食知新ブログ
-
BLOG京の会長&社長めし
2022.01.15
株式会社マツシマホールディングスの社長が通う店「侘家古暦堂 祇園花見小路本店」
■松島 一晃(まつしま かずあき)さん株式会社マツシマホールディングス 代表取締役社長1986年生まれ、京都府出身2009年、東京海上日動火災保険株式会社に就職2014年、父が経営するマツシマホールディングスに転職2016年、専務取締役就任2017年、代表取締役専務就任。株式会社A・STORY創業2019年、マツシマホールディングス代表取締役副社長就任2022年、マツシマホールディングス代表取締役社長就任「全員でつくる家族と社会に誇れる会社」の企業理念のもと、メイン事業であるカーディーラー以外にも、飲食・アート・ヘルスケア・競走馬などの事業を通してお客様との繋がりの深い企業・社員が誇れる会社づくりを目指しております。最後の晩餐は、食パンにハム、チーズ、目玉焼きをのせて。大学時代まで朝食に欠かさず食べていました。さまざまな場面に応じたホスピタリティも魅力。遊び心も満載の多彩な鶏料理をコースで京都五花街の一つで、伝統的な街並みが残る祇園甲部。花見小路通沿いの歌舞練場近くに立つ「侘家古暦堂」は、洋菓子ブランド「京都北山マールブランシュ」を手掛けるロマンライフが、2002年11月にオープンさせた鶏料理の店だ。京都といえば牛肉文化の土地だが、鶏肉(かしわ)も好んで食されている食材。ここ祇園花見小路本店では、祇園らしい風情と共に従来にない鶏料理が味わえると、多くのファンを獲得している。松島さんもその一人で、高校生の時からの常連だという。「ロマンライフの社長の次男が、僕の同級生なんです。中学、高校、大学とずっと一緒で仲が良かったので、その親同士も親しくなりまして。それでオープン当時から家族で通っていました。うちの父が気に入ったお店ばかり行くタイプで、本当にしょっちゅう行っていましたね。でも本当に長居しても飽きないし、楽しく過ごせるので、多い時は月に1、2回ぐらい行っていました」(松島さん)家族で行くことはほぼなくなったものの、松島さんは今も何かあるたびに利用しているという。「友達と気軽に行こかという時もあれば、お客様をお連れする時もあったりして、あらゆるシチュエーションで使っています。高級感漂う店なのに、カジュアル。場所も雰囲気もいいし、料理も間違いなくおいしいので、誰を連れて行っても大丈夫です」「松島社長は会社やお仕事関係の方と来られることが多いですね。松島様のように会社の接待で使ってくださる方や、カップル、家族連れ、観光客など、本当に多種多様にご利用いただいています」と、広報担当の小杉拓海さん。町家を改装した店内は、上質感ある落ち着いた雰囲気。1階にカウンター、2階に3つの個室があり、さまざまなシチュエーションに対応している。キッチンを囲むカウンターはやはり人気だ。炭火焼をメインに、多彩な鶏料理を食べさせる同店では、京都のだし文化にならい、素材本来の味を生かすことを重視。昨年11月にメニューを一新。それまであった夜のアラカルトをなくし、コース一本にしてその内容を充実させた。その際、松島さんたち長年の常連客を招いて試食会を行い、その時の意見も参考にしたという。夜の「京都焼き鳥styleコース」8250円は、和洋中のだしを使った前菜3種、変わり種も登場する焼き鳥、京都産野菜の炭焼き、手羽先、鶏のソーセージ、鴨つくね、土鍋ごはんなど全10品(内容は時季により変わる)。清水焼など作家物の器で供される、趣向を凝らした料理が好評だ。「思ってもいないようなお料理が出てくるので飽きないし、いろんな調理法で食べていただけるので、楽しんでお食事してくださっています」と、スタッフの本西沙織さん。「素材ありきなので、こねくり回さず、素材本来の味に技術というか考え方を含めたものをプラスして表現するようにしています」と、料理長の秋山達行さん。京地どり、ななたに鴨、京赤地鶏、嵯峨野の野菜などの京都産食材を使っているが、鶏肉も部位ごとの特長を十分出せるよう心掛けているという。「独創的でインパクトのある料理をいっぱい作ってくれるのがいい」と、松島さん。お薦めは、開店以来の名物2品。「手羽先」は、鶏のスープやオイスターソースなどで味付けたフカひれを、手羽先にぎっしり詰めた人気メニューだ。「手羽先とフカひれがよく合うんです。揚げてあるんですが、そんなにしつこくなくて、どなたにも食べていただけます。お連れした方は、何これ、すごいっていう反応をされます」(松島さん)「鴨つくね」も遊びある一品。スパイスなどが入った鴨つくねの炭火焼は熱々のバルサミコソースをかけて供される。丹後の赤玉子の卵黄に絡めていただくと、ハンバーグのようなふっくらとした味わいに。「つくねが肉厚でジューシー。五感で楽しめる料理でインパクトがあります」(松島さん)カウンターに用意されたオリジナル薬味。お好みで鶏料理や野菜にふりかけて味わう。オリジナリティあふれるメニューを生み出してきた秋山さん。「鴨つくねのような演出は、お客さんが笑顔になったり、会話が弾んだりするきっかけづくりができるし、食事も楽しいかなと。焼き鳥は屋台から始まった食べ物なので、かしこまらず楽しいなって思えるようなものを表現したいですね」と語る。世界各地のものを揃えるワインは、プラス4500円でペアリングコースも楽しめる。時には日本酒カクテルや実山椒入りハイボールなどオリジナルドリンクも登場。松島さんが特に気に入っているのが、ホスピタリティの面だという。「僕にとって、どんなシーンでも対応できる安定感があります。例えばビールの泡に絵や文字を入れて出してくれたり、記念日にシャンパンをサービスしてくれたり、お客様に合わせた心遣いをしっかりしてくれる。接客も会話するタイミングなどその場の空気を読んでくれるのがいいですね。一見さんお断りの店だと思われがちですが、すごくフレンドリーで、ホスピタリティがあるので喜んでいただいていると思います」ビールの泡に文字や模様などを転写する「神泡」サービス。予約時などにお願いすれば、希望の図柄を入れて出してくれる。サプライズの演出にも。ここでは、サービスに関しては最低限の決まりごとがある以外は、各人が「お客様が喜ぶことをする」ということを方針にしているという。スタッフが皆「楽しんで帰ってもらいたい」という共通の意識を持って迎えてくれる。それが、松島さんの言う「いつ行っても飽きさせない」安心感につながっているのかもしれない。撮影 エディ・オオムラ 文 山本真由美■侘家古暦堂 祇園花見小路本店京都市東山区花見小路四条下る 祇園町南側 歌舞練場北側075-532-3355営業時間 11時30分~14時、17時分~22時(入店20時)定休日 無休https://www.wabiya.com/gion/
