京の会長&社長めし
京都にある会社の会長&社長は、どんな店でどんな料理を食べているのでしょうか? 彼らが通う一見さんお断りの超高級店から大衆店までご紹介していきます。
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BLOG京の会長&社長めし
2020.02.17
株式会社鼓月の社長が通う店「チェンチ」
■中西英貴(なかにし ひでたか)さん 京菓子處鼓月 代表取締役社長1971年京都生まれ。94年に明治大学商学部卒業。97年京菓子處鼓月に入社。2005年4代目社長就任。「どのようなお菓子がお客様に共感され喜んでいただけるのか」を常に心掛け、代表銘菓「華」や「千寿せんべい」の伝統を守りつつも、洋菓子工房「KINEEL」、スポーツ羊羹「anpower」などを発案し、多角展開している。趣味はトライアスロンとスキー。食事のお店選びは、京都でご縁をいただいた方やご紹介など、繋がりを大切に、がモットー。最後の晩餐は、ワインと焼き鳥、デザートにホールケーキ丸ごと。季節の素材の味が際立つ美しい皿に選り抜きのワイン。非日常的な空間で楽しい時間を平安神宮や美術館などが集まる文化エリア、岡崎。丸太町通から桜馬場通を南へ少し入った閑静な場所に、中西さんお薦めの「チェンチ」がある。オーナーは名イタリアン「イル・ギオットーネ」で9年半料理長を務めた坂本健シェフで、2014年のオープン以来、全国にファンを増やし続けている。中西さんは街中から離れた場所にある店が好きで、ここには3年ほど前から通っているそうだ。「実は妻の実家が岡崎でよく前の道を通るので、オープン前から気になっていたんです。親しい夫婦4組で不定期の食事会をしているのですが、そのときに初めて行かせてもらいました。まず建物の雰囲気で気分が高まりますね。料理は旬の素材を使っていろんなものを作ってくれて、行くたびに違うものを味わえるのが楽しい。イタリアンのお店もよく行きますけど、その中でもチェンチさんはもう一回行きたいなと思えるお店です」(中西さん)「岡崎は中心部との距離感がよく、周囲の空気感も変わらないことから選びました。場所柄、昼のお客様はほぼ女性ですが、夜は社長さんや京大病院の先生など男性のお客様も多いですね。中西社長は京都の社長さん方と一緒に来られて、他の会でも何人かで来られていたと思います」(坂本さん)坂本さんは、開業準備期間に全国の生産者を巡り、地元の人と交流する中で食の持つパワーを再認識。店のコンセプトが固まったという。「初対面でも食卓を囲めば皆、楽しく元気になれることをすごく感じて、おいしい料理とワイン、気持ちのいいサービス、いい空間があり、常にいい空気が流れているレストランを作りたいと思ったんです。器や食材なども人としていいなと思う方のものを集めました」(坂本さん)店舗は古い日本家屋を1年近くかけて改装。中に足を踏み入れると、蹴上の"ねじりまんぽ"を模して造られたレンガのトンネル、半地下と中二階のテーブル席、個室、カウンター、坪庭などで構成された空間が現れる。無垢材や石、鉄を巧みに取り入れた内装やインテリアは、温かみと落ち着きがあり、どこかヨーロッパの町にいるような風情だ。「中二階になっているところはちょうどいい席数があって、オープンキッチンも見えるので、そこで家族会や夫婦の食事会などをよくします」(中西さん)「天井を高くして贅沢な気分で食事をしてもらおうと、半地下にしました」と、坂本さん。スタッフと共に内装にも携わったそうで、自分たちで地面を掘り、使用するレンガも掘った土と信楽の粘土を混ぜたものを焼いて製作したという。「知り合いを連れて行くと、まず扉を開けて入ったところからわーっとなって、お店の雰囲気に取り込まれる。それでこちらもお店の蘊蓄を喋れますので」と話す中西さんのように、場を楽しくする話題作りにもなっている。「料理はどれもおいしく、安心感があります」(中西さん)メニューはコースのみで、2カ月に一度変わる。生産者とやりとりしながら環境負荷の少ない旬の素材を仕入れ、その持ち味を最大限に生かした優しい味わいの料理を提供している。写真はコースの一例より、フランス産ビルゴー鴨。ゴボウのピューレ、黒ニンニクと昆布だしで炊いたゴボウ、西洋梨、山葡萄を発酵させたソース、バルサミコを加えた肉のソース。複雑な味の重なりの中に、やわらかな鴨やゴボウなど、素材のおいしさを堪能できる一皿。「あまり詰め込みすぎず、あとでお客様が『今日のあれおいしかったな』と振り返ることができるような料理を心がけています」と坂本さん。フグとフグの白子と九条ネギのパスタ。フグの骨でとっただしに炭火焼の白子を合わせたクリーミーなソースが、太めの麺に絡む、冬ならではの贅沢な一品。コクのある味わいに香り豊かな自家製柚子胡椒が味を引き締める。中西さんは、丁寧な料理説明も気に入っている点だと話す。「例えば、〇〇産の生ハムです、というだけでなく、どういう思いで今日この生ハムを選んだのかというところまで教えてもらえるので、より料理に入り込んでいけます」これについて坂本さんは、こう説明する。「とりあえず試食会などはしっかりやっています。サービススタッフにも新しい料理を全部フルポーションで食べてもらい、意見を聞いたり、ワインペアリングやティーペアリングを決めたり。自分が食べておいしかったという印象から出る言葉で料理を説明するのが一番なので、そこは大事にしています」ワインはイタリアを中心としたヨーロッパや国産の上質の自然派ワインを多く揃える。マネージャーの文屋隆志さんが手にしているのは、山梨の「ボー・ペーサージュ」のワイン。「かしこまりすぎず、お客様に楽しんで帰っていただくことを心がけています。皆で食材やワインの生産者の訪問もよくしているので、そうした方々の思いも伝えていけたら」と、文屋さん。「京都の人に愛されるお店でありたい」と話す坂本さん。この5年の間に自身の料理も変化してきたという。「これまでの料理に、生まれ育った京都の食文化の影響や、海外でインプットしたものなどを融合させてコースを組み立てています。自分たちが今やっているものを、お客様と一緒に共有して楽しめるお店になれば」と話す。コースは昼6000円、夜11000円(各税サ別)。予算はワインを軽く飲んで20000円ほど。楽しい雰囲気に満ちた空間と進化していく料理のもてなしに、また多くの人が魅了されるはずだ。撮影 エディ・オオムラ 文 山本真由美■チェンチ京都市左京区聖護院円頓美町44-7075-708-5307営業時間 12時~15時、18時~23時定休日 月、月2回不定休(日または火)http://cenci-kyoto.com/
