BLOG料理人がオフに通う店2021.06.17

「H.Splendideアッシュ・スプランディード g旬風庵」-「Osteria S.Puro」徳江聡さんが通う店

「旨い店は料理人に聞け!」京都を代表する料理人がオフの日に通う店、心から薦めたいと思う店を紹介する【料理人がオフに通う店】。今回は「Osteria S.Puro」(オステリア・エスプーロ)」徳江聡さんが通う「アッシュ・スプランディード g旬風庵」 をご紹介します。

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「Osteria S.Puro」(オステリア・エスプーロ)徳江聡さん

福島県生まれ。若い頃、故郷のスパゲティ店でアルバイトをしていた頃から、「料理は面白い!」とこの世界へ入った。24歳の時に縁あって京都へ。イタリアン・リストランテやフレンチの名店で修行を積み、2018年、42歳の時に自宅から自分の店を開いた。「イタリアンとフレンチの両方の世界を知っているので、自分らしく融合させた料理をお出ししたいです。リラックスしていただきながらも、きちんとしたレストランの味とおもてなしを提供したいと思っています」。素材を何より大切に、日々、心を込めて、素材を生かした料理を提供している。

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長いアプローチの向こうにようやくドアが見えてくる。

 下京区新町通り高辻上ルの細い路地。奥へ奥へと導かれて行くとようやく店の入り口にたどり着く。オーナーシェフの井手 弘昭さんは、旧京都ホテルを皮切りに、京都ホテルオークラ、リッツカールトン大阪などの有名ホテルで腕を磨き、2004年に、まず、創作フレンチの店「旬風庵」をオープンした。町屋ブームの先駆けとして、また、和のテイストとフレンチのクロスオーバーを楽しめる店として、一躍人気店に。
 その3年後の2007年、一つの原点回帰として純然たるフレンチを目指して、1日限定4室のみ、個室フレンチのレストランをオープン「アッシュス・プランディード」もスタートさせた。その後、あまりの多忙さに、「旬風庵」は知人のシェフに任せたが、数年後、そのシェフが独立したのちは、自分も大好きだという洋食店として、「旬風庵」をリスタートさせ、現在は、2店舗を切り盛りしている。
 紹介者の「オステリア・エスプーロ」徳江聡さんは、実は、井手さんのもとで料理を学んだ。「素材ありき、素材を大切にするという基本姿勢は、井手さんから学んだものです。一つひとつの素材を大切に発掘して、旬一番の美味しさをいかに引き出すか。いつ訪ねても、ブレない料理をいただけるし、今も勉強させていただいています」(徳江さん)。今も、互いの店を行き来しながら、親しい交流を続けている。

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「オーソドックスなフレンチをベースにしていますが、たとえば昔の調理法だと肉や魚を高温で外側を固くこんがり焼いて旨味を閉じ込めるというのが主流でした。今は、低温調理など、少し低温でじっくりと火入れをする方が、素材がふっくらと美味しく仕上がったり、瑞々しい食感を生かせたりするので、新しい時代の調理法も柔軟にとりいれて、素材のポテンシャルを最大限に引き出す料理を心がけています」と井手さんは話す。

 全ての料理の基礎となる素材は、20年以上付き合いのある、信頼できる仲買や店から仕入れている。野菜は滋賀県や京都府下で、無農薬、低農薬野菜を作る農家と提携する八百屋さん、魚介は現地の漁港に赴いて直接産地とつながる魚の仲買さん、肉は昔ながらのやり方で肉の熟成をしっかりと行う肉屋さんなど、それぞれ、目利きの店主が強い想いを持って食材を取り扱っている店からのみ、食材を仕入れているという。

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店内は全て個室。大切な人との大切な時間を、気兼ねなくリラックスして過ごしてほしいという思いからこのスタイルにしたそうだ。空間やおもてなしもレストランを彩る重要な要素となる。

