京の会長&社長めし
京都にある会社の会長&社長は、どんな店でどんな料理を食べているのでしょうか? 彼らが通う一見さんお断りの超高級店から大衆店までご紹介していきます。
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BLOG京の会長&社長めし
2019.10.16
株式会社宮脇賣扇庵の副社長が通う店「祇園割烹 匠庵(しょうあん)」
■南忠政(みなみ ただまさ)さん 1976年生まれ。5代目宮脇新兵衛の孫で、株式会社宮脇賣扇庵 副社長。大学卒業後、母方の実家である同社に入社し、京扇子の製造・販売に携わり、扇文化の継承に努めている。自分から新しい店を開拓するのは、苦手なほう。外食でよく足を運ぶジャンルは、中華とイタリアン。最後の晩餐は、「中華のサカイ 本店」のオムライス。大将の人柄と繰り出す料理にファン多数。リニューアルも楽しみな人気割烹京都の割烹と聞くと、やはり敷居の高さを感じてしまうもの。それが祇園となると、なおさらだろう。今回南さんが推薦する「祇園割烹 匠庵」は、そんな気負いを感じさせず、楽しませてくれる一軒だという。「"お米マイスター"の山下治男さんに紹介してもらい、3年ほど前から通っています。大和大路通から路地を入った奥にある隠れ家のようなお店。ここは知らなかったという人も多いと思うんですけど、一緒に行った人には気に入ってもらえますね。今度、同じ祇園に移転されると聞いています」(南さん)「南くんはうちが取引しているお米屋さんの社長の後輩で、いろんな会合なんかで使ってもらったりしていますね」と、店主の小谷(おだに)匠さんは言う。「匠庵」を始めたのは2009年2月。もとは木屋町にあり、約6年前に四条大和大路に移転。数寄屋造の建物に桜の一枚板のカウンターや個室の座敷、中庭などを配した落ち着いた空間で、季節の京料理をおまかせコースや一品が楽しめるこの店は、多くのリピーターを獲得してきた。開店から10年の今年、店は10月にいったん閉店し、11月に祇園の北側の自社ビルに場所を移してリニューアルオープンすることになっている。「今度の店は町家風の構えで、中は12席のカウンターのみになる予定」と、小谷さん。かねてから考えていた一品主体のカウンター割烹のスタイルにするという。南さんは、料理もさることながら、小谷さんの人柄もこの店の大きな魅力だと話す。「大将は、どこかロック魂というか、気風のいい男気を感じるようなところがいいですね。そんなロックな感じの人なのに、作られる料理は繊細で可愛らしかったりします」南さんの言葉に、「料理もロックやろ」と小谷さんは笑う。ちなみに小谷さんが仕込み中にかける音楽は、ロックユニット「B'z」の曲。ボーカル稲葉浩志氏と同じ高校の卒業生という縁から応援しているといい、「営業中はジャズを流すけど、気心の知れた常連さんばかりだと『B'z』の曲をかけることもあるよ」と、小谷さん。「カウンターで食べるときは、炊き合わせとか出し巻きとかも頼みます。ちょうどいい味付けでどれもしっかりおいしいです」(南さん)小谷さんは、滋賀のホテルの和食部門や京都の料理旅館、割烹などで京料理の腕を磨いた料理人だが、一品で出される日替わりのメニューには、例えば造りや鯛のあら炊き、賀茂茄子田楽、出し巻き、丸鍋などの料理に加え、ビフカツなど和食以外の品も登場。お客のリクエストでメニュー外のものを作ることもしばしばで、「お客さんが望むものなら何でも料理してあげる」という。お客を楽しませるためのフレキシブルさも、この店の特徴だ。「こちらでお刺身とお酒を楽しむのが好きで、その日おすすめの魚介を盛り合わせで頼むことが多いです」と、南さん。店自慢の海鮮料理は、鰹や貝類など、毎日高知から直送される天然ものを中心に、あとは産地を限定せず、その時々のいい鮮魚を使用する。写真は「造り盛り合わせ」の一例で、トロ、コチ、ハマチ、マアジ、北海道産うに。「夏の鱧とかはあえて造りでは出さず、椀物とかほかの食べさせ方にします」(小谷さん)日本酒は25種類ほど揃う。「お酒は結構珍しいものも揃っているので、特にお酒好きな人は楽しめると思います。僕は十四代があるといつも頼みます」と、南さん。そして、多くの常連が頼むという意外な名物が、「匠庵の〆のアレ!」と名付けられた自家製ラーメン。「本格的なラーメンがあるのが面白い。行くとやっぱり食べたくなって頼んでしまいます」と、南さん。無類のラーメン好きの小谷さんが、研究を重ね、完成させた自信作で、「最初は裏メニューで出してたけど、お客さんからすごく好評でメニューとして出したら、ということになって」と小谷さん。鶏ガラと豚骨など厳選した材料を使って7~8時間煮込んだスープに、もちろんチャーシューも自家製。スープは細めのストレート麺によく絡み、しっかりコクがありながら、後口はすっきり。一味と豆板醤の辛みがアクセントになって、シメに食べるのにはぴったりのおいしさだ。カウンターならではのサービスといえるのが、写真のイワシの甘露煮と酒盗と鮎の塩辛和えなど、料理を待つ間に出される酒肴。「対面なので、料理を出せないときに、どうぞ、とちょっとしたお酒のアテとして出してあげる。カウンターの良さはそこなんよね。座敷だとそれができないから」と、小谷さんは話す。大将とのそうしたやり取りの楽しさもあって、常連客は皆、カウンターを選ぶそうだ。「新しい店では、ほんまの俺のやり方がそのままだ出せるかなと思う」と小谷さん。一品の内容はほぼ変わらないが、ポーションが小さいものも用意するなど、カウンターを生かしたメニューを計画中で、予算は1万~1万5千円程度を想定。祇園の風情ある雰囲気の中、「マジック好き」という小谷さんが、その遊び心でどのようにファンを楽しませてくれるか注目だ。撮影 エディオオムラ 文 山本真由美■祇園割烹 匠庵京都市東山区祇園町北側347-87075-525-0288営業時間 18時~25時(予定)定休日 不定休http://www.shouan.co.jp
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2019.10.08
株式会社宮脇賣扇庵 の副社長が通う店「il cipresso(イル・チプレッソ) 花見小路」