-
BLOG料理人がオフに通う店
2022.01.14
「樽八」-「HANA(ハナ)」の岩崎出さんが通う店
推薦者の「HANA(ハナ)」のオーナシェフ、岩崎さん(左)岩崎出さんは、京都・元田中のフレンチの名店、ベルクールで松井知之シェフのもと、4年半、修業し、その後、2号店となるLe Bouchon(ル ブション 寺町二条)を任され、ここで4年半、研鑽を積んだのち、2000年に独立して、オーナーシェフとして「HANA」をオープンさせた。岩崎さんのような料理人が、深夜、仕事を終えてから集まって、美味しい料理とワインを飲めるような店を、という思いをかたちにして、自身の店をオープンさせた。カクテルやワインが飲めて、ベルクール仕込みのフレンチ・アラカルトが揃う、ビストロの先駆けのような店をオープンさせたところ、評判を呼んで、大人が深夜までゆるりと楽しめる一軒として、多くのファンを掴む店に。今も多くのファンが集まる一軒となっている。「新鮮な海鮮料理からお肉料理まで、とにかくメニューが豊富で、子供から年配の方まで楽しめる、安くて美味しいお店です。カップル、家族、グループなどいつ行っても、いろいろな方が料理とお酒を楽しんでいます。僕は、結婚前は沢山の友達と通っていましたが、今は家族で行くことがほとんどで、カウンターに座って、店主の昌くんと料理の話をしながらいつも楽しんでいます。妻も娘も大好きなお店なんですよ。寛げる空間やし、料理も美味いし、料理関係の方々も沢山見えているみたいです。僕がいつもオーダーするのは、お造り盛り合わせ、季節の天ぷら、グリーンサラダ、自家製餃子、ノドグロ塩焼きなどなど。特に魚介は本日のおすすめを聞きながら頼んでいます。お酒類も日本酒、焼酎、ワインなんでも揃っていて、財布に優しい値段設定です。僕のお気に入りは、夏は焼酎ソーダ、冬は熱燗ですね。冬場は蟹コースとか、ふぐコースなどのスペシャルコースもありますし、〆の樽八ラーメンも有名ですよ」(岩崎さん)「ご家族でよく来ていただいています。知り合ったのは僕がまだ料理人の道に入りたてで、岩崎さんの店には仕事帰りにしょっちゅう行っていました。若い頃からいろいろ相談に乗ってもらってきましたが、今は家族連れでお互いの店を行き来して、また料理の話で盛り上がっています」(平松さん)見よ、この立派なカウンター!ここに陣取って、思わず「とりあえずビール!」と言いたくなる。 百万遍に程近い場所にある「樽八」。一歩、店内に足を踏み入れるとそのスケール感に圧倒され、「ああ、懐かしい」という感覚に包まれる。広い店内の中央にコの字の木のカウンターがでんと座し、その真ん中で、店主の平松昌峯(まさたか)さんがキビキビと料理をしている。小上がりに座敷、石畳、大きな手書きの本日の品書き、座布団...などなど、昭和の良き時代の居酒屋の空気が満ちみちているのだ。 それもそのはず、平松さんは二代目。初代の父、水賀(みのり)さんが、友禅の染職人から大きく方向変換をして、友禅工房だった建物を改装し、昭和54年、ここに居酒屋を開いたのだ。場所は京大エリア。京大の学生相手の安くて美味い居酒屋として、多くの常連が通い詰めた。 18歳の時から父の下で働いていた長男の平松さんだが、15〜6年前に、店の方針をリフレッシュし、大人来てゆっくり料理と酒を楽しめる店へと舵を切った。 「居酒屋はどうしてもスピードが求められますが、僕は料理人が丁寧に手間をかけた料理を大切にお出したいとずっと考えていました」 食材をさらに吟味して厳選し、レシピも一から見直し、それでいて価格は庶民の財布に優しい設定を心がけた。平松さんの思いはそのまま、店の評判に繋がり、新たな店のかたちが少しずつ、浸透していった。今では京大関係者はもちろん、学生時代にここに通っていた人が社会人になって訪れてくれたり、サラリーマン、カップルやファミリーなど、多くのファンが店に通っている。酒好きにはたまらない景色。 読み切れないほどの豊富なメニューは見ているだけでも楽しくなってくる。その中からおすすめ料理をいくつか紹介してもらった。 まず、ここに来たら食べて欲しいのが海鮮だ。「HANA(ハナ)」の岩崎さんからの紹介で知己を得た七条の山定商店から日々届く鮮魚を、まずは造りで。今日の黒板には「天然アナゴ刺身」、「白グジ造り」、「寒サワラ造り」「活松葉ガニ」など、今が旬の魚がずらりと書かれている。見ているだけで美味い酒を欲してしまう。本日の造り盛り合わせ。金目鯛、マグロ、明石のたこ、アオリイカ、さわら、鯛、カンパチ、天然ヒラメなど旬魚がたっぷりと盛られている。一人前1760円〜。写真は二人前。 ご自慢は魚介だけではない。野菜料理の多さにも驚くが、シンプルなグリーンサラダは「今日、仕入れた野菜はほぼ全部のせる勢いで(笑)」という平松さんの言葉通り、瑞々しい野菜がぎっしりと盛られている。オニオンとガーリックのすり下ろしをベースにした自家製ドレッシングの旨味が広がって、たっぷり過ぎると思った野菜もすんなり胃におさまってしまう。もう、ぎっしりと詰め込まれたカラフルな野菜たち。一皿で何品目もいただけるのが魅力のグリーンサラダ880円。 見るからにおしゃれな一品は、店の名物の一つ、マグロのネギトロをサラダ仕立てにした一品で、相性の良いマグロとアボガドを自家製のタルタルソースでいただく。ワインにも合う味わいだ。こちらにも野菜がこれでもかというくらい盛られて、見ているだけでテンションが上がってくる。