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【解説】山上徹也容疑者の「鑑定留置」始まる「そもそも鑑定留置とは?」「家庭環境は影響する?」「検察の本当の狙いは?」刑事弁護に詳しい弁護士が解説

2022年07月25日(月)放送

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安倍晋三元総理が銃撃され死亡した事件で、逮捕された山上徹也容疑者(41)の事件当時の精神状態を調べる「鑑定留置」が7月25日から始まりました。山上容疑者の精神鑑定が行われるということですが、「そもそも『鑑定留置』とは一体何なのか?」「なぜ行われるのか?」「検察の本当の狙い」について刑事弁護に詳しい川﨑拓也弁護士に話を聞きました。

「心神喪失」「心神耗弱」とは?

 ―――鑑定留置は、検察官が精神科医に鑑定を依頼し、その鑑定のために勾留を停止し留置するという措置がとられるということですが、どんなことが具体的に行われるのですか?
 「専門の精神科医の先生が鑑定人として選任されて、その方が主に面接・面談という形で被疑者の方に直接お会いしてお話を聞いて、あるいは周囲の関係者の方にお話を聞いて。ときには病院に行ってMRIなどの検査することもあります」

 ―――検察官が鑑定を依頼した場合は必ず鑑定留置が行われるのですか?
 「裁判所が許可をしたときに鑑定留置となります」

 ―――山上容疑者の鑑定留置は11月29日までということで、4か月間という期間についてはいかがですか?
 「4か月という期間自体はそんなに珍しくはなくて、やや長いかどうかぐらいです。面談自体は何度か行って、ドクターと被疑者の方との信頼関係もありますし、複数の面談を行うことで客観性を高めていくということもあるので、時間がかかってくるのかなと考えています」

 ―――鑑定留置が行われて、刑事責任能力の有無を判断するということになり、もし刑事責任能力がある場合は起訴されるということですが、刑事責任能力がない(心神喪失)場合は不起訴ということがあり得ると。どれぐらいの割合で起訴・不起訴となるのでしょうか?
 「これはそれぞれの事件、あるいは被疑者の方の状況にもよります。また数字もはっきりと出ているわけではないのでわからないのですが、やはり重大事件の場合はどちらかというと『あり』の方向になる数の方が相当多いのかなというふうには思います」

 ―――山上容疑者の場合は起訴された場合、殺人以外に銃刀法違反・武器等製造法違反に問われる可能性もあるということですか?
 「おそらく模造、自分で作られた凶器でされたということですので、それが銃刀法上の銃に当たるのかどうか、あるいは武器に当たるのかどうか、これは捜査を尽くした上で判断していくんだろうなというふうに思います」

 ―――鑑定留置の結果、「心神耗弱」という場合は刑を軽減することもあるようですが、この心神耗弱というのはどういう状態のことを指しているのですか?
 「法的には、事理弁識能力、善悪がそもそも判断できないかあるいは全く自分をコントロールできないときには、心神喪失。その能力が著しく減退し、かなり減退するというときには、心神耗弱というふうになっていますので、その程度問題ということになります」

 ―――そして起訴後、弁護側が精神鑑定を行うこともできるんですね?
 「もちろん弁護側あるいは被疑者の側も私的にドクターをお願いして精神鑑定的なことを行うということはできるんですが、なかなかやはり自由に体を動かせるわけでもないですし、自由に面談できるわけでもないので非常に難しい。あるいは起訴後に裁判所に求めていくこともできるんですけども、これが採用されるかどうか、これも事件ごとによってだいぶ変わってくるのかなという状況です」

計画的だからといって責任能力があるとは限らない?

 ―――今回、山上容疑者は計画的な犯行だったのでしょうか。安倍元総理の岡山市の演説会を4日前に把握していたとされ、銃を作るたびに試し打ちをした、奈良に来ると知り犯行を決意した、というような情報があります。その限られた情報だけを聞いていると、計画的だったのではないかと感じてしまいますが、豊田さんはどう思われますか?
 (元厚労省官僚・元衆議院議員 豊田真由子さん)
 「鑑定留置に限らず、川崎先生もおっしゃいましたけど、精神科の診察・診断というのはものすごく難しくて、すごく本当に経験も豊富な素晴らしい精神科医の方がお2人いて同じ人物を精神科として診察しても、結果が真逆になることだってあるわけですよ。ですし、やっぱりそれだけの時間と信頼関係を作っての上でのいろんな検査もした上で、本人の小さい頃からのいろんな生育歴ですとか考えていることとか、場合によってその周囲の方の話とかも聞いた上で、総合的に『こうかな』という判断をするということなので、そんなに白黒簡単に付くわけではないし、世の中で必ずこれが1つ正解だというものが出るわけでもないという難しさがすごくあるので、やっぱり予断を持ってこうじゃないかああじゃないかということはなかなか難しいんだと思うんですよ。ただ、ご遺族のお気持ちとか考えたら、どんな事件でもそうですけど、刑法39条の心神喪失だから罪には問えないというふうになってしまうことで、持って行き場がなくなるというその切なさ自体は社会にはあるとは思うんですね。ただ、この法律にのっとってきちんとどうかっていうことをやるということですし、今回裁判員裁判ということになると、一般の方が判断するにあたって、責任能力の有無を専門家の方がどう判断したのかということは1つ大事な指標ではあるので、慎重に行われると思います」

