BLOG京のほっこり菜時記2019.11.07

「山椒」

By中井シノブ

飲食店取材1万軒を超える京都在住のライターが、時々の「うまいもの」を歳時記的につづる【京のほっこり菜時記】。 今回は京都人のソウル香辛料「山椒」をご紹介します。

他府県では、七味や胡椒をかけて食べるものでも、京都では山椒がかかっていることが多々ある。たとえばうどんやそば、焼き鳥、みそ汁、親子丼、鰻などなど。鍋の薬味も七味もあるが山椒が添えられていることも多い。

先日、祇園の料理屋に行ったら、たらこに山椒がかかっていて「これ合うなあ~」と思った。

京都人は山椒が好きなのだ!

山椒・ほっこり菜時記.jpg

京都人の山椒好きは粉山椒にとどまらない。45月にでまわる花山椒、6月に枝付きのまま販売される青い実山椒。そして、秋ごろに新物がでるのが「粉山椒」。薫り高く辛味も強く。パラリとかけるだけで、どんな料理や食材も乙な風味をまとう。

かつては、京都で味わう山椒は、ほぼ(たぶん)京都鞍馬や丹波などで採れたものだった。だが、最近は気候の変動や農家の減少などさまざまな要因があって、生産量は減っている。

とはいえ、ぴりっとした辛味があって粒がそろった京都産の山椒は料理屋などで好んで使われる。

私も、今年は6月頃に「大原の朝市」にでかけて枝付きの実山椒を買って帰った。枝から外してさっと塩ゆでし、鮮やかな色になったらざるにとって冷水にさらす。

後は、小分けにして冷凍しておき、解凍して山椒醤油や山椒ソースにして使う。

そういえば、以前、毎月25日に平野神社で開かれる朝市で、茶色の粉山椒を買ったことがあった。これは山椒の実が赤茶色くなって完熟してから摘み取り、天日に干して擂粉って粉山椒にしたもの。辛味は青いものの数倍!? ものすごく辛くて香りも高いから、ほんの少しかけるだけでいい。

なんだか使うのが惜しくて、袋ごと冷凍しておき、少しずつ大切に使ったものだ。

原了郭2.jpg

持っていて便利なのが「黒七味」で知られる「原了郭」の小分けパック。以前、東京の友人とうどんを食べる際にこの粉山椒をだしたら、「京都おたくか!」とツッコまれたので「そうですが、何か!」と言って、彼女のうどんにもパラリとかけてあげた。

私の無体な行動に、最初はギョッとしていたが、一口すすって「わあ!美味しい」とニコニコ顔になった。京都のだしには山椒が合うのだ!

ueto-0007.jpg

もうひとつおすすめしたい山椒は、「うえとサロン&バー」の山椒のジントニック。
こちらも、毎年初夏に大原から仕入れた実山椒をジンに漬け込み、ほどよく味と香りが移った頃合いにジントニックにしてだす。

花山椒や木の芽、青い山椒、熟した山椒など時期を変えて漬け込むという。
あるときお店にうかがったら、店主の上田太一郎さんが、せっせと山椒の実を枝から外していることがあった。

「今年はまだか」と待ってくださるお客様がいるから、こんな手間もかけられると楽しそうだった。漬け込んで1カ月後くらいからが飲み頃になるとか。

ueto-0004.jpg

「山椒を譲ってくださる大原のおばあちゃんが、自分が摘める間は取りに来てといってくださる。ほんとうにありがたい」と上田さんは言っていた。

育てる人、摘む人、漬ける人。いろいろな人の想いや苦労があって生まれる味。

じっくり味わいたいものだ。

ueto-0008.jpg

■うえと サロン&バー

京都市東山区今小路町91-1
075-751-5117
水曜~土曜14:00〜23:00(L.O.)、日曜、月曜は14:00〜22:00(L.O.)
休 火曜

■原了郭 本店

京都市東山区祇園町北側267
075-561-2732
10:00〜18:00
1月1日・2日を除く 年中無休

中井シノブ

京都の情報誌編集長を経てライターに。飲食店取材1万軒。外飯、外酒がライフワーク。著書に『京都女子酒場』(青幻舎)、『京の一生もん』(紫紅社)などがある。