姿も美しいアボガドマグロタルタル 935円。キリッと冷えた白ワインに合いそう。 創業当初から唯一残っているオリジナルメニューもある。なんと鶏の半身をどんと使った、その名も「名物半身揚げ」だ。初代が考案した赤塩と呼ばれる秘伝のスパイスソルトで味付けした鶏をじっくり揚げたボリューム満点の一皿。ここにくればぜひ、試して欲しい、こちらも名物料理の代表格である。オリジナルの赤塩をたっぷり振りかけたボリューミーな名物半身揚げ1430円。ここに来たら一度は試して欲しい初代公安の逸品。 魚介だけでなく、肉料理もおすすめだ。「和牛焼き」のA5サーロインステーキだ。200gほどのボリューミーなステーキを、切り口をロゼ色に焼き上げて醤油ベースの自家製タレ、または塩でいただくのだが、こちらも人気が高い。肉汁たっぷり!ジューシーなサーロインの極上の風味を堪能できるA5サーロインステーキ4180円。 吟味した素材を造り、焼く、煮る、揚げるなど様々なバリエーションで楽しんで、さらに中華そばや、マグロユッケどんぶり、たらこバターごはん、雑炊など〆のメニューも大充実。酒もビール、日本酒、ワイン、焼酎、サワーなど多彩に揃う。 割烹と居酒屋の楽しみを併せ持ったような店は、懐かしさと寛ぎを感じさせ、いつも活気に溢れて、和やかに"食べて飲む"よろこびに満ちている。ガラスケースの中には日々、旬の魚介が並べられる。今日はミルキーな北海道の仙鳳趾(せんぽうし)牡蠣がお目見え。 「うちに来れば、何かしら美味しい!と思っていただけるお好みの味にきっと出会ってもらえると自負しています。厨房内は僕が信頼できる調理スタッフと二人で対応しているので、料理にどうしても時間がかかってしまう時があるんです。タイミング的にちょっと待っていただくこともあるかもしれませんが、お待ちいただいた分、美味しい料理を提供させていただけると思っています」いつもキビキビと笑顔で出迎えてくれる平松さん。今日のおすすめをいろいろと相談してみて欲しい。 おひとり様から家族連れ、グループまで、どんなシチュエーションにも心地よく応えてくれる一軒。夕暮れになるとぽっと明かりが灯り、一人、また一人と温かな空間へ吸い込まれていく。美味いものを食べて、飲んで、笑って、明日へのエネルギーをしっかりチャージできるこんな場所は、なにものにも変えがたい。座敷もどこか懐かしさに満ちて、心からほっと寛げる空間だ。温かな明るい色合いの暖簾が出迎えてくれる。■「樽八」京都市左京区田中門前町67075-721-8080営業時間 17:00〜23:00定休日 月曜(祝祭日の前日は営業)撮影/竹中稔彦 取材・文/ 郡 麻江
-
BLOGうつわ知新
2021.12.31
伊万里焼と古九谷焼4
9月末~4回ほどは「伊万里焼と古九谷焼」について。4回目は、古九谷様式に焦点をあてて解説いただきます。「伊万里焼と古九谷」の物語をお楽しみください。梶高明梶古美術7代目当主。京都・新門前にて古美術商を営む。1998年から朝日カルチャーセンターでの骨董講座の講師を担当し、人気を博す。現在、社団法人茶道裏千家淡交会講師、特定非営利活動法人日本料理アカデミー正会員,京都料理芽生会賛助会員。平成24年から25年の二年間、あまから手帖巻頭で「ニッポンのうつわ手引き」執筆など。 全国の有名料理店と特別なうつわを使った茶会や食事会を数多く開催。伊万里焼と古九谷焼4 先月は、伊万里が中国人の技術指導を得たことで、初期伊万里と呼ばれた時期を抜け出していく様子と、その時に獲得した技術的な特徴についてお話をさせていただきました。 優しく解説すると言っておきながら、後で読み直すと結構難しくなってしまったことを反省しております。 まずは今回の導入部分をお話しすると、伊万里は1640年頃に初期伊万里から古九谷様式と呼ばれる次の時代に入っていきます。そして古九谷様式の焼物は中国人の技術指導を得て、大きく分けて、青手古九谷・色絵古九谷・藍九谷(染付)・吸坂手(錆釉)の4種類の作風へと広がりを見せていきます。 今月は、この古九谷様式の焼物に焦点をあててお話ししたいと思います。 青手古九谷には、磁器と半磁器の焼物があります。半磁器と言うのは陶土(粘土)と、磁土(陶石の粉末)を混合した生地を用い、陶器の柔らかな風合いを残しつつ、磁器に近い強さを持った焼物です。 主に緑の色釉で表面を塗り詰めているため、緑色っぽく見えることから青手と名付けられたようです。緑色なのに青と呼ぶのは、古くから緑を青と呼んだ日本の習慣に由来すると言われます。 色釉でうつわの全面を塗り尽くしたのは、くすんだ色調の生地を隠すためだったと記された文献を見けることがありますが、それならば磁器質のうつわだけを生産して、半磁器のうつわを生産した説明ができません。私は逆に、半磁器のくすんだ生地に色釉を乗せることで、全体の色調に重厚感が出るからではないかと考えています。 青手古九谷は赤の色釉を使っていないこともその特徴です。さらに絵付けにおいて高い画力を求めて、職人ではなく絵師に力を発揮させていたことも特徴のひとつでしょう。絵画のごとくに一点限りの焼物を作ろうとしたと考えられます。 古九谷の下絵は、狩野派の絵師で金沢にも住まいした久住守景によるものではないかという説もあると読んだことがあります。これはそれほど数寄者が、自分だけの唯一の茶碗を所有することを望んだように、注文主の好みを強く反映させようとした証と言ってよいのかもしれません。 伊万里青手古九谷様式椿絵鉢 赤の色釉は使わないと言う青手のお約束の通り、赤は使われていません。高台の内側の色釉を塗っていない箇所や、高台の畳付き部分の素地の色を見れば、このうつわは磁器ではなく、くすんだ色の半磁器であることがお分かりいただけるでしょう。しかし、そのくすんだ素地のおかげで、落ち着いた重厚感があらわれて、魅力が増しているのも事実です。これは青手の鉢類の中では比較的小さい部類の七寸 (約直径21cm)の大きさですが、量産することを主眼に置かない一点物の風格が感じられます。