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2020.02.10
株式会社鼓月の社長が通う店「十二段家 本店」
■中西英貴(なかにし ひでたか)さん 京菓子處鼓月代表取締役社長1971年京都生まれ。94年に明治大学商学部卒業。97年京菓子處鼓月に入社。2005年4代目社長就任。「どのようなお菓子がお客様に共感され喜んでいただけるのか」を常に心掛け、代表銘菓「華」や「千寿せんべい」の伝統を守りつつも、洋菓子工房「KINEEL」、スポーツ羊羹「anpower」などを発案し、多角展開している。趣味はトライアスロンとスキー。食事のお店選びは、京都でご縁をいただいた方やご紹介など、繋がりを大切に、がモットー。最後の晩餐は、ワインと焼き鳥、デザートにホールケーキ丸ごと。民藝作品に囲まれた空間で、選り抜きの京都牛を使った初代考案のしゃぶしゃぶを寒さ厳しい京都の冬は、やはり温かい鍋料理が食べたくなるもの。しゃぶしゃぶは外国人にも人気の鍋料理だが、その発祥の店は京都にある。祇園で長く愛されている中西さんお勧めの一軒、「十二段家」だ。「場所もお店の構えもいいし、祇園の料理屋さんの中ではリーズナブルでおいしいお肉が食べられます。よく家族や、仲の良い家族同士で行ったりします。東京のお客さんを連れていくこともありますね」(中西さん)祇園甲部の花見小路通から少し東へ入った場所に佇む風格ある建物。ここがしゃぶしゃぶの店として始まったのは、戦後間もない昭和22年。今の店主の祖父が、軍医で民藝運動家の吉田璋也氏の助言により、羊肉を使った中国の鍋料理、刷羊肉(シュワヤンロウ)の味を再現し、日本人向けにアレンジした「牛肉の水炊き」を考案。そのレシピをいろいろな料理人に教えたことで全国に広まり、その後「しゃぶしゃぶ」の名称で親しまれるようになったという。店では当時と変わらない味をコースで提供。これまで日本の皇族方をはじめ数多くの賓客が訪れている。中西さんと3代目店主の西垣大さんは、共に祇園祭の"お稚児さん"の経験者で、小学5年生の時からの仲だという。「僕は昭和56年、彼は翌年に稚児をやりまして。稚児をやると翌年から長刀鉾の囃子方になるんですが、それ以来のつきあいです。同い年で、偶然にも高校も一緒(笑)。そんな縁もあってよく行きます。しゃぶしゃぶ発祥のお店と言われていますし、いろいろな方を連れて行っても喜ばれますね」と、中西さん。もともと互いの父親同士が知り合いで、幼少期から何度か連れられて行ったこともあったそうだ。対する西垣さんも、 「中西くんは、毎年夏になると1カ月間、囃子方で一緒になる昔からの仲間で、年に2、3回は来てくれます。ご家族で来られることが多いですね」と話す。食べに行った飲食店の情報など、互いにアドバイスをし合ったりすることもあるという。本店ではしゃぶしゃぶとすき焼きが楽しめ、中西さんはしゃぶしゃぶをオーダーするという。 「彼が肉を選んで仕入れていて、とにかく自分とこの肉は一番やと言っています(笑)。ここのしゃぶしゃぶをつけるたれがおいしいんですよね。あと前菜も結構出てきて楽しめます。今、濃い目の味付けの店が増えているので、こういう昔からの京都の味で出されているのはありがたいですね」(中西さん)しゃぶしゃぶコースは11000円~16000円(各税サ別)の3種あり、先付、前菜、しゃぶしゃぶ、ご飯、漬物、デザートが付く。伊万里の皿に盛られた名物の前菜は、ファンの多い手羽の醤油照焼、東寺湯葉の煮物、小茄子の田楽など7品ほど(写真は2人前)。季節により若干変わるが、ほぼ創業時そのままの献立だ。どれも素材の味を生かした上品な味わいで、「このボリュームに皆さん驚かれます」と、西垣さん。肉は亀岡の契約業者から仕入れる京都牛のA4~A5クラスで、霜降りでも赤身の部分を選んでいる。 「噛みごたえがあり、味がくどくならず最後までおいしく食べられる肉を目指しています」(西垣さん)しゃぶしゃぶ用の銅鍋は、初代が中国の火鍋子(ホウコウズ)をもとに日本の職人に作らせたもので、煙突部分に入れた炭火で調理する。じんわり程よく熱せられ、あくもほとんど出ないという。さっとくぐらせた上質の肉はやわらかく、噛むほどに豊かな味わいが楽しめる。しゃぶしゃぶで肉や野菜のエキスが溶け込んだスープもまた美味。初代が試行錯誤の末に完成させた"元祖"ゴマだれ。自家製の練りゴマに、だしとフルーツビネガー、自家製ラー油などを加えている。ゴマの風味を生かしたコクのあるたれが肉や野菜の味を引き立てて実においしい。甘くなく、普段ゴマだれが苦手な人にも好評だ。中西さんは、趣ある店の佇まいも店の魅力に挙げる。「座敷に民芸風の家具や棟方志功さんの作品などが並んでいたりするんですが、かしこまった雰囲気はなく、田舎の家にいるような感じで落ち着きます」(中西さん)初代は、河井寛次郎、黒田辰秋、棟方志功など民藝の作家たちとの親交が深く、特に棟方はここに居候していたこともあったという。店内の随所にさりげなく飾られた彼らの作品を眺めながら食事ができるのは、なんとも贅沢だ。料理に専念する西垣さんを、接客の面で支えるのが妻の敦子さん。「奥さんが朗らかな感じの方で、場の雰囲気を和やかにしてくださる。結構お店の雰囲気は奥さんでもっているんじゃないかと思います(笑)」(中西さん)「今はいろんな国の方が来られて、その楽しまれ方も文化の違いがあるのですが、どなたにも楽しんでいただけるように努めています」(敦子さん)「ここならおいしいものが食べられるという安心感があります」(中西さん)この店では"いいものを安く、おいしく"という信条が代々受け継がれている。「値段もほとんど変えていないと思います。肉の質を落とさずにずっと続けているので、肉屋泣かせですね(笑)」と、西垣さん。「お客様に満足してもらうため」妥協せず取り組む仕事ぶりに、中西さんをはじめ、多くの人の信頼を集める理由が窺える。撮影 エディ・オオムラ 文 山本真由美■十二段家 本店京都市東山区花見小路通四条下ル075-561-021311時30分~14時、17時~20時(LO)定休日 木(祝日の場合は水または金)http://junidanya-kyoto.com/