■南忠政(みなみ ただまさ)さん 1976年生まれ。5代目宮脇新兵衛の孫で、株式会社宮脇賣扇庵 副社長。大学卒業後、母方の実家である同社に入社し、京扇子の製造・販売に携わり、扇文化の継承に努めている。自分から新しい店を開拓するのは、苦手なほう。外食でよく足を運ぶジャンルは、中華とイタリアン。最後の晩餐は、「中華のサカイ 本店」のオムライス。ハレの日には、元置屋を改装したモダンな空間で気鋭のシェフによる季節のコースをイタリア料理をよく食べにいくという南さんが、お気に入りの一軒に挙げるのが、祇園の「il cipresso 花見小路」。四条花見小路から南へ進んだ一筋目の通り沿いにあり、周囲に溶け込むように立つ一軒家レストランだ。「2年ほど前、若手経営者の集まりで行ったのが最初です。いつもは仲のいいメンバーと複数で行くことが多いですね。雰囲気がいいし、きっちりとした食事ができるし、女性を連れて行っても満足してもらえるお店だと思います」(南さん)2014年にオープンした同店の建物は、築100年以上の元置屋を改装。店内に入ると、シックな細長いアプローチが迎える。モダンな雰囲気の客席はカウンターがなく、テーブルと個室が箱庭を中心にして配されており、ゆとりを持たせた贅沢な空間になっている。「ハレの日や特別な記念日などに使っていただけるような、きちんとした店を目指しています。南さんはお知り合いの方が仕事の関係でうちをご存じで、一緒にいらっしゃったと思います。個人的に気に入ってくださり、ほかのお客様にもご紹介いただいています。ありがたいですね」と、シェフの伊藤敏浩さん。南さんは、3ヶ月に2度くらいの頻度で訪れるという。「祇園の店としてはわりとリーズナブルに食事ができます。季節の食材を使ったコースを出してくれるのですが、それが毎回楽しみで」。ここでは昼4000円、夜は1万円のコースが用意される。南さんがいつも利用するのは、庭に面した奥の個室。隠れ家のような贅沢な雰囲気の空間で、お気に入りの場所だという。「レイアウトがちょっと変わっていて、コの字型のテーブルで会議をするような並びになっているんですが、ゆったりできるし、皆と語らいやすくて長居してしまいますね」(南さん)今年からシェフを務める伊藤さんは、東京「リストランテ アカーチェ」「リストランテ ラ・バリック」、奈良「イ・ルンガ」、京都「t.v.b」などで修業した気鋭の料理人。産地を問わず、季節の良質の食材を使用し、時には和や中華の技法も取り入れて仕立てるコースは、前菜のような華やかな料理がありつつ、郷土料理がベースのものも盛り込むなど、メリハリをつけた構成にしている。「現代的で、これは何?と思うような見た目の料理が出ることも。料理の説明を受けて驚きながら、感心しながら皆で食べるのが楽しいですね」(南さん)南さんを含めお客から「きれいで可愛らしい」と好評なのが、前菜。伊藤さんは、「店への期待感が高まるのが前菜なので、例えば鮎をキュウリとシソのソースと合わせたものなど、素材の味を活かしつつ、何を食べてもらいたいのか明確なコンセプトの中で、盛り付けや食感などを考えて手を加えています」と説明する。シンプルに仕上げるパスタは、南さんもおすすめ。「量とか、前後の料理の流れを考えて出されているんだなと思います」(南さん)写真は秋の献立の一例で、3種のきのこを使い、仕上げにサマートリュフをたっぷりかけた「きのこのラグーのタリオリーニ」。炒めたジロール茸とプルロット、オイルで煮詰めたマッシュルーム入りのラグーソースと、細めの自家製麺がバランスよく絡む。きのこの凝縮した旨味を堪能できる一品だ。「肉料理は毎回期待してしまいますね。お肉に行くまでにすでに満足しているのですが、出てきたら食べてしまうおいしさがあります」(南さん)肉料理は、夏鹿や羊、鴨、子豚、鳩などを使うことが多く、「家庭であまり食べないようなものをお出ししたいですし、そういった食材の良さも知っていただきたいので」と、伊藤さん。この日は定番の「仔羊の炭火焼きタンドリー風」。ヨーグルトとスパイス、トマトソースでマリネして焼いたラムに、万願寺唐辛子のグラタン、オリーブのペースト、パプリカのソースなどを添えて。ジューシーなラムとタンドリーの風味がとてもよく合う。「ワインはいつもお任せしています」と、南さん。ここでは250~300種のワインを揃え、写真のバローロやグラヴネルなど、イタリアワインが99パーセントを占めているのが特徴だ。グラスも豊富で、「日によっては20種ぐらい開けることもあります」と、マネージャーの田村さん。ボトル8000円から、グラス1200円から楽しめる。どんなにおいしくても、堅苦しい店は苦手だと話す南さん。この店はそんな堅苦しさはなく、居心地がいい中でおいしい食事を楽しめるのがやはり魅力だという。それについて、「スタッフ間のコミュニケーションはよくとっているので、それが接客をはじめ、店のいい雰囲気づくりにつながっているかもしれません。レストランでは料理だけでなく、空間、サービスなどすべてを楽しんでいただきたいので、そうした空間づくりを心掛けていますね」と伊藤さん。南さんは、京都の飲食店にはもてなしの心地よさや料理にレベルの高さを感じるという。「繊細なところにまで気を配られていて、自然と感謝して食べたくなるような料理が多いですね」。この店もそう思わせる一軒なのだろう。撮影 竹中稔彦 文 山本真由美■ il cipresso 花見小路京都市東山区祇園町南側566075-533-7071営業時間 11時30分~15時、18時~23時要予約 ※個室は5名~7名まで利用可 定休日 日http://il-cipresso.jp/
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2019.09.18
川崎機械工業株式会社の社長が通う店「阿さひ エ リヴ・ゴォシュ」
■林誠一郎(はやし せいいちろう)さん 1971年京都市生まれ。航空機などの歯車や部品製造を手掛ける川崎機械工業株式会社代表取締役社長。在日フランス商工会議所アンバサダー、オハイオ州立大学歯車研究所スポンサー、同志社大学アートインビジネス研究会研究委員など数々の肩書をもつ。蒔絵作家、浅井康宏のスポンサー。空手初段、テコンドー3段、ボクシング歴5年という肉体派でもある。2017年夏は、ご子息が祇園祭長刀鉾の稚児を務めた。外食は週4回。最後の晩餐は、マルゲリータピザと赤ワイン。ワインが進む小皿も充実。和やかな雰囲気の中で優しいフランスの味を「同い年のオーナーシェフが腕をふるう店で、彼は私のいい相談相手でもあり、普段から食事のわがままを聞いてくれるセンスあるお友達。そこで活躍するソムリエの翠ちゃんのことも応援しています」(林さん)店を選ぶ際は、「安心できて、人間同士のつきあいができるところを重視する」という林さんが通う「リヴ・ゴォシュ」は、オーナーシェフ・小梶文久さんが2002年に始めたフランス料理店。長く川端二条で人気を博していたが、2015年に千本丸太町にある実家のうどん屋と合体するかたちで、移転リニューアルオープンした。