食知新ブログ
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BLOG料理人がオフに通う店
2020.02.12
「酒陶 桺野」―「にし野」西野顕人さんが通う店
「にし野」西野顕人さん《プロフィール》京都市出身。東京で焼き鳥に魅了され、東京、横浜と8年間修業。2013年、独立のため京都に戻り、京都市中央卸売市場の鶏肉卸の加工場で働きながら、肉の解体や目利きを学ぶ。2014年に焼き鳥専門店「にし野」をオープン。趣向を凝らした焼き鳥のコースが評判を呼んでいる。オーナーの美学が詰まった一杯を旨い酒肴と。究極のシンプルが心地良い隠れ家的バー店選びはまず人ありきで、大好きな人の仕事に触れに行く感じだという西野さん。今回お勧めの「酒陶 桺野」も、そんな一軒だ。 烏丸三条交差点から三条通を西へ。壁の看板がなければ見過ごしそうなこの店は、京都のバー好きなら誰もが知る人気店。店主の柳野浩成さんが出す一杯を求め、さまざまな層が足を運ぶ。「土壁にレンガを使った内装、器も、美しくてカッコいい。お酒と一緒に料理も楽しめるんですが、魚も野菜も季節のものがちゃんとあることに驚きます」(西野さん) 店は22年前に開業。2008年に今の場所に移転した。レンガの壁が続く入口から中に入ると、土壁と一輪挿しが茶室を思わせる長いカウンター、その奥には庭を望むテーブル席が。自然の素材の風合いを生かし、余計な装飾を削ぎ落とした空間が広がる。「大勢のときはテーブルを利用しますが、カウンターに座ることが多いですね。普通、カウンターの後ろにボトルが並んでいて、照明に照らされているというのがバーの醍醐味としてあると思うんですけど、それとまったく逆で。お酒のボトルもグラスも一つも見せず、カクテルを作る手元だけが見えている。その表現の仕方もすごいなと思います」(西野さん) バーなのに和食を味わえるのも魅力。かつお、ぐじなどの魚に、蕪蒸し、菊菜ひたしなど、その時々の食材を使った一品が品書きに並ぶ。中でも魚料理のおいしさは出色だ。「アテに魚が、それも尋常じゃなく質、状態、鮮度のいいお造りが出てきます。何かいただくときは旬の魚をお願いします」(西野さん)写真はいかのてっぱい900円(税込・以下同)。菜の花やくわいなどを盛った季節の八寸900円。「京都で昔から当たり前に使われていた旬のお魚や野菜の定番料理を出す店が減って、普通に食べられなくなってきている。だから、うちはお酒のアテとしてそういうオーソドックスできっちりとした料理を出せたらいいなと思っています」と、柳野さん。しっかり食事をしたいなら、コースを予約することも可能だ。 カクテルやウィスキーなどの定番に加え、少数精鋭のワインも定評がある。「かんぱちに赤ワインなどを合わせて楽しませてくれるのも、柳野さん流で面白いです」(西野さん)「本当においしいワインって懐が深いし、広い。おいしい魚とおいしい酒なんて、そうそう喧嘩しないはずで。だから好きなん食べて好きなん飲んでくださいと、いつも言ってるんです」(柳野さん)西野さんとこの店との出合いは、ここで開かれたワインの勉強会だったという。「取引している酒屋さんが柳野さんと同じで、2、3年前にその方に連れて行っていただいたんです。数本のワインを開けて、それぞれどういう状態か、姿かたちを皆で感じて、意見し合う会でした。一般的なワイン会と違って、ブドウの品種や土壌の話題は出てこず、感じてどうするかという話をしたんです。『これは明るいワインやな』とか『もっといいはず』『コルクおかしいなあ』というふうに、教科書に書いてあるような、難しい単語は出てこない。でも、ワインをものとして見るだけじゃなく、こういう感じ方もあるんだと、不思議と腑に落ちたんです」と西野さん。勉強会に2度ほど参加したあと、お客として店を訪れたそうだ。ちなみに、この勉強会はワインのサービス向上を趣旨として同業者限定で行っているものだと柳野さんは言う。「お客さんにいかにワインを一番おいしい状態で楽しんでもらうかを考える勉強会。おいしいワインでも瓶差がすごくあるし、グラスの形状や飲み方ひとつで味が左右されるので、提供する側はそれをもっと知ろうと。