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2020.01.22
山田繊維株式会社の社長が通う店「半兵衛麩」
■山田芳生(やまだ よしお)さん 山田繊維株式会社代表取締役(3代目)。1965年生まれ、京都生まれ京都育ち。大学卒業後、神戸で5年間アパレルの会社に勤務した後、山田繊維の東京事務所開設を機に家業に就く。東京で8年間営業を経験した後、2001年に京都に戻り、2003年社長に就任。現代のライフスタイルに適したふろしきの開発に力を入れる他、東京(神宮前)と京都(三条)に直営店「むす美」を開設、またセミナーや書籍の発刊など、ふろしきの普及活動も行う。新しいことも、伝統的なことも、その両面が体験できる仕事と、京都という地の利に感謝している。伝統と革新が入り混じる京都の食文化も大好きで、和食も中華もイタリアンも大好きだが、やっぱり魚料理が一番好き。最後の晩餐は、グジの焼き物。高たんぱくでヘルシー。伝統の職人技で作る京麩や京湯葉の魅力を「むし養い」で京料理に欠かせない麩は、かつては修行僧たちの貴重なタンパク源であり、現代では高たんぱく、低脂質のヘルシーな食材として注目されている。五条大橋の東南に佇む「半兵衛麩」は、宮中・大膳亮で麩作りを学んだ初代玉置半兵衛が、元禄2(1682)年に創業。熟練の職人技で作られる伝統の京麩や京湯葉は、名だたる本山寺院や料亭などに用いられている。ここでは、麩や湯葉を販売しているほか、それらを使った「むし養い料理」が楽しめ、主婦など女性を中心に人気を集めている。「今年の9月頃、僕が経営の勉強をさせてもらっている先生が連れてくださったお店で、麩の食べ方を皆に知ってもらうために料理を始められたそうです。味はもちろん、会社の経営理念のようなものが伝わってきて、とても素敵なお店だなと思いました。実はまだ1回しか行けていませんが、家内は何度か行っているようです」と、山田さん。11代目当主の三女で広報担当の玉置淳さんは、「実は前に山田繊維さんの物流システムを社員で見学に行かせていただいたことがあり、それが山田様との最初のご縁だと思います。その後、お食事に来てくださったと聞いています」と、振り返る。店舗は築約120年の町家を生かしたもので、横の洋館が販売店舗となっている。建物奥の茶房へ繋がる通路には、昔ながらのおくどさんや調度品などが見られる。中庭に面した茶房で楽しめるのが、「むし養い料理」。これを出すようになったのは、約30年以上前のことだという。「当時、麩に馴染みのない方が多く、どんなふうに食べればいいのかというお問い合わせもたくさんありました。それで一度食べていただくのがわかりやすいだろうということで始めたのがきっかけです。うちは麩の販売が本業ですので、お召し上がりいただき『これだったら家で作れる』と思って買っていただくことが理想。いかに簡単でおいしく召し上がっていただけるかを考えて作っています」と、淳さん。 「自社商品である麩を大事に扱っておられ、皆に使ってもらいたいという思いがとても感じられます」と、山田さん。この店の取り組みに、共感を覚えるという。「うちの場合は風呂敷ですが、皆が使い方をよく知らないというものを扱っている点で似ているかもしれません。うちも直営店でいろいろな風呂敷の使い方やデザインを見て、風呂敷の概念が変わった、ということを言ってくださるお客さんが多いのですが、半兵衛麩さんもそのようなことに早くから取り組まれていて、すごいなと思いました」(山田さん)麩と湯葉の料理「むし養い」3500円。生麩田楽、利休坊、季節の細工麩、竹麩の山椒風味、丁子麩ときゅうりの酢の物、生麩のしぐれ煮、くみ上げゆば、よもぎ麩白みそ仕立てなど、多彩な麩と湯葉の料理が盛り込まれている。素材の特徴を生かした料理はどれもおいしく、なかなかの食べごたえ。ヘルシーで胃にもたれしないのも魅力だ。「献立は両親が料理の先生に協力していただいて考えたもので、しぐれ煮以外はお家で作っていただけます」と、淳さん。かつおと昆布のだしによもぎ麩を入れて温め、白みそをといた「よもぎ麩の白みそ仕立て」。甘くまろやかな白みそとやわらかいよもぎ麩が相性よく、ぴりっとした辛子がアクセントに。「白みそのお椀は家ではなかなか食べないので、すごく懐かしい感じがします」(山田さん)佃煮好きだという山田さんおすすめの生麩のしぐれ煮「禅」。「昔のお坊さんが肉や魚の代わりに食べていたであろう生麩を再現しています」と、淳さん。肉や魚に似た食感に作った生麩を甘辛く炊いたもので、ご飯にもよく合う。生姜、ごま、山椒の3種あり、販売している。「家ではわりと精進料理を作ることがあり、湯葉の佃煮も食べたりするんですが、おいしかったですね。こんな佃煮もあるんだ、と」(山田さん) 熟練の職人が良質の地下水を用いて作る京麩。湿度温度の変化に合わせ、生地を練る時間や寝かせる時間を微妙に調節していく。料理に使われている麩や湯葉は、すべて店舗で販売している。店内には食文化の大切さを伝えるために10年前にオープンした「お弁当箱博物館」があり、誰でも自由に見ることができる。「お店の2階が博物館になっていて、昔からのお弁当箱やお重などのコレクションが展示されているのですが、大事にその仕事をされてきている証のようなものが感じられて、よかったです」(山田さん)「うちは3代目が石田梅岩の石門心学をやっていましたので、どちらかと言えば人を育てる、人に尽くすという道徳的なものの考え方を大事にしてきました」と、当主の玉置半兵衛氏。「先義後利」と「不易流行」の2つの家訓を代々守り続けてきたという。「先義後利は、利益を求めるよりまずお客さんに喜ばれること、おいしい麩を作ることをしなさいということ。不易流行は、おいしい麩作りという本質は変えずに、作り方や大きさなど時代に合わせて変えなさいということです」と、淳さんは説明する。時代に先駆けて麩や湯葉尽くしの料理を提供したり、町家を人に見せたりすることや新しい麩のブランドの立ち上げも、そうした精神から生まれているのだ。「ただ京都らしいだけじゃない、すごいと思うことをされているお店でゆっくりお昼がいただけることって、なかなかない。特別なお客さんとお昼に行くならここに行きたいと思います」(山田さん) 撮影 エディ・オオムラ 文 山本真由美■半兵衛麩京都市東山区問屋町五条下ル上人町433075-525-0008営業時間 9時~17時 ※茶房11時~16時(LO14時30分) むし養い料理は要予約定休日 年末年始https://www.hanbey.co.jp/