平日の夜と土日はフランス料理「リヴ・ゴォシュ」、平日の昼はうどん屋「あさひ」というユニークな営業形態をとっている。「前の店に水回りの不具合などがあり、移転を考えていたときに、両親が体調を崩したんです。両親も高齢なので、いろいろ考えてこの機会に一緒にしました」と、小梶さんは説明する。小梶さんは、高松や京都のレストランで修業した後、渡仏。ロワール地方トゥールや、モンペリエ郊外にあるレストランなどで経験を積んだ。そのフランス時代の友人が、林さんと共通の友人で、林さんはそれが縁でこの店に通うようになったという。「川端二条に友達の友達がやっている店があることは聞いていました。本場仕込みのフレンチのコースが食べられると。でも友達がなかなか連れて行ってくれなくて。それで痺れを切らして、家内と一緒に行ったのが最初です」(林さん)小梶さんは、当時を振り返る。「林さんとは共通の友達が3人ぐらいいて、20歳くらいのときから林さんのことは聞いていました。その後、日本に帰って独立して。林さんは今から10年近く前だったと思いますが、ひょっこり店に来てくれました。『やっと来れたわ』って(笑)」以来、林さんにとって、週に数回訪れたりするほどのお気に入りの店になったようだ。「川端の店では昼にお客さんを連れて行ったりしました。昼も夜も行くようになったら、共通の友達もいるのでいろんな話をして、短期間ですごく仲良くなりましたね」(林さん)町家の細長い空間を活かした店舗は、入ってすぐのところにシックなカウンターがあり、奥はテーブル席になっている。メニューはコースとアラカルトがあり、「食材はフランスからも仕入れますが、主に日本産のクォリティの高いものを選んでいます」と、小梶さん。数種類の自慢のテリーヌをはじめ、クラシックなものが中心の料理は、フランス人客にも高い評価を得ている。アラカルトには、砂肝のコンフィや蝦夷鹿のパテなど、ワインのつまみになる小皿料理が充実しているのもうれしいところだ。林さんは、小梶さんの料理について、こう評する。「彼の料理は愛情を感じるというか、味がすごく優しいんです。以前、パリの航空ショーに行くことがあり、アパートで10日間過ごしたんですが、来客があるときは現地の有名シェフを呼んで近所で調達した食材で料理を作ってもらったんです。彼の料理はそのシェフが作る味に近いと思います」今一番のお気に入りは、「仔鳩のパイ包み焼き」。「すごくビターな感じと、甘い感じと混ざったような味が、赤ワインにぴったりです」(林さん)仔鳩の手羽先や内臓などのミンチと、ホウレンソウを巻いた胸肉をパイ生地で包んで焼いた一品で、仔鳩が手に入るときは、数量限定のおすすめメニューとして登場するそうだ。 フランス産ミューラル種の鴨を使った「マグレ鴨のロースト」も、林さんがよくオーダーする一品。「甘めのソースがかかっていて、さっぱりしているけれど重みのある感じです。ここはデザートまで全部彼が面倒を見てくれるので、満足度が高いです」(林さん)鴨肉は程よい噛みごたえでしっかり旨味が感じられ、酸味を抑えたソースとよく合う。「煮詰めた赤ワインに野菜と鶏ガラのブイヨンを加えたソースで、野菜の甘みがよく出ていると思います。この料理はブルゴーニュの赤ワインと合わせるのがおすすめです」と、小梶さん。林さんは季節のスープもおすすめに挙げる。「スープの真ん中にのった塩胡椒の加減が抜群にいい。コクがあってさっぱりしていて、尖ったところがまったくない優しいお味です。家内の両親も大喜びでした」(林さん)写真はかぼちゃ、にんじん、玉ねぎが入った「かぼちゃのポタージュ」。林さんの言葉通り、牛乳を使ったポタージュはまろやかな優しい味わいで、カマルグの塩と潰したミニョネット(胡椒)がアクセントに。「年末年始は聖護院蕪のポタージュにピンクペッパーをのせて紅白にしたりしますね」と、小梶さん。ソムリエの翠さんが担当しているという自家製パンも好評。「パン・ド・ミというパンを出しています。しっとり系で甘味があって、テイクアウトされるお客さんも結構おられます」(小梶さん)「ソムリエの翠ちゃんがセレクトしたワインも、コストパフォーマンスが高いです」と、林さん。小梶さんは近くの町家でフランス産ワインの販売も手掛けており、店でもボトル4500円から楽しめるという。林さんはここには一人で訪れることが多いといい、「どこかへ行く前に、『寂しくなったし寄ったわ』とか、『お腹すいてるし、何か食べさせて』という感じで行ったりします。わがままを聞いてくれますし、胃の調子が悪いときは、胃に優しいものを出してくれたりして、私はいつも彼の料理には愛情を感じます」その言葉に小梶さんは、「二人ともそろそろ病気があってもおかしくない年なんで(笑)。お客さんの体調や好みにはできる限り対応します。子供さんにはスープをぬるめにしたり、味を薄めにしたり、年配の方は量を減らしたりと、求められれば何でも対応しています。食卓が和むほうがいいし、楽しんでもらうことが目的なので」とにこやかに答えた。在日フランス商工会議所のアンバサダーを務める林さんは、以前、京都府とフランスの企業関係者との会食をこの店で行うことを企画し、小梶さんと「割烹いがらし」の五十嵐さんとのコラボ料理を用意してもらったことがあるという。そんなことからも、林さんのこの店と小梶さんへの信頼の大きさが伝わってくる。撮影 瀧本加奈子 文 山本真由美■阿さひ エ リヴ・ゴォシュ京都市上京区千本丸太町上ル東側小山町871075-841-9912フレンチレストラン リヴ・ゴォシュ 平日17時30分~22時(LO)/ 土日11時30分~15時、17時30分~22時(LO)不定休※うどん「あさひ」は平日11時30分~15時、土日休http://www.eonet.ne.jp/~rivegauche/
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BLOG京の会長&社長めし
2019.09.11
川崎機械工業株式会社の社長が通う店「割烹 いがらし」