同じワインでも日によって違うので、どんどん飲んでいって意見を出し合う。それを西野くんは面白がってくれたんでしょうね」西野さんは、やはりこの店のシンプルさに惹かれるという。「すごくシンプルなんですけど、それは膨大な知識や経験から出てきているものだという感じがします」その言葉に「そこに気づいてくれているならうれしいですね。例えばジントニックでも、普通の優しいジントニックやった、で終わっちゃうこともあるかもしれない」と柳野さん。「おいしいものを出そうというものすごい情熱が、ワインをグラスに注ぐ所作一つとっても伝わってくる。同じワインを、よりおいしくさせる技術はすごいと思います」(西野さん)柳野さんは、ワインはグラスの底を叩いて振動を与え、香りを確認してから出すという。「ワインのおいしさのスイートスポットはとても狭いので、それに合わせるために、こうして温度を1、2度上げたりしています。それで準備ができたら、お出しする。本来サービスとしてはしないことですが、そのワイン本来の姿に一番近づけることが僕たちの仕事なので」グラスワイン1000円~、カクテル1000円~。写真は、昔から常連客に人気のジンリッキー。店のシンプルさを象徴する一杯。西野さんら常連から「本当においしい酒を出してもらえる」と絶大な支持を集める柳野さん。最後に、もてなしで大事にしていることを伺った。「よく言っているのは、お客さんが何を期待して来ているのかを察知しなさいということ。皆求めていることがバラバラなので、できるだけ早く判断する。そこがバーテンダーにとって一番大切なことだと思っています」■酒陶 桺野京都市中京区三条通新町西入075-253-431018時~翌2時 ※食事のコースは前日までに要予約休 木
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BLOG京の会長&社長めし
2020.02.10
株式会社鼓月の社長が通う店「十二段家 本店」
■中西英貴(なかにし ひでたか)さん 京菓子處鼓月代表取締役社長1971年京都生まれ。94年に明治大学商学部卒業。97年京菓子處鼓月に入社。2005年4代目社長就任。「どのようなお菓子がお客様に共感され喜んでいただけるのか」を常に心掛け、代表銘菓「華」や「千寿せんべい」の伝統を守りつつも、洋菓子工房「KINEEL」、スポーツ羊羹「anpower」などを発案し、多角展開している。趣味はトライアスロンとスキー。食事のお店選びは、京都でご縁をいただいた方やご紹介など、繋がりを大切に、がモットー。最後の晩餐は、ワインと焼き鳥、デザートにホールケーキ丸ごと。民藝作品に囲まれた空間で、選り抜きの京都牛を使った初代考案のしゃぶしゃぶを寒さ厳しい京都の冬は、やはり温かい鍋料理が食べたくなるもの。しゃぶしゃぶは外国人にも人気の鍋料理だが、その発祥の店は京都にある。祇園で長く愛されている中西さんお勧めの一軒、「十二段家」だ。「場所もお店の構えもいいし、祇園の料理屋さんの中ではリーズナブルでおいしいお肉が食べられます。よく家族や、仲の良い家族同士で行ったりします。東京のお客さんを連れていくこともありますね」(中西さん)祇園甲部の花見小路通から少し東へ入った場所に佇む風格ある建物。ここがしゃぶしゃぶの店として始まったのは、戦後間もない昭和22年。今の店主の祖父が、軍医で民藝運動家の吉田璋也氏の助言により、羊肉を使った中国の鍋料理、刷羊肉(シュワヤンロウ)の味を再現し、日本人向けにアレンジした「牛肉の水炊き」を考案。そのレシピをいろいろな料理人に教えたことで全国に広まり、その後「しゃぶしゃぶ」の名称で親しまれるようになったという。店では当時と変わらない味をコースで提供。これまで日本の皇族方をはじめ数多くの賓客が訪れている。中西さんと3代目店主の西垣大さんは、共に祇園祭の"お稚児さん"の経験者で、小学5年生の時からの仲だという。「僕は昭和56年、彼は翌年に稚児をやりまして。稚児をやると翌年から長刀鉾の囃子方になるんですが、それ以来のつきあいです。