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2020.01.20
山田繊維株式会社の社長が通う店「本家尾張屋 本店」
■山田芳生(やまだ よしお)さん 山田繊維株式会社代表取締役(3代目)。1965年生まれ、京都生まれ京都育ち。大学卒業後、神戸で5年間アパレルの会社に勤務した後、山田繊維の東京事務所開設を機に家業に就く。東京で8年間営業を経験した後、2001年に京都に戻り、2003年社長に就任。現代のライフスタイルに適したふろしきの開発に力を入れる他、東京(神宮前)と京都(三条)に直営店「むす美」を開設、またセミナーや書籍の発刊など、ふろしきの普及活動も行う。新しいことも、伝統的なことも、その両面が体験できる仕事と、京都という地の利に感謝している。伝統と革新が入り混じる京都の食文化も大好きで、和食も中華もイタリアンも大好きだが、やっぱり魚料理が一番好き。最後の晩餐は、グジの焼き物。16代続く蕎麦の老舗。四季のしつらえに風情を感じ、名水を使った蕎麦に舌鼓100年以上の歴史を持つ店が数多ある京都。烏丸御池から程近い「本家尾張屋 本店」もその一つに数えられる。1465年、尾張の国出身の初代が菓子屋として創業し、江戸時代中期からは蕎麦も商うように。代々受け継がれる蕎麦と蕎麦菓子が京都の人々から愛されてきた。明治時代に建てられた築約130年の店舗は、看板や「寶」の染め抜きの暖簾が歴史と風格を感じさせる。今回推薦した山田さんも、長年この店の味に親しんできた一人だ。「学生時代にも訪れたことはありましたが、ちょくちょく行くようになったのは、会社で仕事を始めた25年くらい前から。最近はあまり行けていないのですが、お昼に親父とよく行っていましたね」(山田さん)「私は普段裏方の仕事をしているため、なかなかご挨拶ができないのですが、ご愛用いただいて本当にありがたいと思っています。地元の人に愛してもらうお店であることがすごく大事だと聞いて育ってきたので、長い歴史があったとしても、庶民のお蕎麦屋さんであることを意識していきたいと考えています」と、16代目の稲岡亜里子さん。ここでは蕎麦やうどんなどの麺類に丼物、甘味と、豊富なメニューを楽しめる。特に天ぷらそばや天せいろ、天とじ丼など、注文が入ってから揚げる天ぷらを使ったメニューが人気だという。「京都でお蕎麦の尾張屋さんと言えば、誰でもご存じだし、会社から歩いて行けるので、お客さんと一緒に行くこともあります。ここのお蕎麦はおだしがおいしいので気に入っています。何でもおいしいですが、特に温かい蕎麦が京都らしくて好きですね。親父は年中とろろ蕎麦で、僕は、冬は鴨なんばを食べていました」(山田さん)尾張屋の蕎麦は、北海道・音威子府(おといねっぷ)で契約栽培された蕎麦粉を使って蕎麦を打ち、注文が通ってから湯であげる。だしは、利尻昆布と宗田鰹、ウルメ、サバ節などの削り節を用い、比叡山水系の軟水の地下水で時間をかけてとった一番だし。無添加で、優しくまろやかな味わいが身上だ。「お蕎麦はもちろん大切ですが、京都の文化はだしなので、だしを取る素材はすごく吟味しています。また、鶏肉や鴨肉、かまぼこ、麩などの食材も長年京都でおいしいものを作られているところから仕入れています」(稲岡さん)山田さんがおすすめに挙げるのが、脂ののった肉厚の鴨肉とたっぷりの九条ネギがのった冬の定番「かもなんば」1980円。「鴨肉は噛みごたえがあっておいしいし、品書きにあると、この季節が来たなと思います」(山田さん)上品で深みのあるだしは、やわらかい鴨肉の脂や旨味が溶け込み、更に豊かな味わいになる。「山椒をかけて食べていただくのがおすすめです」と、稲岡さん。10月から3月後半まで楽しめる。山田さんのもう一つのおすすめは、稲岡さんの祖父である14代目が考案した「宝来そば」。「わりご」という五段の漆器に盛り付けた打ち立ての蕎麦を、海老天、しいたけ、錦糸卵などの異なる薬味で一碗ごとに味わう名物だ。「僕は薬味が好きなんです。京都は湯豆腐など薬味を使う料理が多いですよね。これは薬味がいろいろ添えてあるところが京都らしいし、お客さんが来られたときにもおすすめできます」(山田さん)「お蕎麦は宝を集める縁起の良い食べ物とされているので、お祝い事や接待などの特別なときにも、おめでたいお蕎麦として楽しんで食べていただけると思います」(稲岡さん)山田さんは、店内のしつらえなどに京都らしさが感じられることも魅力に挙げる。「たとえば、旧暦に合わせて昔ながらの飾り方でお雛さんを出しておられたりするので、『さすが尾張屋さんやなぁ』と思います。庶民的な普通のお蕎麦屋さんなのに、そういったところに気を遣われているところがいいですね」(山田さん) 「しつらえは母の担当で、季節のお花や、雛人形や兜など、昔から続けているものを守っています。京都に住んでいると、そうした季節のものが日常の中にあります。商売をしている中で、お花を生けるのも節句の飾りでお祝いするのも、一つひとつが自然やお客様への感謝からくるものだと思うので、大切にしていきたいですね」(稲岡さん)また、接客について、「あれだけたくさんのお客さんが来る中で、お店の人がてきぱきと嫌な思いをさせずに上手に対応されているなと思います」という山田さんの言葉に、「ありがとうございます。出来立てのお蕎麦を食べていただくために、裏はすごいスピードで動いているのですが、お客さんへは、心豊かにするものとして落ち着いた気持ちでお出しすることを皆、意識してやってくれていると思います」と、稲岡さん。「空間、お料理、素材、従業員のサービスのあり方、そして、ものの値段が上がっても、できるだけ値段を抑えること。そのすべてがもてなしにつながっていると思っています」と、稲岡さん。そうして質の高いものを提供し続けることが、長く愛される秘訣なのだろう。稲岡さんは、16代目の新たな取り組みとして、店舗横に蕎麦菓子専門の店をオープンする予定だという。「うちはルーツが菓子屋。そのルーツともう一度つながって蕎麦菓子の店をもつことで、蕎麦菓子屋と蕎麦屋の2つの顔の尾張屋を守っていきたいと思っています」撮影 エディ・オオムラ 文 山本真由美■本家尾張屋 本店京都市中京区車屋町通二条下る075-231-344611時~19時(LO18時)※菓子販売のみ9時~定休日 1/1~1/2