■林誠一郎(はやし せいいちろう)さん 1971年京都市生まれ。航空機などの歯車や部品製造を手掛ける川崎機械工業株式会社代表取締役社長。在日フランス商工会議所アンバサダー、オハイオ州立大学歯車研究所スポンサー、同志社大学アートインビジネス研究会研究委員など数々の肩書をもつ。蒔絵作家、浅井康宏のスポンサー。空手初段、テコンドー3段、ボクシング歴5年という肉体派でもある。2017年夏は、ご子息が祇園祭長刀鉾の稚児を務めた。外食は週4回。最後の晩餐は、マルゲリータピザと赤ワイン。使い勝手の良さに、家族的な雰囲気も魅力の花街のカウンター割烹京都の飲食店の中で、親子2代、3代で愛されているところは少なくないが、林さんが通う祇園の「割烹 いがらし」も、そんな一軒といえる。四条花見小路から一本南の通りを少し東へ入った場所にあるこの店は、京都の「浜作」で長く料理長を務めた五十嵐克己さんが、昭和54年(1979)に創業。季節のうまいものを食べさせるカウンター割烹として、京都の旦那衆や花街の人々に親しまれている。現在は若主人の五十嵐正記さん、姉の五十嵐由記さんが中心となって、家族で切り盛りしている。「弊社の創業者である父、林俊三が愛したお店です。父はカウンターが好きで、そこにお客さんをお招きして、たまに芸妓さんなどを呼んだりしながら、二次会へ行くというような流れでした。私がこちらに通うようになったのは、父の会社に入って、お客様の接待に同席するかたちで行かせてもらったのが最初です。私と同い年の若大将の正記さんとお姉さんで若女将の由記さんとは、懇意にさせていただいおり、一緒に飲みに行くことも多いです」と、林さん。それを受けて、「林さんのお父様は、店主であるうちの父が前の店で料理長をしていた頃からの一番古いお客様で、開店からずっと来ていただいています。そのお父様が海外から戻られた林さんを連れてお見えになって。林さんが会社を継がれてからは、お父様のようにお客様とご一緒にいらっしゃっています。すごくお話好きな方で、歳がほぼ同じということもあり、私もお友達のように楽しくお話しさせていただいていますね」と、由記さんは言う。ここでは、中央市場から仕入れる瀬戸内海や若狭の鮮魚、京野菜など、旬の素材を中心にした一品料理と、1万円からのコースが用意されている。一品とコースの内容は異なるが、好みの一品をコースに組み込むことも可能だ。食材の食べ方を相談しながら注文する割烹ならではのスタイルは、初めて訪れた林さんには、かなり印象深かったようだ。「目の前でもろこを一匹ずつ網で焼いて出すなど、吟味した食材をシンプルに食べさせるような料理がすごく新鮮で、お客さんのことをすっかり忘れてその食べ物のとりこになったことを覚えています。私は大学から12年間アメリカにいて和食らしい和食は食べてこなかったので、衝撃を受けました」(林さん)一品は週替わりの季節の献立に加え、定番メニューとしてからすみ、ふなずしといった酒肴が並ぶ。「黒龍」などの日本酒を頼むことが多いと言う林さんのお気に入りは、ミンククジラを使用したくじらベーコン。ミョウガなどと一緒に辛子や醤油につけて味わう。「どれもおいしいですが、くじらベーコンはあったら頼んでしまいます。脂もしつこくなくて、日本酒のアテに最高なんですよ」(林さん)「パリッとして甘味があって、おいしいですよ。ちょっと塩をつけて食べると、たまりません」と、林さんがおすすめする「海老コーンのかき揚げ」は、毎年初夏~9月頃まで楽しめる人気の一品。生のコーンにアスパラを混ぜて白絞油に入れ、上に海老をのせて揚げているといい、軽い食感で、素材のおいしさがシンプルに伝わる。「うちは揚げ物もよく出ます。芸妓さんとか、油物がお好きな方が多いですね」と、正記さん。秋は鱧や松茸のフライなども登場する。若狭産ぐじを使った焼き色も美しい「ぐじ焼き」。油をかけて焼いたうろこはパリパリと香ばしく、ふっくらとした身は甘みのある独特の味わいが楽しめる。正記さんは、神奈川の茶懐石の店や大阪・淀屋橋の「つるや」、新地の割烹などで経験を積んだ後、実家に戻ったという。「うちは親父も大阪で修業していたし、どちらかと言えば、少し濃いめで大阪寄りの味かもしれません。一品料理がメインなので、あまり手の込んだことはしていません。飾りつけもあまりしないので見た目は派手ではないですけど、僕はごちゃごちゃしたものより好きですね。この頃コース料理の割烹が多くなってきましたが、うちは一品を残していきたいと思っています」(正記さん)姉の由記さんはソムリエの資格を持っており、彼女がセレクトしたワインと和食を楽しむ客も多い。「もともと日本酒やワインが好きで、友人に誘われて一緒に資格取得の教室に通い始めたのがきっかけです。以前、林さんがフランスの企業のご接待にうちの座敷を使ってくださったのですが、私に日仏のワインのアレンジを頼まれて。そのときのお食事がお客様の印象に残っていたらしく、それがもとではないですけど、その企業との提携話がうまくいったということがあったんです。それ以来、ワインやフランス関係のことがあると、私に声をかけていただいたりして、親しくお話しするようになりましたね」(由記さん)店にはフランスを中心に、ドイツ、オーストリア、日本など、常時約50種のワインを揃えており、毎回テーマを決めてワインと料理を楽しむワイン会も不定期で行っているという。林さんは、接待など大勢で訪れる際は奥の座敷でコース、一人や友人たちと一緒の場合はカウンターで一品を楽しむといい、「総会などの立食パーティーがあって、名刺交換ばかりで食べられないときなんかは、一人で行って食べたいものを出してもらうことが多いです。いろいろわがままを聞いてくれて、こちらの調子に合わせて料理を出してくれたりするので、お母さんに甘えるような感じで過ごしています。雰囲気もアットホームな感じで、お客同士が知り合いになることもありますね」と、この店の魅力について語る。「林さんに限らず、お腹すいたし何か食べさせて、と言って来られる常連の方は多いですね。うちは花街にある店なので、お茶屋さんや芸舞妓さんたちのご要望に合わせた対応を日常的にしていますし、使い方を知っていただいている方には扱いやすいのではないでしょうか。上手に使って楽しんでいただけたらと思います」と、由記さん。ここにはふらりと訪れる一人客も多いという。おいしい料理や選りすぐりの酒、そしていつ訪れても楽しく過ごさせてくれる懐の深さが、多くの常連たちに愛されている所以なのだろう。撮影 瀧本加奈子 文 山本真由美■割烹 いがらし京都市東山区祇園町南側570-125075-525-173417時~21時(LO)※昼は前日までの予約のみ受付(2名以上)休 日曜(土~月の3連休の場合は不定休)※夜は予約が望ましい
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2019.08.29
明清建設工業株式会社の副社長が通う店「煕怡 Kii」
