BLOG割烹知新〜奇想の一皿〜2021.12.24

綾小路唐津「福宝巻」

京都を代表する和食の料理人に、和食の範疇を飛び出した奇想天外な一皿を作っていただく【割烹知新】。今回は『綾小路唐津』唐津将作さんの「福宝巻」をご紹介します。

綾小路唐津「福宝巻」

家業の和食店で10年の修業後、さらに研鑽を積むため『京都吉兆』へ。いくつかの店で料理長を務め上げ、2017年に『綾小路唐津』を開店。ともに店に立つ奥様曰く、家での食事作りを一手に引き受けるほどの「料理好き」で、包丁を握る姿は水を得た魚のよう。旬を映した端正な料理と茶懐石の精神に則ったもてなし―口の肥えた食通たちが信頼を置く、間違いのない一軒です。

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発想秘話

コロナ禍で時間が出来たこともあり、生産者の方々と直接話す機会が増えました。特にこの一年は美山に何度も足を運び、栗拾いをしたり、新しい食材に出合ったり......そういった交流を通じて、改めてフードロスや環境問題について考えるようになったのです。
もちろん修業時代から「食材を無駄にするのは料理人として最も恥ずかしいこと」と叩き込まれてきましたが、生産者の思いを直接聞くことで、より強く意識するようになりました。

「奇想の一皿」を作るにあたり、最初は和っぽくない食材や調理法からのアプローチも考えました。ですが、やはり今は「フードロス」が一番しっくりくるテーマだと思い、その観点からアプローチすることにしました。
使うのはクエのあらと白菜の一番外側の葉、かぶらの葉、葱の青い部分といったくず野菜ばかり。食材として何も問題はないのですが、見た目の悪さや食べにくさから、お客様にお出しできない部分です。

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もちろん賄いで端材を使うこともありますが、まとめて炊いたり、刻んで漬物にしたり......簡単なものがほとんどです。それを今回は、手間と時間をかけて「福宝」に作り変えたいと思います。では調理していきましょう。

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はじめにあらと野菜くずでスープを取ります。昆布を敷いた鍋にクエのあら、くず野菜、干した生姜の皮とねぎの青い部分を入れ、水と酒を加えてひと煮立ちさせます。クエはあらかじめ霜降りにし、よく洗ってから使います。沸騰したら火を弱め、ことこと30~40分くらいでしょうか。新鮮なあらとはいえ、ぐらぐら煮立てると生臭さが出てしまうため、あくを取りながら丁寧に煮出します。

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スープから身のついたあらを取り出します。あらから大きめの身を外し、食べやすいよう骨を抜きます。魚の構造が分かっていると、骨を取り除くのも簡単なんですよ。
ほぐし身を寄せ集めてもいいのですが、ちょうどいい大きさの身がついていたので、今回は大きめの身をそのまま巻いてしまいましょう。

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巻きやすいようさっと湯がき、茎の部分を削いで厚みを均等にした白菜でクエの身を巻いていきます。崩れないようさらにガーゼでやさしく包み、再びスープの入った鍋に戻します。

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白菜にしっかり味が入るよう、炊いては休ませ、炊いては休ませを何度か繰り返します。こうすることで白菜だけでなく、一旦スープに溶け出した魚のうまみが再びクエの身に戻ってくれます。スープには少量の塩と薄口醤油を足していますが、みりんなどの甘味料は入りません。素材そのもののうまみや甘みを大事にしたいので、砂糖やみりんは普段からほとんど使いませんね。

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しっかり味が入ったら、少しとろみのついたスープと共に皿に盛ります。スープにはクエのコラーゲンがたっぷり溶け出しているので、冷えるとぷるぷるに固まります。このスープをアレンジしてにゅう麺にしても美味しいですよ。

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素揚げにした金時人参の皮とかぶらの葉、柚子を添えて完成です。低温で揚げたかぶらの葉っぱは風味も抜群でしょう? クエの出汁は濃厚ですが、甘鯛もいい出汁がでますし、鱧の骨や頭を使うと、とても上品な出汁がとれます。どんな高級魚でも、お客様に出せない部位は必ず出てくるので、このような形で使い切れると気持ちがいいですね。

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京都に来て一番驚いたのは、扱う食材の豊富さです。地方ではその土地でとれるもの以外は、いい素材が手に入りにくいんですね。『京都吉兆』で選りすぐりの食材と向き合ううちに、料理人としてのやりがいや楽しさを純粋に追求したくなってしまい......もともと料理屋の跡取り息子だったのですが、早々に戻る気がなくなってしまいました(笑)。

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創作に関してですか? 僕自身は「アレンジ」はするけど「創作」はしないという考えです。食材の相性や調味料の組み合わせなど、和食には守るべき「法則」がある。例えば白味噌は本来、冬のものです。ですから鱧と白味噌を合わせるのは違和感がある。また蛤を塩で調味したり、昆布やわかめを塩で炊くことも「ちぐはぐ」だと感じます。もともと塩気のある食材を塩で調味するのは「法則」を破ること。そういった「知らず知らずに身に付けた感覚」、日本料理の情緒のようなものを大切にしたいと思っています。

近年は温暖化など、環境の変化によって一次産業が大きなダメージを受けています。我々料理人は、いい食材がなければ仕事が出来ません。ですから料理人こそ、考えるだけでなく、率先して動いていかないと...。これからも生産者の方々と同じ目線に立ち、環境問題やフードロスについて発信していけたらなと思います。

撮影 鈴木誠一 取材・文 鈴木敦子

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■綾小路唐津

京都市下京区綾小路通新町西入ル
075-365-2227
11:30~14:00、17:30~22:00

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