お菓子を盛ってもおさまりが良いのは、茶人たちの好みを意識して造られた青手古九谷の風格なればこそでしょう。後世の伊万里とは異なる高い美意識だと思います。 色絵古九谷では青手古九谷同様に一点限りの大皿なども焼きながら、同時に、景徳鎮で焼かれ輸入された南京赤絵の写しや、日本人の好む図柄や形を反映させた数物の向付も量産しています。その背景には、中国からの陶磁器の輸入量が激減し、入手できなくなった古染付などの穴を埋める必要があったからだろうと推測できます。 ところが、品質も向上し、これから販売攻勢をかけようとする伊万里のライバルとして想定された明国の陶磁器が、生産量が減るどころか国もろとも消滅してしまったわけです。それは、衝撃的な出来事ではありましたが、伊万里にとっては千載一遇のチャンスが到来したことになったのです。 色絵古九谷と言うのは、赤・緑・黄・紫・紺青(こんじょう)の5色の上絵釉内のいくつかと、意匠によって染付も組み合わせて彩色された磁器を指しています。白磁の上に鮮やかな色絵を用いて、豪華な大皿も焼かれていますが、同時に端皿(はざら)と呼ばれる円形・四方形・長四方形・扇形・菱形・八角形など多彩な形状の平向付(平皿)も大量に焼かれました。 この端皿はおおよそ20客揃いの数物であったと言われていますが、手間を省略して大量生産に重きを置いただけのうつわではなかったようです。サイズを小さくして量産はしても、クオリティーは保とうとする心意気が感じられるうつわなのです。 形も多種多様のものが作られていますが、これは織部の向付から古染付の向付に受け継がれた数寄者たちの形へのこだわりが、この色絵古九谷の端皿に反映された結果でしょう。 だからこそ、現代の茶会においても色絵古九谷の端皿が向付に用いられているのかもしれません。また茶会の中での色絵古九谷は他の古い道具と違和感なく馴染んでいます。茶会で伊万里は使われないのだと皆様にお話してきましたが、この古九谷様式のうつわは茶人のことも意識して造られていたのかも知れないと、私自身が伊万里と古九谷を深く学んでいく中で感じられるようになりました。色絵古九谷山水図長方皿 左に岩山、右手前に梅、右奥に楼閣を遠景で描き、紙に描く山水画を陶器で試して額縁にはめたようです。奥行きのある構図は、画家の指導があったことを感じさせます。色絵古九谷牡丹図四方皿 中央に百花の王の牡丹を、周囲に子孫繁栄を願う葡萄を描き、目出度さを表現しています。描かれた複数の植物の配置が実に見事です。色絵古九谷団栗図菱形皿 中央に子孫繁栄の団栗を描き、周囲の丸窓には宝珠を描いています。菱型も植物の菱が子孫繁栄のシンボルなので目出度さを意識したデザインになっています。色絵古九谷山水長方皿 中国由来の絵画風、日本では狩野派がこのような構図を好んで描いています。やはり狩野派絵師の指導があったとしか考えられません。古九谷寒江独釣図丸皿 茶人好みの中国絵画の題材を採用し、生産者の教養の高さが感じられます。裏面中央の緑の部分の中に柱を立てた跡が見られます。高台内の沈み込みを防止するための伊万里独自の技術です。とりどりの色絵古九谷向付(端皿) ほとんどが丸い皿型の青手古九谷に対して、色絵古九谷の形は実にバラエティーに富んでいます。このようなユニークな形の展開は織部向付に始まり、動植物や様々な形を採用した古染付向付に受け継がれ、丸・四方・長方・菱のこれら古九谷端皿のへと、国境さえも越えておおよそ100年間進化してきたものだと思います。このような向付の進化の先に色絵古九谷が存在するからこそ、茶懐石のうつわとして用いられているのではないでしょうか。色絵の端皿のひとつにお菓子を乗せてみましたが、青手の鉢ほどのおさまりの良さは感じられません。青手古九谷とは違い、料理の向付として生まれているからかもしれません。 来月は藍九谷、吸坂手についてお話していきたいと思います。伊万里焼と古九谷焼5へつづく
-
BLOG京のとろみ
2021.12.30
「食堂酒場たなか」の粕汁
私が生まれ育った三条会商店街。三条通りの堀川から千本まで、800mのアーケードは、直線の単一商店街としては日本一の長さらしい。大正3年に72軒でスタートした商店街が今では新旧含め、約200店舗並んでいる。「365日晴れの街」のキャッチフレーズで、マラソンの野口みずき選手が雨の日はこの商店街を走っていたのは有名な話である。三条会商店街の東寄り、猪熊通りを少し南に下がった所に、食堂酒場たなかがある。私の家から歩いて行けるのでふらっとお邪魔することが多い。こちらのマスターとはBAR K6時代からの長い付き合いだ。お酒の種類も豊富でマスターの作るカクテルは本当に美味しい。気さくな人柄で一見ゆる〜い雰囲気だが、お酒を作る姿はキリッと美しい。食堂酒場の名のとおり、料理も充実していてお酒が進む。定番のポテトサラダやタマゴサンド、おでん、唐揚げなどから、オムライス、パスタ、丼物までご飯物も数多く用意されている。そんな中から先日いただいたのが「柔らか豚角煮の粕汁」。注文して待っていると土鍋で提供される粕汁に驚く!その土鍋の中にはでっかい豚の角煮、ゆで卵、大根、人参、ゴボウ、こんにゃく、お揚げなど具がたっぷり。伏見の酒蔵、齊藤酒造「英勲」の酒粕を使用した粕汁は濃厚で、しっかりとろみがあり具材によく絡む。私が合わせたお酒はシーバスリーガル ミズナラのハイボール。濃厚な粕汁とハイボールは最高の組み合わせだ。何杯でも飲める。食堂酒場たなかが近所にあってよかった。
ハリー中西
料理カメラマン
-
BLOG京都美酒知新
2021.12.28
カクテルが飲みたくなる話「ミントジュレップ」