■本間 満(ほんま みつる)さん 明清建設工業株式会社 副社長。群馬県生まれ。日大卒業後に祖父が創業した「明清建設工業株式会社」に入社。 以来、営業を中心に勤め、現在は副社長と営業本部長を兼務。趣味は美味しいものを食べることと読書。休日には、嵐山で英語の観光案内ボランティアとして活動している。最後の晩餐は、「草喰なかひがし」の松茸ご飯。白いご飯に焼き松茸が乗ったシンプルなご飯だが、ご飯の塩加減や松茸の香ばしさが抜群に美味しくて、忘れられない。秋になったら食べにいく一品。美味しいものを長く食べるためにも、歩くなど運動もして健康でいたい。季節を味わうクリエイティブな一皿と憩う隠れ家的な一軒四条烏丸近くの呉服関係の会社が集まる一角。仏光寺通にある細い路地を進んで左手に見えてくるのが、本間さんが推薦する「煕怡 Kii」だ。「以前は伏見区中書島で『センプリチェ』という店名でやっておられました。フードコラムニストの門上武司さんにご紹介いただき、伺ったのが最初でした。中心部から離れた場所にあるにもかかわらず人気店で、食通の方々が通っておられました」(本間さん)「センプリチェ」は2013年のオープン。イタリア各地や京都でイタリア料理を学んだオーナーシェフ・西山哲平さんの独創的な料理が評判を呼び、多くのファンを獲得。それから多くの常連客の要望もあり、今年5月、店名も新たに移転することとなった。「本間さんはオープン1年目から来てくださっています。ロータリーの会で使われることがほとんどですが、ご家族で来られることもあります。前の店から来てくださっている方は、ほとんど1年目からのお客さんですね」と西山さん。「街中に移転され、行きやすくなりました」という本間さんのように、今回の移転は皆から喜ばれているそうだ。「カウンター7席ほどのお店なので、貸し切りにして友人たちと楽しみます」(本間さん)古い長屋を改装した店に足を踏み入れると、外とはガラリと様相は異なり、カウンターのみのシンプルモダンな空間が迎える。メニューは15000円からのコースのみで「季節感もありどれもおいしい」と、本間さん。西山さんの料理は素材ありき。季節の素材を生かすことに重点を置き、オリーブオイルやニンニク不使用の、イタリアンの枠を超えたものになっている。「イタリアン畑でやってきたのでパスタもありますが、ジャンルは固定していません。何料理かと言われたら、僕の料理という感じです」と、西山さん。素材を重視すればするほど、イタリアンという枠組みが窮屈になってきたと話す。「イタリアンでは僕がやりたいことをしきれない。じゃあ、何料理としなくても、自分が思うおいしい料理ができればいいかなと」。京都の意欲的な若手農業者が作る野菜や、信頼のおける錦市場の魚屋が扱う魚介など、いい素材と出合い、その生かし方を見直して試行錯誤を重ね、今の料理スタイルに行きついたという。コースの献立表は、「スープ 牡蠣 ゴーヤ 青海苔」「但馬牛 パプリカ 実山椒」という具合に、使う主素材のみ記載されている。「既存の料理じゃないので、素材以外に書きようがなくて」(西山さん)。書かれた素材から何が出来上がるのか、あれこれ予想しながら待つこともここでの楽しみだろう。写真は、7月のコースの一品「鮑 万願寺 モロヘイヤ」。この日の鮑は小浜産。長時間かけてやわらかくした鮑に、昆布だし入りの万願寺唐辛子のペーストと刻んだモロヘイヤを合わせた一品だ。鮑の食感と磯の香り、まろやかな万願寺のコク、アコヤ貝の旨味を含んだモロヘイヤ。それぞれの豊かな味が重なり合い、余韻が続くおいしさに。「鮑って料理の仕方が大体同じなので、今までにない食べ方を提案できたら」(西山さん)。油を使わず、余計な手をかけず素材の味を引き立たせた料理の数々は、和食に近いものがある。コースの最後に登場する、本間さんもおすすめのパスタ。「パスタはいろいろな種類を上手く組み合わせて巧みに出してくださる。いつも『今日はどんなパスタが出るだろう』と楽しみにして伺います」(本間さん)毎日手打ちするタリオリーニを使ったパスタは2種類あり、3つのサイズからチョイスできる。「1つは野菜系で、魚介を使ったパスタなどを組み合わせています。どちらか1つにすることもできますが、皆さん大概2種類食べはりますね」(西山さん)。写真はアルギット栽培によるフレッシュトマト、塩、水だけで作るトマトのパスタ(大30グラム)。歯切れのいいパスタの食感と、トマトの甘味と酸味、旨味を楽しむシンプルな一品だ。器は現代作家のものが中心。「僕は、意味のないものをのせるのが嫌で、白い皿だとまったく映えへん料理を作ることが多いんです」と、西山さん。それだけに器の存在は重要だという。ここでは日本酒も10種類ほど用意。「ワインだけでなく、日本酒にも合う料理ばかりなので、ワインをボトルで頼んで、料理によって日本酒を一杯飲んでいかれる方が多いですね」(西山さん)。写真の山形の四蔵元で造る地酒「山川光男」や、幻の伊ワイン「バローロ・リナルディ」(非売品)など、レアものに出合えることも。「食べたり飲んだりすることが好きな友人たちとカウンターに座り、店主と食材や料理について話しながら料理をいただく時間は至福です。奥様とお二人でやっていらっしゃるのですが奥様が可愛い方で、お話も楽しい。お目にかかるのが楽しみです」と、店の魅力について語る本間さん。その言葉に西山さんは、「僕がカウンターを好きなのは、お客様と会話がしたいから。かしこまっているのは嫌いですし。本間さんはすごく気さくな方で、壁なく接してくださるんです。うちの奥さんも気に入ってくださってて。彼女は人見知りなんですが、本間さんのことは大好きで、よく会話が弾んでいます(笑)。お客様は本間さんのように人生経験豊かな年上の方がほとんどで、お話も面白く、教えていただくことばかりです」。ちなみに、「煕怡」という店名は、中国の吉語だという。「和やかに集っているさまを表したおめでたい言葉だそうで、短くて語感もいいし、選びました。この名前が表すように、楽しく過ごせる雰囲気の店になれば」と西山さん。和やかなプライベート感のある空間で、これからどんな料理で愉しませてくれるのか、さらなる期待が膨らむ一軒だ。撮影 エディオオムラ 文 山本真由美■煕怡 Kii京都市下京区仏光寺室町東入釘隠町242090-7098-439218時~(応相談)休 日曜、月曜 ※前日までに要予約
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2019.08.23
明清建設工業株式会社の副社長が通う店「ぎおん 阪川」