同い年で、偶然にも高校も一緒(笑)。そんな縁もあってよく行きます。しゃぶしゃぶ発祥のお店と言われていますし、いろいろな方を連れて行っても喜ばれますね」と、中西さん。もともと互いの父親同士が知り合いで、幼少期から何度か連れられて行ったこともあったそうだ。対する西垣さんも、 「中西くんは、毎年夏になると1カ月間、囃子方で一緒になる昔からの仲間で、年に2、3回は来てくれます。ご家族で来られることが多いですね」と話す。食べに行った飲食店の情報など、互いにアドバイスをし合ったりすることもあるという。本店ではしゃぶしゃぶとすき焼きが楽しめ、中西さんはしゃぶしゃぶをオーダーするという。 「彼が肉を選んで仕入れていて、とにかく自分とこの肉は一番やと言っています(笑)。ここのしゃぶしゃぶをつけるたれがおいしいんですよね。あと前菜も結構出てきて楽しめます。今、濃い目の味付けの店が増えているので、こういう昔からの京都の味で出されているのはありがたいですね」(中西さん)しゃぶしゃぶコースは11000円~16000円(各税サ別)の3種あり、先付、前菜、しゃぶしゃぶ、ご飯、漬物、デザートが付く。伊万里の皿に盛られた名物の前菜は、ファンの多い手羽の醤油照焼、東寺湯葉の煮物、小茄子の田楽など7品ほど(写真は2人前)。季節により若干変わるが、ほぼ創業時そのままの献立だ。どれも素材の味を生かした上品な味わいで、「このボリュームに皆さん驚かれます」と、西垣さん。肉は亀岡の契約業者から仕入れる京都牛のA4~A5クラスで、霜降りでも赤身の部分を選んでいる。 「噛みごたえがあり、味がくどくならず最後までおいしく食べられる肉を目指しています」(西垣さん)しゃぶしゃぶ用の銅鍋は、初代が中国の火鍋子(ホウコウズ)をもとに日本の職人に作らせたもので、煙突部分に入れた炭火で調理する。じんわり程よく熱せられ、あくもほとんど出ないという。さっとくぐらせた上質の肉はやわらかく、噛むほどに豊かな味わいが楽しめる。しゃぶしゃぶで肉や野菜のエキスが溶け込んだスープもまた美味。初代が試行錯誤の末に完成させた"元祖"ゴマだれ。自家製の練りゴマに、だしとフルーツビネガー、自家製ラー油などを加えている。ゴマの風味を生かしたコクのあるたれが肉や野菜の味を引き立てて実においしい。甘くなく、普段ゴマだれが苦手な人にも好評だ。中西さんは、趣ある店の佇まいも店の魅力に挙げる。「座敷に民芸風の家具や棟方志功さんの作品などが並んでいたりするんですが、かしこまった雰囲気はなく、田舎の家にいるような感じで落ち着きます」(中西さん)初代は、河井寛次郎、黒田辰秋、棟方志功など民藝の作家たちとの親交が深く、特に棟方はここに居候していたこともあったという。店内の随所にさりげなく飾られた彼らの作品を眺めながら食事ができるのは、なんとも贅沢だ。料理に専念する西垣さんを、接客の面で支えるのが妻の敦子さん。「奥さんが朗らかな感じの方で、場の雰囲気を和やかにしてくださる。結構お店の雰囲気は奥さんでもっているんじゃないかと思います(笑)」(中西さん)「今はいろんな国の方が来られて、その楽しまれ方も文化の違いがあるのですが、どなたにも楽しんでいただけるように努めています」(敦子さん)「ここならおいしいものが食べられるという安心感があります」(中西さん)この店では"いいものを安く、おいしく"という信条が代々受け継がれている。「値段もほとんど変えていないと思います。肉の質を落とさずにずっと続けているので、肉屋泣かせですね(笑)」と、西垣さん。「お客様に満足してもらうため」妥協せず取り組む仕事ぶりに、中西さんをはじめ、多くの人の信頼を集める理由が窺える。撮影 エディ・オオムラ 文 山本真由美■十二段家 本店京都市東山区花見小路通四条下ル075-561-021311時30分~14時、17時~20時(LO)定休日 木(祝日の場合は水または金)http://junidanya-kyoto.com/
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BLOG京のほっこり菜時記
2020.02.08
「水菜」