 ―――どんな精神科のお医者さんが選ばれるのか、川崎さん教えていただけますか?
 (川崎拓也弁護士)
 「捜査段階のこういう鑑定留置、検察官が請求する場合は検察庁の方で鑑定嘱託という形で選んだ方ということになります。もちろんドクターですので客観的にやられるんだとは思いますが、やはり弁護側からすると、若干どういう人選になっているのかというのを注目するということも十分ありえます」

 ―――鑑定留置を行う検察の狙いというところが1つポイントだと思います。川崎さんの指摘として、計画的だが妄想に支配された状態で犯行を行っていることもあり、責任能力に疑問を抱く人も少なくないと。計画的だからといって、責任能力があるとは限らないわけですか?
 「まず前提として、今出てる事実関係というのは捜査機関から出ている情報ですので、どこまでが真実かということはあるにしても、仮にこれが事実だとしてもですね、計画性があるからイコールすぐに責任能力があるということにはならない。例えば、ある一定の妄想に支配されて犯行に至るというときには、妄想から犯行まではそれなりに合理的だけれども、スタートの妄想が病気の影響を受けているとかそういうこともあり得ますので、計画的イコール責任能力があるというふうには言えないんだろうなというふうに思います」

 ―――検察側が鑑定を依頼するということは、刑事責任能力があるということを証明させるために鑑定を行わせるというのが検察の筋道ですか?
 「基本的にはそういう発想はあると思います。我々よく“片道切符”なんて言いますが、ひとたび起訴すると戻れませんので、起訴する前には全ての争点についてそれなりの立証材料を持っておく必要がある。本件に関してどこまでの見立てを持っているかということは別ですけども、検察官としても立証するために、きちんとこの段階で鑑定をしておく、そして鑑定書という証拠を手に入れておく、これは1つの捜査手法としてよくある形なのかなと思います」

何が量刑に影響を与える?

 ―――山上容疑者は旧統一教会への恨みから安倍元総理を襲撃したとみられています。責任能力の軽減はあるのか、家庭環境の考慮はあるのかという点について、川崎さんによりますと、弁護側は責任能力軽減を主張する可能性はあるということです。これはどういう理由からでしょうか?
 「今、報道で出ている情報を前提にすると、一定の旧統一教会への恨みというものがあったんだと。そこから一足飛びに、すぐにこの殺人事件まで至るかというと、そんなことはないわけで。そこに一定の論理の飛躍というものがあり、そしてそれが何らかの精神疾患が影響しているのであれば、それは一定の責任能力の軽減というものがあったんではないか、限定的なのではないか、こういう主張する可能性というのはあるんだろうなというふうに思います」

 ―――家庭環境が動機の面や責任能力で考慮される可能性はあるのでしょうか?
 「何らかの精神疾患がもし発現したあるいは助長されたということに家庭環境が影響するということもありえますし、あるいは動機形成の中で無差別にしたわけではなくて、もちろんこういうことがあってはならないわけですけれども、その中でどういう経緯があったのかということは、もし将来裁判になって量刑を決める、刑の重さを決めるときには当然要素になってくるのかなと思います」

 ―――今回の事件の被害者は元総理ということで、量刑に影響を与える可能性はどうなのかということですが、川崎さんによりますと、命の重さはみな同じで、被害者がどんな人物かよりも、大勢の観衆がいる前で拳銃を使ったということや、どんな気持ちで行ったかが量刑を決めると思われるということですね?
 「難しい問題なんですけれども、まず刑を決めるときには、どんな危ないことをどういう気持ちでやったのかということが重要になってきます。どんな方が被害者であるのかというのも、もちろんご遺族にとっても社会にとってもすごく重要な要素ではあるんですけれども、それであれば亡くなった人によって重さが違ってしまう。これが本当にいいのかということは当然あり得るわけで、できるだけ客観的にどんな行為をしたのか、そしてどんな気持ちだったのか、これがやはり量刑を決める重要なポイントになってくるだろうなというふうに思います」

 (元厚労省官僚・元衆議院議員 豊田真由子さん)
 「今のところはすごく大事なところです。私は安倍元総理と仕事をしましたけれども、今、申し上げたいのは、日本は法治国家で民主主義国家なので、被害者の方がどなたであるかによって、全く同じ対応で同じ犯罪を犯したのに刑が変わるってことは絶対ないんです。あってはいけないことで、命の重さはどんな方も同じなので。元総理であろうが誰だろうが命の重さは同じ。川崎先生がおっしゃっているのは、大勢の人がいる中で拳銃を打ったので他の人に当たるかもしれなかったとか、その危険性を考慮するという話で、命の重さは変わらないし、どなたであっても同じように罰して同じように刑をするのが日本国の法治国家としての私は矜持だと思っています」

 ―――今の段階では限られた情報しかありませんが、どういった刑があるか、川崎さんはお考えになりますか?
 (川崎拓也弁護士)
 「非常に難しいです。やはり事実関係が明らかになっていない中でのことですので、なかなか一足飛びには申し上げられないんですが、やはり、拳銃を使っているということ、そして、大勢の方がいる中で、しかも選挙活動中にあったということ、その意味ではやはり危険度の高い行為であったことは間違いありません。拳銃を使ってることも含めて相応にやはり重い刑にはならざるを得ないんだろうなというふうには思います」

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