BLOGうつわ知新2021.08.18

楽焼3

備前や織部、古染付といった焼物ごとにうつわをご紹介。京都・新門前にて古美術商を営む、梶古美術7代目当主の梶高明さんに解説いただきます。 さらに、京都の著名料理人にそれぞれの器に添う料理を誂えていただき、料理はもちろん うつわとの相性やデザインなどについてお話しいただきます。

今月のテーマは「楽焼」です。
400年の歴史を経てなお、一作品ごとの作風や個性を生み出す「楽焼」について、その歴史と魅力を梶さんに解説いただきました。
1回目は楽焼と楽茶碗について。2回目は料理に用いるうつわの見方や解説です。

そして3回目は、中華料理を新しい解釈で再構築するイノベーティブ中華の雄「ベルロオジエ」の岩崎シェフとのコラボレーションです。
中国と日本の季節感を織り交ぜた岩崎シェフの料理と楽焼との融合は稀少。

「楽焼の世界」をお楽しみください。

_MG_0023_1.JPG

梶高明

梶古美術7代目当主。京都・新門前にて古美術商を営む。1998年から朝日カルチャーセンターでの骨董講座の講師を担当し、人気を博す。現在、社団法人茶道裏千家淡交会講師、特定非営利活動法人日本料理アカデミー正会員,京都料理芽生会賛助会員。平成24年から25年の二年間、あまから手帖巻頭で「ニッポンのうつわ手引き」執筆など。 全国の有名料理店と特別なうつわを使った茶会や食事会を数多く開催。

rakuyaki2.JPG

10代 樂旦入造 宗全好 柚味噌皿

 柚子は冬至の頃に収穫の最盛期を迎えます。柚子と白味噌を和えて作られる柚子味噌のお料理は同じ時期に収穫期を迎える大根と合わせて田楽として人々に愛されて来ました。このうつわは千家三代目宗旦の求めに応じて樂家四代の一入が作ったのがその起こりなのだそうです。大根を炊いて、熱々を食べるのには、熱を伝え難い樂のうつわはたいそう勝手が良かったのでしょう。幾代もの樂家の当主の手によって焼かれています。世代によって色や形がわずかに異なりますが、焼かれた数が多かったのか、よく見かけるうつわです。楽家の作ったうつわは季節感を反映したものが多いと思います。厳密にいえばこのうつわは初冬のものなのでしょう。でも、そのことに意識はしても囚われすぎず、現代の皆様の感性で自由に使いこなす器用さも大切だと思います。 楽焼2より

rakuyaki3.JPG

とうもろこしのブランマンジュと焼とうもろこしのアイス

「今回このお話をいただいたとき、すごく嬉しかった。ですが一方で、改めて考えてみると、うつわについてはそれほど勉強してこなかったこともあって、僕に美術品ともいえるうつわを使いこなせるだろうかというちょっとした不安もありました。
 けれど、梶さんのお店にうかがってうつわを拝見した途端、その存在感と美しさに心を捕まれました。
 梶さんから季節感やそもそもの用途は考えなくてもいいと言っていただき、第一印象でうつわを選ばせていただきました。

 この柚味噌皿は、表情のある色目といい質感といい、非常にキレイで、夏の野菜・とうもろこしとの組み合わせが頭に浮かびました。本来は冬に用いるうつわだそうですが、わがままな感性で使わせていただくことにしました。
 豊かな収穫をイメージして、獲れたてのとうもろこしも添え、御敷に合わせることに挑戦しました。
 柚味噌皿には、とうもろこしのブランマンジュと焼とうもろこしのアイスを盛り、ウニや焼ソーセージ、コーンスプラウト、プチセロリなどを添えています。混ぜて食べると旨味の幅が広がるとともに、とうもろこしの深い甘みを感じていただけます。
 器の縁にかけたのは、三日月をイメージしたとうもろこしのサブレです。上には黄色みの強いゴールドラッシュと色白のピュアホワイトの2種類を散らしています。