水菜は由緒ただしい京の伝統野菜のひとつ。明治から大正にかけて栽培地が拡大し、今では、大阪、滋賀、和歌山など関西だけでなく関東でも栽培されている。本来は冬の時季に収穫される冬野菜のひとつなのだが、ハウス栽培されるようになり九条ねぎとともに通年食べられる野菜になった。水菜が冬の京野菜だということを、忘れてしまうほどだ。ただし、より美味しいものを食べたいならやっぱり冬の露地物。冷え込む京都盆地で育つ水菜は旨味が凝縮しているうえ瑞々しい。水菜は、古くは千筋菜や京菜と呼ばれ、山城など京都南西部で育てられたそうだ。低湿な土地で肥料をことさら用いず、畦に水を貯めて育てたことから水菜と呼ばれるようになった。水菜という記載が見られるのは1645年に刊行された「毛吹草」で、実際にはもっと以前からつくられていたのだろう。京野菜には水菜に似た壬生菜もある。葉に切れ込みがあるのが水菜、切れ込みがなくヘラのような形をしているのが壬生菜。こちらは水菜の変種で、そのほとんどは現在も京都南部で栽培されている。やわらかいのにシャキシャキとした食感のある水菜は、サラダにして生で食べても、ハリハリ鍋や煮物にしても美味しく味わえる。冷蔵庫に水菜があれば、ザクザク切ってオリーブオイルと塩で和えたサラダを簡単につくれて便利。冬の間は常備したい野菜のひとつだ。写真のサラダは、木屋町三条のイタリアン「京都ネーゼ」製。実はこれも水菜の一種でカラシ水菜というそうだ。京都亀岡で栽培されたものだという。このカラシ水菜以外にも茎が赤い赤水菜もあり、カラフルで美しいことから料理屋でもよく用いられる。カラシ水菜のサラダは、瑞々しくて独特の風味。ピリッとした辛味とかすかな苦味があり、オリーブオイルとバルサミコというシンプルな味付けで個性が引き出されている。トッピングでお願いしたモッツアレラや生ハムとも相性がよく、思わずおかわりしたくなった。ここ「京都ネーゼ」は、店主が見極めて仕入れる食材の味を大切に引き出すイタリアン。店主の森博史さんはイタリアや東京の名店「アルポルト」などで腕を磨き、その後、調理師学校の講師を経て京都の「サンタ マリアノヴェッラ・ティサネリーア」の料理長を務めた。私が森さんと出合ったのも、この頃。「サンタ マリアノヴェッラ・ティサネリーア」がオープンしてすぐにうかがったのだ。もちろん、森さんと面識はなかった。調理をしながらも、森さんはカウンターに座る客に料理の説明をしたり、好みを聞いたりと丁寧な対応をしていらした。きめ細かなサービスをされる方だなあと思った。食後にハーブティーを選ぶと、いくつか茶葉を前に並べて詳しく説明してくださった。料理はどれも本当に美味しかったが、それ以上に森博史という料理人が放つ「料理が好き、人が好き」というオーラに惹かれた。それから15年ほどになるだろうか。「京都ネーゼ」を開かれてからも森さんはちっとも変わらない。店にうかがうと、丁寧に料理や食材について説明してくださったり、お腹具合を聞いて量を加減してくださったり。とにかく客想いで、心地いい。16席のカウンター全ての客の様子を見て声をかける姿は、ほんとうに自然体で。ここにいることを心から楽しんでいることがよくわかる。透けるほどに薄くスライスして口どけるような生ハムや、京都山田農園の濃厚な玉子を使ったカルボナーラなど名物も多い。この店でしか食べられないものがあるから、何度も訪ねたくなる。先日、お店を訪ねた後、森さんから「お互い健康で、おじいちゃん、おばあちゃんになってもよろしくお願いします」とメッセージが届いた。望むところです。いつまでも、美味しいパスタや水菜のサラダ食べさせてください!■京都ネーゼ京都市中京区三条木屋町上る三軒目 三条木屋町ビル3階075-212-212918:00~23:00(L.O.)休 日曜及び不定休
中井シノブ
ライター
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BLOG割烹知新〜奇想の一皿〜
2020.01.30
割烹 まつおか「平目の肝のバターソテー」