■本間 満(ほんま みつる)さん 明清建設工業株式会社 副社長。群馬県生まれ。日大卒業後に祖父が創業した「明清建設工業株式会社」に入社。 以来、営業を中心に勤め、現在は副社長と営業本部長を兼務。趣味は美味しいものを食べることと読書。休日には、嵐山で英語の観光案内ボランティアとして活動している。最後の晩餐は、「草喰なかひがし」の松茸ご飯。白いご飯に焼き松茸が乗ったシンプルなご飯だが、ご飯の塩加減や松茸の香ばしさが抜群に美味しくて、忘れられない。秋になったら食べにいく一品。美味しいものを長く食べるためにも、歩くなど運動もして健康でいたい。確かな技術と素材へのこだわりで直球勝負する京料理「ロータリーの友人などと週に1、2回は会食します」という本間さん。おいしいものを食べることが趣味の一つであり、食事をする際はいろいろな人から情報収集を行い、評判のお店に行くのだとか。そんな本間さんの食通ぶりを昔からよく知るのが、今回お薦めの店として紹介された「ぎおん 阪川」の主人、坂川浩和さんだ。「いろんな店に行かれていて、ここ行ったほうがいいよ、って教えてもろたりしましたね。ミシュランガイドにならって、ご自分で選んだ京都のおすすめの店のリストをつくられたほど、おいしいものをよくご存じです。味に厳しい方ですから、僕も少なからず影響を受けたと思います」京都の代表的な花街である祇園町の南側。その花見小路通と東大路通の中ほどの、うっかり見落としそうな裏路地に、「ぎおん 阪川」はある。創業は平成9年。滋賀県出身の坂川さんは、花見小路新橋の「割烹 なか川」で17年間修業したのち、この場所で独立した。すっぽん、鱧、鯛、ぐじ、鮎などの魚介に、筍、松茸など、厳選した旬の食材を活かした京料理で愉しませてくれる名割烹だ。「今と違って、独立した当時、このあたりは古くからのお店やお茶屋さんしかなくて、僕らみたいな若輩者が入ってきてもええんかな、という感じやったんですよ」と、坂川さんは振り返る。本間さんが最初にこの店を訪れたのは、そんな創業から間もない頃だったとか。「もう20年以上のおつきあいになるでしょうか。繁盛店なので、今は年に数回伺うくらいになっていますが、当時はちょくちょく伺っていました。なまこやからすみを注文して麦酒を一杯味わうなど、軽く飲みに行ったりもしていましたね」(本間さん)美しい木のカウンターと小上がりのある落ち着いた雰囲気の店内は、美味いものを求めて全国から訪れる人々で賑わう。そんな人気店も、創業当初はお客が来ず苦労したという。「最初の5年ぐらいは、お客さんが2人とか4人とかがしょっちゅうでした。まだネット社会やないですから、口コミの世界でしたし。そこから本間さんにお客さんを紹介していただいたりして、少しずつ数が増えていくようになって。そういう意味では、今のうちがあるのは本間さんのおかげでもあるんですよ」(坂川さん)最近はコースのみの割烹も増えたが、ここでは季節料理を13000円からのコースとアラカルトで提供する昔ながらのスタイルを貫いている。「うちはどちらもやっていますから、単品メニューに食べたいものがあればコースに入れたり、いらんものはコースから抜いたり、何でもできます。それがうちの良さですから」と坂川さん。本間さんはいつもコースでお願いするそうで、「すっぽん焼きと焼おにぎりは、コースに必ず入れてもらいます」(本間さん)。実はこの2品は通常のメニューにはなく、お客からの要望でできた裏メニュー。こうした料理が存在するのも、割烹ならではの魅力だろう。「東京の友人や社員たちと行くことがほとんどですが、誰と行っても、必ず喜んでもらえるのもうれしいことです」(本間さん)魚介をはじめ、季節の素材のポテンシャルを引き出すことに定評がある坂川さんの料理。コースの中に一品として本間さんが夏によく注文するのが、鱧の焼霜や鯛のあら煮だ。「鱧は目の前で焼いてくれ、ほどよい焼き加減になったら皿にのせてくれる。その様子を見て楽しみ、香りに食欲をそそられる。カウンターならではの楽しみです」(本間さん)鱧の焼霜は、骨切りした鱧を炭火で軽く焼き、氷にあてる。その時に生じる香りを感じながら、出来上がりを待つのだ。「焼霜は焼いてバランスよく香りをつけること、そして何よりいい鱧を使うことが一番大事です」と、坂川さん。坂川さんが料理で最も重視するのはやはり素材の良さだ。使用する鱧は、脂乗りがよく、薄皮で骨の細かい韓国産の天然物。550~600グラムのものが理想だという。熟練の技術でリズムよく鱧の骨切りを行う。これを焼霜にすると、繊細な切り口が花のような姿に。美しく盛りつけられた絶品の鱧の焼霜。お好みで下に敷いたすだちと一緒に、合わせ醤油でいただく。半生の鱧のふくよかな旨味と程よい香ばしさ、そしてほのかなすだちの香りが口の中に広がる。脂ののった鱧は上質の牛肉に近い味わいだ。「天然なので脂のよさもありますね。また後口がいいでしょ。香りが残るのが」(坂川さん)鯛は明石の二見あたりでとれた3キロほどのものを使う。「うちのは数軒しか扱っていない鯛でほんまにうまいと思いますから、ぜひ食べてほしいですね」と、坂川さん。艶やかに仕上がった鯛のあら煮は、「お湯で臭みをとってから醤油と酒、砂糖で炊くだけです」。シンプルだが、バランスのよい味付けが上質で弾力のある鯛の豊かな味わいを引き立てる。「本間さんは、これを食べてご飯かおにぎりを頼まれます。毎日の定食みたいな感じですかね。煮汁を残して鯛にゅうめんにして食べるお客さんもおられます」(坂川さん)本間さんは店の魅力について、こう話す。「何よりの魅力は、坂川さんが常連でも一見でも区別なくもてなしてくれることです。帰る際には、主人と女将のふたりで見えなくなるまで見送ってくれる。開店からずっと変わらずやっておられ、客への思いが感じられます」そのことを伝えると、「常連さんも一見さんもそれは一緒です。お金持ちの人が3倍払ってくれはるんやったら大事にしますけど(笑)。逆に常連さんのほうに無理を言いやすいところがあるかもしれません」とユーモアたっぷりに答える坂川さん。そして、もてなしへの思いについて、「最低限のことしかしてないんですよ。僕は話がうまくないから、会話も続いていかないですし。嫁さんは、お客さんとプライベートの楽しい話もできますから助かっています。とりあえず自分のできるスタイルで、雰囲気のいい空間をつくりあげることができたらと思っています」と語った。坂川さんの素材に真摯に向き合う姿勢と、飾らない人柄。そこから生まれる心地よい料理や雰囲気が、本間さんをはじめ、多くの人々を惹きつけるのだろう。撮影 エディオオムラ 文 山本真由美■ぎおん 阪川京都市東山区祇園町南側570-199075-532-280117時~21時(入店)定休日 日曜、祝祭日不定休 要予約
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BLOG京の会長&社長めし
2019.07.16
日本合繊工業の会長が通う店 「富小路 やま岸」