 コロンと丸い揚げ物は、ライウーゴ―という芋のコロッケ。今回は大和芋を使っています。
 瑞々しいとうもろこしと端正な楽焼の組み合わせをお楽しみください。」 岩崎シェフ

rakuyaki1.JPG
rakuyaki4.JPG

 樂の向付けに折敷(おしき)を合わせてみました。折敷も立派なうつわのひとつなので別の回にお話しさせていただこうと考えています。写真の折敷は我谷盆(わがたぼん)と言い、私が思いを伝えて彫っていただいているものです。本来、お盆はお料理を運搬するために使う道具の名称で、うつわの下に敷く折敷とは用途が異なります。それを知っていてお盆に折敷の役目をさせたのかをお話いたします。我谷盆は石川県の山中温泉近くに存在した我谷村の村民たちが、付近に多く自生していた栗の木を用いてコツコツ彫り上げた農閑期の手仕事のお盆なのです。我谷村は昭和33年にダムの底に沈んでしまいましたが、残された我谷盆の魅力に魅せられた木工作家の黒田辰秋氏が好んだことで、世に知られるようになりました。私は京都生まれの京都育ちですが、梶古美術のルーツは我谷村から近い、石川県加賀市にあります。なかなか古い我谷盆は見つからないのですが、干菓子盆に使える良い寸法のものを所有しております。自分たちで使うために作られた生活民具ですが、その素朴で美しい手仕事は民芸の域を超える魅力あるものです。 梶高明さん

rakuyaki5.JPG

11代 樂慶入造 舟形向付

 舟形の向付で主に夏に好んで使われます。向付の中ではやや大きいので、使い勝手が良いのか、私の店では人気があります。樂家には舟形と呼ばれる向付が幾種類もあります。また、桃山時代の織部にも見られることから、焼物の種類を問わず人気のある姿のうつわです。写真の向付は香炉釉と呼ばれる白い釉薬が使われ、緑の織部釉で縁取られています。この白い釉薬は樂家二代常慶が香炉を作るのに好んだ釉薬だから、香炉釉と呼ばれるのだそうです。釉薬の表面には貫入(かんにゅう)と呼ばれるヒビが黒く縦横に入っています。この黒い貫入は、焼成後に表面を墨で黒く塗って拭き取って生み出します。 楽焼2より

rakuyaki6.JPG

鮎尽くしのひとさら

「舟形のうつわには、鮎料理を盛りつけました。
 鮎の焼きもの、揚げ物、春巻き、骨せんべいと、鮎の美味しさをさまざまに楽しめる一皿です。
 胡瓜やズッキーニ、オクラ、枝豆、シャンツアイなど緑の夏野菜を合わせ、香りや食感を添えています。
 塩焼きで味わう鮎とは違った鮎の魅力を発見していただくとともに、水辺に想いを馳せていただければと思います。」 岩崎シェフ

rakuyaki7.jpg

ベルロオジエ
2019年12月に苦楽園から四条河原町GOOD NATURE STATION2Fに移転して開業。ベースは中国料理だが、モダンスパニッシュにも通じるアート感覚にあふれた料理が評判。大阪のホテルで広東料理を、京都のホテルで四川料理を身に付けた岩崎祐司さんが、独学でフレンチなどガストロノミーを学び個性あふれるチャイニーズ・イノベーションを創り上げた。餃子や酢豚を再構築して旨味を積み重ね、デザイナブルな料理に仕上げる。温前菜からデザートまでのおよそ10~14品のコースは、驚きと感動の連続。ゆったりと楽しみながらも、時間があっという間に過ぎていく。

rakuyaki8.jpg

■ ベルロオジエ

京都市下京区河原町通四条下ル2丁目稲荷町318番6 GOOD NATURE STATION 2F
075-744-6984
12:00~15:00(※12:30最終入店)、18:30~22:30(※19:00最終入店)
休 水曜日(不定休あり)