奇想の一皿「平目の肝のバターソテー」兵庫県豊岡市出身の松岡英雄さん。大学卒業後、幼い頃から興味のあった料理の道を志し、調理師学校へ入学。大阪や神戸で修業後、木屋町の名店「割烹やました」にて腕を磨き、2012年に自身の店をオープン。以来、柔和な笑顔と確かな腕前で、着実にファンを増やし続けています。発想秘話今回は一皿に二つの料理を盛り合わせます。一品目は、魚のすり身でいくらマヨネーズを挟んだもの。二品目は平目の肝のバターソテーです。普段、店でマヨネーズは使いませんが、昨年夏に参加した「REBORN ART FESTIVAL2019 」をきっかけに、いくらでマヨネーズを作ってみました。このイベントは東日本大震災復興支援の一環として始まった「アート、音楽、食」の総合芸術祭で、今回僕は石巻のビーチに設けられた特設レストランのゲストシェフとして参加しました。その時、地元のシェフが後輩を指導しながらマヨネーズを作る様子を見て、「卵の代わりに魚卵でマヨネーズを作ったらおもしろいんじゃないか?」と思ったんです。それをヒントに作ってみたのが、このいくらマヨネーズ。マヨネーズをより美味しく味わうために、"何かやわらかいもの=練り物"で巻いてみました。とてもあっさりした一品なので、これだけでは少し物足りない。そこで、濃厚な味わいの肝のバターソテーと組み合わせました。一皿の中で「あっさり」と「こってり」、「冷たいもの」と「温かいもの」、両極端の要素を楽しんでいただきます。では作っていきましょう。裏ごししたいくらの醤油漬けにサラダ油を少しずつ加え、いくらマヨネーズを作ります。マヨネーズからいくらの水分が出てくるのを防ぐために、オブラートで包むのがポイント。これを白身魚のすり身で挟んでいきます。これが魚のすり身です。いわゆる蒲鉾や竹輪になる前のもの。もっとコクを出したい場合は、イカなどを加えてもいいと思います。あるものを使って臨機応変にということで、今回は裏返したお皿を使い、すり身を平たく成形していきます。そこに先ほどのオブラートで包んだマヨネーズを載せ、上にもう一枚、成形したすり身を被せます。するとこんな感じになります。このままではかなりやわらかいため少し固めたいのですが、熱を加えるとマヨネーズがとろけてしまう。そこで「酢」の出番です。「酢で固める」という日本料理の技法を使い、やわらかなすり身を固めていきます。この状態で1時間くらい漬けておくと、すり身がしっかり固まります。日本料理にはこういう化学的な技法が結構あるんですよ。この「酢で固める」という調理法は、おせち料理でも使います。サーモンを芯にしてすり身で巻いたものとか。酢には防腐作用もありますし、とても合理的ですよね。こちらが平目の肝です。冬場はこのように、脂がのって白っぽい色になるんです。おだしで炊いて突き出しにすることもありますが、今日は炊いた肝をカットしてバターで焼き、バルサミコのソースを合わせます。水を取り替えながら丸一日かけて血抜きをし、そのあとだしで炊いていきます。かなりしっかり味が入っているので、このまま食べても十分おいしいですよ。片栗粉をはたき、バターで両面をこんがり焼いたら、次はソースを作っていきます。バルサミコ酢に江戸柿のペーストを加えて煮詰め、最後にバターを落としてコクを出す。ちょうど、洋食のソースにジャムを忍ばせるイメージかな。ちょっと贅沢に、飴色になった完熟の江戸柿を使います。では盛り付けましょう。お皿には、慈姑(くわい)で作ったビスケットとチコリを添えます。どちらも少し苦みがあるので、脂肪分の多い肝とよく合います。ほのかな苦みが脂っぽさを和らげて、さっぱり食べられると思います。フォアグラのようにも見える平目の肝は、お酒が進む濃厚な味わいです。活けの天然ものなので、生臭さもないでしょう? とはいえ魚の肝には独特のクセがあるので、ヒネ香のある丹後あたりのお酒に合うんじゃないかな。マヨネーズを挟んだ練り物は、サラダ的な付け合わせとして召し上がってみてください。昨年9月上旬に店を一週間休んで前述のイベントに参加した際、地元の生産者や漁業関係の皆さんと話をする機会がありました。そこで「津波で全部流されたけど、みんなの『牡蠣が欲しい、〇〇が欲しい』って声があるから頑張れる」という言葉を聞いて、もっと食材を大切に扱わないといけないな、と改めて思いました。