 料理は、昼・夜ともに、全てシェフお任せのコース。アミューズから始まり、デザートに至るまで、ご自慢の素材のオールスターが楽しめるような、ワクワクする構成になっている。
 
 はじまりにふさわしい前菜の一皿は、『天然クロマグロ 彦根の福原さんのグリーンアスパラアボカドのダンバル仕立て』。
「その後に続くメインディッシュまでしっかり楽しんでいただくために、前菜では野菜のソースを使ったり、ハーブで爽やかさを添えたり、スタートに相応しく、軽やかな味わいを意識しています」
 絵画のような美しさの一皿は、シェフが惚れ込んだ野菜たちが、ハミングしているような瑞々しさで盛り合わされている。それぞれの野菜に最適な温度帯で、皮一枚ほどの絶妙なところで火入れを止め、甘みを引き出しつつ、アルデンテな食感をのこす。弾むようが味わいに、ビーツやパセリといったフレッシュなピュレをつかったソースがからんで鮮やかなアクセントに。タンバルの隠し味には、醤油とタバスコをほんの少し利かせて、味の深みや重なりの面白さを実感させてくれる。

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お花畑のように華やかな前菜。マグロやアボカドのトロみのある食感と、野菜のサクッ、シャッとした歯触り、レモンの香りを生かした、じゃがいもフレークのパリパリ感など、食感のハーモニーもまた素晴らしい。

 目に染みるような緑は、グリンピースの冷製スープ。旬のグリーンピースをピュレにして、新生姜のソルベをふわりと浮かせている。スープが甘い!力みなぎるグリーンピース本来の甘みが最大限に引き出されて、冷たく、青い香りとともに、口の中に満ちてくる。その甘さにちょうど、新生姜のピリッとした辛味が絶妙の相性を見せる。
 おもわずおかわりをしたくなるほど、魅力的な味わいだ。

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鮮やかな冷製スープ。食欲を刺激するだけでなく、これからのどんな美味しい料理に出会えるのか?コース料理への幸せな予感を運んでくれる一皿。

本日の魚料理はオマール海老と、オオモンハタのポアレ。オマール海老は80℃ぐらいの温度でゆっくりとボイルして、ふっくら仕上げて甲殻類のソースを、また香ばしくポアレしたハタには、香気豊かな九条ネギのソースを加えて、バターをモンテしたソースで、二つの味わいをまろやかにつなげている。

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魚料理にも旬の野菜がたっぷりと使われている。盛り付けのセンスも心憎い。

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フランスだけでなくジャパニーズワインも多彩に取り揃えている。山梨や、長野の優れたワイナリーを訪ねて、質が高く、コスパがよいワインを常に探し求めている。
ボトルワイン3850円〜、グラスワイン690円〜

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 料理の素材にせよ、ワインにせよ、自分が納得のいく素材を仕入れて、素材本来の味を生かしきることに日々、心を砕く。そんな井出さんの姿勢に惚れ込み、その審美感にかなうよう、素材を提供する仲買などの店側も努力を惜しまないのだろう。
「良い素材に出会えてこそ、僕の仕事はまっとうできると思っています。本当にいろいろな人の努力に支えられて、僕自身が料理をさせていただいていると思っています。これからも丁寧にきちんと仕事をして、それがお客様の喜びにつながっていけるようにしていきたいですね」

 静かな個室でゆったりと寛いで、井出さんの思いがこもる美しい料理を、ひと皿ずつ、愛でながら、じっくりと味わいたい。

■H.Splendideアッシュ・スプランディード g旬風庵

京都市下京区新町通り高辻上ル岩戸山町430-1
075-353-6185
営業時間  12:00 ~ 14:30(LO13:00)、夜 18:00 ~ 21:30(LO20:00)
おまかせコース料理のみ。昼4180円〜、夜11000円〜(税・サ込み)
水曜・木曜定休
※要予約

撮影/竹中稔彦  取材・文/ 郡 麻江