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2019.12.26
株式会社千總の社長が通う店「北白川中国料理 叡」
■仲田保司(なかたやすし)さん 460余年の歴史を持つ京友禅の老舗、株式会社千總の代表取締役社長。 企業理念である「美・ひとすじ」のもとに、友禅染の着物をはじめとして染織品を手がける一方で、友禅の技術やデザインを和装以外の分野に応用するなど、日本文化の継承と共に、時代に合わせた改革を続けている。 京都の飲食店は、しつらえや雰囲気などに季節が感じられるところが気に入っている。最後の晩餐は夏の京料理。大原野菜たっぷりのオリジナルメニューも好評。素材の味を生かしたあっさり中華路地裏には、隠れた名店が多い。そんなことを実感させるのが、北白川にある仲田社長おすすめの中国料理店「叡」だ。白川通から京都造形大学南側の細い坂道を上がっていくと、白壁の小さな店が見えてくる。 「知人に紹介されて行ったのが最初で、もう5、6年は通っていると思います。シェフは日本育ちの中国の方で、同い年ということですぐに親しくなりました。昼のランチが1000円ぐらいで、夜も6000円出せば十分おいしい料理が食べられます。最近は忙しくてあまり行けませんが、前は月1、2回行っていました」(仲田さん)店を一人で切り盛りする店主の陳武(たけし)さん。「仲田社長は、夜、仕事終わりに会長さんや会社の皆さんと来られることが多いですね。歳が同じで、僕の高校時代の友人が以前千總さんで働いていたこともあり、親しくさせてもらっています」と、にこやかに話す。陳さんの実家はかつて京風中華で人気を博した下鴨の「ぢんや」で、陳さんは神戸にある北京料理の老舗「神仙閣」で修業した後、実家の店の手伝いを経て2003年に自分の店をオープンした。十数席のこぢんまりとした店だが、著名人も数多く訪れる穴場な一軒になっている。「創作中華ともいえるオリジナリティ性が高い料理を出されていて、京野菜をふんだんに使っているところが特に気に入っています」(仲田さん)「修業先の北京料理と父の京風中華のいいとこ取りをしている」という陳さんの料理は、だしの利いたあっさりした味わいが特徴だ。食材は、目利きの魚屋から仕入れる鮮魚、岡山の千屋牛、丹波地鶏など、吟味したものを使用。特に、大原でとれた新鮮な野菜を多くのメニューに使っており、女性やベジタリアンの外国人などに好評だという。「野菜はなるべく使うようにしています。大原の野菜は味が濃くて、それを台無しにしてしまったら農家さんに申し訳ない。だから、素材の味を生かすために、だしをしっかりとって薄味にすることを心がけています」と、陳さん。メニューはコースとアラカルトがあり、海老チリソースや北京ダック、麻婆豆腐といった定番料理に、人気の「大原野菜のおこげ」など、大原野菜たっぷりの趣向を凝らした品が加わる。明石の蛸や若狭のイカなどの季節の魚介に野菜サラダを添えた前菜は、揚げる、炒めるなど好みの調理法を選んで楽しめるのが面白い。どの品も化学調味料を用いず、手間暇かけて作られている。京野菜が食べられることがお店選びのポイントの一つだという仲田さん。必ず食べるおすすめの一品が、裏メニューの「揚げワンタンと大原野菜のミルフィーユ仕立て」(一人前2個)。3枚の揚げワンタンで豚ミンチ、オニオンスライス、焼き豚などをはさみ、6~8種の野菜を彩りよくトッピングした陳さんのアイデアが光る一品だ。「野菜は季節によって違うものが出てくるんですが、これがものすごくおいしいんですよ。だから、野菜が食べたくなるとお店に行きます」(仲田さん) そのまま両手で持ってかぶりつくと、パリッとした食感のワンタンに、シャキシャキとした野菜、中に入った調合味噌や肉の甘味や旨味などが混然となり、重層的なおいしさに。残念ながら、時間がかかる料理のためメニューに出していないが、事前に予約すれば用意してもらえるという。また、「じっくり煮込んであって、とてもやわらかい。ご飯と一緒に食べると最高です」と、仲田さんが絶賛するのが、「ぢんや」で好評だった「豚の角煮」。肉の脂が抜けるまで3日間かけて煮込んだ角煮は、とろけるようにやわらかく、豊かな肉の旨味が楽しめる。なかなかのボリュームだがしつこさがなく、一気に食べられる。「こないだも92歳の女性が来られて、ペロッと全部召し上がられました。うちに来て胃がもたれたという人は、一人もいないですね」と、陳さん。仲田さんは、この店の魅力について、こうも語る。「料理の出し方一つにしてもすごく丁寧。小さな店で厨房カウンターとテーブルの距離が近いのですが、それでも横着せずに料理をお盆にのせて持ってきてくれるし、忙しくてもお皿もすぐに替えてくれる。そういうことを丁寧にしているご主人の行動にはお人柄も出ていると思うし、それが料理のおいしさにもつながっていると思います」その言葉に、陳さんは、「当たり前のことを当たり前にしているだけなんですが、お客様にお金をいただいているのやから、やっぱりそこはちゃんとせなあかんと思っています。料理も、手を抜いてしまったら自分の料理じゃなくなると思うので、どんなに忙しくても手は抜かない。その分お客様に待っていただくことになるんですが、それよりまずい料理を出すほうが失礼なので、少し待っていただいてもおいしい料理を目指したいと思っています」と答える。陳さんのそうした姿勢から感じられる心地よさも、常連たちに愛される所以なのだろう。「ここはお客さんにご案内しても、全然恥ずかしくないお店です」という仲田さんの言葉に、この店への確かな信頼が窺える。撮影 エディ・オオムラ 文 山本真由美■北白川中国料理 叡京都市左京区北白川上終町22-10営業時間 11時30分~14時、17時30分~21時定休日 木曜