もちろん今までも頭では分かっているつもりでしたが、実際に現場の皆さんと交流する中で、ようやく肌感覚というか、身体で理解できた気がします。今日の料理は、決して店で出すことのない完全な創作料理です。お客様の希望によっては、多少冒険したものも作りますが、割烹料理の枠を大きく外れることはありません。これからも生産者の思いを胸に、素材の味を大切にした割烹料理を作っていきたいと思います。撮影 鈴木誠一 取材・文 鈴木敦子■割烹 まつおか京都市東山区松原通大和大路西入ル弓矢町25075-531-023317:00~22:30(L.O.)水曜休
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BLOG京のとろみ
2020.01.29
「とり安」の唐揚げ丼
京都人は玉子好き! だし巻きや玉子サンドをはじめ、親子丼・オムライス・天津飯などで有名な店が京都には数多く存在する。例に漏れず私も大の玉子好きで子供の頃は毎朝卵かけご飯。 お弁当にも絶対卵焼きが入っていた。 今でも玉子は毎日欠かさず食べている。 そして今回は私の大好きな卵料理を紹介したい。 とり安のからあげ丼だ!京都のオフィス街の中心地、烏丸御池に「とり安」はある。 とり安は明治23年創業のかしわ精肉店。 夜は鳥料理やお酒を楽しめるが私の目当てはランチ。 ランチメニューはとり安定食・からあげ丼・親子丼・玉子丼の4種類。 それぞれのメニューにファンがついているが私はからあげ丼の一択。 味付けされた唐揚げがゴロゴロ乗った丼に出汁の効いたふわふわとろとろの玉子がたっぷりとかかってくる。 この玉子のとじ方が独特で他にはない。 めちゃくちゃ美味しい! もちろん唐揚げも抜群に旨いのだがこのとじ玉子のせいで私の中でこの丼は卵料理になってしまっている(笑) だから親子丼や玉子丼も当然美味しい! 最初からかかってくる京都の山椒もいい。 付いてくる赤だしとタクアンも好き。 店の雰囲気や接客も素晴らしい。ただ、定休日が木・土・日・祝と多く昼の営業時間が11時30分〜14時と短い。 さらに、いつも行列なのでなかなか行けないのが難である・・・。
ハリー中西
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BLOGうつわ知新
2020.01.28
2月節分
梶高明梶古美術7代目当主。京都・新門前にて古美術商を営む。1998年から朝日カルチャーセンターでの骨董講座の講師を担当し、人気を博す。現在、社団法人茶道裏千家淡交会講師、特定非営利活動法人日本料理アカデミー正会員,京都料理芽生会賛助会員。平成24年から25年の二年間、あまから手帖巻頭で「ニッポンのうつわ手引き」執筆など。全国の有名料理店と特別なうつわを使った茶会や食事会を数多く開催。2月節分2月といえば節分。ところが節分というのは、本来季節の境目を指すため、年に4回あります。節分の中で2月の節分がとりわけ大きな行事として、取り上げられているのは、お正月(旧暦)に近い時期であったということと、人々の春を待ち望む心が他の季節よりも強いからだと思われます。私は八卦見が好きで、時々占ってもらいます。その八卦見の世界で「来年からは...」と言われた場合、それは往々にして1月1日(新暦)からを指すのではなく節分以降を指します。私は毎年京都大学横の吉田神社に節分詣をいたしますが、確かにこの時期は一年で一番冷え込みます。それ故に、節分の翌日が立春の日に決められていることに「なるほど」と大きく頷くばかりです。以前、裏千家14世淡々斎の自画賛の掛軸を所有していたことがありました。そこには一輪の侘助の絵が墨で描かれ「清娯」の文字が添えられていました。厳しい季節の中、真っ先に花を開いたその侘助が春を告げるのを感じ取って気持ちがほんのりと和らぐ様子が表現されたような掛軸でした。2月はまだ春を強く感じることはできなくても、春へ向かう静かな足音が聞こえ始めるまさに「清娯」の季節なのです。