■西田稔(にしだみのる) 京都木屋町二条「Bar K6」、「cave de K」、「keller」のマスターバーテンダー。2020年開業の「ザ・ホテル青龍 京都清水」内の「Bar K36」を監修。自らもカウンターに立つ。京都生まれ、同志社大学卒業後、東京のバーで経験を積み、1994年に「Bar K6」を開業した。シャンパーニュの将校、グラッパの騎士、クリュッグアンバサダー、ウイスキーコンテスト審査員ミントジュレップカクテル言葉「明日への希望」「ミントジュレップ」は、1800年代後期にはすでに飲まれていたといわれており、現在でもアメリカを代表する夏のカクテルとして人気を博しています。アメリカ競馬の最高峰レース「ケンタッキーダービー」のオフィシャルカクテルとしても有名。レース当日に場内で販売されるほか、レース前のパーティーなどでも提供されます。もともとは、苦い薬を飲みやすくする水のことを「ジュレップ」と呼び、カクテルになった後に、ウイスキーの度数をやわらげる目的でミントを使用したことから、「ミントジュレップ」と呼ばれるようになったそうです。「BAR K36」では、シロップの代わりに和三盆をくだいて溶かしこみ、やわらかな甘みに仕立てています。グリーンのミントに赤いストローを添えたクリスマスカラー。夏場だけでなく冬にも爽やかな味と空気感をもたらしてくれます。カクテル言葉は、「明日への希望」。飲めば新しい年がより希望に満ちたものになるでしょう。カクテルレシピワイルドターキー 40ml和三盆 1stpミント 10枚飾り用ミント 1枚12月のウイスキーワイルドターキー8年ブランド誕生から変わらぬ8年熟成。歴代米国大統領も愛飲したプレミアムバーボン。アルコール50%のフラッグシップとして、今も変わらずつくられつづけている銘柄。高いアルコール度数にもかかわらず、想像以上に繊細な味わいが楽しめる8年熟成もの。その深い琥珀色は「クロコダイル・スキン」と呼ばれる、内側を強く焦がしたオーク樽によるもの。重厚でインパクトのあるフルボディテイストと心地よい甘みとコクが独特の余韻をもたらしてくれる。ワイルドターキー蒸留所蒸留所オーナーのトーマス・マッカーシーが七面鳥の狩に出かける際、貯蔵庫から1本のバーボンを持参。そのバーボンが好評を得、狩り仲間の1人が七面鳥の狩にちなんで「ワイルドターキー」と呼び始めた。マッカーシーはそのユニークなニックネームを気に入り、後にブランド名にする。代々受け継がれてきた独自のポリシーの一つが、1樽から製造する製品を約15ケース程度にする点。豊かな香りを保つため、蒸溜と樽詰めの段階でアルコール度数を低く抑えているワイルドターキーは、多くのケースをつくるのではなく、素材が生みだす本来の味わいと風味を保つことをなにより優先している。コーンはケンタッキー州とインディアナ平野、大麦はモンタナ州、ライ麦はドイツ産を使用。製造本数を少なくすることで、製造にかかるコストは割高になるが、それよりもバーボンを愛するファン一人ひとりのグラスに届く味わいを大切にする。それがワイルドターキー蒸溜所のこだわりであり、誇りにもなっている。ワイルドターキー社HPより■Bar K6京都市中京区木屋町二条東入ル ヴァルズビル2F075-255-5009撮影:ハリー中西
-
BLOG割烹知新〜奇想の一皿〜
2021.12.24
綾小路唐津「福宝巻」
綾小路唐津「福宝巻」家業の和食店で10年の修業後、さらに研鑽を積むため『京都吉兆』へ。いくつかの店で料理長を務め上げ、2017年に『綾小路唐津』を開店。ともに店に立つ奥様曰く、家での食事作りを一手に引き受けるほどの「料理好き」で、包丁を握る姿は水を得た魚のよう。旬を映した端正な料理と茶懐石の精神に則ったもてなし―口の肥えた食通たちが信頼を置く、間違いのない一軒です。発想秘話コロナ禍で時間が出来たこともあり、生産者の方々と直接話す機会が増えました。特にこの一年は美山に何度も足を運び、栗拾いをしたり、新しい食材に出合ったり......そういった交流を通じて、改めてフードロスや環境問題について考えるようになったのです。もちろん修業時代から「食材を無駄にするのは料理人として最も恥ずかしいこと」と叩き込まれてきましたが、生産者の思いを直接聞くことで、より強く意識するようになりました。「奇想の一皿」を作るにあたり、最初は和っぽくない食材や調理法からのアプローチも考えました。ですが、やはり今は「フードロス」が一番しっくりくるテーマだと思い、その観点からアプローチすることにしました。使うのはクエのあらと白菜の一番外側の葉、かぶらの葉、葱の青い部分といったくず野菜ばかり。食材として何も問題はないのですが、見た目の悪さや食べにくさから、お客様にお出しできない部分です。もちろん賄いで端材を使うこともありますが、まとめて炊いたり、刻んで漬物にしたり......簡単なものがほとんどです。それを今回は、手間と時間をかけて「福宝」に作り変えたいと思います。では調理していきましょう。はじめにあらと野菜くずでスープを取ります。昆布を敷いた鍋にクエのあら、くず野菜、干した生姜の皮とねぎの青い部分を入れ、水と酒を加えてひと煮立ちさせます。クエはあらかじめ霜降りにし、よく洗ってから使います。沸騰したら火を弱め、ことこと30~40分くらいでしょうか。新鮮なあらとはいえ、ぐらぐら煮立てると生臭さが出てしまうため、あくを取りながら丁寧に煮出します。スープから身のついたあらを取り出します。あらから大きめの身を外し、食べやすいよう骨を抜きます。魚の構造が分かっていると、骨を取り除くのも簡単なんですよ。ほぐし身を寄せ集めてもいいのですが、ちょうどいい大きさの身がついていたので、今回は大きめの身をそのまま巻いてしまいましょう。巻きやすいようさっと湯がき、茎の部分を削いで厚みを均等にした白菜でクエの身を巻いていきます。崩れないようさらにガーゼでやさしく包み、再びスープの入った鍋に戻します。白菜にしっかり味が入るよう、炊いては休ませ、炊いては休ませを何度か繰り返します。こうすることで白菜だけでなく、一旦スープに溶け出した魚のうまみが再びクエの身に戻ってくれます。スープには少量の塩と薄口醤油を足していますが、みりんなどの甘味料は入りません。素材そのもののうまみや甘みを大事にしたいので、砂糖やみりんは普段からほとんど使いませんね。しっかり味が入ったら、少しとろみのついたスープと共に皿に盛ります。スープにはクエのコラーゲンがたっぷり溶け出しているので、冷えるとぷるぷるに固まります。このスープをアレンジしてにゅう麺にしても美味しいですよ。素揚げにした金時人参の皮とかぶらの葉、柚子を添えて完成です。