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2019.12.22
株式会社千總の社長が通う店「リストランテ ガレリア」
■仲田保司(なかたやすし)さん 460余年の歴史を持つ京友禅の老舗、株式会社千總の代表取締役社長。 企業理念である「美・ひとすじ」のもとに、友禅染の着物をはじめとして染織品を手がける一方で、友禅の技術やデザインを和装以外の分野に応用するなど、日本文化の継承と共に、時代に合わせた改革を続けている。 京都の飲食店は、しつらえや雰囲気などに季節が感じられるところが気に入っている。最後の晩餐は夏の京料理。美術品に彩られたホテルで、選り抜きの食材で織りなす上質のイタリア料理を満喫祇園の北側、縄手通から東へと伸びる古門前通界隈は、古くから京都随一の古美術街として知られている。その一角に立つ「ART MON ZEN KYOTO」は、老舗の美術茶道具商「中西松豊軒」がプロデュースしたスモールラグジュアリーホテル。数寄屋建築を取り入れた趣の異なる15の客室を備え、館内各所に国内外の美術工芸品が配されるなど、京都らしい美意識が感じられる。このホテル内のシックなラウンジエリアに今年5月にオープンした「リストランテ ガレリア」が、今回仲田さんおすすめの一軒だ。 「ホテルのオーナーである中西さんとは、私がお茶を始めたときからの知り合いで、年齢が近いこともあり普段から親しくさせていただいています。オープニングレセプションにお招きいただいた後、きちんと食事をしに行ったのは最近ですが、とにかくおいしかった。シェフも出すぎず誠実な印象で、以来何度か通っています」(仲田さん)館内には茶室風のウェイティングスペースがあり、ここで香煎のもてなしを受けてからテーブルへ。周囲には確かな目で選ばれた美術品が飾られており、まるでギャラリーにいるかのようだ。「フロアに本物の古美術が置いてあって、レストランにいながら古美術に触れられる空間になっているのが贅沢だし、すごくいいなと思います。天井が高く、テーブルの間隔もしっかりとられているので、居心地もいいです」(仲田さん) 「仲田様は、社長の中西が表千家の古美術を扱っている関係で、茶道を介して親しくなられて、ここのオープンのときもすごく気にかけていてくださったようです。仲田様のお茶の先生が中西と仲が良く、仲田様も先生たちと一緒にお食事にいらっしゃいました」そう話すのは、ホテルのエグゼクティブシェフ兼「ガレリア」シェフの小澤達也さん。ザ・リッツ・カールトン京都「ラ・ロカンダ」の料理長を務めるなど、国内外のホテル・レストランでの経験豊富な実力派の料理人だ。本物の美術品しか扱わないオーナーの本物志向に共感するという小澤さん。目指すところは、本物のアートで飾られたホテルにふさわしい本物のイタリアンだ。「見かけはおいしそうで実はおいしくないものや、何の料理かわからないようなものが結構あると思うんですけど、ここでは本場の人が食べに来ても、評価してもらえるような料理を提供したいと思っています」対馬などから入る鮮魚や京都の地野菜、大分の蘭王卵など、吟味した上質の食材を使ったメニューは、コース主体で5500円から楽しめる。「一番高いコースで1万3千円なんですが、この値段でこのグレードの料理が食べられるので、すごく満足しました」と仲田さん。とりわけ気に入ったのが、カルボナーラ。スパゲッティーカルボナーラをそのままペースト状にして自家製のラビオリに詰め、黒コショウベースのソースと卵黄のソースをかけた一品だ。「ラビオリの中にカルボナーラが入っていて、食べるとそれが口の中でパッと広がってカルボナーラの味になる。これは感激しましたね。いろいろイタリアンを食べましたが、こんなことができるのかと。すごく面白いし、会食の話題作りにもなります」(仲田さん)その言葉に、「パスタをおいしいと言っていただけるのはやはりうれしいですね」と、小澤さん。このカルボナーラのように、クラシックな料理にクリエイティブなアプローチをしつつ、イタリアンの枠を外さないのが、小澤さんが目指す本物だという。好評のパスタは、12月はイカのラビオリが登場する予定だ。メインの上州牛のフィレは、「すごくやわらかく、上品な味でおいしかった」と仲田さんもおすすめの一品。「僕は群馬の前橋出身で、地元産の肉だから選んだということもありますが、赤身のおいしい肉をいろいろ探した結果、この上州牛に落ち着いた感じです」と、小澤さん。じっくり火入れしてやわらかく仕立てた深い味わいの上州牛に、ブイヨンで煮た堀川ごぼうの下にきのこのデュクセルをしいた付け合せで、秋の風情を表現。きのこの旨味が凝縮したソースは、泡が弾ける瞬間の香りを楽しみたい。ワインはイタリア産を中心に100種類ほど。あまりお酒を飲まない仲田さんも、料理と合わせてワインを楽しんだという。写真の3本は、ラベルにホテルの名が入った数量限定の白など、いずれもここだけで扱っているもの。ホテルならではの洗練されたサービスも魅力。「お客様に心地よく楽しんでいただくには、お客様が何かをしてほしいと思う前に用意ができていることが重要だと思っています。ここはクローズキッチンなので、時間のあるときはなるべく料理を運びに来て、お客様の表情などを見ながらサービスするように心がけています」(小澤さん)オープンからまだ半年ほど。小澤さんは、お客の反応も見ながら構成や味などの微調整を行い、料理のバージョンアップを重ねていきたいという。料理もサービスも、これからの進化が楽しみなレストランだ。 撮影 エディ・オオムラ 文 山本真由美■ART MON ZEN KYOTO リストランテ ガレリア京都市東山区古門前通大和大路東入元町391075-551-0009営業時間 18時~22時(L.Oコース20時30分、アラカルト・ドリンク21時)定休日 火曜http://www.amz-kyoto.jp/
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BLOG京の会長&社長めし