伊万里青手古九谷様式 椿平鉢侘助は椿の仲間です。同じように椿を描いたうつわを2種ご紹介させていただきます。ひとつ目は「伊万里青手古九谷様式 椿平鉢」で、1650年前後に作られた作品です。赤を使わず緑を主体にしてデザインされた鉢です。日本人は昔から緑を青と呼ぶ習慣を持っていましたから、緑手ではなく青手と呼ばれてきているのでしょう。このうつわの製作年代はまだ素焼きの技術を持っていませんでしたから、いきなりの筆入れでここまでの作品に描きあげるためには、職人にしっかりした絵の技術が必要でした。その技術の確かさによって、写実的な重く堅苦しい絵にならず、崩しすぎた下手な絵でもない、うつわに最適なバランスの絵に仕上がっているのでしょう。青手と言われるうつわは、伊万里の良質な硬く白い磁器質の磁胎を用いておらず、あえて半磁器のくすんだ色の磁胎を用い、緑や黄色や紫といった鮮やかな色のガラス釉を使いながらも、磁胎のくすんだ色を背景として利用して、鮮やかさではなく、重厚感を醸し出すことに成功しています。半磁器の欠点を逆手にとった企画力と、画質の落としどころの絶妙さなどおよそ400年前の物とはとても考えられません。吉田屋 松竹梅 見込椿 茶盌次にご紹介するのは「九谷吉田屋窯 松竹梅見込椿茶盌」です。先に紹介した「伊万里古九谷様式」の鉢は、つい近年まで石川県加賀地方で製造されたものと考えられ「古九谷」と呼ばれていました。しかし発掘と研究の末に、今は九州の有田地方で焼かれた伊万里の一分野に分類されています。ところが奇妙なことに、19世紀の加賀地方に住んでいた人々は、「青手古九谷」は地元で生産されたと信じていたようで、この「青手古九谷」を今一度復活させたいと1824年に吉田屋窯を立ち上げ、7年間だけではありましたが、さまざまな作品を残しているのです。九州の伊万里では莫大な数の製品を残しながら、ほぼ茶道具を生み出すことはありませんでした。ところが、この吉田屋においては香合、蓋置、水指、茶盌など多様な茶道具も手がけました。吉田屋では青手古九谷での再興を目標に掲げてはいましたが、写しと呼ばれる同一デザインの作品を造ることはせず、全て独自のデザインで作られています。今日、金沢周辺を旅して、九谷焼を求めると、その中にはこの青手古九谷、吉田屋の流れをくむ作品に出会うこともあるでしょう。古九谷が伊万里に分類されてしまっている現代でもなお、多くの北陸の人々にとって古九谷が自分たちの文化の誇りであり続けていることが理解できるでしょう。乾漆 鬼面今でも節分には豆まきをされるお宅もあることかと存じます。これは、春を迎える前に追儺(ついな)と呼ばれる邪気を祓う儀式に代わるものです。それは桃の木で作った弓に、芦の矢をつがえて邪気という気配に立ち向かっていました。やがて邪気が目に見える鬼として表現されるようになり、弓矢を「射る」という言葉の類似性から、「炒った」豆が用いられるようになり、鬼に向かって豆を投げるという形になったわけです。ここでご紹介しているのは、乾漆の鬼面です。乾漆とは麻布や和紙を漆で張り重ね、漆と木粉を練り合わせたものを使って造形を行う技法です。木彫とは異なる造形の自由さが表現できます。鬼面は邪気を具現化したものでもありますが、同時におどろかせて邪気を遠ざける役目で用いられることもあります。日本人は柔軟な解釈で鬼と接しているわけです。原田宰慶作 木彫懸想文像ここでもうひとつご紹介したいのは「原田宰慶作 木彫懸想文像」です。水干(すいかん)という衣装に覆面で顔を隠した人物がいます。肩に梅の枝を抱え、その梅の枝には懸想文(けそうぶみ)がくくりつけられています。この懸想文というのは今で言う恋文のことです。麗しい女性に思いを寄せながらも、その心を打ち明けることのできない男性は、恋文にその思いを託そうとするのですが、昔は 誰もが文字を書けるわけではなく、その代筆業として、下層の公家衆が、内職として人目をはばかり、顔を隠して請け負っていたのです。その懸想文が、やがて神社のお札のような形に発展し、節分の日にこの水干姿で懸想文を売り歩く風習となったようです。現在でも京都の左京区聖護院の須賀神社でその姿を見ることができ、お札を買うこともできます。