■鈴木康次(すずき やすじ)さん 日本合繊工業株式会社 取締役会長産業用・工業用繊維の精練加工など、各種仕上加工を行う日本合繊工業に1971年入社。父の跡を継ぎ、30代で専務取締役を経て代表取締役社長に就く。バブル前後の荒波を乗り越え、2018年より現職。ロータリークラブの美食グループの会長も務める。会合での店選びには定評があり、多くの仲間が全幅の信頼を寄せている。手が掛けられたお造りやごはんの添えものにまで、舌鼓を打つ「1回目でもお話ししましたが、私には1年に8~10回訪れる店が15軒あります。それらは人気店なので、早めに来年分の予約をまとめて取ってしまいます。そのなかの1軒が、やま岸さんなんです」扉を開けると、ほの暗い石畳がすっと前に伸びる。その傍らには待合が。茶事に招かれた、その時の空気に満ちている。今では18時と20時にスタートする夜の回は、2年先まで予約が埋まっている人気の割烹「富小路 やま岸」。店主の山岸隆博さんは、「たん熊 北店」で1年半、西京漬けが有名な老舗「京都 一の傳」で10年勤めたのち、2015年10月に独立した。「一の傳の社長から紹介され、オープン間もないお正月料理の時期にうかがいました。そのころはまだ予約も取りやすかったんですよ。それが今や...ですので、早めの予約が必須。8席を貸し切りにして、その時々に友人・知人に声をかけるのですが、みなさん"あの、やま岸に行けるなんて!"と、とても喜んでくださいます。そのうちの2~3回は、妻孝行です(笑)」(鈴木さん)鈴木さんが初めて訪れたとき、山岸さんは「いろんな物を召し上がってきた方だ」と直感したという。「懐石道具である杉八寸に添えられた竹箸を持つ手の動き、御椀のお汁から飲まれて具を召し上がる流れなど、食べ方がとても慣れていらっしゃいました。身が引き締まり、プレッシャーを感じましたね」(山岸さん)鈴木さんは貝が好物で、いろいろな店で、さまざまな貝料理を食べるのが楽しみのひとつだとか。「やま岸さんでは、とり貝は炙りで、赤貝は造りでと、シンプルに貝そのものの味を引き立てる出し方をされます。コース内容には特にリクエストはしないのですが、貝料理はいつも含めてくださる、その気遣いがうれしいですね」(鈴木さん)写真は能登産の天然のとり貝。大きくぷっくりと活きがよい姿に心が躍る。「鈴木さんには、貝類は意識してお出しするようにしています。こうした新鮮な魚介にはそれほど手を加えませんが、たとえば八寸には手を加える。そのバランスが良くなるように意識しています。今回は炙ったとり貝に、ずいきとばちこを添えました。ずいきは、米を炒り、おこげの香りを昆布出汁にのせたもので味付けしています。いつも食べているものを、食べたことのないような風味でお出しする。そういう点を、鈴木さんは"面白い"とおっしゃってくださるのかもしれません」(山岸さん)茶道裏千家講師の資格を持つ山岸さんは、料理に茶懐石の基本を取り入れている。茶道具である杉八寸には、青竹の「中節箸」が添えられ、海(川)の物(生臭もの)である鮎のお寿司と、山の物(精進もの)であるトウモロコシのかき揚げが。「鮎の腹にはすし飯と蓼(たで)の葉を詰めました」(山岸さん)「ご飯」もやま岸の大きな特徴だろう。茶懐石にのっとり、食事の最初には炊き立てのもち米の飯蒸しが供される。そして最後には、蒸らす前の状態であるご飯が一文字に盛られる。この盛り方は、この「煮えばな」の時でしかできない。そのあとは、少し蒸らしたご飯、しっかりと蒸らしたご飯と、3段階楽しめるという趣向だ。「寒暖差のある長野県・木島平で、限られた生産者によってつくられたお米は、艶やかで甘みがあります。うちは蛇口をひねれば井戸水が出るのですが、それを使っています。そして火とかまどの絶妙な距離を、試行錯誤の末見つけ出しました」(山岸さん)そのご飯の添えものを、鈴木さんは絶賛する。「じっくりと炊いたえのき、白ワインを混ぜ込んだ明太子、丁寧に下処理されたじゃこに柚胡椒を和えたもの、この3つは定番。それにその時々の佃煮(写真は山吹とじゃこ)が添えられます。もうお腹はいっぱいなのに、2~3膳いただいてしまいます(笑)。造りの添えもの然り、シンプルに見えますが、とても工夫と手間がかけられていることがわかります」(鈴木さん)茶道のほかに、華道嵯峨御流華範、書道師範の資格も持つ山岸さんは、自ら店内の花も活けている。「いつ来ても、主張しすぎず、品の良い季節の花が飾られています」(鈴木さん)「山岸さんはとても楽しく、前向きで気持ちいい方です。でもお昼も夜も営業されて、とてもお忙しそうです。もうちょっとゆとりを持てるようになれたらいいですよね」と言う鈴木さんに、山岸さんは全幅の信頼を寄せているという。「主催者である鈴木さんは、カウンターの一番奥の席にお座りになられます。そしてご自身はお酒を控えていらっしゃいますが、どんな方にも――それこそ若いお客様にも分け隔てなくご自身でお酒を注がれ、場を楽しく盛り上げていらっしゃいます。その心遣いは、本当に素晴らしいと感じています。カウンター越しに、私は鈴木さんにお出しした料理の味についてよくうかがっています。そんなときにはお客様目線で親身になって、的確で、忌憚ないご意見をいただくことができ、取り入れて直すことも多くあるんです」(山岸さん)2019年7月には、二条駅近くに新店をオープンする予定だとか。「先付け2種、月替わりの鍋、そして今お出ししている炊き立てごはんの店になります」(山岸さん)さらに8月には香港に、「富小路 やま岸」と同じスタイルの2号店が出店する。鈴木さんの舌が認めるやま岸は、ますますその味を広めていくのだ。 撮影 津久井珠美 文 竹中式子■富小路 やま岸京都市中京区富小路通六角下る骨屋之町560075-708-786512:00~、18:00〜、20:00~定休日 火曜日、第2・4水曜日http://www.tominokoji-yamagishi.com/
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BLOG京の会長&社長めし
2019.07.09
日本合繊工業の会長が通う店 「ちもと」