2019.11.19
宮崎木材工業株式会社の社長が通う店「呑喜屋 むね」
■宮﨑真里子(みやざき まりこ)さん 株式会社宮崎(夷川通の家具の小売)、宮崎木材工業株式会社(木材の内装会社)代表取締役。京都生まれの京都育ち。紆余曲折があって創業163年の家業を継ぐことになった。伝統的な京指物の技術を守りながら時を経て美しさを増す木材の空間を伏見の自社工場から日本各地だけでなく海外へもお届けしている。お茶室、能舞台の移設や家具の修理にも力を入れている。 趣味は美術館めぐり、そして仕事柄、美しい空間を見ること。新しい最先端の空間だけでなく年月を経てさらに美しさを増す上質な建物をなるべく多く見て仕事にいかしていきたい。 元気なのが取り柄で秘訣は一杯食べて飲むこと。色々な人に会うのが好きで、楽しく飲むのが鉄則。自宅ではお酒を飲まない。最後の晩餐は、麺が柔らかくて、おだしの利いた京都のきつねうどん。家庭的な雰囲気とバラエティ豊かなメニューに、毎日通いたくなる路地奥の一軒おいしくて、手頃で、ほっとする。そんな店が身近にあるのは、なんとも心強いものだ。今回紹介する一品料理店「呑喜屋 むね」があるのは、宮﨑さんの会社からすぐ近く。うっかりすると、見逃してしまいそうな堺町通沿いの路地奥にある。「路地の奥に小さな看板が出ている程度なので、知らない人にはわかりにくいかもしれません」(宮﨑さん)元は民家だったという平屋の建物を改装。長いカウンターとテーブルのある落ち着いた佇まいの店内は、生簀の水槽を備え、いつも多くの客で賑わう。この店を母や従兄弟とともに切り盛りする店主の長池宗紀さんは、二条の「恒屋伝助」で修業後、29歳で独立。「いいもんを安く」をコンセプトにここを始めた。旬の良質な素材、とりわけ魚介の料理には自信を持つという。「10年程前に会社と自宅の近くに開店されて、近所の人に勧められて行ったのが最初です。当時はお値打ちのランチをされていたこともあり、お昼もよく行っていました。お料理のおいしさ、コストパフォーマンスの良さ、路地奥の落ち着いた店内、大将とそのご家族の人柄にひかれています」と、宮﨑さん。月に一回くらいのペースで訪れているという。宮﨑さんの言葉に、「ありがたいですね。宮﨑さんは、オープン1年目から来てくださってもう9年くらいになりますが、いろんな方を連れてきてくださいます。僕は毎年、下御霊神社の神輿を担がせてもらっているのですが、宮﨑さんが神輿の接待をされていて、そういう関係でもお世話になっています」と、長池さん。毎日市場で仕入れる鮮魚など、新鮮な旬の味覚で仕立てる日替わりの献立は、造りや煮付け、名物の天ぷらといったメインの和食に、ステーキ、クリームコロッケ、中華風炒めなど、洋、中、創作料理も含め幅広く揃うのが魅力だ。「仕事関係の方と行ったり、友人と行ったり、家族と行ったりと、ファミリーレストランのような感覚で利用しています。特に京都以外の方をお連れすると、京都らしいと喜ばれますし、おだしの利いた薄味にも感激されますね。メニューは旬のお魚やお野菜が多く揃い、行くたびに内容が違う。何でもあるので、80代の母や零歳児の孫と行っても好きなものが見つかります。富山出身で魚にうるさい娘婿もここのお造りはおいしいと言ってくれますし、お野菜もすごくおいしいです」(宮﨑さん)夏の鱧の落とし、秋の秋刀魚の塩焼き、冬のコッペガニ、ぼたん鍋など、四季折々の味覚が楽しみだという宮﨑さん。たくさんあるお気に入りの中で、「おかわりしたいぐらいおいしい」とおすすめに挙げるのが、先付の「土瓶蒸し」。血合いを抜いた鮪の削り節と利尻昆布でとった上品なだしに、名残の鱧と松茸の旨味、風味、香りがとけあい、実に美味。夏の終わりから11月頃まで味わえる。写真は、香ばしく揚げ直した厚揚げを、ミョウガや大根おろし、生姜を添えてポン酢で味わう「厚揚げのたたき」。大豆の甘味や旨味豊かな厚揚げのおいしさがシンプルに楽しめる。メニューには湯豆腐や冷奴など、親戚である南出豆腐店の豆腐を使った料理も登場し、おすすめだという。「大将の従兄弟さんの実家が下鴨のお豆腐屋さんで、そこのお豆腐やお揚げがまたおいしいんです」(宮﨑さん)写真は、香ばしく揚げ直した厚揚げを、ミョウガや大根おろし、生姜を添えてポン酢で味わう「厚揚げのたたき」。大豆の甘味や旨味豊かな厚揚げのおいしさがシンプルに楽しめる。予算は、造りと焼き物、天ぷら、一品などを食べて、酒代別で5千円程。6千円からのコースもある。「うちは常連さんが多く、好みや食べるスピードなども大体わかってくるので、あらかじめその人が好きそうな料理をメニューに入れたりしますね。逆にお客さんから、これ作っといてとリクエストされることもあります」と、長池さん。宮﨑さんもメニューにないものを頼んだり、料理をテイクアウトしたりすることもあるそうだ。常連が大半というこの店らしい気遣いも人気の秘訣だろう。店の奥にはカエデのある小さな庭が。カウンターからの眺めもほっとできるポイント。「お酒も焼酎から日本酒、ワインまで結構置いてあるので、私もワインなどと料理を楽しんでいます」(宮﨑さん)日本酒は辛口をメインにお客に人気の高いものを揃えている。ちなみに、長池さんおすすめの日本酒は発泡タイプの「澤屋まつもと」。お造りや焼き魚に合うそうだ。「ご家族の方、皆さん感じがよくて、本当にアットホームで。変に気を遣わずにいられるのもいいですね。お母さんはオープン時から手伝っておられて、接客は初めてだと思うんですけど、一生懸命されてる感じがまたいいんです」と、宮﨑さん。長池さんと母の能里子さんたちが醸し出す和やかな雰囲気も、この店には欠かせない魅力となっている。店での仕事について「楽しいですよ」と、能里子さん。「うちは皆、仕事中も仕事が終わってからもあまり変わらず、結構ゆるい感じです(笑)。それを気に入って来てくださってるのかもしれません」と長池さんは笑う。多彩なおいしい料理に、ほっこり落ち着ける温かい雰囲気。忙しい宮﨑さんのオアシス的な一軒となっているのも頷ける。撮影 エディ・オオムラ 文 山本真由美■呑喜屋 むね京都市中京区堺町通夷川上ル絹屋町127-5075-241-3210営業時間 17時30分~22時定休日 日、祝日の月曜