懸想文は、それを手に入れた女性が大切に化粧箱の中にしまっておくと、美しさが保たれ良縁が来るものと考えられていました。また、衣装箪笥にしまっておけば、着るものに困らないとも考えられていました。私のお知り合いもこの懸想文を手に入れて間もなく、お嬢様に良縁が到来した方があり、情報提供した私はずいぶん感謝されたことがありました。二八(にっぱち)の2月、8月と言えば、商いも薄く静かで地味な季節と思われていますが、春には間があるものの、人々が春を心待ちにする期待感に溢れた季節として捉えられていることがお分かりいただけたかと思います。■ 梶古美術京都市東山区新門前通東大路西入梅本町260075-561-4114営10時~18時年中無休(年末年始を除く)
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BLOG京都知新弁当&コース
2020.01.28
菊乃井 無碍山房
<第二弾の企画は2020年3月31日で終了いたしました。>知新とろみ時雨弁当 5,000円(税込)料理の内容はもちろんのこと、季節ごとに器も変わる「時雨弁当」。今回の知新バージョンは、とろみ料理「みぞれ仕立てのお椀」を加えてより充実の内容に。冬から春にかけては、袴の付け菱を模ったおめでたい2段重に盛り込まれた15種の料理と先付、造り、お椀にご飯と香の物。菜の花や金柑など春の素材が華やかです。宝尽くしの文様が描かれた木蓋をとるときのワクワク感をお楽しみください。 先付け風呂吹き大根 柚子味噌造り鯛 小鮪 あしらい 割り醤油ジュレ煮物椀揚げ海老真丈みぞれ仕立て 椎茸 結び大根・人参 柚子 つる菜口取り出汁巻き 金柑蜜煮 黒豆松葉うち 焼湯葉 鯖寿司 菜の花辛子和え 鰈味噌幽庵焼き 菊花蕪 サーモン砧巻き 蓬麩の串打ち 分葱てっぱい和え 海老つや煮 蛸旨煮 和牛ランプ肉大和焼き 辛子 小芋御飯小柱御飯 三つ葉香の物柚子大根 柴漬け ちりめん 京細雨※仕入れ等の状況により料理の内容を変更させて頂く場合があります。無碍山房コーヒーとあまおうのソルベ 苺スープセット(お弁当にプラス1,000円)食後のデザート「あまおうのソルベ」は濃い甘味とほどよい酸味が口のなかに広がります。菊乃井の水に合うようにと店主が厳選したコロンビア産の珈琲は後味すっきり。豊かな香りに包まれます。それぞれプラス500円でもご注文可。■ 菊乃井 無碍山房京都市東山区下河原通高台寺北門前鷲尾町524075-561-0015時雨弁当 :11:00~13:30(12:00最終入店)喫茶:14:00~17:00までのご入店※14:00にご来店いただけるお客様には、お席のご予約をお承りしております。※ 混雑状況によっては、17時前に受付を終了させて頂く場合がございます
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BLOG京都知新弁当&コース
2020.01.28
西利 祇園店 味わい処
<第二弾の企画は2020年3月31日で終了いたしました。>知新とろみ御膳 1,760円(税込)「京つけもの西利」の人気商品でもある「長いも」のお漬物を存分に楽しんでいただける御膳です。「長いもしょうゆ」「長いもゆず」に加え冬季限定の「長いも九条ねぎ」を、注文を受けてからすりおろしてとろろにしました。だしでのばしていない分、濃厚なとろろの風味を堪能いただけます。3種のとろろをご飯にかけ、お漬物や佃煮を好みで添えてお召し上がりください。それぞれに違う味を楽しめます。 とろろ3種長いもしょうゆ・長いもゆず・長いも九条ねぎ京のあっさり漬大根みぶ菜きざみ赤しそむらさきの出し巻玉子ごぼう胡麻だてちりめん山椒きのこ昆布ご飯味噌汁※仕入れ等の状況により料理の内容を変更させて頂く場合があります。■ 西利 祇園店 味わい処 京都市四条祇園町南側578075-525-778811:00~19:00(L.O.18:00)無休
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