低温で揚げたかぶらの葉っぱは風味も抜群でしょう? クエの出汁は濃厚ですが、甘鯛もいい出汁がでますし、鱧の骨や頭を使うと、とても上品な出汁がとれます。どんな高級魚でも、お客様に出せない部位は必ず出てくるので、このような形で使い切れると気持ちがいいですね。 京都に来て一番驚いたのは、扱う食材の豊富さです。地方ではその土地でとれるもの以外は、いい素材が手に入りにくいんですね。『京都吉兆』で選りすぐりの食材と向き合ううちに、料理人としてのやりがいや楽しさを純粋に追求したくなってしまい......もともと料理屋の跡取り息子だったのですが、早々に戻る気がなくなってしまいました(笑)。創作に関してですか? 僕自身は「アレンジ」はするけど「創作」はしないという考えです。食材の相性や調味料の組み合わせなど、和食には守るべき「法則」がある。例えば白味噌は本来、冬のものです。ですから鱧と白味噌を合わせるのは違和感がある。また蛤を塩で調味したり、昆布やわかめを塩で炊くことも「ちぐはぐ」だと感じます。もともと塩気のある食材を塩で調味するのは「法則」を破ること。そういった「知らず知らずに身に付けた感覚」、日本料理の情緒のようなものを大切にしたいと思っています。近年は温暖化など、環境の変化によって一次産業が大きなダメージを受けています。我々料理人は、いい食材がなければ仕事が出来ません。ですから料理人こそ、考えるだけでなく、率先して動いていかないと...。これからも生産者の方々と同じ目線に立ち、環境問題やフードロスについて発信していけたらなと思います。撮影 鈴木誠一 取材・文 鈴木敦子■綾小路唐津京都市下京区綾小路通新町西入ル075-365-222711:30~14:00、17:30~22:00
-
BLOG料理人がオフに通う店
2021.12.22
「HANA (ハナ)」-「太郎屋」の杉本悠子さんと前川瑠衣子さんが通う店
「太郎屋」の前川瑠衣子さんと杉本悠子さん姉妹 四条烏丸西入ル、路地酒場が集まるエリアにある「太郎屋」。女将の杉本雪枝さんは料理上手で、夫の「太郎さん」(ニックネーム)がお酒好き。雪枝さんの手料理で美味しいお酒が飲める理想の居酒屋をして欲しいと太郎さんのたっての希望で30年前にこの店を始めた。暖簾を守っているのは、店主の杉本雪枝さん、長女の悠子さん、次女の瑠衣子さん姉妹。母娘3人で切り盛りして、アットホームな店はいつも常連客を中心に賑わっている。 雪枝さんのお姑さんが料理の名手で、雪枝さんはおばんざいをはじめ、京の家庭料理をしっかりと受け継ぎ、それを姉妹がさらに受け継いでいる。サラリーマンの懐に優しいプライスで、くつろいで美味しい料理とお酒をゆっくり楽しんでほしい。創業当初の思いは今もしっかりと繋がり、働く人たちの癒しの場所となっている。「『HANA」さんの店主、岩崎さんとは古くからの友人で、当時、岩崎さんはフレンチレストランの店長をされていました。その後独立され、HANAを開かれたのですが、私たちの自宅から近かったこともあり。家族3代(父母、私と姉の家族)でいつも大勢で伺います。お店の雰囲気はとてもカジュアルなのですが、お料理はとても本格的。なのに、どこかホッとするような味で、子供達はガツガツ、大人はワインがガブガブ進んでしまう、レストランとバールのいいとこ取りのようなお店です。堅苦しくなく、でも砕けすぎてもいない、とても素敵なお店。過去にミシュランのビブグルマンにも選ばれておられます。岩崎さんのことをずっと「トーマスさん」と呼んでいますが、そのスマートな接客とシャイな照れ笑いがいつも場を和ませてくれます。トーマスさんもお料理はされるのですが、寡黙な料理長「平木さん」というパートナーとともに、メニュー構成を考えていて、2人の温かい接客とお料理がとてもいい感じです。お料理はいつも旬の食材を使ったメニューがたくさん並んでいるのでその時の気分で頼むのですが、必ず頼むのが「ニース風サラダ」です。とってもシンプルなメニューなのに基本のドレッシングがきっちりと作られていてこのサラダを食べるだけで他の全部のお料理への信頼と期待が高まります!どのお料理も塩の塩梅が絶妙で、本当に何を食べても美味しいですよ!」全面ガラスから望むこの眺望が、この店の"らしさ"であり、魅力になっている。 オーナーシェフの岩崎 出(いずる)さんは、京都・元田中のフレンチの名店、ベルクールで松井知之シェフのもと、4年半、修業し、その後、2号店となるLe Bouchon(ル ブション 寺町二条)を任されて、さらに4年半、研鑽を積み、2000年に独立して、オーナーシェフとして「HANA」をオープンさせた。「あのころ、ぼくらのような料理人が夜、仕事を終えてから、集まって飲み食べするような店が本当に少なくて...、とくに洋食系がなかったんです。ワインをゆっくり楽しみながら、美味しいフレンチが楽しめる店があったらいいなあとずっと思っていて、その思いをそのままかたちにしました」 それまで京都にはほとんどないスタイルの店。夜遅くまで開いていて、料理とお酒が楽しめる店、ということで、カクテルやワインが飲めて、ベルクール仕込みのフレンチ・アラカルトが揃う、ビストロの先駆けのような店をオープンさせたところ、料理人だけでなく多くの人が待ち望んでいたのだろう、評判が評判を呼んで、大人が深夜までゆるりと楽しめる一軒として、多くのファンを掴む店に成長していった。 桝形商店街の入り口すぐそばの細い階段を登っていくと2階は厨房、3〜4階がダイニングフロアとなっている。螺旋階段の上に、広々とした空間が広がり、窓からの景色は鴨川から東山へ、京の風景が惜しげもなく広がる。 これほどの眺望が楽しめる店は京都では貴重で、この景色もまたごちそうの一つだろう。刻々と景色を眺めつつ、夕暮れワインなどつい楽しみたくなってしまシチュエーションだ。 眺望を眼前に楽しみつつ、小粋な空間で、さて、ワインとご自慢の料理をいただいてみよう。現在、この店では岩崎さんとベルクールの時の後輩シェフ、平木泰史さんとダブルシェフで料理を提供してくれる。料理はアラカルトのみ。