■鈴木康次(すずき やすじ)さん 日本合繊工業株式会社 取締役会長産業用・工業用繊維の精練加工など、各種仕上加工を行う日本合繊工業に1971年入社。父の跡を継ぎ、30代で専務取締役を経て代表取締役社長に就く。バブル前後の荒波を乗り越え、2018年より現職。ロータリークラブの美食グループの会長も務める。会合での店選びには定評があり、多くの仲間が全幅の信頼を寄せている。京都人としての遊び方を学び、人生を豊かにしてくれた料亭子供のころから父に連れられ、洋食店やお茶屋を訪れていたという鈴木さん。気に入った店は1年の内に訪れる日を早々に予約してしまうという。「1年に8~10回訪れる店が15軒。2~3回の店が40軒。それに新規開拓もします。日祝はお休みです(笑)」(鈴木さん)ほぼ毎日、会食の予定が入っている鈴木さんが40年以上通い続けているのが、料亭「ちもと」だ。四条大橋西詰に風情をたたえてたたずむ姿を、目にした人も多いだろう。ちもとは1718(享保3)年、西陣で仕出し屋として創業。明治初期にこの場所に移転して以来、料亭として画家、文化人、歌舞伎役者衆など、名だたる著名人に愛されてきた。「会合の場所として最初に訪れた30代の時は、料亭にもそれこそ祇園にも不慣れな若造でした。今は引退された大女将に、質のいい遊び方をずいぶん教えていただいたものです。おかげで人脈もとても広がり、感謝してもしきれません。そんな昭和4年生まれの大女将とは、今でも季節ごとに食事デートをしています。私は大女将の恋人のひとりなんですよ(笑)」(鈴木さん)鈴木さんがいつも利用しているのが、2階の中広間。鴨川が眼下に広がり向こう岸には南座を臨む。「東京、大阪、滋賀など、京都以外の方との接待でうかがうことが多いですね。5~10名くらいでも、部屋が広いので大いにくつろげます。窓辺からの京都らしい景色を背景に、広間で芸舞妓の舞を鑑賞すると、どなたにも京都らしさを満喫できたと喜んでいただけるんです。とても気に入ったからと、ちもとさんへの予約を代わりに頼まれることもあるほどです」(鈴木さん)ちもとには掘りごたつの部屋もあるが、畳の上に座布団であぐらをかく、昔ながらの"本当の"お座敷のスタイルが鈴木さんの好みのようだ。大女将の姪にあたる現女将の松井薫さんは、13年前にちもとで働き始めたときからのつきあいになる。「英語が堪能なので、外国人の方にも喜んでもらえるし、頼りになるありがたい存在です」と鈴木さんは言う。「鈴木会長は京都の文化を深く愛され、ふるまいがとてもスマートでいらっしゃいます。ご一緒されている方だけではなく、私どもにも分け隔てなく気さくに話しかけてくださって。それこそ時にはジョークをはさみながら、こちらの緊張をほぐしてくださるんです。本来、おもてなしは私どもの専売特許ですのに、あべこべですよね。でもその粋な心配りがあまりにも自然で、みんな会長のファンになってしまいます。これぞ京都の旦那さんではないでしょうか。現代ではこのような方は少なくなってしまい、もしかしたら鈴木会長が最後のおひとりなのでは、とすら思えます。実は私、会長のそんなご様子やお顔立ちから、密かに"和製ジョージ・クルーニー"と呼んでいるんですよ」(松井さん)料理はいつもおまかせコース。季節を映しだす美しい姿とその味に、鈴木さんは全幅の信頼を寄せている。7月の七夕の風情をあしらった「鱧の落とし」は、笹の葉がまさにサラサラと清涼感を運んでくる一品だ。「こちらの鱧料理は、おとしでもお吸い物でも焼霜でも、身がふっくらと柔らかです。優しい口あたりで、いつも満足させていただいています」(鈴木さん)その秘密を、40年以上ちもとの板場に立つ料理長の丹谷節雄(たんや みさお)さんが、そっと教えてくれた。「鱧は1.2~1.3キロの脂ののったものを。ただ長いだけではダメで、太ったものに限定しています。そして茹でるときは真水ではなく、塩を足すことで旨みが出るんです」(丹谷さん)へしこやくさやなど、和の発酵食品が好物だという鈴木さんのお気に入りが、御椀「吉野仕立て」。なんと鮒寿司のお吸い物だという。「米に漬かった鮒寿司を酒粕に移し替えることで、鮒寿司の塩気がまろやかになり、そのまま食べることもできるほどです。その鮒寿司を冬瓜にのせ、針茗荷と生姜を散らし、ほんのりと吉野葛のとろみがついた出汁を回しかけます」(丹谷さん)先々代の松井新七氏が考案したという「麦飯蒸し」は、ちもとを代表する料理のひとつだ。「麦飯の周りをぐじと錦糸卵でくるみ、青ねぎ・紅葉おろし・海苔を添えます。そして焼いたぐじの骨からとった出汁と一緒に召し上がっていただくと、するすると軽くのどを通るのではないでしょうか。元々は、食欲のなくなる夏のお料理として始まりました」(丹谷さん)季節ごとに変わる料理も常に変化と進化を遂げると同時に、客の好みにできるだけ応じる。なので、いつこれらの料理をいただけるかはその時によるが、それは器も同じで一期一会だ。ちもとにはなんと2200種以上の器を保管されているという。それらの整理には3年半を費やしたとか。そのほとんどがそれぞれ30~80客もあるので、総数はもはや数え切れない。「過去3年は同じ器ではお出ししない」という決まりのもと、器は選ばれていくそうだ。「お客様の心に耳を澄ませながら」という信念が、300年にわたり代々受け継がれているちもとでは、昭和初期までは地下に大浴場があった。ひと風呂浴びて汗を流し、用意された浴衣に着替えて、芸舞妓とともに食事を楽しむ――なんとも優雅な時間が流れる、そんな時代があったのだ。「今では大浴場はありませんが、2~3時間のお食事の時間で日頃のお疲れを癒していただけるよう、心を尽くしております。ちもとにいらっしゃる間は、男性はお殿様、女性はお姫様になっていただければと。皆様のお好みや、その時々の心は目に見えるものではありません。そんな、言葉にならない思いに耳を澄ませながら、よりよいおもてなしに心を砕いてまいりました」(松井さん)そうした、「お客様にゆったりとすごしてほしい」という願いは、京都の夏恒例の床にも現れている。鴨川に張り出す多くの床が、隣席との間が密集して客同士がくっつかんばかりのなか、ちもとではわずか7席。しかも雨が降っても必ず個室に移動でき、酒宴を途切れることなく続けるられるのだ。「お席との間が空いていると、風も通りやすく、涼しく床を楽しんでいただけます。床では活きのいい天然の鮎を、目の前でお焼きします」(松井さん)その魅力は、京都以外の方や外国人にはおすすめだと、鈴木さんも認めるところ。だがご本人は「たまにデザートだけ食べに床を使うこともあるけれど、基本的に京都人は床を利用しません(笑)」とのことだ。祇園にも出やすい立地で、歴史ある数寄屋造りの建物のなか、格調高い器で技が効いた季節の料理をいただく――。大女将から学んだ粋な姿で、今日も鈴木さんはちもとで、ゆったりとした時間を過ごしているのだ。撮影 瀧本加奈子 文 竹中式子■ちもと京都市下京区西石垣通四条下る075-3351-184612:00~14:30(最終入店)、17:00~20:00(最終入店)定休日 不定休 月2回※HPで確認をhttp://chimoto.jp/index.html
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