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BLOG京の会長&社長めし
2019.11.12
宮崎木材工業株式会社の社長が通う店「有恒」
■宮﨑真里子(みやざき まりこ)さん 株式会社宮崎(夷川通の家具の小売)、宮崎木材工業株式会社(木材の内装会社)代表取締役。京都生まれの京都育ち。紆余曲折があって創業163年の家業を継ぐことになった。伝統的な京指物の技術を守りながら時を経て美しさを増す木材の空間を伏見の自社工場から日本各地だけでなく海外へもお届けしている。お茶室、能舞台の移設や家具の修理にも力を入れている。 趣味は美術館めぐり、そして仕事柄、美しい空間を見ること。新しい最先端の空間だけでなく年月を経てさらに美しさを増す上質な建物をなるべく多く見て仕事にいかしていきたい。 元気なのが取り柄で秘訣は一杯食べて飲むこと。色々な人に会うのが好きで、楽しく飲むのが鉄則。自宅ではお酒を飲まない。最後の晩餐は、麺が柔らかくて、おだしの利いた京都のきつねうどん。人気の八寸からライブ感ある炭火焼、シメのご飯まで、多彩な味を町家の風情と週の半分は外食という宮﨑さん。ホテルでの会合後にフレンチのフルコースが出ることも多いため、普段は主に和食の店を選ぶそうだ。今回宮﨑さんが薦める「有恒」も、そんなお気に入りの和食店の一つだ。寺町通から二条通を少し西へ入った場所に、ひっそりと立つ一軒家。ここは祇園にある日本料理店「迦陵」の姉妹店として、2015年8月にオープンした。「昔からの知人が『迦陵』という和食のお店をしているんですが、弟さんも料理人で新しくお店を出されたということで、知人に連れられて仲間と一緒に行かせてもらったんです。家からも近いし、すごく気に入りました。京都の町家一軒をきれいにお店にされていて本当に京都らしいですし、東京の方にも喜ばれると思います」(宮﨑さん)店内は町家の細長い造りを生かした空間で、焼き炉のある厨房を囲むカウンターが目を引く。1階奥や2階には小さな個室もあるが、宮﨑さんは、カウンターで食事を楽しむという。「宮﨑さんたちは、うちの社長である兄と大学時代くらいからのお友達だと思います。今でも皆さん仲良くされていて、店に来てくださっています。炭火の焼き場をメインにした劇場型の店にしたかったので、焼き場が見えるカウンターにしています。宮﨑さんたちのように、4、5人でもカウンターを選ばれる方は多いですね」と、店主の堀部拓己さん。「『迦陵』はコースですが、ここでは一品が楽しめます。私もワインを飲みながら、好きなものを好きなだけ頼んでいます」(宮﨑さん)「大人の居酒屋」を目指しているというここでは、鮮魚や肉を使った炭火焼を中心に、鱧や松茸などを使った季節の料理、八寸、造り、油物、煮物、酒肴、ご飯もの、デザートと、豊富なアラカルトを揃え、注文に迷うという人には、店が数品を選んだおまかせ料理も用意している。「今、コースは品数が多くてしんどいし、自分の好きな一品をちょっとずつ食べたいというご年配の方が結構いらっしゃって。うちはそういう年配のご夫婦や観光の方、あと接待や会社関係の方がよく来られますね」と、堀部さん。女性のお一人様も多いそうだ。多くのお客が注文するのが、2種類の炉を使った自慢の炭火焼料理。のどぐろ、笹かれい、きんきなど、市場や城崎・津居山の魚屋から仕入れる季節の魚介は、自家製の一夜干しでも楽しめる。写真は香住産のノドグロを厨房で干している様子。半日かけて旨味だけを残すように水分を抜いていく。ある程度水分が抜ければ、その場で焼いてもらうことも可能だ。宮﨑さんのおすすめは、一品料理の店では珍しい八寸。女性を中心にお客の大半が頼む人気の品だ。「大きな器にいろいろなものが盛られていて、飾り付けもとてもきれい」(宮﨑さん)。内容は月替わりで8~9品。この日は栗渋皮煮、銀杏、鱒スモークなどで、鱒をスモークしている状態で供するなど、趣向を凝らしているのも特徴だ。「炭火焼と同様、見て楽しんでいただきたいので、色使いや季節のものなど見た目を意識して作っています」と、料理長の上白木裕也さん。11月は柿なます、子持ち鮎の甘露煮、鯖寿司などが登場予定。「鴨ロースなど肉料理もおいしい。どの料理もおいしそうに盛り付けられていて、京都らしさを感じてもらえると思います」(宮﨑さん)人気の「鴨ロース山椒煮」。表面をさっと焼き、低温でしっとりと仕上げる。柔らかな鴨肉は臭みがなくまろやかな味わいで、山椒の風味もほどよく利いている。ご飯にもお酒にもよく合う一品だ。ここではご飯もの麺類も充実。特にあんかけの「たぬきごはん」は人気が高いそうだ。唎酒師とANSA認定ソムリエの資格を持つ堀部さんから、料理に合う日本酒やワインを提案してもらえる。ひやおろしなどの日本酒や日本産ワインなど、堀部さんセレクトのお酒が揃う。日本酒は半合から注文できる。「私はお店やホテルの内装の仕事もするのですが、ここは空間全体で京都を感じてもらえるのがいいなと。また厨房の様子がよく見えるようにカウンターを造っておられるのもいいですね。お店と近い感じがしますし、安心できます」という宮﨑さんの言葉に、「そうですね。頼んだ料理が作られている様子を見ながら、出来上がりを待つ時間も楽しんでいただけたら」と堀部さん。調理の様子を前に、お客同士やスタッフとお客との会話も弾んでいるという。最後に、堀部さんにもてなしに対する思いを伺った。「うちの会社の理念は、来ていただいた方の時間をより良いものにするということ。お客様には料理だけでなく、スタッフ、空間、すべてに満足していただき、より良い時間を提供していきたい。いろいろな方がいらっしゃる中で、それぞれの楽しみ方をしていただけたらうれしいですね」予算は飲んで食べて1万1000円~1万3000円ほど。気取らず、それでいてカジュアルになりすぎない和の雰囲気の中、旬の"おいしいもん"を酒や会話と共に楽しむ。まさに「大人の居酒屋」の醍醐味だろう。撮影 エディ・オオムラ 文 山本真由美■有恒京都市中京区二条寺町西入丁子屋町694-3075-212-7587営業時間 17時~22時(入店)定休日 月、月1回火http://aritsune.jp/
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