オードブルだけでも、目移りするような旬菜が並び、思わずボトルを欲するメニュー構成になっている。オードブル、パスタ、メインと60種ほどの魅惑のメニューは、季節を追いながら、次々と変わっていくそうで、次はあれも食べたい、これは旬のうちに絶対食べにこなくちゃ...!と、リピーターが増えるのもわかる。 料理はどれもたっぷりと盛られ、ワインもグラス、ボトルともにリーズナブルな価格から揃えている。推薦者の前川さんがいうところの、まさしく「レストランとバールのいいとこ取り」をしている店なのだ。前川さんファミリーの大のお気に入り、ニース風サラダ1320円。 アンチョビ、茹で卵、オリーブ、トマト、三度豆、玉ねぎ、セロリ、ピーマン、サニーレタス、ロメインレタス、トレビス、ルッコラなどなど数えきれない素材をたっぷりと使った贅沢な「ニース風サラダ」はこれだけで立派な一品。赤ワインヴィネガーと最高級ランクのオリーブオイルの味わい豊かなドレッシングに仕上げの自家製ツナ天盛り。ツナは生のカツオから丁寧に作っている。ズワイガニとウニのアメリカンリングイネ 1650円 パスタも食材の仕入れによって季節を反映し、少しずつ変わっていく。15種類以上は揃うパスタメニューはどれも本当に魅力的。甲殻類をベースにしてミルポワと合わせた濃厚なアメリケーヌソースに、さらにズワイガニやウニの海の旨味をまとったリングイネは、海の芳香が素晴らしく食べ応えも十分だ。「魚介の仕入れは、七条通七本松の山定商店さんに全面お任せしています。ご主人がほんまに旬魚の目利きで、全幅の信頼を寄せています」 カルパッチョや魚料理は、素材次第で味が決まる。そこにベルクール仕込みの技を惜しげもなく駆使して仕上げる1品1品に、岩崎さんと平木さんの思いが込められている。「フォンドヴォーもフュメドポワソンも、ツナもベーコンもソースもドレッシングもパンもグリッシーニも...(笑)、基本、全て自家製です。どの料理もご家庭ではなかなか食べられない味を目指しています。それでこそわざわざ外に食べにきていただく意味があるんですから...」見よ、この圧倒されるボリューム!ハモカツ1650円 ここにくれば、これはマスト!というのが名物のハモカツ。前出の山定商店さんからいつも良いハモが届くので、料理のバリエーションを広げたいとあれこれ考えて辿り着いた味だ。大ぶりにカットしたハモに小麦粉、卵、パン粉の衣をつけて、じっくりと揚げ焼きにする。仕上げにパルミジャーノをたっぷりのせて、タルタルソースとともにいただく。上品なハモの風味とカリッサクッとした衣が見事な調和をみせ、チーズとタルタルソースが濃厚さを加えて、味、ボリュームともに大満足。キリッと冷えた白ワインが進んでしまう一皿だ。ワインは岩崎さんにいろいろ尋ねてベストセレクトしてもらおう。 ワインはいつもおおよそ200本常備している。ワインリストはなく、お好みと予算を伝えると、岩崎さんがその時々の料理を見て、ボトルを4〜5種類、並べてくれる。それぞれのテイストを丁寧に説明してくれるので、ワイン談議を楽しみつつ、セレクトしてもらうのがいいだろう。グラスワイン660円からもあるが、なんとってもワイン好きにたまらないのが、がぶ飲みできるハウスワインだ。 デカンタ2/1リットル、2200円で、なんと1リットルが3300円!ともにイタリアワインで赤がサンジョベーゼ、白がトレビアーノ、いずれも飲みやすく、料理によく合う。「ご家族やグループで軽く3リットルいってしまうツワモノもおられますよ(笑)」しかし、この、ワインを誘う料理構成なら、いってしまうのはうなずける。岩崎さん(左)と平木さん(右)のコンビネーションもぴったり。 何よりもこの店の引力となっているのが岩崎さんと平木さんの人柄、そしてホスピタリティだろう。ベルクール以来の信頼関係で結ばれた息のあったもてなしが、料理やワインの質と相まって、お客を心から寛がせてくれる。 オープンして21年目。長い年月の間に世の中も変動し、リーマンショックもあれば、今は、まさコロナ禍に直面している。東に大文字山が真正面に見える絶好のポジションということで、夏には毎年、多くの人が参加する五山の送り火を楽しむ会を店で開いていたが、ここ2年はストップしている。「ここ2年ぐらいは大変な思いをしましたが、ようやく少しずつ店に活気も戻ってきています。なかなかすぐには以前のようにとはいきませんが、他の飲食店もそこは同じですから、頑張るほかないですね。五山の送り火の会も、来年の夏にはぜひ開催したいものです」 人生とおなじく、店にも山あり谷あり。しかし、「HANA」は、この地にしっかりと根付いている。来年の夏には、この店でワイングラスを片手に五山の送り火を楽しむ多くの人で賑わっていて欲しい。店も人も暮らしも、希望を持って、前に進みたいと願うばかりだ。■「HANA」京都市上京区河原町通今出川上る青龍町234075-231-0606営業時間 17:00〜23:00(LO)定休日 月曜予約ベター※営業時間については事前に電話で問い合わせを。撮影/竹中稔彦 取材・文/ 郡 麻江
-
BLOG京の会長&社長めし
2021.12.21
株式会社藤井大丸の社長が通う店「ぎをん 森幸」
