京都を代表する和食の料理人に、和食の範疇を飛び出した奇想天外な一皿を作っていただく【割烹知新】。今回は『日本料理 研野』主人、酒井研野さんの「アメリカンドック」をご紹介します。
日本料理 研野「アメリカンドック」
京都屈指の料亭『菊乃井』で10年、さらに『京、精華』や『LURRA。』といった他ジャンルの実力店で研鑽を積み、2021年『日本料理 研野』をオープン。日本料理界に新たな風を吹き込むミレニアル世代の旗手として、今最も訪れたい一軒です。
発想秘話
朝ごはんをパンとコーヒーで済ませ、カレーライスがおふくろの味の代名詞となった今の日本で、「お茶の世界から派生した懐石料理こそ日本料理の本流だ」とするのは少し違う気がするんです。茶懐石の定義からはみ出すものでも、今の日本人に馴染むものであれば、「日本料理」としてどんどん提案したい。それが『研野』のコンセプトでもあります。
今日作るアメリカンドックは、もともとアメリカで「コーンドック」と呼ばれているもの。日本で独自の進化を遂げ、今ではすっかりポピュラーな存在になっています。実際、ある時コンビニでふと「そういえばこれっていつの間にか根付いているな」「店で出せる料理になるかもしれないな」と思ったのが、発想の原点です。
修業先の大将(菊乃井・村田吉弘氏)の言葉に「日本料理は言葉とインスピレーションの料理だ」というものがあります。アメリカンドックを食べると、祭の屋台や部活帰りのコンビニなど、味にまつわる思い出が蘇ってくる......まさにそういう料理が日本料理だと思うんです。
アメリカンドックは串に刺したソーセージに衣をつけて揚げたものですが、今日はソーセージの代わりにうずらのミンチを使います。ミンチにはうずらのほか、豚肉、干し椎茸、台湾産のくわい、粉山椒が入ります。
コースの一品として考えた時に、あまりにしつこいものは避けたい。その点、うずらはあっさりしていて、和食にも取り入れやすい食材ですね。うずらのミンチに塩と砂糖を加えてよく練ります。
うずらだけでは少し頼りなさを感じるので、粗く叩いた豚肉も加えます。台湾産のくわいは炊いたあともシャクシャクとした食感が残るところが気に入っています。出汁で炊いたくわい、細かく刻んだ干し椎茸のほか、香りづけに自家製のねぎオイルと粉山椒を。
「香りが料理の国籍を決める」これも菊乃井の大将の言葉なんですが、香りで「和」に着地出来たら、どんな料理も和のテイストにまとまるような気がします。
タネをソーセージに見立てて、棒に巻きつけながら成形します。日本では食事の際に手や器が汚れることを嫌う傾向がありますが、アメリカンドックは持ち手があり、手が汚れにくいところも日本人に馴染んだ一因だと思います。
成形したタネに片栗粉をはたき、軽く蒸した後にベーキングパウダー、薄力粉、卵、牛乳で作った衣を付けます。
サラダ油でキツネ色に揚げ、自家製のトマトケチャップにすり胡麻を加えた特製ケチャップを絞って完成です。
お祭りの屋台で食べた日のことや、学校帰りに空腹でかぶりついた懐かしい思い出と共に味わってもらえたら......。今後、衣の牛乳を豆乳に変えたり、白味噌を加えてみたり、さらに改良を加えてコースに組み入れたいですね。
先ほども少し触れましたが、僕の考えでは懐石料理は日本料理の一部であって、懐石=日本料理とは考えていません。そもそも懐石料理の本質は、いかに心を砕いてお客様をもてなすかであって、形に囚われる必要はないと思うんです。時代の変化に合わせて食材や調理法、作法、ルールなども変わっていくものじゃないでしょうか。
とはいえ何をしてもいいわけではなく、僕なりの線引きはもちろんあります。例えばうちではチャーシューや焼売、中華そばなども召し上がっていただきますが、あくまでも現代の日本料理として昇華したもの。静謐な和の空間にそぐわないものはお出ししません。あまりこねくりまわさず、ストレートに「おいしい!」と感じてもらえる清らかな料理。それが僕の目指す日本料理です。
撮影 鈴木誠一 取材・文 鈴木敦子
■日本料理 研野
京都市左京区岡崎徳成町28-22 聖護院ビル1F
075-468-9944
17:00~と20:00~の二部制(一斉スタート)
日・月曜定休