所のスタンダードウイスキーにして傑作です。
ラガヴーリン蒸留所蒸留所は「ホワイトホース」の生みの親ピーター・マッキーの手に渡ったこともあり、ブレンデッド・ウイスキー「ホワイトホース」のキーモルトとして長く使用されている事でも有名です。
ストレートでそのまま、香りや味わいを感じていただくのがおすすめですが、ハイボールフロートにしても個性を楽しめます。
ラガヴーリン蒸留所
シングルモルトの産地アイラの中でも真っ先に名前が挙がるのがラガヴーリン蒸留所。
1816年に農業経営者で蒸留職人でもあったジョン・ジョンストンが、かつて島々の王が根城としていたダニヴェイグ城を望む場所に最初の蒸留所を創業しました。1年後にはアーチボルド・キャンベルが二つ目の蒸留所を創業。ジョンストンの死後、この2つの蒸留所が統合されるなど紆余曲折を経て、ラガヴーリン蒸留所が確立されます。
アイラ島の中でも、蒸留に最も長い時間をかける蒸留所として知られ、蒸留時間は最初の蒸留で約5時間、二度目の蒸留で9時間以上を費やします。この製法がラガヴーリン独特の個性をつくりだしている要因の一つと言えるでしょう。
戦時中の麦芽不足による一時閉鎖など様々な苦難を乗り越え、2016年、創業から200年を迎えました。

■Bar K6
京都市中京区木屋町二条東入ル ヴァルズビル2F
075-255-5009
撮影:ハリー中西