■藤井 健志(ふじい けんじ)さん株式会社藤井大丸 代表取締役社長1978年京都生まれ。同志社大学経済学部卒業後、ソフトバンク(現ソフトバンクグループ)、あずさ監査法人を経て、2009年藤井大丸入社。2018年より現職。藤井大丸は1870年呉服商として創業。1935年に百貨店化。京都でより新しい価値の提案をファッション中心に行っている。店選びの基準は美味しくて居心地がいいこと。最後の晩餐はココ壱番屋のビーフカツカレー(チーズ、きのこ、オムエッグをトッピング)。風情あるロケーションも魅力。子供からお年寄りまで、幅広い世代に愛される京中華三条通から知恩院前へ、白川沿いに続く白川筋。しだれ柳の並木が風情ある静かなこの道に、古川町橋という石造りの橋がかかっている。比叡山・千日回峰行の行者がここを渡ることから、阿闍梨橋、行者橋とも呼ばれている。藤井さんお薦めの「ぎをん 森幸」は、その橋のたもと近くにある。いわゆる京中華と呼ばれる京都ならではの中華が人気の広東料理店で、親子3代で通うファンも。現在は2代目の森田恭規さんが腕を振るっている。藤井さんは、10年ほど前から年に数回は訪れているそうだ。「ちょうど社業に帰ってきたぐらいの時、友人に連れられて行ったのが最初です。いろんな会食の席や友人との食事の席で行くことが多いですね。比較的リーズナブルだし、京都らしいあっさり中華で何を食べても美味しい。箱も大きすぎず、場所的にも使いやすい環境にあるので、『今日は中華にしようか』という時によく行かせていただいています」森幸の創業は昭和30年。森田さんの父である先代が四条堀川で始めたのだが、そのいきさつがユニークだ。「先代は、前は染屋やったんですが、中華料理を初めて食べて、これやと思ったみたいです」そう話すのは、取材に対応してくださった森田さんの妻の直子さん。京中華を広めたのは中国人の高華吉という料理人で、森幸の先代はその高氏に弟子入りして腕を磨き、独立。4階建ての、宴会料理を専門にする店だったという。今の場所に移ったのは平成11年。前の店ではメニューをホテル仕様の料理にしたこともあったそうだが、創業以来の味に原点回帰しようと、場所を変えて再スタートしたという。明るい雰囲気の店内は3つの座敷とテーブル席の全37席。クラシックやジャズなど、森田さんセレクトの曲が、BGMとして流れている。ここには地元客を中心に幅広い世代が訪れ、常連には企業経営者も少なくない。藤井さんもいろいろな知り合いが通っていることをあとで知ったそうだ。「このへんには父方の親戚が結構住んでいて、父のいとこも昔から行っていたようです」と、藤井さん。「京都は狭い」と言われるように、京都では、偶然に出会った人も、たどっていくと自分の友人や知人につながっていた、ということがよくある。「藤井社長のおじさんが私の母の同級生で、よく食べに来てくれはるんです。京都はそんなんばっかりです。ええーっ、この方と一緒に来てはるの?という感じで。藤井社長もとてもお顔が広くて、京都のいろいろな方と来られます。東京のお客さんも連れてきてくださったりして、すごくありがたいです」と、直子さん。藤井さんにとってここは「肩ひじ張らずに美味しいものが食べたい時に、ちょうどいい店」。「町中華のような感覚」で通い、時には直子さんたちと他愛もない話をしたりしながら、仲間と食事を楽しんでいるという。多くの京中華の店がそうであるように、森幸の料理も、麻婆豆腐など一部を除きニンニクなどの香辛料は不使用。うま味調味料を使わず、鶏の頭だけを使ってだしをとるなど、手間をかけて手作りされるメニューは、やさしい味わいの中にも深みがあり、後口が重くならないのが身上。また、森田さんは、先代の味を守りつつ、東京の名店を食べ歩くなどして新たな美味しさを追求しているという。「味付けがやさしい感じでくどくなく、食べやすい料理が多いので、おばあちゃんからお孫さんぐらいの世代まで受け入れられると思います」(藤井さん)メニューは皮から手作りする一番人気の春巻き、砂ずりの天ぷら、酢豚、かに玉、チャーハンなどの定番に、里芋のふかひれスープ、よだれ鶏といった今月のお薦めが加わる。杏仁豆腐など手作りデザートも好評だ。ほかにおまかせコースもある。その時々で食べたいものをチョイスするという藤井さん。お薦めの「小えびの天ぷら」1100円は、小麦粉と片栗粉入りの衣がもっちりとして美味しい。「海老好きでエビチリやエビマヨもよく頼むのですが、これはあっさりした味付けで、おつまみに最適です」(藤井さん)こちらもよく頼むという「肉だんごの甘酢」1100円。揚げた肉団子とキュウリのシンプルな一品。ふっくらとした肉団子に程よい甘さの甘酢あんが絡み、いくつでも食べられる。種類も豊富な紹興酒。人気の甕仕込み「古越龍山」の5年物が飲みやすいとお薦め。料理と共に森幸の特徴といえるのが、店内の壁の絵。青蓮院門跡の襖絵など多くの作品を手掛ける壁画絵師、キーヤンこと木村英輝氏が、大胆な筆致と色遣いで孔雀と芙蓉の花を描いたもの。ちなみに、木村氏は直子さんの親戚だそうだ。「元気があってパンチのある絵なので、店の雰囲気をいい意味で盛り上げている気がします」(藤井さん)「キーヤンさんの絵とやさしい味わいの料理というギャップが面白く、食べ終わって外に出たらガラッと空気が変わり、ああ、こんな静かな落ち着いたエリアだったんだと、また現実に戻る。そのアンバランスな感じもいいところなのかなと思います」(藤井さん)京都の飲食店もコロナ禍の影響を大きく受けたが、そんな時期も多くの常連客に支えてもらったと、直子さんは話す。それも長年、誠実な味づくりとお客とのつながりを大切にしてきたからにほかならない。藤井さんが飲食店に求めるのは、「美味しさだけでなく、料理への思い入れやお客さんとのつながりを大事にして、いい関係性を結べること」だという。森幸もそんな理想に適った店といえるのだろう。予算は昼1100円~、夜3000~5000円。撮影 エディ・オオムラ 文 山本真由美■ぎをん 森幸京都市東山区白川筋知恩院橋上る西側556075-531-8000営業時間 11時30分~14時(LO13時30分)、17時~21時30分(LO21時)定休日 水曜
- ALL
- - 料亭割烹探偵団
- - 食知新
- - 京都美酒知新
- - 京のとろみ
- - うつわ知新
- - 「木乃婦」髙橋拓児の「精進料理知新」
- - 「割烹知新」~次代を切り拓く奇想の一皿~
- - 村田吉弘の和食知新
- - 料亭コンシェルジュ
- - 堀江貴文が惚れた店
- - 小山薫堂が惚れた店
- - 外国人料理人奮闘記
- - フォーリンデブはっしーの京都グルメ知新!
- - 京都知新弁当&コースが食べられる店
- - 京の会長&社長めし
- - 美人スイーツ イケメンでざーと
- - 料理人がオフに通う店
- - 京のほっこり菜時記
- - 京都グルメタクシー ドライバー日記
- - きょうもへべれけ でぶっちょライターの酒のふと道
- - 本Pのクリエイティブ食事術